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モンスターズジェネレート15

 ひとまずここの発生源は封印できた。

 ただ、やはりオーバーフローは避けられないと思う。つまり、モンスターは出現頻度こそ万分の一レベルまで下げられるが完全に無くせない。

 他に何か手立てはないかを模索するうちは、これで妥協するしかない、かな。


 作業を終えて地上へと戻った。

 事の経緯は全て、サクラ達にも伝えた。

 包み隠さず、全て、だ。


 「あなた、それじゃあなたの寿命が……」

 「ああ、1000年が半分くらいになるかも知れない、だそうだ。」

 「そう、なのですか……でも。」

 「ん?」

 「あなたらしいです。それに、誇らしいです。」

 「サクラ……」

 「以前にお伝えしましたね。どんな形であれ、私は誇りに思い慕い続けますよ?」

 「うん、ごめん。そして、ありがとう。」

 「では、帰って皆さんにも話しませんと、ね。」


 ここに居る皆は、少し悲しそうな表情を覗かせたものの、サクラと同じ気持ちでいると思う。

 ぶっちゃけた話、俺は自分よりもこの家族を幸せにする為に、残りの人生を生きていくって決めてたんだ。

 その為に寿命を縮めたとしても、何も矛盾していない。

 むしろ当然の帰結だろう。


 「じゃ、一旦帰ろうか。撤収して、今度はもう一つの発生源を封印しないとな。」


 こうして俺たちはイワセ温泉郷へと戻った。

 その翌日の事だ。

 フランが報告してきた。


 「旦那様、場所の特定ができました。」

 「そうか、できたか。」

 「ただ、我が調査団は一人を除き全滅したそうです。」

 「え?」

 「場所特定の情報を伝達した者によれば、その者が出立直後に調査団の一人が突然全員を殺害、その後自害したとの事です。」

 「それって、もしかして……」

 「はい。あの瘴気にやられたものと思います。」

 「……そう、か……」

 「旦那様。」

 「……うん?」

 「もとより忍とはそういうものです。旦那様が必要以上に気に掛ける必要はありません。」

 「いや、でも……」

 「自害した者も、悪意に呑み込まれながらも伝令を逃し、被害の拡散を止める為自害した、そう思います。」

 「そうかもしれない、な。」

 「行った事の是非はあります、が、私はその者を誇りに思います。」

 「そう、そうだな、フラン。」


 悲し気な、それでいて悔しい想いを必死に隠そうとするフランを、強く抱きしめた。

 震えているのはきっと、流せない涙の代わり、なんだろう。


 「じゃぁ、その者に酬いる為にも、さっそく現地へ行こう。」

 「はい!お供します!」



 ―――――


 南米大陸。

 その北端に位置する山間部に、その発生源はあった。

 前回と同じようにブラックホールを展開し封印する。

 それが終わると、少し離れた所に移動した。

 7つの、小石を積み上げてできた小山。

 調査団の亡骸を弔う墓だ。

 俺とフランが一つ一つの墓の前で手を合わせる。

 他のみんなは、その後ろで静かに目を閉じて弔いの意を表す。


 フランは言う。


 「悲劇ではない。生けるものの為、崇高な使命の元、それを遂行しただけ。」


 今の俺になら、その意味は充分過ぎるほどわかる。

 それだけに、ここで散った人達の想い、この人達への感謝の気持ちは大きく俺を揺さぶる。

 その墓に向かって、俺はありがとう、とだけ呟いた。

 その足で、俺達はイワセ温泉郷へと帰ったのだった。


 ―――――



 帰ってから数日後、ラディアンス王国に全世界の首長が集結した。

 モンスターに関する一連の結果報告と今後の対処について話し合う為だ。

 結局のところ、俺がその報告をする事になった訳だが、とても緊張してしまうな。


 「……事の顛末としては以上となります。」

 「そうですか、タカヒロ殿には何から何まで世話になりっぱなしでありましたな。申し訳ありません。」

 

 ロマリア連邦のグラハム大統領はそう言ってくれるのだが、結果として対処できたのはどのみち俺達だけだった。

 しかし、協力を惜しまず手を尽くしてくれた大統領はじめ各国の首長さん達の助力があったからこそ、できた所業だ。


 「大統領、そんなことはありません。私たちは皆さまの助力があってこそ行動できたのです。お礼を言うのはこちらです。」

 「とはいえ、だ。タカヒロ殿が解決したことは紛れもない事実だ。各国の王や代表と話し合ってな、貴方様にどう謝礼を尽くそうかと相談しておるのだよ。」

 「ミハエル様、そんな、今でもアリシア王国はじめ各国から温泉郷へ援助を頂いているんです。これ以上は……」

 「まぁ、貴方様ならそう言うと思ってな。ではこうしよう。」

 「はい?」

 「貴方様へ贈呈した家宝の剣、あれを返納していただきましょうか。」

 「え゛!?そ、それは……」

 「ん?過ぎた謝礼ならば、その分以前のものは返納してもらい帳消しにしようというのです。さあ、返してもらいましょうか。」

 「え、えーと、ですね……」


 ミハエル様から受け取った家宝の剣ってのは、セイバーの事だ。

 あの剣はダルシアの一件で折れてしまい、そのまま倉庫に眠っている。

 家宝の剣をボロボロにした挙句折ってしまったので、それを返すわけにもいかないだろう。


 「返せぬ、というのであれば仕方がない。タカヒロ殿、その責任は取ってもらおう。」

 「と、いいますと?」

 「うむ、我らからの謝意は受け取ってもらおう。これは貴方様への罰です。断ることは許されませんぞ?」


 うーん、そんなに微笑んで言われても、ですね。

 言葉や言い回しを変えて屁理屈で納得させているだけじゃないですか……


 「……わかりました。お受けいたします。」

 「わははは、そうでなくてはな!」

 「相変わらずじゃな、ミハエルよ。」

 「シムネ、本来はこれはそなたの役目じゃぞ、ん?」

 「いや、どちらかと言うと、ブナガ王、そなたではないかな?」

 「ふっ、皆何を勘違いしておる。誰か、ではない。全員じゃ。」

 「旨い事いいよるの、流石じゃ。」


 結局、今回の騒動を収めた事で、イワセ温泉郷は自治区ではなく準国家として立国する運びとなった。

 準国家、というのは、完全な独立国家ではなく周辺各国の属国扱いという事だ。

 とはいえ一つの国家だ。わざわざ属国としたのは、今後こういう事があった時、俺が謝礼を断れないようにする為、らしい。

 もっとも、イワセ温泉郷を軸として各国の繋がりを強化する、という思惑の方が大きいとはシムネ王の言葉だが。


 ま、外交的な事が少し増えた程度で、俺達の仕事が極端に増加するという事はないので今までと変わらない。

 ただ、組織的に領主から国王になってしまうのは困る。

 以前もシムネ様とラークには言ったが、俺にそんな資質や実力は無いからだ。


 「ふふ、だから属国、なのじゃ。」


 という事らしい。

 みんな狸だな。

 愛すべき素晴らしい狸だ。


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