モンスターズジェネレート16
番外編最終話になります。
なんだかんだあって、ようやく落ち着く事ができた。
領主邸で寛いでいると、来客があった。
ブナガ王とネモフィラ姫だった。
「どうしたのですか?」
俺が尋ねるなりブナガ王は
「さて、ワシはこれで帰るぞ。あとは宜しくな。」
といって帰ってしまった。
ネモフィラ姫一人を残して。
「えっと、どういう事でしょうか?」
「タカヒロ様は、私をお嫌いでしょうか?」
「いえいえ、そんな事はありません。もしかして……」
「はい、たった今私は父上に勘当されてしまいました。放逐され行くあてもありません。」
「あー、あの王様め……」
「タカヒロ様になら、」
「姫、わかりました。此処に滞在、いえ、居住してください。」
「……タカヒロ様!」
「俺の傍で、末永く、一緒に暮らしてください。」
「はい!」
いや、やけくそではないよ?
そもそも姫は人魚族だ。人間が多い社会では生活するにはまだまだ障害は大きい。
何故なら、その声と瞳は、アルチナの魅了の能力を超える程強力なのだ。
ブナガ王が匿っていた理由の一つは、下手をすると傾国の美女になりかねないからだ。
ここでの生活なら、ある程度それは緩和されると思う。
少なくとも、地元の人たちは既にそうした免疫ができているからだ。
アルチナに加え、ルナ、人型のウリエル。
そこに姫が加わった所で、大して変わらないだろう、何なら、ルナにそのフィルターの方法を伝授してもらおう。
で。
その場には当然のようにピラトゥスさんも居たわけで。
「タカヒロ……」
「あ、あの、ピラトゥスさん?」
「……」
無言で、それでいて上目遣いでじっと俺を見つめるピラトゥスさん。
いえ、言いたいことは解るのですが、しかし……
「姉さま、私は良いと思います。反対する理由は、もうありません。」
「シャヴィ、良いのか?」
「ああ、タカ。姉さまの気持ちは痛いほどよくわかる。我らは本能で好意を感じるんだからな。」
「そうか。なら。」
全員が居る場所で申し訳ないんだが。
「ピラトゥスさん、俺と一緒に、歩んで行ってくれないかな。」
「断る!」
「ええー!?」
「タカヒロと一緒、ではない。ここに居る全員とでなければだめだ!」
「は、あはは、わかったよ、ピラトゥスさん。『俺達と一緒に』家族になってください。」
「もちろんだ!」
「ま、なんとなくこうなると思ってたけどね。」
「主様もほんに大したお方じゃの。」
「このお屋敷で足りますでしょうか……」
「もうこれ、普通にハーレムだね。」
「とと様やっぱり凄いんだねー。」
「んふふ、ネモちゃんと一緒だ。」
「魔族でもこれほどのハーレムは近年ありませんでしたわね。」
「旦那様、やっぱりすけ……」
「ま、これも主人らしいよね、私は大歓迎だけどね。」
「まさか姉さままでこうなるとは、タカ、恐るべしだな。」
なんて声も聞こえたが。
こうして図らずも家族が増えてしまった。
ま、嬉しい事ではあるが、大変と言えば大変だな。
これが一つの転換期となるんだろうな。
モンスターの脅威は完全に無くなった訳じゃない。
ただ、俺が生きている限りは現状維持だし、漏れ出たモンスターはこれまでよりも弱くなっているはずだしな。
ただ一つ引っかかる事はある。
あの、ルナが流した涙の意味だ。
本人もそれが何なのか解らないといっていた。
《もしかしてだけどな、あいつ、もう完全に人間の心を持ったんじゃないかな。》
ウリエルはそう言っていた。
でも、それを確認する事はできないし、しない。
そうだとしても、ルナが今は俺達の仲間であることは変わらないからだ。
以前、ウリエルが後々世界に影響を及ぼすかも、と言っていた。
でも、その影響が悪いものではないような気がする。
きっと、俺はそれを見る事なくこの世を去るかも知れないけどさ。
ただ。
ルナは気づいていない。
今ルナ自身が、仲間の喜び合う姿を見て優しく微笑んでいる事に。
今は、それでいいんだと思う。
Fin
あとがき
ここまでお付き合い頂き、本当に感謝致します。
これでタカヒロ君の物語は完結となりました。
この後、色々な事が起こったりして、騒がしくも楽しく、そして幸せに過ごしていくんだと思います。
ここだけの話ですが、タカヒロのモデルは他でもない著者自身だったりします。
とはいえ、それは物の考え方だったり、仕事に係わるスキルや知識だったり、元自衛官だったり、武術の経験だったり、妻を亡くしたり、女性不信だったりといった背景の事ですけれど。
それ故に、タカヒロには思い入れも大きかったですし、私と違って生涯幸せになってほしい、との思いと私自身の願望もあって作品に反映されていたりもします。
ひとまず、私の執筆活動としてはこれで一旦終了となります。
駄菓子菓子、いや、だかしかし。
次の作品の執筆も始まっていたりします。
次の物語は、この番外編から200年後のお話、作中でも触れた通り、アルチナの子とシャヴィの子の二人が活躍する物語です。
テーマとしては、ガールミーツボーイ、つまりその子たちの恋のお話になるかと思います。
とはいえ著者自身、惚れた晴れたには全く縁がありませんので、プロットは固まったものの、ストーリーは一向に進展しません。
ですので、皆さまにお披露目できるのはかなり時間がかかるかと思います。
申し訳ありません。
さて、最後に張った伏線、それはルナの行く末です。
ルナは結局、人間の心を知り、そしてさらに高みへと昇華していく事でしょう。
それは、ルナがタカヒロを特別な人と認識し、愛というものの本質を知った、という事なのかもしれません。
心、という物をはじめから持っているはずの人間でさえ、愛という物の本質を知る人はどれだけいるかわかりません。
ルナは、そうした愛という形のない物への問いかけとなるのかも知れません。
その永遠の課題のヒントは、二人の子に託されることになるかも知れません。
とまぁ、そんな大風呂敷を広げたのは良いのですが、先ほども申したように一向に筆が進まないのでどうなるかはわかりません。
もしかすると、このままフェードアウト、という可能性も無きにしも非ず、というのが正直な所です。
でも、こうして沈思黙考している内に、キャラクターは自我を持ち勝手に進んでいってくれる事を願いつつ。
今回はこれにて筆をおく事とさせて頂きます。
最後まで拝読して頂いて、本当にありがとうございました。
また、皆さまに作品を通してお目にかかれることを祈って。
2024年 3月 9日 松栄