その①「食べ行こうはにかんで行こうコト」
・登場人物紹介
①黒川響 性別:男 年齢:21歳 誕生日:6/25 職業:大学生
本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。
☆好きな肉料理はロースかつ 一口ごとにからしをつけるからしジャンキー
②星畑恒輝 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人
黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。
☆好きな肉料理は回鍋肉 キャベツは芯が無くてくったくたの葉っぱばかりが好。
③須田凛 性別:女 年齢:20歳 誕生日:5/25 職業:大学生
男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。
☆好きな肉料理はステーキ 必ずと言っていいほど途中でもう一回り小さくすればよかったと後悔する
④姫月恵美子 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職
スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。
☆好きな肉料理は焼肉食べ放題 一瞬で肉に飽き、アイスやサイドばかり食べるようになる
⑤天知九 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職
元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。
☆好きな肉料理はもつ煮 誰も見ていないなら汁ごとご飯にぶっかけたい
⑥岩下陽菜 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生
女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。
☆好きな肉料理はすき焼き 夕食がすき焼きになると3時間前からステップを踏み始める
遅くなって申し訳ありません(血涙)
なんか今回は驚くほど筆が進みませんでした。お話は途中で切ってありますが、キチンとまとめますし2万字のノルマも達成してはいます。念のため。
1
陽菜が夏休みに入って3日が経った。今までも何度も寝泊まりしていたはずなのに、陽菜はシェアハウスでの生活がすこぶる楽しいらしく、常に家の中を小走りで移動しては、やることを探し続けていた。
朝、黒川が起きると、もうそこには元気に天知や星畑にコーヒーやジュースを運んでいる陽菜がいた。これも別に珍しい光景ではないのだが、何だかものすごく尊い物のように思えてくる。
「あ、おはようお兄ちゃん。お兄ちゃんもコーヒー飲む?」
「おはよう………いいよ。自分で牛乳飲むから」
「あ……大丈夫。私がやるから……お兄ちゃんは座ってて。アニメでも見てたらいいよ」
「…………い、いや……お構いなく」
制する声も聞かずせっせと牛乳を用意する陽菜に戸惑っていると、先にコーヒーを頂いている天知がそっと声をかけてくる。
「やってもらいなよ。僕らの世話を焼くのが楽しいんだよきっと」
「あ、はい………ありがと陽菜ちゃん」
牛乳を受け取って小さな給仕係に微笑む。陽菜はエプロンで手を拭きながら、じっと黒川の目を見つめる。
「ご一緒に新聞はいかがですか?」
「新聞?………うち取ってないと思うけど」
「ご一緒にどうですか?」
キョロキョロあたりを見ても、新聞らしきものはない。そもそも天知以外世俗に興味がない。その天知も大方をネットニュースで済ませるらしく、ノンシュガーズは誰も新聞を契約していないはずである。しかし、目の前の陽菜はNPCのように同じことを同じ調子で尋ねてくる。
「牛乳のお供に新聞はいかがですか?」
「………………じゃあ……お願いします」
そう言うと、待ってましたと言わんばかりに、ニコッと微笑み。矢継ぎ早にスラスラと喋りだす。
「今日のヒナ新聞のお時間です。良いニュースと悪いニュースとお天気予報と4コマ漫画とミニコーナーとなぞなぞコーナーと今日の怪談のコーナーと占いコーナーと……どの記事から読みますか?」
「!?………えっと……じゃあ天気予報」
ヒナ新聞なるもののリストが電話の自動受付のように凄まじいスピードで流れていく。とりあえず無難に天気予報を選ぶと、陽菜は勢いよく窓まで走っていく。そして窓を開けてあたりを見まわし、再び黒川のもとに帰ってくる。
「……今日は快晴です。サイクリング日和ですね」
「あ、どうも……目視確認なんだ」
「……午後から一雨来るみたいだからあまり遠くまではいけないかもね。サイクリング」
スマホで天気予報を調べていたらしい天知がヒナ新聞の誤報を訂正する。陽菜はじとっと天知を一睨みし、彼を委縮させてから再度黒川に目を向ける。
「次は?」
「え!?………つ、次!?………じゃ、じゃあ悪いニュース」
「この前やった凛ちゃんの嫌いなモノ古今東西での罰ゲームが執行されて、エミちゃんが凛ちゃんのお部屋を綺麗にしました」
「いい事じゃん。本人には言わないようにしてたけど、あの部屋ちょっと臭かったし……きったねえアーケードの本屋の匂いがしたし」
「………凛ちゃんの大事なCDやお洋服を丸ごとビニール袋に詰めて捨てた手抜き掃除だったようで、凛ちゃんが全て回収したみたいです。結果、袋の中のものが全て散らかってより汚くなりました」
「…………聞いといてなんだけどとんだ三面記事だぜ」
「次は?」
「…………じゃあ良いニュース」
「…………………またニュース?……別にいいけど…」
「…………やっぱ何かミニコーナーにしようかな」
「ミニコーナーですね?………本日のミニコーナーはおすすめの一冊です。私がおすすめする一冊は『くちぶえ番長』……おすすめポイントは」
「あ…重松清の?……読んだ読んだ中学くらいに」
陽菜の好き語りを中断させる空気の読めない男、黒川。陽菜は面白くなさそうな顔で「次は?」と聞いてくる。
「…………他何があったっけ?」
「僕の運勢を教えてくれないかな?」
ダメダメな黒川の代わりに天知がフォローに入る。陽菜は天知の方にお手製のくじを持って行く。
「お!お手製の占いかい?流石陽菜ちゃん凝ってるね。どれどれ」
ニコニコと上機嫌な天知のくじを回り込んんで確認する黒川と陽菜。開かれたくじには真っ赤な文字で「血の池地獄」と書いてあり、天知と二人で雷に打たれる。
「あの、陽菜ちゃん……これは?僕地獄に落ちるの?」
「あ、それはね……赤い色に注意してくださいってこと。これ、地獄占いだから」
「あ、な、なるほど…あくまでモチーフね。良いのか悪いのか分からない結果だな」
「大丈夫。赤い色に注意してれば平気だから。ラッキーカラーはワインレッド。運勢を上げるには献血が良しと出ています」
「何だい赤まみれじゃないか」
「お、俺もその占いしていい?」
「もちろん……はいどうぞ」
「え~っと……火の車地獄か……これは?」
「お兄ちゃんのは交通安全に注意です。今日は車とかに乗らず大人しくするのが吉です。ラッキーカラーは松崎しげるブラック。運勢を上げるにはベンツのエンブレムに頬ずりするのが良しです」
「……このくじ…星っぽい名前の奴と一緒に作ってない?」
「ヒナ新聞の制作背景は企業秘密です」
「あ、そうなんだ……じゃあ、そろそろ良いニュース聞いても良い?」
「あ……良いニュースはね。お母さんが今日、お兄ちゃんの車持ってくるって…もう今日から乗れるんでしょ?」
「あ、今日!?…ああ…すっげえ嬉しいけど先立っての占いが盛り上げる気分を抑え込みやがるぜ!」
「うふふ……いろんなところに私を連れてってね?」
「う、うん(←上ずった声)」
大地から誕生日プレゼントで譲ってもらった車が、遂に本日家まで送られるようである。具体的には大地の新車が岩下宅に到着し、ようやく旧車のお役御免となった故にやってくるだけのため、諸々の手続きはこれからだ。
「21でマイカー持てるなんて夢のようだぜ。俺、こんな恵まれてていいのかね」
「アンタが恵まれてるって聞こえてきたけど……私、まだ目が覚めてないのかしら?」
感慨にふける黒川の背後に寝起きの姫月がやってくる。あいさつ代わりの嫌味を欠伸越しに言ってくる彼女に、小さな新聞少女がすてすてと駆け寄る。
「あ、エミちゃんおはよ……あのね、ヒナ新聞があるんだけど…良いニュースと悪いニュースとお天気と四コマ漫……ああんトイレに行かないでぇ!」
2
同日の夕方。保険云々の手続きを済ませ、遂に黒川はマイカーをゲットする。真っ黒な5人乗りのワーゲンである。運転席に座り、助手席の大地に車のアレコレについて質問をする。
「このボタンがエアコンで……これがステレオの音量か……ここのボタンは何ですか?」
「知りません」
「…………知らないんですか?」
「はい。あ、ここを力強く押すとクラクションが鳴ります」
「はい……流石に分かりますよ」
「ここのレバーを引くと椅子が背後に移動します」
「はい……知ってます。ていうか教習所で一番最初に習いました」
「極めつけはここです。ここをこう下ろすと」
「日光を遮ってくれるんでしょ?」
「はい。ですがそれだけではありません。さらにここをスライドさせると」
「………はい」
「何と鏡が出てきます。ここでお化粧ができてしまいます」
「あ、はい…………カーナビつけたままにしてくれたんですね。有難いですよ」
「はい一応……ただ申し訳ないですがポンコツです」
「え?……そうなんすか?」
「私たち一家をどこにも連れて行ってくれませんでした。瑠奈さんのグーグルマップの方が何倍も高機能です」
「え?……ちょっと使ってみてイイですか?……試しに俺の実家を」
検索画面から郵便番号で検索を使い、番地を入力してさっさと自宅までのルートを割り出す黒川。真っ先に出てきたルートは有料道路を使っているので、そこも下道に切り替える。
ポーン『ルート案内を開始します。到着時刻は19時36分です』
「………別に普通に使えますけど」
「………………………………」
「……ま、まあとにかくありがとうございます」
「はい。黒川さんなら完璧にこの子を使いこなせるでしょう。私は新しい車があるのでお気遣いは無用です」
言いながら、ところどころに擦り傷があるナビ周辺を撫でる。
「今までお疲れさまでした。ナビオさん。私たちの淡路島旅行を急遽徳島県、大歩危峡旅行に変更させたこと…今ではいい思い出ですよ」
(……ナビオも苦労してきたんだな)
3
良いニュースは続くものである。車を貰った次の日に、早くもその出番がやってきたのだ。大学の友人である佐田から勝美さんを誘って県外でやるフェスに行きたいから、凛や星畑を連れて、付いてきてほしいと頼まれたのだ。
「フェスってお前………そんなチケットも取ってないのに行けるもんなの?」
「いやいや……フェスって言っても肉フェスだぜ?」
「肉フェス?」
「そう。肉食いまくるヤツ……だだっ広い場所でやるから別に入場券とかいらんのよ」
「へー……まあ、どっちにしろ。行くのは良いけど……どこでやんの?県外って」
「神座市ってとこのコッペパン山岳公園」
「………大分遠い……ってか辺境だな。電車通ってないだろ?」
「駅からバス出てるらしいけど……それはチケット要るし。まあ、レンタカー借りようよ」
レンタルする必要など無い。黒川は得意げにトントンと自身の胸を叩く。
「何?………パッション屋良?」
「ちげぇよ。俺、車最近貰ったばっか」
「マジで!?……いいなーマイカー……ってか乗っけてくれんの?」
「うん……全然いいよ………乗るの教習所以来だけど」
と、いう具合に車を活かす機会が向こうから降ってくれた。そのままシェアハウスに帰り、凛と星畑に共有する。
「うへへへ……ちょうど勝美さんとも一学期終えたお疲れ会したいってお話してたんです!」
「そりゃ良かった」
「俺も行けると思うぜ……お前の運転する車に乗るの怖ぇけど」
星畑も凛も乗り気のようだが、日にちを聞いて顔が曇る。
「あ………その日は」
「え?用事でもあんの?」
「い、いえ……私じゃなくて星君が……タツノコプロ限定ネタ会があったはずです」
「あ!……そうだっけか!?」
(凛ちゃん、星畑のマネージャーみたいになってんな)
「はい!……うう、私も行きたかったですけど……」
「いいって……俺のネタなんぞいつでも見れるんだし、フェス行って肉食って来いよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
というわけで、凛のみの参加となりフェス当日、早朝に待ち合わせ場所の東河原駅に車で待っていると、ラフな格好の佐田がやって来た。黒川を見て「いよー」と気の抜けた声を出すが、後部座席に乗っている小さなゲストを見て固まる。
「え?…………………」
「は、はじめまして……岩下陽菜って言います」
「あ、ああはい……はじめまして…佐田って言います」
少し照れた様子でお辞儀する陽菜にお辞儀し返し、黒川に小声で詰め寄る。
「だ、誰?……何この子?」
「友達の陽菜ちゃん……」
「な、何でいんの?」
「…………どうしても来たいって聞かなくて」
「ええー…………ま、まあいいけど…俺、このイベントに一夏の夢を賭けてんだぜ?」
「いや、まあ………いい子だし…邪魔なんてしないって」
「バ、バカ!!…問題は勝美さんの方だよ!」
「勝美さん?」
何故か大いに慌てている佐田を不思議そうに見つめる陽菜。チラリと佐田が陽菜を見て目が合うが、彼はなぜかババッと勢いよく目線をそらした。
「……お前、10歳の子に照れるなよ」
黒川(お前)が言うな。
「……うるしぇ!……あーこれはマズイ…絶対マズイ…」
「土壇場で連れてきちゃったのは申し訳ないけど、何がそんなにマズいんだよ」
4
「かんわいい~~~~~!!(ノ≧ڡ≦)♡♡♡……ヒナちゃんだよねぇ~!!いっつも凛ちゃんのリンスダグラムで見てるよ~~!!やっべ現物超かわいい!!食べれる!これは食べれるわ!凛ちゃん!!」
「うっへへへへへ……そ、そうでしょうそうでしょう!!」
「う、うぷぷ」
車内。佐田が着いてまもなく、勝美も到着し早速目的地に向かっているわけなのだが、自己紹介も半端な段階で早々に女性陣は後部座席にて陽菜を猫っ可愛がりしている。凛がたびたび、自身のSNSで布教活動をしていたことも相まって、勝美は彼女に終始抱き着き、シートベルトを感じさせない程の密着っぷりを披露していた。反対に助手席の佐田は恐ろしいほどに冷めた空気で外を眺めている。全てを理解した…というより正解を見せつけられた黒川が小声で佐田と会話する。
(なるほどね……マズいってのはそういうわけか)
(そうだよ……あんなかわいい子…勝美さんがほっとくわけないじゃん。あーもうおしまいだよ。今日一日あの子にべったりだよ。ただでさえ凛ちゃんと絡んでばっかでチャンス少ないってのに)
「ねえねえ……ヒナちゃんは何で今日来てくれたの?…凛ちゃんたちと一緒に遊びたかったのかな?それとも、お肉が食べたかったのかな?(´ω`)」
「あ………えと………どっちも」
「どっちもか~~~!!(人*´∀`)。……私もね~!お肉大好き!今日は肉汁で水太りするくらい肉喰らおうZE~!!♪٩(ˊωˋ*)و」
「…………そ、そんなには……食べない……かな」
「え~!?もったいないぜぇ!?せっかくのお祭りなのに!(。ò ∀ ó)」
「おまつり……」
「そうですよ!!今日のところは私が持ちますから!!思う存分食べちゃって下さい!!」
「そっか……おまつり……じゃあ食べていいんだよね……いっぱい食べなきゃだもんね」
「その意気ですよ!!」
(あ……でも、陽菜って子…見た感じ結構シャイ?………あんま勝見さんとは馴染めない感じ?)
(いや~……どうだろ……人見知りっちゃ人見知りだけど)
~15分後~
「それでね。おじいさんがその女性を無理矢理お風呂に入れちゃったの……それですっごい待ったのに全然お風呂から出てこないからおじいさんが心配してお風呂に行ったら……その女の人がいなくなってたの」
「ええ!?何で!?(๐◊๐”)/」
「実はその女の人はつらら女っていう妖怪で…お風呂に入ったから熱くて溶けちゃったの…おじいさんはお風呂に入れたことをすっごく後悔したんでしたとさ。めでたしめでたし」
「め、めでたくねぇ~……(ㅇㅁㅇ川」
「ふへへへ……」
「でもその話は妖怪が悪くない?おじいさんは善意でお風呂に入れたのに!入れないなら最初にそう言えばいいじゃん!!(`ε゜´♯)」
「妖怪はきっと自分から正体を明かせないんだよ。それに、似た妖怪でも雪女は人を殺しちゃう悪い妖怪だから、間違われて怖がられると思ったのかも」
「そっか………ていうか雪女コワ!!妖怪ウォッチのふぶき姫とは違うんだね~(;一_一) 」
(…………めっちゃ喋るじゃん。どんだけ妖怪バナあんだよ)
(震えろ。百ヒナ物語はあと88話残ってる)
最初の方こそ人見知りゆえに曖昧な返事しかできなかった陽菜だが、あの凛すらも手名付けた勝美持ち前のコミュ強っぷりであっという間に打ち解けて見せた。打ち解けた瞬間に陽菜は得意の怪談話を披露し、饒舌にかなり古臭い怪奇譚を紡いでいく。その途中で、一切会話に参加しない黒川を気遣ったのか、凛が運転席の背もたれを掴んで話しかけてくる。
「黒川さん!この歌、さっきからすげえ気になってるんですけど!何をかけてるんですか?」
「え?知らない?……嘘つきバービー」
「えへへ…不勉強ながら……サイケで私好みです!」
「後身バンドのニガミ17才もいいぜ。アレは絶対挫・人間の影響受けてるね」
「俺が誕プレで上げたヤツかけてよ…これCD入れるタイプのやつでしょ?」
「いいよ。持ってきてるし」
「え?何ですか?」
「巡礼」
「え!?……花が咲いた~って奴ですか!?」
「いや……ASA-CHANG&巡礼の方じゃなくて…八十八ヵ所巡礼」
「うえええ!!……な、ななななんて良いチョイス!!」
「え!?そんないいアルバムだったの!?」
「いやまあ、確かにいいけど……この子はちょっと感性が独特なの」
「凛ちゃんはホントにロックバンドが好きだね~(*´∀`)」
「だって凛ちゃんは本当にバンド組むんだもんね」
「え!?そうなの!?」←佐田
「知ってるよ~……私、凛ちゃんに誘われたもん(o^^o)♪」
「え?そうなの!?」←佐田
「え?じゃあ、レーちゃんも凛ちゃんのバンドに入ってるの?」
「い、いえ……勝美さんはお忙しいので……残念ながら」
「私も入ってみたいんだけどね~ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ」
(……いつの間にレーちゃん呼びになってたんだ)
「凛ちゃんのバンドのね。人がね。すっごい大きいんだよ。私の友達で正人君っているんだけど。その人のお姉さんで、悪い人を捻り倒すんだよ」
「眼前ちゃんって人でしょ~!それも凛ちゃんから聞いてるんだ~!…でっかいよね~!彼氏くんもすっげえでかいらしいよ!!(´◠ω◠`) 」
「ふふふふ……すごい…仲良しだ」
「えへへっへ……良くしてもらってるんです」
「仲良しだぜ!!\(^ω^)/」
(俺とも仲良ししてくれ)
(………がんばれ佐田)
そんな話をしながら車で2時間半。すっかり山の中に入り、スムーズだった道のりが急に滞ってくる。といっても渋滞しているわけではなく、会場の駐車場入り口が狭いためにつっかえているのだ。待っている間も、車内は相変わらず男子と女子で遮蔽された会話を繰り広げていた。
「そろそろだね~!……思ったより会場広いんだなぁ!(´ω`) 」
「お肉のにおいするかな?」クンクン
「ふへへへ……しました?」
「ううん」
「えへへ…そりゃそうですよね。窓閉めてるし…ってアレ?黒川さん……音楽変えました?こんな白昼堂々ストゥージズなんてかけちゃダメですよ!」
「世界的バンドをんな下ネタみてえに……ってか変えてないけど?あ、あれじゃね?馬鹿みたいにでかい音出してるバイクあるわ。あそこの音漏れだよ」
「どの山道にも一台はあるよな。ああいうの」
「音もだけど…バイクもでっけえ!!Σ(゜д゜;) サイドカーついてる!!」
勝美の指摘した通り、隣の真っ黒なバイクはでかくて派手だった。そしてなぜか戦国BASARAの伊達政宗みたいに腕くみしながら乗っている運転手も同様にごつかった。サイドカーの乗っている女性もごつかった。アメリカの国道を走っていると言っても信じてしまいそうな二人組を見て、凛と黒川が冷や汗を流す。
「………なあ凛ちゃん。あの人ら、ひょっとしてキミンとこのバンドのメンバーでないかい?」
「………………やっぱそうですかね?……で、でも…分かんないですよ?肉フェスなんて興味ないでしょうし、何より背格好が似てるだけで、顔はヘルメット付けてるから分かんないし」
「そうかな?………今、パイロットの方が指でチャってやってきた気がするけど」
5
「やあや!!黒川くんに須田凛!!久しぶりだね!!……といっても、眼前くんとはこの前会ってたんだっけ?」
「………………」(再拝鶴首!……という顔)
「お、おお……久しぶり……随分…なんていうか……こう」
「眼前さん!!……何ですかこのカッコいいマシンは!!」
「フフフ……僕の哀・単車さ!……名付けて」
「…………………………」(疾風翔動!!……という顔)
(……戦国BASARAの風魔小太郎じゃん)
「うっへえ……わ、私も乗ってもいいですか!」
「もちろんだとも!」
大興奮という感じで単車に跨がり、眼前に写真を取ってもらっている凛。その後ろでおずおずと陽菜が、黒川の裾を引っ張る。
「………ねえ、ヒナも乗っていいのかな?」
「いいんじゃない?まみるに聞いてみようか?」
黒川がまみるに聞く前に、会話が聞こえていたらしいまみるが高笑いをしながら陽菜に近づいてくる。
「ハッハッハッハッ!!このマシンの良さが分かるとは!中々見る目のあるお嬢さんだ!!遠慮なく跨がり給え!!」
「あ、ありがとう……おっきいお兄さん」
「はははははは!!……Mr.BIGと呼んでくれても構わないよ!!」
一見、微笑ましい光景であるが、流石に初めましての勝美と佐田は驚きの方が先にきているようで、一歩後ろで引き攣った笑顔を浮かべている。今日初めて、二人の距離が近くなっている。
「す、すげえ~……カップルというより…タッグって感じ?|д゜)」
「マジでどこぞの極悪連合みたいだぜ……個性的でも気の合う通し出会えたらちゃんと恋人出来るんだな………須田ちゃんの変わったファッションが全然こマシに見えてくるもんな」
その凛はというと、当然ではあるがすっかり慣れた様子で極悪連合を相手に笑顔でコミュニケーションを取っている。
「で、でも!!お二人はどうしてここまで!?……肉フェスに興味があるとは…」
「………………!!」(バッと勢いよくポスターを取り出す)
「え……今回のフェスのポスターですか?………うえ!?殺戮マシンの介さんが!?来るんですかぁ!!うそでしょ!!」
「前言ってた眼前さんの好きなビジュアル系バンドのメンバーだっけ?……珍しいね、凛ちゃんも好きだろうに、イベントを見逃してたなんて」
「へ、へへへ……恥ずかしながら…本来私は星君のライブに行ってましたから……埋まってる日のイベントまでは把握できてなかったです」
「でも良かったじゃん。ついでに見れるわけだしさ」
「は、はい!!……で、でも…マシンの介さんだけってことはバンドするってわけでもないでしょうし、一体何に出演されるんでしょう?」
「さあねえ……そこまでは僕も眼前くんも知りえないが…まあ、大方ステージ上で何かするんだろう」
「おーい!!凛ちゃーん!!そろそろ行こうぜぇーい!!(*゜▽゜)ノ」
「あ、はい!!ただいま!!……うへへ…それじゃお二人!またイベントで!!」
「ああ!!」
「…………………」(河梁之別……という顔)
勝美に催促さえ、一先ずはまみるらと別れる黒川と凛。
「す、すいません……ちょっとソウルメイトに会えたもので」
「全然いいよ~。私たちがって言うより、ヒナちゃんがお肉待ちきれないみたいでさ~(´∀`*)」
「………………別に待てますけど」ぎろぎろぎろぎろ
「………それは腹の虫でいいんだよね?ギロロ伍長の鳴き声じゃなくて」
「///……ギロロ伍長の鳴き声ですけど?……ぎろぎろぎろ」
「はあ~……かわいいなあヒナちゃん……私もハウスシェアしよっかな~( ^ิ艸^ิ゜) 」
「でもすげえ人らと知り合いなんだな!須田ちゃん!……何かマジでバンドマンみたいだったぜ」
「えへへへ……」
その後、かなりの盛況っぷりを博している会場内に入り、なんとも大学生らしくお祭りを楽しんだ。
「どへ~……これ全部、神戸牛フィレステーキの食券買う人かよ……」
「ね、値段もまあまあしますね……わ、私はフランクフルトでいいかな~…なんて」
「何でもいいから早く何か食べよ?あっちこっちからいい匂いがし過ぎてヒナ干からびちゃいそう」
「俺、ホルモン焼きそば買ってくるわ。欲しい人いるー?」
「あ~!!私も食うぜ!!(๑✧∀✧๑)……じゃあ、私は…お!ステーキピザだって!あれドーンとかってこよ!皆も食べるよね!?」
「バラける感じです?……じゃ、じゃあやっぱり私はフランクフルトじゃなくって神戸牛を……ふへへお祭りですもんね……お高いですけど…皆さんの分も買ってきましょうか?」
「じゃあ俺の分も頼むよ。俺、陽菜ちゃんとすぐ行けそうなブース行ってるから…またここに集合ね」
「ありがとうお兄ちゃん……あ、私は……今言ってたのみんな欲しい……お金はいっぱい持ってきてるから」
「ハハハハ!!欲張りだな!……気持ちは分かるけどそんな食えないっしょ!!」
(………この娘なら食える)
楽しんだ。
「こんなところの……どれも小さいもんだと思ってたけど……結構どれも立派だな。値段も相応だけど」
「あ、お兄ちゃん……大変だ……爆弾肉巻きおにぎりだって……」
「はいはい……並びましょ並びましょ」
「いらっしゃ~い!!何個包みましょ!?」
「5個ください」
「はいよー!!」
(みんな食べるか聞いてないのに全員分注文しちゃったよ………ま、いいか。肉巻きおにぎりなんて嫌いな人いないだろうしな)
「……お兄ちゃんは注文しないの?……みんなの分も買った方が良いかな?」
「……………え?」
楽しんだ。
「ハ~イ!!ピザ登場~!!思ったよりデカかったから2個にしといたぜぃ!(≧∇≦)」
「わぁ…美味しそう……」
「あ、それピザ!?それで800円は安くね!?」
「お!ホルモン焼きそばもお出でなすったね!これで後は凛ちゃんのステーキか!(☆∀☆)」
「まだしばらくかかりそうだし……先に食べてよっか……ま、俺、陽菜ちゃんに付き合ってたから結構満腹なんだけどね」
「だらしね~な~……陽菜ちゃんは元気よくピザ両手持ちしてるってのに!……あ、ビール買ってきちゃったんだけどさ。飲んでいい?」
「え……別に飲んだらいいじゃん」
「マジ!?サンキュー太っ腹ぁ!!」
「おお……?」
「いえ~!……バイブスあげあげのヒナちゃん撮っちゃお~(*^^)v 」
「………れーちゃんも食べなきゃピザ無くなっちゃうよ?」
楽しんだ。
「………須田ちゃん遅いね」
「さっき会計終わったって連絡来てたんだけどな……」
「あ、あれじゃね!?……あの大量のステーキ皿を前にカウンターで呆然としてる後姿!」
「ヘルプ呼べよ!!………あ、やばいやばい!!持とうとしてる無理やり持とうとしてる!!……あ、大丈夫だ無理と悟って下ろした……ああ!!自分の分と思しきステーキを手で貪り食ってる!あそこで完食する気だ!!」
「勿体ない……せっかくのステーキ」
「ていうか女の子がしていい行為じゃないぜ!?Σ(゜д゜;)」
楽しんだ。
「ピザと焼きそばじゃあんまり合わないと思うけど……一応、家から塩おにぎり持ってきたんだ~…食べたい人ご自由にどうぞ~( ^_^)/ 」
「え!?……何それありがたい!!」
「一個300円もする焼きおにぎりしかねえもんなここ!!」
「れーちゃん大好き」
「ヒョ……」(←溢れ出る勝美の女子力に圧倒されている)
「えっへへへっへぇ(〃▽〃) 」
「……………あ、あの…………私も……いつも持ち歩いているブレスケアがあるので……良かったら」
(………ひょっとして対抗しようとしてる?)
食事をして、ブラブラ歩き、ある程度会場のムードを満喫したところで、隅にあったイベント会場で再び眼前とまみるに会った。お目当てのアーティストのトークショーが終了したらしい。ステージと目と鼻の先にある最前列の席を周辺丸ごと独占して座る姿は確かにバトルマンガの悪の幹部である。
「やあ!!……陽菜嬢!!……お口に付けたソースが愛らしくパンクだね!!その様子だとフェスはエンジョイできているらしい!!」
「あ……ソースついてるの?……拭かなきゃ」
「も~……まみるくん!!言っちゃダメですよぉ!かわいいから気づくまでそのままにしとくつもりだったのに!!」
「ハハハ!!失敬失敬!!」
「も、も~……れーちゃんハンカチかして」
「……………………」(破顔一笑……という顔)
「この後、簡易だけどプロレスがあるらしいよ。一緒に見ないかい!」
まみるの誘いに凛と黒川が背後を向くと、全員が肯定的な顔で頷いた。
「それはいいんだけど……なんでこんな最前列独占状態なの?」
「さあ!?……僕らがいの一番にここに駆け込んで以降!不思議なほど誰も座らないんだ!!」
「はははは……なんでだろうねホント」
苦笑しながらも、おかげで後から来た黒川らも最前列に座ってプロレスを見ることができた。格闘技に明るくない黒川は誰もメンバーが分からなかったが、それでも迫力は満点で大いに楽しめた。
「5……いや7……!?今フェイント何回入れた!?てゆうか何であの体勢から攻撃しながら跳べ…わっもうあんなトコにいる………はは………考えられない」
(後ろの席の奴、ぶつぶつうるせえな)
そして無事、試合も終わった後、地に臥していたはずのヒールレスラーたちがぞろぞろとステージ中央に集まってくる。背後では着々と簡易のステージが片付けられているのでもう試合ではないのだろうが、何をするのだろうか。
「あ~!!腹が減ったぜぇ!!」
突然、ヒールの親玉が叫んだ。先程腹に思いっきり膝をのめり込まされていたが、流石プロである。
「とにかくたらふく喰いてえっすね!!」
横にいる部下っぽいのが続けて叫ぶ。そして背後のヒールたちも同じように食おうとか腹減ったとか喚き散らす。
「でもただ食うだけってつまらねえよな!」
「ああ……俺たちジャム・ソーセージは常に戦いにもハングリーだぜ!!メシもバトルじゃなくっちゃあな!!」
「ああ……」と大方を察する黒川。かくして彼の想像通りの展開が待ち受けていた。
「というわけで会場のもやし共!!てめえらの中で5人で来てる大飯ぐらいのグループはいねえか!?」
ここからヒールが役を忘れず丁寧に解説した内容を要約すると、5人のグループで彼らと、あるいは立候補したグループ通しでフードファイトを行うと言うのである。出場資格はこの会場にいる5人組のグループであれば年齢も性別も関係なく、何組でも無料で参加できると言うことだが……
「面白そ~!!ねえ、やらない!?(*°∀°)=3 」
ノリノリの勝美だが、黒川らの反応は薄い。既に一食分並みの食事を済ませているのだから当然と言えば当然だ。若干一名乗り気っぽい小学生もいるが、花も恥じらうお年頃なので自分から大食いアピールは恥ずかしい。
「え~……ではジャム・ソーセージの皆さんに変わってルール説明をいたします!今回、このファイトに協力してくださるのはプロレスラー、虎宇土マスクさんがオーナーを務める人気ハンバーガーチェーン、キャプテンサーモンハートです!チャレンジャーの皆さんはお店自慢のジャンボバーガーの完食を目指していただくのですが、今回はご家族でご参加できるよう特別ルールを設けさせていただきました!!」
(………もやしに優しいジャム・ソーセージ)
「今回の勝負では順々ごとにだんだんハンバーガーのサイズが大きくなるキャリーオーバーシステムを導入させていただいております!最初はお店で提供しているスタンダートなMサイズから始まり、次にLサイズ……次はパティを2枚追加してチーズもより濃厚なモノを使用したキングサイズ!…そして次は完食すればお店に1週間写真が飾られる名物ジャンボサイズ!……そしてそして!!ラストはこの大会の為だけに用意されたすんごい特大サイズ……通称メガトンパンクサイズを完食していただきます!!」
「うっへええ……あの店、大学の近くにあるから行ったことあるけど…俺、Lサイズでも胸焼けしたぜ?」
説明と共に掲げられた写真を見ながら佐田が生唾を呑むが、その横で佐田と全く異なる理由で陽菜が唾をのむ。
「でも……美味しいそう……すっごくすっごく美味しそう」
「えへへへ……もう少し早く開催してくれたらよかったのに……ですね!」
「なお!今回完食していただいたチーム全員にこの会場限定Tシャツをプレゼントいたします。また、誰よりも速く完食したチームには何と!!先程トークを盛り上げてくださった殺戮マシンの介さんのサイン入りギターをプレゼントいたします!!……皆様振るってご参加ください!」
(……こんな景品になるなんて意外に知名度凄いのか?マシンの介………って何か熱い?)
熱気を感じ振り返ると、ラスボス二人とちっこい雑魚が明らかにギラついた顔をしている。もしかしなくてもサイン入りギターに反応したのだろうが。
「え!?……出るの!?」
「………………………」(群雄割拠!!……という顔)
「で、でるっきゃないでしょ……出るっきゃ……やべ…久しぶりに燃えてきちゃったかな?」
真顔でこきっと首を鳴らすイキリカタツムリに半笑いで接していると、まみるが声をかけてくる。
「こちらは……人員こそ足りているが……共にビーフ共に立ち向かいたい勇者はいるかな?」
「え……何、黒ちゃん……須田ちゃんたち出るの?」
「ははは……そうみたい……ていうか俺らも出ないかって誘われてるんだけど…どう?行ける?」
「ええ~!!いいじゃんいいじゃん!!楽しい楽しい!!٩(ˊᗜˋ*)و」
「!!……う~……ん……足引っ張りたくないし、何より参加しといて残すなんて嫌だし…Mサイズなら…まあイケると思うけど」
勝美が乗り気だからか、佐田も参加に前向きな姿勢を見せてくれた。が、黒川はもう入りそうもない。あんなにジャンクフードが好きな自分が、先程の写真を見て全くそそられなかったのが良い理由である。
「……悪いけど……俺はパス……ってか無理」
「めっちゃ出たいけど……私もきびし~かな~(´×ω×`) …ピザ食い過ぎた~」
「フフ……さっきは目立ちたくなくて弱気なことを言いましたが……実は私、ステーキとおむすびしか食べてないので、まだ結構腹ペコです!」
「え?……焼きそばとピザ食ってないの?」
「はい!!紅ショウガとピーマンがたんまり入ってたので食べれませんでした!!」
「………そんな自慢げに言うことかね」
「ですが、流石にキング以上は難しいので……L行かせていただきます!!」
「無論!僕はメガトンパンクさ!!……あとはキングサイズとジャンボだけれども」
「ていうか………眼前さんがキングかジャンボ行っても…黒ちゃんも勝美さんも無理ならもう行ける人いないじゃん」
「…………私、ジャンボ行きたい」
「「ええ!?」」
恐る恐る手を上げる陽菜に勝美と佐田がたまげる。
「ははは!!陽菜嬢!!ガッツは認めるが!いくら何でもそれは無理ってものだよ!成人でも完食が難しいジャンボサイズを!………!!」
高らかに笑うまみるだが、ジッと見つめてくる陽菜の目を見て、神妙な顔になり、フッと微笑む。
「その目は……本気の目だね。ならば止める手立てなどないだろう!歓迎するよ」
「ありがとう……私、自分の顔よりおっきなハンバーガー食べるの夢だったんだ」
「いやいやいやいや!!……んな美談風に扱ってもダメでしょ!」
「無理して食べてお腹壊しちゃうよ!?それに、悪目立ちして嫌な思いしちゃうかも…(-.-;) 」
常識人二人が真っ当な指摘をするが、そんな二人をこそっと脇に連れて行く黒川。黒川から何かを見せられて「えっ!?」と共鳴し、チラッと陽菜を一瞥し帰ってくる。もう陽菜を止める気は無いようである。
(……黒川さん…何を見せたんです?)
(………さっき二人で回ってた時、陽菜ちゃんが食べた分のレシート)
(……ああ)
「じゃ、じゃあ後は眼前さんが食べればいけるのか!…ジャンボいけそう?」
「…………………」
眼前を見るも、彼女はバツの悪そうな顔をしているのみで、先程の意気揚々さは見受けられない。そのわけは彼女よりも先に、パートナーであるまみるが教えてくれた。
「しまった!!……眼前くんは食べる瞬間NGだったね!!……忘れていたよ」
「あ!………そういえば…いつも気が付けばご飯食べ終わってばかりでマスク下げてるところすら見たことなかったです!」
「ランジャタイの国ちゃん以外にいたんだなその条件掲げてる人間」
「そ、そのマスクそんなに確固たるものだったんだ……何かすげえな」
「徹底的なイメージ作りだね!!憧れるな~!!( ·∀·)b」
「でも…それじゃ参加メンバー足りずに終わっちゃうじゃん」
「漢を見せようぜ!ギャラクティーノ黒川くん!!」
「………………」b グッ!!
「黒川さん!!」
「無理だって―の!!あきらめろよ!……ホレ、見てみろよ…何か力士みたいなのも集まってるぜ。俺らが優勝できるとは思えねえよ」
「だはは……黒ちゃんってバンドの中でもそういうポジションなんだな」
「……なんか引っかかる言い方だな」
「ううう……せめてあと一人参加してくれる人がいればなぁ」
名残惜し気に陽菜がつぶやくと、その背後で突如バカでかい聞き馴染みのある声がする。
「全く!!この祭りも変わらねえなぁ!!」
「!?………この声は!?」
「……ハンバーグ師匠?」
振り返ると、やっぱり見覚えのある金髪の芸人がいた。
「って星ちゃん!!……何でいるの!?」
「………お前かよ。この祭り初参加だろうが」
「あれ?星ちゃんって何かライブかなんかで行けないって須田ちゃんが行ってなかったっけ?」
「は、はい……『法律にも穴はあるんだよなぁ』ライブに出演されていたはずなんですけど」
「早引けしたぜ。思ったより開催地が会場の近くだったからそのまま巡行バスで来ちゃった今晩泊めて状態だぜ」
「わぁ!星ちゃんだ!星ちゃん!星ちゃん!」
「あはは!ヒナちゃんはしゃいじゃって……かわいい~!∩(´∀`❤)」
「めっちゃ懐いてるじゃん……やっぱイケメンってちげえわ」
「星ちゃん!いっしょに大食い大会でよ!?」
「ああ……そのつもりだぜ!……話はさっき耳介で集まって空気の振動と共に外耳道を通って鼓膜に当たり、耳小骨で増幅され内耳の蝸牛に入り電気信号に変換され俺の脳に流れてきたぜ!」
「回りくどすぎる言い方すんなよ……阿部共実のマンガか」
「君は……討てるのかい…キングを!」
「ああ……ブラッドレーでもメルエムでも喰らってやるよ」
「フッ……頼もしい限りだね……行こうか……チャレンジャーは揃った」
(この二人……確か初対面だよなぁ……まあ、いいけど)
募集が終わりかけのギリギリに滑り込みで何とか参加することができた。まみる・須田凛連合のほかには、主催者であるヒールレスラー集団・ジャムソーセージと大学の相撲研究会らしい体格のでかい連中やその場のノリで参加したであろうこれまた大学生の集団が混じっていた。
「はーい!!ではこれで募集は締め切らせてもらいます!!たくさんのご参加ありがとうございます!!では、改めてルール説明を行わせていただきますね!!」
司会のお姉さんが再びハンバーガーのサイズについてや優勝賞品について説明する。そしてその後で、大会の概要についてのルールも解説してくれた。
「この対決ではMサイズから小さい順に食べ進めていってもらいます!基本的に一サイズにつき一人までの挑戦とさせていただきますが、15分間で食べきれなかった場合のみ、まだ未食のメンバー限定でヘルプを行っていただいて大丈夫です!そうして食べ進めていただいて見事ラストを飾るパンクサイズを食べ終えたチームが優勝です!最後のバーガーのみ制限時間は30分ですが、ルール的にどれだけ経ってもヘルプはできません!お一人で完食していただきますのでご注意ください!」
「つまりキングサイズの俺までは仮に食えなくてもちゃん陽菜がさらってくれるから安心ってことだな」
「でも、15分間のロスはでかいですよ。そのためにもヒナちゃんに頼らずに食べきることを目標にしないと」
「………そもそも何で陽菜ちゃんが俺らをリカバリーできる前提で話してんのアンタら」
大真面目にルールを呑み込んでいる星畑と凛。そして黒川不在の為代わりに突っ込む佐田。レシートを見て彼女が大食らいであることを知っては見たが、まだその実力を呑み込みきれてないようである。
「あ、チャレンジに参加されない方も良かったらステージに上がって応援してあげてください!うふふこんなお子さんまで参加してくださってありがたいです!全然残していいからね~♡」
ステージ上で緊張している陽菜が可愛かったのか、司会のお姉さんが声をかけてくる。ステージ上で応援できると言われ、勝美と眼前が喜んで上がっていくので、黒川もそれに付いていく。
黒川らが壇上に上がったとほぼ同タイミングで、ジャムソーセージのメンバーが厳つい風体で近づいてくる。思わずヒッと短く叫び眼前の背後に隠れる凛。
「よぉ………出てくれてありがとうなぁ……無理はしたらあかんでえ」
「あ…はい……あざす」
大抵の相場通り、ヒールレスラーは見た目と裏腹にフランクで心優しそうな瞳をしていた。小さくかすれた声で須田凛チームを歓迎し、一層小声で黒川らにのみ聞こえるように続ける。
「俺ら……悪党だからよ……やってる最中ヤジとか煽りとか飛ばすと思うけど、ええか?…妨害とかもするけど」
「あ、はい……全然…」
「俺ら死に場所求めてここに来てるんで」
おそらく全チームに聞いて回っているであろう確認作業を終え、星畑の下らない返しに苦笑して帰っていった。そして、遂に戦いの火蓋が切られる。
「さあー!始まりましたジャムソーセージと有志たちによる激しいフードバトル!!……いつもいつも地域の子ども音楽教室に寄贈されてしまうマシンの介さんのサイン入りギターは…今年こそ参加者の手に握られるのかー!!」
「マ、マシンの介さん……そんなにこの大会出てらしたんですね……全然知らなかった」
「今のって……要するにレスラーさんたちが連覇中ってことだよな」
「佐田くん頑張れ〜!!o((*^▽^*))o」
「マスタードもあるよ!マスタード!」
黄色い声援を浴びてご満悦そうな佐田がハンバーガーを頬張りながらピースする。その裏で大きなどよめきが起こる。
「おおー!!……相撲同好会チーム速い!…もうMサイズ完食です!これはいきなり番狂わせかー!!」
「ぶえっ!?」
デレデレ笑顔だった佐田がレタスのカスを吹き出しながら振り返る。後ろではデカい連中が運ばれてくるLサイズを前にハイタッチしながら交代している。佐田のハンバーガーはまだ半分も減ってない。
「佐田!手ぇ止まってんぞ!……バキュームだバキューム!口が駄目なら目で喰らえ!!」
「女性陣を押しのけてMサイズに逃げておきながら何だねその体たらく!!キミはバンビか!?はたまた70年代のロックヒーローか!?ジミヘンか!?ジミヘンなのか貴様は!?」
「!!!!!!」(針針針針!!…という顔)
「……そう言えば合コンでご飯食べてるときも喋ってばっかりで全然食べてなかったですよね……」
「み、みんな辛辣!(@_@;)」
「ちょ〜っと頭に血が上ってるみたいね……参加しなくて良かったぜ」
しかし、ここで腐らずにガツガツ勢いよく食べるのが佐田のいいところである。何度も嗚咽をこぼしながらも完食し、口を手で抑えた状態で凛とタッチする。既にジャムソーセージの面々は食べ終えていたが、それと相撲以外には僅差で勝ち3等で上がることができた。しかし、その相撲は今頃Lも完食してしまっているのではないかと、恐る恐る佐田が振り返ろうとした瞬間、丁度その相撲チームから悲鳴が上がる。
「おお~っとぉ~!!ここでジャムソーセージたちのあくどい妨害です!!半分を切った相撲チームのハンバーガーに!!ラクレットチーズをプレセントだー!!残酷!非道!!恐るべしジャムソーセージぃ~!!」
「う、うわあ~~!!トロトロのチーズが~!!俺のパティにがっぷり四つ!!」
「もしかして……さっき言ってた妨害ってアレ?」
「どっから持ってきたんだよあのラクレットチーズ用のオーブン」
「……美味しそう……ヒナが食べるやつにもやってくれないかな」
「でも!相撲チームは確かにスピード半端なかったし!逆にありがたくない!?(。ò ∀ ó。)」
「その通りだね!!……今のうちにやってやれ!!須田凛!!」
「うへへっへへへ……前々から日本のバーガーってちっちぇな~って思ってたんですよね。これくらいじゃないと……」
「お~っとパンク連合(凛たちのチーム)日本人が立ち上げた日本のハンバーガーショップで日本人が作ったハンバーガーを前に強気な発言です!!」
「そもそも海外行ったことない奴が何言ってんだよ」
「凛ちゃん…大丈夫かな」
「大丈夫!大丈夫!お腹ぺこぺこって言ってたし!!o(*^▽^*)o」
「ホラ!見たまえ!!一口は小さいがあの果敢なかぶりつき!!アレを見てなお!彼女をどう思う陽菜嬢!」
「リスみたいでかわいいと思う」
「あ、喉につまったっぽい」
「コーラで流し込んでる」
「むせてるむせてる」
「………須田凛は大丈夫なのかな?」
「……………」(塞翁失馬……という顔)
~5分経過~
「…………………………」もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ
「お~っと呑み込めない!パンク連合チーム!!お口いっぱいに詰め込んだハンバーガーを呑み込めていない!」
「…………………!!」ごっくん
涙目になりながらなんとか大きな一口を呑み込む凛。「よし!」とガッツポーズをする応援席の面々だが、よくよく見ると彼女のハンバーガーはまだ随分残っている。
「………えらくスピードが落ちている気がするが」
「いや……うっかり詰め込みすぎちゃっただけだろ!まだ須田ちゃんはイケるって!」
冷や汗をかくまみるに佐田が希望的な意見を述べるが、肝心の彼女は「うぷ」と小さく呟いて以降、憎々し気にせいぜいMサイズに変わったくらいのジャンボバーガーを見つめるだけで口に運ぼうとしない。これを見逃さないのがジャムソーセージである。事前に言っていた口撃をかましてくる。
「おいおい!!どうしたぁ!!もう食えねえのかよぉ!!」
「きへぇ~!!そんなんでよくも俺たちにケンカ売ったなぁ!!」
煽られて分かりやすくムッとした凛だが、あんぐりと口を開けるも顔を近づけた瞬間に…スンとバーガーを離してしまう。もう十中八九彼女に食べる余力はない。追撃をして場を盛り上げようとするジャムソーセージを差し置いてこの珍事を見逃さないのが自軍のメンバーである。
「凛ちゃん!マスタードだよ!マスタード!!」
「須田お前!なんだその体たらくは!それでなくてもトマトをさりげなく避けて食ってることを見逃してやってるってのによぉ!」
「が、がんばってぇ~……^_^; 」
「さっき小声で俺に辛辣なこと言ってたの聞こえてたからね!!」
応援とヤジの混ざりあった声を知らんぷりして、凛はなぜか不貞腐れた顔でパンズを小さくむしってモソモソと口に運ぶ。
「そんな食べ方では完食する前に『ロング・シーズン』が終わってしまうよ!!」
「あみんちゃんが給食のコッペパン食べる時のやつだよそれ」
「凛ちゃん早くしろって!もうお昼休み終わるって!……掃除始まっちゃうって!」
「も~須田さんあとで自分で机後ろ下げてなー」
「5時間目になっても食べ終わらねえぞそんなんじゃ!!」
「もう給食センターに持ってたらいいのにー!!」
「さ、流石……黒ちゃんと星ちゃん……煽りに遠慮がねえ」
「ていうか今のは煽りなのかい?」
「あまりの遠慮のなさにジャムの人ら何にも言わなくなっちゃったもんね(^-^; 」
ついにはそのもさもさ食いもやめ、恥ずかしそうにうつむく凛。すぐさまフォローに入る優しい司会のお姉さん。
「だ、大丈夫ですか~!!あと6分くらいでお仲間にヘルプできちゃいますから!無理して食べなくって大丈夫ですよ~!!」
「…………………………はぁ~」
無言を貫いているものの、何かしら吐露したい不満はあるようででっかい溜息を吐く凛。そんな彼女を見かねたのか、はたまた救いの手を差し伸べに来たのか小走りで陽菜がやってくる。そして、凛の手に力なく握られたバーガーをそっと取る。
「陽菜ちゃん何してんのー!!まだ俺らが混ざれる段階じゃないよー!!」
「ヒナちゃん?」
「私がしちゃダメなのはハンバーガーを食べることだけだよね?レスラーさんたちみたいに手伝ったり妨害するのはいいよね?」
司会ではなく自分や凛に言い聞かせるようにそっと言ったかと思うと、ハンバーガーをむしり凛の顔に突き出す。
「凛ちゃん……あーんして?」
「…………おお~っと!!ここでパンクチーム!!まさかのあ~ん大作戦だぁ!!これは無碍にできないぞ~!!」
陽菜のキュートかつ大胆な行動に会場が湧きたつ。その隅で満腹の辛さを痛感している佐田が慄く。
「ある意味で恐ろしい作戦だな……」
「陽菜ちゃんがそんなスパルタなこと考えるわけないじゃん……ありゃ単純に凛ちゃんの為を思ってやってんだよ」
「ちゃん陽菜は自分の可愛さとか自覚してるからな……自分が餌付けしたら須田は喜んで食べるって思ってんだろうがよ」
「で?実際のところはどうなのだね?」
「……食べるだろうな…嫌々だろうけど……吐かなきゃいいけど」
「ほら…あ~んして?美味しいよ?……冷めちゃったらもったいないよ?」
「う、うぐぐぐ……ヒ、一口がでけえ……です」
「凛ちゃん……ホラ、おいしそ~……おいしいお肉にシャキシャキのレタスが挟まってるよ?きっと噛んだら肉汁とお野菜の水分がじゅわっていっぱい出てお口の中に広がるよ」
「うぐ……ぐぐっぐぅ~……あ、あ~ん」
「はい……おいしいでしょ?」
「…………………」もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ
「おいしい?……呑み込めた?…じゃあ次ね」
「……………」もきゅブンもきゅブンもきゅブンもきゅブン!!※噛みながら首を横に振っている
「呑み込まないともう次がつっかえてるよ?ホラ、凛ちゃんはやく~って…ハンバーガーさんが言ってるよ?……ホラ、あ~ん」
「っむむぐぐ~!!」ブンブンブンブンブンブン!!
(鬼だ)
「ホラ、あ~ん」
「………~~~~ッ…もうこげん食べれんって言っとろーもん!!」
陽菜のハンバーガーハラスメントにキレた凛が博多弁で叫んだところで、時間が来てようやく他のメンバーによるヘルプが可能になった。陽菜は気を悪くするでも凛を責めるでもなく、にこっと微笑む。
「うん分かった。お疲れ様、凛ちゃん」
「うううう……やっと終わった…もう二度と大食いチャレンジなんてしません……」
フラフラと退散する凛と入れ替わりで星畑とまみるが肩をいからし入ってくる。
「ふ~……じゃ、片すとしようかな……同胞の仇を…」
「須田は試合終わるまで応援席でスクワットな……スマイルを絶やすなよ?」
………が、同胞の仇である三分の一ほど残ったLサイズバーガーは既にほとんどがそのまま陽菜の胃袋に入っていた。
「ふふふ……やっぱりおいしい」
「ひ、陽菜嬢!?一人で食べたのかい!?」
「あ、うん……ごめんね?食べたかった?」
「あ、い、いや……良いんだけれども……大丈夫かい…キミ」
「?…何が?……あ、星ちゃん次だよね。がんばってね?」
「おお……なんか一回りくらい背中がでかく見えるぜ……陽菜」
「あ、ちょっとちょっとお嬢ちゃん!!……応援の人は食べちゃダメだよ!?」
止める間もなくいつの間にかぺろりと完食してしまった陽菜に慌てる司会のお姉さんだが、まみるが何故かドヤ顔で説明する。
「心配ご無用!彼女は僕らのチームの正式なウォリアーさ!!」
「ええ……で、でも…キングサイズ食べれるんですか!?…ちょっと難しと思うけど……え!?…食べるのはキングじゃなくてジャンボ!?……………………さ、さぁ!追い上げてきたパンク連合だがそのロスはデカいぞ!!追い上げなるかぁ~!!」
「………聞かなかったことにしたな」
「なんか……私たちあんまり相手にされてませんね。レスラーさんもほかのチームにばっかりちょっかいかけてますし」
(……それは凛ちゃんがあまりにも口ほどになかったからだよ)
しかし、腹ペコの星畑がまあまあな追い上げを見せたことで良いのか悪いのか、また悪役レスラーたちがここぞとばかりにやってきて妨害をしてくれた。少なくとも星畑は構ってもらえて嬉しそうである。
「よぉ~……調子いいじゃねえか兄ちゃん……美人に応援されてやる気になってんのか!?」
「いや……その美人のでかケツ拭ってんだよ」
「…………あんま下方面の発言はやめてくれ」
(アイツ誰にでも絡みにくいな)
しかし、聞こえていなかったのか知らないが事実、応援席からは黄色い声が飛んでいる。
「がんばれ~星畑く~ん!!ヾ ^_^♪」
「星ちゃ~ん!!ケチャップがあるよ~!!ケチャップ~!」
「陽菜ちゃん、星ちゃんにはマスタードじゃないんだな。いっつも謎のマスタード推しだったのに」
「うん…星ちゃんは辛いの苦手なの」
適切なようで若干ズレている陽菜の配慮。そんな佐田と陽菜の会話を盗み聞きしたレスラーがにたりと笑う。
「良いこと聞いたぜ……そんならたっぷりマスタードごちそうしてやらねえとな!!」
と、言うや否や、マスタードが星畑の食いかけのハンバーガーにぺったり付けられてしまう。
「UW……HOHー!」
「ああっとぉ~…パンク連合の辛いの苦手なお兄さん。思わずジョナサンにぶん殴られた時のタルカスみたいな悲鳴を上げた~!!」
「ああ……星くん!!」
「しまった……ヒナのせいだ」
「なんてこった!俺のバーガーとマスタードががっぷり四つ!!」
「パンク連合!堂々と敵チームのリアクションをパクりましたー!!」
辛いの苦手なお兄さんが嘗めるように、ペロリと舌でマスタードを掬いうげえっというリアクションをする。
「あ……だめ…これ!辛い!!……あ、だめ!」
辛い辛いと悶絶しておきながら、なおもぺろぺろハイペースに嘗め続ける星畑。凄いガッツだと沸き立つ会場だが、黒川に関しては若干呆れた反応をしていた。
「す、すげええ!!星ちゃんめっちゃ頑張ってるじゃん!」
「………………………」(臥薪嘗胆!!……という顔)
「いや、これは……セリフから察するにアイツ、億泰が娼婦風スパゲティー食った時のリアクションを真似してるだけだろ。むしろふざけてるよ」
黒川の冷ややかなリアクションに星畑がムッとする。
「馬鹿!!…これを娼婦風スパゲティーみたいに辛いけどついつい食べたくなっちまう感じだと刷り込むことで完食する作戦なんだよ!」
「……ホンマかいな」
「食えば食うほど腹が減ってくよぉ~!!んまぁゴボッ!!」
星畑の作戦がマジなモノだったのかは分からないが、辛いのが苦手なのはマジである。かくして、星畑の鼻から黄色い鼻水が吹き出し、パンク連合はまたも劣勢に立たされてしまう。
星畑は果たして時間内にマスタードハンバーガーを片すことができるのか。
ちょっかいかけることに必死になりすぎて実はそこまで優勢じゃないジャムソーセージは相撲チームに 勝てるのか
さっきから無口な凛はリバースしそうになっているのか
パンク連合はサイン入りギターを手に入れることができるのか
激戦の波風はまだしばらく止みそうにない。
次回、ハンバーガー大食い対決完結編!
ーメンバーは不安よな 陽菜いただきます
引っ張るような話でもないので打ち明けますが、大食い対決はそこまで長引かずすんなり終わる予定です。というか、無駄に長くなっちゃったので切りましたが本来は今回中に終わらせる予定でした。今までのお話同様、後半はガラッと話の中身を変えてお送りしますので更新までお待ちください。