第42話 魔族襲来
第4章突入。
ここから物語の核心部分に迫っていきます。
その知らせは、エスト王国の早馬からだった。
「我が国北西より、魔族の大群が我が国へ侵攻を開始したとの報告でございます!」
パーティーは一瞬にして楽しい雰囲気が飛び、騒然となった。
報告では、エスト王国の北西にある「門」と呼ばれる場所から、10数体の魔族がエスト王国へ向け進んできたとの事。
聞けば、魔族は一体で数百人の兵士に相当する強さを誇ると伝えられているという。
そんな魔族が襲ってきたとの事だ。
先代勇者により結界に閉ざされて以来500年程、魔獣以外の魔族が人間の生活圏に立ち入ることはなかったという。
人間の認識では、そもそも結界で閉ざされた土地から出ることはできなかったはず。
ただ、「門」と呼ばれる唯一の接点があり、そこは魔族が支配しているそうだ。
「門」からの魔族の出入りは過去何度か確認されているが、これほどまとまった集団は初らしい。
そんな魔族に対して人間は、見かければ逃げて接触を避けてきたそうだ。
国家としても個人としても、魔族との交流をしようとはしていないのだとか。
ただ、中には商魂たくましく魔族と取引する商人もいるそうで、相互に入手困難な物資を物々交換したりしているらしい。
その商人が、イワセ温泉郷に協力してくれたマコーミックというのは後で知ったことだ。
さらに、ジパングという国だけは何某かの貿易、交流を交わしているという噂もあるという。
その魔族が10数体とはいえエスト王国へ向け進軍を開始した。
これは、たぶん今最も危惧すべき事態なんだろう。
報告がもたらされた後の行動は皆早かった。
各国の王はすぐさま王宮の会議室に集合し緊急の国際会議が開かれた。
こちらはホストという事で、ラーク、俺とサクラ、ローズが出席。
リサとカスミは状況が状況なだけにその場には来させなかった。
魔族に対抗できるといわれるファルク達英雄一行も同席している。
口火を切ったのはシムネ国王だ。
「これは早急な対応が望まれますな。」
「魔界に一番近い我が国は常時警戒と準備はしているが、規模によっては我が国の兵だけでは防ぎきれない可能性もある。」
「我が連邦から兵を派遣するにしても、エストまでは時間がかかりすぎる。すでに出兵の指示はしたものの、間に合うかどうか……」
「ネリス公国としてはすぐに派兵するが、やはり時間が問題となるな。」
結局、北東にあるエスト王国は遠い、間に合わない可能性の方が高いらしい。
現状援軍として間に合うのはラディアンス王国とモンテニアル王国のみ。
しかし、ラディアンス王国は派兵できるほどの戦力はまだなく、モンテニアル王国も先のボンクラなんちゃって王の悪政の煽りを食らい国力は低下している。
その為モンテニアルから派兵できる人員としては50にも満たないそうだ。
そうなると、すぐさま可能な対応はこれしかないな。
「諸王様方、ここは僕たちが急ぎ向かいます。」
「おお、英雄様が。」
「いくばくかの足止めはできると思います。その間に諸侯は増援をお願いします。」
うん、さすがは英雄だな。
が、しかしだ。
「では、それに先んじて俺が向かいましょう。」
「タカヒロ様、それは!」
「ファルク、俺だけなら誰よりも、お前達よりも早く現着できる。今回は時間が勝負なんだと思うんだよ。」
「しかし、タカヒロ様だけでは魔族10数体の相手は厳しいのでは…」
「確かに、俺はその魔族とやらを知らないし、どれだけ対抗できるかも未知数だ。でもな……」
「でも?」
「手をこまねいて思案するよりは、行動したほうが打開策が見つかる場合もある。」
「し、しかし……」
「何となくだけど、その方が丸く収まると思う。俺の勘は結構当たるんだぜ?」
「で、では、僕もすぐに追いかけます。」
「ならば、ワシらも即座に行動に移そうぞ!」
会議は開始からわずか30分ほどで終わった。
皆決断は早い。さすがは一国を担い背負う方々だな。
「タカヒロ様!」
「サクラ……」
「お一人で行かせるわけにはいきません。私も一緒に行きます。」
「わたしもよ、タカヒロ。いつでも一緒、なんでしょ?」
「いや、しかし今回は……」
正直、この魔族侵攻は誤報、というか魔族にその意思はないような気がしている。
それは、俺はミノリさんとジャネットさんの話を聞いているからだ。
まして、リサやピコといった、本物の魔族の存在が身近にいたから。
なので、恐らくだが危険は無いとは思うのだが、ただ今の所それは可能性でしかない。
「わかったよ、同行は良い。でも、リサにはカスミくらいしか同乗できないぞ。」
「それは何とかするよ、タカヒロ。」
「リサ、いつの間に……」
そこには人型のリサが居た。ドレスに身を包んだその姿は、一国のお姫様といったら誰もが納得するだろう。
「私の眷属総出で運ぶよ。もう呼んであるしね。」
「早いな、いや、それより、良いのかそれ?」
「いいっていいって、それに……」
「それに?」
「ううん、何でもない、詳しくは後で話すね。」
こうして俺たちは、その後すぐに出発することとした。
各国との連携やその取りまとめはラークとその他王とで詰めることとした。
現地までは人狼族にお世話になる事となったが、さすがに衆人環視の中で狼に跨っての出発はできない。
なので、途中で合流し乗り換えることになった。
俺たち一行は、ファルク達4人、俺、サクラ、ローズ、リサ、カスミ、そしてなぜか偽勇者のギブソン一行も加えられた。
こいつらについては、ファルクがここに滞在している事をバラし、それを聞いた各国王が
「おお、勇者様はここにおられたのですか!ならば安心であるな!」
となり、偽勇者に同行を懇願したのだ。
どうもファルクには、偽勇者を懲らしめようとする意図があるみたいだ。
後で聞いたのだが
「勇者を騙り、あまつさえタカヒロ様に剣を向けたのですから、反省してもらわないといけません。」
だと。
あのさ、お前も俺に剣をむけたよな、最初。
むしろ、お前の方が反省しないといけないのでは?
街道入口付近まで来たところで、俺は馬から人狼族に乗り換えた。
ジャネットさんも来ていて、今回の騒動の裏にある可能性について教えてもらった。
「まずもって、魔族が人間を襲う、という事からして有り得ない事なのだがな……」
「ありえない、とは?」
「うむ、我ら人狼族がここに居る事がその証明でもあるのだが、そもそも魔族としては人間との共存を望んでいるのだよ。」
「では、なぜ侵攻を?」
「そこなんだ。これは本当に侵攻なのか、という疑念がある。」
「うーん。」
「もしかすると、だ。これは侵攻ではなく何かに対する対処のように思う。」
確かに、エスト王国の報告だけしか情報もなく、10体程とは言え人間から見れば攻めてきたとしか映らないかも知れない。
その情報はたぶんにバイアスのかかった偏ったものの可能性が高い。
それは俺も気になってはいたんだが、そうなると……
「ありがとう、ジャネットさん。すごく参考になったよ。」
「タカヒロ殿、充分気を付けてな。」
「ああ。」
こうして、俺たちは2班に分かれて行動する事にした。
サクラとファルク、クフィール、ラファール、そしてギブソン一行はこのままエスト王国へ赴き、先遣隊として来たこと事を報告する。
そして、俺とローズ、フラン、リサ、カスミは人狼族にお世話になってこのまま侵攻しているという魔族に接敵する。
サクラ達はそのまま馬で赴くことになり、俺たちが乗ってきた馬はそのままジャネットさんが面倒を見てくれるそうだ。
これで直行する俺たちは、サクラ達よりも2日ほど早く魔族と接触できるはずだ。
とにかく、今は急ぐしかない。




