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その①「キスする場所間違えてるコト」

・登場人物紹介

黒川響くろかわ ひびき 性別:男 年齢:20歳 誕生日:6/25 職業:大学生

本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。

☆遊園地で欠かさずやることは骨付き肉を食う事。


星畑恒輝ほしはた こうき 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人

黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。

☆遊園地で欠かさずやることは隅の方にあるゲームセンターに行くこと。


須田凛すだ りん 性別:女 年齢:19歳 誕生日:5/25 職業:大学生

男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。

☆遊園地で欠かさずやることは気に入ったアトラクションの鬼リピ


姫月恵美子ひめづき えみこ 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職

スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。

☆遊園地に行ったことが無いが、行ってもやることが無いと思っている。


天知九あまち きゅう 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職

元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。

☆遊園地で欠かさずやることはヒーローショーの観覧。


岩下陽菜いわした ひな 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生

女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。

☆遊園地で欠かさずやることはお化け屋敷での本物探し。



~ゲストキャラクター~

岩下大地いわした だいち性別:女 年齢:35歳 誕生日:9/10 職業:経営者

岩下陽菜の実の母。陽菜が生まれて間もなく最愛の夫に先立たれた未亡人だが、同時に天知との結婚願望が激しすぎるクール美女の皮をかぶった恋愛マシーンとしての顔も併せ持つ。元女優で現在は子役スクールのオーナーをやっているらしいが、働いているところは見たことが無い。


岩下瑠奈いわした るな 性別:女 年齢:13歳 誕生日:9/8 職業:俳優、中学生

陽菜の実の姉で、現役の子役としてドラマや舞台を中心に活躍しているスーパー中学生。非常に家族思いの優しい少女で、陽菜からもすこぶる慕われている。大地とも陽菜とも容姿性格共に似ておらず、本人曰く亡くなった父親似らしい。母の恋路に興味津々である。


 こんにちは。突然人物紹介欄が増えてぎょっとされている方も少なからずいらっしゃるかもしれませんが、あくまでこの章に登場するサブキャラクターを記載するようになっただけのことです。頻繁に登場する(予定)のサブキャラクターたちは大抵出尽くしているので、そのキャラクターが出る回に関しては、このように追記したいと思います。ゲストという言い方は、若干鼻につくかもしれませんが、一応番組という体なので許してください。


人間に想像力がある限り、この遊園地は完成しないんだよーウォルト・ディズニー



                     1



 この世には2種類の人間に分けられる。それは子どもが好きか否かなのだが、存外ここで子供嫌いに挙手した人間も、自分の産んだ子となると急激に子煩悩になるものである。ノンシュガーズの面々もおよそ約半数が子ども嫌いに属していたにもかかわらず、いざメンバーに小学生女子を招くと、途端にデレデレになってしまう。本来ならば、大して盛り上がりもしない会話で大いに盛り上がり、単なる買い出しがちょっとしたお出かけになってしまう。若き力のたまものなのである。

 しかし、そんな若き力と自他ともに認める愛らしさで周囲を魅了し続ける少女、岩下陽菜がある日はどんよりと濁った眼をして、一日中覇気を感じなかった。それが夜を越えて、翌日の朝にまで引き続いていたのだから、彼女とハウスをシェアしている住人達も大いにどよめく。


「………ヒナちゃん……何か悲しい事でもあったのでしょうか?」


 初めて陽菜の違和感に触れたのは、彼女を物理的な意味で食べたいと豪語している須田凛である。それに、陽菜と同衾した折に興奮で眠れなくなった男、黒川が頷く。。


「な………飯食う量は変ってないから……体調は悪くないと思うけど」


「もしかして………また何かをお祓いしようとしてるんでしょうか?」


「いやいや………どうもあれは本人の中でも相当な黒歴史らしいし…もうやんないでしょ」


「ヒナちゃんがエミ様を部屋から連れ出してくれないと……私、食事時以外でエミ様に会えないんですよね………もちろんヒナちゃんが心配なのもそうですが」


「俺らと遊んだりはしてるから、嫌われたわけではないと思うんだけどなぁ」


 テーブルで突っ伏しながら、そんな会話をしていると、二階から、ピンキーモモの主題歌を口ずさむ星畑が降りてきた。


「あ!星くん………あの、ヒナちゃんの様子がおかしいんですけど、何か心当たりあります?」


「え?………無いけど?本人に聞けよ」


「うう……そうですよね」


 素っ気なく返されてしまいガクリと落ち込む凛だが、一瞬でガバリと起き上がり鼻息たかだかに二階に向かって行く。


「おい、どこ行くんだよ?」


「………いえ!今にして思えば、ヒナちゃんは推しである前にお友達なんでした!ここは私がお悩みを聞いて力を貸さねば!」


 星畑の言葉が妙なツボを押したようである。意気揚々とした足取りで階段を一段一段踏みしめていく。それを見送って、黒川がポツリとつぶやく。


「………俺も行った方がいいかなぁ……一応リーダーなわけなんだし……」


 ある程度責任感に溢れる発言だと自負していたが、それを聞いていた星畑は見直すどころか逆に呆れる。


「………いや、お前は原因分かっとけよ……ていうか分かるだろ?大地さんの話一緒に聞いただろうがよ」


「え!?……大地さん?……ってあー!あー!……あれか!?そっか陽菜ちゃん駄目だったんだ!」


「バカ!声でけえよ!せっかくはぐらかしたのに……」


 事は遡り、シェアハウスに正人含む3人の悪ガキたちが侵入した日に、黒川と星畑は大地に収集され、ある話を持ち掛けられていたのだ。その後のお祓い騒動が印象的すぎて黒川の頭からすっぽり抜けてしまっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

大地宅


「仁丹ランド?……ですか?陽菜ちゃんと俺らが」


「はい。今度のテストで4教科90点以上取れたら連れていくことになりまして」


「へぇ~……テストでそんなご褒美付きなんて……意外に教育熱心なんですね」


「昔の知り合いから、チケットを4枚譲ってもらいまして。本来なら別にテストなんて関係なしに連れて行ってあげるところなんですが」


「はい……」


「どうしても皆さんを連れていきたいと聞かないのです。ですので、先程の条件をお付けしました」


「へえ………てことは話ってのは」


「はい。念のため、遊園地に行くための予定を空けておいていただきたいのです」


「ていうか………別に……なあ?」


「おお」


 大地に頼まれたものの、黒川と星畑は顔を合わせて頷き合う。


「……別に俺ら、遊園地くらい自腹で行きますよ?チケットは岩下家で使って、俺らはそれに引っ付いていけば」


 星畑の言葉に合わせて黒川もうなずく。以前から陽菜とみんなで遊園地に行けたらいいと話していた手前、むしろ願ってもない話なのだが。


「………凛さんはお金あるんですか?あと、エミちゃんさんは自腹でついてきてくださるでしょうか?」


 すっかりこちらのメンバーに関しても事情通な大地が的確な指摘をしてくる。


「ああ~………まあ、でも……凛ちゃんは自力で何とかしますよ……最悪俺が出すし…姫月だって、3人家族なんだから一枚余るわけだし、それを使えば」


「何を言っているんですか?もともとチケットは私たちと天知さんの為に用意したものです。エミちゃんさんに割いている余裕はありません」


「あ……はい」


(馬鹿黒川!チケット4枚の時点で察しろよ)


(………ごめん)


 母親である前に天知狂いだった大地の習性をうかつにも忘れていた黒川。


「お二人には念のためお伝えしておきましたが、できればこのことは他の皆さんにはご内密にお願いします。ヒナさんにも何も知らない風を装ってください。もし行けなかった時は、何もなかった体で振る舞えるようにしていただきたいので」


「うい……じゃあ、無事に行けることを願ってますわ」


「それじゃ………そろそろお暇を」


「で、本題はここからなんですけど、天知さんはどんなファッションがお好みでしょうか?」


「「………………………」」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そっか……テストダメだったんだな」


「だろうなぁ……小学生のテストなんだし、ちゃん陽菜なら行けるかと思ったんだが」


「俺はてっきり何だかんだで遊園地にみんなで行くもんだと思ってたけど、マジで行かせないのかね」


「いや、多分チケット使って4人では行くんだろ。天知さん来るかは知らんけど」


「…………俺らは自腹で行くのにな……何も遊園地行きたいのが陽菜ちゃんだけとは限らないのに」


「バカ!お前や俺なんておまけに決まってんだろうがよ。大本命はエミちゃん凛ちゃんに決まってるじゃん……それに大地さん、財源よく分からねえけど金持ちだし、娘に甘いし、、多分料金のコトで渋ってるわけじゃねえよ」


「ああ~………天知さんと姫月を一緒にしたくないのか」


「………というより、()()だけで行きたいんじゃねえの?俺らは連れていきたくねえんだよ」


「それは流石に大地さんを誤解してるだろ………」


 何一つボケずに真面目に話をしているその頭上、陽菜のもとに向かった凛はというと、特別サービスで姫月の部屋に入れてもらっていた。もともと陽菜が姫月の部屋にいたのである。部屋の主は、高級ベッドに寝転びながら、テンション低めな陽菜の話に適当な相槌をしている。


「それでね……私は日本の都道府県は妖怪で覚えようとしてたの」


「あー」


「北海道はコロボックル、青森県なら赤舌で、岩手県は座敷童、秋田県のつらら女みたいな感じで順番に覚えてたのに……」


「んー」


「そしたらね……日本地図じゃなくって県の形だけで出題されたんだよ……ひどいよ」


「ほへー」


「なんかヒントみたいに名産品が書かれてたけど、そんなの知らないよ。メガネは福井県って…メガネくらいどこでも売ってるのに。妖怪はそこにしかいないのに」


「へ~」


「だから……も~……」


 ぼふっ!ベッドからはみ出している布団に顔を押し当てる陽菜。どうも未到だったテストは社会科のようで、悔しい思いを吐き出しているのだ。ゲームに夢中で全く話を聞いていない姫月に代わって、全教科赤点の過去を持つ凛が慰める。


「えへへへへ……私も、テストは大嫌いでしたよ。一回受けても意味ないと思って休んだことありましたから」


「わあすごい!私もそうしたら良かったかなぁ」


「えへへへ………テストなんてボイコットですよ」


「アンタそれで、ブチぎれた教師に家まで来られて、泣きながらテスト受けさせられてたじゃない」


「……………………………ま、まあ………おかげさまで……国語は60点超えましたけど」


「残念でした。私、あん時の国語73点よ」


「エミちゃんはテスト真面目に受けてたんだ………意外」


「才色兼備なのよ。私って」


「ああ~………国語と理科は100点だったのになぁ……5点だけ社会に移せないのかな」


「でも、流石ですねヒナちゃん!そんなに点数にこだわるなんて!私小学生の時なんて何点でも関係ないと思ってましたよ」


「そうよアンタ。そんなに学びに熱心だったかしら?」


「あ………えっと、今回のテストで点数良かったら、ちょっとご褒美があったの」


「ご褒美って何よ?」


「ないしょ」


 布団に顔をうずめた状態で、くぐもった声を出す陽菜。自分の質問をはぐらかされた姫月だったが、別段興味を示すことなく、再びスマホゲームの世界に帰っていった。凛もないしょの内容が気になりはするが、それ以上に不機嫌な理由が自分たちや本人の体調に関係の無いことで一安心する。



                     2



 さてその翌日、小学校帰りに再び陽菜がやって来たのだが、今度は打って変わってとてつもないハイテンションである。入るや否や、玄関口まで迎えに来ていた凛にタックルのような抱擁をかまし、頭をうずめたままドタドタと何度も足踏みをした。そして凛が戸惑いながらも声をかけようとしたそれにかぶさり、大声で笑いだす。あまりの騒ぎに、姫月が二階から降りてくる。


「何よ……うるさいわね」


「あ!エミちゃん!!遊園地!遊園地行こ!今週末!!」


「はあ?ゆーえんちぃ?……行かないわよ。あんな暑苦しくて騒がしいところ」


「ダメ~!強制です絶対です義務です資格です確定です連行です集合です!」


「………アンタちょっとくらい元気ない方がとっつきやすいわね」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら周囲を囲ってくる陽菜を見て、苦々しく吐き捨てる姫月。


「あれ?テストいけたの?駄目だったって聞いたけど?」


「何でお兄ちゃんがテストの約束知ってるの?……まあいいや…あのね、お姉ちゃんがね。テストで全教科90点以上取ったの!それで……お母さんに頼んでくれたの!」


「へぇ~……瑠奈ちゃんすげえな……頭いいんだ」


「顔も良くて、妹想いで、タレントもやってて……スーパー中学生ですね」


「そうだよ。お姉ちゃんはすごいの」


「フン……どうせコネでしょ?」


 鼻高々な様子の陽菜に姫月が冷めた言葉を投げかける。それには何も返すことなく、姫月にじゃれ付いたまま黒川に声をかける。


「あ!……そう言えば、お母さんが家に来てくれって言ってたよ。星ちゃんといっしょに」


「え……ああ(察し)わ、分かった……すぐ行くよ」


 念願かなって岩下陽菜と遊園地に行くことになったが、間違いなく大地は娘のご褒美以上の意味をこのお出かけに含んでいる。初めて会った日から対天知さん用の恋愛アドバイザーというかスパイというかに任命されている黒川と星畑は若干気が重い。今回も2人で思い背中を丸めながら、岩下宅に向かう。


「なあ黒川……大地さんってさ……もともとはどんな人と結婚してたと思うよ」


「………さぁ?」


「天知さんが再婚しない理由も、大地さんが天知さんに惚れてる理由もよく分かってねえのに……仲人なんかできねえよな?」


「余計気が滅入るからあんま思っても愚痴んなよ……お前らしくねえ」


「いや、俺はお前と違って、最初は割と面白がってたんだけどさ……冷静に考えりゃ、面白がってちゃダメなほどセンシティブな問題なきがしてよ」


「…………うん……何というか見ちゃいけないものを見せられてる気がするぜ。リアリズムすぎるというか、真剣で飾ってない分、申し訳なくなってくるというか」


「………お前それ、どっかの本の受け売りだろ?」


「………そうだよ……つげ義春だよ……悪いかよ」


「ンフフ……お前がなんかもっともらしい事言ってる時は基本的に漫画のパクリなんだよな」


 星畑が茶化してくれたおかげか、何となくお互いに気が楽になり岩下家に臨む。改めて考えれば、単に話を聞いて欲しいだけで、こちらがそこまで真摯に考えねばいけないことでもない気がする。


「お待ちしていました。御足労おかけしてしまい申し訳ないです。天知さんが居る場所では少し憚れる内容なので」


 出迎える大地は相も変わらず淡々とした顔と声と雰囲気である。


「あ……あれですよね?遊園地の」


「はい。ルナさんが頑張ってくれたので、今回は特別にと、まあ、ヒナさんも成績自体は至って優秀ですし」


「それ自体はいいんですけどね。いや、俺らは全然イケるんですけど……あの、天知さんとか姫月は行くかどうか」


「エミちゃんさんはヒナさんが意地でも放そうとしないと思うので、問題ないかと思うのですが、そうですか、天知さんが、それは困りますね」


「や、まだ天知さん本人は何にも知らないので……行かないとは限らないですけど」


「そうですね。では、今回は来てくださる前提でお話を進めましょうか」


「ああ、はい。あの、一応聞きますけど……話っていうのは」


「向こうで私たちがどのように分かれて動くかですね。当日は皆さん全員出席で8人も人がいますから」


 てっきり天知さんとのデート対策ミーティングだと思っていたが、今回は家族総出だからか、意外にもあまり天知をグングン押してこない。


「まあ、確かに全員では中々動けないかもしれませんね」


「そうか?女子高生のグループとかそんな感じの大所帯じゃん」


「理論上は問題なくても、例えばヒナさんと天知さんでは全く行きたい場所の傾向が違ってくるでしょう。そこは上手く分かれる必要があると思うのです」


「なるほど……ちなみに陽菜ちゃんって絶叫系行ける畑の人間ですか?」


「ええ、乗りますよ。身長制限に引っ掛かったりもしますが、基本的には物怖じすることはありません。強い子なので。ちなみにルナさんも大好物なようです」


「俺も全然イケるけど…ていうかむしろ遊園地なんてそれしか目的にねえけど……黒川無理だよな?」


「面目ない………Gが苦手なんですよ……フワッてなる奴……アレが嫌いすぎて」


「フワちゃんも苦手だもんな?」


「言った事ねえよ!!…………いやまあ、確かにあのノリは苦手かもだけど」


「気にしないでください。私もあれは拷問器具か何かだと思ってますので」


「あ……大地さんは苦手なんですね」


「はい。そのため乗る人と乗らない人とで分かれるべきなのです」


「え~っと……でも、俺らも乗れるかどうかなんて分からねえよな?俺はのれて、黒川無理で…天知さんはまあ、行けるだろうけど」


「ですが天知さんはきっとあんな下らない物乗らないと思います。そのため天知さんはこちら側です」


「あ、はい」(下らないものって……アンタの娘好きなんだろうが)


「凛ちゃんはどうだろ?乗れるかな?」


「凛さんはきっと乗れませんね。お子様なので。黒川さんとお二人で周ったらいいと思います」


「!?……い、いや二人って。乗らないグループあるんじゃないんですか!?」


 二人きりというワードに焦る黒川。その横で星畑が「ついに来たか」という顔をする。


「二人でって……まあ……それはいいか……つまり黒川と須田、天知さんと大地さん、んで後は絶叫系に乗れるそれ以外ってコトっすね」


「でも、アレ?姫月は確か…遊園地嫌いって言ってたけど……行ったことはあるんかな?もしかして、アイツも絶叫系無理とか?」


「エミちゃんさんは大丈夫でしょう。大丈夫なはずです。ヒナさんたちと楽しく仲良く遊んでいればいいのです」


 きっぱりと断言する大地。もう天知と何が何でも二人きりで居たいようである。


「じゃあ、まあ……当日はそうばらけましょうか」


「でも、大地さん……天知さんと一緒に居たら緊張しちゃうんじゃなかったですっけ?確か前は何もしゃべれなくなってたというか」


「ええ。いつもの私ではいられなくなります。とてつもないオーラです」


 何故か誇らしげに答える大地。「傍目ではまるで違いが分からねえけどな」と内心突っ込みを入れながら、黒川が謎の情を見せる。


「だったら、あの、俺らも間に居といた方がイイんじゃないでしょうか?」


「いいえ。お気持ちは嬉しいですが、いつまでも甘えていては夫婦に等なれません。ここで事前に十分なシュミレーションを立てて、本番に備えます」


「………ほう」


「………それはそれは」


 「事前に十分なシュミレーション」という言葉に不安をあおられる二人。それをよそに大地は以前、陽菜の絵日記を持ってきた要領で謎のスケッチブックを持ってくる。表紙には「遊園地で」とだけ書かれている。


「分かりやすく今回の計画をまとめてみました」


「はあ……パワポとか使わないんですね」


「???……ぱわぽ?…これはト〇ボのものですが」


「あ、いえ、メーカーとかの話じゃなくって……すんません何でもないです」


(そう言えばアナログ人間だったな)


 「遊園地で」をめくると色鉛筆やらマーカーやらで華やかに彩られた画用紙に、でかでかとした文字で「取り合えず遊園地から出る」と書いてある。タイトルにまでなっているはずの遊園地を早速オサラバするとはどういうことなのだろうか。


「え!?遊園地出るんスか!?」


「はい。すぐ近くにショッピングモールがあるらしいので、そこでお買い物します。いつもならヒナさんやルナさんのお買い物もしなくてはいけませんが、今回は遊園地で遊んでいてくれるので心おきなく天地れます」


「……近畿内でも最大規模の遊園地をそんなイ〇ンモールのゲーセンみたいに」


「ていうか天知るって言葉を自然に使うのやめてくださいよ」


 相談相手2人のツッコミを無視して、大地は尚も着々と解説を進める。


「お買い物の間は常に目の前の商品のタグとか金額を音読することで自然に会話できるよう務めます」


「そ、それ自然って言うんですかね?」


「ちょっとやってみましょうか星畑さん」


「え!?……俺っすか!?」


 星畑の動揺を無視してページをめくると、真っ赤な文字で「結婚前のあの初々しい頃を思い出してしまうなあ」と書かれている。


「………あの、それ」


「この段階で天知さんに言ってもらいたいセリフの最終目標です」


「中々厳しいっスよそれ……まずはお友達から始めません?」


(ていうか二人でショッピングモールに行くこと自体難易度高いと思うけどな)


「何はともあれ、まずはシミュレーションしてみましょう。星畑さんは天知さん役をお願いします」


「………ええ……俺が天知さんっすか?キャラ違いすぎません?」


 急に天知役を任命され、ドギマギする星畑。容姿の差か、白羽の矢を免れた黒川は、滅多にない星畑を追い込むチャンスと、大地の肩を持つ。


「おお、やれやれ。土壇場で恋愛ドラマやらされる身になってみろってんだ」


「ええ……いや~……ちゃん陽菜の合コンごっことはわけが違うだろうがよ…まあやるけど」


「別にお芝居ではないので、肩の力を抜いてくだされば結構です。では早速」


 リラックスを促す大地だが、彼女の方が何故か緊張しているような気がする。元女優らしからぬカチカチの顔で、周囲と星畑をギクシャク見比べる。


「いやあ……ショッピングモールなんて久しぶりですよ」


(星畑から切り出した!……しかも心なしか最終目標に寄り添ってる気がする!)


「このフライパン取っ手が取れるんですね」


「…………陽菜ちゃんや瑠奈ちゃんとお料理されることとかあるんですか?」


「おや?これ緑色の方はお値引きされてないのですね」


「………人気の商品なんでしょうね」


「このお値段なら100円均一ショップでご購入しましょう」


「天知さんの事嫌いなんですか!?」


 声をかけ続ける星畑天知を総スカンし、淡々とエアショッピングに興じる大地を見かね、黒川が突っ込む。星畑が腹を抱えて笑う中、大地はムッとした顔で反論する。


「そんなわけがないでしょう。私がどれほど天知さんに焦がれに焦がれているか」


「いや、それは重々承知してますけど……いくら何でももう少しコミュニケーション取りましょうよ」


「………こういう時、どんな会話をすればよいのか分からないのです」


「普段、俺らとか家族と話してる感じでいいんですよ」


「それが無理なら、天知さんの会話に相槌打つだけでいいと思いますよ」


「そうそう!天知さん場の空気読んでくれるタイプの人だし」


 本気でしょんぼりとしている大地を二人掛かりで励ます。


「ですが、あんまり天知さんにお任せしすぎても、目標を達成できるかどうか」


「そ、それはあきらめましょうや」


「ですが、第一段階で挫折してしまうとなると、今後の計画にヒビが生じてしまいます」


「………まだ何か言わせたいことがあるんですか?」


「はい。最終的には言わせるというよりやってもらうことになるのですが……」


 そう言いながら、大地お手製の計画ノートをパラパラめくり、最後のページを見せてくる。


         観覧車で天知さんとキッス


「「いやいやいやいやいや!!」」


 ノートには特大の赤文字で衝撃的なことが書かれていた。2人はもげんばかりに首を横に振る。


「え!?今回で恋人になるつもりだったんですか!?」


「いえ、そこまでは流石に、ただ折角の遊園地ですし、ロケーションを活かして一発くらいと思いまして」


「いやいや……観覧車でイチャコラなんて今日びカップルでもそこまでする奴いないんじゃないすか?」


「………ていうか、会話ですらあんなに緊張してたのにキスなんてできるんですか?」


「そのための緻密な計画ですから、第一段階で折れてはいけない理由が分かりましたか?」


「分かりましたけど、流石に破天荒が過ぎますぜ……」


「もうちょっと今回は大人しくというか……素直に遊園地楽しんだ方が……」


「自然に天知さんと二人きりになれる機会なんて限られているじゃないですか。悠長なことを言っている間に私は40代の美魔女と化してしまいます」


(………美魔女)


「大丈夫っすよ……天知さんだって40男だし、それに俺がこんなこと言うとアレですけど大地さん20代って言われても信じちゃいそうなくらい若々しいっスよ」


 星畑がおだてる。流石に20代は厳しいかもしれないが、若々しいことも美人なことも間違いはない。黒川も合わせて頷く。


「そうですよ。まあ、そもそも本番に天知さんと自然に二人きりになれるかどうかも怪しいんですから。取り合えずフツーに遊園地で遊ぶだけでも親睦を測れるんじゃ……」


 黒川がツラツラ喋っている最中、ガチャリと音がして玄関にボブマッシュの美少女が入ってくる。陽菜の姉の瑠奈である。しばらく東京にいた為、会うのが相当久しぶりだからか、それとも微妙に髪型が変わっているからか、黒川は少し緊張しながら挨拶をかわし、そのまま星畑のうながしで岩下宅を出ようとする。が、大地ではなく瑠奈に帰宅を止められてしまう。


「ちょっとちょっと……黒川さん方………あとで私の部屋に来てくれません?」


 瑠奈の態度はフランクな敬語とは裏腹にこちらへの配慮が滲み出ている。かしこまった風の態度でずかずかと要件を満たそうとしてくる大地とは真逆である。つられるまま瑠奈の部屋に入る二人。どうも緊張しているのは瑠奈も同じらしく、ソワソワとぎこちない動きで棚のモノをいじったりしながら、なんてことない世間話を振ってくる。


「えと……ヒナ………どーです?元気です?」


「え、ああ!元気!元気!…ついさっきもお姉ちゃんのおかげで遊園地行けるって大はしゃぎしてたよ!」


「入るなり須田のパイオツに突撃してたよな」


 女子中学生の前で下ネタなんて言うんじゃねえ!と星畑を睨む黒川だったが、瑠奈の反応は明るい。「目に浮かぶようです」とケラケラ笑う。


「それで………何の話が合って部屋に呼んだの?」


 本題に入る。瑠奈は笑顔を消して、心底申し訳なさそうな態度でコソコソ謝って来た。


「……あの、お母さんが……すいません……天知さんのことで迷惑してるんじゃないですか?」


「え!?……あ~……いいよ気にしないで!……ていうか瑠奈ちゃんは流石に知ってるんだ。大地さんが天知さんと再婚したがってること」


「あははは……そりゃあれだけ天知さん天知さん呟かれちゃね。ヒナは色恋には超鈍感だから気づいてないけど…」


(そういや最近口をついて天知さんが出てくるって言ってたっけ)


「でもよ……瑠奈は天知さんが父親になることに抵抗感ないのかよ?あったらちゃんと話し合わなきゃダメなんじゃねえの?まあ、肝心の大地さんが秘密にしたがってる時点でアレだけど」


「私たちに言ってないのは多分、まだ恋愛関係にもなってないからだと思います……私は、天知さんって人のことをあんまり知らないから何とも言えないですけど……でもカッコいいし、良い人そうだし、ヒナも懐いてそうだし、全然再婚するのは良いと思うんです。それに……お母さんも、天知さんのおかげでようやく元気になってくれたし」


「え?」


「……お母さん好きな人にすっごいグイグイ行くタイプというか、歯止めが利かなくなるタイプなんですよ。だからお母さん、お父さんのこともすっごい大好きでグイグイ行ってたんです……」


 何気に黒川が気になっていた岩下家の早世したという父親について、思わず形で語られる。シビアな家庭の話題に、緊張感が走る。


「………だから、お父さんが死んだときは……ショックだったんだと思います。私たちには普通に接してくれましたけど……相当落ち込んでて、それで女優もやめちゃったし」


「「…………………」」


 あまりに暗すぎる話題に押し黙ってしまう2人。重い空気を察して、瑠奈が明るい声で話を切り上げる。


「ま!それも天知さんに夢中になった今では過去の話ですけどね!今はもう、相当イキイキしてますよ!……それでもう、娘として恥ずかしいくらい…お二人を振り回しちゃってますし」


「はは…………」


「まあ、俺らが相談する分にも、天知さんにアタックする分にも……大地さんのやりたいようにやってくれればいいから……」


 再婚を望んでいない天知に対する裏切りともとれる発言だが、こんな家庭の裏事情まで知ってしまったら後押しするほかないではないか。おそらく天知の再婚したくない理由にも何かしらのシビアなわけがあるのだろうが、そこはもう大人二人で何とかしてもらうしかない。


「………あんまり重く考えないでいいですよ。お母さんも黒川さんたちに依存することはあっても、責任を求めたりはしないと思いますし……何なら断っちゃっても大丈夫ですし!」


「いやまあ、うん…そうなんだけどね……何というか……その」


「言いたいことは分かりますよ。私としてもお母さんが恋愛脳なのは恥ずかしいですし……」


「恋愛脳って言うか天知脳だな」


「アハハハ!!違いないですね!!」


 実の娘にフォローしてもらえたことで肩の力が抜けたのか、はたまた端から抜いていたのか星畑が冗談めかして言った軽口に笑ってくれる瑠奈。母親の恋愛に前向きなようだが、それはそれとしてあの没入ぶりにはやはり気まずさを覚えているようである。


「………瑠奈ちゃんが率先してイジってくれて助かったよ……特に星畑はシリアスなムードが苦手なもんだから」


「ほとんど会話を俺に丸投げしてる分際でよくもそんなセリフ吐けるなお前」


「フフフ……この家の常識人は私だけですからね!妹はとことんお母さん似ですから!」


「………じゃあ、瑠奈ちゃんはお父さんに似たってこと?」


「ん~……まあ、そうかなぁ……冗談とかよく言って表情豊かだったからお母さんとは正反対の人だったし」


「へえ~。でもまあ、そこに関してはちゃん陽菜も結構茶目っ気あるよな?」


「ああ~……あるある。この前もさ……何かこんなステップ刻んで『煮るなり焼くなりノリノリまさのり』って連呼してたぜ!……ユニークって言うか独特の感性持ってるよな!」


 陽菜の愛らしい一発芸をひょこひょこと真似てみる黒川。


「ええ~……ヒナが!一発芸!珍し~!……私相手にも中々やんないですよ?やってモノマネくらい」


「……黒川、そりゃ俺のネタだ」


「ヴエ!?」


「やっぱりモノマネでしょ?あの娘、自分のユーモアセンスにはあんまり自信が無いからモノマネしかしないんですよ……お笑いは好きみたいですけど」


「黒川お前!キレが悪いぜ!!こうだ!!こう!!」


 流石本家と言わんばかりのキレキレのステップを真顔で刻む星畑。黒川は、「そう言えば、陽菜ちゃんもやってる時は真顔だったな」と思い返すと同時に、勘違いしていたとはいえ星畑のネタを誉めてしまったことを若干気まずく思う。


「アハハハ!!やっぱ星さんは凄いなぁ!!ヒナもね……めっちゃ言うんですよ!星ちゃんは面白い、面白いって!も~ね……ずっとそればっかり!」


「そうだな。やっぱユニークというか独特の感性持ってるから……俺」


「………こいつ調子こいたら話できなくなるくらいボケるんで……あんま褒めすぎないよう陽菜ちゃんにも言っといてくださいよ」


「でも、それは無理じゃないかな~……だってヒナの奴、星さんのコト結構ラブっぽいし~」


「………やっぱり?」


 小学生が成人男性に向ける恋愛感情などはしかのようなものだと判断しているのか、堂々とカミングアウトする姉。時折、その波長を感じないでもなかった黒川が無駄に緊張しながら聞き返す。


「そうですよ~!星ちゃんは好きな人いるのかな~とか、やっぱり星ちゃんは凄いカッコイイとか!」


「クラスのバカな男子の典型例みたいな奴なのに…………やっぱ顔か」


「人徳だろ。まあ、俺はお前とか須田とかみたいに過度にアイツにメロってるわけじゃねえからな。アイツも接しやすいのかも………あとは、まあ、ホラ俺って料理作れるとか家庭的な面も充実してるし」


「………少しは謙遜しろよ」


 あえて謙遜しないという星畑なりのボケとも受け取れるが、それ以上に照れ隠しの要素が濃い。


「ていうか……陽菜ちゃんって色気より食い気って感じなのに…けっこう色恋に興味津々だよな」


「そこはお父さんとお母さんの両方の血を濃く注いでるんじゃないですか?鈍感だけど…ていうかやっぱヒナの奴、そちらでも暴食してるんですね……迷惑おかけしちゃって」


「いや、そりゃ全然!……ていうかお父さんって食欲旺盛だったの?」


「はい!……まあ、ヒナ程強欲じゃなかったですけど……」


「ははは……まあ、陽菜ちゃんの食べっぷりは可愛いから……」


 その後も陽菜のことなどを数分談笑し、話は瑠奈が本格的にしたかった話題へと移る。


「ここからが本題なんですけど……ぶっちゃけお母さんが仁丹ランドで何を計画してるか教えてくれません?」


「え?……あ~……いいのかな?」


 星畑を見る黒川だが、相棒も俺に聞くなとばかりに手団扇を仰ぐ。


「お母さんに口止めされてるんです?」


「や!……そういうわけでもないんだけど……プライベートというかって……まあ、いいか。瑠奈ちゃんだってそのプライベートの一部なんだもんな」


「別に他愛のないって言ったら失礼だけど……普通のことだぜ?……二人っきりで周りたいってさ」


「あ~でも、なんか遊園地じゃなくってその傍のショッピングモール行くって言ってたよ」


「フム……遊園地を出て二人きりですか……私たちが遊んでる内に良いムードに持っていくってことですね」


「まあ、そういうことだろうね」

(まず上手くいかないだろうけど……)


「まあ、知りたいって気持ちは分かるけど……それを知って何かするつもりだったりするの?」


「いえ~……変に首突っ込んで大人チョップ食らうのも怖いし…余計なことはしないですけど。あ!それじゃ、お母さんと天知さん以外の私たちはどうするんですかね?」


「な~んかそこに関しても色々言ってたけど……別に俺らは自由でいいんじゃね?」


「……うん……」


 天知たちのついでに、絶叫に乗れない(であろう)凛と二人きりにさせられそうになっていたことを思い出す黒川。レコードショップのそれとは比較にならないプレッシャーである。自由になるのなら、その話も有耶無耶になって二人きりを回避できるのではないか。


「……悩むなあ~……ひっさびさの仁丹ランド絶叫三昧も捨てがたいけど……好きな人を前にしてガッチガチのお母さんも見てみたいし……どうしようかなぁ~」


「お!瑠奈さ~ん……ひょっとして出っ歯のカメっすかぁ~」


 母親のあとをつける気満々の瑠奈の葛藤に星畑が茶化しを入れる。


「うえ~……やっぱお母さんは外せないよねえ……でもなあ…ヒナ絶対私のコト放してくれないだろうしなあ……」


「そこは大丈夫だろ?姫月がいるし」


「エミちゃんさん?……来てくれるの?お母さんが天知さんとヒナさんをたぶらかす魔性の女って言ってたけど……そもそもキャラ的に遊園地来ないんじゃ……」


「いつの間にそんな敵対心燃やしてるんだか……陽菜ちゃんはともかく、天知さんがあの女になびくこと何ぞ絶対ないだろうに」


「いや~……すっごい美人さんなんでしょ?お母さん始めて見たとき、びっくりしたって言ってましたよ。私を超えるほどの美人は、将来大人になった私たちのどちらかだって思ってたのにって」


「どちらというとその話だと凄いのは大地さんの方だけどな」


「まあ、アイツはヤな女だからな。凄いところもあるけど、凛ちゃんとか陽菜ちゃんが言うほど偉くないし、強くも無いから……」


「会ってみたいからできるだけ来て欲しいけどなあ……ヒナ、星さん以上にエミちゃんエミちゃんって凄いですからね!」



                    3


 そんな瑠奈の願望虚しく、シェアハウス内では頑なに遊園地に行きたがらない姫月と行かせたい陽菜の攻防が続いていた。あっちこっちで追いかけっこをしている二人を。凛が灯台のように心配そうに体を回して追っている。


「……も~……何でそんなに行きたくないの!?」


「何百回も言ったでしょ!?行っても楽しくないからよ!」


「ヒナは楽しいの!だから来て!!」


「アンタを楽しませるためだけに行動するような安い女じゃないのよ!?私は!」


「エミちゃんも行ったら絶対楽しくなるもん!お金払わなくっていいんだから行こうよお!」


 いつになく子どもっぽい口調と仕草でわがままを言う陽菜。しかし、それが通じるほど相手は大人ではない。


「あんまりしつこいと泣かすわよ」


 本気でイラついて来たのか。これまたいつになく陽菜相手に本気のにらみを利かせる姫月。しかし、それが通じるほど、陽菜の想いは浅くない。というか、これでひるむようならこの女の友人になどなれっこない。


「泣かすなんて嫌なこと言わないでよ……あ!そうだ!じゃあ逆に笑わせたら勝ちってことにしよ!今からくすぐりあって、笑った方の負け!」


「………嫌よ……私もくすぐられた程度じゃ何ともないと思うけど、アンタ笑わないことにかけては天下一品じゃない」


「うへへへ……黒川さんとのババ抜きの時もお見事でしたね」


 珍しく人の技能を誉める姫月、その横のカタツムリのよいしょはいつも通りだが。


「う~……じゃあ、凛ちゃんをこしょこしょする……ので」


「そいつ脇腹突っついたらすぐに啼くわよ」


「い、イヤないい方しないでくださいよ……」


「こお?」


「う、うへへっへ……くすぐったいですよぉ」


 陽菜にツンツン触れられて至極幸せそうな凛だが、「違うわよ、こう」と割って入った姫月にブスリと脇腹のツボを突かれ、素っ頓狂な悲鳴を上げる。


「ひゃああう!!」


「……ホントだ」


「ううう………いきなりは卑怯です」


「じゃあ、私からでいいからさぁ……私が笑ったらもう行かなくっていいからぁ」


「………あ~もう!分かったわよ!じゃあバンザイ!!」


「はい」


 ようやく折れて勝負に乗った姫月が、陽菜に両手を上げるよう指示を出す。素直に両手を上げ、身体を姫月にゆだねるが、同時にスンと顔を研ぎ澄ませる。


「………………………ん、ここね」


 陽菜の腰回りに指先を当て、そこから触れるギリギリで脇下近くまでなぞるように撫でる。そこから数舜遅れて、陽菜にぞわぞわとした感覚が押し寄せてくる。


「んう……う……」


 ピクピクとわずかに表情筋を痙攣させ、声とも吐息ともつかぬものを上げる陽菜。一応笑っているとはいいがたいので、陽菜の勝利と言えなくもないが、雰囲気的には敗北である。


「はい勝ち」


「ま、待ってよ!今のズルい!だ、だって……くすぐってないもん!撫でたもん!」


「くすぐるのも撫でるのも一緒でしょ?アンタのポーカーフェイス破ったんだから勝ちよ勝ち」


「ていうか……エミちゃんの技なんかやらしい……お母さんとかお姉ちゃんのとは全然違う」


「そ、そうなんですよ!……骨抜きにされると言いますか!なされるがままと言いますか!やっぱりエミ様はアダルトなテクの高いお方なんです!!」


「……アダルトなテク……」


「それ…もしかして私をヤリ〇ン呼ばわりしたいわけ?」


「ち、違いますよ!!ヒナちゃんがいるのにそんな含み持たせるわけないじゃないですか!!」


「……で、でも……今のは反則!アダルト禁止!!もう一回!」


「あ~ウザいウザい!……アンタも結局はそこらのガキと同じね!」


「どうしたの?何か揉め事?」


 突然、天知が割って入る。揉め事に混ざるには不釣り合いなほどニコニコと穏やかな笑みを浮かべている。


「あ……天知さん!丁度良かった!あのね……今度ヒナたち…仁丹ランドに行くことになったの!それでチケットあるから……テストもいい点とれたし……」


 興奮しすぎてしっちゃかめっちゃかになってしまっている陽菜だが、天知は全てを理解した顔で頷く。


「なるほどね……姫ちゃんが行きたがらないのか」


「天知からも言ってやってよ!いい歳こいた大人が遊園地なんて行くものじゃないって!!」


「ハハハ…そうかもね。でも、僕みたいなおじんはともかく、姫ちゃんは若いんだからそんなこと言ったらダメだよ」


「若いとか若くないとか関係ないわよ!私は遊園地が嫌いなの!」


「ふうん……そんなに悪くないものだよ?特に最近はあそこも子ども向けのモノより大人向けの絶叫マシーンが増えてるみたいだし」


「天知さんは遊園地お好きなんですか?」


「うん……昔はよく言ったよ?と言っても、まあ、僕の場合はほとんど仕事だけどね」


「仕事?……あ!ひょ、ひょっとして!ヒーローショーですか!?」


「わあ懐かしい。昔やってたなぁ」


「ハハハ……もう何十年も前のことだけどね。仁丹市で修行中によくアルバイトしてたよ。仁丹ランドにも行ってたんだよ?」


 援軍だと思っていた天知が敵側の人間だと分かり、姫月は面白くなさそうに彼の話を聞いている。


「何よ、天知まで……」


「ま、まあ……人にはそれぞれ好き嫌いあるんだし、嫌がってるなら無理強いはダメだよ?」


「ええ~……でも一緒に行きたいんだもん……その為に頑張ったのに」


「頑張ったのはアンタじゃなくってアンタの姉でしょ?」


「そうだけど……天知さんは来るの?」


「いやいや、いくら何でもねえ……岩下家と友達同士で行くのに僕も同行する理由はないじゃない」


「理由しかないと思うけど……」


「エ、エミ様!!シー!シー!!」


「そっか……天知さんも来ないんだ……はあ」


 がっくりとうなだれて、トボトボ二階に上がる陽菜。彼女の誘いを食い気味で乗っかった凛がその背中を追い、珍しく冴えた知恵を貸す。


(ヒナちゃんヒナちゃん……あの、ちょっと姑息ですけど…Uさんに頼んで仕事にしてもらったらいいんじゃないですか?)


(あ、そっか!お仕事にしたら二人とも来るしかないよね!)


 というわけで早速、食卓に置いてある醬油さしの電源を入れるが、一部始終を知っているUの反応は渋かった。


「言っておくが、今回は仕事にするつもりはないぞ。今までキミらの言う事を聞いてそのまま日常を切り取ってきていたが、前回の人生ゲームでいい加減懲りた。今までで最低の反響だよ。また前のようにこちらで用意するシナリオを準備しているから、それまで仕事は無しだ」


「ええ~……絶対ラーメン店に並ぶよりも、遊園地の方が面白いのに……」


「宇宙人の価値観はよく分かりませんね………で、でも!カメラは絶えず廻ってるんですし、お仕事という体でお二人を連れだせば!」


「嘘つくってこと?」


「……嘘じゃないです……使われないかもしれないだけで、カメラは廻ってるんですから……」


 凛も2人に遊園地に来てほしくて仕方が無いのか、珍しく強引に話を持っていこうとしている。しかし、下僕に転がされるほど、姫月は甘くない。


「無駄よ。今の会話聞いてたもの。ギャラの出ない仕事はしないわよ?私」


「あう……」


「エミちゃん……こんなに頼んでもダメ?何でそんなに遊園地が嫌いなの?」


「…………騒がしいからよ。ガキの時から全く興味なかったわ」


「じゃあ、生まれてから一回も行ったこと無いの?それで面白くないって決めつけるのは間違ってるよ」


「うっさいわね!確かあそこ、横にモールあったでしょ?そこなら行ってやってもいいけど、遊園地は行かないわよ」


 どれだけ懇願しても無駄だと言う事を察したのか、陽菜ががっくり肩を落とす。それこそテストの点数が至らなかった時に逆戻りである。結局そのまま岩下宅に帰ってしまった。そして入れ違いで黒川らが帰ってくる。帰るなりひょこひょこと凛が近づいてきて、案の定姫月が遊園地に行きたがっていないことを伝える。


「あ~………やっぱり?」


「はい……ヒナちゃん…すっごくガッカリされていました」


「まあ、こればっかりは自由意志だし、無理矢理連れて行くのもなあ」


「……そちらはあの、大地さんですよね?やっぱり天知さんについての相談ですか?」


「うん……そう言えば、天知さんは来てくれるの?」


「あ!……そう言えば、天知さんも行かないって……おっしゃってました」


「………姫月はともかく、天知さん来ないは不味いよ」


「あ……やっぱりそうですか?……えと、その、どうしましょう……あの、すいません……その私、勝手にUさんの名前まで使っちゃって……それでも駄目だったんですけど…」


「ヒヒヒ……宇宙人(アイツ)遊園地なんて撮って何が楽しいんだとか言ってんだろ?どうせ」


「はい……あの、どうしましょう?このままだと浮かばれなさすぎです……ヒナちゃんが……いえ、それ以上に…私も、エミ様と遊びに行ったことなんてありませんし…ご一緒して欲しいんですけど」


「そうは言ってもなあ……天知さんに関してはどうせ大地さんが何としてでも連れていくだろうという安心感があるけど……」


「………お隣のショッピングモールなら行っても良いっておっしゃってたんですけど……それじゃ今度はヒナちゃんが行きたがらないでしょうし」


「……やっぱ大人は遊園地とか興味ねえんだな……大地さんも天知さん連れてモールに直行って計画してたし……」


「そうなんですね………大地さんも、今回くらい天知さんじゃなくってヒナちゃんといっしょに遊んであげたらいいのに………まだ9歳なんですから……」


 凛がいつになくシリアスな調子で大地の天知狂いを非難するような事を言う。おそらく星畑に押された妙なツボが作動中なのだろう。文化祭だとかで任命された係をイヤに張り切って根詰めるタイプである。


「………それ言っていいのは陽菜ちゃんか瑠奈ちゃんだけだぜ……」


 他人の家庭にむやみに口出ししちゃあいけないとこれまた珍しくハッキリと注意する黒川だったが、その発言はひょっこり生えてきた姫月に遮られる。


「今の話ホント?」


「わわ!エ、エミ様!!」


「姫月!?……今の話ってのは……どこのこと言ってるのか分かんないけど……会話の中身は全部マジだぜ?」


「………フーン……あの女がねえ……ちゃっかり遊園地デート企んでたわけね……」


「お前、友達の母親をあの女呼ばわりってどうだよ」


「それに……すぐにショッピングモールに行かられるおつもりらしいですよ?」


「アンタの敬語間違い一々イライラするわね……尚いいわよ。もともとモールなら行っても良いって思ってたんだし……」


「何だよ?お前、大地さんの色恋に興味あるの?」


「で、出っ歯のカメさん、なされるおつもりなんですか?」


「おばんとおじんのラブゲームなんて一ミリも興味ないわよ。でも…普段からどーも気に食わないあの女に一泡吹かしてやろうと思って」


「……マジで何するつもりだよ?」


「フフフフ……べっつに~………アンタに言う義理なんかないわよ」


 何やらよからぬことを考えていそうな邪な笑みのまま、二階に上がっていく。慌てて階段の下から声をかける。


「ゆうえんち~!!行くってことでいいんだよなあ~!!」


 「あ~!!」と肯定と取ってよさそうな返事がする。思いがけずあっさりと姫月を連れていくことに成功した。凛が嬉しそうに二階に駆けあがると同時に、姫月が「そうそう」と部屋から出てくる。


「あ!……エミ様!!一緒に来てくれるんですね!ありがとうございます!!」


「何でアンタがお礼言ってんのよ?……どいて、天知が付いてこなきゃ私が行く意味ないの忘れてたわ」


「天知さんですか?……でも……さっき行かないって……」


 凛が言いよどんでいるのを無視して、姫月が天知ルームの扉を叩く。中から天知が出てくる前に一方的に姫月がまくしたてる。


「天知!!今度仁丹ランド行くとき、ドライバー兼荷物持ちとしてついてきなさい!!」


「えええ!?……そ、そんな……お、恐れ多いですよぉ!駄目です!エミ様ぁ!!」


「うっさい!いいのよ!どうせ保護者でもないのに若者に混じって遊園地行くのに気後れしてたんでしょ!……ニートの分際で大人のメンツ保とうとするの見苦しいからやめて欲しいわもんだわ」


「い、いくら何でも……無礼すぎますよ……その発言……」


 あまりにもあんまりな言い分に、いくらエミ様と言えど顔をしかめる凛だったが、部屋から出てきた天知は「痛いとこつくなあ」と苦笑していた。案外的を得た指摘だったのかもしれない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()あげるから……ついてきなさい!いいわね!」


「はははは……仰せのままに」


「えと……その……来てくださるのはすごくうれしいですけど……いいんですか?」


「ああ。実は……久しぶりに足を運びたいと思ってたんだよ。折角故郷に戻ったんだしね」


(なんか二階でトントン拍子に話がまとまってる……やっぱ姫月が加わると違うな)


 黒川が階段の一段目に片足を乗せボケッとしているうちに、星畑がどこかで外食しているうちに、無事にメンバー全員が仁丹ランドに赴くことが決定する。凛が勇んでそのことを陽菜に電話すると、声だけでもはっきり分かるほど喜んだ。紆余曲折、各々思惑あれど何とか陽菜(と大地)の悲願は叶ったのである。



                    4



 気持ちの良い快晴の日曜日。一同は大地と天知の運転する車に乗って、朝早くに仁丹ランドへ出発した。市内とはいえ、そこそこ遠くにあり、尚且つモールやホテルを内蔵しているテーマパーク周辺は沿岸部で地の利も悪い為、車で行くに越したことは無い場所なのだ。車の保険だとか諸々の関係上、運転手が大地と天知に限られるので仕方が無いことだが、道中はどうあがいても2人きりにはなれない定めである。しかし、大地側の車に内情を良く知っている星畑、黒川、凛を乗せることで、最後まで対天知対策の会議を欠かさないよう万全にしている。


「まさか天知さんだけでなく、エミちゃんさんまで来てくださるとは思いませんでした」


 真っ白なシャツワンピースにシュっとしたデニムを合わせた大地が、運転にふさわしくない白色の底が厚いサンダルでブレーキを複数回踏む。


「ははは……何だかんだで陽菜ちゃん思いなのかもしれませんね」


「そうですね。ヒナさんも大喜びでした。きっと遊園地ではエミちゃんさんにべったりでしょうね」


「…………そうっすね」


 言われて初めて気づいたが、瑠奈だけでなく姫月まで天知と大地をつけるとなると、陽菜は誰と遊べばいいのだろうか。せっかく遊園地に行くというのに、あまりにも仁丹ランドそのものに目を向けている人間がおらず、黒川は遊園地と陽菜に申し訳なくなってくる。


「私と天知さんはショッピングモールでお買い物しているので皆さんはごゆっくり遊園地を満喫してください」


「…………ヒナちゃんは…その、大地さんとも……遊園地周りたがってるんじゃないですか?」


(おいおい……)


 凛がおずおずと、しかしバッサリと真に迫ったことを切り出す。


「ヒナさんが、私とですか?」


「………はい……」


「そうですね。ルナさんがお仕事でご一緒できなかった時は私と二人でよく周っていたものです。もっとも私はルナさんの代わりにはなれませんでしたが」


「そ、そうだったんですか?」


「残念ながら、私のような未熟者ではどうしても埋められない穴があるのです」


「…………穴……ですか?」


「はい。誰かの代わりなんて一生埋まらないのです。一度空いた穴は決して埋まりません。抜けたものがまたすっぽり戻ってきて初めて埋まるのです」


「…………………………ソウデスカ」(←消え入りそうな声)


 何となく色々察してしまいそうな重苦しい空気になりかけるが、星畑がすぐに話を元に戻した。


「それで……モールで買い物してそこで昼飯食った後、どのタイミングで観覧車乗るつもりなんすか?」


「そうですね。夕方から夜にかけてで行きましょう。その間は星畑さんはヒナさんやルナさん、エミちゃんさんと拷問マシーンできゃあきゃあ叫んでおいてください。絶叫系に乗れない黒川さんと凛さんはお二人でご自由に」


「え?……あの、私、フツーにジェットコースターとか乗れますよ?」


「では黒川さんはお一人になってしまいますが、どうぞご自由に」


「……………トホホ」


「く、黒川さん……よろしければ私と一緒に回りますか?私、別に無理して乗るほどジェットコースターやら好きじゃないですし……」


「………いいよ。遠慮しないで……乗れない俺が悪いんだから……ていうか…こうなったらちょっとくらい勇気絞って乗ってみようかな……中学の時ダメでも今ならいけるかも」


「ホ、ホントに無理しないでください!別にあんなの乗っても何てことないですよ?早いだけですよ?」


「……今から遊園地行こうっていう人間のセリフかいそれが……」


「えへへへ……私元来、ライブ以外の人混みは大嫌いなインドア人間ですから……」


「や……まあ、そうだけどさ……じゃあ何で来たの?ってなるぜ?……ていうかこれ大地さんの奢りだし……フツーに失礼だよ?」


「須田って……ナチュラルに畜生な時あるよな」


「あああ!す、すすす、すいません!!図に乗ってました!!……ああああの!!違うんです!違!」


「気にしないでいいですよ。ヒナさんがせがんでついてきてもらっているのですから。むしろ本来行きたくもない場所にヒナさんのために来てくださるなんて恐悦至極です」


「ううう……本当にすいません……あの、人込みが嫌いなのはホントですけど…それはそれとしてホントは遊園地は好きというか、ちょっと図に乗って繊細なキャラ作っちゃっただけなんです…」


(無駄に斜に構えて場をしらけさせちまうの分かるわぁ~)


 黒川自身にも何度か経験がある失敗を目の当たりにして親近感を膨らませる。「ただでさえ濃いいんだからこれ以上キャラ要らねえだろお前」と星畑が突っ込み、そのまま大地に忠告する。


「……そういや、姫月のアホがなんかよからぬこと企んでるみたいなんで気を付けてくださいね」


「エミちゃんさんがですか?それはどのような?」


「分かんねえっすけど……大地さんが天知さん連れてモールに行くってこと知った瞬間、急に乗り気になりましたから……多分何かしらダル絡みしようとしてんじゃないっスか?」


「フム。そうですか。ありがとうございます」


「エミ様、天知さんのコトお好きなのでしょうか?」


「ないない!!確かにアイツ面食いだし、最初の方は猫被ってたけど……今ではすっかりだらしない思春期の娘みたいになってるもん。この前なんか風呂上りに肩揉ませて、叩かせてたぜ?」


「羨ましすぎますね。妬ましいです」


(正直な人だなあ)


「私の××××も思いっきり叩いて欲しいものです」


「いや何言ってんスか!?」


「せめて肩じゃなくって胸揉んで欲しいくらいのレベルに留めてくださいよ!!……あまりのド下ネタに須田の開いた口がふさがらなくなってますよ!」


「……………………じゅる!」←よだれが垂れてようやく我を取り戻している


「おやおや、まだまだお子様さんですね」


「そう思うんだったら発言を慎んでくださいよ……」


(観覧車でキスって……もしかしたら物凄くセーブした目標だったのかもな)


「現場についたら私一人で何とかするので、皆さんは折角ですし、好きなように遊園地をエンジョイしてくださいね。特に凛さん。このチャンスを逃さぬように」


「ええ!?チャ、チャンスって何ですか?」




                     5


「着いたー!!」


「きゃああああ~!!」


「………何あの白いの……ひょっとしてアレ全部ジェットコースター?」


「俺のトラウマの仁丹コースターよりもでかいのできてるじゃん……何考えてんだよ仁ラン」


「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな~」


 目的地の仁丹ランドにつき、車を降りて好き勝手にリアクションを取る面々。今回は4枚の入場チケットがある為、本来なら大地も天知も、観覧車以外乗らない予定とはいえ、入って乗り物に乗るのはタダである。しかし、せっかくアトラクションのフリーパスも含まれているチケットだ。ロクに遊園地を愉しむつもりがない自分が使うのはもったいないと、既に大地と天知の分は、凛と黒川に渡している。あとはチケット枚数超過分のメンバーの代金を払ってしまって、さっさと二人でショッピングモールにおさらばしなくてはいけないのだが、そのことはよりにもよって天知と陽菜だけが知らない。もっとも、大地はルナが事態を把握していることも知らないわけではあるが……。


「お母さん?行かないの?早くしないと、王マウンテン(新設された目玉コースター)満員になっちゃうよ」


 常に微弱に揺れている陽菜がゲートの向こうで母を待つ。


「ヒナさん、ルナさん。申し訳ないですが、聞いて欲しいことがあります」


「どうしたの?………ひょっとして、チケット落しちゃったとか!?」


「どうしたの~?おかあさ~ん」(←白々しい演技)


「私、ショッピングモールに行きたくって仕方が無いのです」


(もっと言い方あっただろ)


「ええ?……ここまで来たのに!?チケットあるのに!?」


「はい。チケットは既に黒川さんに渡してしまいました。エミちゃんさんたちの料金も既にお渡ししてますから、お二人は皆さんと一緒に心行くまで楽しんでください。私のことは気に」


「うん分かった買い物楽しんでねじゃ(超早口)」


「あ!ちょっとヒナ!!一人で突っ走ったらダメだって!」


「気にせず………………行ってしまいましたね。計画通り」


 人込みの中に消えていく我が子を見送り、大地がきらりと目を光らせる。その後ろで大地と天知の分のチケットを握った黒川と凛が冷ややかに見つめる。


「はい……行ってしまいましたね。()()()()()()


「け、計画大失敗ですよ!はやく手を打たないと!!」


「………何ですと?」


 大地がグリングリンと首を回して見渡すが、そこに天知は居ない。


「あ、天知さん?天知さんは何処?」


「……………アンタ、その雰囲気でポンコツってどうなのよ」


「大地さん……今俺がここで腹抱えて笑ったら怒ります?」


 チケットを買う関係で混みあい、遅れてきた姫月と星畑が事態を察して声をかけてくる。


「エミちゃんさん。天知さんを返しなさい。どこへやったのです」


「知るか!!こっちが聞きたいわよ!!………こちとらアンタの邪魔するためについて来たってのに!」


「え~っと……多分天知さんは、ヒナちゃんが飛び出していったのを慌てて追いかけたんだと思います」


「そんな……まだお金を渡ししていないというのに」


「自腹でさっさと買ってたんですね。流石天知さん」


「え?ということは、天知さんは遊園地の中という事ですか?」


「………それ以外ないでしょうね」


「…………あの~……もう今回はあきらめた方が……」


「なぜです?まだ舞台が変わっただけです。天知さんとキスをする。それさえできれば場所はどこでも構いません。棺桶の中でも構わないくらいです」


「………そうですか……じゃあ、まあ、頑張って……」


 勇ましいことを言いながらも、当日券売り場に並びに行く彼女の後姿はすこぶる寂しかった。そんな大地を無視し、各々思い思いの場所に向かう。


「じゃあ、行くわよ星畑!どうせなら、一番でかいコースター乗りましょ!」


「……何普通に遊園地エンジョイしようとしてんだよ。いや、まあ良いことだけど……大地さんの追っかけはいいのか?」


「うるさいわね……別にアレ一つ乗るくらい大した時間じゃないでしょ?ホラ、いいから行くわよ!」


 遊園地のオーラに当てられてしまったのか、浮かれていることを隠そうともせず星畑の手を引いて王マウンテンの入り口に向かう姫月。偶然にもヒナたちが向かった場所と同じである。


「えっと……どうします?大地さんを待ちますか?」


「いや、遊園地では好きにしろって言ってくれてたし、俺ももう行こうかな……」


「はい……えっと、へへへへ……みんなで来たのに…二人ぽっちになっちゃいましたね……」


「え!?………あ、ああ~…ああ、そうね……そうかも」


「フフフフ……みんな王マウンテンに向かってるみたいですし、しばらくみんなとは合流できなかもしれないですね」


「い、いや……俺のことは気にしないでいいから……凛ちゃんはやりたいように……」


「………えと、私は……その、黒川さんがやりたいこと……お手伝い……じゃない…えっと、ご、ごいっしょ……したいか……な~って……えへへへ、えへへへへへへすいません!」


「う、うん……」


 ギクシャクモジモジと自分のプランを言う凛に、黒川は心臓を揺らされる思いでようやく微かな返事を絞り出す。


「えっと……それで……何されます?」


「………トラウマチャレンジ……してみよっかな……ってちょい思ってるんだけど」


「ってことは………仁丹コースターですね!分かりました!では行きましょう!」


 姫月に習うように、手こそつながないが、黒川の前に立って誘導する凛。思惑だらけの遊園地計画だったが、その類まれなるエンタメ性により、その多くの邪な思いを打ち砕いてしまった。こうして、園内でシェイクされたメンバーたち。

 大地と二人きりのはずが、その娘姉妹と一緒にいる天知。何だかんだ凛と二人きりになってしまった黒川。そして、大地を付け回すつもりが、自分も単純に仁丹ランドをエンジョイしようとしている姫月。各々が複雑に交差しながら、遊園地はもうじき起ころうとしているある騒動に向け、じっくりとその時を待っているのだった。



 


















同じ章だったとしても、前半後半では大きく雰囲気というか話の流れを変えることに注力しています。その点で言うと、前回は本当に何がしたかったのか自分でも謎のグダグダ回でした。前半は楽しかっただけに余計さもしいです。そんな埃まみれの作品ですが、よろしければ今後ともごひいきにお願いします。


それではまたお会いできることを楽しみにしています。

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