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第6話 人を剣で刺していた

 今までいた空間から瞬時に騒々しい空間に変わった。


 市場だ。野菜や果物、雑貨が軒並みに並んでいた。


「うっ……」


 突如光量が増えて瞼を瞑った。


「……」


 周囲に違和感を感じた。


「悲鳴……?」


 市場の騒がしさの正体が悲鳴や叫び声なのだ。


 それに肌に刺す空気が異様に熱い。まるで炎の目の前に立っているかのように、熱気さえ感じる。


 光になれ始めて目を開く。


 イロハの目の前には真っ赤な髪を風になびかせ腰に片手剣を差し、全て見透かすような綺麗な目で人の首を掴む男がいた。


「あぐっ……やめ……っ!」

「……」


 首を絞める男と首を絞められている男。両者にどのような関係性があるのだろうか。気づくと問いかけていた。


「何をしているんですか」

「……」


 転移後の地点からその首絞めの現場までは、ほんの僅かな距離。声は確かに届く。


「……」


 男は無言を貫く。


 イロハが詰め寄ると、男は口を開く。

 同時に男は、燃えるような威圧感を放った


「警告……したよなあ。なんでガキがこんな所にいんの? 大人達はみーんな逃げ出したはずだぜえ」


 刺すような瞳も髪と同じ真っ赤な色をしている。若干その瞳にのまれそうになるが、イロハは堅固たる態度を崩さない。


「質問に答えてください」


「あ?」


 赤髪の男はイロハを訝しむ。


 以前ならそらした目線も動かさなかった。

 怖い。見た目からして赤髪の男は明らかにかたぎではない人間。


 それでも今、何故そのような状況になっているのか説明が欲しかった。今まで、ずっと自分の知らないところで物語は動き、結果的に最悪で落ち着く。



 教訓として物事を理解することに執着を覚える。目の前の事件から目を背けず、自分の目と耳で理解したい。


「おいおいおい。聞いてんのか? ガキはお家に帰れ。今はおめえらの時間じゃないんだ。俺ら『シュガーズ傭兵団』の時間だ。覚えておけ」


 男は首を絞めていた手を離し、イロハに一差し指を突き立てる。


 イロハは「もう17になるよ」と怒り気味に言いながら自分に指される指を掴み抵抗する。


「おーおーおー。若いってのはいいねえ。シュガーズの名を聞いても恐れずに立ち向かうか。お兄さんも熱くなっちゃうよ」


「シュガーズとやらがどんな犯罪集団なのかは知らねえが、どうせろくでもない奴らの集まりだろな」


 僅かに男から怒りが発せられた。


「んだとてめえ?」


「答えてください。他にも聞きたいことがある」


 こちらに危害を加えなく、また温和的な会話からそこまで悪い奴ではなさそうだ。

 流石に質問が重なると答えてくれなくなる。



「ああ、もう。訳が分からない。イロハとやら、テメエは何がしてぇんだよ」


「取りあえず、なんであの人の首を絞めていたんだ? 純粋に聞きたいんだ」


「……まあいい。答えてやるよ。理由なんて一つだけだ。シュガーズ傭兵団の仲間を殺したからだ。こいつがな」


「報復か」


「そうだ」


 それならば致しかねない、と先ほど地面に倒れ込んだ男を見捨てる事にした。


「何なんだこのガキ……」

 赤髪の男も、やっと解放されたと腰の剣を抜き振り返る。だが首を絞め転がしていた男の姿が居なくなっていた。


 赤髪の男は会話に時間を割きすぎたと後悔し、イロハに文句の一つでも付けようと振り返った。


「……!」


 赤髪の男がイロハに向けて必死に叫んだ。


「前に飛べ!」


「えっ」

 イロハは右肩から左脇にかけ鮮血を流しながら崩れた。


 血に濡れた剣を持った男は下卑た笑みを浮かばせながら。倒れたイロハの死体に足をかける。


「ひ、ひひ。隙だらけなんだよガキ。ひひ。次はテメエだ。シュガーズ傭兵団幹部、悲炎のククルト様よお。さっきはやられたが次はそうはいかねえ。死ねえ!」


「糞があ!」


 自分がさっさと絞め殺さなかったせいでこんな暴挙を許してしまった。後悔に刈られながらククルトは男に斬りかかろうとした。


 そのとき。男は無様に転けた。


 男は呆気に取られ、足下を見るとさっき切ったはずのイロハが自分の足を掴んでいる事に驚愕する。


 たしかに手応えはあったはずなのに、うすら笑みを浮かべながら力強く足を掴むイロハに腰が引いた。


「待てよ」


 男が硬直した隙を逃さない。


「痛かったなあ!!死ね!」




 男が転んだ時に手から離した剣を拾い、首に突き刺した。男はもがくが、俺は必死に剣を何度も突き刺す。


 だいぶ刺した。けどまだ生きているかもしれない。また刺されるかもしれない。


 だから、刺す。繰り返し刺す。


「……ぅ」


 手から伝わる生っぽい触感に僅かに罪悪感が広がる。心では否定しながら目の前の事実をかき消すように「ごめんなさい」と言いながら剣で何度も突き刺した。



 結局人は人で、17年間で培ってきた俺の倫理はなかなか消えない。


 勢いで、俺はこの人を殺めた。

 怒りで、人を殺している。


 息切れしながら何度も剣を動かす。

 涙を流し。

 赤髪の男にもう死んでいると言われるまで。


 何度も。

 何度も。


 人を剣で刺していた。


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