モンスターズジェネレート14
「ここか……」
ようやくの思いでたどり着いた場所は、いわゆる『忌み地』になるんだろうか。
近づいた時にはこれまでに無い、何とも言えない嫌な気持ちになっていた。
「うむぅ、これ程とはのぅ……」
「元の世界でも、こんな場所は無かったような気がするな。」
「そうだの、もっとも、負の面は世界中に希釈され拡散されておって気づかなかった、という面もあるじゃろうがの。」
この世界の負の面、つまり人間が持つ負の感情が、こことたぶんもう一か所に集積されている、という事なんだろう。
あのダルシアがこれに中てられて、ああなった訳か。
「お前がブルーの時に察したものって、やっぱりこれなんだろ?」
「そうだな、私が人間を嫌う要因は、これだったと思う。」
《アタイが気付かないレベルの悪意って、相当なモンだぜ?》
「悪意だからこそ、なんだろうなコレ。シヴァでさえ、エルデでさえ発見できなかったんだから、相当に狡猾な意思なんだろうさ。」
深い海の底で、こうして人間の悪意を吸い込み、そしてモンスターとして成型し放出する。
しかもこれは、人間が人間である以上消える事も無く存在し続けるって訳だ。
やっかい極まりない。
ただ、モンスターが知能を持ち始めた、つまり進化した、というのはちょっと理解の範疇を超える事実だな。
変化点があるとすれば星の統合なんだけど、そうなると、その進化の切っ掛けは……
いや、止めておこう。知った所で過去の事は消し去る事はできない。
「じゃが主様よ、これは破壊や消滅できる物ではないのではないか?」
「ああ、以前と場所が違ってるってことは、移動するか別の場所で再生するか、だな。破壊してもまた現れるってことだ。」
「でもとと様、なんでこんな物が……」
「恐らくだけど、これはエルデ自身も知らないこの星の自浄作用、の一つなのかも知れないな。」
人間が持つ悪意、つまりは妬みや恨み、強欲、そういった負の要素を吸い込むことで、少しでも人間が手を取り合って生きていく世界にしたかったのかも知れない。
この星の9割もの人が消滅するような、あんな悲劇があったんだ。せめて生存した人類には、って考えたのかも知れない。
だけど、人間の負の面はこれだけでは吸収しきれない程大きいんだろうな。
もとより、負の面が一切ない、なんてやはりある意味ディストピアでしかない。
ムサシさんが居た時代の魔族への言いがかり、龍族への仕打ち、国家間の争いや盗賊などの跋扈、それにあのダルシアのような奴ら。
それらはその負の面が、ここからオーバーフローしてそうした者達へ降りかかったのかもしれない。
《結局はあれだろ?その負の面がモンスターっていう形になって地上へ帰っていったんだろ?》
ウリエルが的を射た事を言った。
「そうだな。形を変えただけで、結局は世界に還元されてるってことだ。」
「しかしタカヒロ、こうなるとこれはどちらが正しいって事ではないのでは?」
「ルナ、そうだな。難しいし問題ではある。だけど、モンスターとなって固まってくれれば、人間ひとり一人の負の面は緩和されるってのはある意味助かる、かもな。」
「正解など無い、という事じゃろう。がしかし、延々と湧き出てくるモンスターを討伐し続けるというのも、厄介じゃの。」
手が無い訳じゃない。
負の面その物は無くなりはしない。人が人である限り。
でも、モンスターという形になって顕現するなら、それを地上に出さずに分解し再度ここへほうり込めばいい。
ここでリサイクルしてしまえば良いんだ。
ただ、それをするには今の所、永続的に力で抑えるしかない。
それが可能な力として思いつくのは現状、俺が使うブラックホールだけ、だろうな。
《おい、お前、何か変な事考えてねーか?》
「あー、人の心を読むなよ、といっても、見え見えか。」
《あのな、それを実行したらどうなるかは、お前も薄々は理解できてんだろうよ。》
「まぁな。でもさ……」
ウリエルに生命力を吸い取られ続ける、なんてレベルの話じゃないと思う。
もっとも、ウリエルが俺から搾取する量なんて微々たるものらしいけどな。
そういう点ではこいつと精霊たちとの共存関係は上手く行っているってことだろう。
ウリエルでさえその正体が判明しない、俺のブラックホールという技。
俺自身、それが何を代償に発現しているのかすら理解できていない。
現状、考えられる代償ってのは……
「なぁ、サダコ、雪子。もし、だよ。もし俺がこれを封印したとして、だ……」
《言うんじゃねえよバカ、アタイやルナはまだしも、こいつらに言う事じゃねえだろう!》
「言いたいことは解るがの、主様。元々お主ら人間の寿命は100年にも満たないのじゃ。」
「とと様……」
「みんな……」
「なぁ、タカヒロ、人間の負の面は解った。が、お前が持つような正の面とやらは、その負の面を何とかできないものなのか?」
「……難しいだろうな。例えそれが可能だったとしても、それはユートピアに見せかけたディストピア、じゃないかな。ルナなら、その一端はわかるだろ?」
「そういう事か……」
《とは言え、だ。お前にはアタイらが取り憑いている以上、元々は1000年でも生きられるんだ。寿命が半分になったとしても500年、それで良しとするかしないかは、結局はお前次第、だろうな。》
「俺が1000年以上も生きる?」
《そうだぜ。アタイも精霊達も、寿命なんてないしお前に憑いてるというか、同化している時点で一緒なんだよ。サクラもローズもフランも同じだ。》
「……そう、そうなのか。」
今ここでそんな問答をしている場合じゃないな。
それに、そんなに長く生きていく意味って、あるのかどうかも解らない。
そもそも、だ。
俺がこの世界に飛ばされた理由ってのは、俺が生きていく為じゃなかったもんな。
この星を、この世界やあっちの世界の人たちを救う事だったんだもんな。
ならば。
「決めたよ。ひとまず、だ。コレは俺が限定的に封印する。」
「主様、できるのか?」
「あぁ、たぶんだけど、ブラックホールの応用でイケると思う。」
「でもとと様、それじゃとと様の負担が続くって事じゃ?」
「まぁ、そうだな。でも、だ。生きている間はモンスターの出現は抑えられるし負の面の吸収も続くだろうし、その方が良いに決まっているだろう?」
「だけど……」
《まぁアレだ。さっきも言ったが数年でどうこうなるような話じゃねぇからな。少なくとも今後数百年はお前は死なない、と思うぞ。》
「あはは、それでも長生きしすぎな気はするけどな。いつかサダコに言った事、思い出したよ。」
「主様……」
「ごめんな、サダコ、雪子。でも、これが俺のすべきことだよ。」
「いつかサクラが言っておったの。悲しみはするが、誇りに思い主様を慕い続ける、と。」
「でもとと様、この事はサクラ達に言わなくていいの?」
「いや、きちんと話すよ。事後報告になっちゃうけどさ。」
「とと様……」
さ、やるとなったら直ぐに行動を起こすか。
とはいえこれ、俺一人の能力じゃ限界があるな。
相応の力の補助が要りそうだ、と、ルナを見ると
「お前……」
「なんだ?」
「なんだ、じゃないよ。なんで泣いてる?」
「私が、……泣いている?」