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 安政五年末。

 開国してしまったことで経口補水液の作り方が欧米諸国に出回り。欧米諸国の人口が急増する可能性がある、という一報は、幕府を揺るがしていた。

「やっぱり開国すべきではなかった!」

 そう公家がイキり散らかしたと思えば。

「オランダが八年前に言ってた経口補水液本当に効いたわ」

 と欧米各国の大使が幕府にお礼を言いに来たことで公家の面子は丸潰れ。だって八年前はまだ開国してなかったのだから。

 それでも攘夷だ攘夷だと馬鹿の一つ覚えな公家を、幕府と朝廷は容赦なく処断。特に浪人や攘夷志士を煽った人物は斬首された。

 断固とした対応を幕府が取れたのは。

「これ、攘夷とか言ってる場合か?」

「尊皇は当然だが、これから欧米諸国はもっと強くなるのに今のまま攘夷とか無理だろ」

 攘夷派も例の一報により怖じ気づいてしまい。幕府内における攘夷勢力が極度に弱体化したため。攘夷を支持する公家を処断しても問題が発生することはない、と見られたからだ。


 そんな混乱もありつつ。

 幕府内で、

『欧米諸国の優れた技術を食料を代価に取り込みつつ、日本の独立を守る』

 という方針と、既存のモノよりも収穫量の多い米の種籾に報償金を出す制度が決まった頃には安政六年春になっていた。


 なお、史実で幕府を騒がせた通貨問題は、帆立屋の『欧米人との商売をカピタンの部下に任せた支店を通して行う』方式が主流なことから問題になっていなかった。

 それでも金貨銀貨のレートが異なっているのは不便なので、安政二朱銀と安政小判に改鋳することで、世界基準の金貨銀貨を流通させる方針が安政五年初冬には決められ。安政六年頭の冬には改鋳が始まっていた。


 



 安政六年春。

 帆立屋はソウサンベツ・ウェンペッ・テシホの開拓に乗り出した。

 とは言っても、テシホでは現地アイヌが張り切ってジャガイモ畑を造りまくっていたり、テシホ砂丘がハマナスとハスカップの畑になったりしていた。なので弘前藩内で田畑を継げない未婚の農民の男女を、アイヌの要求通り一五〇人ずつ計三〇〇人送り込んでおしまい。

 ソウサンベツとウェンペッは、何故か集まっているアイヌと蝦夷地出身の和人を戸籍登録して開拓にあてておしまい。

 これらの地域では、焼き畑後ジャガイモ・タマネギの輪作をやる予定だったけれど、燕麦の不耕起農法も導入する。一応ジャガイモは三品種導入しているけれど、疫病で全滅されるのが怖い。そのための燕麦導入であり、不耕起農法を採用したのは省力化のためだ。

 また燕麦を塩水で煮るタイプのポリッジは食感はともかく味は玄米粥に似ているため、和人やアイヌにとって抵抗感がない、という点も重要だ。もちろん、藁を発酵させれば羊や牛の餌に出来る、という点も見逃せないけれど。

 そして久保田藩の管轄である蝦夷地ソウヤの開拓許可も貰えたので、現地のアイヌをジャガイモ片手に帆立屋の契約農家にならないか? と懐柔していく。

 ソウヤ最北端ヤムワッカナイで、夏期に試しにジャガイモを育ててもらったところ、雑に育てたこともあって育ちは悪かった。けれど『悪い』だけで『育たない』訳ではない。それはソウヤで生きてきたアイヌにとって衝撃的だったらしく、次々と帆立屋に下っていく。ジャガイモパワー恐るべしである。

 藤子ら情報部は、ソウヤは度々ロシア人の略奪を受けていたので、それからの庇護も狙っての臣従だ、と分析している。




『これは不味いな』

『ジョークにもなりませんね』

『また植民地人いやアメリカ人が勢い付きそうだ』

 素公留塾のイギリス教員とオランダ教員に呼ばれたら、両国で人口爆発が起こっている件についての話だった。

『勢い付くだけで済めば良いですが。お二方の祖国はどうするつもりですか?』

『オーストラリアへ移民を急ぐつもりらしいが、あそこは先住民との対立が酷すぎるし砂漠も広い。移民させたところで死ぬだけだろうな』

『移民先があるだけマシですよ。東インドは先住民の人口が多すぎますし、未だ抵抗する部族も多い。その上で我々は東インドでの効率の良い作物生産方法を知らない。ゾイデル海を干拓しようという動きもありますが、今はまだ夢物語ですね』

 イギリスもオランダも大変そうだなあ。

『それで、ソウヤの開拓はどうなんだ?』

『ジャガイモとロシアの脅威という飴と鞭のお陰で現地アイヌの取り込み自体は終わってますね。なので久保田藩から開拓に参加する人を募っているところです』

『先住民を懐柔してその知恵を借りての開拓。素晴らしい手法ですね』

 オランダ教員はそう褒める。

『あなた方も出来ると思いますよ?』

『だと良いんですが……』

『オーストラリアでは無理だな。恨みを買い過ぎた』

 何故そんなに後ろ向きなのだろう? 疑問が浮かぶ。

『アボリジニについては思い付きませんが、東インドの方はアチェ王国と妥協点でも探せば良いんじゃないですか? この食糧難の時に戦うと、下手するとスマトラ島を喪失しかねませんよ?』

『そうなんですよねえ。本国でもどう動くべきか割れているようでして……』

 オランダ教員は頭を抱えてしまった。

『それで、帆立屋は穀物を輸出出来そうなのか?』

『燕麦ならなんとか。ジャガイモは開拓民が食べておしまいですね』

『そうか。燕麦で良いから買わせてくれ』

『私もお願いします』

 価格交渉は、中々大変なモノとなった。

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