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この甘くない世界でこれからやっていくわけなんだけど  作者: 破廉恥
ガキのパクリやあらへんで!
41/60

その①「月の光にじゃまされてあのこのかけらは見つからないコト」

・登場人物紹介

黒川響くろかわ ひびき 性別:男 年齢:20歳 誕生日:6/25 職業:大学生

本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。

☆ガキ使で一番好きなのは山崎のガキ卒業。メンバーで一番好きなの松ちゃん。


星畑恒輝ほしはた こうき 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人

黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。

☆ガキ使で一番好きなのは板尾回。幼少期は本当に嫁が外国人だと思っていた。


須田凛すだ りん 性別:女 年齢:20歳 誕生日:5/25 職業:大学生

男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。

☆ガキ使で一番好きなのは我が田中。理不尽タイキックされたい。


姫月恵美子ひめづき えみこ 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職

スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。

☆ガキ使で一番好きなのは笑ってはいけない。ていうかそれ以外イメージがない。


天知九あまち きゅう 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職

元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。

☆ガキ使で一番好きなのはこれやってみたかってんシリーズ。特にパスタと茶碗蒸しが好き。


岩下陽菜いわした ひな 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生

女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。

☆ガキ使で一番好きなのは食べ尽くし企画。めちゃくちゃ参加したい。


ゲスト

加賀正人かがまさと性別:男 年齢:9歳 誕生日:10/25 職業:小学生

陽菜と同じクラスのガキ大将。陽菜を目の敵にし、ちょっかいをかけていたが色々あって和解。わんぱくで腕っぷしも強い反面、マイペースな陽菜にドギマギさせられる初心な一面も。


 こんにちは。最近初めて章設定という本サイト様のありがてえ機能を知りまして、早速使ってみました。それに伴いサブタイトルが短くなりましたバンザイ!ついでに前々から変えたいと思っていたサブタイを一部思い切って変更しました。「シェアハウス〜」から「〜の宮殿」になったわけ、勘のいい方ならお分かりになるかもしれませんね。


1




 ノンシュガーズの住むシェアハウスに訪れた惨劇ともいえる出来事。時折夢くらいには見るかと思った黒川だったが、意外にも殿川の時ほど、事件が彼の中で尾を引くことは無かった。無論、顔の傷は痛いし、物置を見るたびにあのイヤな匂いがフラッシュバックして来るが、そこまでそれがトラウマという形でのしかかってくることは無かった。おそらく自分以上に凛や姫月が何かしら深刻な傷を、内外問わず負ってはいないかとヤキモキしていたことが功を奏したのだろう。自分のことを案じれるほど余裕が無かったのである。嬉しいことに、一番の被害者である姫月は普段と変わらずシレっとしているし、凛に至っては熱に侵されていたことでかえって事件時の記憶がぼんやりとしているらしい。黒川の心配も無事、杞憂に終わりそうである。


 そして、6月も終盤に差し掛かろうというある日の真昼。梅雨から一転、ジッとしているだけで汗ばむうっとうしい季節になって来たにもかかわらず、シェアハウス内の姫月の顔は至って涼しそうである。テレビルームのソファを独占し、ガンガンに冷房を効かせているのだから当然と言えば当然だ。おまけにその横では黒川がうちわを仰ぎ、凛がせっせと冷たい飲み物やおやつを用意しては運んでいる。二階から降りてきた天知がそんな姫月の優遇っぷりにぎょっとする。


「須田さんがアレコレしてるのは珍しくも無いけど……黒川くんまで……どういう風の吹き回し?」


「ハハハ………ちょっとね……日頃の感謝を込めてですよ」


「ふうん……まだ顔の腫れも引いていないんだから、あんまり無茶をしてはいけないよ?」


「ちょっと……天知。そこにいるならアイスコーヒー作って。凛が作ったのマズい」


「えへへ……すいません……」


「やれやれ……まるで一国のお姫様だね」


 溜息を吐きながらも素直にコーヒーを用意する天知。例の騒動関連で、黒川があんまり姫月に謝ったり感謝したりを繰り返すものだから、鬱陶しがった彼女から「一週間こき使う事で貸し借りなしにしてやる」と提案をされたのだ。単なる体のいい召使いになった気はするが、感謝してもし足りないのは事実な為、黒川は喜んでこの提案を呑むことにしたのである。


「………寒くなって来たわね。もう団扇いいわよ」


「はいはい」


「じゃあアイスコーヒーもいいかな?」


「それはいるわよ。凛!アンタボ~っとしてないで自分から仕事探しなさい!」


「うぇ!?す、すいません!!………ううう……その言葉嫌い」


(平和だなぁ………)


 こんな何気ない日々を平和と感じてしまうと言う事は、やはり例の事件から良くない影響を受けているのかもしれないが、和やかな気分なのは間違いない。姫月も凛をどやしてこき使っているが、機嫌自体は良いのかいつものような不満顔ではなく、ある程度リラックスしている表情である。黒川が流している音楽に合わせて鼻歌まで奏でている。


「姫ちゃん。えらくご機嫌だね」


「フフフフ……そりゃあ浮かれもするわよ。あの騒動が丸ごと放送になったとすればギャラがっぽりよ?凛、アンタも買いたいモノに目星つけときなさい」


「そう言えばそのことを忘れてました!エへへへ…どうしようかなぁ…レコードがっぽり買おっかなぁ」


「私は仁丹ランドを貸し切りにするわ。ドカッと遊びましょ」


「わ~!最高ですね!」


(そこまでは出ねえだろ)


 すっかり遊園地の虜になった姫月が浮ついた提案をし、黒川がまたも和やかな気持ちで苦笑する。酔いしれたいほどの平和な時間だったが、夕方になりシェハウスに帰って来た陽菜が何やら大層不満顔でブスッと部屋に入ってくる。そしてジトッとジュースが変なところに入ってむせている姫月を睨む。


「何よ?」


「…………エミちゃん……とんでもないことしちゃったね」


「は?何がよ?」


「ヒ、ヒナちゃん?エミ様が一体何か?」


「あみんちゃんがおかしくなっちゃったんですけど?」


「誰よ?」


「お友達かな?」


 いつまでも要領の得ないことを言う陽菜に天知が質問をかぶせる。


「うんそう……あみんちゃん……すっごい真面目で優しくて……頭のいい人だったのに何かぐれちゃってるんですけど?」


「それが何よ?私関係ないじゃない」


「困ってるんですけど」


「だ~か~ら!そんな奴がどうなろうが私には関係ないでしょ!?大地みたいな言いがかりつけないでくれる?」


「…………そのぐれ方がエミちゃんみたいなんですけど?」


「知るか!!とばっちりもいいとこよ!………ていうか別に私グレてないわよ!」


「まあ、小学生がお前みたいだったら十分グレてるだろ」


「…………もしかして……この間、遊びに来てくださってた子たちですか?」


「あ、うん……そう。あみんちゃんもいた」


「ああ………あの雨の日の……今思えば、不審者が隣の部屋に居るというとんでもないホラー体験をあの子たちにさせちゃってたんだな」


 数日前、姫月を襲った侵入者がまだひっそりと物置内で身を隠していた時に、雨宿りの為陽菜が数人の友人を連れてきていたのである。あみんちゃんとやらもその中の一人のようである。


「それって……私の影響受けたって言いたいわけ?そのガキどもが?」


「うんそう。まあ、変わったのはあみんちゃんだけだけど」


「………だったら悪いのアンタじゃない。アンタが私のこと言いふらしたせいで私は命狙われたんだからね」


「へ?命?」


「………別に何でもないわよ。それで………私に何して欲しいってわけ?」


 尚も(何故か)深刻そうな陽菜がもったいぶった口調で説明を始める。話によると、今日の朝、学校についた時から彼女はおかしかったらしい。




                      2



 鎌倉あみんはクラスの大人しい女子たちの中でも一層大人しい女子だった。それこそ大人しすぎて変にからかったらいじめと化してしまう恐れがあり、ワンパクキッズ代表の正人でさえも一度もちょっかいをかけたことが無いほどである。しかしジャンル問わず読書家な優等生であり、ジャンルに偏りこそあれど同じく本の虫である陽菜とはクラス一の仲である。


 そんな陽菜がいつも学校でしている奇妙な知り合いに関する話の中で、仲良しグループは姫月の話題に特に喰いついた。最も行動がエキセントリックで、陽菜個人の熱量が高いこともあり、注目を浴びるのも必然であったが、それでもあみんの喰いつきは尋常ではなかった。今まで口を開けばおすすめの本についてばかり話していたあみんが、今では姫月に関することしか聞いてこない。初めは聞かれれば聞かれるほど意気揚々と語っていた陽菜も、流石に他のメンバーの話もしたくなり「凛ちゃん」「お兄ちゃん」「カッコイイ星ちゃん」の話題も出してみるが、途端に生返事になってしまう。「お兄ちゃん」の話題に関しては、話すたびに「その人誰だっけ?」と返される始末である。


 そんなあみんがいよいよ本日をもって、完璧におかしくなってしまったのである。学校についた陽菜は、風邪で休んでいた時プリントを届けに来てくれたことのお礼をするため、決まって自分の席で本を読んでいるあみんを探すのだが、見当たらない。「教室にいないのかな?」と廊下を探すが、またまた見当たらない。すると、珍しく正人が教室で声をかけてくる。幽霊騒動時にバディを汲んで以来、ちょっかいもなくなり割と親睦の深い二人だったが、典型的男子小学生である正人は学校内ではあまり陽菜(女子)に声をかけてこないのである。


「あ、正人くん。おはよう。学校の中なのに話しかけても良いの?」


「……いつも学校外ならベラベラ喋ってるみたいな言い方すんなよ。まあいいや。なあ、鎌倉の奴どうしたんだよ?」


「あみんちゃん?やっぱりお休み?」


「いや……来てるぜちゃんと。まあ、気づかねえのも無理ねえか……ホラ、あの窓側でニヒルな顔してる真っ黒な服の女いるだろ?あれだよ」


「うっそだぁ……だってメガネかけてないもん」


「……お前、鎌倉の事メガネで認識してたのか?……で、でも事実そうだよな!何で突然あんなイメチェンしてるんだ?」


 正人に促されるまま、あみんちゃんと言われている黒服の少女に声をかけてみる陽菜。すると近づいた瞬間に凄まじいにらみを利かせられる。思わずビクッと身を震わせる陽菜だったが、どうも本当にあみんで間違いないことが分かり、一先ず落ち着いた声で話しかけてみる。


「あみんちゃん……おはよう」


「ん」


 こちらの顔も見ずに素っ気なく挨拶を返すあみん。いつもなら少し照れたような笑顔でキチンと「おはよう」と言ってくれるのに。


「………昨日、プリント届けてくれてありがとう」


「そうね。手間賃として100万円くれる?」


「え?」


「…………払えないなら肩もみで許してあげる」


「え、あ、うん………ありがとう?」


 言われるがまま、あみんの一ミリも凝っていない肩をもむ。教室内でちょっとした権力者である陽菜に、よりにもよってあみんが肩を揉ませているという事態に、周囲がざわつく。


「うそ………ヒナちゃんが肩揉んでる」

「あれってやっぱりあみんちゃんじゃないんじゃない?」

「中身が凄腕の米兵とかと入れ替わったんだろ?俺は詳しいんだ」

「そう言えば、今週の呪術見た?激熱すぎん?」

「俺、ジャンプ買ってもうたもん」

「あ、男子が漫画持ってきてる~!」

「うるせ~スタンリーキューブリック!!(※仇名)」


 生徒たちの混乱は激熱だったWJのおかげで事なきを得たが、朝の会になって担任が教室に入り、再びざわつきが起こる。

 あみんがどっかりと足を組んで腕組をしながら座っているのである。丁度、あみんの背後に貼ってあるポスターの「よくない姿勢」とシンクロしている。今までは「よい姿勢」とシンクロしていた彼女に何があったのか。陽菜でなくても気になるところである。


「か、鎌倉……何だその姿勢の悪さは?新手のギャグか?」


 あまりに急な態度の悪さに担任もしかるにしかれない。


「………ギャグなわけないでしょ!」


「そ、そうか!すまん!!」


 あまりにも生意気な口を聞かれてしまったが、あんまり急だったのでまたもや相応しくない反応を取ってしまう教師。教師歴12年の勘が、彼女は少し早めの「そういう時期」が来てしまったのだと直感を働かせ、結局姿勢も言動も不問にすることにした。その後は、生徒も教師も、時折横目であみんの様子をうかがいながら、ぎこちなく朝の会を終えた。その後の話題は当然、あみんのイメチェンが独占する。


「鎌倉すっげえ……山川先生(やません)気圧されてたぜ?」

「メガネ外した顔始めて見たけど……けっこうカッコ良くない?」

「でも…………何であんなに目つきが怖いのかな」

「ちょお前ら!えぐいえぐい!!二組のきのぼーがうんこしとる!!」

「ひょほおおおおお!!うんこ×13!!」

「男子サイテー!きたなーい!」

「うっせえ!!メタモルフォーゼ!!(※仇名)」


 不覚にも排便が明るみになってしまった男子のおかげでまたも話題は流されたが、流すに流しきれない陽菜は仲良しグループに相談することにしてみた。しかし、どうもグループ内でもあみんは陽菜くらいとしか満足に交流をしていなかったらしく、他のメンバーはそこまで彼女の変化を気にしていないようである。そんなグループを若干薄情に想いながら、陽菜は思い切ってあみん本人に突撃してみることにした。大方、彼女が誰に影響を受け模倣しているかは分かる。


「ねえ……あみんちゃん。それってもしかして……エミちゃんのマネ?」


「真似ではないわよ!………でもそうね。アンタになら打ち明けてあげるわ。そうよ!私は今までの雑魚な自分を捨てて、あの御方のように気高い存在になるの!」


「フーン…………そっか。私はいつものあみんちゃんの方がいいと思うけど」


「アンタにそんなこと言われる筋合いはないけど!」


「……………分かったよ。じゃあエミちゃんのマネッコ頑張ってね…………エミちゃんは授業を真面目に受けてたんだよ。あみんちゃんも真面目に受けた方がいいよ」


 明らかにご不満な様子で陽菜がその場を去る。すると、今度はうんこ星人狩りを終えた正人が声をかけてくる。


「なあ、鎌倉のアレさ……お前んとこの姫月さんのマネしてるんじゃねえ?」


「そうみたいだね。全く似てないけど」


「そうか?結構それっぽいと思うけど?」


「ハア………あみんちゃんも正人君も全くエミちゃんを分かってないんだね」


 やれやれと溜息を吐く陽菜。どうもあみんが様変わりしたこと以上に、様変わりした元ネタへの解像度が粗いことが気に食わないようである。


「何だよ、何かムカつく言い方だな……まあでも確かにあの人のマネするのはムズイかもな。鎌倉にはあんなに容赦のない暴力は無理だろ?」


「…………目つきを悪くして、態度を悪くして、暴力をふるえばエミちゃんになれると思ったら大間違いです。出直して下さい」


「……………」(ポカッ!)


「い、いた!!……何でブツの!?ま、正人君のボーイッシュ!!」


「いや……何かムカついて……今のひょっとして悪口か?」


「ううう……正人君に対しては冗談だったのに……でも、今のままじゃ絶対よくないよ……ホントのエミちゃんを良く知ってもらって……もっといい形で憧れてくれないと……あみんちゃんせっかく頭よくて優しい良い子なのに…あの態度じゃダメだよ」


「へっ!!ゆーとーせーなこった!」


 思い出したように憎まれ口を叩いて男子の世界に帰る正人。陽菜は少し背伸びして、背後から彼の服の襟をつまむ。


「ひゃ!!……な、何だよ!?」


「…………ユキちゃん(女友達)から聞いたんだけど……私が休んだ日の私のプリン勝手に食べたってホント?」


「…………だったら悪いかよ」


「……………えい」


 むすっとした顔でそのまま正人の襟をぐい~っと引き延ばす。ただでさえ若干ヨレヨレだった彼のTシャツの首元がかっぱり伸びてしまう。恐ろしい報復である。


「何しやがる!!……俺ん母ちゃんキレたらヤバいんだぞ!!」


「ヒナのお母さんの方が絶対怖いです」


「あ~そうだな!お前不細工な顔して泣いてたもんな!!『ぶひぇ~ん!せんせぇ~に嘘ついちゃった~!ごめんなさ~い!!』って!!」


「///~~~~~~~~ッ!!」


 顔を真っ赤にして正人の服を引っ張る陽菜と、そんな彼女の必死な反応に満足そうな正人の年相応な掛け合い。もはや学校内で喋りかけてはいけない暗黙のルールなどお構いなし状態である。


 


 

                  3



「………つまり……陽菜ちゃんの友達のあみんちゃんって子が姫月に影響を受けすぎてキャラ変っちゃったってことか……一足早い中二病だな」


「やっぱり私関係ないじゃない」


「そうだけど………このままじゃあみんちゃんにも絶対良くないよ。それに…あんなのちっともエミちゃんじゃないし」


「アンタが私の何を知ってるってのよ」


「そもそも……エミ様に憧れこそすれ、本当にリスペクトしてるならまかり間違っても猿真似なんてする気になれないと思いますけどね。エミ様はオンリーワンなのです!どこにでもいる高飛車なだけの女じゃないんですよ!」


「アンタはもうちょっと私を見習って寡黙になりなさい」


「ハハハハハ……姫ちゃん大人気だね」


「私に欠点があるとしたらカリスマ性をセーブできない所かしら……まあ、どれだけ抑えても溢れちゃうのが本物って奴なんでしょうけど」


 胸に手を当ててドヤる姫月。ドヤ顔のままチラリと黒川の方へ目線を向ける。ドヤ月をにこやかに見ていた黒川は意図せず目線が合い、軽く動揺する。


「な、何?……急にこっち見て」


「いや………てっきりまたアンタが鬱陶しい茶々入れてくるのかと思ったんだけど」


「そう言えばそうだね……今日は姫ちゃんに突っ込まないのかい?」


「いや…………まあ、俺向こう一週間くらいは姫月の下僕ですし……慎んだだけですよ」


 永続的か一時的かは分からないが、ただいま姫月の漢気に絶賛惚れこみ中の黒川に彼女をとやかく言う事はできない。代わりに陽菜に話を振ってみる。


「そんで陽菜ちゃんは何か考えてるの?その……あみんちゃんを更生?……キャラ戻し?…させるための算段というかを……」


「考えてるって程じゃないけど……一先ずホントのエミちゃんを知ってもらうのが先かなって」


「はあ?……アンタ、それってまさか」


 そのまさかである。翌日の放課後、陽菜はシェアハウスにあみんを連れてきた。エミちゃんを知るにはエミちゃんと触れ合うのが一番だという陽菜の独断で、嫌がる姫月を引っ張り出しあみんとエンカウントさせた。ちなみに呼んでもいないのに、凛まで姫月の背後からコソコソライバルを観察しに行く。


「あ!!お姉様!」


「「おねえさま!?」」


 キョロキョロと家具や植物を見ていたあみんだが、ものすごくしかめっ面の姫月を見るやぱぁーっと顔を輝かせる。まさかのお姉様呼びに驚愕する陽菜と凛だが、反面、姫月はしかめっ面を解き、駆け寄って来たあみんを両手で迎え入れる。その意外な行動にまたも驚く陽菜。


「なんだ。あみんってアンタだったの?」


「はい!フフフ…お姉様!以降お体はご支承ないでしょうか?」


「え………エミちゃん何でそんな仲良さそうなの?」


「別に仲良くはないわよ……ただまあ、そうね……この前入ってきたクズの掃除に一役買ってくれたのよ」


 そう。何を隠そう、あの時死の縁に立たされていた姫月を助けてくれた陽菜の友達というのが他でもないあみんだったのである。一役どころか命の恩人なのである。


「え!?……あ、そうだったんですか……それは…ありがとうございます……」


 呆気にとられながら、同じく命を救われた身である凛が頭を下げるが、途端にあみんはコロッと態度を変えてしまう。


「別にアンタを助けたわけじゃないわよ」


「ひょ………す、すいません」


「あ、また………強く当たっちゃ駄目だよあみんちゃん」


「今のが私の真似ってやつ?」


「真似ではないです!……あくまで私が勝手に憧れてお姉様のように気高く生まれ変わろうとしているだけです!」


「…………それをマネって言うんだよ」


「ふーん……ま、ちゃんとわきまえてはいるみたいだし、別に好きにすればいいんじゃない?じゃ、私は部屋戻るから……」


「あ……あの、これ………」


 モジモジとしながらあみんが何かを手渡す。箱の中には小さな苔玉が入っていた。


「…………南天…私にくれるの?」


「は、はい!」


「………まぁまぁいい形ね……どこで買ったの?」


「えと………近くのホームセンターのワゴンです」


「へー…あんなところもっさいのしか無いと思ってたわ……ありがと。玄関に置いとくわ。南天は縁起物だものね」


「は、はい!金運アップです!」


「エミ様が…………お礼を!?」

 

「ヒ、ヒナより……なんかいい感じの会話してる……」


 苔玉パワーか命の恩人パワーかは分からないが、姫月は尚も明るいリアクションを取っている。おまけに部屋に戻る姫月に「お勉強させてください!」と引っ付いても特に煙たがることもなく自分の部屋に招いてしまった。最も、姫月は早々にベッドに寝転んで雑誌を読み、あみんは部屋の隅でジッと正座しているだけではあるが。姫月の部屋の前で聞き耳を立てたのち、陽菜と凛の2人は、端にある凛ルームに引っ込む。無表情の陽菜の内心は読めないが、横の古株下僕は何とも面白くなさそうな面持ちである。


「ううう~………私が部屋に入ろうとしたら烈火のごとく怒るのに……何であのあみんさんはあんなに心開かれてるんですか……」


「それは分かんないけど……エミちゃんとあみんちゃんが仲良くできてるならいいんだけど……せっかく家に来たのに何にもしないのかな?……つまんないの」


 陽菜がぼそりと不満を漏らす。せっかく友達が来て、大好きなお姉さんもいるというのにその二人が部屋でジッとしているだけという現状に膨れているのである。一方の凛はそんな陽菜の不満を知ってか知らずか、急速に距離を縮めているあみんのことが気にかかる様子。


「………でも……確かに……ヒナちゃんのおっしゃっていたこと……分かった気がしますよ。あの子はちょっと認められませんね……みすみす見逃しておくと……とんでもない抜けがけをされちゃうかもしれません!」


「………ぬけがけ?……私そんなこと言ってたっけ?」


 あみんが姫月に憧れたことで単に素行が悪くなってしまっているだけなことを危惧していた、友達想いの陽菜と違い、100パーセントシンプルなジェラシーを燃やす凛。


「ヒナちゃん!」


「なあに?」


「私も協力します!!一緒にあみんさんを普通の女の子に戻しましょう!」


「う、うん……ありがと凛ちゃん」



                  

                      4



 凛と陽菜が目的地以外全く異なるルートへ向かう為の結託をした横の部屋、天知ルームでは黒川と天知がジッとテレビ画面とにらめっこをしている。画面にはキャピキャピとした少女たちが桃色の会話を繰り広げていた。隠れアニメ好きという天知の一面をメンバー内で唯一存じている黒川を誘っての鑑賞会が開かれているのである。


(天知さんがおすすめするアニメって聞いたから……涼宮のハルヒとかヴァイオレットのエヴァーガーデンとかの王道名作系かと思ったけど……意外も意外…萌え萌えの日常アニメじゃねえか。大人と一緒に見るのなんか気まずいぜ。共感性羞恥って奴か?)


 チラリと天知を横目で見たところ、目が合ってしまう。ニコニコと穏やかな顔でアニメを見たいた天知が同じく穏やかにニッと笑いかけてくるので、黒川も咄嗟に不器用な笑顔を返す。画面の向こうでは廊下で転んだ冴えないオタク女子高生が「ぎゃぷぴょ!!」とおよそ人間から出ないであろう素っ頓狂な悲鳴を上げている。転んだ拍子に鞄からこっそり描いていたBL漫画が零れてしまいそれが同級生のギャルに見つかってしまう。慌てて言い訳をしようとする冴えないオタクだったが、ギャルはそんな彼女に「絵が上手いなんて知らなかった」「これなんて漫画?」などの肯定的な意見を出して受け入れる。おまけにトントン拍子にギャルと共に下校することになり、友達がいなかったオタク女子は歓喜する。


(ありがちな展開だな……それを声優の豪華さとネットミーム盛り込みまくりの面白脚本でカバーしてるって感じか。でも最近のこの手のアニメって……エロの要素は同人とか二次創作に任せて、本編では徹底的に毒っ気のない仲良しカップリング劇場に力入れてるんだな……もはや作品というより、オタクがクリエイトするための素材と化してるよなアニメって……)


 うざったい批評からくっさいサブカル分析にまで飛躍して、ああだこうだ考えている黒川であるが、本音ではこの手のアニメは嫌いではない。一時期はハードなシナリオのモノばかり追いかけていた黒川だが、今では一転して、アニメではこういった緩いものばかりを追っているのである。

 そうこうしているうちにアニメでは登場人物がドカッと増え、それらが余すことなく主人公の友人になる。その中にはオタク主人公の会話についていけるレベルの女子もいたことで、主人公の環境はいよいよ華やかな物に代わる。つい先ほどまで自室のイケメンフィギュア相手に会話の練習をしていたキャラクターとは思えない栄転である。


(……んでもって話の展開速いな~……とことんストレスフリーに作られてんな。しっかし天知さんホントにこれを楽しめてんのかな?10〇分で名著とかブ〇タモリとかが好きな畑の人なのに)


 などと考えながら、横目で天知を見てぎょっとする。何と画面の中の楽しそうな主人公に熱い視線を送る彼の目から、一筋の涙が垂れているのである。


(!!?)


「………………よかった。よかったよ…ほんとに」


「あ、天地さん?」


 野暮と分かっていながらも、思わず声をかけてしまう黒川。天地は若干、恥ずかしそうに涙を拭って微笑む。


「分かってるんだけどね……毎回ここで泣いてしまうんだ」


「はあ………」


「不安だったけど、楽しみだった学園生活がね……そのために彼女が行ってきた努力が……最高の形で報われたんだ。見てくれよ。この素晴らしい彼女の笑顔を………」


「あ……なるほど。すいません。なんか変なリアクションしちゃって……何か恥ずかしいっすよ。余計な邪念に溢れてた俺が」


「邪念?………いや、全く問題ないよ。やっぱりこんなおっさんが女子高生の日常を盗み見てニヤニヤしてたら気持ち悪いだろう」


「い、いや……そういうもんでしょアニメって。全然恥ずかしいことじゃないですよ。それに……なんか安心っていうかやっぱ天地さんはいい意味でブレないな~ってちょっと感動したくらいですもん」


「そ、そう?……僕らしいってのがよくわからないけど」


 アニメが三本分終わったところで小休止をしていると、隣の部屋からドッと声が聞こえてくる。凛と陽菜がきゃいきゃいはしゃいでいるのだ。


「………………なんか隣騒がしいッスね」


「そうだねえ……昨日言ってたあみんちゃんって友達が来てるんじゃないかな」


「それは間違いなさそうですけど………聞こえる声は凛ちゃんと陽菜ちゃんのだけだけど。しかも馬鹿に声でかいな。いつもそんな騒ぐタイプじゃないだろ」


「そうだねぇ……陽菜ちゃんはホントにはしゃいでいるみたいだけど。須田さんのは少し演技臭いね」


 さて、その騒がしい2人は何をしているのかというと……単なるトランプ遊びである。しかも二人でババ抜き。ジョーカーの在りかが丸わかりのゲームで何故そこまではしゃいでいるのか。おまけにきゃいきゃい本当に楽しそうに笑っている陽菜と違い、凛はどこかぎこちない。


「アハハハハハハ!!凛ちゃん!変だよ!そんなのちっともポーカーフェイスじゃない!」


「あはははははは!!そうですねぇ!!えへへ……いやー!!なかなかヒナちゃんのように上手くはできませんよぉ!!」


「えっとぉ…………こっちかな?……えい!!……あははは!!やっぱりこっちがジョーカーだ!!アハハハハ!!」


「えへへへへへへへ!!わざとジョーカーを引かれちゃってますぅ!!こんなに手加減してもらってるのに未だ勝てるビジョンが見えてきませぇん!!」


「アハハハハハハ!!」


「あはははははは!!」


「…………………」


(…………………ちゃんと聞こえてますかね?)


(……うん。天知さんの部屋越しだけど……聞こえてると思うよ。そのうちあみんちゃんもこっちが気になってくるはず)


 わざとらしいほどのはしゃぎようではなく、わざとだったようである。大声で向こうの気を引いて、こっちの部屋に引きずり込もうという算段のようだ。天岩戸作戦と名付けられた陽菜考案の策だが、もう何ゲームも盛り上がり続けているのに一向に反応はない。


 その姫月ルームでは相変わらず隅でモジモジしながら姫月をお勉強しているあみんと、雑誌を開けた状態のまま眠っている姫月が打って変わって静かな空間を作り出していた。陽菜達の声は聞こえてこそいるが、窓の外の公園ではしゃいでいる子どもたちの声同様、単なるバック音でしかなかった。しかし、しびれを切らして本気を出した陽菜が力いっぱい張り上げた声はよく通り、ウトウトしていた姫月の意識がパチッと覚める。そして陽菜の声より先に隅でジッとしているおかっぱの少女に目がいき、ぎょっとする。


「うわ!びっくりした!アンタまだいたの?………ヒナが言ってたアレに見えたわ…ホラ何か幸運がっていう……えー……へちまたわし?」


「………座敷童……ですか?」


「あ~そうそう。やっぱヒナの友達だけあって妖怪も詳しいのね」


「いえ……有名な妖怪ですから……その、迷惑でしたか?」


「別に、植木が一つ増えたみたいなもんだしいいけど……アンタそれ楽しいの?ヒナと遊んできなさいよ。あのカタツムリが目障りなら軽く塩降れば消えるわよ」


「い、いいんです………私はこうしてる方が……ヒナちゃ……ヒナの奴もお姉さまをよく勉強しろってえらそーに息巻いてここまで連れてきたんですから」


「フーン………言っとくけど何もしないわよ?」


「いいんですいいんです。ありのままを見せていただければ」


「質問攻めしてこない分、凛よかマシだけど……高校時代を思い出すわね」


 そして、本当にそのまま夕食まで何もしないまま時間が過ぎ、遂に陽菜は見送りまであみんとも姫月とも会えなかった。



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 その翌日も、更にその翌日も、あみんはシェアハウスにやってきて同じように姫月との蜜月を過ごした。その間中、陽菜と凛は、デザートを用意してみたり、オカルト一色の自分の蔵書では駄目だと黒川や天知の稀少本を引っ張り出してちらつかせたりとあの手この手であみんを姫の間から引きずり出そうとするも、効果はまるでなかった。


「………た、大変だ!エミちゃん!凛ちゃんが……凛ちゃんが死んじゃった!!」


 凛に死んだふりをさせ、注目を引こうとしてみるも、またも無視されてしまう。


「みて!ダイイングメッセージまで残してるよ!何か恐ろしい事件が………」


「………アンタのお芝居ごっこには混ざらないっていつも言ってるでしょ?」


「う……お芝居じゃなくて…本当に死んじゃった………かも」


「フーン………」


 サディスティックな笑顔を浮かべて、凛のお腹を踏む姫月。「ぎゃぷぴょ!!」と叫んで跳ね起きる凛を見てゲラゲラ笑いはするものの、また己の部屋に戻ってしまう。あみんも当然、その後についていく。


「………アイツ……何わけわかんないことしてんだろ?」


 わざと棘のある口調で吐き捨てるあみんを無視して、姫月は枕だけ持って一階に降りる。


「あ……今日は一階でお過ごしになるんですか?」


「別にどこにいてもいいでしょ?アンタこそ、また今日もずっと金魚のフンしてるつもりなの?」


「え……あ、ご迷惑……」


「じゃないっつってんでしょ…別に私からすりゃいないも同然なんだから」


「あ……すいません」


「なんで謝んのよ。アンタがいいなら別に好きにすればいいじゃない。何を勉強してんのかも何が楽しいのかも私にはてんで、わけが分かんないけど」


「えと……じゃ、じゃあ……少し…ご質問をしても」


「嫌」


「あ………はい」


 お姉様にバッサリ切り捨てられ、少しシュンとなりつつも、結局やることは変わらない。その時、黒川が大学から帰ってくる。


「あれ?……姫月珍しいな?下で寝てるなんて……」


「どこで寝てても…」


「ハイハイ…お前の勝手だな」


「ん」


「うわっ!びっくりした!……い、いたんだあみんちゃん。い、いらっしゃい」


 お姉様にやたらと馴れ馴れしい謎の男を睨むあみん。その男、黒川はここ数日で女性陣の大まかの動きは理解していた。


(……なんだかんだで姫月とあみんちゃんが部屋から出てきてんじゃん。陽菜ちゃんチャンスだぜ…あれ?ひょっとして…だから姫月、一階で寝てんのか?)


 そうこう考えながら自室に向かっていると、天知が部屋から手招きをしている。やけに嬉しそうである。


「天知さん……どうしたんですか?」


「黒川くん知ってた?今、須田さんと陽菜ちゃんが姫ちゃんを取り戻すためにアレコレかわいいことをしているんだよ?」


「ハイハイ。やってますね何か……もしかして天知さんも陽菜ちゃんに本貸したんですか?」


「ああ……まあそれはいいんだどうでも。それより、何か今の状況……アニメの世界みたいでドキドキしないかな!?」


「え……あ、まあ~……そうかも……しれませんね。何か初めてシェアハウスドキュメンタリーっぽいアクシデントに見舞われてるって言うか」


「だろう!?……いや~………何だか微笑ましいというか……おじさん心が跳ねているようだよ」


「心がピョンピョンするんじゃ~って奴ですね?」


「?」


「あ……すんません何でもないです」


「あはは……ごめんね。僕、疎くって……それよりも、陽菜ちゃんたちは今アプローチを仕掛けるのがベストだと思うだけど。何にもしないのかな?」


「そうですよね。また頓珍漢な作戦を練ってるんでしょうか。もはや陽菜ちゃんと凛ちゃんが何をしたいのかもよく分からないですけど」


「僕の勝手な考えだけど……陽菜ちゃんは単にあみんちゃんと遊びたいんじゃないかな?せっかく自分の家に来てくれたのに自分よりも目上の身内に友達を取られちゃう……あの何とかって牛乳少年の二の舞は嫌だってね」


「あ~……なるほど……じゃあ凛ちゃんは?」


「そりゃあシンプルに……姫ちゃんが取られちゃったからやきもちを焼いてるんだよ」


「ふ~ん……何かそんなに、あみん姫月コンビも言うほど仲良さそうには見えませんでしたけど。凛ちゃんの方が普通に関係性ではリードしてるでしょ?」


「ハハハ……姫ちゃんが須田さんに冷遇を貫いているのも大きいかもだけど……何より絆の太さなんて自分自身では皆目見当がつかないものなんだよ」


(でもね……ここだけの話……いい加減、あの子がべったりへばりついてるの、何とかしないといけないんですよ。陽菜ちゃんとか凛ちゃんの都合は関係なしに)


(?……どうして?)


(………先日、Uに愚痴られたんです。あの子がいるせいでやろうとしてた撮影ができないって)


(あ~……なるほどねぇ)


『そのことだが、起死回生の名案をたった今思いついた。黒川と天知はすぐに実行に移して欲しい』


「おわっ!!……きゅ、急に来んなよ……ビビるな」


「宇宙人かな?」


「あ……はい……何かまた企んでるみたいです」


「視聴率の為に家の中に入って来た不審者を見過ごすような奴の作戦は聞けないかな」


 苦々しい口調できっぱりと言い切る天知。これは殺人未遂まで事態が深刻になった事実を知った暁にはこのチームが解散するかもしれないな、と黒川は不安なようなどこか胸がすくような妙な感覚を覚える。しかし、胸がすくと言ってもしっかり宇宙人に苦言を呈してくれている存在を有難く感じるだけで、黒川は別段宇宙人に嫌気だとか怒りだとかは感じていなかった。喉元を過ぎて熱さを忘れているだけとも言えるが、結局彼の機転で助かったことも大きいかもしれない。


「………まあ、その件はUも反省してますし」(と言っても、男の怨恨の原因がUサイドにあったからであって、侵入者を黙ってたことに関しては何も気にしてないと思うけど)


「冗談だよ。ムカついてはいるけど、当事者の黒川くんたちが文句を言っていないのに僕がブー垂れるわけにはいかないしね」


 天知がそう言って微笑んだところで、黒川の脳越しに起死回生の名案とやらが伝えられる。




                    6



「クイズ………ですか?」


 陽菜の部屋でくっつき合いながら読書をしていた陽菜凛コンビにUの作戦を伝える。凛はのっそりと起き上がり、興味を示したが、陽菜の方は本から目を離そうとしない。


「うん………そう、なんだけど。陽菜ちゃん……どうしたの?あからさまに興味がなさそうだけど」


「………もうどうでもいいよ。あみんちゃんなんて知らない……」


「あらら……へそ曲げちゃったのか。そりゃそうか……2日も無視されちゃあな」


「………わ、私もちょっと怒ってますよ!何ですか!あのこっちを心底見下した目つきは!!私の方が10歳も年上なのに!!……ううう……ヒナちゃん以外の東風生なんて嫌いです!!」


(……10歳も年上の女が小学生に引っ付いて死体のふりしてたら俺も見下しちゃうかもな)


「で、でも……どうして………急にUさんが介入してきたんですか?」


「一番はこのまま姫月の傍にあみんちゃんが引っ付き続けたら撮影できないってことだな。何かシナリオを考えてるらしいし……」


「な、なるほど……そう言えば本来はUさんがシナリオを用意してるんでしたね。忘れてました」


「でも、だからと言って無理やり追い出すのは事じゃん?……そんでUが何か引っぺがす手掛かりはないかって姫月とあみんの動向を探ってたらしいんでけど」


「あみんちゃんもエミちゃんも何にもしてないよ?」


「そこなんだよ。最初は傍に居ればそれでよかったあみんちゃんも、いい加減もっと姫月のことを色々知りたくなってきてるらしくてさ……だったらそれを十分知れる機会をこっちで設けてみるんだよ」


「………エミちゃんのことを知りたいならお話したり、遊んだりすればいいのに…変なあみんちゃん」


「そうですよね!!……私なんて隙あらばエミ様情報を引き出そうと躍起になってましたよ!熱量が足りません!熱量が!!」


「中々そんな積極的にはなれないもんだって!」


「でも……そんな機会を設けてしまっては……余計エミ様から離れなくなっちゃうんじゃないですか?」


「そこでクイズにするんだよ。ズバリ……『クイズ姫月恵美子』……姫月のことをそのままクイズにすんの。それで一位になったら好きな時に姫月の側を独占できる権利を得れるってことにすんの」


「なるほど!それで私たちのどちらかが一位になったら……」


「そう!!独占…姫月を独り占めってわけだから……あみんちゃんを引きはがすことができるってこと!……あみんちゃんはちょっと気の毒だけど……このままただ何をするでもなく傍で座敷童してるよりかは……ちょっと一緒にいれる機会が減っても、一遍に姫月のこといろいろ知れる方がいいだろ」


 双方に気遣った上に、上手くいけば一回分の放送として流せるかもしれないというまさに名案であるが、陽菜の反応は渋い。


「たしかにすごい面白そうだし、やりたいけど……何から何までエミちゃんが嫌がりそうなことばっかりだよ?こんな作戦通りっこないよ」


「そこは……ホラ……金だよ金」


「ええ~…………まあ、確かにそれなら……やってくれるかもだけど」


「そうそう!それに別に一位になる=あいつと四六時中一緒にいないといけないってわけでもないし。陽菜ちゃんたちが勝っても今まで通りにしてればいいんだよ」


「そっか……それならいいかも……ていうかやりたい」


「フフフフ……丁度あの新参者に一泡吹かせてやろうと思ってたところだったんです!エミ様のことで私に勝てると思わないことですね!」


「いいなぁ………どれだけ相手のことを知っているかで姫ちゃんを取り合うだなんて……なんて可愛くって平和的な方法なんだろう」


「…………天知さん……いたんですね」


 妥当姫月奪還に、陽菜と凛と若干一名がモチベーションを沸々と上げてくれたところで、今回の主役である姫月を呼び出し、企画の旨を説明する。しかし、陽菜が危惧した通り彼女はそれを心底嫌がった。おまけに放送分のギャラを総額やると儲け話をちらつかせても、今回は一切なびかない。


「イヤよ………いくらこの私のプライベートに迫るとはいえ、企画内容が地味すぎるもの……ギャラ何て総取りなところでたかが知れてるわよ。どうせもうじき億千万もらえるんだから…そんなはした金仕事受けないわ……むしろあみんが引っ付いてたら仕事発生しないなら、もうちょっとアイツを侍らせてリフレッシュしちゃおうかしら?アハハハハ!」


 と上機嫌に仕事を突っぱねる。ここ最近、姫月が穏やかなことの原因でもあった姫月殺人未遂事件回のギャラがいよいよ彼女の中で膨大に膨れ上がっているようである。


『仕方がない……あまりこれを言いたくはなかったんだが……黒川、スピーカーの電源を入れてくれ』


「ん?……お、おお」


 言われた通り、一階から持ってきた醤油スピーカーをONにする。途端、Uから衝撃の言葉が寄せられる。


『姫月……まことに言いにくいが……あの事件は放送していないんだ。したがって、当然ギャラも発生しない』


「………………………………………は?」


(うわ!………こわ!姫月コワ!!……びっくりした……背中に氷のナイフを入れられたみたいな…もしかして今のが殺気って奴?)


『ま、待て!落ち着いて聞いてくれ。放送はしないというより、できなかったんだ。私たちの生み出したヌートリアの化け物が何かしら地球で問題を起こしていたことがバレたらまた大問題になるし、何より!あの危機から脱するために思いっきり私の声を使ってしまっている!惜しいのは確かだが、いくら何でも使えない!!』


「……………………………ぴーちくぱーちくよく喚くおもちゃね……」


「ば、バカ!U!!どれだけ正論でもこいつからしてみれば全部単なる言い訳でしかないんだから!はやく何かフォローを言えって!醤油ビン割られるぞ!?」


『分かっている!……姫月聞いてくれ!無論、今回の件は一から十まで私に非がある。あんな小芝居を打った程度で許してもらおうなんて思っていない!!だから……今回の件の詫び金で……番組資金からキミに300万円贈ろうじゃないか!!それでどうだ!?』


「………少ないわよ。黒川の童貞が400万でしょ?……私の命はその倍額以上でしょうが!!」


『ぐ………わ、分かった……ならば…今回の放送をきちんとしてくれれば…倍は難しいが…プラスで200万積もう!だから今回のクイズに協力してくれ!頼む!』


(こんなに弱気なU…初めてだな。もしかして自分の判断ミスで姫月が殺されかけた事気にしてたのかな?)


 クイズに協力すれば500万円である。高島忠夫でもそこまでもらっていたのかというほどの大金であるが、姫月は至極当然だという風に鼻をフンと鳴らす。


「ったく!……何日経っても連絡が無いから変だとは思ったけど!その500万はちゃんと払ってもらうわよ?」


『ああ……約束しよう』


「………ま、まあ……とにもかくにもやってはくれるんだな」


「でも………クイズにはアンタも参加しなさいよ?」


「ええ!?俺も!?……いや、確かに今はお前の下僕になる的なこと言ったけど」


「いいから!………あの時の男の尋問も…どうせ宇宙人が答えを教えてくれたんでしょ?…その容量でカンニングすれば負けなしじゃない」


「……あ、気づいてたんだ。そっか……そうだな。まあ、他2人が堪えられなかった時の為の保険として」


『そうだな。あくまで念のため、カンニングは最終手段に取って置こう。それまではあくまで撮影という体で各々不正無しでやってくれ』


 


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 というわけで姫月のクイズが始まった。回答者は黒川、凛、陽菜、そしてあみんである。姫月は別室で天知の質問を受けて、回答する。その様子はオンライン会議の要領で、こちら側にだけ見えるようになっている。姫月は回答者たちがそんな答えを出したかは分からない。あみんは「お姉さまのお手を煩わせるなんて」と相変わらず辛辣に黒川らに食って掛かったが、貧月のことを知れるまたとない機会と判断したらしく、本人が文句を言っていないと分かるや素直に席について回答の準備をしている。


(………この形式……今思えばまんまガキの500のことじゃん)


「……クイズを始める前にあみんさんに言っておきたいことがあります」


「ハア?何よ?」


「……エミ様は誰にもなびかないってことです!!仮に可能性があるとすれば!そこにおわするヒナちゃんくらいなものです!!」


「………私も一つ言っておきたいんだけど……アンタたち全員お姉さまと一緒に暮らしているっていう自覚が足りないわよ。もっとエレガントに…高潔に……大人になりなさい!揃いも揃って…トランプで大はしゃぎしたり、趣味の悪い服を着たり……お姉さまの同居人として相応しくないわ!」


「い、言わせておけば~……」


「やれやれ……エミちゃんがトランプで大はしゃぎしていた事実を知らないんだね」


「あと、これは言わないでおいてあげようと思ったけど……ヒナちゃ……ヒナはともかく、アンタに関してはお姉さま煙たがってたわよ。アンタの方こそしつこく絡んでたらいつか振り向いてくださるなんてありもしない希望を惨めに追いかけてるんじゃないかしら?」


(言うね~……ホントに小4かよ)


「こ、こ、こ、このおかっぱやろ~!!……その似合ってないワンピース引きちぎってやkrsんじょshf!!」


「あみんちゃんはやろうじゃないよ凛ちゃん」


「はいはいステイステイ……暴力じゃなくて知識でみせてやりなさい姫月愛を」


 怒涛の煽りあいの果てに見事に言い負けた凛が涙を浮かべながら、回答席から身を乗り出して黒川に止められる。某ケンカ番組のような殺伐としたオープニングを終え、遂に問題が出題される。回答席と向かい合って置かれているモニターに問題が映り、別室の天知の声で読み上げられる。


『第一問!姫月恵美子が一番好きな植物は何?』


「え~………一問目から知らね~」


「う~ん………何となくこれかなって言うものは浮かんでるんだけど名前が分かんないよ」


『では……回答を一斉にオープン』


黒川.ハオルチア(果肉植物)

陽菜.エミちゃんの部屋の棚の上に置いてある白い花の植物

凛.深紅の薔薇

あみん.アジサイ


「姫月の棚の上に置いてある植物ってなんだっけ?」


「……分かんない。それがお兄ちゃんの言ってるハルジオンかな?」


「……ハオルチアね」


「アレはフリージアよ。お姉さまを知ると言う事はすなわち植物を深く知ると言う事!常識よ」


「フ、フン……そんなこと言う割には自分はありきたりな植物じゃないですか!!」


(凛ちゃんは自分の回答を理解したうえであんなに強気なのだろうか?)


「でも……確かにアンタたちの回答も一理あるわね。お姉さまは確かにフリージアのような静謐な雰囲気の花を好んでいるでしょうし、世話が簡単で生命力が強い果肉植物を頻繁に購入されているもの。言うだけのことはあるわね……一人呆れるほどのバカがいるけど」


「エ、エミ様のような美しい方には薔薇こそよく似合うんです!布施明だってきっとそう言います!」


『では正解です』


 ここで画面が部屋のソファで肩肘を突いている姫月に映る。いよいよガキの使いの名物企画のパクリであるが、そこは別にどうでもいい。天知の質問を受け、姫月が正解を出す。


『姫ちゃんは、どんな植物が一番好きかな?』


『ん~………六月なら……青色か白のアジサイね』


「よし!!……流石お姉さま!季節に合ったお花を選ばれると思いました!!」


「………一問目から当てちゃうなんて……あみんちゃんすごいね」


「くっ!!……お花では後れを取りますが……他の分野では負けません!」


『第二問!!姫月恵美子は海外旅行に行くならどこに行く?』


「………これさ……どこも行かないって答えはありなのかな」


「う~ん……それだったらさっきのお花も答えたがらないと思うけど」


「エミ様はああ見えて……海外に興味を抱かれているんですよ!旅行代理店のパンフレットをまじまじ眺めていらっしゃることがあったんですから!!」


『では回答をオープン』


黒川.イタリア

陽菜.アメリカ(ギャンブルする)

凛.日本(行かない)

あみん.フランス


「って……結局俺の案を採用してるじゃん!!」


「えへへへ……よくよく考えたらエミ様がパスポートとか飛行機とかめんどくさそうな手続きを踏むとは思えなくって」


「バカね。こんなクイズでそこまでリアルに考えるほど無粋な御方じゃないわよ」


「ちなみにどこの国のパンフレット見てたの?」


「屋久島です」


「…………めっちゃ国内じゃん」


「………アンタってもしかしてバカにしちゃダメなタイプのバカ?」


「……………………………」


『姫ちゃんがもし海外に旅行に行くならどこがいいかな?』


『イタリア。フランスブランドってよくよく見たらダサいのよね。向こうの蚤の市とか行ってみたいわ』


「うわ!当たった!」


「お兄ちゃんやったぁ!」


「さすが黒(略)」


「くぅ!……そう言われてみれば小物入れがグッチだったわ」


「あの小物入れ、あんなサイズなのに目玉飛び出るほど高ぇんだよな」


「あ~………私もエミ様とヴェネツィアとか行ってみたいなぁ」


「ヒナ……真実の口に手入れてみたい」


「俺はやっぱウフィツィ美術館だな!」


「アンタらのイタリア観光なんてどうでもいいから!さっさと次の問題行きなさい!!」


(ほ、ホントに姫月と一緒にいるみたいだぜ……何だかんだ言ってエミュすげえじゃんこの子)


『第三問!姫月恵美子がモーニングルーティーンで第一にやっていることは?』


「おお!これは陽菜ちゃんたちチャンス問題なんじゃないの!?なんてたって一緒に住んでるんだから!」


「う~ん………ジュースかな?……あ、でもその前に顔を洗うかな?」


「シェアハウス以前の……私のお部屋に泊っていただいたことを思い出しましょう!……ア、アレ?…何故だか何かが割れる音が聞こえてくるような……この頬を流れるものは何?」


「………お姉さまが決められたことにこだわるタイプだとは思えないけど」


『では回答をオープン』


黒川.なんちゃらファーム(スマホゲームをする)

陽菜.植物にお水をやる

凛.洗顔

あみん.ヨガ


「………(アンタ)さっきから人の予想ばっかりパクってない?」


「!!」(←ギクッ!というリアクション)


「あ………言わないようにしてたのに」


「凛ちゃんズルはダメだよ?」


「ズ、ズルじゃないですぅ!!私も同じこと思いついてただけですぅ!!」


「………なっさけないわね」


(ああ………愛おしい)


『姫ちゃんのモーニングルーティーンはまず最初に何から始まるの?』


『はあ?……質問の意味が分かんないんだけど』


『ん~……朝起きていつも初めにしてるコトとかある?』


『ハア~?……特にないけど……まあ強いて言うなら…二度寝かしら』


「全員不正解だね」


「いや……それルーティーンって言わないだろ!」


「クソ!!……アイツらの口車的に習慣づいてることがあるのかと……惑わされず慎重になれば当てられるクイズだったのに!!」


「フフフ………初めの自信はどこに行ったんですかぁ?」


「……正解ゼロの奴に言われても何とも思わないわよ」


「減らず口を……二度寝から覚めたらきっと真っ先にお顔を洗われるはずです!!」


「………どうでもいいけど、アンタさっきから敬語変よ?」


『第四問!姫月恵美子が今一番嫌いなものは?』


「………ありすぎて分からねえな」


「フフン……もしかすると『あみんさん』……なーんて答えが来るかもしれませんねえ!」


(相手が小学生だからか……今回いつにもまして強気というか調子に乗ってるって言うか)


「黙りなさい低能。もはやアンタは脅威でも何でもないのよ」


「…………」(シュン)


「凛ちゃん、ヒナもまだ一問も正解できてないから……一緒にがんばろ?」


『回答をオープン』


黒川.宇宙人

陽菜.お母さん

凛.冷ごはん

あみん.ホームレス


「あ~…大地さん!!……それ結構あるんじゃない?」


「でしょ?」


「フッ……バカね。一番タイムリーなのはこれでしょ?一番ないのは宇宙人ね。そもそも信じてすらいないわよ」


(……残念ながらタイムリーさで言ったら俺の答えがダントツなんだぜ)


「ひ、ひやごはんって……プロフィールに書いてあったし……間違いないはずです!」


『姫ちゃんが今、一番嫌いなモノって何かな?』


『大地』


『え!?』


「やった!!正解正解!」


「………ホントにそんなに嫌ってんのかな?いいところもあるのに」


「即答でしたもんね」


「……ヒナの母親が何でお姉さまに嫌われることになるのよ」


「大丈夫だよ。エミちゃんはあまのじゃくなんだから」


「これでどっかの誰かさん以外、全員正解したわねぇ……もう帰ったら?」


「ううう………グス……」


「あみんちゃんいいすぎ………ホントに怒るよ」


「……ま、まあ……凛ちゃんだって好き勝手言ってたんだし……これは単なる悔し涙でしょ」


「はい……そうです……あみんさんよりも自分の不甲斐なさに死にたくなってるんで気になさらないで……ただし帰りません!最後までへばりつきますとも!!」


「カタツムリだもんね」


(ていうかアンタの家ここですやん)


 以下ダイジェスト


『姫月恵美子は捨てられている小犬を見つけたらどうする?』


黒川.ほっとく

陽菜.何もしない

凛.何もしない

あみん.無視する


『ハア?……それ逆に助けるなんて言う奴いるの?嘲笑ってほっとくに決まってるでしょ?』

(※全員正解……須田凛悲願の初正解)


『姫月恵美子は体をどこから洗う?』


黒川.二の腕

陽菜.お尻

凛.首筋

あみん.答えない


『……………これ誰が問題考えてるのよ?………右の二の腕』

(※黒川正解……ただしあみんからあらぬ疑いをかけられる。尚この答えが出た瞬間なぜか凛がありがとうございます!と叫ぶ)


『姫月恵美子が思ういい旦那の条件とは?』


黒川.滅茶苦茶金持ち

陽菜.イケメン

凛.寡黙(天知さんみたいな人)

あみん.自分を男にした感じ


『そうね……絶対服従してるかどうかね。あと余計なこと喋らないも追加で』

(※全員不正解……凛の答えは正解ではないかと議論になるが、凛自ら天知さんはエミ様に服従なんてしていないと正解を放棄した)


『姫月恵美子が芸能人以外でやってみたい職業は?』


黒川.マンション経営

陽菜.お花屋さん

凛.資産家

あみん.株主


『ん~………雑貨屋でもやろうかしら?アンティークものとか集めて』

(※全員不正解……意外な回答に陽菜以外全員驚くと同時に申し訳なくなってくる)



 そんなこんなでクイズは遂に最終戦を迎える。流石に500問ということもなかったが、それでもかなりの出題数で、自分の正答数を覚えている参加者は一人もいない。そのため黒川を除くその他のメンバーは誰が一番かと緊張の面持ちである。


(……結局、最後まで不正の必要はなかったわけだ。俺そんなに正解してないし、陽菜ちゃんか凛ちゃんが優勝したってことか……じゃあ陽菜ちゃんかな?)


『じゃあ、最後の問題です。姫月恵美子は明日死ぬと分かったら何をする?』


「……王道な質問だな……ん~……アイツのやりそうなことか…豪遊かな?でも普段からしてるよな」


「アレ?………なんか…この話……ヒナ、前にエミちゃんとしたかもしれない……」


「へ!?……な、何て言ってたんですか!?」


「……教えちゃだめじゃない?」


「ひ、卑怯よそんなの!出来レースじゃない!」


「ま、そんなこともあるでしょ……悪いけど認めてくれよ」


「フフフ……これが年季の違いって奴ですよ!」


「だからアンタが得意げになるなっての!!」


『それでは回答をオープン』


黒川.何もしない

陽菜.何もしない

凛.何もしない

あみん.海に行く


「あれっ!?……全員一緒じゃん!」


「ってことは………やった!!ヒナちゃんと同じってことは正解ですね!」


「うん……うん!絶対エミちゃんそう言ってたもん!」


「クフフフ………残念でしたねぇ…あみんさん。どこから海なんて言葉が出てきたのか知らないですけど」


「なんかそんな映画あったよな。ボブ・ディランのヤツ」


「………海は……私が…死ぬときどうするかなって思って…ダメ元で…書いてみたの………だけよ!!」


「ふふふ……化けの皮が剥がれてきましたねぇ」


「凛ちゃん大人げないよ。もう二十歳でしょうがアンタ」


「す、すいません黒川さん」


『なかなか凄い質問だね。姫ちゃんは明日死ぬとしたら何をする?』


『………明日……………』


『おっと長考だね………珍しい』


『……………………海…………』


『え?』


『……………………海が見たいわ。門司港付近の…私の産まれた場所の海………そこで一人で死ぬ』


『……………………へぇ』


『な、何よ!?そのリアクションは!馬鹿にしてんの!?』


 姫月がソファから身を乗り出して声を荒らげたところで画面がホワイトアウトする。黒川たちはそれをあんぐりと口を開けて見ることしかできず、数秒後にあみんがガッツポーズを取った。


「やった!やったあ!やった!やった!やったぁ!!」


「…………………え、ええ………これ偶然一緒だったの。すごいな」


「これで優勝ってわけでもないのにそんなに喜ばないでくださいよ!!」


「お、お姉様が………私とおんなじことを…嬉しい!すっごく嬉しい!!」


(ホントに姫月に惚れ込んでるんだな……ま、これでいい思いもできたってことで…姫月と離れることになっても文句ねぇだろ)


『優勝は…………あら、いいのかな?優勝は!あみんちゃん!おめでとう!!優勝景品は事前に伝えた通り、姫ちゃんを独り占めにできる権利だよ!!』


 画面に今までのポイントが映る。天知の衝撃的なアナウンス通り、一位はあみんである。これでは作戦が元も子もないではないか。


「え……………やった!やった!!私が優勝!?」


「ううううう……認めるしか無いのでしょうか。正直、クイズ中ずっと凄いと思ってましたよ………」


「いいのかな?………でも、正解できなかったヒナたちが悪いよね……」


 今回の企画を知っている陽菜が心配そうな顔を向けるも、企画を忘れている凛同様すぐに諦める。しかし、彼女たちや天知は知らないが、このクイズは最悪ヤラセを使ってでもあみんに勝たせてはいけないものだったのだ。


(え、ええ~…………な、何やってんだよUのヤツ…これも筋書き通りなのか?…いや、こりゃ多分今頃向こうも慌ててるな。点数が陽菜ちゃんとあみんちゃんが一点差だもんな)


 今回の問題を考えたのはUだろう。と、なると最後の問題がやたらと陽菜に有利なものだったことも納得がいく。確実でこそ無かったが、ヤラセは黒川も預かり知らないところでひっそりと行われていたのである。できる限り自然な展開を演出しようとして、危ない橋を渡ろうとした結果、事態は収拾がつかないまでになってしまった。


(どうするんだろアイツ………黙ってるところを見るに…今必死になって解決策を考えてるんだろうな)


「あ!!お姉様!!」


 嬉しそうなあみんの声に振り向くと、二階から姫月が降りてきた。てっきり宇宙人の体たらくにご立腹かと思ったが本人は至って変わりない様子である。


(本当に姫月はあみんのことを鬱陶しがってないってことか。まあ、確かになんだかんだでいい子そうだもんな)


「アンタが勝っちゃったのね。フン、何よアンタら普段偉そうに私のことを知った口聞いてるくせに全然じゃない」


「うう……返す言葉もないです」


「で、でもエミちゃん……最後の問題。この前、私が聞いたときは何もしないって言ってたよ?」


「……あのね…私はナマモノなのよ?そりゃ言い分くらい変わるわよ」


「ウフフ……これでお姉様を独占できます」


「したところでアンタどうせ側で座ってるだけでしょ?」


「いいんです!それでも十分お姉様に近づけるって証明できましたし!!」


「私に?」


「はい!!恐縮ですけど………さっきの答え…私も海に行くなって思ったんです。まさか同じ回答になるなんて……お姉様にどんどん近づけてる証拠です!」


 嬉しそうなあみんの言葉に姫月は首を傾げる。


「アンタ…私を目指してるの?…ただ強くなりたいだけかと思ってた」


「え?……あ、はい。そうてすよ?お姉様のように誇り高く強い女になりたいんです!」


「まあ、前のナヨナヨしてたときよか、粗暴で危ない奴にはなれてると思うけど…………私のようにはなれないでしょ」


「え?…………そ、そぼう?」


 弾けんばかりの笑顔が曇る。姫月は別に不満げでもなさそうだが、あみんに対して尚もキッパリと酷な評価を下す。


「そりゃあね。アンタ。凛はこう見えても二十歳なのよ?それが頭下げてお礼を言ってんのにあの態度はないでしょ?」


「あ…………」


 あみんが命の恩人と分かり、お礼を言う凛にあみんは悪態をついた。あみんの顔が困惑と焦燥によってみるみる青くなる。


「お、お言葉ですが……あの時、お礼を言われたのがお姉様だったら……同じように……突っぱねたのでは?」


「そうだぜお前。どの口が言ってんだよ」


 姫月の態度を見るに、Uの指図で突き放すようなことを言っているわけではなさそうである。おそらく天然というか本当にあみんに対し抱いていたことを馬鹿正直に言っているのだろう。そう判断した黒川があみんのフォローに回る。


「ま、それはその時になんないと私も分かんないけど……仮に私がその態度を取ってもそれはいいじゃない。だって私はこの世で一番偉いんだし……」


「わ、私も……そんなことが言えるような人間になりたくって」


「無理でしょ?私のは事実だけどアンタのはただの虚勢じゃない。そもそも私は何も勉強したことないし、何にも憧れたことないわよ?」


「じゃ、じゃあ……今の私って?」


「ん?………ただのクッソ失礼なガキじゃない?目つき悪すぎるでしょ。ちゃんとメガネかコンタクトしてきなさいよ」


「そ、そんな…………わ、私……私」


「あ、まあ、私にはちゃんとしてたし別に問題はないわよ。ただ、私に一ミリでもあんな態度見せたらどんな眼鏡つけても前が見えない身体にしてあげるから」


 姫月がフォローのようなものを入れるが、あみんは尚も空を見つめて何かをボソボソと呟いている。そしてそのまま、何もせずに帰って行った。彼女が帰るまで先程までの盛り上がりが嘘のように静まり返り、各々が自室に戻った。そして次の日から何事もなく日々を過ごすようになった。


 ただ、せっかく勝ち取った姫月の独り占め権利はいよいよ使われることは無かった。あれから土日を挟んで4日経ったがあみんはシェアハウスは愚か、学校にすら顔を出さなくなってしまったのである。















 









 













最近初めて他の小説を見て驚いたのがその一話ペースの短さです。いよいよを持って自分は勉強不足だなと思いました。ただ、短くするのはやなので、今後もこのペース配分で行くと思います。読みにくくって申しわけないですホント。


では次回もまたお会いできますことを心からお待ちしております。

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