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24 文久二年一〇月~文久三年五月

 文久二年一〇月。

 アメリカ内戦は中々酷いことになっているらしい。

 合衆国軍は連合国軍との複数の戦場で大敗。自由国側には思うように進軍出来ず。

 そこで合衆国は、連合国を『海上封鎖』しようとした。綿花や米の輸出で成り立つ連合国の財政をへし折ろうと考えたのだ。

 しかしこれに欧州諸国は反発。イギリス・フランス・プロイセン・ロシア・オランダ・デンマークが艦隊を組んで連合国との交易路を防衛。同時に連合国・自由国へ輸出する武器を値下げし『義勇兵』も送った。

 欧州諸国は連合国・自由国支持を鮮明にしたのだ。

 まあ、合衆国が欧州に売れる商品は木材程度しかないし、その木材もフィンランド大公国の開拓事業の影響で値下がりしているからね。人口爆発のせいで不足気味な食料や綿花を売ってくれる連合国の方が、欧州諸国からすると大切なのだろう。


 アメリカ内戦の余波は日本にまで到達している。

 海上封鎖のために商船どころか捕鯨船まで連合国軍が買い上げたため、合衆国内で鯨油生産が停止。合衆国内で様々な油の価格が高騰すると同時に、世界的に鯨油価格が値上がりしている。

 そのため各藩が行っている捕鯨の利益が急上昇。土佐藩なんかはこの半年で『復活』したと言える程に、景気が良くなっている。お陰で帆立屋の捕鯨部門も中々儲かっている。

 けれども、日本近海の鯨が急激に減っているのも事実だ。今の日本人にとって、貴重な肉である、鯨。あんまり減り過ぎるのは、良くないだろう。




『ボルネオ島の国と伝手がないか、ですか?』

『はい』

 素公留塾のイギリス人教員(本業は商人)と話をする。

『ボルネオ島の国というと、サラワク王国かブルネイ王国ですね。何か用が?』

『商談を持ちかけたいのです』

『商談? あんな何もない場所に、ですか?』

 今はそんな認識なんだ、と意外に思いつつも表情には出さない。

『はい』

『フーム』

 イギリス人教員は考え込む。

『そうですね……。商談の内容にもよりますが、サラワク王国には取り次げますよ?』

『内容は簡単で、幾つかの作物のプランテーションを作りたいのです』

『ほほう? 作物ですか。何を考えていますか?』

『アブラヤシ・ゴムは確定ですね。あと出来ればサゴヤシと米を』

 一瞬イギリス人教員の表情が引きつるが、彼はすぐ元の微笑に戻って答える。

『ゴムは我が祖国が厳重に管理しているので無理ですね。アブラヤシはまあ出来るでしょう。サゴヤシは何の木なのか分かりませんが、米はボルネオ島の環境からして厳しいのでは?』

『農業用水路を建設して、シャムの米を導入すれば可能だと、帆立屋で試算しました』

『なるほど……』

 彼は暫し顎を撫でて考え、言った。

『サラワク王国とブルネイの伝手を紹介しましょう。ですがその先は保証出来ませんよ?』

『十二分です。ありがとうございます』




 手紙という形で、サラワク王国とブルネイ王国と伝手が出来た。

 何度か手紙で交渉を重ね、サラワク王国の方は国営でアブラヤシ農園をやるので、帆立屋は出資だけする形に決まった。

 ブルネイ王国側は何か凄く前のめりで。文久三年三月三〇日、使者がやって来た。

『いやぁ、ツガルは涼しいですねえ!』

 やけにハイテンションな英語を話す使者をもてなして落ち着かせ、翌朝から交渉に移る。


『アブラヤシとサゴヤシのプランテーションについては、問題ありません。ですが米については厳しいです』

『何故でしょうか?』

『川の上流をサラワク王国に抑えられているため、利水工事が出来ないのです』

『なるほど。では、米については『今は』諦めましょう。アブラヤシとサゴヤシについては、可能なのですね?』

『ええ。アブラヤシはムスリム商人の伝手で、苗木も育てる技師も確保しましたので、後は予算次第です。サゴヤシについては、技師がいないので何とも言えません』

『サゴヤシは泥炭地で育ちますよ?』

『まあ、自然に生えている環境から考えると、そうでしょうね。ですが面積あたりの最適な本数は分かりません』

『それは試行錯誤してください。全滅でもされない限り、サゴヤシは儲かりますので』

『確かに、食料品の価格は上がる一方ですからね。間違いなく儲かるでしょう』

 サゴヤシは、その幹からデンプンが得られる木だ。ほぼ純粋なデンプンのため副菜は必須だが、条件次第では米やジャガイモを鼻で笑える収穫量を誇る。前世のタピオカブームの時調べたからたぶん間違いない。

『湿地寄りの泥炭地ならば、ナマズの養殖も可能でしょうが、それこそ試行錯誤しないと無理でしょう』

『ナマズの養殖……。確かに可能でしょうね。出資して頂けますか?』

『もちろん!』


 ということで、文久三年五月二日、もしくはグレゴリオ暦1863年6月17日、『帆立屋ブルネイ王国支社』が出来た。まあ、現地人任せなので支社と言って良いのかは怪しいけれど。

 将来的には、アブラヤシとサゴヤシを中心に商う予定だけれど、今のところは近海で獲れた魚を塩漬にしてシンガポールへ売るだけだ。


 アブラヤシから得られるパーム油は食品油として、パーム核油は工業用油として、それぞれ優秀だからね。

 将来的な鯨の乱獲予防として、アブラヤシはとても優秀なのだ。







~~蛇足~~

サゴでん粉収量(栽培林):2.8~15.5t/ha

水稲収量:536kg/10a→5.36t/ha

ジャガイモ収量:3250kg/10a→32.5t/ha


サゴでん粉は何年のデータか不明

水稲は令和四年度

ジャガイモは令和四年度の春植え


また、サゴヤシはでん粉が得られるようになるまでに7~15年かかる。


なので主人公のサゴヤシへの認識はだいぶ間違ってる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1876年にキュー植物園にゴムの木が運ばれたらしいから別にイギリスが管理してるわけじゃないでしょうに 密かに密輸計画立ててることは知ってるのかもしれないけど
[一言] 確かにたくさん油がとれるいい土地ですね。地の上も下も
[一言] 改めて見るとじゃがいもがチート過ぎる
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