第28話 異世界人、日本人
「イロハでよかったか?」
乗り込む馬車を御者が準備している中で暇を持て余し、エンマとジャンケンをしていた俺に、ドルマが所属するパーティ「シンフォニー」のリーダーを務めるオーディンが声をかける。
「なんでしょうかオーディンさん」
「うちのドルマが迷惑をかけたと聞いた。すまなかった」
後ろに控えていたドルマ以外のパーティメンバーも同時に頭を下げる。
「いいですよ。……ただ、仲間にドルマさんが謝ってください。それが条件です」
サラに軽はずみな態度をとるのも、エンマの触れられたくない過去を弄ったのも、一言二言で変わる悪印象ではない。
これからB級昇格クエストをともにする仲間だとしても、ドルマの謝罪がなければ積極的に手を組もうとは思えなかった。
シンフォニーのパーティメンバーはドルマに謝罪を促す。
ドルマはめんどくさそうにも応じた。
「なんで俺がこんなガキに頭を下げなきゃいけないんだ」
「ドルマ!」
オーディンは悲痛な顔で、どこ吹く風のドルマに怒る。
「うるせえよオーディン。俺は正論言っただけだ。オーディンお前も騎士だったんだからガキには諭してやるのが正しいと思わねえのか?」
「今は冒険者だ。それに騎士見習いにも彼らほどの歳の子はいる。イロハやサラが我々程度に戦えるのが、立派な冒険者である何よりの証拠だ」
名指しをした手前、オーディンの発言はエンマとミリカに戦う能力がないと言ったに違いないが、オーディンはある程度俺たちの実力を認めているのだろう。
そんなオーディンをどこかバカにした様子でドルマは鼻で笑う。
「騎士見習いなんざいいとこの坊っちゃんが花よ蝶よと大事に育てられる制度だろ」
「くどいぞドルマ!」
「ちっ……」
結局ドルマからの謝罪はなかった。
オーディンらは再度頭を下げ、去っていくドルマを追いかけていく。
馬車は「シンフォニー」と「臨時パーティ(仮)」……俺達の2つに別れている。
「あの人たち全員元騎士だったそうですよ。ご主人様」
「凄いのか?」
ミリカに聞く。
「はい。やはり騎士は身分が色濃く反映される世界です。実力が伴いますので下手な貴族より民からの尊敬を集めますし、毎年騎士養成学校は高倍率です。何より騎士になること自体が難しいです」
「詳しいなミリカ。じゃあ、ドルマさんもあれでもすごい人なんだな」
「ちなみに、ご主人様も噂くらいは聞いたことあるかも知れませんが、ドルマは昔こそ英雄に差し掛かるくらいすごかった人らしいですね」
「噂程度はな。「嫌われ英雄のドルマ」なんて聞いたよ」
「もともとA級冒険者と遜色ないくらい戦える実力派の騎士だったそうです」
そんな大層な人物がなぜあんなに荒んでいるのか考えていると、御者から準備ができた旨の声がかかる。
頭を切り替えて馬車に乗り込む。
イロハとサラ、ミリカとエンマ、そして。
「……」
「よいしょっと」
「臨時パーティ(仮)」の馬車に乗り込んできたのは、A級冒険者の大月真矢試験監督。
銀髪になってしまった俺から見ると懐かしく感じるのは、その風貌からだ。
黒髪黒目である大月はまるで日本人のようだった。
「大月さん。なぜ俺らの馬車に」
「んー。私だけ歩けっていうの? 馬車は二つしかないんだし、いいでしょ。女の子多いし」
人差し指を顎に添え、可愛げに頭を傾げる大月からサラ達に視線を移す。
「イロハ。私はいい、よ」
「……え、エンマはどっちでも」
「良いですよ」
仲間の許可もあったので同乗させることに決まった。そもそもA級冒険者である試験監督を強く拒否などできない。大月は満面の笑みで腰を据える。
「やた! よろしくね女の子たち!」
俺の無言の抗議の視線を無下にして、馬車は動き始めた。
門を出て馬車に揺られていく中、先程から熱心に注がれる大月からの視線が気になっていた。
「なぜご主人様、大月さんにがん飛ばされてるんでしょうか?」
「……な、仲悪いのかなあ」
「知らない」
サラ達も気づくくらい凝視されている。
空気を読んで誰も指摘をしないので、やれやれとイロハは重い空気を割るため大月に声をかける
「なんですか」
「ふふ」
「こうも見られると落ち着きません」
「分かってるくせにー」
そう言う大月はミディアムな黒髪を指先でクルクル弄り、ウインクを飛ばす。
心当たりはあった。
黒目黒髪という珍しさから、大月の事をチラチラ見ていたのだ。女性相手に不躾だと承知していた。
ただ、「大月」という名前から感じ取った直感を信じて話しかけることは決めていた。
「出身のことですか」
正解、というようにニンマリ笑みを浮かべた大月。
「あ、やっぱりー? 黒目黒髪珍しいから良く人には見られるけど、君の視線は熱かったよー。懐かしさを感じてた。そんな感じだね」
「すみません。ちょっと見すぎてました」
「だってさ、サラちゃん。大月お姉ちゃんモテモテだよ〜。……うんうん。最初にアプローチを掛けられたのは私。ね、イロハ君」
じっとこちらを見つめてくる大月さん。
その横で抗議のようなジト目でサラが俺に視線を注いでいた。
「サラさん……ジト目可愛いけど、そういうのじゃないですよ。いや本当に」
サラの隣でにやぁと擬音がつくくらいにニヤける大月さん。
「最初に聞いておきたいんだけど、彼女たちは知ってるの?」
確信犯だろう。
言葉の隅々にカマをかけている。大月さんなりの簡単な言葉遊びだ。
特に隠さず、大月の誘導に乗る。
「……いいえ。話してません」
「そっか、じゃあやめたほうがいいかな?」
「その気があるなら四畳半もない馬車で話さないで、後でタイミング見てから声かけてくださいよ」
「四畳半ね、やっぱり、イロハ君日本人だね」
「最初からその気じゃないですか! ……ええ、いいですよ。いつかが早まっただけです。俺はあなたと同じ異世界人。それも日本人です」
「「「⁉」」」
三人分の息を飲む声が聞こえた。
大月という第三者に誘導される形の暴露になったが、サラ、エンマ、ミリカには遠からず話そうと考えていた。
「ご主人様は異世界優良ご主人様だったんですね」
「私は別に、気にしてなかったけど、流石イロハだ、ね」
「い、異世界人……! イロハお兄ちゃんが本にも出てくる英雄……!」
ミリカは尊敬の眼差しを浮かべ、サラは優しげになぜか俺の頭を撫でる。エンマは驚きが強かった様子だった。
「サラたちにはいつか話す予定だったんだけど、俺は違う世界から来た異世界人なんだ」
「あはは、ごめんね。けど、やっぱりそうなんだね。お母さんと一緒だ」
聞き間違いだろうか。己の耳を疑いながらも聞き返す。
「私は、この世界『スフィア』で生まれ育った現地人。私のお母さんが「日本人」なんだよね。つまり私は日本人のハーフてこと」
けらけらと面白いものを見つけたと目を輝かせる女、大月真矢。
現地人である大月は、異世界人の母の話を聞いてから大月から見た異世界「地球」に、それも母の故郷である「日本」に興味をもち色々学んだ生粋の日本オタクであった。
ただでさえ問題児と噂高いイロハとドルマの合同B級昇格クエストということで楽しみにしていた大月は面白くなりそうだと、あっけに取られているイロハの肩をバンバンと叩く。
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