第101話 新たなる世界
とっても気疲れした凱旋祝賀会も無事終わった。
主会場となったモンテニアル王国は、今だにその余韻であちこちでどんちゃん騒ぎが起こっている。
その喧噪の中には、魔族、龍族、そして近隣に転移したあちらの人間もいた。
この風景だけ見れば、もはや人種や種族の壁など解消されている様にも見える。
しかし、目の前の風景はこれから俺たちが真剣に取り組まなくちゃいけない世界だ。
この星の生きとし生けるものすべてが、同じ“星の子”という認識の元共栄共存する同胞であると納得できるまで。
「つ、疲れたよ……」
「ふふ、お疲れさまでしたね、あなた。」
サクラは疲労困憊の俺にお茶を淹れてくれた。
モンテニアルの城下町を一望できる城のテラスで、俺は寛いでいる。
テラスには、俺の愛する妻全員がゆったりと俺と同じように寛いでいる。
そこに、ルナの姿もある。
「タカヒロ様、兄が既に魔界の荒野部に受け入れの場所を構築したそうですよ。」
「そうか、エイダムには感謝しきりだな。どうやって恩を返そうか。」
「ふふふ、その必要はありませんわ。魔族にとってもこれは得になる事ですもの。」
「だと良いんだけどな……」
「それよりだ、タカ。龍族の里でも受け入れは可能だと、お母さまからの打診があったぞ。」
「龍族の里でも?いや、しかし、龍族は人間嫌いなんじゃ…」
「いや、その通りではあるが、あちらの世界の人間ならば、という制限はある。ただ、世界の違いはあれど、人間の本質は変わらない事だけは理解しているから問題ない、だそうだ。」
「あー、まぁ、そこが分かっているなら、大丈夫かなぁ。」
「ただ、あの環境に馴染めるかどうかはその者達次第、ではあるがな。」
「ねぇタカヒロ、お母さまもあの森林での居住は許可できるとか言っていたよ。」
「ジャネットさんが?でも、そんなに大勢受け入れられるのかな?」
「山賊団の人達も協力するってさ。集落の造成とか、農地の開拓とか、人手が居るんだってさ。」
まぁ、別の大陸にも同じように出現しているみたいだし、2億人全員がこの大陸に集結しているわけでもないと思うけど。
別大陸の情勢については、正直俺も理解できていない。
各国の王がそれとなく情報を共有しているそうなので、それに頼るしか術はない。
とはいえ
「でもさ、トト様。あっちの人たちはそんなにイヤな感情はもってなかったよね?」
「ああ、ブルーっていう脅威があったから、生きるのに必死だったからな。
でも、な。身の安全が確立したらさ、人間ってのはどうとでも変わる可能性があるんだよ。」
「うむ、人間の一番厄介な所じゃのう。」
「そうよね。みんながみんな同じ志や想いを抱いているとは言えないもの。私達の国が乗っ取られたのなんて、その顕著な例だものね。」
「でもさ、悪行を認識し、反省し、やり直すことができるのも人間だよな。こればかりは、未来永劫変わる事はないと思うぞ。」
「勇者様でもそれは変えられない、という事ですか?」
「いや、変えちゃいけない、というのが本質かもな。」
エルデによると、結局あちらの世界での生存者はやはり2億人程度だったそうだ。
その全ての人がこちらへ移転した訳だ。
その人たち全てが幸せになる権利を得られればいいけど、どう転ぶかは彼ら次第でもあるし俺たち次第でもある。
難しい事だけど、これまでの事が無駄にならないようにしないとな。
数日後、俺たちはラディアンス王国へと戻った。
これから俺はイワセ温泉郷の領主として、ラディアンス王国にて温泉郷の独立を周辺各国と同意の上調印し宣言する為だ。
あちらの世界から来た数名も、イワセ温泉郷で受け入れる事となる。
とはいえ、何しろそれほど広い領地ではないので、受け入れられる人数も限られてしまう。
ケンシロウやマイケルさんはそこに含まれていない。
ケンシロウはジパングの南方に新たな領地を与えられ、そこのリーダーになったそうだ。
ちなみに、その為の会合にラディアンスへ来た際には、ルナを見て一触即発の状況にもなったのだが、俺がとりなしたので事なきを得た。
でも、ケンシロウたちの心中は穏やかではない事は容易に想像できるので、こればかりは時間をかけて納得してもらうしかない。
無事にジーマからの転移者すべてが、各国の受け入れ受諾によって国民として安住することとなる。
ただ、魔界へと移る人々は、現状難民扱いになり、魔族と龍族の手厚い保護の元、新たな領地を開拓していくことになる。
「領地の問題など、我々魔族には大して問題にしていないからな。住みやすい国造りをしてもらえればいいさ。」
魔王は事も無げにそう言っていた。
魔王もその奥様のベルフィーさんもエイダムも、ジーマ難民に対してとても親切丁寧にこの世界の事や農業の事を教えているようで、いい関係を築けていけそうだ。
魔界に来た人たちも、最初こそ魔族に驚いていたがすぐに打ち解け、真剣に自分たちの領地開拓に励んでいるらしい。
ジーマの人たちは日々生死の境をさまよっているような環境だったから、平和というものの大切さを理解していると思う。
このまま、平和的に未来を紡いでくれるといいな。
さて、これで地球にかかわる事は全て片付いたと言えるだろう。
今度は、俺自身の身の振り方をきちんとする番だな。