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第40話 新国王と温泉郷

 ラディアンス王国へ戻ってからが大変だった。

 どうも、サクラは今回の事を誰にも言っていなかったらしい。

 全部押しつけたニーハさんにさえ


 「危急の要件です、後を頼みます。」


 とだけしか伝えてなかったそうだ。

 そんで帰ってきたと思ったら、俺とサクラとローズが事実上の婚姻を約束し、おまけにサクラは隠居、新たな国王を擁立、と、サプライズのオンパレードだったのだ。

 悪い事ではないのは確かだが、事が事だけに国中上を下への大騒ぎだった。


 ただ、その大騒ぎの方向性が祝賀ムードに限りなく傾いていたので悪い事ではないのだが。

 それはつまり、大騒ぎで町の経済活動が滞るほどに影響を与えるって事なので、手放しでは喜べない、かな。

 とはいえ、国民としては今までが今までだったので、こういう羽目を外せる大騒ぎってのも久しぶりだろうしね。

 ま、こういうのは流れに任せて最後は国が締めれば良いんじゃないかな。


 混乱は、王国関係者だけじゃない。

 こいつらもまた、めんどくさい事になっていた。


 「タカ様何でよ!ボクを捨てちゃうの?ボクは捨てられちゃうの!?」


 いやいやラファールちゃん?

 捨てるも何も、俺たちはそんな関係じゃありませんよ?

 それに言い方!


 「タカヒロ様、なぜそんな大事な事を僕に教えてくれないのですか!僕たちの仲はそんなに軽いのですか?」


 いやいやファルク?

 仲ったって、お前は英雄で俺は外様だって言ったろ?

 というか、お前にはそもそも関係ないんじゃないかな、たぶん。


 「まー、なんだ、生ぬるく生暖かい目で見守りますよ、タカヒロさん。」


 クフィルさん、あんた楽しんでない?

 せめてそっちのメンツの手綱はひいといてくれよ、お願いします。


 「やっぱり。でも次はわたし……約束。」


 フランさん?

 もう俺、いっぱいいっぱいです。というか、睨まないでください、怖いです。


 そんな感じで、英雄様御一行は問題児集団の様相を遺憾なく発揮したのである。

 お前たちはそんな事している場合じゃないんじゃないのか?

 そんなこんなで、英雄様御一行もこの国にしばらく滞在して王国の復興に一役買う事になった。

 そして、だ。


 「ごめんなさい!ほんの出来心だったんですぅ!」


 偽勇者だ。


 ダイゴ達が調べた結果、ギブソンという偽勇者が装備しているものは本物の伝説の装備なんだそうだ。

 ギブソンは賞金稼ぎで、モンテニアルからさらに東のエスト王国周辺でこの装備を発見したんだそうだ。

 面白半分でその武具を装着したところ、外せなくなったので仕方なく装備したままここまで来たのだそうだ。


 「それって、外すことはできないのか?」

 「はい、あの武具は一度装備すると、装備者が死なないと外せないらしいですね。」

 「じゃあ、風呂とか入れないだろ。」

 「それがですね、そういう時は一時的に外れるそうなのですが、用事が済むと自然に装着となるんだそうです。」

 「なんだそりゃ。それってもう呪いの装備じゃないの?」

 「ある意味、そうかもしれませんね。」

 「もしかして、ファルク、お前もあの装備が欲しかったとか?」

 「そうですね、ただ、そんなものが存在するとは思えませんでしたので探すことはしませんでしたが。」


 結局偽勇者はあの後ワキムカンの一味という扱いで投獄された。

 処刑されなかったのは真偽不明だが一応「勇者」を名乗っていたからに過ぎない。


 聞けば、勇者を名乗ってからあちこちで困った人を助けた、という実績はあるらしい。

 ただ、それも、重い荷物を運んであげたとか、迷子を送り届けたとか、普通に親切な人の行動だそうだ。

 魔獣の討伐や、盗賊討伐などの話は一切ないらしい。

 ともあれ、悪さをしていた訳では無さそうなので、監獄から出されて今は騎士団詰所に軟禁となった。


 城下町も平穏を取り戻し、日常生活が戻っているようだ。

 あの後真っ先に通行税や王国民の税制の見直しなど早急に実施し拡充したことで、人の流入は大幅に増えている。

 サクラはラークへの政務引継ぎを一旦終えて落ち着いている。

 そして


 「騎士団の本拠地の整理に向かいましょう。」


 と言ったので、今俺たちはあの街道にある本拠地、いわゆる宿場町予定地へと向かっている。

 確認程度の用なので、そんな大勢ではない。


 俺とサクラ、ローズ、リサ、カスミ、キースさん、マリーさん、そして英雄御一行だ。

 英雄一行と俺が居るってことで、護衛役のセラさんなどは居ない。

 その道中、ミノリさんの所へ寄ったのだが


 「あらあらまあまあ、タカヒロ様は節操がありませんのねー。」


 あきれているのか祝福してくれているのか、いまいちわからないが、優しく微笑んでいる所を見ると後者のようだ。

 一緒にいたジャネットさんは


 「次はリサの番で良いのだな?ん?」


 と凄んできた。

 いやその、リサの事も好きだけど、勘弁してください。


 そんなこんなで、本拠地に着いた。

 着いて、驚いた。


 街道沿いは区画が整備され、路地もきちんと整理され、まだ建物などは基礎段階ではあるが、数件の建築が着手されている。

 という事は、すでに入植する人が集まっているという事だ。

 町の中心となるのは元々使っていた建物なのだが、こちらも大幅に改装中である。

 で、町の呼び物でもある温泉に関しては……


 「こ、これは……」

 「おおー凄い!」

 「素晴らしい……」


 と、みんな感嘆の声を上げるほど立派な露天風呂が出来ていた。

 これはかなり大きな観光資源にもなる。

 噂が広がれば、温泉目的の人も集まってくるだろう。


 「うまい事やったな、コージーさん。」

 「これもタカヒロ様の助言のお陰ですよ。」

 「しかし、よくまあこんな短時間でここまでできたもんだね、山賊連合総出でやったんですか?」

 「いえ、俺らは半分くらいの人員を投入しただけでして、大半の人工はネリス公国の職人さんですね。」

 「へー。」

 「ま、この露天風呂はできたばかりです。まだ誰も浸かっていないので、皆さんで初入りしてくださいよ。」

 「お、いいの?」

 「そのためにまだ誰も入れてないんですよ、ははは。」

 「それは、とてもありがたい。」

 「サクラ様と二人で、ゆったりするのも良いですよ?」

 「……コージーさん、知ってたんですか。」

 「そりゃあ、頭領ですから。」


 そう言ってウインクしてきた。

 チクショウ、なんて絵になるイケメンなんだ。


 コージーさんとキースさん、マリーさんでいろいろと話があるようで、そのまま改装中の建物で話し合いをするそうなので、俺たちは町の観察がてら散歩した。

 で、陽も傾いてきたので、温泉に浸かることにした。

 したのだが。


 「……なんで全員なんだよ。」


 キースさんとマリーさん以外のメンツ全員が湯に浸かっている。

 もちろん、混浴だ。

 まあ、それはいい。きっとこっちでは混浴は普通の認識なんだろう。

 でもさ。


 「おいファルク、なんでお前が俺に密着してなおかつ手を太ももに載せてんだ?」

 「あ、いえ、自然とこうなってしまいまして……」

 「で、なんでラファールちゃんは反対側で俺に抱き着いてんのかな?というか、ラファールちゃんは男だったのな。」

 「えー、ボクこうしてると落ち着くんだもん、いいでしょ?」

 「いや、良くないだろ……」


 お前ら、もしかして、ソッチなのか?

 すまん、俺はノーマルだ。

 何とか払いのけ、逃げるようにサクラとローズの傍に行こうと思ったのだが


 「はー、ラファールさんは男の子だったんですねー。」

 「凄い、ムダ毛もないし肌はつるつるだし、どんなケアしてんの?」


 と、二人はサプライズなラファールに興味津々のようでそっちに夢中だ。

 うん、仕方ない。

 一人でゆっくり浸かっていよう。

 そう思っていたところに、リサが横に来た。

 もちろん、人型に変化している。


 「ねータカヒロ、気持ちいいねー。」

 「お前たちってさ、湯に浸かったりするのって抵抗ないのか?」

 「そうだね、前もピコと一緒に入ったでしょ。群れの連中も、実はたまにこっそりここにきて入ってたりしてたんだよ。」

 「そうなのか、ここの湯って、なんか効能があるのかね。」

 「えーっとね、あったまる以外に、怪我の治療にも良いみたいだよ、それにほら」


 そう言うと、俺の前で立ち上がり、おしりを向けて突き出した。


 「見て、毛並みもつやつやになるんだよ。」


 確かにしっぽの毛は艶が増している様にも思えるが、リサは元々しっぽがきれいでモフモフだったからなぁ、

 というか、そのポーズはいろいろとまずいと思うぞ、うん。


 「……色魔。そんな所も好き。」

 「おわッ!フランさん!いつの間に」

 「さん、じゃない、フラン……」

 「あー、フラン、いつの間に……」


 あの、顔の半分まで湯に沈めて上目遣いで睨むのはやめよう。

 もしかして、フランって目が悪いのかな?


 「違う、目はいい。」


 こ、心まで読めるのか……


 一応ゆっくりと湯に浸かる事はできたのだが、なんか疲れた。

 翌朝、朝食前にもう一度温泉に入ったのだが、今度はサクラ、ローズと3人だけだったので露天風呂を満喫できたのだった。

 で、朝食後にコージーさんがこんなことを言い出した。


 「エリックさんとこの宿場町の名前をどうしようかって話をしていたんですが、是非、立案者のタカヒロ様にあやかって名前を付けようとなりました。」

 「は?」

 「で、考えたんですけど“トモベ温泉郷”ってのはどうですか?」

 「それは止めましょう!」


 恥ずかしい。全力で却下させていただきます。

 とはいえ、名前かぁ。


 場所的に岩が多く、川も近くにあるし、そうだな、ピッタリの名前があるじゃないか。

 俺のふるさとの名前だ。温泉はないけどな。


 「提案だけど、“イワセ温泉郷”ってどうかな?」

 「おお、響きがいいですね、それで行きましょう!」

 「軽いな。」

 「タカヒロ様の命名なら、即決ですって。」


 ま、いいか。

 こうして、ここに「イワセ温泉郷」という名所が誕生したのだった。


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