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第2話 裏切り

 静かな空間に荒い息遣いが響く。


「はあ……はあ……あ゛」


 最初こそ咳払いで誤魔化していたが、徐々に余裕がなくなり苦しみだす。


 胸の奥の熱が徐々にせりあがり、体内の管の粘膜を踏みしめて、なぞるように体内をいじられていく。


 気持ち悪く、不愉快で、苦しい。


「ふうっ……ふうっ……!」



 胸を抱きかかえる。

 なんだこれは。なにか悪いものでも食べたか。


 焦る思考は昨夜の夕飯すら朧気だ。もはや思考に余裕がないというのもあった。


「ふッ……ふッ……だれか…誰か!」




「勇者様」


 今回の世界調査(という名の個人的な遠征)に護衛でついてきた王家傘下の騎士に声をかけられる。


 勇者であるクラスメイトから独立して単独行動を重ねる色羽は、異世界人であるクラスメイトに現地のリアルな情報を届けるための名目上の調査を請け負っていた。


 無能力者といえど、貴重な勇者である色羽には、護衛と世話係などで10名ほどが帯同していた。


 その中でも最も信頼していた騎士に必死に助けを求める。



「っリューイさん! ……俺なにか、変で、たす、助けてくれ!」


 苦しげに手を騎士に向けるが、騎士は一蹴し高らかに笑い始めた。


「勇者色羽(いろは)様、お許し下さい! ……私は無能力なあなたを賭して、「超能力」をもった本当の勇者様と取引させていただきました」



 は??


 ここ3週間街を案内してくれたスラム上がりの騎士は、愉悦に浸ったような笑みを浮かべ狂っていた。いや、そうとしか思えない行動を取った。


「指の一本くらい下さい!! 記念です。私はまだ()()()()()()!! あひゃひゃひぁひゃ!」


「な……」



 ツン――――と指先に違和感があった。


 認識する。


 瞬間、指先は強烈な痛みを大量放出してきた。


「がっ……づぁ゛」


 息遣いもままならず、肺の空気を声なき声として吐き出すので精一杯だった。


「あ、証拠の写真取らないとね。えーとあったあった。ほいパシャりと」


 騎士リューイは、俺から奪った人差し指で、景色を保存する魔道具のボタンを押す。カシャという機械音がして吐き出された紙をリューイは空にかざす。


「てめえ、ふざっ、ふッ……ぐぅ!!」


 胸の不快感と、指先で弾ける痛みに慄いていた。

 痛い。すごく痛い。指が切断された痛みに我慢ができない。


「痛……なんで。なんで。なんで!」


 思考は何も間に合わず、ただただ気分が悪かった。


 なぜなんて、分からない。裏切られたのも……分からない。


 この世界に転生した俺たちが所属する総勢27名のクラスメイトは、美貌と、俺を除き『超能力』と呼ばれるチート能力を得ていた。呼び寄せた国王ら曰く、勇者は『聖なる力』『聖なる姿』『聖なる心』をもった選ばれし者。


 すでに転生から半年たった俺は、『酷散固生リベンジャー』という一切効果のない能力を得ていたが、唯一、目に見える能力を発現することができなかった。


 打算的にも考えれば『勇者』は言わずもがな貴重な資源だ。



 優れた能力と美貌を持つ異界から訪れた救世主?

 それは()()()()()()()()()()()のだ。


 本来、目的あっての呼び出しが異世界召喚だ。


 召喚時、クラスメイトは王と対面し、「バルキス国のためにその力を奮ってくれ」と告げられた。


 それでも、素性の知らぬ一般人が初対面で王族、それも王に会えるなど通常はありえない。

 彼らはそんなリスクやプライドなど些細なもののを考慮しても成し遂げたい目的があったはず。無知な高校生らを嵌めようとしていたのだ。


「糞糞糞! それでも、わざわざ俺を殺す理由があるか!??」


 能力は不明? 実質無能力者?

 9割以上の確率で超優秀な能力が発現する集団に属していて、能力はあるものの、現状何も起きない人間がいたら殺すなどありえない。それは可能性であり、十分見込みのある投資対象であるはず。



 だから俺自身、国にも、クラスメイトにも、いい気持ちは持っていないが悲観的にはならず、楽観的に思っていた。


 将来的な準備のために訓練を行い、未知を知り、この世界で生きていく楽しみを探している最中であった。


「何が目的だリューイぃ! 信じていた、信じたかったんだぞ! 俺は!!」


「ああ、今日一日で色羽くんの素晴らしい人間性は十分わかりましたよ。勇者にふさわしいものです。さすがだ。でも、私は私のためになすことがあってな」


「お前が……王国騎士が何を望む! 何が取引だ。スラムから随分と出世しただろ!」


 どうでもいいことを叫ばないと、指の痛みと胸の苦しみに耐えられなかった。


「だからですよ。スラムから成りあがると満足が覚えられないんだ。まだ、まだ……ってね。だから!! 出世し強者になる私は、勇者さえ食らうんだよ!! あひゃひゃひゃ!」



 人の欲は際限がない。


「俺は……役に立つ! クソ見てえなこの国にもこれから役立ってやる!」


 だから、助けてくれ。と声に出したかった。僅かなプライドが邪魔をした。


 痛みから程遠かった生活を穏やかに過ごしていた色羽に許容できる意地は異世界転移で消えかかっている。


「助けてーって言ってくるかと思ったんですけど。理由と取引しか求めないあたりかっこいいですね。色羽くんは。けれど、無理なんだよね。この暗殺計画はきっと君が思っているより複雑なんだ」


「誰がっ」


「あ、それはやっぱ気になるよね。これから私は君を特殊な方法で文字通り跡形もなく消します。まず、そこの場所を提案したのが『グローリー・グループ』」


『グローリー・グループ』……色羽達召喚国バルキス王国の国教。唯一、宗教の行いをこの目で見て、俺が心を寄せていた国の部分でもあった。


「『グローリー・グループ』……聖女か」


 苦しみの心当たりが今になって見つかった。聖女見習いの特製の手作りお菓子を俺は食べた。優しそうな素朴な少女だった。



「そうです。色羽くんが食べたものは遅延性のある毒物が入っています。今、胸が尋常じゃなく苦しいのはそのせいだね」


「……っ」


「あひゃひゃ! 国教の『グローリー・グループ』に加えて、最大の賛同者は『バルキス王国』です。まあ私の所属先ですのでおわかりでしょうけど」


 薄々感じていたことではある。

 召喚国さえ俺のことを切ったのか。


「そしてそして、色羽くん暗殺計画発起人は色羽くんの『クラスメイト』ですよ。そもそも君はクラスメイトに嫌われての、今なんですよ」



「…………異常だろ……」


 人への蔑み、妬み、排他性、世界一平和な国の一介の学生が大層な執着を持ちすぎだ。個人を排除することで得られるメリットなどまるで勘定に入れていない。



「まったくね。同意するよ。まあ、あれほど有能な能力持ちを国に縛れると考えれば、期待値あれど現状無能力者一人で済むなら僕でもする取引かもしれません」


「誰だよ……全員か?」


 痛みがすぅーと体から消えていく。

 どうしようもなく、どうにもできない。


「ふふ、聞いたところ数人だって。安心だよね、全員が異常者じゃなくてよかった」


 ああ、ぶっ殺してやりたい。お前も、お前ら全員もだ。


「そろそろ意識消えそうかい? この薬一度意識を失うとなかなか起きないから移動は楽なんだけど、意識を失う前段階がとても苦しいんだってね。この後色羽くんがどうなるかは知らないけど、間違いなく死ぬよ」


 爆発する殺意だけ強烈に残り、意識が遠のく。



『グローリー・グループ』

『バルキス王国』

『高校のクラスメイト』


 彼らへの復讐を胸に誓う。良い教訓だ。異常でもいいから利己的に生き抜いたやつがこの世界では勝者だ。


 俺は……悔しいが負けた。




「ああ、そういえば」と騎士リューイは言葉を投げる。


「この召喚自体、本来あるべきところから引っ張ってきた、『オーパーツ』で歪められた、『歪んだ召喚』だったんだよ」


「違う人生があったかもなあひゃひゃ」


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