モンスターズジェネレート6
イワセ温泉郷に戻り、本来の仕事をしていた時だった。
執務室には俺とサクラ、ローズ、カスミ、ピコが居る。
それぞれ業務の書類整理をしているのだが。
「ローズ、大丈夫か?」
「うん、と言いたい所だけど、ちょっと……」
「ちょっと、休んだ方がいいわね、あとはアタシがやっておくわよ。」
「ローズ、無理しないで、体を休めるのも大切ですよ。」
「ごめんね、少し休んでくる。」
ローズはすでに臨月だ。
なので執務はせずに休んで、とは言ったのだが、責任感の強いローズだ。動ける内は仕事をこなさないと、といっている。
とはいえ、無理をしてまでしなければならない程の業務量はないので、極力休んでいて欲しい所だ。
「あなた、ローズももうすぐのようですね。」
「ああ、数日の内に、みたいだな。少し、ローズの傍に付いていてあげたい、かな。」
「今の所、モンスター関係の追加情報も無いようですし、こちらは私達がやっておきますよ?」
「そう、だな。すまんが、頼めるかな?」
「もちろんです、あなた。」
という事で、俺はローズの傍に居る事にした。
「ごめんねタカヒロ。」
「あはは、ゴメンは無しだよローズ。俺が一緒に居たいんだからさ。」
「うふふ、ありがとう。」
「おまえの為にできることは何でもするからさ、甘えてくれよ。」
「そうね、とりあえず果物が食べたいかな……」
「よし!任せろ!」
そんな感じでローズとの時間を過ごしていた。
その数日後の深夜、看過できない情報が舞い込んできたのだ。
息を切らして舞い込んできたのは、ロマリア連邦大使のゲイリーさんだ。
「村が壊滅、だって?」
「壊滅といいますか、開拓途中の村が襲われて村全体が破壊されたようです。ですので被害者はおりません。」
「それは不幸中の幸いとも言えるけど。」
「ただ、モンスターは10数体の集団、しかも、組織だった行動をしていた、との事です。」
「10数体が連携して襲ってきた、という事ですか。」
「はい。これは今までにない行動ではないかと存じます。」
「そうか、実は……」
ゲイリーさんには先日の集落での一件を話した。
モンスターが集団で組織だった行動を見せるようになってきた事は、これで明らかになった訳だが。
「ねぇ、タカヒロ。これって…」
「リサ、これは恐らく、モンスターそのものが変化、いや、進化してきているって事、かも知れない。」
「魔族でも、遠い昔にそういった進化があったっていうのは聞いてるけど……。」
「ゲイリーさん、襲撃後のモンスターはどうなりました?」
「それが、不思議な事に一体残らず去っていったとの事で、その行き先は全く不明なのです。」
「そうですか。というか、今回のこれって、目的が全く読めないな。」
「はい、人の多い村や町ならばともかく、人が殆ど居ない開拓中の村を襲撃する理由が分かりません。」
「ちなみに、襲撃してきた方向もわからない、とか?」
「そうです。逃げられた村人の話では、村のすぐ近くまで忍び寄ってきた感じだったとか。」
「うーん……」
これはちょっと、これまでとは大きく異なる事象とみて良いだろう。
ただ、いかに情報網が整ったとはいえ、実際に目にしていない以上、組織だった行動、集団、あるいは連携の詳細な様子までは判明しない。
その行動が、例えば人間を模した行動だったら、それは人間から学んだ、と言える。
しかしそれが、ライオンとかの獣の狩りのような行動なら、また話は変わってくる。
朧気ながら頭に引っかかっている、人間との関係が有るのか無いのか、を見極める必要があるな。
とはいえ、出現場所の予見は困難なのも事実だ。
神出鬼没といってもいい出現、傾向は見られたが、過去の行動とは違ってきているっていうのもある。
どうしたもんかな、これ。
「タカヒロ。」
「おお、居たのか、ルナ。」
「最初から居たが。」
「そうだったのか、スマン、気付かなかった。」
「貴様、私は眼中にないのか?」
「いやいや、お前気配消してただろうよ。」
「あ、そうだった。」
「もう、ん?……気配を、消す?」
「ん?どうした?」
「あのさ、お前、なんで気配を消すとかできる様になったんだ?」
「知らぬ。」
「知らぬって、あー、いやでも、そうか……」
「ねぇ、タカヒロ、気配を消すって、わりと普通にできるんじゃない?」
「いや、リサ。知能があればできるんだろうけどさ。」
モンスターに知能は無い。
それはこれまでの常識だ。
が、仮に進化して知恵を持ち始めたとしたら、どうだろう。
「……」
「タカヒロ?」
「これは、もしかすると……」
「何か分かったの?」
「貴様、どうしたのだ?」
「明日、全員を招集して会議を開く。ルナ、お前とウリエルも参加してくれ。」
「どういう事だ。」
「これは恐らく、これまでのモンスター討伐どころの話じゃないかも知れない。」
もしかすると、この星の皆とモンスターとの戦争になるかも知れない。