第44話 魔界偵察作戦
急行してきたサクラ達と合流し、ひとまず脅威は去った、という体で収束させる算段をまとめた。
エスト王国への報告は、俺が魔族に話を聞こうと歩み寄ったがその時、その魔族とは別の野良魔獣が現れこれを俺が撃退、どさくさで魔族は取り逃がし、魔獣だけ始末して確保、という筋書きを報告した。
あながちウソではないので、バレることはないだろう。
エスト王国には、国王とともにモンテニアル国王、ラークの名代としてプラム、アリシア国王が到着していた。
ひとまずの脅威が去った、という事で今後の事を話し合うそうだ。
サクラには事の真相を話し、一つの相談を持ち掛けた。
俺が魔界へ赴き、実情を調査してくる、という内容だ。
「そんな!危険すぎます!」
当然、そういう反応になるとは思っていたが
「そんな危険な役目は、タカヒロ様だけに押し付けるわけにはいきません!」
と、サクラも同行すると言い出した。
こういう時のサクラはまず折れることはない。
まぁ、もとより一緒に行ってもらいたい気持ちもあるにはあるのだが、さすがに事実が明らかじゃないので迷ってはいた。
「では、ブナガ様、シムネ様、ミハエル様、プラム姫、出立いたします。」
「タカヒロ殿、危険な役目を押し付けてしまい申し訳ないが、頼んだぞ。」
「お任せください、死地へ赴く訳ではありませんので、帰国の折は美味しい食事をお願いします。」
「ふふふ、よかろう、極上の酒と食事を用意しておきますぞ。」
俺たちの遠征は即決だった。
実の所、先の戦争以来、人間側の各国は『門』を監視はしつつも、魔族そのものの調査は殆どしていない、という事だった。
ましてや魔界へ侵入し、内情を調べるという事もしていない。
というか、できなかった、というのが正しい表現だな。
結界は魔族がこちらへ来るのを防ぐものという認識だったが、同時に人間があちらへ行く事もできないらしい。
完全に遮断されているのだそうだが、ただ一か所のみ、相互に通れる場所がある、それが『門』と呼ばれる場所なんだそうだ。
その門は魔族が常駐監視しているそうで、人間が近寄ることはないんだそうだ。
結局、この遠征は先の先遣隊メンバーがそのまま揃った。
偽勇者も一緒に居るのは、彼ではなく彼が身に着けてしまった装具が必要になるかも、だからなんだそうだ。
その装具が解放される条件ってのがアレなので、つまりはそういう事です。
「オ、オレ、死にだぐないでずぅぅぅー」
と言っていたが、自業自得?だよな。
ま、心配すんなよ、死なせはしないから。
たぶん。
で、今回はそれ程急務ではないので馬車でゆっくりと移動となった。
さすがに人数が多いので、2台での移動だ。
先行するのは俺たち。500メートルの間隔をあけて英雄御一行と偽勇者だ。
間隔をあけるのは一応戦闘隊形、いわゆるトレール隊形を取っているからだ。
これは2台がそれぞれ一騎当千の戦力を持っているから可能な事。
普通は軍でも商隊でも、襲われたらお終いな脆い隊列だ。
それに、個人的にサクラとローズとゆっくり過ごす時間を取りたいと思ったのもあるワケで。
あー、こっちの理由の方が大きいな、うん。
「タカヒロ様。こうしてゆっくり傍にいられるのも久しぶりですね。」
「そうだなぁ、色々とバタバタしてたしな。でも、こうして一緒にゆっくりできたのは良かったよ。」
「うふふ、そうですね。」
御者台には俺とサクラの二人きり。
ローズ、カスミ、リサは荷台ですやすやお休み中だ。
お互い手を繋いで、束の間の幸せタイムを満喫しているってわけだ。
「ですが、本当に危険はないのですか、魔界という所。」
「うーん、正直その辺は解らないかな。一応ジャネットさんを通して話はしてあるらしいけど。」
「その、魔王様に、ですか?」
「そうだね、まぁ、魔王っていうのがいまいちピンとこないけどな。勇者もだけど。」
二日程馬車を走らせて着いたのは、小さな集落だ。
この村が魔界に一番近い人間の村で、農業を生業としている農村だ。
この村の農作物は大陸では有名らしく、特にここでしか採れない果物が名産品なんだとか。
その果物が、ミノリさんの所で頂いたあの果物だと知ったのは後の話だ。
その為、こんな辺境にもかかわらず村人はそれなりに豊かな生活ができているらしい。
村に入ると、村長という人が出迎えてくれた。
爺さんみたいなのを想像していたんだが、なんとビックリ、とってもおしとやかで美しいご婦人でした。
「エスト王の使いより聞いております。ようこそいらっしゃいました、タカヒロ様、英雄様。」
「あ、いえ、こんなお出迎えしていただいて恐縮です。一夜ですが、お世話になります。」
「ご遠慮なさらずに、ゆっくりしていってくださいな。」
その物腰や話し方がとても優雅で、思わず見とれてしまう。
と、ローズにお尻をつねられた。
「い、痛い。」
「何デレデレしてんのよ」
「してないよ、うん。」
おおう、サクラもほっぺを膨らまさないで。
フランも珍しくほっぺを膨らませているけど、その顔、とってもカワイイですよ。
村では宿でゆっくりと過ごす事にしたんだが、村の中を散策しているとある事に気づいた。
「なあ、サクラ。ここって何というか、魔界に一番近いのに魔族への警戒感がないというか、長閑すぎないか?」
「そう言われればそうですね。農作物を魔獣に荒らされたりしないように、普通は武装した者がいるはずですが。」
「それに、さっきの村長さんな。」
「タカヒロ様がデレデレしていた村長さんですか?」
「いや、だからしてないって。まぁ見惚れはしたけどさ。」
「もう!」
「や、そうじゃなくて、あの人、相当強くないか?」
「ええと、ですね。実は私も少し警戒しました。こう、鳥肌が立ったというか。」
うーん、まぁ、一泊して明日には発つので深くは考えたくはないけど、疑問は残るかな。
道行く村人はみんな気さくで良い人ばかりだったし、ま、考えるのはやめとくか。
そんな疑念を抱きつつ、翌朝村長さんにお礼を言って村を発った。
道中、ローズやカスミ、リサに昨日思ったことを伝えると、リサは思いがけない爆弾発言をした。
「あの村長、魔族と人間のハーフだよ。」
と。
まず驚いた。そしていくつか納得した。
強いと感じたのは、魔族の力をもっているからだな。
で、魔獣への警戒が薄いと感じたのは、おそらく村人の何人かは同じくハーフの可能性が高い。
なので魔獣への対処はそのままできる、という事なんだろう。
そして何より、魔族が人間を襲うという話は、誤解で間違いない、という事だ。
いや、襲った結果、という事も考えられない訳じゃないけどどうもそんな感じじゃない。
リサ曰く
「私達人狼族と同じように、人間の町や村を魔獣から守る為に魔界から出ている種族はけっこう居るんだよ。」
リサ達はあの街道周辺を任されている、という事らしく、同じような場所があちこちにある、という事か。
でも、ちょっと待ってほしい。
そもそも魔族はなんでそんな事してるんだ?
人間は魔族を結界に閉じ込めた憎き相手なんじゃないの?
「うーん、私にはその辺はちょっとわからないかな。でも、すべての人間が憎いって事は無いと思うよ。」
「なんで?」
「だって、私もタカヒロがダイスキだもん。」
「そ、そうか。そうだな。」
「うん、それだけの事だと思うよ。」
なんともシンプルな意見だが、あながち的外れでもなさそうだ。
まぁ、それも魔界に行けば何かわかるだろう。
こうして、一週間ほどで「門」と呼ばれる所の近くに到着した。




