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この甘くない世界でこれからやっていくわけなんだけど  作者: 破廉恥
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ
31/60

中入-④「バナナレコード……後日譚編」

 こんにちは。本来はこれも本編内に挟むつもりだったんですが、入れる暇がないので割愛しました。でも結果的におまけページのネタが埋まって嬉しいです。

                      1



 須田凛にとって初めてのコンパが無事終わり、ついでに渡すに渡せなかった黒川への日頃の感謝のプレゼントも渡せて、一時は浮かれていた須田凛だったが、いざ日常に戻りキャンパスボッチとしての現実を突きつけられると、沸々と後悔の念が湧いてきたりする。

 そもそもコンパだって、案の定自分からは全く喋れず、推したちに気を使わせ、いざ打ち解けてきたとなると今度は羽目を外してグロッキーになってしまっていた。もし自分が黒川さんなら、真っ先に戦力外通告を叩きだし、実家にでも何でも帰らせている事だろう。と、悶々と胸を痛める。それに、不可思議なことに下着が変わっている。靴とかそういうものが入れ替わってしまうのは聞いたことがあるが、下着が入れ替わったりするモノなのだろうか。


(それに………ううう……よりにもよってあの下着……)


 黒川と殿川を大いに邪推させた例のキケンな下着だが、何を隠そう大地からの誕生日プレゼントだったのである。以前、陽菜と共にアダルティックな下着に興味を示していたからだろうか。その真意は分からないが、とにかく、貰ったものは使おうと、ハチマキを頭に巻いて気を引き締める思いで、さっそくそれを履いて勝負のコンパに挑んでみた所存なのだが……。


(デビュー戦と共に……失くしてしまうなんて……)


 ちなみに殿川よりブツを譲り受けた黒川はバナナレコードの衝撃で、すっかり返すのを忘れてしまっている。


(………勝美さんとも……連絡をいただいてるけど……あんまりパッとした返事送れてない……ばってん……今日こそは……いかんといけん……)

(お互いの時間割表を確認しあって……絶望的なほど講義も空きコマも噛み合わなかったけど……この時間帯にこの教室から出てくることは分かってる……あとは空きコマなのも知ってる……こ、ここで…お昼に誘って……そのまま……えっと……東河原のモールに誘うんだ!!)


 彼女にとって初めてかもしれない同年代かつ同性のお友達候補。何としてでもより親密になりたいのである。そのため自分の講義をさぼってまでこうして1コマ90分、教室の前で待機しているのだ。


(……よし!チャイムが鳴った!)


 勇んでスタンバる凛だが、ぞろぞろと出てくる大学生の群れに怖気づき、近くの柱の陰にゴキブリのように隠れてしまう。しかしそれでも目線だけは常に人込みをキープし続ける。


「…………!!……か、かちゅみしゃ………」


 人込みの中から勝美を見つけ出し、蚊の鳴くような声(本人は声を張っているつもり)で名前を読んでみるが、聞こえない。仕方がないのでひょこひょこと人込みについていく。小柄を活かしてスイスイと人込みをすり抜け……ようとして何度も通行人にぶつかりながら、何とか勝美のすぐ近くまで行き、彼女の背中に手を伸ばす。


「勝美~!今日、昼どこで食う~!?」


「ていうか講義のアンケート何書けばいいのか分かんないんだけど~…」


「茉奈の奴今日も大学来てないってさぁ~……やっぱ男じゃない?男~」


「私は今日はでっけえハンバーガーの気分かなぁ(o´ρ`o)」

「私、アンケートには毎回、安倍首相がんばれって書いてるよ~!(*^o^*)」

「うっそぉ~!!だって茉奈この前、好みのタイプ、チーバくんって言ってたよ~!?( ´艸`)」


「ええ~……昨日もビッグマックだったじゃん!」

「マジ森友~!!」

「アイツ小犬系好きすぎて価値観バグっちゃってんじゃん」


「…………………………」


 勝美の周囲にいる見るからにイケてそうな集団を前に、スッと角を引っ込めるカタツムリ。そしてそのまま人込みに揉まれ、失意の中で、廊下に一人残されていた。ポツンという音が聞こえてきそうなほど、哀愁漂う立ち姿である。


(………そっか………そうですよね……あんなに明るくて優しい人ならお友達もいっぱい……)


「………グスン」


 情けなさと惨めさで目からあふれ出る水を止められない凛。いつまでも人っ子一人いなくなった廊下で立ち尽くしてるわけにもいかないので、いつもの誰もいない空き教室で時間を潰すべく、移動する。

 移動の際中、通りがかる人々は全員はじける笑顔で友人や恋人と思しきメンツとつるんでいる。ちらほら一人っきりの人間も見かけるが、ベンチの上でイヤホンを付けながら石のように固まっていて、生気を感じない。凛もアレに習ってベンチの上の石と化していたことがあったが、ベンチの上の石も結局は誰か連れがいて、ほんの2、3分もすれば血が通ったように活き活きと動き出す。言うまでもないが、凛は石になったら最後、次の講義まで動くことは無い。


(………今年こそは……私もあっち側に行こうって……決めてたのにな……)


 本当に今は五月なのかと疑いたくなるほど、冷たい風が凛の肩を冷やす。がっくりと落ちたついでに丸まった背中は、ただでさえ背が低い彼女をより小さく見せた。このまま去年と同じ穴倉(空き教室)に籠ってしまうのかと、彼女が歩みを進めたその時!彼女の眼にやけに巨大なシルエットが現れた。しかもそれはブンブンと大手を振っている。さながら狂った安全太郎である。


「えあ!!」


 結成間近の凛のバンドについこの前加入してくれた、眼前忌子(偽名)がこちらに向かって必死に手を振っているのである。マスク越しではあるが、その顔は見るからに綻んでいる。


「が、が、眼前さぁん!!」


「…………」(邂逅相遇!……という顔)


「えっと………まみる君はご一緒ではないんですか?」


「…………」コクコク


「あ……ああう………えっとぉ……この後、その……もしよかったら」


「…………」バッ!!


 突然、眼前が鞄から一枚のポスターを差し出してくる。


「へ?……えっと……ええ!!……エディプス・フリクションでバンドTのワゴンセール!?」


 ちなみにエディプス・フリクションは凛が常日頃贔屓にしている服屋である。その特徴的すぎるファッションから、同士である眼前に通っている店まで特定されていたようだ。


「…………」(一蓮托生!……という顔)


「は、はい!!……もちろん!この後は何の講義もありません!(大嘘)うおおおおお!!飯食ってる場合じゃねえ!!……今すぐ行きましょ~!!」


「…………」(仏恥義理!……という顔)


「見て見て勝美~……なんかちっちゃい女の子とおっきい女の子が雄たけび上げながら走ってるよ!」


「ホントだ!しかも……ちっちゃいほう、勢いは良いけどめちゃ遅い」


「………あ!凛ちゃんじゃ~ん!!\( ^ ^)/」


「え!?知り合いなの?」


「うん!めっちゃかっわいいんだよ~(≧w≦)」


 にこやかな勝美の背後で、女性二人が異様なほどハイテンションでかけていく。他の学生と比べても頭一つ浮いている彼女たちだが、同時にその場にいる誰よりも楽しそうであった。





 


 



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