その①「恋人がたくさんいるととても楽しいコト」
・登場人物紹介
①黒川響 性別:男 年齢:21歳 誕生日:6/25 職業:大学生
本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。
☆好きな移動手段は自転車。車道を走るのちょっと怖い。
②星畑恒輝 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人
黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。
☆好きな移動手段は新幹線。やっぱ速いのが一番。
③須田凛 性別:女 年齢:20歳 誕生日:5/25 職業:大学生
男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。
☆好きな移動手段は飛行機。イヤホン付けてミノムシみたいになるのが好き。
④姫月恵美子 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職
スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。
☆好きな移動手段はタクシー。ただし自腹で乗るのは大嫌い。
⑤天知九 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職
元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。
☆好きな移動手段は路面電車。特に好きなのは江ノ電。
⑥岩下陽菜 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生
女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。
☆好きな移動手段は新幹線。みんなでワイワイトランプとかしたい。
遅くなってすいません。あえて言い訳をするなら最近ちょ〜っと忙しいのです。まあ、それでも一ヶ月以内には更新するようにはしていきたいですが。ただでさえ今回は長引くので、早めに更新できるよう気をつけます。
1
「はい、黒ちゃん」
「ん?……ナニコレ?」
黒川及びノンシュガーズたちにとってあんまりにも色々あって長かった6月が終わり、季節は7月になった。いよいよ夏が本格的にやって来たのである。と言っても、だからと言って急激に何かが変わるわけは当然なく、黒川はいつものように大学に行き、いつものようにダラダラと講義を受けて帰る…つもりだったのだが、帰り際、突然隣の席に座っていた佐田に呼び止められ、何か妙なものを渡されたのだ。佐田真一は黒川の大学内ほぼ唯一の友人と呼べる存在であり、一度彼が持ち寄ったコンパに参加してからも良好な関係が続いていたのだが、唐突にイレギュラーなことをしてきた佐田に対し、黒川は怪訝な顔をする。
「………贈り物?……勝美さんに渡して欲しいのか?」
「アホ!そこまでチキンじゃねえわ!!……10日くらい遅れちゃってるから気づかなくて当然だろうけどホラ。プレゼントだよ。黒ちゃんの!誕プレ!!」
「え………ええ~……おお~……ありがと~……うわ何かすげえ意外だわ。そういや俺誕生日だったなこの前、Go〇gleにしか祝われなかったから忘れてたわ」
「え?……星ちゃんとか須田ちゃんとかには祝ってもらってねえの?」
「いや……誕生日教えてないし……ていうかお前も何で知ってるんだよ。言ってねえだろ?」
「いやいや……L〇NEに誕生日設定しときながら『何で?』はいくら何でも白々しいでしょ」
「あ……そういやそうか……そうだよな……凛ちゃんの誕生日もそれで明るみに出たんだったな」
自分の世間知らずさというか、佐田に大学生(というか若者)らしさで敗北感を感じ少し恥ずかしい黒川だが、それ以上に予想外の角度から誕生日プレゼントをもらい嬉しかった。早速開封してみる。
「マジであんがと。こんなしっかり祝われるの初めてだわ……って……何だこれ?………うわCDだ」
「どういうバンドが好きなのか知らなかったからさ。テキトーにいい感じのジャケットのヤツ中古で買ってみた」
「…………人の贈り物でジャケ買いってすげぇな…っておいおい……ヒヒヒ!まさかの八十八ヶ所巡礼……気に入るようなジャケットじゃないだろ」
「いいじゃん!なんか黒ちゃんそういうシュールなの好きそうだし……もしかして持ってた?」
「いや…これは持ってない。ていうか別にシュールなの好きでもないけど……あ、巡礼は好きだぜ?ありがとう」
CDをカバンに入れ、お礼を言うと急にフツフツと恥ずかしさが込み上がってくる。
「結構な値段したろ?中古でも…こんな大学で週一くらいしか会わんやつにわざわざ……まあ、何も貰わないと思ってたし、ありがたいけどさ」
「………星ちゃんとかは祝ってくれないのかよ。同棲してんのに…」
「…………まあ、色々忙しそうだし」
口では中途半端なリアクションを取っていた黒川だが、内心佐田以上にノンシュガーズのメンバーが自分を祝ってくれていないことが気になっていた。当たり前だが、媒体を持っていない陽菜以外の全員と黒川はL○NEを交換している。
2
大学から帰り、シェアハウスに入ると玄関口でバッタリ凛と鉢合わせる。顔があった瞬間、凛はあからさまに動揺し、素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「ギョ!!」
「お!凛ちゃん!見て見てこれ!巡礼の『攻撃的国民的音楽』!!……凛ちゃん絶対好きでしょ?」
「ふぃ…ッ…しゅ…イ……ん…………失礼します!!」
「ええ!?……ど、どこ行くの!?」
何かもごもごと言いながら少し後退したかと思うと、急に前へ走り出しドタバタと屋敷から出て行く。さながら狂ったチョロQである。
「…………何か………あるね」
凛が何か隠し事をしていることは明らかである。おまけに丁度先程誕生日プレゼントをもらってしまったせいでそのサプライズの内容に関しても、一人でにするすると邪推してしまう。
(……いや……サプライズの為に日にちずらすってのは確かに何か聞いたことあるけど……だからってもしそうならずらし過ぎだろ……あ、でも…俺の誕生日の時って…俺は怪我してたし、星畑は忙しかったし……バタバタしてたからってことか?……っていかんいかん。こうやって勝手に期待してっといざ違った時のダメージが半端じゃない…余計んことは考えんとこ。ていうか今、他に誰かいないのか?)
自分の部屋に向かいながら、それとなく人気を感じ取ってみる黒川だが、間違いなく誰もいない。念のため、物置にも行ってみるが当然誰もいない。若干、そわそわしながら漫画&音楽のいつものルーティンワークをしていると、しばらくして黒川の携帯電話が鳴り響く。着メロはゆらゆら帝国の「恋がしたい」。これが鳴ると言う事は大地からの電話である。いつもは若干憂鬱な気持ちで取っている黒川だが、今回は先程の推測が働いてウキウキしながら「もしもし」と上ずった声を出す。しかし、電話口から聞こえた大地の声は妙に神妙で、その内容も決して明るいものでもなかった。
『…………もしもし、すいません黒川さん。ヒナさんが階段から落ちて脳震盪を起こしてしまいました』
「ええ!?」
『大至急、こちらにお願いします。車で病院に連れて行こうにも私はお昼にワインを飲んでしまって…』
「え、ああ……はい……分かりました……ヒナちゃん大丈夫そうですか?」
『分かりません…今は意識が無くって…一刻もはy』パン!
「……何か今、クラッカーみたいな音しませんでした?」
『………近くで運動会でもやってるんでしょう』チョ!エミシャマ!?マダナラシチャダメデスヨ!
「………………………………………」
『…………………………………………』リンサン!シー!シー!イマデンワチュウ!!
「えーっと………すぐ向かいますんで」
『あ、はい……お待ちしてます』オカーサン。ヤッパリワタシシンダッテコトニシテ
大地の緊迫した雰囲気を全てぶち壊す背後から聞こえる雑音たち。最後に至っては意識が無いはずの少女の声が聴こえた始末。取り合えず自分を祝ってくれる回が岩下宅で秘密裏に準備されていたことが分かり、凄まじい速度でチャリンコを漕ぎ、パーティ会場に向かう。
「すいませーん………来ましたー黒川ですぅ!」
到着早々、インターフォンを鳴らす黒川だったが、開いた扉から出てきた大地の顔は明らかに曇っている。黒川は内心で「まだ続くのかあの寸劇」と苦笑する。
「え~っと……陽菜ちゃんは大丈夫ですか?」
「いいえ……それが先程、残念ながら…死にましてですね」
「フッ(失笑)……マジですか………そんな」
「最期は黒川さんの歌が聞きたいと……あの女抱いてキモチイイ~って連呼する奴が聞きたいって」
「………小学生がサザンの『女呼んでブギ』聞いちゃダメっすよ」
「……………お誕生日おめでとうございます」
「え!?……あ、ああ~……ありがとうございます」
言っているうちに馬鹿馬鹿しくなったのか、それとも諦めてしまったのか。突如として大地が深々と頭を下げてくる。あまりに急なカミングアウト、これはこれでサプライズである。
「中にヒナさんの死体がありますので……程よくかまってあげてください」
「あ、はい……分かりました」
果たして死亡ドッキリからどうやって誕生日会につなげるのかが分からないが、黒川は謎に緊張しながら岩下家のリビングに入る。階段の前で陽菜がぐったりと倒れている。思わず祈りたくなるほど見事な死にっぷりだが、どれだけ演技が良くても脚本がスカなら意味がない。
笑いをこらえつつあたりを見渡すと、ボケっとスマートフォンをいじっている姫月が視界に入りいよいよ吹き出してしまう。
(お前………)
思わず陽菜より先に姫月に声をかけてしまう黒川だが、彼女はこちらに目もくれず手でシッシッと注目を払った。
「…………ひ、陽菜ちゃん……えっと……まだ若いのに?」
何と言えばいいのか分からずあたふたしていると、二階から星畑がソロソロと降りてきて、何かカンペのようなものを見せてくる。
「ん?………えっと……ヒザカムカクカク?」
スケッチブックに書かれた言葉を読み上げた瞬間、ブルンとバッテリーが切れたスマホのように陽菜が震える。もしかして笑いをこらえているのだろうか。星畑がペラリとノートをめくったのでまたそれを読んでやる。
「………どうして全身脱毛してくれないんですか?」
「………!!」ブルンブルン
(………笑いのツボがわからん)
また星畑がめくる。何だかんだ楽しくなってきた黒川はすぐに文言を読みあげる。
「陽菜ちゃんパンツ見えてるよ………ってうぉい!!」
「!!」
ノリノリで読み上げたカンペが100%純正のセクハラ文句で、思わずノリツッコミのようなリアクションを取る黒川。まんまとハメられてしまい、周囲の女性と慌てて蘇生した陽菜に睨まれる。
「……………お兄ちゃんのエッチ」
「アンタ今のはキモすぎるわよ」
「黒川さん。母親がいる前でセクハラを働くのは如何なものかと」
「いや!俺じゃなくて星畑ですから!!ていうかこの角度からパンツ見えないでしょ!?」
「アンタ死体に興奮してたらバイト代ぼったくられるわよ」
「………大江健三郎の『死者の奢り』じゃねぇんだよ」
最近謎の知識を蓄え始めた姫月の微妙な指摘に突っ込んでいると、元凶である星畑と陽菜の姉の瑠奈が降りてくる。
「あ、星ちゃん!変なことしないでよ!!おかげでドッキリどころじゃなくなっちゃたよ!?」
「いや、俺より先に死体の前でゲームしてた女に文句言えよ」
「……エミちゃんだったらあり得るかなって思って」
「アンタ、私をサイコパスか何かだと思ってない?」
ドッキリが不発に終わり若干不貞腐れている陽菜が星畑に噛みついていると、瑠奈に根本から否定されてしまう。
「ていうか……こんな雑なドッキリ気づかれてたでしょ…フツーに脳震盪で良かったのに……」
「だって死にたかったんだもん」
「…………ヒナさん何か悩みでもあるんですか?」
「黒川さんはいつからドッキリって気づいちゃいました?やっぱりエミ姉がクラッカー鳴らしたあたりですか?」
「エミちゃんさんのせいでしょうね…私の電話には不備がなかったはずです」
「何よ?因縁つけてんの?」
「いや、実は家に帰った時にやけに慌ててる凛ちゃんと鉢合わせちゃって……その時から薄っすらと……」
「ああ~………凛ちゃんめ」
「いや……アンタの死体云々で絶対バレてたから。凛さん責めるのはお門違いでしょ」
「で?……その凛ちゃんは?」
「まだ黒川さんのプレゼントを決めきれていないようで、今は天知さんのお車で買い物に行っています。もうじき戻られると思いますよ?」
「あ……プレゼント……そっかもらえるのか……何か嬉しいな」
感慨深げにつぶやくと、星畑が苦笑する。
「そりゃお前には返さんといけんだろ?……20万近くのブツ渡してんだから」
「まあ、そうかもだけど、それでもさ……変に気負ってなきゃいいけど」
「に、二十万円近くも贈ったんですか?……凄いですね黒川さん」
黒川の異様なまでの出資に軽く引く瑠奈。横で大地はしたり顔で頷く。
「愛というのは示せるときに全力で示さねばいけません。グッジョブですよ黒川さん」
「はは……」(←愛想笑い)
「あ~……そうそう。黒川、これ、はい」
突然姫月がもたれていた椅子から起き上がり、そこにかけていた一着のワイシャツを引っ張ってぶっきらぼうに黒川に渡す。
「?………ナニコレ?」
「プレゼントよ!!今の流れでわかんないいの!?」
「え!?……俺に!?……お前が!?……プレゼント!?……な。なんで?」
「え~……エミちゃんフライング……」
「まあまあ……みんなで一緒にはいどーぞは照れちゃうんでしょう……お子様ですねえ」
「うっさいわよそこの馬鹿親子……あのね、アンタ最近私服がダサすぎんのよ…シミの付いたシャツ何か着て私の隣を歩かないでっていうクレームよこれは!!」
「あっ……なるほど。申し訳ない、最近、立て続けに一張羅が汚れちゃってさ……泥とゲボで」
「ンフフ……それどっちも須田のせいだろ?」
「いや、まあ、部分的にはそうだけど……ともかく……いずれにしても嬉しいよ…ありがと」
「うわ~……Teddy Be〇rだ~……かわいい……5000円はしたんじゃないですか?」
「すごいねエミちゃん……凛ちゃんにはポテト一本だったのに」
「エミちゃんさんは黒川さんがお好きなんですねえ」
「マッジで鬱陶しいわね…このバカ家族……」
「ええ!?私もですか!?」
「ありがとう……俺、こういう真緑の服好きなんだ」
「まあ、いいわよ。お金には困ってないし」
「あ、そうかお前、500万」
「シッ!!アンタ以外には内緒にしてんだから!」
「…………二人でナイショごとって……ほんとにどうしたの?」
「家に不審者入ってからなお前ら微妙に仲良くなったよな。吊り橋効果か」
「天地さん以外の方を好きになるのは素晴らしいことですが、黒川さんはいけませんよ。星畑さんにしておきなさい」
「んな……中国行くくらいなら台湾に行けみてぇな感じで俺を薦めるのやめてくれません?」
「星さんはダメだよお母さん。ヒナが狙ってるもん」
「ね、狙ってない!!」
ゴチャゴチャと喚く一同だが、黒川も姫月も焦ることもなく無視をする。あまりにも的外れな指摘のためお互い気に留める気にもならないのだ。
3
そんなことをしているうちに凛と天知が岩下宅に戻る。黒川が陽菜と彼女の部屋でトランプをしている間にリビングで回の準備が整ったらしい。凛のときと違い随分と豪勢なオモテナシに心が弾む一方で妙に緊張する黒川。いざ一階に降りるや否や、陽菜がスパンとクラッカーを炸裂させ、黒川の頭に紙吹雪がかかる。各々妙に格式ばったお祝いの言葉をささげ、黒川はそれに薄ら笑いで対応した。席につき落ち着いてようやく、誕生日会が自由な食事会へと変わってくれた。
(※登場人物が多いのでセリフの前に名前を設けます)
凛「あ、あのう……く、黒川さん……本当にすいませんでした。まさかお誕生日を失念してしまっていたなんて……」
黒川「え?……あ、ああ……いいよいいよ。そもそも祝われるなんて思ってなかったし」
天知「それに……黒川くんの誕生日…6月25日は星畑くんもバタバタしてたし、陽菜ちゃんはあみんちゃんのことで忙しかっただろうし……僕が言うのは変だけど遅れちゃったのも成り行きなんじゃないかな?」
黒川「そうそうあんま気にしないで……でも何で今日は岩下家で開催なの?」
陽菜「お母さんが……サプライズならこっちの方がいいって」
黒川「あ~……まあ、そうかもな」
星畑「今回も料理が俺の誕プレだから……まあ、お馴染みのグラタンだけど」
黒川「へ~……てことはケーキも?」
星畑「ケーキは買った。お前に手作り振る舞うのなんかはずいわ」
陽菜「………私は星ちゃんの手作りが良かったな」
天知「まあまあ……陽菜ちゃんの誕生日にはきっと凄いのを作ってくれるよ」
姫月「私の誕生日はケーキじゃなくってでっかいエッグベネティクト作りなさいよ」
瑠奈「アハハ!胸焼けしそ~」
大地「エッグベネティクトは私の得意料理なのでお誕生日の際は振る舞って差し上げましょう」
姫月「アンタが?……トリカブトとか仕込むつもりじゃないでしょうね?」
大地「まさか。ので、是非その時もお誕生日会はここで開いてください」
姫月「イヤよ。私、晩ご飯食べてから外出するの嫌いなの」
大地「では残念ですが、エミちゃんさんは抜きということで」
姫月「主役が私からエッグベネディクトになってるじゃない!!」
黒川「ていうか何でそんな急にエッグベネディクトなんだよ」
陽菜「どんなケーキなの?」
天知「ケーキじゃなくって、マフィンの上にチーズやベーコン、卵を乗せたアメリカの朝ご飯だよ」
星畑「何で母ちゃんの得意料理知らねえんだよ」
姫月「………アンタ、ホントに作ったことあるんでしょうね?」
大地「………………これから得意料理にしますとも」
黒川(もしやとは思ってたけど……天知さんを家に呼びたいだけか……相変わらず天知さんファーストだな)
凛「………………あ、あの~黒川さん。良ければなんですけど…」
黒川「ん?何?」
凛「その……ホント良ければなんですけど……い、い、い、一曲、歌ってくださいませんか?」
黒川「え!?……何で!?」
凛「そ、その……こんなに一度に大勢の方が集まってる時って…そうないでしょうし」
黒川「いや…そうかもだけど……別に俺、そんな歌いたがりじゃないぜ?」
星畑「いいじゃん歌えよ黒川」
姫月「やめてグラタンが不味くなる」
天知「無理強いはしないけど…僕も聞きたいかな」
陽菜「ヒナも」
瑠奈「私も!!」
大地「すいません瑠奈さん……エッグベネディクトの作り方ってどうやってぐーぐるしたらいいか分かりますか?」
凛「み、皆さんも……こう仰ってることですし」
黒川「……若干一名全く乗り気じゃなかった気がしたけど……」(※大地は黙殺)
凛「そ、そこを何とか……」
星畑「でもマジで何で急にこんな鬼みたいな振りするんだ?お笑い向上委員会のさんまかよ」
凛「さ、最近の……黒川さんの……素晴らしいお歌が…その、あまりにも失礼極まりない使われ方ばかりで……この辺りでファンとして汚名を晴らさねば!……と」
黒川「まあ、確かに……『バオー来訪者』の音の拷問みたいな扱われ方したけどさ」
天知「………そ、そんなことしてたのか」
星畑「すげえなお前。甚太かよ」
黒川「はるき悦巳の『オッペラ甚太』誰が分かるんだよ」
凛「ううう……ホラ皆さんそんなリアクションする……あの声はそんな武骨なモノじゃないのに…生歌だったらすごく上手なのに」
黒川「いや………まあ、そう言ってもらえると有り難いけど、ハードルぐんぐん上げるね」
星畑「須田お前、一方的に芸を求めるのは無粋だぜ?ましてや今回の席の主役は黒川なんだし……」
凛「うう……そ、そう言われると………すいません……」
黒川「い、いや………そんな」
陽菜「じゃあ凛ちゃんも歌ったらいいんじゃない?」
瑠奈「……とんでもないこと言うねアンタ」
凛「う、歌うのはちょっと………」
星畑「じゃあ何かモノマネ」
黒川「あ、それいいな。俺も見たい」
凛「え、ええ!?そんな……じゃあ星君が何かやってくれたら」
星畑「ンフフ……これ以上拗らせんなよ」
陽菜「じゃあみんなでやろうよ。一芸大会」
瑠奈「アンタ…ほんっっととんでもないこと言うね」
凛「…………」(←推したちの一芸を見れるチャンスと己の恥を天秤にかけている)
星畑「俺はいーけど……天地さんとか何やるんだよ」
天知「うーん……やるなら……ピアノでも弾こうかな…決して自慢するような腕じゃないけど」
凛「!!」ガターン!!(←天秤が音を立てて己の恥を打ち上げた音)
大地「ではやりましょうか。ヒナさん…トップバッターをお願いします」
瑠奈「ええ!?にべもなし!?」
姫月「勝手に話まとめてるけど…私やらないわよ」
陽菜「では……一番、ヒナ…………泣きます」ツー
星畑「すげえ!涙出てきてる!!」
黒川「さっすが!!天才子役!!」
瑠奈「またそれ〜?見飽きたんだけどなあ」
凛「ちょちょちょ!!カ、カメラ…カメラで撮るんで…も、もう一回お願いします!!」
姫月「いいじゃないアンタ。慰謝料稼ぎ放題よ」
大地「娘を美人局みたいに言わないでくださいます?」
陽菜「じゃあ次、お姉ちゃん」
瑠奈「うえっ!?私〜?………んー…そうだな…あ、早口言葉言います!東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局!」
天知「おおー……お見事」
大地
陽菜「私も言えるよ。お母さんも……でもお姉ちゃんが一番凄いんだ」
凛「凄いです!流石女優のサラブレッド!!」
瑠奈「フフフ……東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局」
姫月「…………最後の方危なかったわよ」
大地「エミちゃんさんもやってご覧なさい」
姫月「………………嫌」
黒川「東京特許許可局局長今日急遽休暇許可却下東京特許許可局局長今日急遽休暇許可却下東京特許許可局局長今日急遽休暇許可却下」
瑠奈「………………………………………………………………」
天知「おやまあ」
凛「す、凄い凄い!黒川さん!!」
黒川「ハハハ……まあ、軽くリズムつけたらラップみたいなもんだし」
陽菜「………お姉ちゃんアレできる?」
瑠奈「…………………………………次は、黒川さんね」
黒川「え!?もう!?」
星畑「お前がモテねぇ理由がよくわかった気がするぜ」
姫月「アンタの娘、うちの男共最弱に負けたわよ」
大地「瑠奈さんのほうがアクセントが見事でした」
瑠奈「お願いだから張り合わないで………」
黒川「えっと………じゃあ歌?歌います……えっとアカペラでいいのかな?」
凛「あ!だったらこれ使ってください!私のエレキちゃんを!」
黒川「え!?エレキ?………アンプまでしっかり用意してるし」
凛「えっと………すいませんコンセントお借りしますね」
大地「はいもちろんいいですけど……ギターに電気が必要なんですか?」
瑠奈「あ!アレでしょ?ブルータース!」
大地「ブラーのベース?」
黒川「いえ…アレックスは関係ないです。ていうかBluetoothでもないです」
凛「ここから音を出すんですよ?ホラ!」プギンボギ!!
姫月「うるさ……」
凛「ととと………音量が……」
黒川「凛ちゃんいつもこんなアホみたいな音でイヤホンつけてんの!?耳壊れるよ?」
凛「えへへ………まあ、アンプ繋がずに練習してるときも多いですし……」
黒川「俺より全然いいギターだな………ていうか俺、最近はめっきりアコギだし……」
瑠奈「おー!!何かホントにプロっぽい」
星畑「っても結局はカラオケだろ?オリジナルソングとかねぇの?」
黒川「あるわけないだろ。凛ちゃんじゃないんだから」
※実はあることは言うまでもない
瑠奈「弾ける中で何が一番むずかしいんですか?」
黒川「一概に一番とは言えないけど…サディスティック・ミカ・バンドの『黒船』完コピしてるぜ?」
陽菜「それ分かんないしいいや……ミスチル歌って?」
黒川「ごめん………歌はともかく弾けるやつは一つもない…」
姫月「きよしろーのエリーでいいじゃない」
天知「混ざってる混ざってる」
黒川「あ……忌野清志郎ていうかRCだったら……『たとえばこんなラブ・ソング』なら………」
星畑「ベースある?弾いてやろうか?」
黒川「無いだろ」
凛「!!…え!?星君…ベース弾けるんですか!?」
星畑「あれ?言ってなかったっけ?」
凛「初耳ですよ!!」
黒川「めっちゃ上手いぜこいつ。絶対音域持ちだし」
凛「ほへ~……そのお話は後でじっくりコトコトとお願いしますね………では!黒川さんで『たとえばこんなラブ・ソング』です!!」
星畑「山崎ハコの『呪い』と2曲続けてどうぞ」
黒川「鰻と梅干しみてぇな組み合わせ………」
~黒川熱唱中~
凛「ムフー!」(←「どうです!?」みたいな顔)
瑠奈「すごー……ホントに上手いんだ……」
大地「歌詞もいいですね。すごく胸に響きます」
黒川(それは俺関係無いけど)
姫月「で?次は誰指名するの?」
凛「早!?も、もっと耽りましょうよ!感慨に!」
陽菜「だって私たち上手なの知ってるし」
天知「ギター前より上手くなってたよ」
星畑「須田の拍手鳴ったから慌てて止めてたけど、ちゃっかり『呪い』も歌おうとしてただろお前」
黒川「うるせえな」
凛「ええ!?わ、私のバカ!落ちてきた銅鐸に潰されちゃえ!」
黒川(港屋寛一!?)
黒川「えー………じゃあ凛ちゃんは大トリってことで…星畑やれよ」
星畑「俺か……一芸ねぇ……一人でモンスター娘TDの広告ラップバトル完全再現できるけど……」
黒川「他のにしろ」
星畑「じゃあ、あれだな。ハイパーヨーヨー持ってるか?黒川?」
黒川「俺が今この場で何で持ってると思ったの?」
瑠奈「普通のヨーヨーならありますけど……」
星畑「でかした!!……………これで……ホレ、ストリングプレイスパイダーベイビー」
黒川「おおー……それ海原雄山以外でできる奴始めて見た」
(※雄山できません)
陽菜「すごい………ヨーヨーが生きてるみたい」
凛「星君は多才なんですよ!!」
星畑「まだまだ色んなことできるぜ……よっ、ジャグリング・トラビーズ…………ロング・スリーパー……犬の散歩」
姫月「………段々ショボくなってない?」
天知「ヨーヨー好きなのかい?」
星畑「こち亀の両さんに憧れて何かと遊びを極めといたんですよ。ケン玉とお手玉と鉄砲玉もできますぜ」
黒川「……最後の違くない?」
姫月「それだけ特技あるのに売れないのね」
星畑「んじゃ次は………そうだな……姫月、何かやれよ」
姫月「やんないわよ。勝手に始めたくせに巻き込まないでくれる?」
星畑「何だかんだお前も楽しんで観覧してたじゃねえか…それとも何も特技とかねぇのか?」
大地「何もできないのでしたら、ドジョウ掬い何かどうですか?きっとすごく様になると思いますけど」
姫月「アンタが首で空中ブランコしてくれたら考えてあげるわよ」
陽菜「エミちゃんケンカしちゃダメだよ」
瑠奈「お母さんもむやみやたらに煽らないで!恥ずかしいなぁもう」
天知「まぁまぁ……確かに姫ちゃんは最初から気乗りしてないようだったし……無理強いは酷だよ。僕が代わりに何かさせてもらおうかな」
大地「…………キュン(ボソ)」
黒川(口で言った!!)
姫月「私の代わりってんならアンタ……生半可な芸すんじゃないわよ?」
星畑「どの口がよお前」
天知「ハハハ……頑張るよ」
大地「凛さんカメラは………」
凛「先程から回しっぱなしです」
大地「グレイト」
瑠奈「………………私のとこはカットしといてくださいね」
天知「じゃあピアノでも………と思ったけど…僕がそらで弾ける曲なんてさっきの黒川くんに比べたらしれているな……ピアノは立派なのがあるみたいだけど……」
瑠奈「むか〜し……ヒナが欲しがって買ったはいいモノの秒で挫折したヤツですね」
陽菜「お、お姉ちゃん!!」
大地「まあ、その分瑠奈さんが弾いてくださってますから」
黒川(マジで出来過ぎだな、お姉ちゃん……)
天知「代わりになるか分からないけど………そうだな、どんなに高くジャンプしても着地音を消すこと……とか?…でも室内でそんなに派手には動けないか」
大地「いえ、家が壊れるくらい暴れまわってもらって大丈夫です」
姫月「だって………ホントに壊しちゃいなさいよ」
天知「……じゃあまあ………程々に……縄跳びあるかな?」
陽菜「私が学校で使ってるのがあるよ」
瑠奈「いやいや……ちっちゃいでしょ……私のお古もあるけどこれもちっちゃいかな……」
天知「ありがとう……じゃあその2つを結んで繋げさせてもらおうかな……よし、じゃあこれでちょっとジャンプします……」タン タン タン
凛「あ!ホントだ!足音が全然しない!!」
大地「!!………う、う、う、嘘でしょう!?」ガタッ
星畑「ンフフ……日本の技術力に驚く外国人みたいになってますやん」
姫月「いや……誰でもできるでしょこれくらい……逆に煽ってるわよそのリアクション」
瑠奈「すごいかもですけど……縄跳びの音はしてるしよく分かんないかも……これ縄いらなかったんじゃ……」
天知「フフフ………足音は今そこまで意識してないかな?」タンタンタンヒュヒュヒュヒュヒュン!
一同「「「「「!!」」」」」」
陽菜「え?……今の……二重跳び?」
瑠奈「いや……もっとやってたでしょ……すご」
星畑「三重跳びどころじゃねえっすよね?え?……できるもんなんすか?そんなに」
黒川「何か………外国人がショートでやってたな……それよりも多かった感じしたけど」
凛「い、今……スローで再生してみたんですけど……ろ、六重跳びしてますよ……しかも特に膝も曲げずに易々と……こんな即席のビニール縄跳びで……」
黒川「いや……すっげえ跳躍力なんだよ。天内悠みたいな」
星畑「範馬勇次郎にキレられて頭皮剥がされた奴な」
黒川「何で悪い方の補足するんだよ……」
天知「ハハハ……あんまりおだてられると照れちゃうな……」
大地「………………」(←凛が撮った映像を延々凝視している)
姫月「…………凄いのかもだけど……地味ね」
大地「………ご自身で何かなさってから発言していただけます?それともエミちゃんさんはお顔以外取り柄が無いと言う事なのでしょうか?」
姫月「ああ?」
凛「そ、そんなことないですよ!!」
陽菜「そうだよ。エミちゃんにだっていっぱい凄いところが」
大地「ほう?例えばどんな?」
天知「けっこう物の扱いがいいよね」
星畑「てめえの金で買ったやつだけな」
陽菜「色んなこと覚えてて凄いと思う」
星畑「どうでもいいところだけな」
黒川「度胸は凄いと思いますよ」
星畑「空回りばっかだけどな」
姫月「凛!!アンタも何か言いなさいよ!!」
凛「うぇえ!!この流れで私の方が怒られるんですか!?」
姫月「…………まあ、いいわよ。だったらやってあげるわ。特技なんてはいて捨てるほどあるんだから……もうゲロゲロよ」
天知「そっちの吐くじゃないけどね」
姫月「…………」ギロッ
天知「…………ごめんなさい」
姫月「……ハア……大地……後ろ向きなさい」
大地「?……こうですか?」
姫月「ん…(パチ)…はいやった」
陽菜「?……何したの?」
黒川「……まさか」
大地「…………ブラジャーのホックが外れてますね」
星畑「ひゃはははははは!!」
瑠奈「///……わ、笑いすぎですよ!!星さん!!」
黒川「許してやって……こいつこういう下らないのめっちゃ好きなの」
凛「そ、それ……特技ってことでいいんですか?」
大地「性技ですよ性技……天知さんの前で何てことをするのですか」
天知「すいません……目は逸らしてるので……」
大地「あ、別に見ていただく分には何の問題もないのですよ?」
天知「いや……ハハ」
黒川(あ、しまった……ガン見しちゃってた…マジで無意識に)
瑠奈「も、もう!ヒナの前で!変なことしないでくださいよ!」
姫月「だからちゃんと洒落で済む奴を狙ったじゃない。これが凛なら発禁モノだけど…アイツなら何の変化も生じないでしょ?ゼロにゼロ引いてもゼロよ」
大地「感度は5万です」
瑠奈「お母さんマジでみんなが帰ってヒナが寝るまで黙ってて?」
姫月「5万でもゼロかければ結局ゼロじゃない……あれ?……ゼロよね?」
天知「ゼロだけども……今、僕に話振らないで」
黒川「でも……幾ら何でもそれを特技ってのは……お前のメンツ的にもダメだと思うぜ?」
姫月「流石に冗談よ。大地に恥辱を与えたかっただけ」
黒川「花の20代レディが使っていい単語じゃねえよ恥辱」
陽菜「何だか変な空気になっちゃったね……」
星畑「そうだな。もう須田が一発いいの披露してこの場を〆ようぜ?」
凛「む、む、無理です!」
黒川(サラっと流される大地さんのターン)
黒川「あ、でも……丁度いいじゃん。凛ちゃんのギターみたいな」
凛「それこそ無理ですよ!黒川さんの後に特技としてギターできるほど上手くないです!」
陽菜「じゃあ何するの?」
凛「…………も、ものまね」
黒川&星畑「「ものまね!!」」
凛「…………う~………えっと……おじゃる丸のデンボの物まねを……」
黒川「デンボ…………」
凛「………………………………オジャルシャマ」(蛍の鳴くような声)
星畑「さ、お開きお開き」
大地「…………エミちゃんさん……今までの非礼をお許しください」
姫月「……私も、ブラのホック外すのは悪ふざけが過ぎたわ」
黒川「みんな今日はマジでありがとう!!」
4
珍しく姫月までノッてきた意地悪なノリで凛がイジケ、一同が陽菜に怒られたところでいよいよ会も大詰めのプレゼントタイムになった。姫月と星畑の既に渡し終えているコンビ以外がいそいそと準備をしている。真っ先に準備を終えたのは意外にも陽菜だった。
「はい、お兄ちゃんおめでとう」
「あ、私もヒナに乗っかる感じでお願いします…へへへすいませんね」
「お二人で折半して用意したみたいですね」
「いや!瑠奈ちゃんまで…ありがとう!ありがたいよ」
開封すると、透明のケースに入った貞子が現れた。精巧なフィギュアである
「びびった~……ええ…さ、貞子?何かしっかりしてるな……関節曲がるし……これ高いんじゃねぇの?」
「アハハ……まあ、小学生が誕プレで渡すような値段じゃないかもですね……ヒナがこれがいいって聞かなくて」
「いやだった?」
「あ!いやいや全然!!嬉しいよ俺、フィギュアとか自分ではまず買わないだろうし………ありがとう」
「ヒナさんとルナさんのお金はお二人の『もしものとき貯金』から引き出したものなのでお気になさらず」
「もしものとき貯金?」
「はい、お二人がお仕事で稼いだお金です。滅多なことが無いと崩さないのですが、黒川さんにビッグなプレゼントをと言うので、今回は特別に……皆さんには日頃お世話になってますからね」
「そ、そうだったんですか………すげえな二人とも俺より金持ってるんじゃない?」
「アハハ……丸ごと私たちが使えたら良いんですけど、お母さんからもらえるお小遣いはごくごく平均値なので実質金欠ですよ」
「私は月500円、お姉ちゃん月3000円」
何気に謎だった岩下家の金銭面が明らかになった。まぁまぁリッチな生活を送っているが、それはあくまで大地の収入によるものだったようである。黒川はてっきり娘の出演料が家庭の柱だと思っていた。姫月も丁度同じことを思っていたようで、大地本人にズケズケと言い放つ。
「………アンタが搾り取ってると思ってたわ」
「そんな訳がないでしょう。子役として活躍しているのはあくまでお二人なのですから、それとこれは別です。私はあくまで単なるできる経営者なのです」
(この人、自分に自信が無いのかあるのか分からんな)
「アンタいつ働いてんのよ」
「……………………………はあ」
姫月にジト目でほぼほぼ専業主婦にしか見えない現実を指摘されると、大地は珍しく露骨に不機嫌そうになりガックリとため息を吐いた。
「え、ど、どうしたんですか?」
「……………………………」
心配して近づいた凛に力なくもたれかかり、頭をグリグリと押し付ける。何時ぞや酔った姫月が天知に絡んでいた姿によく似ている。
「ほ、ほ、ほ、ホントにどうしたんですか!?」
物言わず凛のわき腹をワシワシ揉み込む大地に変わって、娘二人が説明する。
「弱々モードだ」
「フフフ……お母さん。もうじき東京の子役スクールに顔出ししないとだからナーバスになってるんですよ。ホントは2週間に一回のペースで行ってたんですけど、引っ越しとか私のドラマ出演とか、何だかんだ理由つけてサボってたんです」
「……んで、とうとう引き延ばせなくなっちゃたんだな」
「です」
「とんだできる経営者がいたものね」
「凛さん、スクールのモンスターたちを蹴散らしてください」
「うええ!?」
「モンスター?モンスターペアレントでもいんのか?」
「子役の母親って確かに厄介そうかもな~」
星畑と黒川が色々と察するが、尚もクスクスと愉快そうな瑠奈が否定する。
「いえ、お母さんの周りは基本的に良い人たちばっかりですよ。お母さん単純に私たち以外の子どもが大の苦手なんです」
「何で子役スクールなんて開いたんだ……」
「経営してくれる人と先生は他にいるんですよ。お母さんは子役を集めるための顔みたいなものです。むしろ経営とかレッスンは下手すぎて周りから止められてるくらいで」
「ルナさん、実の母親の名誉を毀損するような発言はいただけませんよ?」
「カスでもできる金儲けね……私もなりたいわ~。大女優」
「中山功太みたいな煽り方すんなよお前」
「ええ、そうですよ。最高ですよ?女優。貴方もなればいいじゃないですか?」
「こっちもこっちで立川談志みてぇな返し」
「………まぁまぁ、そのくらいにして、黒川くんへのプレゼントに戻ろうよ」
今まで頑なに口を挟んでこなかった天知が、目をひん剥きすぎて白目になっている姫月を宥めつつ話をまとめた。プレゼントという言葉に反応して、大地に囚われ、フェンスにハマってしまったアホな猫のような目で陽菜を見ていた凛がピコピコと腕から抜け出す。
「で、では!!次は私が……すいません大地さん、ちょっと離れてもらって………」
「あ、すいません……凛さん、少し痩せすぎですよ?もう少しご飯を食べなければ」
「そ、その話はまた後でお願いします……うへへへ……喜んでいただけたらいいのですが」
「…………お金の話ばっかりして申し訳ないけどさ……まさか凛ちゃんまで大枚はたいて俺にプレゼントしようとしてないよね?」
「うへへへへへ……当初はギターを考えてたんですが……情けないことに銭が足りなかったことと、黒川さんが嫌がるだろうから出して3万くらいに留めとけって星君から釘を刺されてて……やめました」
「そっか、ありがとう二人とも色々と考えてくれて」(3万も多いと思うけど)
「……人のプレゼントにケチつけるなんて野暮なこと本来の星ちゃんならしねえとこなんだけど、こいつ新品のギターに手ぇ出そうとしてたから止めたんだよ」
「ギター!?」
「黒川さんのお好きな桑田佳祐さんのギターをと……」
「PGM KK-3!?……うっそ!ちょっと欲しかったかも!?……え~っと確か20万くらいだよね」
「だったらまだ採算は取れてたんだね。黒川くんのターンテーブルとレコードもそのくらいじゃなかったっけ?」
「まあ、黒川はアホな上に俺らから搾り取った金で幕府築いてるからいいんだよ」
「搾り取ってねえよ」
「えへへへ………そ、それでも……お金なくて買えなかったんですけど……か、代わりに…これ…を……すいません」
「でっかいわね……相変わらず……」
しどろもどろの凛が持ってきたダンボールを見て姫月が呆れ果てた声を出す。辛抱たまらずダンボールを開封した黒川の目に、鮮やかなオレンジ色が飛び出してきた。
「あ………オレンジアンプだ!!うっわ!嬉しい嬉しい!!普通に嬉しいわこれ!!しかもこれ、あれだよな!!ゆら帝のほら、MVのさ……『ゆらゆら帝国で考え中』!!」
「えへへ……」
「…………アンタにしてはセンスいいわね」
「うぇ!?そうですか!?」
「うん。さっきのギター繋いでた奴でしょ?アンタのシールべたべた張ってた奴よりもこっちのがコンパクトだし、色が可愛いし……」
珍しく姫月がストレートに褒めてくる。シェアハウスに越した時、一緒に買い物に行った際に気に入っていたインテリアにしてもそうだが、姫月は意外と柔らか味だったり色鮮やかだったりするものを好む。自身の服は基本黒がベースだが。黒川がプレゼントにはしゃいでいる時よりも嬉しそうに姫月に反応している凛だったが、そんな些細なことは気にならないくらい黒川のテンションは上がっている。
「性能もいいんだよこれ!……俺が生まれて間もなくのライブだからアレだけど……ゆら帝の野音のライブでさ!これ使っててさ!他に派手なセットも無しで!これだけよ!これの前で、坂本慎太郎がもう!怪しさ満載でマラカスみたいなの振ってんの……シャカシャカと」
「ふへへへへ……喜んでもらえて……えへへへ」
「そのゆらゆらってアンタがぶっ壊したハンモックじゃないの?」
「……その元ネタな……ホントお前どうでもいいことばっかり覚えてるな」
「フフ…喜んでもらえてよかったね凛ちゃん」
「てえてえですねてえてえ」
「………この後に渡す僕の身になって欲しいね……なんて」
冗談めかして天知が言う。そう言えばまだプレゼントは終わりではなかったのだ。
「いやいや!貰えるだけでありがたいですよ!!」
「そう言ってくれると嬉しいね。はい、僕からは……ブルーレイボックスだよ。宅配が間に合って良かった良かった」
「え?ブルーレイって………アニメっすか!?」
黒川と天知の共通の趣味である、若干天知サイドの片思いである気もするが、とにかく二人の秘密の関係性であるアニメ趣味を全面に押し出したチョイスである。
「うっわ!しかもこれ!!セキノロやないですか!?」
「セキノロ?」
「え!?『脊椎に来るぜ呪い』ですか!?……天知さん…よくそんなマイナーなアニメご存知でしたね」
「ま、まあね。黒川くんが気に入っているのを小耳に挟んでね」
「ご自身に欠片も興味のないジャンルのプレゼントもばっちり決めるなんて天知さんの審美眼は流石ですね」
大地がここぞとばかりにズレたヨイショをする。いつまで経っても己のアニメ趣味をおおっひろげにできない天知が苦笑し、大地にプレゼントを渡すよう促す。
何のかんのしているうちに、最後のプレゼントである。「出すタイミング間違ってるでしょ」と瑠奈がぼやく。
「てゆーか大地さんまで用意してくださってたんですね。マジでありがとうございます」
「当然です。黒川さんには大いに感謝していますからね」
嬉しい反面、この女が澄ました顔をして大して親しくもない女に勝負パンツを贈る事は黒川もよく知るところである。コンドームとか入ってたらどうしようと緊張しながら包を開封すると、そこには目玉の親父が入っていた。無論、手のひらサイズのぬいぐるみである。
「へ?目玉のおやっさん?」
「ちゃちいわね、大地の感謝」
黒川と共に包を覗き込んでいた姫月が鼻で笑うが、黒川がつまみ上げた親父にはチャラチャラと何か光るものが付いている。
「ん?………何だこれ………え!?車の鍵!?」
「はあ!?」
「その通り、お車です」
「いやいやいや!!重いですっていくらなんでも!!物理的にも気持ち的にも!!富豪がボンボン息子に贈る奴ッスよ!?」
「しかも………外車じゃん。ワーゲンじゃん………あれ?」
黒川が思わず包に戻した鍵を取り上げた星畑が同じように動揺するが、車種に関して何か引っかかる。陽菜と瑠奈も何かに気づいたみたいである。
「あれ?そのキーホルダーヒナのだよ?」
「キーホルダーっていうか。その鍵自体ウチで使ってるやつじゃん。私たちの車あげるってこと?」
「そういうことです。いくら感謝してもしきれないからとはいえ、新車を差し上げるほど私は浮世離れしていません」
「え?いやでも………尚悪いっすよ。フツーにヒナちゃんの送り迎えに使ってるじゃないですか」
「そちらもご心配なく、先日新しいものに買い替えましたから」
「て………ことは…体よくゴミを処分しただけじゃない」
「いやいや……それでも買取に出せば結構な値になるだろうし…………良かったんですか?大地さん」
「もちろんです」
「あれ?でもお母さん。この前、電話で買取査定してなかったっけ?」
「『やっぱりビッグが一番ですね』って言ってたよ?」
娘二人の指摘に、静かにため息を吐く大地。
「あれは巧妙な詐欺です。お電話では調子のいいことばかり言っておきながら、実物を見せるや否や手のひらを返してあの低価格、この体たらく」
さり気なく韻を踏みながら、イチャモンをつける。
「でも綺麗じゃん。何が駄目だったの?」
「ブルーハーツに対応していないお車はお値段が安いようです。内容も分からぬままハイハイ言っていたのが仇になりました」
「………ブルータスね」
(Bluetoothな)
「あとナビ画面の周辺もボロボロだったようで…そこでも引かれちゃいましたね」
「あ~……お母さんよく叩いてたもんね」
「清々しいほど身から出た錆じゃない」
「まあ、ですが……ご使用いただく分には問題ないと思いますので、どうぞ可愛がってあげてください」
「いや、そこは全然ありがたいんですけど。何で車を新調したんですか?」
「いえ、やはりブルースリーの一つも無いお車をいつまでも使っているような古い女ではいけないと思いまして。やはり最先端を掴まなければ」チラッチラッ
(また天知さんにずれたアプローチしてるな)
「しかし…良かったな黒川。まさか車まで手に入れちまうなんて」
「おお………星畑は免許持ってねえもんな。当然、姫月も持ってねえだろ?」
「当たり前よ。運転なんて他人にやらせてなんぼでしょ?」
「えへへへ……流石エミ様ですね」
と、いうわけで何と中古とは言え車を手に入れてしまった黒川。諸々の手続きは後日改めて行うことになり、取り合えず今日のところは車は岩下家に預けたままとなった。プレゼントが終わり、面々は均等に分けられたホールのケーキを食べる。会自体はプレゼントで終了しているため、テレビをつけたりプレゼントを改めて物色したり、天知チャンスを回収したりと各々が自由な時間を過ごしていた。
ケーキを食べながらテレビを見ていた凛と岩下姉妹だが、丁度プライムタイムが終わった時間帯の為テレビはニュースくらいしかやっていない。ケーキを食べながらポチポチとチャンネルを変えていた瑠奈が、画面に映った中年男性を指さし、妹を呼ぶ。
「あ!ヒナ!ヒナ~!ラヴ・フール出てるよ~!好きでしょ!?」
「あ!ホントだ!!ラヴさん最近急激にメディア露出してますよね!!」
ひょっこり映った芸人に沸く凛と瑠奈だが、彼が好きだと言う陽菜は目の前のケーキに夢中でテレビを見ようとすらしない。代わりにチビチビとスポンジをほじくっていた星畑が顔を上げる。
「おお~………マジで人気出たんだなあの人。何だかんだこうしてテレビで見るのは初めてだぜ」
「あ!そっか!!星君がお手伝いしてた先輩芸人さんってラヴさんですもんね!!」
「うえ!!星さんこんな有名人と知り合い何ですか!?」
「いやいや……この人、数週間前まではただの地下芸人だったからな。地下に居すぎてホラ、頭に苔が生えてら」
「フフフフ……これは染めてるんでしょ」
「最近の芸人って何で急速に髪を染め始めたんだろうな。あんま似合ってないのに……」
プレゼントから顔も上げずに失礼なことを言う黒川に覆いかぶさるように、陽菜がケーキから顔を上げた。流石に好きな芸人の知り合いが身内に居るとなるとケーキ食ってる場合じゃない。
「え!……星ちゃんラヴさんの知り合いなの?え!え!ヒ、ヒナ……サイン欲しい!サイン!!」
「いいけど……この人サインに必ず『※この字は陰毛です』ってつけるぜ?」
「フフフ……私、それ持ってます!」
「ええ~……いいなあ…いいなあ」
「……こんなおっさんの陰毛に価値が付くとはやってる本人も夢にも思ってないだろうな」
いかにも星畑の先輩っぽいエピソードに苦笑しながらテレビ画面を見る黒川。画面の中ではラヴさんと思しきおっさんが「歌っている最中に脾臓を突かれたカールスモーキー石井」というこれまた星畑の先輩っぽいネタを披露している。「米米WAR」を歌いながら、叫び声を上げ、以降床に突っ伏しながらリズムに合わせて痙攣をしている。無駄にキレのある動きに不覚にも少し笑ってしまう黒川。
「フッ……ヒナちゃん好きそうだな…確かに」
しかし、そんなテレビ画面がパッと緊張感のあるニュース画面に変わる。今のネタ映像はニュース内のVTRだったようである。そしてアナウンサーが原稿を読み上げる声と共に「マグマ芸能社所属のお笑い芸人ラヴ・フール(46)後輩芸人からパワハラ告発」という見出しが画面に映る。テレビを見ていた全員がその場に固まり、声も出せなくなっている中で、特に星畑は、横目で顔を確認した凛が「ヒッ」と短い悲鳴を上げるほどに張り詰めた表情をしていた。怒っているともショックを受けているとも取れない、無表情。そう、この男が謎のこだわりで常に維持している真顔であるが、今のそれは明らかに様相が違っていた。凛の悲鳴から一呼吸おいて瑠奈が声を出す。
「え?パ、パワハラ?」
「えっと……星ちゃん?この人って」
「陽菜…ちょっと今しゃべんなニュース聞いてるから」
「ご、ごめんなさい」
今まで何だかんだ色々あって、その中には真剣にならざるを得ない緊迫した場面も何度かあったが、星畑がここまで余裕のないリアクションを取っているのを見るのはチーム結成前からの付き合いである黒川でさえ初めてである。そして同じく緊張感をもってニュースを見る。ノンシュガーズ一同の緊張感と反比例するようにニュースの尺は短かった、最近、過激な歌モノマネでヒットしていた芸人が、下積み時代に若手にパワハラ行為を働いていた。そしてそれが同事務所の人気若手芸人パリパリ無限キャベツの動画配信にて明るみになったのだ。事務所や本人への事実確認、コメントは追って伝えられると締められ、ニュースはどっかのヒマワリ園が今見ごろというモノに変わった。と、同時に星畑もコロッと元の能天気な雰囲気に戻っていた。
「はへ~……あの人びっくりするくらい杭打たれてるじゃん。怖えな芸能界。俺、一生地下でいいかもな。ごめんな陽菜。こんな身近な芸人のスキャンダル何て初めてだからよ。思わず見入っちまった」
「あ、う、うん……あの、大丈夫なのかな?」
「しらん……まあ、超大物ってわけでも好感度で売ってる人でもないんだし、別に引退も退社もしないだろ。でもまあ、テレビでは見なくなっちまうかもな」
「いいんですか星君……その…」
「いいんだよ。まあ、詳細は気になるけど……直にイヤでも耳に入るだろ。そんなことより黒川の誕プレでもらったアニメでも見ようぜ」
「あ!何たら呪いって奴だよね!ヒナも見たい!」
「………思ってるようなアニメじゃないよ?」
何事もなかったようにニュースはアニメに変わる。そして黒川イチオシアニメが他全員からダダ滑りしたところで、一同はシェアハウスに帰ることになった。その頃には、黒川はすっかり、件のパワハラ報道のこと等忘れていた。
5
翌日、いつもは10時半ほどまでダラダラと眠る黒川が8時半に起床した。星畑にたたき起こされたのだ。
「な、何だよ……」
「黒川。俺とコンビ組もうぜ」
「ハア?………何寝ぼけたこと言ってるんだよ」
「いいから。コンビ名はお前が決めていいぜ」
「いやいや……何のボケだよ。説明しろって」
「…………昨日のニュース覚えてるか?」
「ああ~……ヒマワリ園って映画とかだと馴染みあるけどリアルで行ったことある人少なそうだよな」
「それじゃねえよ!珍しくボケやがっててめえ!やる気満々じゃねえか!!」
「………やっぱ気にしてたの…あのラヴ・フールって先輩の事」
「まあな」
「それで……気になるのは分かるけど何で俺とお前がコンビ組むってことになるわけ?」
「あの人が所属してるマグマ芸能がな…今週末、漫才コンビのオーディション開催するんだよ。芸歴10年未満だったらプロアマ問わず参加可能の奴。そこでいい成績出したらマグマ芸能に顔が聞いて、何かとコネクションが付くんだと」
「………もしかしてお前、それに俺と出て……マグマ芸能に潜ってパワハラの真相を掴もうってんじゃねえだろうな」
「さっすが!!察しがいいじゃん!!」
「アホか!!遠回り過ぎるだろ!!端から知り合い何だからそのラヴさんとやらに連絡取ればいいじゃん!」
「俺が調べられることに関してはもうとっくに調べてるよ。ラヴさんにもほぼ気配り連絡みたいなもんだけど連絡したし、他の仲間にも聞いた。それに、そのシャキシャキの告発動画も見た」
「……パリパリじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?まあ、あの人らは所謂ゴシップ芸人で……ラヴさん自体とそこまで面識があるわけでもなく、ただ仕入れたゴシップを話しただけって感じだな」
「………てことはパワハラ被害者ではないってことか」
「まず初めに断言しとくけどな。あの人はパワハラなんて絶対しねえ。つまり被害者何ていねえ。いるのは人気芸人にあやかる為にありもしないゴシップ捏造して垂れ流したマグマの若手芸人だ」
「………そいつらは誰かは」
「分からん。流石にぼやかされてたし、俺の伝手で知ってる人は一人もいねえ。ただコンビで若手で同じ事務所ってことは分かった。『事務所内の新人歓迎会でコンビ丸ごとやられた』ってほざいてたらしいからな」
「……んで…それを探るために俺とコンビって……アホかよ!俺が面白くねえことは昨日のアニメセンスでも明るみになっただろうが!そもそもやりたくねえし!」
「…………お前ってよりも……Uに話したんだけどな」
「…………う」
「俺は何かと知ってるんだぜ?Uが俺らに何かしら芸能関係の事をして欲しいってのも、姫月に500万払っちまって若干財政難なのも……」
そう言ってニヤリと笑う星畑。数秒後、返ってくるUからの返事を待つよりも早く、黒川は芸人になることが確定したことを覚悟し、寝癖がかった頭を抱えた。
今回は箸休めみたいなもんですが、どうせならと色々と新要素っぽいものを組み込んでみました。もちろん全てその場のノリでやっただけなので活かせられるかどうかは不明です。
では、また次回お会いできることを心からお待ちしております。