第45話 結界
人間界と魔界には地図上の明確な境界線はない。
薄い透明な紫の光る膜があるが、どうやらこれが結界であり境界線という事なんだろう。
目前に展開されているその結界は、どこまでも続いているみたいだ。
聞けば、広大な魔界全体を覆っているらしい。
伝説の勇者、半端ないな。
「これが“結界”か。」
近寄って触ってみる。
が、触れない。
というか、結界を超えて中に入ってしまった。
「え?」
「え?」
「は?」
全員驚いている。
俺もビックリだよ。
すぐに戻ってきた。
「ちょ、タカヒロ、何で通過できんのよ?」
「タカヒロ様、何ともないのですか?」
「僕は触れる事もできず押し返されるのに、流石ですね。」
いや、マジで何ともないし、普通に素通りできるぞ?
それって、俺だけなのか?
すると
「それ、私もできるよ。」
と、リサが同じように結界を行き来する。
「たぶん、魔力を持ってりゃ普通に通れるのかな。」
「でも、ボクは通れなかったよ?」
「魔力の質、とか?」
「いや、それよりも、タカヒロって実は……」
全員が一斉にこっちを見る
「……魔族?」
いや、違うから。
がしかし、これはちょっと看過できない現象ではある。
ハッと閃いて、ギブソンを呼んだ。
「お前、結界通ってみてくれ。」
「え、オレが!?」
「ああ、結界の向こうに行って戻ってくるだけだよ。」
「だ、大丈夫なんですか、それ?」
「まー、それを確かめるんだ。行ってみてくれ。」
「は、はい。」
おっかなびっくりと、ギブソンは結界に向かって歩き出した。
俺同様に、素通りして戻ってきた。
「オ、オレ、結界通れた!?」
「うーん、なるほどなー。」
俺はある一つの可能性に行きついた。
俺は兎も角、とある条件を満たすものは素通りできるんじゃないか、と。
リサはまぁ、魔族という条件。
ギブソンは伝説の装備。
俺は、というと正直わからない。
「つまりだ、普通の人間は通る事はできないのは事実で、魔族は結界が障害になる事はない、という事だな。」
「え?それはつまり……」
「ああ、魔族は結界を越えようと思えば普通に越えられるってことだな。」
「な、なんと……」
「で、だ、人間は「門」を通らないと結界内には入れない。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいタカヒロ様、それって、結界は実は魔族側を守る障壁、という事じゃありませんか?」
「そういう事だな、さすがサクラだな。」
これは、困ったな。
これをこのまま人間界に報告するのはマズイ気がする。
こんなん、大混乱必至だろうよ。
「ともかく、これも含めて謎解きは魔王に会ってから、だな。」
「魔王に会う、ですか!?」
「ああ、実はその段取りもしてあるんだよ。」
ファルク達にはまだ言ってなかったが、ジャネットさん経由で魔王への接見もお願いしていたんだ。
その返答は、
「勝手に来るがよい。来られればの話だがな!」
という事らしい。そして追伸として
「そうそう、お土産は無しで良い!」
だそうだ。
お土産て……
潜行偵察のつもりが魔界で魔王に会う、という事になりファルク達は驚愕している。
ギブソン達偽勇者一行に至っては、死刑宣告に近いだろう。
当然だがこの事はエスト王たちにも言っていない。
唯一、プラムに密かに伝えただけだった。
という事で、俺たちは「門」に向かった。
「門」に着くと、そこには先日の魔族の人たちがいた。
「おお、お待ちしておりました、タカヒロ様!リサ様!」
「あ、貴方たちは先日の。」
「私はミノスと申します。魔王様へ報告したら、案内役を仰せつかりまして。」
「そうなのですか、すみません、わざわざ。」
「いいえ、言われずとも、こちらから申し出るつもりでしたので。では、さっそくご案内します。」
こうして、俺たちは無事に魔界に潜入?できたのだった。




