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短編(ホラー系)

交差点で声をかけられた話


 今からもう10年以上前のことになりますが、とある交差点で事故が起こりました。

 スピード超過で右折しきれなかった軽自動車が、道路脇の木に衝突したのだと聞いています。

 その事故で車を運転していた青年が亡くなりました。

 しばらくした後に、事故のあった十字路周辺の木は全て伐り倒されました。


 十字路がある工場地帯は道路が真っ直ぐかつ平坦で、さらには夜間の車通りが少ないこともあって、少年たちがよく車を走らせていました。また、道路がそこそこ長くサーキットのようにぐるりと円を描いていたことも、人気の理由のようでした。

 少年たちは事故が起きる数年前から、毎夜のようにそこに集まり、時に競走を、時に集団での暴走を繰り返していました。

 亡くなった彼も、その仲間内の1人であったそうです。


 事故が起きてから、いくらかの間は暴走行為がなくなりました。

 さすがに、人が亡くなった場所ですぐにまた遊び始めるのは気が咎めたのでしょう。献花もされていましたし。

 ですが、他に良い場所が見つからなかったのか。二月ほどしてから、再び少年たちが集まるようになりました。


 深夜にエンジン音やブレーキ音が響き渡る日々が戻ってきて数日。

 私はとあることに気が付きました。

 どうも、以前よりも集まりが悪いようなのでした。

 車の走行する音も騒ぐ声も小さくなっています。とは言っても事故が、それも人が亡くなるような事故が起きたわけですから、その時はあまり不思議に思うことはありませんでした。

 それからさして経たない内に少年たちは集まることを止めたのか。

 夜が静かになりました。



 それから何年かして、友人と話をしていた時に何の拍子かその話題になりました。

 当時友人は従兄弟のお兄さんに連れられてその集会を見に行っており、事故こそ見てはいなかったものの事故後の集まりにも顔を出していたそうです。

 友人が言うには、やはり事故が起きた後は人が集まりにくくなったそうでした。

 そうだよね、と相槌を打つ私に、友人は曇った顔を向けます。


 最初は弔いのつもりでいつものメンバーより少し多いくらいの人数が集まっていたのだと、友人は言いました。

 ただそれから徐々に、櫛の歯が欠けたように、亡くなった彼と特に親しかった面々から順に参加しなくなっていったのだそうです。

 更には交差点で人影を見たという噂が流れ出して、自然と集まりそのものが消滅したと友人は語りました。


 私は冗談だろうと思いましたが、友人は真剣な目をしていました。従兄弟のお兄さんも影を見たのだそうです。


 もうあそこで集まることはない。友人はそう言っていました。




 ──さて、ここからは私自身の体験談となります。


 令和に元号が変わってすぐの6月頃だったでしょうか。

 私は地元で就職をしておりまして、件の工場地帯が通勤ルートに含まれていました。

 ちょうど、例の交差点を通り抜けて家と職場とを行き来していたのです。

 日の出とともに家を出て、日の落ちた頃に家へと帰る。

 そんな日々を送っていたのですが、ある日の帰り道で普段とは異なることが起きました。


 その日の帰りも遅くなり、街灯の明かりを頼りに家路を急いでいました。

 当時の私は自転車で通勤していまして、人通りの無い開けた場所では結構なスピードを出して駆けていました。

 そうは言っても誰一人通りかからないほどではなく、時折車が追い抜いていくこともありましたが。


 交差点に差し掛かったところで、一台の車が私を追い抜いていきました。

 かなりのスピードだったのでさっさと走り去ると思っていたのですが、交差点の先を少し行った辺りで急に停車をしました。軽のワゴン車でした。

 なんだか嫌だなと感じつつ脇を通り抜けようとすると、車は発進して並走をしてきました。

 正直に言えば、変質者かと思いました。

 逃げようにも一本道で、どうしたものかと内心悩んでいますと車内から声をかけられました。


「君、大丈夫?」


 何のことだと思いました。予想外な言葉でしたから。

 咄嗟に、大丈夫です。と返しました。

 すると車の運転手は、ならいいんだと言い残して走り去っていきます。ただ、声音はあまり納得しているような感じではありませんでした。

 待ち伏せのような形で声をかけてきたと言うのに、なんだかとても呆気なくて戸惑ったことを覚えています。



 この少し後にもう一度同じことがあったんです。

 場所は同じく工場地帯の交差点付近でした。

 声をかけてきたのは別の車の運転手だったのですが、こちらの方も私のことを大丈夫かと心配しているようでした。

 そして、私が大丈夫だと答えると、どうにもスッキリしない様子で走り去っていくのです。

 見て分かるような怪我をしているわけではなかったですし、転倒したり衝突したりしたわけでもありません。暗いですから顔色が分かるとも思えません。

 いえ、そもそも当時の私は健康体で、職場で体調を心配する話が出たこともありませんでした。

 ですので、不思議でしょうがないのです。


 さすがに少し気味が悪いので、あれ以来夜間にその交差点を通らないようにしました。



ご高覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルとあらすじに惹かれて読ませて頂きました 最初の話でフムフムとなり、次の話でオオっていう 並走してくる車の現実的怖さ緊張感、からの何だったの?感 読んで良かった~
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