第1話 転生、そして現実
初めての作品です。よろしくお願いします!
『ようこそ。勇者たち。聖なる心、聖なる力、聖なる姿をした救世主よ! 歓迎しよう! そしてその力を我らバルキス国のために奮ってくれ!』
話の最後に"国王"は言った───。
「やったな色羽! 俺らは救われたんだ! いまだ! いま! この! この異世界転生こそが俺らの人生のターニングポイントだ!」
本好きという互いの趣味が合致し友達となった、前世までは肩まで掛かる髪を伸ばし黒い丸眼鏡を掛けた病的なまでに痩せこけていた青年。
けっして整っているとは言えなかった平凡な顔が見間違える程美しき美少年になっていた。
「それは……そうなんだろうなあ。それにしても、本当にお前誰レベルだよな」
丸眼鏡の青年は、苦笑したあとに柔らかい笑みを浮かべた。
「色羽には言われたくねーよ。しけない顔してた色羽君は今では銀髪黒目の麗しい美少年だもんな。……女と言われても疑わないね」
「ほう。賢者(笑)になってからよく口が回るな?」
「なんか馬鹿にされてる気がする」
「そんなことないって」
「まあ、いい。実際その通りだな。なんと言うかこの【賢者】っていう職業?になってから何をいつどのタイミングで喋ればいいのか分かるようになったんだよ」
丸メガネの青年は高らかと、その身に羽織う黄緑色のローブをなびかせ、不可視の収納魔法「アイテムボックス」から、杖を取り出しポーズを決める。
「俺はもはや無敵なんだよ色羽くん……!」
「ほう。それはこの俺、【酷散華固】というそもそも国の知識人らもこの能力を知らない。特に発現した特技や特徴が何もない、事実上の無能の俺に言っているのかな?」
「いやあ……あっはは。色羽との友情は勿論あるよ。けれど、僕の喜びも君に知って欲しくて」
何者かになれた彼の喜びも分かる。
自分は除かれたが、素直に祝福してやる。
「いいよ。おめでとうだな。しかし、俺は勇者の中で最弱どころか一般人なんだよなあ。異世界ね……地球と変わらないな」
「僕はずっと色羽の仲間だ。そもそも僕らは前の世界では友達だったろ。その事実も友情も変わらない」
「ありがとう。まぁ、貴族達に馬鹿にされたのは今でも気に食わん……が、こっちからすれば旅行しにきたような感じだよ。こと俺に関してはな」
苦虫を潰したような顔を賢者の友人は浮かべる。
色羽は気にするなと伝え、足疾げに訓練所へと向かった。
異世界転生。
それは自身の変質。わかりやすい変化だとまず、肉体が多少変わった。力がみなぎり良く動く。「一般人」の基準は地球と変わらないことが判明しているため、「動ける人」くらいにはクラスメイト含め一通りなっているようだ。
それに顔も美化されている。肉体と美貌がグンと引き上げられた我々のクラスは、総合的にポテンシャル上昇を果たし、美形の多い異世界人の中でも目を引くようであった。
異世界。
旅行というのは壮大過ぎる気もするが、文化や習慣、法律さえ違う世界だ。
未知の世界。未知の概念。未知の常識。分からないことだらけだ。
「……まったく」
何も出来ないとは言われたが、何でも出来る気がしてならないのは男の子だからか。
▼▼▼▼▼
朝、王城の廊下を歩いていると、金髪のクラスメイト日出と遭遇した。日出は目を一瞬開くと大袈裟な反応をし、あからさまな鼻につく言葉を述べる。
「やあ。色羽くん……? だっけ?」
日出はわざと煽り倒す。存在を必死に思い出しているかのように頭に人差し指をグリグリと押す。
「ああ」
「良かった。そうだ! そう言えば知っているかい。この僕が何と、かのオーパーツがひとつ『天鳴の奏杖』の所有権を譲られたのを」
それは純粋に羨ましいと思った。
以前の聞いた話では、『オーパーツ』とはこの国が所有し、国に尽くす実力者に預ける国宝の中でも高レベルのものだった。
曰く、“超能力そのものが形をなしたモノ”。
世界に間違いなく点在するが、実態が解明できていない魔道具。
この世界は昔から「異世界人」がいる。彼らの大半は現地人では珍しい「超能力」を持っていた。そんな異世界人の中でも力には強弱があり、稀に能力そのものを現象や物体として後世に残していくそうだ。
『オーパーツ』とはまさに、「超能力者」が残した“超能力そのものが形をなしたモノ”なのだ。
『天鳴の奏杖』は確か星術師の老婆が持っていたオーパーツだ。
「おっーと、僕とした事が。済まないね。オーパーツを僕ら勇者達に所有権を譲る時、君は何処かに行っていてその場にいなかった。忘れていたよ」
「……ああ、オーパーツ自体の存在は聞いたから知ってる。けど、まさかオーパーツが全勇者達に配布されたのか? あれは世界的にも少ない世界遺産だろ」
元は強大すぎる能力。超能力、異能、スキル――そう呼ばれるものが物質化した魔道具がオーパーツだ。国宝に指定されるほど、世界に有数の貴重なものなのだ。
「おや? あー、君のところに配布はされなかったのかー。嫌な話をしてしまったね。まっ、勇者にしか配布されないから変わらなかったと思うけど……いや、悪気は無いんだよ? けど、僕達がしっかり面倒は見てやるから安心してくれ」
つまりのところ、勇者達にオーパーツが配られたのは事実なのだろう。
色羽を除いて
勝手に拉致したのはこの国。
勝手に失望して、役立たずと決めつけたのもこの国。
(はっ、ここまで隠さず馬鹿にされると流石にムカつくな)
人には才能というものがある。俺はそれに抗った。けれど、無駄だった。
どれだけ体を鍛えても、天性の筋肉には劣る。
どれだけ勉強しても、いいとこ平均の少し上。
数多くの努力をしても周りは嘲笑う。味方を作ろうとしても、色羽のことが気に要らないそこらの天才達に感化されすぐに敵になる。
社交性だって勉強した。
怒りと理不尽に直面してもあしらう方法も学んだ。
だからこそ、スペックの底上げというまたとない機会が降って湧いた異世界転生に期待していた。
……悔しい。
「いや、別に構わない。確かに勇者とは呼べないステータスだしな。けれど、オーパーツは良いな。日出のその杖の能力って何だっけ?」
「よくぞ聞いてくれた! この杖の能力、『天鳴の奏杖』の雷の力は正に僕のためにあると言っても過言では無い、素晴らしいものだ。
僕の能力【雷金】は糸状の雷を操る力。そして! この杖を使うことにより威力が20倍! さらに、基礎魔力も上げてくれる!
オマケに未来の1000時間以内の天気が分かる能力まで付属されているんだ。けどそんな無駄な能力はどうでもいいんだ。20倍だぞ! この僕にふさわしい逸品だ!」
日出は黄金色の雷が暴れ回っているような装飾のなされた杖を掲げる。
「そうか……良かったな」
(お前にその杖が本当の力を出したら、それこそ決戦の武器になり得る、という事は理解出来ないんだろうな。天気を理解するのはすさまじい力だというのに)
「だろう? 君も……頑張ってくれよ?」
日出は一通り自慢すると、待たせていた3人のメイドと共に廊下を歩いて行った。置いて行かれるように廊下に取り残された。
俺が血反吐吐きながら努力しているあいだに、クラスメイトの彼らは無努力の魔法の玩具の力で圧倒的な力をさらに手に入れていた。
吐き気さえ催す城内の清潔な臭いにムカつき、舌打ちを一つ残して食堂へと向かった。
▼ ▼ ▼
城の三階の部屋の窓から訓練場を見下ろすひとつの姿がある。
彼は気怠そうに煙草を吸い、眉間にしわを寄せる。
「ち、糞不味いなこの煙草」
部屋に響く女の嬌声を背中に浴びながら、その目は酷くよどんでいた。
部屋の蝋燭に胸のバッチが輝く。そのバッチは高校生徒を証明する鉄製の校章。
「はぁぁああ……ウザいなあ、ウザいなあ。色羽。意味がないだろうが。無意味だろうがよ。色羽、お前は無理なんだよ。目障りだ」
色羽の知らないところで、ゆっくりと悪意の手は忍び寄っていた。
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