第105話(最終話) カーテンコール
最終話となります。
ご拝読、ありがとうございました。
でも、主人公の活躍はもう少しだけ続くようです。
11月末とは思えない小春日和、今はママの墓参りを済ませて帰宅する最中。
パパとお兄ちゃんと私の3人で横断歩道の信号待ちをしている。
「うーん、いい天気だな。」
「晴れて良かったよね。パパとお兄ちゃんはこの後どうすんの?」
「お前たちはどうする?丁度昼時だし、何か食べていくか?」
「そうだな、父さんの奢りでウナギなんか良いかもな。」
「そうだね、久々にウナギなんて良いんじゃない?パパの奢りで!」
こういう時くらいはおねだりしてもいいでしょ。
ホントはパパの作った料理がいいんだけど、手間をかけさせちゃうからね。
「マジかよ……ま、いいけどね。じゃ、ウナギ喰って解散だな、何なら、お前らウチ泊まっていけよ。久しぶりの実家だろ。」
残念だけど、私もお兄ちゃんも仕事があるし、お兄ちゃんは結婚して家族もいるしねぇ。
大人になると、なかなかそういう機会もないのはちょっと寂しいな。
「まー、俺は帰らないと。明日も仕事だし。」
「私も明日早いからね、泊まっていきたいけど我慢するよ。」
「そうか、なんか寂しいけどしゃーないか」
そんな話をしている時だった。
《準備完了、じゃあ、ちょっくらごめんねー》
そんな声とともに一瞬にしてパパの体は白と黒の炎の様なモノに包まれた。
「ぐわあぁぁぁぁー!」
「パパ!」
「父さん!」
その瞬間。
もう一人の私が、私の中に入り込んだみたいだ。
そして、私の記憶は全て繋がった。
これが、この瞬間がすべての始まりだと、今理解した。
「パパ……」
「なんだこれ、火なのか、父さん大丈夫か!」
「お兄ちゃん、大丈夫、落ち着いて。」
「ミト、いや、だってお前!」
「これから事務的な事を終わらせないと。とりあえず警察を呼ぼう。」
「お前!なにそんなに落ち着いてんだ!」
「後でちゃんと説明するから。」
ひとまずパニックになっている体を装い、周囲に助けを求め警察を呼ぶ。
パパはこの瞬間、エルデに飛んだんだ。
もう二度とこちらの世界に帰ってくることはない。
だから、こっちでは死んだことになるので、その処理が必要になる。
その時、ふと道路の反対側を見ると……
「ま、おう様?」
ここに居るはずのない魔王様と、その奥様がこちらを見ていた。
魔王様もそれに気づいたのか、私を見ながら大丈夫だと言わんばかりに頷き、サムアップを送ってきた。
私はそれに頷き返すと、魔王様は踵を返し姿を消した。
(さて、それじゃお兄ちゃんに説明して、いろいろと準備しなくちゃね。)
―――――
「魔王様、良かったのですか、姫神子様のところへ行かなくて。」
「ああ、これで良いんじゃないかな。どのみちまた別れになるやもしれないしな。」
「うふふ、貴方らしいですわね。」
「ま、まあ、そうおだてるなよベルフィー。しかし、タカヒロの居た世界は窮屈だな。空気もマズイし。」
「そうですわね。でも、もうここに住むしかありませんよ?」
「仕方がないさ。タカヒロが居た世界を、今度はオレが守らないとな。」
「本当にタカヒロ様を好きなのですね。少し嫉妬してしまいますよ。」
「わははは、焼きもちを焼いたお前も可愛いくて好きだぞ!」
「もう、魔王様ったら。」
そう、オレはミトの後を追って、妻ベルフィーとこの世界に来た。
理由は簡単だ。災いの元凶である流星群の破壊の為だ。
タカヒロはその災いにより消滅の危機に瀕していた、オレたちの世界を救ってくれた。
ならば、せめてこのミトが帰ってきた世界を救って恩返しをしたかったのだ。
それは簡単な事ではない。オレはそのまま消滅するやもしれない。
しかし、それはかつてのタカヒロも同じだったのだ。
それだけの危険を顧みずに、人類を、魔族を、星を救ったのだから。
オレの生命をかけた力をもって、その流星群はこの星に近づく前に粉砕する。
そんな事が可能かどうかなど問題ではないのだ。
やるか、やらないか、だ。
実際、可能ではあるが問題なのはそれによってオレがどうなるか、だ。
付いてきてくれたベルフィーを、この世界に残してしまう可能性が高い。
しかし。
これが魔王として、ムサシの親友として、何よりタカヒロの友人としてできる最後の仕事だ。
「さて、ではその日までこの世界に住む段取りを進めるか。」
「はい。この世界の事はカスミさんに色々と聞いていますので、必要なものは全て取り揃えられます。」
「うむ、すまん、手間を取らせるな。」
「何をおっしゃいますか。こういう細々とした事も、意外と楽しいのです。」
「ははは、さすがだな。ありがとう。」
3年後、魔王は単身宇宙空間へと進出し、持てる力の全てを使い流星群を粉砕した。
若干破片が地球に降り注いだが、そのほとんどは大気圏突入でチリと化した。
一部燃え切らなかった隕石がとある場所へと落下し甚大な被害がでたものの、星そのものへの影響は皆無だった。
魔王の全ての力と引き換えに、メテオインパクトという未曽有の天災は回避されたのだ。
「魔王様、とうとう……これで、これで私は一人でこの世界で生きていくことになるのですね……」
落下していく流星群の破片を見上げながら、ベルフィーは都会の真ん中で佇んでいる。
その瞳には、悲しみを讃えた雫が零れ落ちるのを待っているようだった。
と。
ベルフィーの元に一人の少年が現れた。
「ベルフィー、ただいま。あー、疲れた。」
「ま、魔王様!?」
「なんとか死なずに済んだようだぞ。」
「お、お帰りなさい!」
「お、おい、そんな力いっぱい抱きつかれると、その、嬉しいではないか。」
「それでいいのです。私も、魔王様も、嬉しくていいのです!」
「はは、そうだな、うん。」
「グスッ、ところで、その体は?」
「どうも力を使い過ぎたようでな。小さくなってしまったようだ。」
「カワイイです!」
「それもなんか、照れるし嫌だな……」
「うふふふ」
「では、これは一応ミトに報告すべき、だろうな。」
「そうですわね。姫神子様はその厄災後に向けて準備なさっているのでしょう?」
「ああ、それが無駄になるとは思わぬが、いらぬ苦労はしなくてもよいだろうし。」
「そうですわね。」
「じゃあ、ミトの所へ行くか。」
「はい。」
魔王はこの世界を救う事が出来た。
本来の世界とは違う、並行世界ではあるが。
これで、少しはタカヒロに恩を返すことができただろうか。
そんな事を少し思いながら、魔王とベルフィーはミトの元へと歩き出した。
Fin.
あとがき
読了していただいた皆様に心から感謝いたします。
いかがでしたでしょうか。
短い作品ではありましたが、私的には何とか纏まったな、という感じで終える事が出来ました。
こういう小説というか、文学作品を書いたのは今回が初めての経験です。
ほぼほぼ勢いのまま書いたので粗が目立つ事になってしまい、読み難いと感じた方も多いと思います。
そもそも文才もなく、物書きの知識も持ち合わせていませんのでその点は申し訳ありませんでした。
この作品を書いてみようと思ったきっかけですが、「故郷である茨城県の地元の市をネタに何か作れないかな?」と思ったのが最初です。
とにかく、茨城ネタをふんだんに放り込もう、物語は破綻しないように気を付けよう、それだけしか考えていませんでした。
ですので、プロット段階ではファンタジー方向へ進むことすら考えていませんでした。
が、構成を形作り、登場人物の詳細を固めていく内に、いつの間にか作品のような世界観になってました。
主人公をはじめ、出会っていく登場人物の多くは茨城県に所縁があります。
例えば、主人公の苗字は私の出身地の地区の名称だったりします。主人公の子のミトやヤマトも同じです。
サクラは同じ地元の市、ローズは県名を英単語化、カスミは日本で2番目に大きな湖から、という具合です。
その他はミュージシャンだったりF1レーサーだったり、私の趣味からもじったものが多いです。
物語はこれで一つの幕を閉じました。
主人公たちは、この後幸せに暮らして行ってくれるのではないか、と私自身願っています。
が、そうは問屋が卸さない、というのが世の常、というか私のエゴ。
主人公の活躍はまだまだ続く事と思います。
作中でも触れましたが、主人公の子供たちが、主人公の想いを受け継ぎ活躍していく、かも知れません。
ただ、その物語は、こうして皆さまにお伝えできるかどうか、現時点ではわかりません。
いつか、そんな物語が皆さまの目に触れられればいいな、とは思っています。
ところで、今回の作品を書いている時に思った事が一つ。
キャラクターって、作者の思惑をよそに一人歩きするもの、というのを実感しました。
不思議なものですが、一人歩きしたキャラクターはもう独立した人格を形成しているようにも思えました。
それに伴って、物語の世界も、当初の思惑とは違った方向へグイグイと進もうとします。
修正するのにかなり苦労しましたが、漫画家や小説家の皆さまの苦労の一端を垣間見たような気がしました。
ですので、そういう意味でも登場するキャラクターは全て思い入れもあり愛すべき存在でもあります。
さて、色々と作中で解明されていない事や謎がそのまま残っています。
その一部については、後日談として番外編で明らかになる部分もあると思います。
ただ、私の意向としては、できるだけ解説的な文面は最小限に留めようという思惑もあります。
これは拝読していただいた方の想像に委ねる、あるいは考察する余地を残す為、です。
すみません、私自身そういうのが好きなもので。
皆様も、作品の世界観に浸って、想いを馳せていていただければ幸いと存じます。
纏まりのないあとがきとなってしまいましたが、これで一旦完了です。
また、作品をお届けできる日が来ることを願って。
本当に、有難うございました。