モンスターズジェネレート12
これまた、意外な方向からの話、というか展開、だな。
ネモフィラ姫の故郷がその人魚の里で、そこはモンスターによって滅ぼされた、という事か。
あれ、でも、ちょっと待てよ?
その伝説ってのは、何時の話なんだ?
「あの、姫。姫の里が滅ぼされたっていうのは……」
「あ、伝説にある里とは別でございます。近所ではありましたけれど。」
「そうなんですか。」
「少し言葉足らずで誤解を与えてしまいましたが、里を直接滅ぼしたのはモンスターではなく、同じ人魚族なのです。」
「はい?」
「人魚族は、魔族のように“悪意”や”強欲”に対する耐性はそれほど強くはないのです。そして、モンスターの個体の中には、稀に悪意や欲といった念を含んだ瘴気をまき散らす個体が存在するのです。」
「え?という事は……」
「その瘴気に充てられた人魚は、自我を失い同胞を次々と……」
「それで里は滅んだ、という事ですか。」
「丁度その時、主だった者が不在だったこともありまして。特に私のお父様は里一番の強者でしたが、折悪くその前に亡くなっていました。」
「それもその瘴気の影響で?」
「いいえ、お父様はフグの毒に中って無くなりました。」
「へ?」
「人間の街へ仲間と飲みに出かけ、フグ料理屋で……」
「そ、そうなのですか、それは……」
「店主の忠告も聞かず、生でフグの肝を食した、との事でした。」
「…………」
なんだろう、姫の本当の父親は、相当なチャレンジャーだったのかな……
ともかく、父親が亡くなったのは関係なさそうだな、うん。
「そ、それで姫はこちらの海域まで避難してきた、という事ですか?」
「はい。私は手傷を負い、幼かったこともあって東海岸で力尽きてしまったのです。そこで父上に助けていただいたのです。」
「なるほど、経緯は理解しました。それで、」
「はい。」
「本題に戻りますが、知らせないといけない事とは、そのモンスターの中に稀に出現する個体の事、なのですか?」
「それもありますが、もう一つございます。」
「もう一つ、ですか?」
「はい。モンスターの出現場所、そのおおよその位置を、私は知っています。」
「そうなのですか!?」
「とはいえ、その範囲は広いので、特定するのは難しいかと存じ上げ、此度私が来た次第です。」
そうか、そういう事か。
つまりは、海中の探索は人間には不可能、であるなら、人魚である姫ならば、手助けできるのではないか、という事か。
ありがたい話だけど、しかし。
「つまり姫は、その海中の探索に協力していただける、という事なのですか?」
「その通りです。お慕いするタカヒロ様の力になれるのであれば、里の皆さまの仇を討てるのであれば、と。」
「そういう事でしたか。しかし、姫、申し出はとても有難いのですが……」
「タカヒロ殿、そなたがそう申すのは解る、しかし、この子も気持ちも、汲んであげて欲しいのじゃ。」
「それは当然、姫の気持ちも考えています。しかし、それで姫を危険に晒す事だけはできません。」
「タカヒロ様……」
「ですので、姫が単体で行動するのではなく、俺達と一緒に行動していただけるなら、受けたいと思います。姫に何かあったらいけませんので。」
「やはり、お主はそういう男じゃったなぁ……」
「ともかく、です。これは俺一人で決めていい事ではありませんので、皆で話し合って決めたいと思います。申し訳ありませんが、姫も同席していただけると幸いですが、宜しいでしょうか?」
「はい、もちろんです。」
「あなた、では早速準備しますね。」
「サクラ、すまない。頼んだよ。」
「はい!」
そうして、場所を領主邸の大広間に移しての話し合いを始めた。
大広間に全員が集まった所で
「あれ?ネモちゃん!」
「ヘザー!」
「久しぶりー!会いたかったー!」
「私もですよヘザー!」
「へ?ピコと姫って知り合いなのか?」
「うん!前に言ったマーメイドって、ネモちゃんの事だよ。」
「ヘザーは今はピコって言うのね?」
「あ、それはタカヒロが付けてくれた名前なの。」
そんな一幕があったが、話を進める事にした。
「事の経緯としては以上なんだけど、どうかな?」
「どうかな、っていうより、アンタはどうしたいのよ?」
「そうですわね。私達としてはタカヒロ様の決めた事なら従うまでですけれど。」
「アルチナの言う通りだな。タカが決めれば良いのではないか?」
あー、まぁ、大体そんな感じになるとは思っていたけどね。
ただ、この件に関しては別の意図、というのは無いと見ているので敢えてみんな同席してもらって決めようと思ったんだよ。
しかし……
「わかった。じゃあ、ネモフィラ姫は俺たちと行動を共にして頂きたい、という事で。」
「ありがとうございます、タカヒロ様。」
何というか、そんなに瞳を潤わせて言われると、その、照れるというか何というか……
「アンタはとりあえずここまでがデフォなんだね。」
「うむ、主様、あまり姫を見つめてこちらに引き込むではないぞ?」
「旦那様、やはり……」
だから、違いますからね。
「と、ところで、だ。」
「ん?」
「サクラ、さっきの姫の話を聞いて思ったんだけどさ。」
「はい、私もです。」
「モンスターの瘴気に中てられて人格が変わったっていうのは、他にも例があるんじゃないかって、な。」
「タカヒロ、それって?」
「モンスターの中には、瘴気をまき散らす、というか、たぶん人に悪意を埋め込むというか伝播させる能力を持つ個体がいる、って事らしい。その瘴気に中てられると、何というか殺人鬼みたいになる、らしい。」
「補足をいたしますと、里を滅ぼした人魚は、普段はとても優しく面倒見の良い方でした。それが一変し、悪意というか、怨念の塊のようになってしまったのです。」
「それと似た人物に、サクラとローズは心当たりがあるんじゃないかと……」
「それって、まさか!」
「あの、ダルシア、ですね。」
「そう、で、恐らく、だけど昔、龍族の鱗を狙い始めた件、魔族と戦争に至った件、それらも関係があるんじゃないかなーって気もする。」
「そ、そんな事って……」
皆、言葉に詰まる。
憶測ではあるけれど、かなり確度の高い話だと思う。
さらに言うなら……
「なぁ、ルナ。お前ブルーだった頃、こっちの世界に干渉したのって何でだ?」
「あまり覚えていないが、確か私から干渉したのではない、と認識しているぞ?」
「アーマーをこちらに送り込んだのは?」
「そのダルシア、といったか、あ奴からの要望だ。」
「ねぇ、タカヒロ、これって……。」
「んー、まぁ、それらは全て過去の答え合わせみたいなもんだから、今更どうこう言っても始まらない。でも」
「でも?」
「この先、同じ事が起こる、というのが判明したと言って良い。だったら、それは必ず阻止しないといけない、って事だな。」
「あなた……」
「という事で、発生源の探索、範囲を絞って急ピッチで特定する事に全力を出そう。」
「「「「「「「 はい!! 」」」」」」」
「ネモフィラ姫、そしてブナガ王、来て頂いたこと、感謝いたします。これで俺達は前進を加速させる事ができます。ありがとうございます。」
「いや、タカヒロ殿、そなたに一存せざるを得ない我らこそ、そなたに感謝してもしきれない。急ぎ各国へ今回の事は伝えよう。」
「お願いします。」
「そして、事が済んだら我が娘と……」
「さ、さあ!みんな!がんばろうぜ!」
「タカヒロ様、感謝いたします。」
「姫、よろしくお願いします。」
こうして、今後の計画を見直し探索に注力できる態勢を整えるのだった。