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中入ー⑤「バイパスの朝編」

 章の完結後にあげていますが、劇中の時間はその①とその②の間に当たります。

 仁丹ランドに向かう大地の車内では、気まずかったりバカらしかったりする妙な会話が繰り広げられていたが、間反対に瑠奈、姫月、陽菜を乗せて天知が運転する車では、例の牧場ゲームに夢中の姫月に何と声をかけていいのか迷っている初対面の瑠奈がドギマギしている会話の少ない状況が続いていた。別に無言でも平気な陽菜はボ~っと車窓を眺めていたが、それでも退屈なことには違いないようで、大きな欠伸をしてから天知に喋りかける。


「天知さん………歌、違うのにしていい?」


「ん?……ああ、そうだね。ごめんごめん、洋楽なんて退屈だよね」


「こらヒナ……ここは天知さんの車なんだからわがまま言っちゃダメでしょ?」


「いい、いい……気にしないでいいよ。むしろ僕はいつでもこれを聞いているんだから。お客さんが乗っている時くらいは別のモノをかけないとね」


 ちなみに一人で乗っている時はもっぱらアニソンを垂れ流しているので、ここでかけないとサイモンもガーファンクルも日の目を見ることは無くなってしまうのだが、それでも陽菜ファーストだという言葉に偽りはない。陽菜はすぐに鞄からとっておきのCDを取り出してウキウキと見比べている。


「どれにしよっかなぁ……ドリカムにしようかな」


「………せっかく準備までしてくれて申し訳ないけど……僕の車CD入らないんだよ。ごめんね?」


「え!?………じゃあ何で音楽掛かってるの?魔法!?」


「あんぽんたん。車にはラジオって便利なものがあるの」


「いや………Bluetoothを使ってるんだよ?音源は僕のスマホ………」


 天知の訂正に、アナログ姉妹がきょとんと首をかしげる。


「それってカエサルを殺した人ですよね?音楽と何の関係が?」


「アハハ……それはブルータスだよ。無線で音声をデバイス……別の機械に移してくれてるんだ」


「あ!………聞いたことあります!!確か……イヤホンも線が無くなって……友達がなんかさやえんどうみたいなのにしまってました!」


「流石天知さん。ハイテクだ」


「………アンタらがローテクすぎんのよ」


 二人の素っ頓狂なリアクションに流石に黙っていられなくなったのか姫月が口を挟む。ここぞとばかりに瑠奈がコンタクトを取る。


「えへへへ………インターネットって難しくないですか?」


「アンタみたいなのがAIがそのうち人類を滅ぼすとか下らない都市伝説を信じるのよ」


「そのうちそんなこと言ってられなくなるよ……アメリカの某研究機関ではすでにAI同士に対話させて人類がいなくなれば万事解決するっていう結論が出たって……例の大学が秘密裏に論文にしたんだよ。もっとも、その論文を書いた人も、それを公表しようとした人も、実験してた団体も……あの組織に消されちゃったんだけど」


「………情報まみれなようで何の情報もないねその話」


「それで……その知ってるだけで消されちゃいそうな情報を何でアンタが知ってるのよ?」


「え………し、知らない……本に書いてあったんだもん……その本書いてた人に言ってよ」


「それで………何の曲を再生して欲しいの?」


「う~ん…………でも、言ってもスマホに入ってないかもしれないけど」


「いや……ドリカムとかミスチルとかジュディマリとか……少なくともそこにあるCDはどれも再生できると思うよ」


「何でそんなにいっぱい音楽があるの?」


「あ!ひょっとしてアレじゃない?……噂のあのホラ……コマーシャルでやってる」


「ダメだよ天知さん……捕まっちゃうよ!マジで!!」


 某CMのマネをして緊迫感を煽るような声を出す陽菜。天知は珍しく大笑いしながら、これは合法だから大丈夫とフォローを入れる。


「アンタ……そんなんでよくテストいい点数とれるわね」


「わ、私はけっこうインターネットとかしてるんですよ?ユーチューブだって見てるし」


「あ!……そうだ!!ねえねえ天知さん……これYouTubeの歌も流せるんだよね?それだったらお兄ちゃんの歌流して!!」


「おお……そう言えば黒川さんって歌手なんでしたっけ?」


「絶対嫌よ」


「え………何でです?」


「何でって……アンタ知らなかったの?アイツの歌、ひどいなんてもんじゃないわよ?」


「い、いくら何でも言いすぎですよ」


「それが案外そうでもないんだよね」


 あっけらかんと黒川の歌をダメだしする姫月に苦言を呈する瑠奈だったが、天知が苦笑しながら姫月の肩を持つ。


「ええ……そ、そんなにひどいんですか?」


「いや、黒川くん自体はびっくりするくらい達者な歌声なんだけど…不思議なことに録音すると、途端に金切声のような叫び声のような……恐ろしい歌に代わるんだ」


「………もう、この前、私言ってたのに」


「ごめんごめん……ヒナの語り口があまりにも怪談だったから、てっきりでっち上げだとばかり」


「ま………アイツの歌も上手いだけで大したことは無いけど?」


「お……随分大口だね」


「そうね………アイツの古臭い価値観が存分に作詞にも反映されてるわね。いくら何でも女の名前、エリーってのはないでしょ?80年代の世界観よ」


「…………いや、そのものズバリ80年代の大ヒット曲なんだけど……『いとしのエリー』……サザンオールスターズの……ひょっとしてあの時歌ってたモノ全部黒川くんのオリジナルだと思ってたの?」


「………違うの?」


「はははははははは!!………だとしたら黒川くんは大天才だよ!アレは全部名曲のカバーだよ」


「え~!!………姫月さんって、サザン知らないんですか!?……っていうほど私も知ってるわけじゃないですけど」


「………知らない」


「井上陽水は?」


「………知らない」


「じゃ、じゃあ……ドリカムは?」


「知らないわよ!!……何よ別に……知らないからって生きていけないわけじゃないでしょ!?」


「曲を聴けば分かると思うけどね………流石に聞いたことないってことはないだろうし」


「じゃあ私がエミちゃんにお勧めの曲かけてあげる。天知さん……ドリカムの『あの夏の花火』をチェケラ」


「余計なお世話よ。私が聞くものくらい自分で選ぶわ」


「じゃあ姫月さんは何がお好きなんですか?」


「そーね。まあ、マシだったのは……黒川の3番目の奴」


「えっと………何だったっけ?」


「ていうかマシって………好きな曲とかないんですか?」


「お姉ちゃん。マシはエミちゃんの中でもかなり上の方の誉め言葉なんだよ」


「あ、そうなんだ」


「ええっと……一番最初が『いとしのエリー』だったのは覚えてるんだよ。その次が確か……大瀧詠一の『君は天然色』だったかな?……その次ってなんだったっけ?」


「ホラ、てってれてれ~ててて~……って感じの奴よ」


「ああ~……そうかそうか……忌野清志郎の『デイ・ドリーム・ビリーバー』か。確かに名曲だね。元はモンキーズだったっけ?」

※発表時は忌野清志郎さんのソロワークスではなく、タイマーズというグループ名義です。


「あ!……そいつは知ってるわよ!いまわのきよしろー!!」


「そいつて……でも、むしろ世代ですら無くて、存命でもないのによく知ってたね」


「だって……ヒナの映画に出てたじゃない」


「?………私、その人と共演したことないよ?」


「違うわよ。アンタが進めてきた映画!妖怪の奴!………アレのぬらりひょん役がそのいまわのきよしろーだって黒川の奴がやかましく言ってたじゃない」


「そうだっけ?……確かにぬらりひょんはいたけど」


「そうよ」


「じゃあ、それをかけよっか。僕も好きな曲……というか言わずと知れた名曲だしね」


 そして車内には忌野清志郎の「デイ・ドリーム・ビリーバー」がかかる。タイトルだけでは曲御イメージできなかった瑠奈も、曲を聞いて「あ~これかぁ!」とうんうん頷く。


「…………これ……こんな歌声だったのね」


「フフフ……お兄ちゃんの方がイイ?」


「そんなことがあるわけないでしょ」


「黒川くんも流石に若干寄せてたけどね」


「でも………姫月さんって……黒川さんの歌やヒナの好きな映画とかはしっかり覚えてるんですね」


「はあ?」


「そうだよ。エミちゃんは私も覚えてないような私が言ったことを覚えてるの」


「何よ?………それって褒めてるの?貶してるの?」


「どっちでもないですよ!……ただ、何というか、素敵だな~っと思って」


「………岩下家の奴らの言う事はよく分かんないわ」


「フフフ………ヒナが姫月さんに懐いてる理由がよく分かりました」


「………そんなの私の生まれ持ったカリスマ以外にないでしょ?」


「アハ!……そうですね!そうかもしれないです!」


「そうでしょ?私は凄いのよ」


 淡々と言ってのける姫月だが、その顔はいつものドヤ顔ではなく、何となくバツが悪そうな照れているような顔である。瑠奈が姫月の目線を追うと、プイッと窓の方を向いてしまう。


「姫月さん………」


「何よ」


「いえ……あの…えっとぉ……い、いつも妹をありがとうございます」


「…………お礼を言われる筋合いなんかないわよ。仕事なんだから……ま、今回みたいに誘いの押し売りみたいなのは迷惑だけど」


「アハハ………すいません。ヒナの奴が……」


「頑固な性格、どうにかして欲しいものね」


「大丈夫だよ。エミちゃんも行ったら絶対楽しめるから」


「あと、何か知らないけど私の理解者ぶってるのもどうにかして欲しいわ」


「フフフ………姫月さんはヒナの事、よく分かってくださってるみたいですけどね!」


「ガキンチョだもの……単純なもんよ」


「………さっきは私たちの事よく分からないって言ってたくせに」


 ガキンチョと言われてムッとしたのか。陽菜が反撃する。


「それはアンタらの頭の中が漏れなくズレてるって言いたいのよ。何よアンタらの母親…エミちゃんさんって呼んでくるの本気でやめてほしんだけど」


「う………それは本当にすいません」


「じゃあ………何て呼んだらいいの?」


「私を嘗めてる呼び名じゃなかったら何でもいいわよ」


「……『姫ちゃん』はいいのかな?今更だけど」


 自分が馴れ馴れしい呼び方をしていないか不安になった天知が口を挟む。


「………ちょっと嫌だけど……今更変えられても違和感だからもういいわよ」


「ごめんね」


「エミ様はいいんですか?」


「……アイツに関しては存在がもうバカの権化だから。言ってもどうしようもないわ」


「………その二つが許されるなら……私ももっとフランクな呼び方してもいいですか?」


「………モノによるけど」


「えっと………エミ……さんとか」


「それでいいけど………それフランクになってるの?」


「じゃあエミちゃん?」


「それはダメ」


 何故か姫月ではなく陽菜が却下する。


「………何でアンタが決めてんのよ」


「じゃあ………お姉さまとか?」


「いいんじゃない?」


(いいんだ)←天知のつぶやき


「じゃあ間を取ってエミ姉にしたらいいと思う」


「だから何でアンタが決めてんのよ」


「あ、でも……それいいかも!エミ姉……でも……いいですかね?」


「もう何でもいいわよ………ホントめんどくさい一家」


 もうじき仁丹ランドに到着する車の中で、先程の静けさが思い出せない程、盛り上がる美少女たち。忌野清志郎の「デイ・ドリーム・ビリーバー」は当に終わり、自動再生でモンキースの元になった曲が流れている。再び洋楽に代わってしまっているが、天知すらそのことには気づかず、車は和やかにバイパスを走っていた。















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