その①「スタンバイしたらみんなミュージックフリークス…コト」
・登場人物紹介
①黒川響 性別:男 年齢:21歳 誕生日:6/25 職業:大学生
本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。
☆友達といるときツッコミしがちなキャラになる。単に状況を説明してるだけなので有難みはない。
②星畑恒輝 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人
黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。
☆友達といるときはひたすらふざけまくっているキャラ。場が持つので地味に有難い。
③須田凛 性別:女 年齢:20歳 誕生日:5/25 職業:大学生
男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。
☆友達といるときは後ろで笑ってるだけのキャラ。居ても居なくても変わらない。
④姫月恵美子 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職
スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。
☆友達といるときも一人でいるときと変わらず行動するキャラ。置いて行くくせに行かれるのは嫌い。
⑤天知九 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職
元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。
☆友達といるときは基本聞き役。聞き上手だが、細かいところで訂正を入れたりしてくる。
⑥岩下陽菜 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生
女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。
☆友達といるときは自分の好きなものをプレゼンし続けるキャラ。可愛いから許されてる節も少しある。
遅くなりました。本当にすいません。………ていうかまだ皆さん見てくださってますでしょうか?
信じられん発言でしょうが、前回辺りからスランプでした。こんな趣味で書いてるラノベとも言えん文章にスランプもくそもあるかいと我ながら高をくくっていたんですが、ありました。キャラのセリフが浮かばない浮かばない。仕方がないので、全く関係ない別のモノを書いてました。序盤3話ほど一気に書いて、いい気晴らしになりました。時間は食いましたが…。
まだまだ公開は先になりますが、この作品が佳境になるか或いは円満に終了すればそちらも公開し、続きを書いていきますので何卒よろしくお願いします。
1
「あ、1、2…1、2……」
ドントットトトトト……ツッタタタタタタタタターンシャンシャンシャ~ン
ベベベベベベッベベボッボボンボンボン
ギャィイイィィィイイインンンンギャンギャンギャンギャギャギャッギャギャギャギャンギャンギョイーン
「葬式やめろ!葬式止めろ!葬式止めろ!SO・U・SHI・KI・ヤ・メ・ロ!!」
ドントドンツーギャギャギャギャガガガガガギィーンギョンギョンギョンボボボビオボボボ
「Ah~……木魚にリズム………俺カニバリズム……死肉をむさぼるオイラのフェチズム」
ギョギョギョギョゴヨゴヨゴヨゴオヨゴヨギュウウウイイイイイイ~ンドンドンドンドドドドドドドドドドオドドドドドドドオドギャギャギャギャアアアアアン
「香典返し香典返し香典返し電光石火で香典返し!先公おべっかいんきんたむし!おおおうああああ!!香典返しのピンクのチョーク!まるでオイラの脳漿みたいで…あああ~(※ヒステリックなノイズ)綺麗!」ジャジャン
ドン!!……じゃっじゃっじゃじゃっじゃじゃじゃっじゃっじゃっじゃぎゅいぃいぃ~んべべべべ
ドドン!!ジャンジャジャジャジャ……(残響)
「Thank you……あー…2年A組…桜木下駄バ子は今すぐ首つって死ね(※セリフ)」
ジャン!!
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「よ、良くないですか!?……少なくとも私、今のとこ一回もミスしてません!!」
借りている音楽スタジオで演奏を終えた須田凛が汗だくで、ギターを肩から降ろしつつ興奮気味に叫ぶ。それに、ドラムの上で腕を組むまみるが頷く。
「う、ウム………ていうか……黒川くん、歌うまいね。須田凛が歌ってもしっくりこなかった歌をここまでモノにするとは……」
「……………」(驚心動魄……という顔)
「あは、ははは……ありがと。でも、それはそうと…歌の癖よ」
「ふへへへへへへへへ……私の歌を黒川さんが歌ってくださるなんて……もう死んでもいい…」
「はっはは!!本番までは死なんでくれよ!!」
クネクネと身をよじらせて恍惚の表情を浮かべる凛にまみるが突っ込む。そう、彼らはただ今ライブに向けて連日練習に励んでいるのである。しかも、そのライブというのが単なる素人のお遊びに過ぎない真面目なオーディションなのだから大変である。
(……まさか姫月騒動で知ったJINTAN CALLINGやらに…俺の方がチャレンジすることになるとはなあ)
しかも、まだボーカルもろくに決まっておらず、曲の方も凛が以前から温めていた珍妙なオリジナルソングしか無いという段階だというのに…である。もちろん、参加を打診してきたまみる自身もこのことはよく理解しており、今回の参加はあくまで「このままだとなあなあの水面下で終わりかねないので、一度しっかりバンドとして活動しておきたい」という、いわば試験運動のようなものであった。それゆえに、極度のあがり症の凛も(現段階では…であるが)そこまで怖気づくことなく、練習にも前向きである。
休憩がてら、黒川が凛からもらったオレンジアンプの手入れをしていると、まみるが全員に集合をかけ、当日のパンフレットを持って円を組んだ。当日のミーティングである。
「……本番まであと一週間と二日。メンバー申請は明日まで……ギリギリ粘って来ていたが、もうボーカルは黒川くんで行くしかないんじゃないかね?」
「……………」(黒川推薦!……という顔)
「いやでも……俺、これだしさ」
と言って、黒川が予め録音していた先ほどの歌を再生する。言うまでも無く、雑音である。
「………WOW」
「うう~…ん……私はそれでも全然いいと思うんですけど」
「ダメだって。サイバーテロだよこんなもん」
「だから……やっぱ初期の俺がギターに専念して、凛ちゃんが歌う形式でいいじゃん。もともと凛ちゃんの作った歌なんだし」
「うえええ………」
「………あんまり言っては何だが……黒川君の方がギターの安定感もあるし、僕も須田凛がボーカルの方がいいと思うね。何を言ってるかは分からないが、必死さ…もといパンクさは十分あるわけだし」
「いいいい~?……」
「時間ないししょうがないじゃん。それに、いくら上手くても俺よりずっと凛ちゃんの方が華があるし、バンドって純粋な上手さよりそっちのが大切な時あるでしょ?」
「…………」(八面玲瓏……という顔)
「…………わっっっっ……かりましたぁ……」
明らかに不満や不安はあるようだが、一先ず納得する凛。
「よし!……では遅らせながらもようやくバンド結成というわけだね」
「バンド名どうすんの?凛ちゃん」
「え!?……私が決めていいんですか!?」
「そりゃ…発起人だし」
「でも……皆さん……一回くらいは…バンド名?…考えたことあるんじゃないですか?」
無論である。全員が強くうなずく。
「でしょう!……いっせーのーでで出しましょうよ!一番よかったのに決定で!!」
「………考えてたけど……今のバンドの雰囲気に合わないかもな……考え直さねば」
「俺は意外にも、合ってる気がする。人間椅子とか四人囃子みたいな漢字四字に憧れてたんだよな」
「…………………」(スリスリスリ……)
「が、眼前さん……習字で書くの?」
眼前「!!」コックリ!
せっかくなので、各々眼前から半紙や筆を分けてもらい、紙に書いていく。ババンと一斉に出したいところだが、凛だけ異様に書く時間が長い。
「えらい……長いバンド名だね」
「えへへへへ……あの鬱と糞ってどんな漢字書くんでしたっけ?」
「…………俺、そのバンド名やだな」
「ふへへ……じゃあ変えます。候補一杯あるので………はい!書けました!!」
というわけで、それぞれが考えた候補がこれである。
黒川「安全剃刀」
凛「血の雨リンダリンダ」
まみる「メアリー・アン・ニゴルズ」
眼前「さらし首楽団」
(うわあ……なんだかすごいことになっちゃったぞ)
黒川がいっぱい頼み過ぎた時の井之頭五郎のようなリアクションを取っている中、凛が興奮しながら唸る。
「うっわあああああ!……かっけええ!……眼前さんのかっけえ!さすがのセンスです!!……あ、でも!黒川さんのもカッコいい!!…安全って!剃刀って!」
「いや……俺のはこれ、そういう漫画があるんだよ。俺それ大好きでさ」
「……………」(黙って凛のモノを指さす)
「眼前くんは須田凛のものを気に入ったみたいだね!」
「凛ちゃんの…ブルハのファンから白い目で見られそうだよ」
「あうう……そ、そうですかね?……ちなみにまみるくんのは…何かのお名前ですか?ナイスな語感ですけど」
「被害者さ………切り裂きジャックのね」キラーン
「うおおおお………」(←打ち震えてる)
(…………幸先悪い名前だな)
バンド名の候補が出そろったが、残念ながらこの場には「相手の意見を尊重してばかりの人」と「色々思うところはあるが口を出さない人」しかいなかったために、最後までバンド名は決まらなかった。結局、明日ギリギリのミーティングで決定ということで、その場はお開きになった。
「それでは…明日の17時までがリミットだからね!午前の間に集まって、全て完璧に決めた状態でエントリーしようじゃないか!!」
「こんなギリギリで大丈夫かね?」
「締め切り後の抽選ですし……ネットでのエントリーですから平気です!!……多分」
「……じゃあ、それまでにバンド名と……ってかまあ、決めとくのはバンド名くらいか?」
「ウム!メンバーはこれで確定でいいだろう!」
「!!」(一致団結!…という顔)
「おおお……い、いよいよですね……私、震えてきました」
「ハハハ……武者震いってやつ?」
「黒川くん!!」
軽口をたたき合いながら、楽器を片付けていると、突然まみるがでかい声をかけてくる。
「……黒川くん、そして須田凛!……僕も眼前くんも心からキミらと組めてよかったと思っているよ!当日はどんな結果になっても……どんな評価を喰らっても…構わず全力のパンクを見せつけてやろう!」
以前の黒川なら、笑ってしまっていたかもしれない熱いセリフ。しかし、パンクな気分の今となっては胸にジーンとこみ上げるものを感じながら、しきりに頷くばかりだった。横の凛も涙すら浮かべている。まるで輝いているかのような眩いまみるに手を振って、その日は解散した。
2
家に帰った黒川はルンルン気分で、シャワーを浴び、風呂に入って一息ついた。そんな中、脳内でUの声が聞こえた。
『黒川。二つ頼みがあるんだが、いいかな?』
「あ~……何が~?」
『まず一つは、君の風呂上がりに今後の方針を決める会議を行いたいのだが、いいかな?』
「ああ~……いいじゃない?今、ちょうど全員いるし~…」
『うん。それで、二つ目の頼みなのだが』
「うん~」
『キミが所属してる今のバンド、キミ抜けてくれないか?』
「あ~……………………は?」
さて、風呂上り、Uの頼みを聞き入れた黒川により、全メンバーに収集がかかり全員がリビングに集まるのだが、当の黒川の機嫌は恐ろしく悪く、オマケに顔も腫れている。
「……はい、では今からなんか作戦会議的な奴をするみたいだから…」
「うん………それはいいんだけど……お兄ちゃん、何でそんなにほっぺた腫れてるの?」
陽菜の質問に、黒川に変わり凛が答える。義理として、黒川から事前に話を聞いているのである。
「えっと……Uさんと大揉めされたみたいで……怒りに任せて自分の顔を殴ったみたいなんです」
「……感情表現がストレートかつ無意味すぎるだろ。ONE PIECEの登場人物かお前」
「揉めたって何?穏やかじゃないね」
天知の質問に、今度は黒川がブスっとした態度で応える。
「……凛ちゃんのバンドやめろって言われて」
「しょうもな」
呆れる姫月。黒川が「んだとコラ!」とかみつくが、無視される。
「まあ、でも確かに突然すぎるわな。かなり前から組んでたくせに何をいまさら」
「そうですよ!!しかもよりにもよって、ようやく活動しようかってこの寸前で!!私だって怒ってますからね!!」
「よし!須田、黒川を殴れ!」
「はい!……ってはいじゃないですよ!はいじゃ……茶化さないでください」
「でも、本当に何でこんな急に……」
天知が同情的に言う。黒川は無言で、醤油さしを置く。
『不貞腐れても困るな。もとはと言えばキミのせいだというのに』
「黒川さんのせい?」
『その通り、そもそも何も突然ではないというのが私の言い分だ。事の始まりは数日前、姫月の金儲けを考える回からなのだからな』
「ああ……姫月がバグったやつな」
「エミちゃんがまじめにやらなくて棒にも箸にもかからなかった奴ね」
嫌味を言う陽菜を姫月が無言で睨む。しかし、Uは陽菜の発言に乗っかる。
『岩下陽菜の言う通りだ。姫月だけじゃない。キミらの誰も、真面目に取り組まなかっただろう。キミらはあくまで表面上はスターを志す身であることを忘れるな。オーディションに真面目に取り組まないスターがどこにいる。特に黒川!献身的にサポートして目立てと事前に指示を出していたというのに、前回のお前は空気もいいところじゃないか!』
「うぐ……」
「まあ、確かに……あの場で姫ちゃんと須田さんの二人きりにしちゃった僕らにも非はあるか」
「で、でもでも!だったら矛盾してますよ!私たちはあの中の候補にあったJINTAN CALLINGに出演しようとしてるんですよ!?それなのに出場を止めるなんて、スターの可能性を摘んでるじゃないですか!」
「そうだ!このバカやろう!」
同調する黒川。あのバンドじゃスターにはなれんだろと内心思ったのは内緒である。
『もちろん大会には出てもらうぞ。ただし、このメンバー…ノンシュガーズで…であるが』
「「「「えええええええ!?」」」」
その場にいる姫月と星畑以外の声がこだまする。その二人に関しても、声を出していないだけで驚いてはいるようで、目を開いて醤油さしを凝視している。
「え?え?え……ってことは……私にまでバンドをやめろって言ってるんですか!?冗談じゃねえですよ!?」
「別のバンドを組んで本来出る予定だった大会に出場って…アホか!そんなのしたら二度と連絡とれんようになるわい!」
『まあ、確かにそうだな。なら須田凛は残っていいぞ。別に、必須の人材じゃないし』
「え……そ、そういわれると若干……ま、まあ……じゃあ私は血のリンに戻りますよ!」
(……まだその名前で決まってないだろうが)
「ならさ!俺も凛ちゃんと一緒にあっち側に戻って、ノンシュガーズVS俺らのバンドにすればいいじゃん!そっちのが盛り上がるだろ!」
『なかなかいいアイデアだが、キミはこの番組の頭であることを忘れるな。須田凛はいいが、キミはこちらに残ってもらう』
「ええ~……んなのってさぁ」
「黒川。気持ちは分かるが、ここは番組ファーストでやるべきだろうがよ。お前の本分思い出せ」
「別にバンドをやめることないじゃない。黒川君はこの大会だけ、僕らと臨時でバンドを組むってことにして…これが終わればまた復帰すればさ」
「そうだよ。正人君のお姉ちゃんたち優しいから分かってくれるよ?」
「……………そうかもしれないけどさ」
「黒川さん……私が、説明しておきますよ……実は、私たちがひそかに芸能チームを結成していること…時々、お二人に話してたので……そこの命令でそうなったって言ったら分かってくれます!」
「……時々話してたの?」
「口の減らない奴だなぁ…お前はマジで」
「えへへ……」
「…………それで、じゃあ凛以外の奴でバンド組むってこと?」
『その通り』
「いや……確かに、俺と星畑と、あと確か天知さんも楽器はできるし、奇跡的にレパートリーも被ってないけどさ。姫月とか陽菜ちゃんは演奏できないだろ?」
ちなみに黒川はギター、星畑はベース、天知はピアノを弾くことができる。
「は?私はボーカル一択でしょ?」
「……お前、歌上手いの?」
「………上手いわよ」
「あんま歌とか歌うイメージ無いんだけど」
「はい……私も聞いたことないです。合唱コンクールも腕を組んで立ってるだけでしたし。ようやく口を開けたと思ったら大あくびで……しびれましたね」
相変わらず姫月に呆れてるのかと思いきや、リスペクトを示す凛。当の姫月本人も、相変わらず自信たっぷりに胸を張る。
「歌とかあんま歌ったことないし、興味もないけど、まあ、私なら上手いでしょ?」
「…………どっか来るんだよその自信は……ま、こいつにそれ言うのは今更感があるけど」
やれやれと言ったリアクションを取る星畑だが、反対に黒川は真面目な顔で姫月を立てる。
「聞かない以上評価はできないけど、声質自体は綺麗だし、結構いい歌声出せると思うけどな」
「おお……プロのお墨付きだね」
「じゃあ、私も歌うたう」
「陽菜ちゃんも?」
「はあ?……アンタが入ったらお遊戯界になっちゃうわよ」
「ヒナちゃんはお歌お上手なんですか?」
「あんまり自信ないけど、でもレッスンは受けたことあるよ?」
「…………ボーカル二人に、ギターとベースとキーボード……ドラムいねえな」
「いいんじゃねえの?ドラムのいないバンドだっているんだし」
「そういうバンドでもライブとかレコーディングではサポート呼んだりしてるんだよ。リズム隊だからドラムのないロックは滅多にないよ」
「ベースあるんだしいいだろうがよ」
「ねえねえバンド名はどうするの?」
ウキウキと陽菜が尋ねる。そりゃノンシュガーズじゃないと返す前に、Uからノンシュガーズが使うなと釘を刺される。
『あれはあくまで、この撮影を行っているという体のチーム名でフォーマルなモノじゃない。その用語を放送内でも平然と使う行為は危険だ』
「そっか」
「んじゃ、バシッと姫月が決めろよ」
「そうね。姫月レミナと……」
「その路線は無しな」
「ああ?……何よ、私に決めて欲しいんじゃないの?」
「60年代じゃねえんだからそんなバンド名はヤダよ」
姫月に睨まれ委縮しながらも、黒川は彼女の案をバッサリ切り捨てる。星畑がそれに合わせて代替案を出してくる。
「こういうのはもっとシンプルで飾り気がないものがいいんだよ。例えば、天知さん昨日晩飯何喰いました?」
「え?……え~っと……陽菜ちゃん姫ちゃんと一緒に餃子焼いて食べたけど?」
「よし!バンド名は焼き餃子だ」
「どこがよし!だよ」
「ダメか……じゃあ、陽菜、お前が一番好きな中華料理ってなんだ?」
「え?……餃子」
「よし!バンド名は焼き餃子だ」
「…………食べ物だからおかしくなるんだよ……天知さん、一番好きな動物は?」
「え?う~ん……秋田犬かな?」
「……………なかなかいいのが出ねえな」
「ハハハごめんね。僕の好みが微妙なモノばかりで」
「いやいやいや……」
「ていうか何で天知なのよ。私のバンドなんだから私に聞くのが筋ってもんじゃないの!?」
「いや……お前に聞いた結果が姫月恵美子とその下僕たちだったんじゃん」
「レミナ!」
「どっちでもええわ」
「姫ちゃんは好きな動物いないの?」
「ん~?……いないけど」
すかさず質問をする天知だが、姫月の反応は渋い…というか相変わらず返答が薄い。フォローを入れるように陽菜が質問をかぶせる。
「じゃあ好きな植物は?」
「………果肉」
「…………最近は何の植物を買ったの?」
「サンスベリア」
「よし、じゃそれで」
ようやくそれらしい名前が出て、星畑が即決する。他のメンバーも特に意義を出さなかったのでそのまま決まったが、部外者である凛は不服そうである。
「ええ~………あんましかっこよくない……」
「……じゃあお前はどんな名前にしたいんだ?絶対採用しないと思うけど聞いてやるよ」
「キリングサウンドでしょ」
「レコード屋みてえな名前」
「えっと……そんなじゃなくて……顔のいいメンバーばかりが集まってるのでもっとビジュアル的な…植物要素も併せて……月下美人~薄命~とかどうです!?」
「グループ名にサブタイついてんの初めて見たよ」
「……月下美人はステキな花だけどね」
「勝手に寿命短くしてんじゃねえよ。バンド名として不吉すぎるだろ……まあ、イベント限定のバンドなんだけれども」
「やっぱアンタ外して良かったわ」
「………うう…自信あったのに」
方々から散々な評価を受ける凛の案だったが、唯一陽菜だけが明るい意見を出す。
「でも、私はさるすべりあより、月下美人の方がいいと思うけどな。月って、エミちゃんの名前も付いてるし」
「確かにまあ、そこはいいんだよな。漢字四字だし…問題は薄命だよ」
「え?それもバンド名だったの?」
陽菜がきょとんとする。その横で、姫月がどうでもよさそうに言う。
「………ちなみに私もサンスベリアより月下美人のが好きよ?」
「え!?……え!?」
ぽつぽつとメンバーから漏れだす肯定的な意見に嬉しそうな反応を見せる凛。その様子をほほえましそうに見つめながら、天知が話を〆る。
「……それじゃ、月下美人で決定にしようか?…凛ちゃんだって立派なグループの一員なわけなんだしね」
3
バンド名が決定したところで、申請をしようとするが、星畑から「本当に姫月がボーカルでいいのか、テストした方がいいんじゃねえの?」と言われ、とりあえずカラオケに向かうことにした暫定月下美人のメンバーたち。もう日も暮れそうなタイミングでカラオケという特異なシチュレーションである。凛も当たり前のように混ざろうとしたが、仮にも敵組織ということで姫月によって追い出された。
「ハハハ……カラオケなんて久しぶりだよ」
カラオケボックス内で一息つきながら天知が苦笑する。ドリンクバーのジュースをがぶ飲みしながら姫
月がシレっと言う。
「そんなこと言ったら、私始めて来たわよ」
「……まあ、お前はそうだろうな」
「私も、ちょっと前にお母さんとお姉ちゃんと来ただけかなぁ。お兄ちゃんはやっぱり良く来るの?」
「………ははは…ヒトカラなら数えきれんよ」
「大地さんって何歌うの?」
「何も歌わないよ?私たちが歌ってるの聞いてるの」
雑談をしていると、突然背後からジャジャーンと爆音がする。姫月がタブレットをいじくって勝手に何かを送信したのだ。
「……な、何やってんの?もう歌うの?」
「知らない。何か勝手に鳴った」
「………『異邦人』……どうやって入れたんだよ」
「黒川お前これ歌えるだろ。どうせだし、お前から歌えよ」
「え?……えっと姫月いい?」
「そもそも私この歌知らないし」
とりあえず言われるまま、熱唱する黒川。流石の実力を見せるが、もうお馴染みの為か感想は薄い。それよりも、姫月が何を歌うのか、どんなお手前なのかに全員興味津々である。
「まあ、黒川君はどれだけ上手くてもボーカルできないしねえ」
「エミちゃんって何を歌えるの?」
「ん~………ないかも」
「一曲くらいあるだろ……」
「エミちゃんが歌えないなら、私歌っていい?」
「陽菜ちゃんは何歌うの?やっぱりドリカム?」
「うん……ちょっと恥ずかしいけど……」
両手でマイクを握って、若干縮こまりながら陽菜が「大阪LOVER」を歌う。天使のような歌声を期待していた黒川だったが、予想に反して陽菜の歌声はあくまで等身大に子どもならではの必死なものだった。歌っている姿は可愛かったが、お世辞にも上手いとは言えない。
「アンタ下手ね」
「う……ドリカムは難しいんだもん」
「喉がまだ開いてない感じがするのと、あとやっぱり歌い慣れてないね。もうちょっと自然に歌ったらもっと上手くなるよ」
「フフフ……ありがとうお兄ちゃん」
続いても間を持たせるために星畑が「ダンシングオールナイト」を歌う。サ行を全て甘噛みの状態で歌う悪い方向で癖の強い歌い方に、陽菜は大笑いするが姫月と黒川の反応は薄い。
「………アンタも下手ね」
「お前、ギャグに逃げんなよ」
「いいじゃん…俺はもともとボーカル要因じゃないんだし」
「それより、姫ちゃんは歌う曲決まった?」
「まだ……それより天知歌いなさいよ」
「まいったな……僕も決してうまかないんだけど」
天知も恥ずかしそうに、玉置浩二の「メロディ」を歌う。普通に上手い。大地や凛が居れば大いにはしゃぎそうな惚れ惚れする歌いっぷりだった。
「天知さん、渋くていい声ですね」
「天知さんの世代ってやっぱもろにカラオケ世代だから上手いんだよな。ラヴさんも上手かったし」
「………ねえ、黒川。アンタの歌ってた『ずっと夢を見て~』ってなんて歌だっけ?」
「あ……『デイ・ドリーム・ビリーバー』?…歌えんの?」
「多分……入れて」
「おお~……ついに姫ちゃんが歌うんだね」
「楽しみ」
メンバー全員が期待と好奇の視線を寄せる中、マイクテストもせずに姫月がボケっと画面の前に突っ立っている。
「………………………」
「………………………」
「…………………」
「…………………」
「……姫月?はじまってるけど」
全員がずっこけながら姫月に声をかけるが、彼女は別段気まずそうにもせず眉を顰める。
「ここ……どんなだっけ?」
「歌えないのかよ……」
「サビ以外黒川が歌ったら?」
「そうね……思い出したら私が歌うから」
「ええ~……言ってるうちにもうサビだけど」
仕方なく、言われた通りにマイクなしで歌う黒川。それを聞いてようやくメロディを思い出した様子の姫月が首で雑にリズムに乗り、二番のBメロでようやく声を出し始める。
「!!」
黒川は仰天した。姫月が突然歌いだしたことにも驚いたが、何よりその声のデカさに驚いた。初めてマイクを握って歌っているとは思えないほど、その声はハキハキと通っていて、態度も堂々としていた。比べるわけではないが、丁度先ほどの陽菜の歌唱と真反対である。歌唱力は決して高くなく、粗も多いがそれだけでかなり良く聞こえる。何より、早くも曲を自分のモノにしていた。
(ちょっとドスの利いた声だな……時々声が上ずってるけど、不快に感じないのは元の声質が良いからだな……でも、ちょっと音域が狭いかも……音の高低が激しい歌は歌えないかもな)
早速、あれこれ分析する黒川だが、この時点でこのバンドのボーカルは彼女しかいないと確信を持っていた。美貌もあるが、自信たっぷり堂々と歌う姿に黒川自身かなり惚れ込んだ。
「ん……終わった。上手だったでしょ?私。黒川越え」
「………姫ちゃん初めてなんだよね?……相変わらず器用にこなすなあ」
「エミちゃんかっこいい!」
他のメンバーも大方同意見らしく、それぞれに明るい反応を示す。姫月はそれを気持ちよさそうに聞きながら、次の歌を探していた。どうもカラオケ自体にハマりかけているようである。
「どうよ黒川?姫月はよさげ?」
「え?…ああ、かなりいいだろ。個性的って点では俺なんかより全然。もうちょっと数歌って、完璧に歌える歌作ったら十分になると思うけど」
「アンタごときに何でそこまで偉そうに評されなきゃいけないのか分からないけど……まあ、当然よね」
(………かなり謙遜したつもりだったんだけどな)
「…………まあ、でも黒川くんのお墨付きも出たことだし、ボーカルは姫ちゃんかな?」
「あ~……いいんじゃないっすか?本人も歌うのが………気持よくなってるっぽいし!!」
バンド結成に向けてのミーティングをさえぎるように鳴り響く姫月が入れた曲のイントロに、声のトーンを3つほど上げて、一同異論無しを確認し合う。
「じゃ!俺が!!……ベースで!!黒川が!ギター!!……お前、歌わなくていいの!?こう…宇宙的に!!」
「まあ!!大丈夫だろ!!……で、天知さんがキーボードで!!……姫月がボーカル!!……陽菜ちゃんは!?」
「さあ!?……リコーダーでも吹いてもらえば!?」
「ええ……ポリシックスでもたまでもねえんだけどな」
「今、必要なのはドラムだよね!?」
「いやいや……陽菜ちゃんドラム叩けないでしょ!!」
「まあ!!ジェームス小野田ってもらえばいいんじゃね!?」
「そうだな!!それだけで許されるだろ!!可愛いし!!」
勝手に随分と無茶な役割を担われる陽菜。その陽菜はと言えば、姫月が歌っているのを楽しそうに眺めている。
「でも!!それはそれとしてドラムはどうすんだよ!!」
「無しで行くか!?」
「それは冒険しすぎだろ!リズム取れなくなっちゃうぞ!!」
「じゃ、外部委託?」
「そうなるのかな?……天知さんドラムできる知り合いっています?」
「ん~……いないかも」
「そう簡単にはいかないですよね!!仮にいたとしてもこんないきなりバンド組むなんてねえ」
「あ……俺いる」
「ん?……星畑なんか言った?」
「おお……それこそ俺が混ぜてもらってる先輩のバンドでドラムやってたのがさぁ」
星畑が当てのようなことを言っているが、カラオケの音で良く聞こえない、オマケに歌い終えた姫月が伴奏を背にマイク越しで怒鳴ってくる。
「ちょっと!!アンタらこの私の歌を無視するとはいい度胸じゃない!!」
「………真面目な話してるんだよ!お前こそちょっと静かにしろ!!」
「まじめな話ぃ~?私が歌うたって、アンタらが横でピーヒャラやるだけでしょ?何をまだ決めることがあるのよ」
「色々あるだろ!ドラムがいないし!それに、陽菜ちゃんだって!ステージでどんなパフォーマンスするかとかさ」
「そっか……私、リコーダーならちょっとできるけど」
だからそれじゃ、ポリシックスかたまだよ…と黒川が苦笑する前に、姫月がバッサリ切り捨てる。
「冗談じゃないわよ。学芸会じゃないんだから」
「う……じゃあ、ヒナは何すればいいの?」
「何するって……客席で見てりゃいいじゃない。さっきみたいに」
「……そんなのバンドに入ってるって言わないよ……もっと真剣に」
真剣に考えてよ…と言いかける陽菜の言葉をまたもや真顔でバッサリ切る姫月。
「は?アンタいつ私のバンドに入ったのよ。誰も入れるなんて言ってないじゃない」
「へ?」
「え?」
「あ?」
「ええ……」
姫月のまさかの発言に凍り付く陽菜と絶句するその他メンバーたち。黒川がまたこじれさせる気かこいつとばかりに頭を掻きながら、姫月に説明する。
「あのなぁ……番組の企画でノンシュガーズメンバーでバンドやるって言ってただろ?陽菜ちゃんだってメンバーだろうが。少なくとも、お前以外全員陽菜ちゃんをメンバーに入れてる前提で話してたっつーの」
「はあ?……そんなの凛が抜けてる時点で終わった話じゃない。それに!私が聞いたのは、この大会でいい成績を残せっていう宇宙人のうざい命令よ!いつもの仲良しお出かけ気分でできる仕事じゃないの!楽器もできない小学生入れて勝ち上がれるわけないじゃない!!」
心底あきれ果て、嗜めようとした相手にまさかの正論を突き付けられてしまう。というより、姫月は時折こういう芯を食ったことをズケズケと言ってくるのである。思わず「そっか、ごめん」と頭を下げそうになる黒川だが、目の前で心配そうにお兄ちゃんとエミちゃんを交互に見ている陽菜を見捨てるわけにはいかない。
「いや……でも、そりゃ…俺らだって全力でやるよ?…でも、そもそもここの全員がバンド初心者なわけだし、お前だって下手すりゃ陽菜ちゃんより場慣れしてないじゃんか。いきなりそんな高みを目指すんじゃなくてさ…みんなで成長していけば…陽菜ちゃんはただの小学生じゃないんだし」
「……………チッ………アンタみたいなのが一番ムカつくのよ…凛じゃなくてアンタがあのノッポたちのバンドに残れば良かったんじゃない?」
しばらく黒川を睨んだ後でそう吐き捨てる姫月。もうデンモクを握ろうともしない。空気が死ぬほど悪くなりそうな中で堂々と星畑が意見を言う。
「黒川、お前な。姫月に真面目にやってほしくないのか欲しいのかはっきりしとけよ?正しいこと言ってんのは姫月なんだし。少なくとも今のは、足引っ張る発言だぞ。あと二週間も猶予がねえのに、みんなでゆっくり成長って言ってられねえだろ」
「ゆ、ゆっくりとは言ってないじゃん!…それに、俺は別に、なあなあでやろうとしてるわけじゃ」
「分かってるけど、今の言い方は良くなかっただろ。姫月はマジで勝つ気でいるんだぞ。まあ、正直こいつのスキル考えたら甘く見てるとしか言えねえけど…それでもこいつなりにバンドをいい方向に引っ張ろうとしてるんだからさ」
「……そういうことよ。ヒナは除名……とにかくこれは絶対」
「え?……え?……ちょっと待ってよ……たしかに…何にもできないけど……練習するから…練習」
「練習しようと一緒よ。そういう問題じゃないの」
「ええ…………え…な、なんで……そんなこと……いじわる……なんで…なん…」
陽菜がオロオロと取り乱し、そのままスカートのすそをギュッと握りしめて目を潤ませる。星畑が大慌てでフォローを入れる。
「ちょ!?…待て待て!!俺は姫月の意見に全部賛成なわけじゃねえぞ!?黒川の『陽菜はただの小学生じゃない』って点には大いに同意するし!!陽菜がバンドに居ても全然いいし!!」
星畑のおぼつかないフォローも間に合わず、黒川がもごもごしているうちに陽菜は本格的に泣き出してしまった。姫月が「泣くなら帰れば?」となおも追い打ちをするので、黒川が流石に咎める。
「お前!あんまりひどいこと言うなって!もうちょっと話し合おうぜ?時間はないけど、そんなににべもなく切り捨てなきゃいかんほどは切羽詰まってないんだし!」
「ひどいことって……別に私はこいつが憎くて言ってるわけじゃないけど?……でも、ほら、シンプルにいらないじゃない?」
「だあああああ!!それだよ!!もうちょっと言葉選べこのバカ!!」
「……エミちゃんのばかぁ…ヒナだって…ヒナだってちーむなのに…みんないいって言ってるのに…なんでエミちゃんだけぇ…うううう~」
ぐずる陽菜に姫月がハア~と深い溜息を吐き、しゃがんで目線を合わせる。姫月の顔は相変わらずのしかめっ面だが、なんだか困っているような、参っているような、そんなニュアンスを感じる。少なくとも、怒気はあまり見られない。
「アンタさぁ……私がモデルのオーディション落ちた時、散々貶してくれたわよねぇ。あんときの自分の言葉忘れたわけ?」
「ぅえ?」
「『真剣にやってない~』だの『もっと真面目にやってたら~』だの……この私の実力も大して分かってないくせに偉そうに……そのくせ、今回は『仲間外れはイヤ~』ってダダこねるわけ?私は真剣にやって真面目に考えた結果!アンタがいらないって言ってんのよ!?」
「あう………」
「……ただでさえ今回は組みたくもないチーム組んで出なきゃダメなのよ?どれだけ私が余りあるオーラで圧倒しても、あそこのなあなあ黒川がギターミスったらそれだけでパアになるのよ!?そんなリスクしょってんだから、多少シビアにもなるわよ!私だって!!」
(……そう言われるとプレッシャーで死にそうになるから、やめて欲しいなあ)
「ヒナは全力でやるって言ってるぜ?パーカッションとか…めっちゃ練習すればモノにできる可能性もあると思うけど」
「バカ……そもそも私は楽器できないからいらないって言ってんじゃないのよ?いい?アンタら想像して見なさい…アンタらが楽器持ってて立ってるでしょ?それで中央にマイク持った私が居て、歌うたってるでしょ?………そこにまあ、何でもいいけど…なんかやってるヒナを入れたらどうなる?」
「……………まあ、歪だけどさ」
「私がステージの上でどれだけ客を魅了しても横に小学生が居て、ましてそいつがメンバーとか言ってたら私のカリスマ力が半減するでしょうが!」
「…………確かに……バンド色ってのは大事だよな」
「それこそ……東京事変の中に…たまの石坂浩二が居てもって話か……」
姫月の意見はぐうの音も出ないほど芯を食っている。陽菜も泣くのをやめて、困ったような拗ねたような、そんな顔をしている。ここで、沈黙を貫いていた天知が手を上げる。
「……姫ちゃん、ちょっといいかな?」
「何よ?言っとくけど、意見を変える気はないわよ?」
「いや……正直、宇宙人が指定してるわけじゃないなら、僕も姫ちゃんの意見に賛成だよ。そうじゃなくて、その場合……僕もバンドに居たら浮く存在になるんじゃない?…と思って」
「ええ……いや、天知さんは大丈夫でしょ」
話がこじれるぜ…と黒川が笑ってすまそうとするが、姫月は神妙な顔で頷く。
「そうなのよ。天知はどれだけ若作りしたってどうしても歳食ってるし…それに、私より明らかに背が高い奴をステージに置きたくないわ」
「……おいおい……まあ~……でも……そうか」
あんまりな言い分になおも焦る黒川だが、天知は何気にすることなく大きく頷いている。それだけ彼女と同じく真剣にバンドを考えているのか、はたまたぶっちゃけやりたくないのか。
「でも…天知は楽器弾けるんでしょ?いなくなったらめんどくさいじゃない」
「キーボード………ねえ」
「厳密にはピアノだけどね。キーボードは弾いたことないよ。そんなに変わらないとは思うけど」
4人で何を提案することもなく、ジッと黙って考えている時間が流れるが、まだ少し涙ぐんでいる陽菜がボソッと呟く。
「ピアノなら……お姉ちゃんも弾けるよ?……私は無理だけど」
「あ!ルナ!……そうね。アイツならビジュアル的にもまあいけるでしょ。ガキだけど、ガキ臭くないし」
「凛ちゃんより背ぇ高いもんな。でもやってくれんのか?」
「………多分……今、夏休みだし」
「俳優の仕事はいいのかい?」
「今はあんまり入ってないと思うよ?」
「うん……いいアイデアだわ。天知抜いてルナ入れましょ。決定ね。あと、バンド名も月下美人で決定で」
「俺らはそれでもいいけど……いいのか?番組的に……あ、あと天知さんもいいんですか?」
「ん?ぶっちゃけ僕は自信もなかったし、若者だけでやるに越したことないから十分だよ。多分、演奏者の中じゃ一番下手だろうし、最年長がそれは気まずいなあって思ってたんだよね」
「じゃあ、早速ルナにアポとるわよ。まあ、断ったら妹の命は無いって脅せばイケるでしょ」
「頼むからこれ以上波風を立てるな」
姫月の大胆な采配で何と二名のメンバーが引き抜かれることになった。そのうえ、宇宙人にも周知の存在とはいえ部外者ともいえる人間を招いている始末。電話で確認を取ったところ、ルナからOKが出た上に、何と友人のコネを使ってスタジオまで恵んでくれた。黒川らは若干の申し訳なさと、有難みを憶えながら月下美人を結成すべく、集合場所であるスタジオに向かった。夜が遅いこともあり、メンバーから抜けた天知と陽菜とはここで別れることになった。
カラオケから出て、帰り道。二人きりになった天知と陽菜はしばらく会話もなく二人並んで歩いていたが、突然街灯に照らされてまるでスポットを当てられたような状態の陽菜が、反対に服装も相まって闇に消えてしまいそうな天知に声をかける。
「…………天知さん、バンド良かったの?」
「え?…………う、うん……まあ」
「そっか」
「……陽菜ちゃんはその……残念…じゃなくて……えっと」
「大丈夫……分かってるから……最初は分かってなかったけど、今は分かってるから」
「…………う、うん」
「私、最初は仲間外れにされたと思ったの。だから悲しかったし、泣いたし、エミちゃんを嫌いになりかけた。でも違った。私は仲間外れにされたんじゃなくって…仕事に…そう、オーディションに落ちちゃったんだ」
「そう………だね。うん。そういうことになるのかな?……まあ、でも仕方ないことだよ。理由が理由だし。ホラ、以前仁丹ランドのジェットコースターに乗れなかったのと同じさ」
「うん……でも、悔しい」
「悔しい?」
「うん……ヒナ、オーディション落ちたの初めてだから……だから悔しい」
「……そっか……すごいね」
「すっごく悔しい」
陽菜の声が震える。感極まっているのである。そこからまた歩き出して、しばらく無言。そして、陽菜の家、つまりは岩下宅の付近を通ったとき、陽菜はJINTAN CALLINGが終わるまでは家に帰ろっかなとポツリと呟く。その時に、天知がうんと頷いて、しかし意見は全く違ったモノを出す。
「………陽菜ちゃん。僕もね。個人的に色々調べたんだ。今回の……音楽の大会のこと」
「うん……」
「あの……一生懸命なみんなには悪いけど、そこまで大規模のモノじゃなくてね。放送もテレビじゃなくって、ネット放送らしいし……しかもロックバンドだけじゃなくて、老人ホームのハンドベルとか、婦人会のウクレレとか…地元校の軽音部とか…そういうすごく地域密着系の人たちも参加するみたいなんだよ」
「?……うん」
「だからさ。いっそ僕ら二人で出てみないかい?件の大会」
「!!」
「…これは僕個人の見解だけどね。陽菜ちゃんは…今回の場合はオーディションに落ちたというより、番組の脚本の被害に遭ったと言えるね。姫ちゃんは正論を言っていたけど、そもそも急すぎるし、このチーム自体音楽を主体にしたものじゃないのに、楽器を演奏できないとか言われても仕様がないし。だからね。姫ちゃんも誰も悪いとか責任とかはないけど、宇宙人は相変わらず思い付きで勝手なことを強いてきてるよ」
「で、でも……そういう番組でしょ?無茶なことをするっていうのも…企画の一つ」
「うん……だから、僕もちょっと保守的な姿勢は取っ払おうと思ってね。いっそ、僕らは僕らで全力で乗ってみないかな?…と思って」
「天知さんと………二人で?」
「うん……もちろん、他に誰かいるなら、全然入れてもいいけれど」
「…………………ううん。二人がいい……うん!二人がいい!!やろ!!天知さん!!」
「うん。優勝とまではいかなくても、僕らを追放した姫ちゃんを追い抜くくらいの勢いで行こうじゃないか。星畑くんたちも言ってたけど、僕は陽菜ちゃんにはそれができるポテンシャルが十分すぎるくらいあると思うよ?」
「うん……そうだね。これは……凛ちゃんと、エミちゃんと…私の……三つ巴の戦争だね」
「そ、そこまで物騒でもないと思うけど」
「ううん!……そこまで物騒です!!これは勝負だよ!ヒナは少々本気を出します!!」
一気にガッツを取り戻した陽菜が夜空に拳を突き上げて、そう高らかに宣言した。
4
どことなく奇妙な話ではあるが、陽菜の大いなる宣言のすぐ裏手にある岩下宅では、特別に許可をもらった瑠奈が玄関先まで迎えに来た黒川らと合流していた。夏休み中もあって娘の急な外出に関しては何も気にしていない母の大地だが、一連の流れには不服そうである。
「フム……それで、ヒナさんを省いてルナさんに取り換えると…随分都合よくうちの娘を扱ってくれるものですね」
「ハハ……すいません」
「もお!お母さん!変ないちゃもんつけないでよ!……ヒナは子どもだし楽器弾けないしでお役御免になるのは当然でしょ!?」
「………天知さんまでリストラするとは何事です」ボソッ
(絶対こっちが本命のクレームだな)
「ちょっと!!そんなしょうもないのに構ってる暇はないわよ!!準備できたらさっさと行くわよ!」
姫月の号令で、慌てて夜の街に繰り出す月下美人のメンバーたち。瑠奈が話を受けて早速用意してくれたスタジオは驚くことに、地下の駐車場に作られた特設のものだった。知り合いのモデルが貸してくれたものだと言うが、それにしたってアマチュアバンドが使うとは思えないほど立派である。
電車で6駅という長距離移動に苛立っていた姫月もすぐに機嫌を直し、据え置きのソファに寝転がる。
「すげえ~……これどういうスタジオ?……どういう知り合いから譲ってもらったんだよ」
上京したての若者のようにキョロキョロとガレージを見回す黒川。その横で、早くもキーボードをポロポロ鳴らしながら、瑠奈がはにかむ。
「へへへへ……子役学校時代の同級です……親がすっげえ金持ちのボンボンで、別荘にこんなもん用意してたんですよ!遊びのバンドでろくすっぽ使いもしないくせに!」
「………道理で……いい楽器揃ってんのにほとんど新品同然なんだな……このチューナーとか使った形跡もねえじゃん……」
「で……お姉ちゃんは何でその別荘の合鍵まで持って借りれるわけなんだよ?」
「え~っと…………それは~……ですね」
「そのボンボンとできてんでしょ?」
「ええ!?」
シレっととんでもないことを言う姫月に驚く黒川。星畑は「まさか」という顔で鼻で笑ったが、瑠奈の顔は何ともバツが悪そうで、図星のように見える。
「ち、違っ!……うう~……別に違わないですけど~…でも昔!マジで昔の話です!!もう一年以上も前で…互いに子どもだったし、付き合うもくそもないころだし……そん時によくここで遊んでたんですよ…別れてからも鍵を没収されてなくて……」
「え!?じゃあ勝手に入ってんの!?」
「まさか!!許可は貰ってますよ!?」
「……別れたのに?」
「………へへへ……どうも復縁を狙ってるらしくて……わりかし言うこと聞いてくれるんですよね」
「魔性の女だ」
「いい金蔓ね。今度私にも紹介しなさいよ。こんな良い色のヴィンテージソファ……ガキにはもったいないわ」
「…………瑠奈よ……そのボンボン、いくつだよ?…一年前ってお前小6か中一だろ?同年代の男がバンドやりたがるってのは変じゃねえ?」
「へ、変な勘繰りしないでください!!……えっと、3つ上です……相手は中3でしたね」
「……ん~……まあ、セーフか」
「マジで変なことはしてませんから!!あ、でも!お母さんにはここ使ってること内緒にしててくださいね!!付き合ってるとき、明らかに不服そうでしたし…アイツのことめっちゃ嫌ってそうだったし!」
(………姉妹共々変な男に引っかかるんだなぁ)
なんだかんだあれど、自由にできるスタジオと楽器が与えられたのは有難い。立派なドラムセットの前で感嘆を吐きながら、黒川が今更重大なことを思い出す。
「あ!……そういやドラムは結局どうすんの!?」
「ああ……用意しといたぜ?もうすぐ届くだろ?」
「え?……いや準備イイなっていうのを通り越して怖いわ。そんな速達で届くもんじゃねえだろドラムスって」
「アレ?言ってなかったっけ?俺の混ぜてもらってる芸人のバンドからドラム用意するって」
「はあ!?聞いてないわよ!?……お笑い芸人なんてアンタ以外もっさいコオロギ食ってそうなおっさんばっかでしょ!?それなら天知やヒナのが万倍マシだっての!!」
「コオロギはねえだろ……まあでも、実際そうだろ?来たとて、あの三国志の人みたいのが来ても」
「いや……無断で呼んだのは悪かったけど…そんなにおっさんでも容姿悪くもねえよ。まあ、コオロギ食ってるかもしれないけど…ホラ、黒川は会ったことあるだろ?」
星畑が名前を言いかけた瞬間に、超タイムリーに別荘のドアがノックされる。「来たかな?」と星畑が出迎えていき、しばらくしてドラムス予定者と共に降りてきた、星畑の背からひょこっと顔を出し、目があった黒川がアッ!と声を出す。
「鎌田君!?……ドラムって鎌田君だったの!?」
「おお……まだコンビ組んでた時代に始まったバンドだからな」
「マイッカーズのチンドンボーヤとは僕のこと!……久しぶり黒川くん!」
ニコッと小さな口にえくぼを作って爽やかに片手を上げる鎌田。昔、星畑がコンビを組んでいた時代の相方で、かなりオツムが弱いが気のいい好青年である。瑠奈を除く、他メンバーと同年代である上に、簡単な女装で男共を虜にしてしまうほど、中世的で整った外見の持ち主であり、姫月もマジマジとにらみつけるように品定めした後に、「ん」とだけ言ってソファに戻った。合格である。
「……………………………(ゴクリ)」
まだ挨拶もそこそこで、状況すらわかっていない…話足りない状態の鎌田ではあったが、突如至近距離にとんでもない美人が現れて、息を止める。そして、大きく喉を鳴らして、ダッシュで黒川のもとに飛び込み、耳打ちしてくる。
(だ、誰!?誰!?モデル!?芸能人!?……ドラム叩けってのは何かの隠語だったわけ!?)
「そ、そんなわけないから……落ち着いて……一時的にバンド組むってのは知ってる?アレはそれのボーカル。姫月っていうの」
「………ねえルナ。アイツ、今私のことアレ呼ばわりしなかった?」
「え?アハハ~……さあ?どうでしょ?………あ、ドラムで入ってくださる方ですよね?私、岩下瑠奈って言います。キーボードです!よろしくお願いします!!」
笑顔でぺこりと頭を下げる瑠奈に、その3倍の回数、頭を激しく下げる鎌田。
(あ、あの子も……かわいいね……マイッカーズの100倍やる気沸いてくるよ……)
「一応言っとくけど……姫月はともかく瑠奈ちゃんは中学生だからな」
「ていうかお前も早く名乗れよブリ」
「ブリ?」
ぺーんと星畑に頭をはたかれて、鎌田が屈託のない笑顔で握手を求めつつ自己紹介をする。瑠奈にも姫月にも握手は無視されたが、それでもご機嫌そうである。
「えーと……鎌田さん?……は、昔星さんの相方だったんですか?」
「うん。その時の僕の芸名がブリ釜でシバちゃんが司馬楽っていうの……二人で大破廉恥」
「へえ~…凄い名前ですね…そういえばこのバンドの名前は決まってるんですか?」
「月下美人……っていう名前で…一応」
「あ、カッコいいかも!」
「な、名前にそぐわない美女っぷりだもんね……ふへ、へへへへへ」
凛のような引き笑いで、チラチラとソファの上の姫月を気にする鎌田だが、肝心の美人は寝息を立てて優雅に眠っている。4人は顔を見合わせて、一先ずJINTAN CALLINGのHPに参加の申請をすることにして、本格的な活動は明日に据えることにした。
5
翌日の午前中、約束通り集まった凛と眼前、まみるのコンビ。本来ならそこに黒川も混じっているはずなのだが、知っての通り引き抜きにあい、不在である。既に昨日のうちに凛から聞かされ、大まかではあるが事情も呑み込んでくれている二人だが、イレギュラーな事態には参っている様子である。
「困ったね。こんなことならば、昨日の練習で黒川くんをボーカルに据えることは無かったんだが」
「すいません……」
「須田凛はもちろん、事情が事情なのだから黒川が責任を感じる必要はないが……もっとも手ごたえを感じたのは彼のボーカルでやったときだ。眼前くんは言うまでも無く、僕も歌はできないし、かと言って須田凛はギターと歌を同時に熟すのはまだ不可能!……どうしたものだろうね」
「……………」(五里霧中……という顔)
「あ……そのことなんですけど……ぶっちゃけ黒川さんがいないなら、私たちメンツにこだわる必要もないんじゃないかと思いまして……いっそ、今回はもう少しフレッシュな…お祭り気分での参加に切り替えてみませんか?」
「というと?」
「今回は……えっと、これから先、黒川さんも交えてやっていくバンドとしてじゃなくて、あくまで臨時の…今回限りの別なバンドって体でやってみるっていうこと……です!」
「………ま、まあ…心構えとしてはありだが…正直、どっちでも現状は変わらないんじゃないか?」
「あ、えと……実は…臨時でっていう条件だったら、ボーカルをやってくださる当てが付いてるんです。お二人とも面識がある方なので……相談もせずに飛び入りで来てもらっちゃってるんですけど」
6
JINTAN CALLINGの参加者募集日ラスト。そんなギリギリに突如として三件の新たなバンドが申請書と共に参加の意を表明した。即座に、わりとガラガラだった出演者に加えられ、JINTAN CALLINGは一週間後に控える本番の日を待つのみになったのである。
エントリーNo.34 月下美人
メンバー…姫月レミナ(Vol)
黒川響(Gt)
星畑恒輝(Ba)
岩下瑠奈(Key)
鎌田ブリトニー優(Dr)
音楽形式…J-POP・ロック
影響を受けたアーティスト…フレーミング・リップス
モダン・チョキチョキズ
何をとは言わないが2回目以降の岡村靖幸
コメント…レミナのレの字はレジスタンスのレ
エントリーNo.35 タキシードねこ
メンバー…岩下陽菜 (うた)
天知九 (ばんそう)
音楽形式…独唱
影響を受けたアーティスト…特になし
コメント…がんばります。本気でがんばります。
エントリーNo.36 火星魔
メンバー…死後魔リア(Vol)
凛死体ケン(Gt)
死奈場モロ(Ba)
死奈場トモ(Dr)
音楽形式……プログレッシブ・メタル、ノイズ・ロック
影響を受けたアーティスト…ボアダムス
人間椅子
ラッシュ
コメント…火星の裏からやって来た。迷い子求めてやって来た。
愛されない子を抱きかかえ、地獄と見まごう火星の裏へ。
我ら火星魔。アナタの味方。キミの死神。
作中でヒナの姉、瑠奈が何かしらアダルトな側面を見せていましたが、実は不良娘とか既に色々経験済みとかそういう不純なアレは無いので安心してください。……まあ、サブもサブのキャラだし、誰も心配してないでしょうが…。