第104話 エピローグ
「ほらほら、トキワ、ヒバリ、おむつかえましゅよー。」
「うふふ、あなた、顔が緩みっぱなしですよ。」
「あは、そりゃ仕方ないさ。緩まない方がおかしいぞ、あああ、トキワ、大人しくしてくだちゃいよ。」
「何というか、手慣れているというか、なかなか様になっておるな。」
「アイツさ、ああしているととても世界を救った勇者には見えないよね。」
「でも、主人らしいよね。」
「そういえばローズ様もご懐妊でしたね。」
「う、うん。主人にはまだ伝えてないけどね。」
「私達はまだまだ先になりそうですわね。」
「ま、こういうのは授かりものだ。焦る必要はないだろうさ。」
「むー、とと様あたしにはまだ何もしてくれない。」
イワセ温泉郷の領主に就任してから、1年とちょっとの月日が流れた。
温泉郷の運営は軌道にのり、かなり上手くいって世界有数の観光地にまでなった。
町そのものも拡大の一途を辿っていて、もはや国家レベルと言ってよいほどに領地は大きくなった。
世界そのものはもはや人間と魔族との区別もなくなり、それを象徴するかのように結界は消えた。
たぶん、ムサシさんはこういう状況を見越して、解除のカギを設定していたんだろう。
つくづく、凄い人なんだなぁと思う。
そんな人と並んで勇者などと言われるのはさすがに気が引けるが、今の時代の勇者は間違いなく俺だと喧伝されてしまっている。
まぁ、それによる温泉郷の宣伝効果は抜群なのでいいっちゃいいんだけどな。
サクラは去年、無事に元気な子を産んでくれた。
男の子と女の子の双子だった。
長男はトキワ、長女はヒバリと名付けたのだ。
さらに、ローズは秘密にしているようだが、俺にはわかる。
ローズも妊娠しているのだ。
カスミは相変わらずだけど、常に俺の傍でいろいろと世話を焼いてくれている。
案外面倒見がいいのかもしれない。
アルチナはエイダムとの連絡役をしてくれているが、それだけ苦労をかけてしまっているので申し訳ない。
その分、アルチナとの時間は極力優先的に取るようにしている。
シャヴィには領地の治安部隊の相談役兼監視長を務めてもらっている。
龍族の数人もこの地に移住しているので、その者たちを率いて上空からの監視をしてもらっている。
アーマーほどではないにせよ、未だにモンスターは排除しきれていないのでそちらの討伐にも出張ってもらっている。
時には俺とシャヴィの二人でモンスター討伐に出かける事もあったりする。
シャヴィにも苦労をかけてしまっているので、できるだけ二人の時間を設けるのに苦心しているんだよ。
リサとフランには東方の連絡役を担ってもらっている。
リサはミノリさんがいる森、フランはジパングが担当だ。
ちなみにリサは現在常に人型で生活している。今はこの姿のほうが楽なんだそうだ。
ピコと雪子には領主邸の管理をお願いしている。
庭の手入れや館の物品管理は結構な大仕事だ。
特に雪子にはシヴァとの連絡役も兼務しているので、常に館に居る事が多い。
必然的に俺と居る時間は多いはずなのだが、なかなか忙しくてゆったり過ごす時間は取れていないのは申し訳ないと思う。
サダコには特に仕事を振っていない。
なぜなら、サダコは座敷童なのだ。
サダコも自由に、それでいてあらゆる懸念に注意を払って過ごすのが性にあっているようだ。
毎日、館とその周辺をうろうろしているので、周辺の商店ではちょっとした顔だ。
そして、コイツだ。
ここに来て以来、毎日何をするでもなく俺の傍にいる、ルナだ。
時折出かけては何日も帰ってこなかったり、かと思えばトキワとヒバリの遊び相手をしたり。
ワールドを手にしては、ウリエルと話をする事も多い。
コイツの行動は全く読めないのだ。
シヴァの所にも行く事があるそうで、雪子曰く、シヴァと何やら話し込んだりしているらしい。
まあ、今のうちは自由にしておくことにする。
いつか自分で何かをしたいと思う、その時まで。
領主となってから、10人の妻との日々は楽しくあわただしく忙しく、それでいて幸せな日々だ。
領主としての仕事は山積みで大変だが、そこはそれ、改善を積み重ねてかなり効率よく、しかも能率高く処理するシステムを構築したので、自分たちの時間に余裕が持てるのだ。
こうした政の仕事はかなり繊細で悩ましいものではあるが、基本住民目線で欲さえださなければ全てスムーズに事が運ぶもんだ。
「そういえばあなた、記念祭ももうすぐではなかったのですか?」
「ああ、そうだ。ようやく各国への案内・招待状を送った所だよ。」
「ねえ、ケンシロウさんとマイケルさんはやっぱり来れないのかな?」
「うーん、忙しそうだしなぁ。とはいえ、前回はまだしも、今年は時間が取れるんじゃないかな。というか、明後日ケンシロウはここに来るとか言ってたな。」
「へー、どうしたんだろう。」
「えーとね、新しい発明品の相談だそうだ。」
「発明品、ですか?」
「まぁ、俺が提案したんだけどさ、鉄道網の構築だよ。」
「鉄道?」
「ああ、鉄でできた通路にさ、人が大勢乗れる車両を走らせる交通手段だよ。」
「へぇー、馬車よりも沢山の人が乗れるの?」
「ああ、いっぱい乗れるし、しかも馬車よりはるかに速いよ。」
「それって、凄い発明なのではないですか?」
「まー、種明かしをすると、1万2千年前、つまり俺がいた時代では当たり前の交通手段だったんだけどな。」
ケンシロウ達あちらの世界の人間は機械に明るいことから、工業の発展に貢献している。
あのルナとともにこちらへ来ていたアーマーから発電装置を取り出し、それをリバースエンジニアリングの手腕とかつて俺が入手した資料を基に、量産体制を整えているのだった。
お陰で電力は無尽蔵に利用できるようになったのだが、それに対して内燃機関の開発は止めさせた。
そのお陰で、電気を利用した乗り物、特に国家間を結ぶ鉄道網の構築に集中する事ができるのだ。
自動車も開発はできるが、便利さ以上のリスクがあるので自動車関連は禁止とした。
代わりに自動車のシャシーやモーターアシストなどの構造自体は馬車へとレトロフィットしたりとそちらの改善を進めたのだ。
―――――
2か月後。
明日から記念祭が始まる。
領地上げての盛大なお祭りだ。既に招待客は到着し温泉を堪能しているようだ。
堅苦しい挨拶などは後回しなのは、事前に通達しているので来客の対応に苦慮することは、まぁ、そんなにない。
とはいえ、そういうケジメだけはしっかりとしておくのが領主としての務めなので、一緒に露天風呂に入っての挨拶とか、色々と効率よく進めている。
観光客もこの時期は爆発的に増えるので、街の活気は最高潮に達していると言える。
そして、記念祭当日。
「さて、準備万端、開催の号令をかけるとするか。」
「あなた、緊張せずに頑張ってくださいね。」
「またとちったりしないようにね。」
「アンタ結構ああいう場面はあがったりするもんねー。」
「また旦那様の凛々しい姿が見れる。」
「うふふふ、観衆の前に立つタカヒロ様はホントにカッコ良いですものね。」
「うむ、ああいうタカの姿はこういう時しか見られないからな。」
「私、檀上に立って挨拶するタカヒロを見るの好きだよ。」
「私も。話始める前の緊張した顔もね。」
「うむ、いっぱしの首長らしい貫禄がでてきているものな。」
「とと様カッコいい!」
「あははは、みんなありがとうな。でもさ、これもみんなが居てくれるお陰だよ。ありがとう、愛してる。」
きっと、こんな忙しくも幸せすぎる時間が今後も続くんだろうな。
何か、ウリエルが200年後にどうのこうの言っていたが、それは俺の物語じゃない。
俺の次の物語は、俺たちの子供、あるいは孫の物語になるんだろう。
何となくだけど、アルチナとシャヴィとの子達が活躍する未来が浮かんだ。
ともあれ、今はそれよりも……
さあ、行くとするか!
お祭りの始まりだ!