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その②「人生って不思議なものですコト」

・登場人物紹介

黒川響くろかわ ひびき 性別:男 年齢:20歳 誕生日:6/25 職業:大学生

本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。

☆自分の棺桶には取り合えず高野文子の『棒がいっぽん』を入れておいて欲しい。


星畑恒輝ほしはた こうき 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人

黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。

☆自分の棺桶には取り合えず打ち上げ花火を入れておいて欲しい。


須田凛すだ りん 性別:女 年齢:19歳 誕生日:5/25 職業:大学生

男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。

☆自分の棺桶には取り合えずスージー&ザ・バンシーズの『呪々』を入れておいて欲しい。


姫月恵美子ひめづき えみこ 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職

スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。

☆自分の棺桶にはありったけの金木犀を詰め込んでおいて欲しい。


天知九あまち きゅう 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職

元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。

☆自分の棺桶には取り合えず手紙でも入れておいて欲しい。


岩下陽菜いわした ひな 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生

女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。

☆自分の棺桶には復活の何かしらの札か何かを入れておいて欲しい。


更新を空けてしまって申し訳ありません。おまけに前回長くなるとか言っていたくせに、書く予定だったものを大幅に削って短くしてしまいました。おまけにおまけに何となく今回はなごともなさ過ぎたような気がします。番外編でやるような薄いことを長々とやってしまったって感じです。やっぱり単なる日常だけの会ってのはダメですね。本作における撮影の概念と同じ結論にたどり着いてしまって何となく恥ずかしいです。

                     1



 人生ゲームと聞けば黒川にはある苦い思い出がよみがえる。いや、改めて思い返してみればさして苦くもない思い出なのだが、人生ゲームは双六と言えど人生を模しているのだから、やっているうちに必ず誰かしらと結婚する。小学生の時分、まだまだ己の将来に光がさしていたころ、黒川は友人と人生ゲームに興じた際、不細工令嬢という外れなのかあたりなのかよく分からないキャラクターとお見合いで結婚することになった。別にそれだけなら大したことは無いのだが、当時、黒川のクラスにはあまりにも不細工令嬢のイラストと瓜二つの女子がいたのである。次の日から黒川はその女子とカップルだともてはやされ、幼い黒川はそのイジリを猛烈に反発したのだ。巻き込まれただけのその女子を気にすることなど一切なく、「なんでこんなブスと!」なんて非道な言葉を投げかけたものであった。


(今にして思えば……アレ……立派なイジメだよなぁ)


 それ以来、人生ゲームが嫌いだった。遊びとはいえ、自分の人生を形作るゲームなど恐ろしいではないか。そんな彼が人生ゲームの存在も知らなかった女と人生ゲームで対決することになった。おまけにゲームのマス目は星畑らのオリジナルである。


「なあ………お前言ってたじゃん……自分の知らないゲームは禁止って……やめとこうぜ?人生ゲームなんて……」


「……別にいいわよ。ようするに双六でしょ?まあ、私、双六もガキの時にやったこっきりだけど」


「しっかし………星畑の自作って……不安だわぁ」


「じゃあさっさと投降したらいいじゃない……私勝負まで寝るから…準備できたら言って…ヒナ!!」


 姫月が大声で陽菜の名を呼ぶと、どこからともなくトテトテとやって来た彼女が先程の昼寝対決で使用した姫月の布団に潜り込む。


「…………じゃ、騒がしくしたら死刑よ」


「いや、自分の部屋のベッドで寝ろよ!」


「……嫌。なんかこの布団寝心地が良いのよ」


「ええ~……それ元々俺の部屋にあった安もんだぜ?……お前の糞高いベッドの方が絶対いいだろ」


「うげぇ~……これアンタのだったの?まあいいわ、ヒナ……邪魔だからさっさと出て。もういいから」


「ん。おやすみ。エミちゃん」


「ひ、陽菜ちゃんはそれ何やってたの?」


「……エミちゃんの布団あっためてた」


「………陽菜ちゃんをカイロにするなよな」



                        2



 姫月の布団のすぐ近くにあるソファにもたれながら、黒川はイヤホンで音楽を聴きつつ漫画を読んでいた。その後ろのリビングでは他のメンバーが和気藹々と人生ゲーム作りに勤しんでいる。どうもお金やルーレットは星畑が持っていたモノをそのまま使うようである。逆にそれ以外が彼らのお手製だというのだから凄い手の込みようである。


(どっちにしても……時間かかりそうだな)


 黒川の予想は大いに当たり、人生ゲームが出来上がるよりも先に姫月が昼寝から目覚め、夕食の方が先にできた始末である。夕食を取り終わしばらくして、ようやくゲームが完成した。黒川は、自分でも何でか分からないが、妙にアルコールを摂取したくなり、フルーツのイラストが眩しいジュースのようなチューハイを呑みながら、完成したてのゲームを見渡す。


「……うわあ…グネグネ曲がってんなぁ…長い人生だこと」


「フフフ…ヒナちゃんが人生100年時代だからって言って聞かなかったんです」


「何じゃそりゃ……で、肝心のマスには番号しか書かれてないじゃん」


「その番号ごとにお題が書かれてんだよ。ちなみに黒字が男サイドで赤字が女サイドの書いたコマだから……オレンジは通過したら絶対やる強制イベントな」


「良かった……給料とかは全部オレンジで書かれてる……」


「ちなみにスタート時は15万円な」


「少ねえな所持金…大学入りたての時でももっと持ってたぜ俺」


「は、早くやろうよ!……わ、わたしエミちゃん呼んでくる!」


 辛抱たまらない様子の陽菜が二階に駆けあがっていく。しばらくして、気だるそうな姫月と溌剌と先程星畑がしていたような説明を彼女に聞かせている陽菜の対照的なコンビが降りてきた。これで役者は揃った。


「それじゃあ、ファイナルラウンドだね」


「エミ様!私!ちゃんとエミ様が優位に立てるよう色々と考えてコマを作りました!」


「………全部裏目に出そうな気がしてならないわ」


「心配すんな黒川。結婚相手の中にはちゃんとあずまんが大王の春日歩もいるからよ」


「………いやいやいやいや……確かに好きだけども……」


 かくして人生ゲームの火ぶたが切られた。何故か問答無用で先行になった姫月の赤い車が8マスも激走する。幸先のいいスタートダッシュである。


「6・7・8……赤い文字だから私チームのコマね。フフフ……私ってホント勝負強いわね」


「人生ゲームの序盤なんだから職を決める段階だよな」


「ホラ、赤の27番よ。さっさとコマの内容を読みなさいよ」


「え~っと……『奮発して買ったお高い服にうっかり特大のカレー染みをつけてしまう10万円失う』です!大丈夫です!!エミ様!!すぐに取り返せます!」


「これアンタの日記帳じゃないのよ!?」


「………頼むから俺はどっかに就職してくれよ…3か…うっわ、また赤だ……」


「『ツチノコ見つけて大儲け!100万円ゲット!』」


「………ありがとね陽菜ちゃん」


「フフフ……お兄ちゃんが見つけちゃった」


「何和んでんのよ………いいわよ!アンタは精々UMAハンターにでもなってなさい!私は大株主になって副業でパリコレするから!!」


「今日び小学生でもそんな夢見ねえぞ」


「いいから!!アンタらのとこの53番!!」


「え~っと……『メジャーリーガーになれるチャンス。なる気があれば……』」


「なるわけないでしょ!?……まるっぱげ集団なんかに!!」


「高校野球とメジャーごちゃ混ぜにすんなよ……いいのかよ、滅茶苦茶金稼げるのに」


「いいって言ってるでしょ!スポーツ新聞読んでる汚いおっさんに呼び捨てであざ笑われる職業なんてまっぴらよ!」


「ふへへ……流石です!ゴーイングエミウェイ……」


「アイツこの調子でプー太郎だろうな……俺は手堅く公務員にでも……」


「……え~……『Youtuberになれるチャンス。なる気があれば』」


「ならない」


「え~……何で?上手くいったら稼げるのに……」


「俺はいい年こいて男子校みたいなノリで大爆笑しすぎたくないからな」


「でも、黒川くんも動画上げてるじゃないか……あんな感じだと思えば……」


「違いますよ。職業でのYoutuberなんてしょうもない不祥事起こしてスーツで謝罪決めるだけの存在ですから……俺の趣味の動画投稿とは比較もできませんよ」


「そ、そうかな?……だいぶ偏った見方に思えるけど」


「『イラストレーターになれる!』」


「………私、絵描きはごめんだわ。ピカソの奴も本物の向日葵の方が綺麗じゃない。無駄を生み出す職業よ」


「向日葵はゴッホだ馬鹿」


「『環境活動家になれる』」


「え~……俺、テロリストになるくらいならニートでいいわ。ていうか活動家ってアクティブなニートだろ?」


「………というより何でこんなものが職業で混ざってるんですかね?」


「『夜のお風呂屋さんにな……』りません!!エミ様は!!なるわけありません!!」


「……何勝手に人の進路決めてんのよ。まあ、ならないけど」


 とまあ、ああだこうだと好き嫌いをしているうちに、気が付けば職業を選ぶマスが終わりを迎えそうになる。このままでは仲良くニートで社会人デビューである。


「………クソ……星畑の書いたマスばっか踏んじまったばっかりにまともな職につけねえ!!」


「ホントよ!アンタらちゃんと私たちの人生に責任もってやりなさいよ!」


「流石にダブルでニートじゃつまんねえな……お前ら何としてでも次の職につけよ?」


「女優とかモデルとか……歌手だってあったのに……」


「ふへへへ……ちなみに……ギター片手に渡米マスもあったんですよ……黒川さんにはぜひそこを踏んで欲しかった」


「いやいやいや……もうコンビニ店長とかでもいいから何かしら職を見つけねえと……」


「マジで就活追い詰められてる奴に見えてきたぜ」


「ホントだよ……ただでさえ不安定な収入源に甘えて全く就活してないのに……」


「天知!私のコマ何が書いてある?ハリウッドになれるとか?」


「…………暴力団にスカウトされるって書いてあるんだけど……やる?」


「………ルール違反承知の上で聞いとくけど…この先なんか職業コマある?」


「…………ない」


「星畑でしょどうせそれ書いたの」


「うん」


「天知も少しくらいマスかきなさいよ!!」


「……………う、うん。そうだねごめん」


「姫月……今の狙って言った?」


「は?何が?」


「いや、何でも……」


「何よ意味ありげに……ちょっとヒナ……ニートとヤクザ……どっちが私らしい?」


「う~ん……ニートかな……って痛い痛い痛い!!何でアイアンクロ―!!」


 無職の方が自分らしいと言われ、キレる無職。端から聞かなきゃいいのにとあきれながら、黒川が催促する。


「で?……どうすんだよ……ヤクザ?ニート?」


「エミ様……地元の悪い友達に負けないでください!」


「うっさい!いないわよ!!そんな奴!!」


 結局、姫月は筋もんになってしまった。残るは黒川の就活だが、こちらも姫月と同じで中々に後がない。祈るように回したルーレットは3。何とか姫月の一つ後ろにつくことができた。


「いよっしゃあ!!ギリギリセーフ!!……もう地下芸人でも何でもやるぜ!!」


「お前本職前にしてよう言うなあそれ」


「しかも赤コマ!!……星畑の呪縛から解放されたぜ!」


「え~っと……『はやる気持ちが止められず大学中退。ギター片手に上京する。3コマ進む』です!」


「『です!』じゃねえよ!!3コマ先は東京じゃなくって断崖だから!!」


「ま、まさか第二弾まで用意してるとは……」


「ンフフ……3コマ先は丁度社会人スタートマスだぜ。考えてるな須田」


「えへへへ……これで黒川さんはミュージシャンですね」


 一ミリも悪気がなさそうな顔で凛がはにかむ。天然で陥れてくるのだから恐ろしい。コマの内容と社会人スタートマスを見比べながら星畑が苦笑する。


「…………いや、ミュージシャンは別でコマ作ってたじゃん……これ特に指定ないし、黒川はただのニートだろ?」


「あ、忘れてた………ごめんなさい黒川さん」


「……今からでもチャンネル開設できないでんだろうか」


「暴力団とプー太郎か……斬新な人生ゲームだね」


「ふっ……アンタらしい落ちね」


「ま、まあ……暴力団よりはマシだぜ……100万円もあるし……」


「ほれ、とにかく姫月も職が決まったんだから社会人コマに移れよ。ちなみにヤクザは保険は入れねえからな」


「ヒヒヒ………大変だなあ任侠モンは……」


「フン…いらないわよ!保険なんて!!」


「黒川さんは生命保険と損害保険入りますか?」


「おう!」


「えっと、じゃあ合計200万円お願いします」


「………………お、おう!」


「アハ!いきなり借金じゃない!ニート風情に返済できるのかしら!!」


 そんなこんなで社会人としての第一歩を歩みだした2人は、道中姫月が痴漢冤罪を吹っ掛けられたり、黒川がソシャゲに廃課金を行ったりと散々な目に遭いながらも初の給料日を迎えた。


「はい!エミちゃん!このカードを引いて!」


「はあ?給料日だってんだからさっさと金をよこしなさいよ」


 文句を言いながら素直にカードを引く姫月。そこには賭け金50万とだけ書かれていた。


「?……何よこれ?賭け?」


「やくざはお給料じゃなくって、他の人とちょーはんばくちするんだって」


「何そのおっかない特殊ルール!俺聞いてねえんだけど!?」


「早い話がこいつから金を巻き上げられるってことよね?」


「……相変わらず勝つ前提で話進めやがって……俺、丁な!」


「ん……じゃあ私が半ね……奇数よね確か」


「はい!その通りです!……けど、珍しいですね…エミ様が残り物を選択なさるなんて」


「そうだよね……いつものエミちゃんなら『アンタが先に選ぶ権利があるわけないでしょ!美人優先よ!』って言いそう」


「ハハハハハ……似てる似てる」


「残り者には福があるって奴か?」


「その考えは嫌いよ。ただの負け組の負け惜しみだもの。ま、こいつが選んだものにこそ、福なんてあるわけないし……今回は譲ってあげるってだけ」


「…………こいつホンマ……早くルーレット回してくれよ。これで決めるんだろ?」


「はい、じゃあ私が回します。………ご両人、よござんすか?よござんすね?」


「………そういう言葉どこで覚えてくんのかねこの子は」


 ゲームスタート時から異様にテンションの高い陽菜が気取った顔でルーレットを回す。結果はラッキー7。姫月の勝利である。


「ウフフフフ……やっぱりアンタは搾取されるのがお似合いってコトね」


「………陽菜ちゃん実はルーレット操れるとか……そういう技能持ってるんじゃ…」


「お客さんいちゃもんは困りますぜ。うちの鉄火では祖父の代からイカサマと天井だけは張らねえって決まってんだス」


「…………陽菜ちゃん………R-15指定の映画とかはあんま見ちゃダメだよ?」


「さっきから下らないことで時間取るのやめなさいよ!ちゃっちゃかしなさいちゃっちゃか!!」


「俺、いくら金借りればいいんだろ……」


「ああ~……援助したいです」


「お前、それ結構ギリギリの発言だぜ?」


「ヤクザも結構悪くないわね」


 ニートの黒川も遅れて給料日を迎えるが、当然ながら雀の涙である。とても200万近くある借金を返せるものではない。


「はあ……せめてフリーターに変えてくれないかね……収入あるってことはバイトはしてるんだろ?」


「いや?親の仕送りだけど?」


「ええ~!!俺、最低じゃん!!」


「とんだクズね。一緒に居て恥ずかしわ……やった!裏ビデオ密売で500万ももうけ!!」


「………お前にだけはクズ扱いされたくないんだけど……」


「ねえねえ天知さん……裏ビデオって何?」


「……………う~ん……映しちゃいけないものを勝手に映したビデオって感じ……かな」


 陽菜の無垢な質問に、天知がドギマギしながら答える。十中八九このコマを考えたのは星畑である。もう少し対象年齢を考えて作れよと黒川が軽くにらむ。


「………映してはいけないもの……悪霊とか?」


「ああ~……まあ、そんな感じ?」


「ん~っと………やった!就活生のWEBテスト代理受験で一儲け!200万儲ける!!」


「……こういう時事系のコマは天知さんだよな。クソ!いいな~……俺はべとべとさんに道を譲らなかったばっかりに100万円失っちまったよ……どういう原理だよ…」


 陽菜が年相応の勘違いをしている間も、着々と二人の人間の人生は進んでいく。もはや誰かが読むのではなく、自分でコマのお題を見つけて読んでいる始末だが、それでも姫月は結構前のめりでゲームに打ち込む。もっとも、人生ゲームが面白いというよりは、比較的有利なコマばかり踏んで儲けていることが楽しいのかもしれない。

 そして人生ゲームは職選びに次ぐ、第二の転機を迎える。結婚である。給料日と同じく、強制力を持ったオレンジマスに「合コン」と書いてある。


「ちょっと何よこれ……邪魔なんだけど……せっかく開いたセクキャバが繁盛してるのに」


「………今からお前と結婚する気の毒な男を探すんだよ。ほれ、結婚相手書いてあるあみだくじあるから選びな!」


「はあ~?……アンタ結婚嘗めてんの?こんなので運命の人見つけられるわけないでしょ!?」


「まあ、あくまでマッチングだから……姫ちゃんが気に入らなかったら断ってもいいし、逆に相手が断るかもしれないよ?」


「私がフラれるわけないじゃない!バッカね!」


 ケタケタと愉快そうに笑う姫月だが、これはあくまでゲームである。美貌なぞ関係ない。


(……リアルでも結構フラれそうなタイプだけどな……お前)


「ということで、姫月と結ばれるかもしれない男の一覧がズラリと並んだ票が用意される。横線は後から相手が引く形式の為、仕組みようがない。黒川がリストに適当な線を引いていく。その過程でリストの男も目に入るのだが…。


「ええ~っと……ネズミ男、キャプテン・ハーロック、ところてんの介、野原ヒロシ、吉良吉影、ナイジェリア代表、納豆やの次男坊、イケメン御曹司、伊頭鬼作、ゼンマイざむらい、天知九って多い多い!!キャラが多い!!そんじょそこらの乙女ゲーより多いじゃん!!」


「え!?……僕までいるの!?」


「ていうか!!当たりが少なすぎるわよ!!変な名前の奴ばっかじゃない!!」


「ヤクザのマッチングなんざこんなもんだ」


「嘘つけ……どんな職業でも変わらなかっただろ……」


「何人か人間じゃないのまで紛れてますけど……これ当たった時、あのルール適用できるんですか?」


「あのルール?」


「そもそも私、結婚する気ないんだけど……」


「結婚しないと後々不利になっちゃうこと多いよ?エミちゃん」


「めんどくさいわね……ま、たかがゲームの結婚だし別にいいけど」


「はあ~……イマドキじゃねえなあ……今のご時世は結婚した方が生き地獄なのに……」


「お前、いくら何でもSNSに毒されすぎだろ」


 姫月が選んだあみだくじの線を指で追っていく。それをその場の全員がじっと見守る中、姫月の指は天知九にゴールした。


「よし!」


 小さくガッツポーズをとる姫月。それを見て天知が慌てる。


「こらこら…こんなおっさん引き当てて喜んじゃダメだよ、姫ちゃんみたいな若い人が……」


「まさか一発で天知さんになるとは……冗談で書いたのに……」


「推しと推しが結婚……これは…喜んでいいんでしょうか!?」


「では、ご両人……こちらへどうぞ」


「は?何よこちらって……」


「……………………」


 陽菜に指示されるまま、テーブル席に座らせられる姫月。その向かいには気まずそうな天知が腰を下ろしている。


「な、なんか……ホントに合コンみたいだな……」


「ホントに合コンするんですよ……簡易的にですけど」


「ええ!?」


「はあ!?めんどくさすぎるでしょ!?何そのシステム!!」


「文句ならちゅあん陽菜にいいな!」


「ヒナ?これアンタが考えたの!?」


「………パートナーっていうのはしっかり相手のことを知って決めないといけません」


「だそうだ!」


「ぐ、具体的に何させるつもりなの?」


「お互いに2,3質問しあってコミュニケーションを取るんです」


「そ、それ……天知さん以外だったらどうするつもりだったの?」


「………もともとは相手は星君がなりきる予定だったんです。彼女サイドはヒナちゃんが……」


「それ陽菜ちゃん単にお芝居がしたいだけじゃ……」


「アハハ……ど、どうなんでしょうね?」


 何が何だかよく分からないが、とにかく謎の対談が始まった。いかにもめんどくさそうに頬杖をついてそっぽを向いている姫月に、天知がおずおずと切り出す。


「え~っと……お仕事は何を?」


「ヤクザ」


「ああ~………じゃあ、休日とかは何をして……」


「別に……」


「おい!そこのヘルタースケルター女優!!まじめにやらねえと関係破綻するぞ!」


「チッ………寝てる。それか買い物」


「へえ……そう言えばそのTシャツ……新調したもののようだけど、どこで買ったの?」


(もうただの世間話じゃん)


「…………ユ〇クロ」


「そう………えっと……僕のことで質問とかないのかな?」


 戸惑いながらもなんとか会話の糸口を探ろうとするけなげな独身男性。質問という言葉にようやく姫月が頬杖を解き、天知をじろりと眺める。何だか本当に男女の関係に見えてきて不覚にもドキドキする黒川。その横で凛が、たった今抱いた印象と全く同じことを耳打ちしてきた。


「天知って………再婚とか考えてんの?」


「い、いや……何聞いてるんだよ?」


「マジの質問じゃないですか……」


 人生ゲームの垣根を越えた姫月のリアルな疑問に一同がツッコミを入れる。しかし、回答者は一切動じることなくニコニコと笑っている。


「そりゃあ……考えてるんだからマッチングの機会に預かってるんだけど……」


「そう言うの今いいんだけど……」


「ははは……それ姫ちゃんが聞いてどうするの?」


「……別に……ただ、アンタから時々歳以上に終わった人感出てるから気になってるだけ」


「う~ん……まだ流石に終活してるつもりはないけど…でも、まあ、少なくとも新しく家庭を持つ気はないなぁ……ほら、結構特殊な生活送ってるし」


「ふ~ん……自分の娘とかってどうなの?」


「ほ、ホントに何でそんなこと知りたいの?」


「いいから!答えなさいよ!!結婚してやんないわよ!!」


(ゲームなのかマジなのかはっきりしろよな……)


「アイツの質問の動機が分かんねえな……でもまあ、天知さんの家庭事情…聞くに聞けなかったけど俺も興味あるかもな」


「お前まで興味持つなよ星畑……」


 天知の家庭の事情は出会った当初に凛と二人で聞いている黒川。けっして明るい話題ではないので、他人事ながらハラハラしてしまうが、やっぱり天知は動じる素振りは見せない。


「僕の娘とは……実は……ちょくちょく会ってるんだ。と、言っても別居してからまだ3回ほどだけど」


「………今でも連絡取れてるってコト?」


「うん。娘の方が気を使ってくれてね」


「娘と会ってたら……父親ってのは楽しいわけ?いわば終わった仲なのに」


「う~ん……少なくとも僕は楽しいよ。確かに僕も、もう家族とは終わったと一方的に諦めてたんだけど…娘の方から歩み寄ってくれたんだ。ま、誰かさんの動画のおかげでもあるんだけど」


 これは黒川も誰も知らないことだが、娘との関係が修復できたのは彼女が見ていた歌い河チャンネルの動画が起因だったりする。最も、黒川自身が深く関与しているわけではないのだが、天知はこの動画主との偶然の出会いに運命的なモノを感じ、恩返しとして番組に携わってくれているのである。


「誰かさんの動画?……それって」


「しゅーりょーです」


 姫月が質問を続けようとした瞬間、ブスッとした表情の陽菜がテーブルに上半身を乗せて会話を中断させる。


「な、何よ急に……」


「だって……全然ゲームと関係ないし……お見合いっぽくないし」


「それはそうだね。ごめんね陽菜ちゃん」


「まあ、いいけど……よく分からないけど大事な話っぽかったし…」


「大事な話って言うか……よく分からない会話だったけどな。結局アイツは何が聞きたかったんだよ」


「エミ様……ひょっとして……」


「何よ?」


「い、いえ……すいません……何でも…」


 メンバーの中で凛だけが、2人の対談を何か意味深げにというか、慮るように見ていた。何だか不思議な時間でペースが崩れたが、とにもかくにも2人は結婚できるのかがジャッジされる。


「会話したんだし、これ決めるのは天知さんだよな?」


「うん。でもその前にまずエミちゃんが結婚する気があるか答えてくれます」


「……中古の男なんて願い下げだけど……他はジャンク品まみれだし……特別に認めてあげるわ」


「伊頭鬼作はジャンク品じゃねえよ!!」


「いや、一番ジャンク品だろ……変態オヤヂだし」


「じゃあ、天知さんは?」


「あ、違う違う……意志で決定するのはお前らの方だけ……」


「え?……じゃあ、もう結婚?」


「いや、ルーレット回して……9番だったら結婚。それ以外はボツ」


「何だったのよ!!さっきの時間!!」


「何て狭き門………流石天知さん」


「あほくさ」


 ため息交じりにルーレットを回すが残念ながら、9番は出せず天知とは破談してしまう。そのまま通り過ぎて止まっていたコマの指示に従い、『ついついまん〇だらけで浪費し50万失って』しまう姫月。


「だからこれアンタの日記帳じゃないのよ!!」


「わ、私もそこまで使った覚えはないですよぉ!ま、まあ……20万近く買っちゃったことはありますけど……」


「………俺もさっきのバカみてえな合コンするのか……やだなぁ…」


 予想通り合コンマスを通過し、同じように女性のあみだくじを指で追う。星畑の事前の発言が確かなら、上手く事が廻れば陽菜が演じる大阪と触れ合うことができる。取り合えずそれを願うも、引いたのは涼宮ハルヒだった。


「……当たりなのか外れなのかもわからねえ」


「それじゃあ、お兄ちゃんはこちらに……」


「はいはい、でも陽菜ちゃん……ハルヒ知ってるの?」


「ちなみに他にはマキマさん、ノンノンばあ、邪神ちゃん、ケイト・ブッシュ、春日歩、須田凛、岩下大地、金属バットの追っかけ、野原みさえなどがありました」


「………結果的には結構当たりだったかも……ていうか野原一家に何があったんだよ」


「……アンタが私の結婚相手ぇ!?」


「うわ!始まった!!」


「大丈夫です!黒川さんは若干キョンっぽいとこありますから!!」


「やれやれ系ぶってる節あるよな」


「そ、そう言うつもりで言ったんじゃないです!!」


「え、え~っと………俺も宇宙人とか好きだよ」


「勘違いしないで!私は宇宙人が好きな奴に興味があるんじゃなくって宇宙人に興味があんの!アンタは及びじゃないわ!」


「………じゃあ何でここに来たんだよ」


「悪魔が2人も来てるし、おおよそ間違いはなかったような気がするけどね……」(ボソッ)


(天知さん『邪神ちゃんドロップキック』まで見てるんだ)

「……ていうか陽菜ちゃん……ハルヒ上手いな」


「アンタ年収はぁ!?」


 感心した瞬間におおよそSOS団団長から飛び出したとは思えないセリフが出てきて思わず吹き出してしまう。


「ヒヒヒヒ……それじゃハルヒじゃなくってどっかのお姫様だぜ」


「アンタさえないけどもしかしてニートォ!!だらしないわねえ!」


「……宇宙人と番組作ってるという裏の顔があったりもするんですけど」


「それはホントのお兄ちゃんでしょ(ボソッ)私、年収6億2000万の男にしか興味ないんだけどぉ!」


「ソフトバンク柳田!!」


 鼻の上が熱くなるようなカオスな空間に突然天知が割って入る。


「陽菜ちゃん……ちょっといいかな?」


「何よぉ!今私、旦那探しで忙しいんだけど!」


「………ハルヒはそんなこと絶対に言わないよ」


「え……でも、あの……これ合コンだし」


「いいかい?言わないんだ。絶対に。年収だとかキャリアで人を判断するような人間じゃないんだ彼女は」


「………は、はい………ごめんなさい」


 自身のアニメ趣味を隠したいのか曝け出したいのか分からない天知による演技指導に困惑する陽菜。偽ハルヒの猛攻が止まった機会を見逃さない手はない。他の連中が特に気にしていないことを確認して、黒川が適当にお見合いを切り上げる。


「…………………ま、まあ……単なるニートがハルヒと付き合るわけないし……この縁談はダメってことで」


「あ!……う、うん!駄目でした!次、頑張ってください!」


「まあ、黒川よりもキョンの方が魅力的だもんな」


「そもそも黒川に魅力なんか無いわよ」


「……ていうかほぼほぼ相手が確定してるような奴を嫁役にチョイスすんなよな」


「………それは星ちゃんに言ってよ。何でお母さんまでお見合いに居るのかな……もう」


「でへへ」


 じろりと睨まれて星畑が真顔で頭の裏を掻く。


「それは別にいいじゃないアンタの母親、欲求不満っぽいし」


「お!おま!お前!!……実の娘の前で何ちゅうこと言ってんだよ!!バカ!!」


「うっさいわね!!そういう一々たじろぐ童貞臭いところがモテない原因なのよ!!」


「童貞云々以前に倫理観の問題だろうが!!」


「あ……そうそう、黒川!合コン及び婚活費用で50万払えよ!」


「え!?何それ!?姫月は何も払ってなかったじゃん!」


「男と女の違いだね」(←天知)


「ここで渋る男はモテないってお母さんが言ってたよ、お兄ちゃん」


「……………ええ、俺、縁談のたびに金払うの?割に合わんなぁ……ニートが嫁とか欲しがるんじゃねえよ……今日び正社員でも難しいだろうに……」


「もう負けたも同然なんだから婚活自体しなけりゃいいじゃない。時間の無駄よ!」


「いや!なんかここで引いたら一生恋人出来ない気がする!待ってろよ!マキマさん!!」


「………第一志望マキマさんなんですね」


 バチバチと火花を散らしながら2人は勝負を続けるが、何だかんだで吉良吉影と結ばれた姫月と違い、黒川は縁談こそあれ次々にお断りを食らい続ける。単にルーレットで弾かれるだけでなく、毎度毎度、陽菜から頭を下げられているのがやるせない。


「ゴ~メン~ナサ~イ!」

「ごめんなさいですじゃ」

「ごめんなさいですの!」

「うううう~……ごめんなさい黒川さん……お気持ちは嬉しいんですけど……その…」


「ちっきしょう!!」


「まあ~……お前もルーレット運ないなぁ~……」


 全戦全敗の黒川を物珍し気に星畑が眺める。


「…………の、のんのんばあにまでフラれるとはさすがの俺も予想外だぜ」


 黒川が苦し気に呻く。もう、合コンマスも数少なくなってしまっている。何よりそろそろ借金がヤバい。


「……ていうか……何で天知さんはちゃんと本人がやってたのに、私はヒナちゃんに代役されてるんですか……わ、私が黒川さんを振るなんて……そんな……」


 凛も凛で不満げに何かゴニョゴニョ言っているが、誰の耳にも入らない。


「アンタ流石に凛のマネは上手いわね」


「フフフ……でしょ?マネじゃなくって演技だけど」


「会話の後小声で自分が言ったこと復唱してるのがアイツっぽかったわ」


「………い、イヤなところまで忠実ですね……流石ヒナちゃん……」


(ていうか他がひどかったけど。邪神ちゃんの時、天知さん気難しい顔してたぜ)


「フフフ………私はもうエリートっぽい旦那も手に入れたし、あとはゴールさえすれば勝てそうね」


「くそ~…平穏を願ってるくせにヤクザと結婚してんじゃねえ」


 かなり吉良吉影を気に入っている様子の姫月の新婚初スタート。快調に飛ばして、何故か素人のど自慢で優勝し、100万手に入れる。


「………何かアイツばっかり金手に入れてねえ?」


 ゲームを投げ出したい黒川だが、ようやく運が向いて来たのか先祖の遺品を勝手に売っぱらい5000万も儲けてしまう。借金を全て返済できたどころか、金銭面で大いにリードしてしまう。


「え、や、やった!!何かあっさり追い抜いた!」


「はあ!?ど、どうなってんのよ!!今まで掛かっても100万代だったじゃない!!」


「あ、あれ?……おかしいな……これ書いたの私ですけど…そんな高くしたつもりは?」


「お前、多分ゼロの数間違えてるよ……ほれ確認してみな」


「あ…………」


 サーっと血の気が引いていく凛。気まずそうに姫月を見る。


「………リアルマネーで誠意しめすか、丸坊主か………アタシに一週間無視されるか…どれがいい?」


「マ、マネーはおいくらほど………」


「いくらなら払える?」


「い、一万円………」


「じゃあそれにゼロつけ足して10万で手を打ってあげる」


「ううう………そんなにお金ありません……」


(ええ!?)


 唐突に知ってしまった彼女の懐のわびしさに内心ぎょっとする黒川。


「あ、あの………エミ様………お金……ないんですけど……」


「……………………………」


「あ、早速無視してる」


「………丸坊主はいいのかな?」


「冷静に考えて、アンタの丸坊主なんて見ても仕方ないわ………って言うんじゃないっスか」


「あ~……なるほど………星君も陽菜ちゃんに次いでの姫ちゃん博士だね」


「うう~……すいません~……許してくださいぃ~……」


「………………さ、ゲームしましょ」


「エミ様~!」


 冗談なのか本気で落ち込んでいるのか分からないが、凛がしかと状態の姫月に縋り付く。いじめを絶対に許さない少女が「エミちゃん」と一睨みしたことろで、ようやく姫月が背中にへばりつく凛の頭をわしゃわしゃと揉みこみ、茶番が終わる。髪をクシャクシャにされながらも、凛は満面の笑みである。


「須田って犬みたいだよな」


「星畑……お前、それ結構ギリギリの発言だぜ?」


 さて、5000万円手にした黒川はトントン拍子でコマを進め、気が付けばニートとは思えない貯金額をキープできるようになっていた。それを好ましく思わない姫月は、給料日のたびに博打で奪おうとするが、どうしたものか、急激にツキが落ち、逆に黒川の腹を肥やす始末である。


「ヒヒヒヒヒ…………ごっそさん」


「…………凛、さっきのミス帳消しにしてほしかったらアイツどついてきなさい」


「うええ!?無、無理ですよぉ!それならまだ、一週間無視される方が……」


「へえー!エミ様よりも黒川を取るのけ!?こりゃ予想外だ!」


「い、いや……というより暴力なんて振るいたくないですし……」


 姫月の命令に背く凛を見て、星畑がわざとらしく驚く。「元々、凛ちゃんは姫月に絶対服従してるわけじゃないだろ」と内心突っ込む黒川。星畑が茶化した真の意図には凛共々気づいていないようである。

 

「チッ!………黒川の癖に……あとから生意気にも追いついて来たわね。ゲームも長いわりにマンネリしてきたし!」


「確かに……序盤あれほど波乱万丈だったのに……急に当たり障りのない展開ばっかになって来たよな。どうも……俺はもう結婚できなさそうだし……」


 しかし黒川の予想に反して、終盤のマスにあった老年結婚マスの無事引っ掛かる。しかも、以前のようなルーレットはなく、あみだくじで当たった相手とそのままゴールインできるのである。


「何よそれ!!不公平よ!!」


 姫月が不満の声を上げるが、天知が諫める。


「まあまあ、結婚でできる美味しい思いはあらかた終わっちゃった後だしね」


 ちなみに姫月は吉良吉影との間に双子をこさえており、その子どもが子役としてデビューしたことで大金を得ている。ヤクザらしくない幸福な人生だが、それでもバカ付き中の黒川には敵わない。


「よっし!じゃあここらでマキマさんでも………」


 ノリノリであみだくじを引く黒川だったが、当たったのは何と再びの須田凛である。あみだくじの線は姫月が適当に引いたものの為、こういう事もあり得るのだが、当の本人らは何となく気まずい。


「わあーおめでとー」


 特に顔色を変えることもなく、陽菜が二人を祝福する。


「いや!いやいや!ただのゲームだから!!」


「そ、そうですよ!!………ま、まあ……先ほどはゲームとはいえ、黒川さんに無礼を働いてしまったわけですし……時期遅しといえど、お詫びが出来て良かったですけど」


「詫びで結婚て……」


 黒川に合わせるように否定だか言い訳だかをする凛。自分も否定していたくせにあまりにもゲーム上の関係を強調されると何となくやり切れない黒川。


「ちなみに残念ながらこのあと子どもができるマスはない」


「余計な気ぃ回さんでいいわ!このボケ!!」


 星畑のギャグにいつになく余裕のないツッコミをする黒川だが、そんな二人をガン無視して姫月が駒を進める。残念ながらマイナス目が出てしまったようである。


「……………貧乏神に憑かれちゃった!……じゃないわよ!ヒナ!アンタねえ!!」


「フフフフ……私が書いてないかもしれないよ?」


「貧乏神なんてガキ臭いことアンタ以外誰が書くってのよ!!」


「アハハハハ!や~!は~な~し~て~!!」


 姫月が陽菜の脇腹を掴み、少女はそれから逃れようとじゃれて笑う。そんなイチャイチャを流して新婚ほやほやの黒川が進む。と言っても、もうマスは残り少ない。そのため2人が踏むマスの内容も金額や内容が、より大層なものになっている。


「ええ!?………父親が謎の電気健康器具を買いだめ!?1000万も出費かよ!」


「結婚相手が密かに買っていた株が大上昇5000万……よし!でかしたわ吉影!!」


「高速道路建設に伴い国に土地を渡す。8000万!……嬉しいけど…今まで俺どこで生活してたんだ?」


「ついついスパチャしすぎちゃう50万出費って……アンタここに来てまだそんなはした金どうこうしてるっての?」


「リアルな金額ではあるんだけどねえ……ちょっとリアルすぎるかな」


「凛ちゃんの書いたマス全体的にお金がしょぼすぎるよ」


「須田空気読め」


「ううう~………ダ、ダーリン私を守って下さい!」


 一同から大バッシングを受けた凛が黒川の陰に隠れる。小柄で柔らかい妻が突如、背中に張り付いてきて黒川は危うく妙な声を上げるところだった。


「い、いいんだよ!………確かに凛ちゃんの書いたマスほとんどしょぼい出費ばっかだったけど…妖怪やら、裏ビデオやら物騒なもの出されるよかずっとマシだぜ!」


「フォ、フォローになってないような気がします……」


「ちなみに……今二人の所持額は……黒川くんが1億と2850万で…姫ちゃんが9980万だね」


「おお~……これは勝ったな」


「まだ私の人生終わってないわよ!!」


「つっても後10マス程度だけどな」


「先にゴールしたら1億円もらえるから頑張ってね」


 先にリードしていたのは姫月だったが、ここで一を出してしまい、行き詰る。おまけにマスの内容も姫月には関係のないものだったようだ。


「結婚相手が野原みさえ、野原ヒロシ、岩下大地、納豆やの次男坊、ナイジェリア代表、天知九だった場合……コツコツ貯めていた1億円貯まるバンクが遂に……って私関係ないじゃない!」


「吉良もそう言うのコツコツ貯めてそうだけどな……まあ、どうでもいいや……よし!遂に姫月を抜いたぜ!快勝快勝」


「えへへへ……ニートでも億万長者になれるんですね」


「やっぱどれだけ先祖代々のモノを切り崩せるかだぜ」


「すねかじりのプロだね」


「何勝った気でいるのよ……ムカつくわね」


 そうして黒川に最後の給料が支払われるが、結局、最後の最後までニートだった彼には微々たるものであった。遅れて、後続の姫月も給料日マスを通過する。


「…………賭けれるお金は………1億!?」


「ええ!?そんなご無体な!」


「………これはもう神様があのアホからむしり取れって言ってるも同然ね。私、神様信じてないけど」


「じょ、上限が一億ってだけだろ?やめとけよ……負けた時取り返しつかなくなるぜ?」


「それこそまさに敗者の思考回路よ!勿論!1億で勝負よ!私が丁!!」


「………じゃあ半……」


「それじゃあご両人……あっしが……」


「引っ込んでなさいこのマセガキ!!こんなのさっさと回せばいいのよ!!」


「ああん…………あっしが親役なのにぃ」


 わくせかとルーレットの前に陣取る陽菜を突き飛ばして、勢いよく回す姫月。本来なら不正というか無効試合だと訴えねばならない所だったのかもしれないが、熱くなっていた黒川は流れに乗って、よし!勝負!と言わんばかりに、「半半!」と連呼していた。結果的に、一億吸い取られる形になっても、今更物言いはつけられない。


「アッハッハッハ!!やっぱりアンタは私に搾取される運命なのよ!雑魚が!!」


「ハイ!クソゲー!クソゲーで~す!何だったんだよこの時間!最初っからルーレットで決めればよかったんじゃん!!」


 一億取られてすっかり意気消沈した黒川が荒々しくルーレットをひっくり返す。妻がそれをいそいそと戻しながら、夫を励ます。


「く、黒川さん……大丈夫ですよ……お金なんてまた稼げば」


「アンタ結局どっちの味方なのよ」


 もはやゲームなどやる気もない黒川だが、人生とはそう簡単には終われない。給料マスを通過した姫月のターンもまだ終わっていないのである。


「それで?……お前の止まった方のマスはなんて書いてあったんだよ?」


「ええっと…………伊頭鬼作、邪神ちゃん、吉良吉影、ねずみ男、マキマが結婚相手だった場合……」


「お!きたきた!!吉影!!でかしたわよ!」


 天知が読み上げるマスの内容に該当し、浮かれる姫月だが、何となく不安になるラインナップである。


「……え~っと……大犯罪を犯し指名手配犯に……全財産を投げ出し…田舎暮らし……」


「は?」


「ええっと…………姫ちゃん……残念ながら…あ~…一文無しだね。あとコースも離脱、ゲーム終了」


 何とも気まずそうに姫月の財政破綻を報告する天知。黒川は笑いをこらえながら、信じられないという顔の姫月に退却を促す。


「……ま、まあ…もともとやくざ者なんだしさ……因果応報だよ」


「姫月……ほれ、あそこにさ……モヒロ―の入った桶が見えるか?…あれ、一応田舎って設定だから……黒川がゴールするまであそこで大人しくしとけ」


「ほら、エミちゃん……早く行こ?私もついていってあげるから……」


 吉良吉影に裏切られたのがショックだったのか、単純に負けが確定したも同然な事態を受け止めきれないのか、姫月は怒るでもなく、その場で放心している。


(エ、エミ様が打ちのめされています……ああなられるのはすっごく珍しいですよ!基本的に自分が負けるとか考えないお方なので……)


 凛が星畑にコソコソ報告する。確かに競馬で勝ったお金を丸ごと持っていかれても、へこたれなかった彼女があそこまで憔悴するのは初めてお目にかかる。リアルと違い、コマの中の自分のピンチはどうしようもできないのだ。


「………な、何が……何が面白いのよ………このゲーム」


「い、いやまあ、でもさ……人生ゲームには結構つきものじゃない?」


 いつものお返しに煽ろうかと思った黒川だが、何となく不憫で思わず慰めるような言い回しをしてしまう。そんな黒川の安い同情にも反発できない程、姫月は呆然としている。というより、段々どうでもよくなってきたのかもしれない。突然、欠伸をして、田舎ではなく二階に上がっていってしまった。それを何とか陽菜が引っ張って、黒川独走状態のゲームが再開される。


「ハア……もう、さっさとゴールしなさいよ。6以下の数字だしたら殴るから」


「横暴だ……まあ、俺もあんな地雷踏むかもだし……さっさとゴールしたいのは確かだけど」


「まあまあ、まだ黒川くんが田舎に行ってしまう可能性も残ってるよ?」


「それって結局同点なんじゃないの?」


「いや……田舎では毎ターンごとに5万円支給されるから……先に来てる姫ちゃんの方が勝ちになるね」


「ふ~ん……黒川アンタ……お金なんて捨てて田舎に行きなさいよ……良いところよ?」


「御冗談を……」


 かくして黒川が引いた数字は2。ひょこひょこと移動し、黒川はゴール間際までやってくる。


「はい殴る」


「あのなあ……」


 ポスっと力なく肩に拳をぶつけてくる姫月に苦笑している横で、星畑がマスの内容を読み上げる。


「え~っと……お!またこの系か……邪神ちゃん、イケメン御曹司、ねずみ男、須田凛、金属バットの追っかけ……が結婚相手だった場合……趣味全開の店をオープンするも大失敗!カード破産で全財産失い田舎暮らし………」


「」(←黒川)


「えええ!!わ、ワタ、ワタ、私!そんなことしないですよぉ!!そ、そもそも……その列に私を並べないでくださいよお!!」


「アハハハハ!!……凛!アンタでかしたわよ!!大手柄じゃない!!」


 水を得た魚のように元気を取り戻した姫月が凛を揺する。構って貰えて一瞬、表情の晴れる凛だがすぐに意識は代わりばんこで憔悴中の黒川に向けられる。しかし、声をかける前に、星畑の声が響く。


「ただし!!」


「「「「!?」」」」


「……プレイヤーが望むなら慰謝料を貰って離婚できる。離婚した場合でも全財産は失うが、慰謝料100万円とこのままコースを進む権利を得れる」


「な、なんか滅茶苦茶なルールだね」


「…………てことは……離婚すれば全然姫月に勝てるってことか……」


「ちょっとちょっと!待ちなさいよ!!何で私の時はそれ言わなかったのよ!」


「あのマスに関してはヤクザは離婚不可能だったんだよ」


「ハア!?何よそれ!!ヤクザ差別じゃない!ヤクザ差別!!」


「そういう反応になるだろうから敢えて読まなかったんだけどな」


「よ、よかったですね……こんなアホ女とはさっさと別れてやってください!何なら100万と言わず1000万でも1億でも!!」


「う……」


 ただのゲームのはずなのだが、それでも自虐気味に微笑む凛にこんなことを言われてしまうと、何ともやり切れない。ここぞ責め時と言わんばかりに姫月が割って入る。


「え?もしかしてアンタ……愛妻をお金ごときで売っぱらうんじゃないでしょうね!?」


「え……いや、だってこれほら……ゲームだし…愛とか絆とかじゃなくて一番金持ってる奴の優勝なんだからさ……それとこれとは話が違うだろ!?」


 半ば本気でたじろぎつつも何とか押し付けられたカタツムリを引っぺがす。しかし姫月はわざとらしい口調で凛を抱き寄せながら続ける。こうなると凛は単なる操り人形である。カチコチに固まって、姫月の言葉にウンウン頷くことしかできない。


「凛………アンタもかわいそーねぇ……勝手に嫁候補に名前書かれたと思ったら、勝手にとんでもない地雷原にされて……んで勝手に捨てれるんだから……」


「それ半分以上は俺のせいじゃないじゃん!!星畑のせいじゃん!!」


「………一応弁解しとくけど……凛がプラス作用するマスもあったからな」


「でもそれ書いたのヒナだよ?」


「…………ね?アンタの味方は私たちだけよ?男ってクズばっかね」


「……そ、そう言われてみれば……そんな気がしてきました……エ、えへへへ」


 姫月に頭をなでられ、凛はとにかく嬉しそうなご様子。もちろん人生ゲームでの自身の扱いや黒川の判断を気にしているわけもないが、過去のトラウマもあり、黒川はその姫月の言葉に大いに追い詰められてしまう。


「……………分かったよ……俺も……田舎に」


「えええ!?く、黒川さん!それ本当に言ってるんですか!?」


「え!?マジで!?お前、これでお前の負けが確定するんだぞ?金の主導権姫月だぞ?」


「……アンタ第一級のバカね」


「あららら」


「凄い!凄いよお兄ちゃん!!愛だよ!愛!ヒナは感動しました!!」


 全員が驚愕したり呆然としたり呆れたりする中で、陽菜だけがやたらと嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねている。こんなに感激されるともう修正が聞かない。もしやこの大げさなリアクションも作戦なのではなかろうかと冷や汗垂らして陽菜を見る。


「え~っと………勝負あり?……かな?」


「っすね………姫月財閥の出来上がりですわ」


「エミちゃんおめでとー」


「ハア~ア……難癖付けられたからとはいえ…こんな雑魚にこんなに時間費やしたかと思うと情けないわ……まあ、偏に部下が悪いんだけど」


「エミちゃんがズルするからだよ」


 姫月に責任を丸投げされた下僕はというと、敗北以上に恥ずかしさと情けなさで打ちのめされそうな黒川のあとを引っ付いて回っている。


「く、くろかわさぁ~ん……私のせいで…ごめんなさい~……くろかわさぁ~ん」


「イイカラ、リンタチャンノセイトカオモッテナイカラ。ホットイテ」(小声)



                      3


 泣いても笑っても、黒川は敗北してしまった。約束通り、今後、ノンシュガーズの金銭は姫月が管理することになった。勝負の翌日、黒川は姫月に諸々の手続きをやりに行くよう催促する。


「ほれこれ、Uから渡された軍資金用のキャッシュカードな。ここに一か月程度のペースで生活費とか俺らのギャラとか振り込まれるから、お前はそれを引きだして配ったり使ったりしてくれ。くれぐれも」


「うっるさいわね……私はアンタのガキじゃないのよ?」


「……悪かったよ。そうだな……お前もいい大人だし……何だかんだしっかりしてるもんな。じゃあ、これ、口座の名義変更しなくちゃだから……今、俺名義だし」


「ハア?……何言ってんのよめんどくさい。暗証番号教えてくれたらそれでいいじゃない」


「いや、それはまずいだろ。持ち主変わるんだから…本人確認書類とか拇印とかあればいけるから」


「……………………ないけど」


「え?」


「………わたし……本人確認のも拇印もないけど」


「えええ!?………い、いや!お前社会人だろ!?……ていうかそれ以前に拇印とか保険証とか!家にあるだろ!?」


「知らないわよ!無いったら無いの!!持ってない!」


「え~………お前の実家どこだよ?取りに行けよ………」


「死んでもイヤ!!」


「じゃあ、作るしかないじゃん……いい機会だから今のうちに作っとけよ。いつか絶対必要になるから………お前よくモデル活動できてたな」


「ん~……何見下した顔してんのよ……黒川の分際で…………あ!」


「何?」


「あったわ!書類!」


「あ、良かった……とりあえずそれさえあれば、まあ、何とかなるだろ?」


「ハイこれ。財布に入れたまんまで良かったわ」


 姫月が財布から取り出してみせたのは高校時代の学生証である。今と何一つ変わらない別嬪が仏頂面で黒川を見ている。黒川の脳内にチャンチャン!という間抜けな音が響く。


「アホか!卒業どころかお前確か中退してただろうが!使えるかこんなもん!」


「……あ~もう!いいわよ!分かったわよ!じゃあ、そのカードはアンタが持ったままでいいから!その代わり生活費は逐一私に渡しなさい!ちゃんとこの家にも使ってやるから!」


「この家にもって……この家以外のことに使う前提みたいな言い方すんなよ」


「………………ああ~……もういいわ……」


「何がだよ?」


「何かかったるいし……あそこで凛に気を使ってるような小心者がネコババすることもないだろうし…金はアンタのままでいい」


「ええ!?……い、いや、いいならいいけど……何だったんだよあの勝負!丸一日も!言っとくけど今回はUの反応も渋かったからな!」


「自分で企画もしてないくせに偉そうなやつね。最近のアイツのシナリオもクソばっかじゃない」


 確かに、ヌートリア事件以降の宇宙人から送られてくる指令は意味不明なモノばかりで、視聴率も奮っていないらしく、そのためシナリオ抜きに、黒川らの日常を切り取ったものを流してみているわけだが、今回は遂にその日常も奮わなかったようである。


「手続きとかめんどくさいとは思うけど……マジで身分証と拇印とかは持っとけよ?」


「分かった分かった!じゃあね!」


「おお……………なあ、今回のギャラさ……あんま多くねえと思うけど、俺の分は丸ごとお前にやるよ。今回の発起人はお前だしさ」


 ぶっきらぼうに扉を閉めようとする姫月に労いの言葉をかけてやる。すると彼女は別段驚きも感激もしてなさそうな顔で、黒川の目をジッと見てきた。当然、ドギマギする黒川。


「な、何だよ!?」


「………別に……ただ、アンタはやっぱり大がつくほどのバカよ。アンタが損する分にはいいけど、私たちも絡んでるお金だってこと、忘れんじゃないわよ?」


「悪かったよ……独断で寄付したことはマジで謝る」


「……アンタは自分に自信を持たなさすぎるのよ。確かにその程度の男ではあるけど…アンタの場合は周囲の眼ばっかり気にして自信を勝手に無くしてる馬鹿らしいパターンなのよ」


「………そりゃ、お前とは違うよ。逆にお前は何でそんな自信満々なのか知りてえよ」


「別に自分に自信があるわけじゃないわよ?私」


「いや、嘘つけ」


 あまりに信憑性のない言葉に苦笑する黒川だが、姫月は真顔で続ける。


「ただ、私と比べて他の奴らがあまりにも劣りすぎてるのよ。だから私は自分と自分の認めたモノを愛するほか無くなるのよ」


 物凄く馬鹿馬鹿しくて、呆れるほど稚拙な彼女の理論。しかし、それゆえに彼女はこと現代における力を何一つ身に着けて居なくてもここまで太々しく生きていけているのかもしれない。そんな彼女にほんの少しでもあやかりたいと思ってしまう。凛も同じように思っているのだろうか。


「……あ、そう言えばさ……一つ聞きたいことがあるんだけど」


「何よ?」


「天知さんにさ……変な質問してたじゃん……やたら家庭のコトとか……何でかなって」


「わけがあるとして……何でそれをアンタに言わなきゃいけないの?」


「そ、それはそうだけどさ」


「…………アンタ、このグループが永遠に続くなんて思っちゃダメだからね?」


「え!?……何で急にそんな……」


「星畑も天知もそう思ってるわよ?多分。あとのガキンチョとアホは仕方ないとしても、アンタくらいは踏ん切りつけれるようにしときなさいよ?」


「う、うん………分かった。気をつけとく」


「………天知は……私の……多分、血のつながってる方の父親に……無駄に似てんのよ…それだけ」


「え!?……あ!……そ、そっか……ありがと」


「フッ……何のお礼よ」


 テンパる黒川を鼻で笑ってそのまま扉を閉める。天知に娘や家庭のことについて質問した理由らしきものに不意を突かれたのも事実だが、それ以上に「いつまでも続くと思うな」という彼女の声が離れない。自分もこの暮らしが永遠だなんて思ってもないはずなのに、同時に終わりが来るとも思っていなかった。知らず知らずのうちにとてつもない矛盾に囚われてしまっていたのだ。

 

(……就職先探しとけってことか?踏ん切りってのは……いや、違うなアイツがそんなところ気に掛けるわけがない……じゃあ、何だ……踏ん切りって)


 この言葉が気にかかり、黒川は守り抜いた財政のこと等、一切頭に入っていなかった。








































はっきりしていませんが、作中で度々匂わしているように、小説内で取り上げていないだけで黒川たちはもっと枠外でも撮影を行っています。けっして日常の片手間にやって、それで金を稼いでいるわけではないことをあらかじめ念頭に入れておいて欲しいです。……でも、どっちにしても日常の片手間には変わりない気がしてきましたね。


それでは次回またお会いできるのを楽しみにしております。

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