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第43話 魔族

 2班に分かれて一昼夜、魔族が居ると思われる場所まで来た。

 しかし、だ。

 そこにいたのは魔族の集団ではなく、いわゆる魔獣だった。


 ただ一匹の魔獣。

 見るからに巨大で、凶暴で、堅牢そうで、とてもじゃないが人間が太刀打ちできるような生き物ではないと思う。

 グリズリーとかヒグマとかライオンとか、そういう猛獣なんて比べ物にならない程の脅威だと思う。

 というか、そもそも動物とは思えない姿だし。


 これは、報告にあった魔族の仲間なんだろうか。

 だが、周囲にはこいつ一匹しかいないようだ。

 魔獣までの距離は200mくらいある。

 まだこちらには気づいていないようだ。


 「タカヒロ、あれは魔獣みたい。魔族の仲間の……」

 「でも、他の魔族が見当たらないな。」

 「そうね、別口なのかしら?」

 「ともあれ、様子を見るほかないか……」


 どうしようか迷う。

 あれが報告にあった魔族の集団の一部であれば、下手に手を出すのは俺の作戦を全て無にしてしまう。

 しかし、そうでない場合、ここで排除しなければならないとも感じる。

 決断しなければならないな。

 そう思っていたら


 「攻撃!」

 「了解!」


 その掛け声とともに、どこからともなく現れた10数名の人影がその魔獣に襲い掛かった。

 人間のようではあるが明らかに人間と違う容貌、そして速さと強さ。

 一人一人がファルクと同等、あるいはそれ以上の強さを保持していると直感した。


 「あ、あれは……」


 10数名は猛獣へと襲い掛かっていくが、どうも苦戦しているようだった。

 その強そうな10数名をもってしても、魔獣に有効なダメージを与えていないようだ。

 そればかりか、逆に負傷する者が出ている。

 ともあれここは加勢しないといけない、かな。


 「お前たち、ひとまずここに隠れていてくれ。」

 「タカヒロ?」

 「確かめてくる。」

 「ちょっ!!」


 有無を言わさず俺は飛び出した。

 あの魔獣とやら、強そうではあるがこないだのトラもどきよりは全然マシに思えた。


 戦闘を繰り広げている集団に割って入ろうとしたとき、その10数名の容姿ははっきりと確認できた。

 たぶん、この人たちが報告にあった魔族だと確信した。

 これで、俺とジャネットさんの疑念は確信に変わった。

 しかし、その話は後だ。

 いまはこの魔獣を排斥しなきゃならないと直感した。


 「なあ、ムーン。」

 (おや、珍しいですね、ボクに聞くなんて。)

 「そ、そうだな、じゃなくて、この新しい剣だけど」

 (ああ、これはですね、使い方は前の物と同じですよ。)

 「ありがとう、それだけわかればOK だ!」


 アリシア国王より頂いた宝剣を抜き、刀身に魔力を流す。

 魔族を相手にしていた魔獣はこちらに気づき、鬱陶しそうに魔族を払いのけると素早い動きでこちらを敵とみなして襲ってきた。

 がしかし、だ。俺にとっては遅すぎる。

 シロクマのような体躯の魔獣は手で攻撃を繰り出すが、躱すのは容易だ。

 しかし、腕からは尋常ではない魔力が感じられる。

 俺の剣と同じで、魔力を腕にまとわせていると直感した。

 でも


 「すまんな、始末させてもらうぞ。」


 剣を振りかぶり、魔獣の頭に向かって一気に振り下ろす。

 魔獣はそれを察したのか、やや横に体をずらす。

 剣は魔獣の肩口に食い込み、左腕を切断した。

 致命傷にはならなかったが、仕切りなおす間だけは稼げた。


 剣を構えなおして対峙するが、前にも増して力と魔力が増大したように感じる。

 とはいえ、俺がする事は変わらない。

 再び相手の懐へ飛び込む。


 「ふん!」


 今度は魔力を乗せずに、純粋に力だけで胴を横に薙ぎ払う。

 素早さに重きを置いた攻撃に、魔獣は対処できずに俺の剣をまともに受けた。

 魔獣は胴から上下に真っ二つになった。


 上半身と下半身に分割した魔獣は死んだかと思われたが、なんと、上半身だけで攻撃をしてきた。

 右腕だけで器用に動くが、もはやその姿ではまともな攻撃もできないだろう。

 何ともグロいというかキモいというか、まるでゾンビ映画のゾンビのようだ。

 が、息の根をとめなければならないと思う。

 今度は剣にフェスターの魔力を乗せ、上から頭を半分にかち割った。

 ようやく動きが止まり、どうやら死んだようだ。


 あっけにとられていた魔族は


 「あ、あんたは、人間……か?」

 「ばかな、人間にあんな力が……」

 「何者なんだ……」


 と、信じられないような顔でそんなことを言った。

 どうやら俺を人間だと認知してくれたようだ。

 満身創痍の魔族らしき人達数名は、言葉もなく俺を見ている。

 なので、俺は確信を得るために聞いてみた。


 「あー、貴方たちが魔界から人間を襲撃するために侵攻をしてきた魔族、で合ってますか?」


 俺の言葉は、たぶん分かるはずなので、直球で尋ねた。

 すると、指揮官のような一人の男が答えた。


 「襲撃?侵攻?いや、そんなものは知らないが……」


 俺を警戒しつつも、そう答え言葉を繋げる。


 「いや、とにかく、助かった。助けてくれてありがとう。」

 「ごめん、助けるかどうかは、まだ決定じゃなくてね?」

 「え?それはどういう事ですか?」

 「いや、さっきの質問の通りなんだけどね。」


 要するに、貴方たちは人間を襲いに来たのかそうでないのか、それだけが知りたいわけです。


 「ああ、私たちはこのモンスターの討伐に門を通ってここまできました。あなた方人間が“魔界”と呼ぶ土地から、です。」

 「このモンスター?モンスターって、この魔獣の事??」

 「魔獣?い、いえ、これはモンスターなのですが……」


 戦闘が終わり若干の危機感が薄れた事で、ローズたちがこちらへやってきた。

 そのローズはこの人達をみるなり


 「ま、魔族!」


 と恐怖した。

 フランも珍しく表情を露にして驚いている。


 「あー、ローズ、落ち着いてな、今から詳しく話を聞くから。」

 「う、うん。」


 そんなやり取りを見ていた魔族らしき人は


 「あなた方は……やはり人間なのですね?」


 と聞いてきた。


 「あー、そうです。人間です。」

 「私達を襲撃しに来た、という訳ですか?」

 「いや、そうじゃなくてね……」


 どうもおかしいというか、気になる。

 話というか認識に大きな齟齬があるな。

 ならば


 「落ち着いて聞いてほしいのですが、うん、まずは落ち着きましょう。」

 「は、はぁ……」

 「俺たちは、魔族が人間の国に侵攻を開始した、と聞いて出向いて来ました。」

 「我々は、そんな事はしません。」

 「あー、落ち着いて。俺もそう思っているからさ。」

 「では?」

 「うん、まず、貴方たちはここで何をしていたのか、を教えてくれますか?」


 「先ほども申した通り、そのモンスターを駆除するために来ました。」

 「モンスターってのは、魔獣の事じゃないんですか?」

 「人間がどのように呼称しているかはわかりませんが、私たちはこれはモンスターと呼んでいます。」

 「うーん、まあ、それはまた後で詳しく聞きたいけど、今はそれじゃないな。」

 「は?」


 「あのですね、まずは確信が欲しいので直球で尋ねますが、あなた方は魔族、で間違いなんですよね?」

 「はい、人間がいう魔族、という者です。」

 「なるほど。」


 何か、人間の魔族に対する認識が凄く捻じ曲げられているように思えるのは気のせいか?


 「ちょっといいかな?魔族は結界を超えて活動することはできないのではなかったんですか?」

 「あの、どのように認識されているのかはわかりませんが、結界から出るのは許可が必要なだけで、普通に出られますが……」

 「許可?」

 「はい、魔王府の許可です。時折今回のようにモンスター討伐の為に、結界外に出ることがあります。」


 モンスター討伐、だって?


 「はい。人間界に災いをもたらすモンスターは、我々が発見の都度駆除しています。」

 「人間界に災いをもたらすモンスター?」

 「はい、魔王様の命により、人間界を保護するため、です。」

 「ちょ、ちょっと待ってください。人間を守る?」


 人間を襲うどころか守るって、まるっきり逆じゃん。


 「はい。モンスターは人間では駆除できませんので。」

 「いや、そうじゃなくてさ、それ、人間側は知ってんの?というか人間に知られているの?」

 「いえ、恐らくは人間界では知られていない事ではないかと思います。」

 「それって……」


 おいおい、なんだコレ?

 人間界の魔族に対する認識って、事実と全く違っているって事じゃないのか?


 というか、500年前からのままの認識じゃ、魔族は人間の敵って事じゃないのか?

 そんな認識のままじゃ、人間が魔族をみたら襲ってきたって勘違いするのも無理はないよな。


 「あの、たぶんですが、あなた方魔族を見かけただけで人間は魔族が襲い来るって勘違いすると思うんですが?」

 「あ、ああ、それはそうかも知れません。我々魔族は極力人間とかかわらないように生活していますから、そうなのでしょう。」

 「それは理解しているんですか?」

 「はい。だからこうして人間に知られないようモンスター討伐も秘密裏に行っているんです。」

 「その辺はまた後で調べるとして……」


 とりあえず、このままだと誤解したまま人間がこの魔族の方たちを討伐に兵を大挙投入することは確定だな。


 「あの、貴方は……」

 「ああ、俺は貴方たちが人間界に襲撃してきたと聞いたので討伐する為に来たんだが……」

 「!!」

 「ああ、身構えなくてもいいです。そんなことはしませんので。」

 「し、信じられません……」

 「そーだよね。でも、こればっかりは信じてもらうしかないんだけど」


 すると、リサが前に出てきて目の前で狼から人間へと変化した。


 「ああ!あなたは、人狼族?」

 「その通りです、私も貴方たちと同じ魔族。

 その私が証明しますがこの者に魔族と敵対する思惑はありません。此度の情報の真実を確認しに来ました。」

 「おお、そうなのですか……」


 リサって、人型で俺以外と話する時って、話し方変わるよな。

 いや、今はそんな事を言っている場合じゃないな、うん。


 「あー、この人狼族の言う通りです。危害を加えるつもりはないので安心してください。」

 「は、はい。」

 「とはいえ、話を聞く限り人間側は、今回あなた方が襲撃してきたと思い込んでいます。」

 「そ、それは……はい。」

 「俺達は、真相を知りたいので一計を案じて先行してきたんです。そこで、なんですが。」

 「はい?」

 「今ここでぐずぐずしている時間はありません。詳しく話を聞きたいのも事実です。ですので、早急に魔界へと引き返して欲しいんです。」

 「それはどういう?」

 「そのうえで、後日俺たちが魔界へと赴きます。その時に、今回の事を含めて話をしたいと考えますが、どうですか?」


 ともすれば早くて明日にでもここにエスト王国の軍勢が到着するだろう。

 そうなったら話を聞くどころか、本当に戦争になりかねない。


 「早ければ明日には人間側の軍勢がここに来るでしょう。そうなると、話はこじれるだけです。」

 「そ、そうなのですか?」

 「時間はありません。早く、引き返してください。目的は達成されたのでしょう?」

 「そうですね、私としても長居は無用と考えていましたので…」

 「このまま話がねじれた状況が続くほうが問題だと思いますので。」


 まぁ、今は俺たち以外の人間との接触は現状問題にしかならないしね。


 「わかりました、そうでした、貴方様の名前は」

 「俺はタカヒロ、トモベタカヒロと言います。そして彼女はリサ、人狼族のリサです。」

 「リサ、というと、ジャネット様のご息女の!?」

 「そう、その通りです。」

 「こ、これは失礼しました、リサ様。しかし、後日こちらに伺うというのは?」

 「大人数で訪問したところで話は簡単にすすまないでしょうから、俺を筆頭に少人数で伺います。」

 「……わかりました。すぐに引き返してその旨魔王様へと報告いたします。」

 「では、行ってください。人間側には私が追い返したと報告しておきますので。」


 そんなこんなで魔族の方たちは魔界へと引き上げていった。

 件の魔獣だかモンスターとやらは、話に真実味を持たせるために俺たちが引き取る事とした。

 何でも、放置しておくと残骸から新たなモンスターが生成されるらしいので、人間側に確認させた後は焼却処分となる。


 「さてと、どうしたもんかな、これ。」

 「ねえタカヒロ、お姉さまになんて言えばいいのこれ?」

 「うーん、まあ、サクラにはそのまま言うしかないけど、エスト王国と他には事実は言えないな、今のところは。」

 「はぁー、そうだよねぇー。」

 「あのさ、とりあえずコレはミノリさんとジャネットさんに報告した方がいいんじゃないかな?なんなら私ならすぐに行けるけど。」

 「そうだな、カスミ、頼めるかな?」

 「いいよ、じゃ、さっそく行ってくる。」


 そう言うと、カスミは近くの木に吸い込まれるように消えていった。


 「私は急ぎサクラ姫とファルクに概要をお伝えします。」

 「ああ、ありがとうフラン、頼めるか?」

 「御意。」


 フランは狼と共に姿を消した。


 「じゃあ、ひとまず俺たちはこの場で待機だな。」

 「ねえ、タカヒロ。」

 「どうした、ローズ?」

 「結局、魔族って何なの?」

 「俺もよくわかっていないけど、確かなのは、」

 「確かなのは?」


 「人間が思っているような邪悪な存在じゃないってことかな。」

 「それって、どういう事よ?」

 「もちろん、人間と同じく良い人も悪い人もいるだろうけどさ、少なくとも魔族として人間に危害を加えるつもりはないって事かな。」

 「まぁ、あの人たちを見る限りじゃそんな感じだけど。そういえば、リサ様も魔族だって言ってたもんね。魔族って……」

 「私からは詳しくは言えないかな。だって私が言っても、たぶん説得力はないと思うからね。」


 少なくとも、リサやジャネットさん達は人間に危害を加えるとは思われないだろう。

 山賊連合は神狼と崇めてたくらいだしな。

 ピコだって、魔族だって言われないとわからないくらい人に懐いてたし。

 もしかして、500年前の戦争ってのも、今回のような誤解から始まったんじゃないのかな。


 これは、真相を見極める必要がある、かな。うん。



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