第4話 ワンチャン
「ああ、どうしよう。能面の機械を殺す算段が無い。……そもそも今、対峙していて生きているのが異常なんだ。能面の機械がふざけて俺に回復魔法やらをかけるから、こんな無駄な延命されている」
薬などで混濁していた意識もそれにより回復した。
「―――キリキリキリキリッ」
「うるさいなあ。どこからそんな音がでてくるんだろう。ははっ……ああー」
今を表す言葉を知っていた。
「絶望だ」
現実を表す言葉を紡ぐ。それを嘲笑うかのように能面の機械が加速し腹部に槍を刺す。
信じられないような痛みが滲む……かと思われたが痛まない。
ただ、腹部の異物感は存在を示している。見たことない量の血が出血している。
今度こそはと一縷の願望を胸に瞼を閉じた。
「……まだ。遊ぶのかよ」
「キリャャャ! ざ、ざ、ザーーーーー残念」
なぜか痛まない腹部から、血染めの槍を力いっぱい抜いた。痛くないのに抜いた所からは血と腸がだくだくと流れ出る。
腹部に白い魔法の光が定期的に発生し、回復される。
どうやら能面の機械は恐ろしい力を持つ魔法使いでもあるらしい。
「敵は倒さないといけねーんだけどな」
無駄だと分かっていながらも槍を相手に向ける。
しかし、たかが高校生。漫画のかっこいい主人公みたいにまっすぐ槍先を向けることは重すぎて出来ない。
生きたいと足掻くのにまったく希望が見えない。
心がへたった。弱くなってしまう。もう嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「ぐ……ふう、いいさ。俺はかっこいい主人公じゃなくていい。サブでも、雑魚でも、屑でも、何でも良いんだよ。俺をこんな目に合わせたやつら、愚かで汚い自己保身の塊たちも、勝手に勇者でもやっていればいい」
涙が溢れてくる。道理にかなっていない悪意がたまらなく嫌いだ。
おかしいじゃないか。
俺はただ起きて、学校に行って、ご飯を食べて、談笑するだけで良かったんだ。それが生きている事だった。
弱音が漏れる。
「だからさあ…………死にたくない……」
「……キチッ?」
死にたくない。生きていたいんだ。ただそれだけで良い。
でも。依然と死は目の前で佇んでいる。
抗わなければ何も得られない。
覚悟は決まり、槍を引き摺りながら迫る。
「世界も……異世界も……てめえの都合で回してんじゃねえよ!!クソが!」
「セツナ回路、は、は、ハシレ──『雷明』」
一歩踏み込んだ瞬間視界が真っ暗になる。目に違和感を感じながらも前方から訪れた衝撃波に揺られ背中から倒れる。
両目に短い鉄パイプが一本ずつ刺さっていた。残酷なことに能面はそれで即死しないようにあえて浅く眼球だけを攻撃していた。
しかし調整が甘かったのか、命は尽きる。
「はっ、ッヅ! があ、い、ってえ。し、ってたぜ……くっ……そが」
ズリッと両目から何かを引き抜く音を聞きながら、色羽の人生の幕は実に呆気なく閉じた。
輝きを持っていた目は無くなり。空虚の暗闇が両目に存在していた。
《なあ、お前さ、ぶっちゃけ死んでもワンチャンあるとか思った?》
「……」
《あー、無理無理。お前の存在は今限りなくゼロに近いから。喋れるなんて生者の特権だ。幽霊以下の今のお前に意思表示なんて出来ないから》
「……」
《まあ、感じとけや。でさ、お前の人生どうだった? 楽しかった? 面白かった? 充実してた?》
「……」
《そうだよな。ざまあないゴミみたいに何の生産性も無い、しょうも無い人生だったよな》
「……」
《生きるのが恥だと思わなかったのか? 普通はな、無駄な努力なんて止めるもんなんだよ。そもそもの無意味だって。皆、それに気づいて来世に期待して死んでいくんだよ。それをお前は最期の時まで抗って努力し続けた。見ていて可哀想だったぜ、本当》
「……」
《ほかの転生者達はこっちの世界に来るとき、新たな才能を貰い生きている。美貌と大いなる力だ。だがお前はそこそこの顔しか、ただ新しい体しか貰えなかった。有能はさらに力を貰えたが、無能は、結局無能だった》
「……」
《言わせて貰うが。お前はそんな有能の集団の足を引っ張るだけの只の無能だ。価値なんてこれっぽっちもないんだよ。害虫だ》
「……!」
《この世界に蘇生魔法なんていう便利な物は無い。死は絶対的な死のみだ。一度死んだらもう後戻りはない。で、お前は死んだ》
「……!」
《お前の周りは輝いているなあ。誰もが成功者だ》
「……!」
《…………………………うるせぇな》
「……!」
《さっきから「生きたい」「見返したい」「復讐したい」だとかさ。本当にうるさい。お前は終わったんだ。あの理不尽な世界に二度と行かなくていいんだ。もう痛まなくても、泣かなくても、虚しんだりしなくても良くなるんだぞ? それでも、生きたいのか?》
「……」
《……堅い。堅くて、強い意志だ》
《ぁぁ……まったくもって……いいね》
《僕の名前は『酷散華固』。この世界唯一の救済。酷い人生を終え、なお生きたいと強く願う者に幸福を願う者。君の努力を知り。君の優しさを知り。君を知っている者》
《僕は、案外と君の間抜けで優しい顔好きだし、実に単純な君の事が大好きだよ》
《君に与えられた。……世界から割り当てられたギフトが僕だったこと。謝るよ。きっと君は王道たる人生は送れない。けど。僕が発現したんだ。君は君のなすがままに生きろ。繰り返す、生きるんだ。それが願いだ。僕は君を愛する者! 君に……色羽に幸福が訪れるように!》
ガチャリ……ガチャリ……ガチャリ……ガチ……………………………ガチャリ。
能面の機械が黒い靄の中を無機質に徘徊している。
たまに床に落ちているものを拾ってはそれに光線を当てたり、刃で刺したりする。
気が済めばそれを放り投げ蜘蛛のような足で徘徊を再開する。
「う」
無造作に動く能面の機械が電源を落としたように動きを止める。
聴覚センサーで捕らえた音声を生命体であることを分析し、範囲を絞る。赤い瞳でその範囲を見渡すとゴミ溜めからぼろぼろの男がよろめきながら立ち上がった。
「……生命反応アリ。――ピーピピ。ERROR処理」
嬉しそうにライトをちらつかせ、背中の収納庫からチェーンソーを三つ取り出し対象にゆっくり迫る。
男、イロハは顔を上げ、迫る脅威に目もくれず胸を膨らませた。
「うっ、あ! あぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
それは産声。
三度目の人生が始まった合図だった。
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