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その②「泥だらけになって天邪鬼な気持ちゆらゆらゆらすコト」

・登場人物紹介

黒川響くろかわ ひびき 性別:男 年齢:20歳 誕生日:6/25 職業:大学生

本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。

☆人外のコスプレをさせるなら鬼太郎。本人がしてみたいのはミイラ男。


星畑恒輝ほしはた こうき 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人

黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。

☆人外のコスプレをさせるなら四ツ辻の美少年。本人がしてみたいのはねずみ男


須田凛すだ りん 性別:女 年齢:19歳 誕生日:5/25 職業:大学生

男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。

☆人外のコスプレをさせるならサキュバス。本人がしてみたいのはバブルヘッドナース


姫月恵美子ひめづき えみこ 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職

スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。

☆人外のコスプレをさせるなら富江。本人がしてもいいと唯一思うのも富江


天知九あまち きゅう 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職

元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。

☆人外のコスプレをさせるなら吸血鬼。本人がしてみたいのはケムール人


岩下陽菜いわした ひな 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生

女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。

☆人外のコスプレをさせるならトイレの花子さん。本人がしてみたいのは泥田坊


 こんにちは。長くなってしまいましたね。どうしても前後半の二本以内で終わらせたかったのでこうなりました。すいません。あと、長くなった背景としていつも以上に、書いている途中でコロコロストーリーが変わったことが大きいです。つまりはまとまりが無いという事です。ここまでまとまりが無いと、そろそろ作中に矛盾点が生まれそうでおっかないですね。

                    1



 4月の中頃、クラス替え仕立ての環境に浮かれている東風小、4年3組に突如、転校生が来るという情報が入った。浮かれる一同をよそに、クラスきってのワンパク坊主である加賀正人は、どうも奴さんの性別が女であると知り、がっかりしていた。性欲より、男同士の遊びが勝る他の男子の反応も大方同じである。しかしいざ先生と共に教室に入って来た転校生を見て、ほとんどの男子が手のひらを反す結果となる。


「東京から転校してきました。岩下陽菜です。これからよろしくお願いします」


 けっして声を張り上げてなどいないはずなのに、あまりにも鮮明にかつ柔らかく響く声色。そして何より、そのほかの女子たちが着ているような毒々しいほどポップな柄物とは雲泥の、清楚系女子大生が着ていそうな服をそのまま小さくしたようなコーディネートが目を引いた。しかもそれを完璧に着こなしているのである。そしてぺこりと頭を下げ、クラスを一瞥し、ニコリと微笑み、その場にいるほぼ全員のハートを易々と撃ち抜いて見せた。


 朝の会が終わった瞬間、正人の横に位置付けられた陽菜の席に女子の生垣が築かれた。正人はその隙間から見える陽菜を何となく憎々しげに見つめる。一方の陽菜はと言うと、つい先ほどの挨拶は何かが憑依していたのではと言うほど、一転して無表情になり、受け答えに関しても髪の毛をいじりながらボソボソと返すだけになっている。そのため、女子からの特別待遇はそこまで長続きせず、昼休みの頃にはすっかり、同じような大人しい女子たちのグループで談笑していた。正人は今こそ狙い目だと、男子を誘って常日頃女子たちに行っている洗礼を受けさせようと持ちかける。しかし不思議なことに普段は乗り気な男子たちが急に尻込みを始めるのである。偏に先ほど見せた明らかに年齢離れした雰囲気がそうさせるのだ。正人自身それには何となく気づいており、同様に気圧されているが、ここで折れたら永遠に舐められるという謎の理論で、単身、陽菜へのちょっかいに勇み出た。


 しかしどれだけやっても、結果は散々だった。普通の女子なら喚いたり、先生に言いつけたり、ムキになって追い回したりするものだが、正人の望むそれらの反応は一切足りとて実現しなかった。


 休み時間に読んでいる本を取り上げてみても、「返して」と一言だけ言ってその後は不思議そうにジッと見つめるだけ。何だかその場にいるのがいたたまれなくなり、取り返してみろと言わんばかりに本を持って走り回るが、後を追ってこない。戻ってみると、陽菜は既に教室を出ていた。そしてしばらくすると別の本を読んでいるのである。観念して、本を戻すと陽菜はまた、ジッと見つめてくる。


 悪口を言ってみようにも、特に言うべき箇所が見当たらない。仕方がないので脈絡ないことを自覚しながらも、取り合えず「アホ下」と言ってみるが、脈絡なさすぎて言われているのが自分であると気づかない。言われているのが自分だと気づいても、チラッとこっちを見るだけであとは何も無しである。


 「まあちゃんもうやめとけば?」という友人の声に反発して、尚もからかい続けようとするも大抵無視で片づけられてしまう。結果的に陽菜は大人しい女子から大人な女子という評価に変わり、女子たちから一目置かれるようになってしまったのだ。正人は完璧に敗者である。


 蛙を放り投げても、かわいそうだからそんなことするなと言って蛙をかばう始末。存外絵が下手だったという弱点を見つけても、自分はそれ以上に下手なのでからかえない。思い切って、普段は先に手を出してきた女子にしかやらない髪の毛ひっぱりをやってみようと、髪を触るがふわっとという予期せぬ感触に驚いてすぐに手を放してしまった。おまけに自分は女子から変態呼ばわりされる始末。


 そんな完膚なきまでに負かされ続けている正人だったが、今は廻りまわって彼女の部屋で本気で彼女の心配をしている。


「……………悪霊?」


「ああ………悪霊だ」


「嘘ばっかり………私を困らせようとして出まかせ言ってるんでしょ?」


「嘘じゃねえ! 俺の仲間が動画を撮ったんだ!見ろ!」


 そう言ってスマートフォンを取り出す正人。


「あ、いいな。ケータイ持ってるんだ」


「んなのはどうでもいいから!ホラこれだよ」


「………あ、本当にヒナの家だ………今ここリビングだよ」


 動画の中には、今とは比べ物にならない程荒れたリビングが映っている。そして時折聞こえる「やべえ」というざわめきに紛れて、明らかにこの世のものとは思えない不気味な音が響いている。


「これ…………何の音?」


「だから…………悪霊の音だよ。俺もラップ音とか信じねえけど、これは明らかにヤバいだろ!しかも、こっからがもっとヤバいんだ!」


 撮影者が館の中をウロチョロする。その間も絶えず不気味な音は続いている。それが一際強くなった場所で撮影者は止まり、ここだと呟く。そっとスマホと耳を近づけると……


「ひっ………死ねって……死ねって言ってる」


「そうなんだよ!死んじまえとか……よくも殺したなとか、悪霊しか吐かねえような文句を次々と並べやがんだ!」


 すると恐れを知らない撮影者がコンコンと音のする壁をノックしてみる。するとギギイイイイと鈍い強烈な、今までとは比べ物にならない甲高い音がする。たまらず「ぎゃああああ!」と叫んで撮影者含む少年たちが逃げていく。


「本物だ………本物の幽霊だ」


「…………な?しかもこの後………」


 動画を見終えて顔を上げた正人はぎょっとして口を止める。陽菜が今まで見せた例がないほど、興奮した顔をしているのだ。


「ど、どうした岩下?」


「ヒヒヒ………あ、悪霊だ!この家は……いわくつきだったんだ!」


「な、何でそんな嬉しそうなんだよ!……嫌だろ普通!家に悪霊居たら!」


「加賀君」


「な、なんだよ!?」


「このこと誰にも言ってない?」


「…………俺は誰にも言ってないけど。馬鹿にされんのがオチだし」


「そっか」


「…………てっきりお前も馬鹿にすると思ってたよ」


「しないよ。ヒナも幽霊とか好きだもん」


 そう言ってふんわりと笑う陽菜。思わず、赤くなって目を背ける。


「俺は……別に好きってわけじゃ………」


「そうなの?一緒に2人だけで解決しようと思ったのに」


「解決って………悪霊をか!?」


「そう………ヒナヒナアザラク……」


「本気で言ってんの?」


「そうって言ったら加賀君は私を馬鹿にする?」


 陽菜が顔を近づけて、そう尋ねる。ジッと見つめられるのに弱い正人はまたも顔を背ける。


「………………しない」


「じゃあ、一緒にお祓いしよ?大丈夫。私詳しいから」


「…………お祓いって……具体的に何すんだよ?」


「………今日はまだ何にもできないよ……お母さんもいるし、天知さんもいるから……明日の放課後、まずはこの建物についての情報を集めよう」


「おお………本格的だな」


「その前に聞きたいんだけど……もしかして私を家から追い出そうとしたのって幽霊がいるから?」


「………だったら悪いかよ」


「………悪くないけど……てっきりヒナのこと嫌いなんだと思ってた」


 興奮が落ち着いて来たのかストンと座って、陽菜がしみじみと言う。普段の正人なら嫌いだと返してやるところだが、今回は少し話が違うようで、緊張した面持ちのままゆっくりと語りだす。


「…………この撮影してた俺のダチ……今どこにいると思う?」


「?」


「…………病院だよ。これのあとすぐ、落ちてきた看板の下敷きになって……今、車椅子」


「!!………ほ、本当に悪霊だ」


「…………だからよ、お前もこんなとこに住んでると何か不慮の事故に巻き込まれちまうんじゃねえか?……と思って……」


「心配してくれたの?」


「………これ以上、知り合いが怪我するのはごめんだ」


「…………実はね……さっきの不気味な音……はっきりとは覚えてないけど、私もこの家にいる時、聞いた覚えがあるの……すでに霊障は始まってるのかも………」


「…………マジで引っ越した方がいいんじゃねえか?」


「訳があって……それはできないの…………私は最悪大丈夫だけど……このままだとみんなが危ない」


「どうでもいいけど………お前んちって何人で住んでんだよ……全員家族か?」


「?……ここに私の家族は一人もいないよ?」


「はあ?ここお前の家だろ?」


「そうだけど……ここシェアハウスだから………」


「え!? お前、一人暮らししてんのか?」


「してないけど?」


「え!?母ちゃんとか家いねえの?」


「ずっといるけど?」


「…………さっきいねえって……まあいいやめんどくせえ。取り合えずここに住んでるのは間違いねえんだし、やることは一緒だわ」


「…………お祓いに必要なモノ改めて調べなくっちゃ」


「なあ………俺ら二人だけで大丈夫か?もっとこう……仲間とか………幽霊信じてくれそうなやつとかいねえの?……俺の連れはもうこの家に上げたくねえし」


「………仲間……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ヒナさん。そういったお話は私じゃなくってルナさんにお願いします。夜にトイレいけなくなってしまうので」


「ゴールデンウィ―ク空けからまた撮影で東京ですわ~………そろそろ授業がヤバい~……」


「え?幽霊?……信じない信じない……あのね陽菜ちゃん。霊を生半可に扱えるからこそホラーはエンタメとして楽しめてるんだぜ?」


「陽菜お前………幽霊とかその手の話題、好きすぎじゃね?俺、そういう類には手出さねえって決めてんの……何かあっても対処できなさそうじゃん。寺生まれの先輩とかいねえし」


「えへへへ……他人が怖がってる分には大丈夫ですが……自分が体験するのはちょっと……あくまで見るだけですね私は……ヒナちゃんも仁丹トンネルには近づいちゃダメですよ?あそこは……昔、軍の実験施設が合って……」


「え?仁丹トンネルに行きたいって?夜に?……いやよめんどさい。子どもは大人しく寝ときなさい」


「夜の仁丹トンネルを探検したいって?ダメだよ……僕は幽霊信じてないけど……危険なことは自分で責任が取れるようになってから……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……………………いない」


「だよな………じゃあ俺らだけで何とかするか」


「うん。じゃあ明日……学校で………」



                       2



「あ!………ヒナちゃん!……お話は終わったんですか?」


「………うん。仲直りしたよ」


「それはよかった………もうじき晩御飯できるけど……正人君も食べていくかい?」


「い、いえ!母ちゃんがそろそろ帰って来ちまうので!それまでには帰らねえと!」


(こんな超アウェーの中、飯なんて食いたくないよな)


 正人が帰った直後、料理も完成する。最近、陽菜も自宅で食べることが多かったので久しぶりの星畑の手料理である。


「…………普段から作りなさいよ……何よヒナが来たときばっかり……」


 味噌汁をお箸でかき混ぜながら、姫月が悪態をつく。基本的に星畑は有事の際か、陽菜が食べる際にしかご飯を作ろうとしない。


「………作って欲しいならそういや作るぜ……別に」


「………別に、いらないわよ」


 星畑にからかうように返され不貞腐れる姫月。確かに先程の悪態は、「美味しいんだからもっと作って」と言っているようにしか聞こえない。


「ふふ………お母さんも一緒なの……新鮮」


「そうですね。私もこんなに多くで食べるのは久しぶりです」


「…………せっかくの団欒なのに……私が割って入ってしまってすいません……空気が読めなくって」


 陽菜と大地の間を挟んで何故か凛が座っている。真っ先に座った陽菜の横にすかさずこの女が入ったのである。しかし当の本人は、凛と同じくらいのスピードで天知の横を掻っ攫って行った結果、この席順なので、特に不満は無いようである。


「おかわり」


「ヒナさん。3回までですよ」


「……………はい」


 ちなみに普段メンバーと食事をするときは、平然と5杯以上平らげている。


「ンフフフフ……母ちゃんいない方がいいんじゃねえか?陽菜」


「そんなことないよ………いつも3杯でしょ?」


(あ……鯖読んだ)


「アンタ今、鯖読んだわね」


「よ、読んでない!」


「ヒナさん。軽い嘘でも吐きなれてしまうと、大きい嘘に変わりますからね」


「まあまあ………育ち盛りなんでしょう。僕はいっぱい食べてくれた方が元気があって嬉しいですよ」


「ヒナさん10杯食べなさい」


(極端だ………)


「………ヒナちゃん……ピーマン食べます?」


「食べる。ありがと凛ちゃん」


「須田……お前、好き嫌い多すぎねえ?」


「えへへへ……」


「そんなだから脳まで栄養が行かないのよ」


「では……私のピーマンを差し上げましょう」


「ひえええ………なんでぇ……」


「好き嫌いは無くしておかないと将来的に困りますよ」


(大地さん……凛ちゃんも自分の子どもだと思ってる節があるよな……)


「アンタの母親………顔はいいけどなんかめんどくさいわね」


 姫月が臆することなく堂々と、陽菜に陽菜の母親の悪口を言う。陽菜も特に気を悪くするそぶりも見せず、「そうかな?」と言って笑う。


「そういえば初めましてですね。いつもヒナさんをありがとうございます」


「…………べっつに~……こいつがやたらとくっついてくるだけよ」


「ふへへっへ……お二人は本当に仲良しなんですよ……」


「そのようですね」


「こんなに親に紹介したくない友達もいねえわな」


「そんなことありません。ヒナさんは人を見る目がありますから」


「ふへへへ……私史上最も尊いカップリングと言っても過言ではありません……」


「………凛アンタ……私のピーマンも食べたいみたいね」


「………勘弁してください」


「ピーマン美味しいよ? ホラ、あ~んして?食べさせたげる」


 陽菜が2倍の量のピーマンの中から一際大きいものを凛に向ける。推しの手料理を突っぱねることができても、信奉する天使のあ~んまでは拒むことができないようで、観念して口を開ける。


「……………どう?美味しい?」


「……うぐ……う、うめえ………です………」


 どうも本当にピーマンが苦手なようで、無理して美味いと言っているのか素直にうえ~と言っているのか区別がつかないリアクションを取る。おそらく前者だろうが。


「そう言えば、須田と陽菜は何で姫月のパンツなんて履いてたんだよ?」


 藪から棒に星畑が先程の2人の奇行を言及する。陽菜はさばを読んだことを姫月に指摘された際とは比べ物にならない程、バツの悪そうな顔をする。


「アンタら私が寝てるまに何気持ち悪いことしてるのよ」


「えへへっへへへ……すいません……エ、エミ様のアダルトなエロスにあやかろうと思いまして」


「………そういう姫月だって凛ちゃんの服勝手に持ち出してるんだろうが」


「別に私が捨てたものに群がるのは勝手にしたらいいけど……身の丈に合わない飾りを纏ったところでガキっぽさが増すだけよ。良く言うでしょ?孫にも衣装って……」


「…………言ってることは同感だけど……ことわざの意味はまるっきり逆だよ姫ちゃん」


「ヒナさんのコーディネートのコンセプトは『おチビさん女子大生』ですから。そのままで十分大人っぽさは出てると思いますけどねえ」


「ほへー……やっぱりしっかり考えてあるんですねえ………」


「………盗ってつけたようなパンツじゃダメってことだな」


「そもそもあんな糞デブが握りしめてたモノなんかよく履けるわね」


「えっへへへへ………」


「糞デブ?」


「………もしかしなくてもまぼとかいうクソガキのことだよな……あんにゃろ姫月のパンツまで盗んでたのかよ……」


「え?え……え?……どうして黒川さんがあの子たちの事知ってるんですか?」


「帰り道会ったんだよ……ウチでパンツ盗んだって自慢してるガキンチョ集団に」


「ちょっと待ってよ……私のパンツまでって……まだ何か盗んでたの?アイツら」


「心配しないでいいよ………アイツら勘違いして星畑のパンツ盗んでったから」


「ど、どういう間違い方したんですか……それ?」


「馬鹿!二度あることは再度あるって言うじゃない!!」


「三度ね」


「………天知さっきから訂正ウザい」


「………ごめんつい」


「エミちゃんさん、天知さんに暴言を吐きましたか?今?」


「あわわ………エ、エミ様は誰にでもフランクに暴言を吐くだけですから……」


「……………怒りレベル3だ………久しぶりに見た」


「…………話が進まねえ」


「ハハハ………愉快でいいじゃないか」


 あわや大人チョップが飛び出しかねない危険な状態だったのだが、愉快の一言で済ましてしまう天知。


「……何でも『いいじゃないか』で済ましちまいそうな感じあるよな、天知さん」


「んな朝の番組に出た四皇みたいな………」


「………ハハハ……僕には歌姫の娘はいないよ」


「お!天知さんも流石にワンピースは知ってるんですねえ!」


「………あ、ああ……まあね」


(天知さん……メリー号沈むシーンで泣いてそう)


「………ごちそうさま。美味しかったよ星畑くん」


「うっす」


「あ、天知……私の食器も下げといて」


「はいはい」


「………………………………」


(めっちゃ見てる!めっちゃ見てる!)


 自分の食器を天知に押し付ける姫月。そしてその様子を大地が凝視している。流しにおいてさっそく食器を水に浸そうとする天知に凛が待ったをかける。


「………あ、天知さん……洗い物は私がしますから……そのまま流しに置いておいてください」


「いい、いい。自分の分を洗うついでみたいなものさ」


 会食のたびに目にするいつものイタチごっこが始まりかけるが、今回はそこに大地が参戦する。


「いいですよ。調理器具もそのままなので、引き続き私が洗います」


「そんな……大地さんはお客さんなんですから……わ、私がやりますよ?」


「いいんです。洗わせてください」


「でも、私今日何もできてないし……」


「私がやりたいのです。それとも私から天知チャンスを奪うつもりですか?」


「…………あ、はい………すいませんでした……」


 いつもは面倒なほど頑なに自分でやりたがる凛だが、大地の圧力に負け、引き下がる。天知チャンスという言葉が何を指すのかはよく分からないが、取り合えず天知の家で家事がやりたいようである。


「ううう~……怖かった……」


 本気で威圧され、凛がすごすご黒川らのもとに帰ってくる。


「お~……よちよち……かわいちょうに……」


 星畑が笑いながら、凛を向かい入れる。家事だなんだで滞在時間が伸びた分、普通なら陽菜もこの輪に紛れて遊んでいるはずだが、今日は自室に籠っているようである。おまけに皿洗いなどが終わって、大地が声をかけたところ、今日は泊まりたいとまで言うのである。


「明日も学校でしょう?宿題は大丈夫なんですか?」


「ちゃんとするから大丈夫」


「持ち物は大丈夫ですか?明日体育などはないんですか?」


「………平気」


「嘘つきましたね?」


「た、体育は本当に無いもん!教科書も置き勉してるから平気!」


「置き勉は禁止されているはずでしょう?まあ、そのくらいのルール違反はいいですけど」


「………ごめんなさい…………」


「どうしてそんなに泊まりたいんですか?」


「凛ちゃんといっしょに大人の話がしたいから……ねえ……お願いお母さん」


「うぇ!?……わ、私とですか!?」


 ねだるようないじらしい目つきで凛をちらりと見ながら、「お願い」をする陽菜。120%泊まりたいためだけの口実だろうが、そんな出まかせを言うほどには本気のようである。大地もそれを理解してか、溜息と共に要求を呑み込んだ。


「と、言う事みたいなんですが、よろしいでしょうか?皆さん」


「もちろんいいですよ。陽菜ちゃんにはもう言ってますけど、ここはもう陽菜ちゃんの第二の家みたいなもんですから」


「ありがとうございます………ヒナさん、我がまま言ってはダメですよ?あと、夜更かしもし過ぎないように」


「うん!」


「えへへへ……やりましたね……ヒナちゃん」


 お泊りが決まり、はしゃぐ2人。その後、帰る大地を見送ったところ、手招きで黒川だけが玄関口の陰に呼び出される。


「エミちゃんさんはえらい強敵ですね」


「きょ、強敵って……」


「ヒナさんから凄い美人さんだとお聞きしてましたが、あれほどまでとは思いませんでした」


「ああ、そうですね……アイツ、顔はいいですからね」


「おまけに天知さんへのあの態度」


「あ~……すいませんアイツ……天知さんだけじゃなくって基本面倒なこと他人に押し付けるタイプなんです」


「あんなに気軽に家事を頼むなんて、もはや夫婦の粋じゃないですか。羨ましい」


「そっちですか!?」


「恐ろしい強敵です。私も天知さんに家事をお任せしてみたいです。お任せされたいです」


「……アイツマジで……どっちかと言えば娘みたいなポジション何で気にしないでいいですよ」


「凛さんはまだしも、エミちゃんさんは安心できません」


 ぐぬぬ……という言い回しだが、顔は相も変わらず仏頂面と言うかそこまで危機を感じているようには見えない。それでもつい先ほどまで天知と食事をしていたからか、興奮状態にあるのは確かである。


「あと、見ました?」


「はい?何がですか?」


「ヒナさんをフォローした時のあの慈愛に満ちた天知さんの目ですよ」


「はあ……そんな目してたんですか」


「もう、ベストファミリー確定じゃないですか」


「………………話ってそれだけですか?」


「あ、そうでした。横道にそれてしまいましたね」


「………今朝も逸れまくってましたもんね」


「二階から正人さんと降りてきた時のヒナさん、少し様子がおかしかったです」


「へ?そうでした?」


「はい。正人さんの雰囲気的に仲直りしたのは事実でしょうが、あの時のヒナさんは演技しているヒナさんでした。おそらく何かを隠しています。というよりかは企んでいますね」


「へえ~……全然分からなかった」


「ヒナさんは嘘をつくのは下手ですが、演技するのは上手ですから」


「………それって違うんですか?」


「はい。根がいい子ですから、人を裏切るような形で欺くことはできません。ので、今回の企みもきっと大事にはならないと思いますが、あの娘は無茶をするきらいがあるので、少し気をやってくれないでしょうか?」


「はあ………全然いいですけど。何で俺なんですか?もっと天知さんの方が」


「ヒナさんに言う事を聞かせたいときや抑制するときは我々保護者が相応しいでしょうが、今回は少し勝手が違いそうですから」


「………そんなことまで分かるんですか?」


「勘ですけどね。ヒナさん、多分今すごくワクワクしていますよ」


「へ、へえ~……何に?」


「そこまでは私にも」


「でもまあ、分かりました………それとなくやっておきます」


「ありがとうございます。あと、例の件についてもお願いしますね」


「例の件?」


「朝、お伝えしたものです」


「あ、はい!分かりました!」


 大地から何となく親としての凄味を感じながら、見送る。本当に天知さん狂いがなければいい母親なんだが、と思うと同時に、そう言えば元の父親はどんな人間だったんだろうと気になってくる。しかし、よそ様の家の事情にそこまで首を突っ込むほど黒川は図々しくない。


  

                    3


 家に戻ると、凛と星畑がテトリスをプレイしている。天知と姫月が自室に籠っているのはいつものことだが、陽菜の姿までないのは珍しい。


「あれ?陽菜ちゃんは部屋?」


「おお。泊ってまで家に居たがってたのにな。須田との猥談はいいのかよ」


「へ、へへへへ……流石にあれは家に居たいだけのこじつけって流石の私も分かりましたよ。で、でも確かに珍しいですよね。いつもならここで、もう愛くるしさを振りまいているはずなのに」


 はにかみながら何もない空間をなでる凛。そんなことをしているうちにありえない所に青テトリミノが付いてしまっている。


「凛ちゃん、もう逆転できないくらい崩れちゃってるよ」


「ああ!しまったぁ!」


「ていうか……脇見なくても弱すぎるぜ」


「こういうゲーム苦手です……まあ、私、苦手じゃないことの方が少ないですけど」


「須田って成績どうだったの?」


「えへへへ………殺人事件かってくらい真っ赤な結果でした」


「……赤点まみれってコトね」


「まあ、俺もボチボチはアホだったから心配すんなよ!」


 そう言って励ます星畑だが、この男は一切勉強しないで平均点すれすれをキープしているある意味最も要領のいい男であることを黒川は知っている。ちなみに黒川は得意な日本史と現代文以外は、一生懸命勉強してだいたいそのレベルである。


 そんな雑談をしていると、上からのっそのっそと姫月が降りてくる。飲み物を飲みに来たついでに、珍しく黒川らに話しかける。


「ねえ……ヒナの奴……まだ帰ってないの?」


「帰ってないどころか今日は泊まりだってよ」


「平日なのに?」


「うん………ていうか陽菜ちゃん上に居るってことは姫月に絡みに行ってるのかと思ったけど、違ったんだ。マジで何してんだろ?」


 姫月の部屋に気安く入っていいのは、陽菜と掃除をするときの天知のみである。陽菜が自分に一言も無しでお泊りしていることに若干ヤキモキしたのか、不服そうな顔で姫月が返す。


「………アイツ……多分、あの夜来てたガキと何かするつもりよ」


「やっぱり?下に降りてから明らかに態度変わってたもんな」


 姫月の推測に星畑が合わす。そんな気配を微塵も感じていなかった黒川は間抜けに鼻を鳴らす。感心しているのである。凛も同じタイミングで感嘆したようで、共鳴する。


「ほへ~……お二人とも……よく気が付きますねえ……」


「気が付くって言うか……アイツ、変なとこで頑固だから一回ムカついたら根にもつのよ。川で子ども扱いされたときもやたら根にもってたでしょ?……そのアイツが綺麗さっぱり。凛が回されそうになってたことすら忘れてるわ」


「ええ!?」


「ま、まわ………」


「されそうになんてなってません!!そもそも!そのこと陽菜ちゃんにはお伝えしてませんし!」


 露骨に取り乱しながら、凛が否定するが、おそらくあのまぼとかいうガキンチョに何らかのセクハラをされたのだろうと、勘付く黒川。アイツ、マジで今度会ったら殺してやると胸に誓う。


「どうでもいいわよ。アンタの性被害なんて……ヒナの奴……多分、怒りを忘れるくらいの何かがあったのよ」


「や………実はさ……陽菜ママも似たような事言ってたんだよ。あの娘、なんか隠してるから気を付けてくれって」


「あの母親が?……………どうでもいいけどさ……あのヒナの母親……アイツ、天知に対する態度が露骨すぎてちょっと引くんだけど」


「何をいまさらなこと言ってんだよ」


「………それはもう全員が通った道だよ。お前もはよ慣れろ」


「………ヒナちゃんは何を隠してるんでしょう?まさか、危ないことじゃないですよね?」


 心配そうに凛が言う。黒川も彼女同様、陽菜の小学校生活が不安で仕方がない。


「だから……ちょっと反則チックだけど……陽菜ちゃんに何しようとしてるか聞こうと思うんだよ」


「いいんじゃねえの?天知さんとか母親ならともかく、俺ら相手なら言えるような内容かもしれないし」


「馬鹿ね。そんな内容ならヒナの方から聞いてもないのにツラツラ喋ってくるに決まってるじゃない」


「………分からんぜ。正人だっけ?あの子に口止めされてるかもしれないじゃん」


「それなら一層聞きだすことはできないわよ。アイツ頑固だって言ったでしょ?」


「だから……『俺らも混ぜてよwww』みたいな感じで行けば……ワンチャンあるだろ」


「私嫌よ。何でガキのお遊びに混ざらなきゃいけないわけ?」


「誰もお前には頼んでねえよ」


「………俺がサクッと聞いてくるわ」


「さ、流石!黒川さん!ヒナさんからすっごく信頼されてますもんね!」


「お兄ちゃんは違うねえ!」


「えっ!そうかな?ヒヒヒヒ……」


 3人に見守られながら、黒川が陽菜の部屋に突撃する。ノックをして返事があったのでドアを開くと、陽菜は勉強机にかじりつきながら、何か熱心に本を読みこんでいる。


「…………お兄ちゃん、どうしたの?」


「えっと……その………い、今……何してるのかな~って」


「今?本読んでるよ?」


「へ、へ~……何読んでるの?」


「…………『怨霊学級 後ろの席のシンユウ』」


「へ~…」(最近の児童文学か?知らねえ……)


「…………………本当にどうしたの?」


「い、いや………えっと……今、何してるのかな~……って」


「うん。だから読書してるんだよ」


「あ、うん……そうだよね……ははは……」


「そうだよ?」


「…………お、おやすみ!」


「えっ?……うん……おやすみ」


 いたたまれなくなり敢え無く退出するお兄ちゃん。廊下では心底馬鹿にした顔の姫月とそのほかが生暖かい歓迎をしてくれた。


「アンタ……出会ってから一番キモかったわよ」


「分かってる……分かってるから……何も言うな……」


「黒川……お前…………ソロキャンプしてる女子のテントに入ってくるおっさんみたいだったぞ」


「何も言うなってば!……流石にそこまでひどくはなかっただろ?」


「で、でも………ヒナちゃんの様子もいつもよりよそよそしかったですよ?……心ここにあらずっていうか」


「そ、そうだよな!何か本読みながらノート取ってたし」


「……いつものヒナちゃんなら……もっと……こう……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あ、凛ちゃんだ……いらっしゃいませ」


「凛ちゃんは今何してるの?私は本読んでる。『怨霊学級』」


「これね。女子生徒の口の中にムカデが入るんだよ。ペットボトルの水に紛れてたの」


「最初はイジメて自殺した女子の霊の仕業って思ってたんだけど」


「実は違ってて……死んだ女子の彼氏が裏で全部仕組んでたの」


「全部バレて最後は追い詰められるんだけど、最終的に彼女とおんなじところから飛び降りて自殺するの」


「はい。貸してあげます」


「フフフ………あとでこの『怨霊学級』のお芝居しよ?ヒナ、彼氏の役がいい……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ぐへへっへへへっへえへへえ……とまあ、こんな感じですね……想像だけでよだれ出てきた」


「フーン………彼氏がねえ」←途中から聞いてなかった


「…………そこまで内容言っときながら本を貸してくるのは確かに陽菜ちゃんっぽいけど」


「えへへへ……我ながら完璧なエミュです!まあ、小説の内容は適当ですけど……」


「じゃあ、アンタが聞いてきなさいよ」


「うえ!?」


「確かに……何だかんだ一番仲いいんじゃない?……っていうか、同じ等身って言うか」


「知能指数は同じくらいね………ちょっと負けてるくらい」


「よっ!陽菜マスター!!」


「え、えへへへへ……そうでしょうか?た、確かに……私!ヒナちゃんのことなら何でも知ってる気がします………!」


「おお……!身長は?」


「135センチです!」


「血液型は?」


「AB型!」


「最近一番おいしかった食べ物は?」


「ス〇ローのシーサラダ!」


「今のブームは?」


「MCでフニャフニャになる吉田美和!!」


「最近言われて嬉しかった言葉は?」


「お風呂場で私が言った『鎖骨まで可愛いですね』!!」


「よし!行ってこい!!」


「はい!!」




「ヒナちゃん!!入りますよ!」


「今は入っちゃダメ!………また明日にして!」


「あ………はい……ご、ごめんなさいでした」


「玉砕した」


「………………………茶番もいいとこね」


 入って一秒ですごすご出てくる凛を見て姫月が吐き捨てる。一方の凛は本気で落ち込んでいるようである。


「今死にたい………」


「お~……よちよち……泣いてもいいんでちゅよ~……」


「お前、それやめろよ」


「うえええ……本当に泣きそうです。いつもならこのタイミングでヒナちゃんに抱き着いて癒しをもらってたのに………私はどうすればいいんですかぁ……」


「黒川にでもへばりついたら」


「く、黒川さんはちょっと……」


「いや、まあそりゃあそうだろうけど……」←ちょっとショック


「あ!……ち、違いますよ!私が嫌なんじゃなくって!も、申し訳ないというか……恥ずかしい…」


「で?……結局、陽菜は何企んでるんだよ」


「…………分からん」


「後はもう、お二方にお任せするしか………」


「はあ?だから私は嫌だって………」


「て言っても………なあ、俺らじゃコテンパンだったし……星畑は?」


「俺ぇ?……ぶっちゃけ俺は陽菜からお前ら程好かれてねえと思うんだけど……」


「そんなことないですよ!……よく星君のお話されてますよ?」


「アイツ、口開けばアンタのことカッコイイって言ってるわよ。気があるんじゃないの?」


「イケメンパワーでどうにかしろよ」


「まあ……ぶっちゃけお前らが何でやらんのか不思議なくらい必勝法って言うか攻略法はあるし……やってもいいけど……」


「必勝法?」


「……まあ、見てろよ」


 そう言って何故か陽菜の部屋ではなく、一階に降りる星畑。3分ほどでまた上がって来たかと思うと、今度は陽菜の部屋に直行し、扉を叩く。


「陽菜ぁ?…………夜食にカップラーメン食おうと思ってんだけどお湯沸かし過ぎてさぁ…もう一つあるし…お前も食わねえ?」


(ガチャ)「食べる」


 星畑のセリフが言い終わらないうちに、扉が開き、陽菜が顔を出す。慌てて廊下の奥に引っ込む他3人。


「チョロ」


「……………食べ物使うのはずるくない?」


「……………ううう、まんまと連れていかれてます……」


 敗者が呻く。それではまるで星畑が誘拐犯ではないか。


「じゃあ行くわよ」


「え?どこに?」


「アイツの部屋よ。何企んでるのか知りたいんでしょ?」


「あ、ホントだ……鍵掛かってません。で、でも……いいんでしょうか?乙女のプライベートを覗き見なんて………」


 そう言いながら、凛は吸い込まれるように陽菜ルームに一番乗りする。


「なんか凛ちゃん……陽菜ちゃんの友達ってより、限界オタクみたいだな」


「何をいまさらなこと言ってんのよ」


 陽菜ルーム内の勉強机にあるノート。先程まで、陽菜が小説を読みながらメモを取っていたものである。唯一、陽菜の部屋にまともに入れている黒川は、本来なら真っ先にこれに目をつけて、中身をチェックするべきなのだろうが、流石にプライベート的な面で躊躇し、手を付けなかった。それどころかわざと宿題用のノートを重ねて、他の2人の目から守ったほどである。隠し事の内容を気になりつつも、詮索を避けているのには、プライベート以外にも理由があった。

 

 大地は勿論、凛たちもすっかり忘れているのか、話題にも出さないが、ここはUの監視下である。先程、この部屋で行っていたであろう、子ども同士の会話も、陽菜の描く仕事の内容も、全て奴は把握しているはずなのだ。あまりにも無茶なことをしていれば、事前に教えてくれるだろう。何もないという事は、つまりなんでもないことなのだ。と黒川は考えているのである。もしかすると、番組のいいネタになるような事なのかもしれない。それならそれで、陽菜ちゃんの防犯も込めて、手を貸してやろう。と、黒川はこっそり用意していた、壁紙の切れマイクを彼女のランドセルに紛れ込ませる。これで、自分たちには把握できずとも、学校外の会話もUに届くようになるはずだ。



                   4



「珍しく気が利いたな」


 自室のベッドで横になっている黒川の脳内で声がする。陽菜の部屋の調査が終わり、特に収穫がないまま解散となったのだ。


「珍しくってなんだよ………」


 他のメンバーに比べて、黒川はUのことを、ある程度信頼している。ヌートリアの一件は若干イラついたが、それ以外でこの存在は、むしろ黒川に福しかもたらしてくれていないのだから当然と言えば当然である。そのため、番組にも人一倍協力的だ。


「マイクを入れてくれたのは助かったぞ。おかげで一本分予期していなかった撮れ高にありつけるかもしれん」


「………助かったって言うならさ……陽菜ちゃんが何企んでんのか教えてよ。別に止めないから」


「大したことではない。幽霊を捕まえようとしているだけだ」


「ぷっ……かっわい」


「この家に居るらしい悪霊だそうだ。正人とかいうクラスメートがこの家に難癖をつけてきたのも、それから彼女を守るためらしい」


「へええ~……ま、確かにこの家古いもんなぁ……お化けごっこにはうってつけかも」


「黒川。ついでに今すぐ一回に降りて見ろ。物音を立てずにゆっくりな」


「…………怪談聞いた後に降りたくねえなあ……滅茶苦茶深夜だし……」


 ボヤキながらも、言われた通りこっそり一回に降りると、リビングの一部がぼんやりと不気味に光っている。危うく声を出しそうになったが、よくよく見ると懐中電灯で壁を照らしながらうずくまっている陽菜がいるだけだった。


「……………夜更かししたら駄目って言われて無かったっけ?」


「ひゃあ!」


 別に叱るつもりはないが、何となく低いトーンで声をかけてみる。すると、ぴょこんと生えるように立ち上がり、陽菜が仰天する。手からはドサッとノートと本が落ちる。ノートは先程黒川が隠したものと同じだが、本は『怨霊学級』ではなく、怪談話を集めたようなバラエティブックに変わっていた。


「な、な、な、何でもないよ?」


「え、何が?」


 明らかに無理がある嘘を言いながら、陽菜が懐中電灯を背中に隠す。Uに怒られるかもしれないが、少し探りと言う名のちょっかいを入れてみたくなる。


「そこの壁にお化けでもいるの?」


「え?お、お化けなんていないよ。だ、大丈夫」


「ええ~……でも、この家って昔殺人事件があったって聞いたし、居ると思ってたけど」


「!! そうなの!?」


 適当なホラを吹くと、面白いくらい喰いついてくる陽菜。ついイタズラ心が出てしまう。偏に目の前の児童が可愛いのが悪い。


「………そういやぁ……この前、凛ちゃんが体調が悪いって言ってお風呂場でぶっ倒れてたような」


「ええ!?」


 体調が悪いと言ったのも、お風呂場で倒れたのも本当だが、原因は陽菜の出演作を漁る為のネットサーフィンで二徹したことであり、まかり間違っても霊障などではない。しかし、目の前の少女は大いに焦る。他でもない妹分の危機である。


「…………お兄ちゃんは大丈夫?」


「え?………う~ん……肩とか重い……かも?そういや眩暈もするなぁ」


「大変だ……こっち……来て」


「え?な、何?」


 ふざけ続けていると突然覚悟を決めたような顔の陽菜に裾を引っ張られる。連れられるまま、庭にある倉庫に入れられる。


「な、何?何これは………」


「………風水によると、この場所は鬼門がどうたらこうたら(よく聞き取れなかった)で、窓の場所も入り口と垂直だからうんたらそうたら(何か難しそうな言葉の羅列)なの。それでここからが一番大事なんだけど……」


 そう言いながら、黒川の両肩に普段サラダの取り皿に使っている小皿を置く。そして何やらうにゃうにゃ唱えながら、三つまみ程、塩を盛る。同じような盛り塩を倉庫の入り口にも設置する。


「あ、あの!陽菜ちゃん!これは何でがんしょ!?」


「霊を追い出す処置です。お兄ちゃんはこれから朝日が昇るまで、倉庫の中でジッとしててもらいます。私がいいって言うまではそのお塩をこぼしたり、取ったりしたらダメだよ?」


「え………とったらどうなんの?」


「死にます」


「マジっすか……」


「……ごめんね………大変だけど、我慢してね。ヒナが何とかしてあげるから……」


 菩薩のような優しい声色で、かつ心底、気の毒そうな憐れむような顔で黒川を励ます陽菜。どうも冗談でやってるわけじゃなさそうなのが恐ろしい。


(オカルト好きってレベルじゃねえぞおい!)


 あまりの迫真に笑うことも呆れることもできなかったので、取り合えず内心突っ込んでいると、陽菜が倉庫から出て行ってしまった。「何があっても開けちゃダメだよ?知ってる人の声がしてもダメだからね?」と怖いことを言い残して……。


 最初の方は言われた通り、ジッとしていた黒川だが、途中でアホらしくなり、文字通り肩の荷を下ろす。いっそのこと部屋に戻ろうかとも思ったが、何となくめんどくさいことになりそうなのでやめることにした。ただ、大地か天知には、後で本格的に叱っておいてもらおうと、割とひどいことを考える黒川。しかし、ここで夜を明かすと言っても、眠ることはおろか、越したてでろくな荷物もない倉庫の中では、暇をつぶすこともままならない。


(ゆらゆら提督の残骸だ………はよ粗大ゴミに出せよ)


 などとどうでもいい事を考えていると、突然ガラガラと倉庫の扉が開く。慌てて持ち場に戻り、肩に小皿を戻す。勿論、倉庫の中に入って来たのは悪霊ではなく陽菜である。ただし、予期せぬゲスト付きだった。


「凛ちゃん………ここでお兄ちゃんから5メートルくらい離れたとこで座ってジッとしてて、何があってもそれを手放しちゃダメだよ?」


「ううむうううむ!! ううふいううふふひふふほほん!!」


 何か口に物を詰めているらしい凛が、何やら呻いている。先程、彼女も霊障にあっているような体で話してしまっていたなと、黒川は思い出す。それにしたってわざわざたたき起こすようなことなのだろうか。


(凛ちゃんについては、もしかしなくても俺のせいだけど……陽菜ちゃんもちょっとテンション上がってふざけてるんじゃねえの?)


「凛ちゃん………絶対……絶対……大丈夫だから……大丈夫……ぐすっ……ヒナに……まがせて…」


(あ……これマジだ……マジの奴だ………………それはそれでどうなの?)


 ほっぺたがぷっくり膨らんだ、思わず頬が緩みそうな程、脱力系の顔をしている凛を前にしても、陽菜は涙を禁じ得ないほど、深刻な様子である。


「んむ……んむ……んんむ~……んんふ~ん………んんふ~~~……」ポロポロ


(ってお前もかい!!)


 どういう説明を受けて連れてこられたのかは知らないが、凛まで涙を流している始末、もうカオスすぎてついていけない。


「待っててね………日が出てる内は大丈夫だから……明日には完璧にお祓いできるようにするから…それまでは……我慢してね」


「んふ!! ふひふふんふふほほんふ!!」


「…………がんばってね」


「ぐすっ……死なないでね……絶対死んじゃダメだよ?」


 倉庫の扉から弱々しい顔を少しだけ出してそのままパタンと閉める陽菜。あまりにも感情的すぎて確かに、泣きそうになってしまう。


 かくして、倉庫の中は、正座をする男女という奇妙な構図が出来上がってしまった。ぼけっと座っていると、横で凛が何かを書いて渡す。


『私たち、今何してるんだと思います?』


「あ………正気に戻ったんだ」


『何か尋常じゃなさそうだったんですけど、これは何ごっこですか?』


「どうも、向こうはマジらしいよ。この家に悪霊がいるんだと」


『それがホントなら私……怖くて住めなくなっちゃいますよ』


「………口に何入れてるの?」


『塩水です。正直、つらいです』


「吐いちゃえば?」


「………ぷえ」


 黒川の言葉を受け、待ってましたと言わんばかりに口に含んでいた水を吐き出す。


「あ~あ~……呪われるぜ」


「ちょ!そ、それ反則ですよぉ!ウフフフフ……黒川さんだって清めの塩外してるくせに!」


「ヒヒヒヒ……でもさ、ちょっと意外だよ。あの子にこんなキテレツな一面があったとは……オカルト好きってより……言葉悪いけど、霊感あるぶってる痛い女みたいだったぜ」


「ほ、本当にお言葉が悪いですよ!おばけを本気で信じてて、なおかつ私たちのことを本気で思ってくれてるってことです!……まあ、あの行動力にはびっくりしましたけど…性格までおかあさん似なんですね……」


「あ~!……あの他の追随を許さない感じ!そうだ……既視感あると思ったら大地さんだ!うわ~…めった納得したわ」


「う、ウフフフフ………で、でも、かっこよかったですねえ……テキパキ準備してるとこ……」


「迫力あったよな……ちょっと本気で自分の身が怖かったもん」


「ふへへへへっへへへ……でも、あの去り際は反則です!可愛すぎました!」


「……ぶっちゃけちょっとイラついてたけど……あそこでスッと引いたもんな…怒りが」


 何もしゃべらなければ驚くほど静かな倉庫の中。何となく会話を途切れさせたくない。


「でもよくペンと紙なんて持ってたね」


「ふへへ……ちょ、ちょっとイラスト書いてる時にヒナちゃんが来て……紙はヒナちゃんがくれたお札です」


「あ、ホントだ裏にそれっぽいのが、へたっぴな御朱印みたい……ていうかメモ代わりにしちゃ悪いでしょ?」


「へへへへへ」


「ヒヒヒ……」


「………………………」


「……………………………………」


「………………………………………………………………」


「……………………………………………………………………………………………………」


 案の定会話が無くなり、何となく気まずくなっていると、もじもじしながら凛が話題を変えてきた。


「あの……黒川さん………その、初めて私がヒナちゃんと会った日……覚えてます?」


「初めて会った日って……確か2回目の陽菜ちゃん宅訪問だから……実質スカウト成功したときか!正直、星畑の即興劇も合わせて、心臓止まりそうなことだらけで今でも夢に見るけど……」


「えへへへ……あ、あの……その日の朝……えっと、まみるさんって方とお話したの覚えてます?」


「ああ……あの巨漢ドラマーでしょ?覚えてるよ……今の今まで忘れてたけど…」


「そうですそうです! えと……あのですね……お仕事と言うか、この暮らしも一段落してきたので、そろそろ改めて顔合わせしようかと思ってるんです………」


「ああ………いいんでない?」


「………えっとぉ……その~………それでですね……お頼み申し上げたいことがあるんですけど」


「………俺にも顔合わせ付き合って欲しいってこと?」


「ひゃ、ひゃい!そうです!!……何で分かったんですか?エ、エスパーですか!?」


「大方、分かるよ……」


 苦笑しながら、そう返す。凛も卑屈に笑って、またも沈黙に包まれそうになるが、気まずくなる前に今度は黒川が仕掛ける。


「あのさ………初めて……撮影した日の夜にみんなでコーヒー飲んだの覚えてる?」


「忘れるわけがありません!!私のスウィート・19・ブルース・メモリーですよ!」


「何で安室奈美恵?………まあ、いいや……その時さぁ……姫月が来てよく聞き取れなかったけど」


「あ………あれは…えっと……あ、お借りしてた道満晴明の漫画面白かったって伝えようとして……」


「そうだったの!? てっきり………俺をバンドに誘おうとしてたんだと思ってたけど」


 言いながら顔が熱くなるのを感じる黒川。気まずくなり目の前にある塩皿をいじる。


「あ………すいませ……そ、そうです……ああの……え、へへ、ボーカルにヘッドハンティングをば……と、えへへへすいません……出過ぎた真似を……舞い上がってたんですあの時は…」


「い、いや!いいよ!………そう!その時の返事!できなくってゴメンって言うか……」


「お、お返事……あ、は、はい!!(ごくり)お、お願いしまう!」


「……あ、えっと、その~……正直、気持ちはありがたいけど、俺ボーカルはやめた方がいいと思う。声あれだし、今の時代録音できないバンドなんて素人でもやっていけないよ」


「……うう………そんな有象無象の下らない価値観はぶっ壊せばいいのに……」


「そういうわけにもいかないって!他のメンバーだって!嫌がると思うし!俺も正直、あの声でデビューとかやだし!」


「そ、そうですか………分かりました……そうですよね。黒川さんのお気持ちも考えず……」


「やめてやめて!!俺のキモチってんなら誘ってくれたこと自体で滅茶苦茶救われてるから!だから、その~……差し出がましいことだけどさ………ギターとかで良ければ……入れてくんないかな?…あんま腕前ないけど……」


「……………い、いいんですか?」


「まあ、他が良ければだけど………」


「だ、大丈夫です大丈夫です!まみるさんだって黒川さんのギターを認めてましたし!仮に文句なんていうモノなら………その時は私が………」


「…………乱暴なことはしないでね………大学も違うんだし……」


「あ………はい。えへへへ……黒川さんは仁大ですもんね!エリート校です!!」


「いや、全然…そんなことはないけど、この前なんか飲食店でトラブル起こしてる奴居たらしいし」


「でも、私の大学に比べたら……Fランのメッカって呼ばれてるんですから」


「あ(察し)」


「え、えへへへへへ……そうですよね。その反応になりますよね」


「………いや、犬塚大学でしょ?通称、犬大………まあ、アホって噂は聞くけど……学園祭が毎年やたら金掛かってるってもっぱら評判じゃん!」


「えへへへ………そうみたいですね……私もそれを目当てにしてたとこあったはずなんですけど、一回生の時は………人混みがきつくて5分で帰っちゃって……」


「ありゃ」


「それで今年こそはって………いっそオーディエンスじゃなくって、エンターテインナー側にと!ウフフフフ……てれててんててんててんててててれててんててんてん……えへへへ」


 言っているうちに照れてしまったのか、もじもじしながらスコット・ジョプリンの『ジ・エンターティナー』を口ずさむ。暗闇に2人きりという奇妙な空間も合わさって、先程から黒川には、彼女が魅力的に映って仕方がない。


「…………いよいよ部外者がいてもいいのかな?」


「いいんです!Fランの癖に我侭言わせません!」


「あははは………」


「でも、まみるさん以降、驚くほど、連絡がないんですよね。そういう意味でも黒川さんが乗っていただいて……ありがたいです」


「まあ、なかなかなあ………」


「最低でも………キーボードとベースは欲しいです………あ、あとボーカルも」


「凛ちゃんがやれば?ボーカル兼ギターみたいな」


「そ、そんなシンガーソングライターみたいな器用なことはできないですよ!音痴ですし」


「そっか……」


 そんな会話をしていると、突然倉庫のドアがガタガタっ!と揺れる。ビビり二人は大いに素っ頓狂な悲鳴を上げ、倉庫の奥に移動する。動いてはダメと言うお触れは完全に忘れている。


「………だ、誰?陽菜ちゃん?」


「ん?……何か……固定してあるな……何だこれ?お札?お~いご両人!大丈夫かい!?」


「あ……!天知さんです!」


 聞きなれた穏やかな声に凛の顔がパッと明るくなる。黒川も凛の弾んだ声に頷きながら、扉に駆け寄る。


「天知さん!どうしてここが?」


「須田さんが陽菜ちゃんに連れていかれたのを見てね。陽菜ちゃんが中々一階から出ようとしなかったから……来るのに時間がかかってしまったね」


「すいませんわざわざ……こっちからは何となく出てきづらくて………あれ?倉庫開かない」


「………それがね……何か紙が張り付けて合って固定してあるんだ。こっちからは開けられないんだけど……黒川くんはどう?開けられそう……」


「ええ………あの子そんなことまでしたんですか……倉庫壊れたらどうすんだ……」


 若干呆れながら、扉に力を込めようとすると脳内でUの声がする。


「開けるな」


「ええ………何で?」


「開けない方が面白いじゃないか。それに今出て言ったところを陽菜に見られて、どう説明する?あと1時間半ほど倉庫に籠ってた方が利口だと思うが」


「え……陽菜ちゃんまだ起きてるの?」


「ああ。熱心に調べごとをしている」


「………確かに面倒かもな」


「だろう」


「あの~……黒川さん?扉空けないんですか?」


「あ………うん。何かUが開けるなって……」


「え……あ!これも番組の一環だったんでしょうか!?」


「え~っと……うん。そうかも……」


 理由を説明するのも面倒で、かつ手前勝手な望みだが、凛にも一緒に倉庫に居て欲しいということもあり、仕事という事にした。あながち間違っているわけでもない。


「え~っと………そのままそこで待つってこと……だよね?大丈夫なの?」


 扉の奥で天知の心配そうな声がする。


「あ、はい。大丈夫です!すいません……わざわざ」


「僕は全然いいよ……風邪ひかないように気を付けてね」


 天知が去っていく。凛は別段ショックそうなリアクションもせず、代わりに大あくびをする。


「……う~……眠いです……」


「あそこにあるゆらゆら提督の残骸でも使って寝たら?」


「あ……何ともまあ、懐かしいものが……えへへへ……お元気でした?」


(廃棄物に元気も糞もあんのかな)


「あ………ダメです……蜘蛛の巣まみれ」


「だろうなあ……」


「………天知さんってこんな遅くまで夜更かしされるんですね」


「ん?……あ~……そう言えばそうだよな」(アニメのリアタイ視聴でもしてたのかな)


 モノがない倉庫の中は若干肌寒いが、凛と会話をしていると上手く気を紛らわせることができた。そうしているうちに朝日が昇り、ようやくフラフラの陽菜に出してもらえた。


「ん~………良かった……二人とも生きてた……」


「えへへへ……おはようございますヒナちゃん……学校大丈夫そうですか?」


「んう……やす……休むよ……がっこうなんて……二人が……危ないのに……zzzz」


「それはダメ!ほれ、後、3時間ちょっとは余裕あるから……寝て来なさい!」


「んう~……だめ~……おはら………zzzz」


「こんな小刻みに寝てるのに人の心配してる場合かい」


「うえへへ……見てください……ぎゅってしたらそのままカクンッて寝ちゃいますよ…超かわいい」


「あははは………子どもって罪がねえなぁ」


 何か引っかかるものを感じる黒川だが、凛の腕の中で覚醒とまどろみを繰り返す少女の愛らしさに全て忘れてしまう。



                       5


 

 その後、少しの睡眠を経て、若干いつもの調子を取り戻した陽菜が小学校に繰り出される。本人は尚も二人の為に休むと主張していたが、お祓い()が済むまで2人は外出しておくことを条件にようやく学校に行く気になってくれた。


 それでも、どうも居ても立っても居られないのは変らないらしく、学校につくなり、教室で男子たちと騒いでいる正人を引っ張り込む。


「お、おい!学校で喋りかけてくんなよ!」


「何で?」


「何でって……男子と女子はそういうもんなの!」


「フーン……まあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないから……」


「え?悪霊か?もしかして出たのか?」


「ううん。出てはないけど……ただ、既に霊障の被害者が出てたの……それも2人も」


「マジか………」


「即興でお祓いして……すごく楽になったって言ってたけど……これは悠長なこと言ってられないよ」


「でも、授業あんじゃん……どうすんだよ」


「……………サボっちゃう」


「おいおい……俺はいいけど……お前は優等生キャラだろうが……」


「悪いヒナだっています」


「お、おう……そうか……」


「………でも、今すぐ家に戻りたいけど……家には天知さんがいるし……」


「お前んちよく分かんねえ家族構成で大勢いるもんな」


「姫ちゃんと星ちゃんは多分、分かってくれるけど……天知さんはダメって言いそう……」


「あ、そう………」


「だから………そこを何とかしないと」


「上手いことその天知さんを追い出すってことか……」


「でも、まずは学校をさぼらなきゃだけど……」


「俺、昨日もサボっちまってるから、俺と一緒じゃ怪しまれるぜ」


「そうだね……じゃあ、私は仮病でお休みするから……正人君は学校に居といて」


「ええ!?このタイミングで仲間外れかよ!」


「取り合えず………私は先生に体調が悪いって言っておくから……」


「お、おお………」


 教室の前でコホンと咳をして、がらりと扉を開ける。教室には朝の会前の生徒たちが四方八方で騒いでいる。陽菜の友人Aが陽菜を見つけて駆け寄ってくる。


「ヒナちゃん!おはよ~!ねえ、昨日借りた本すっごい面白くてさ!一日で読んじゃった……まさかナニカが主人公自身だっただなんて……」


「あ………あみんちゃん……おはよ」


「ど、どうしたの?……何か滅茶苦茶顔色悪いけど……」


「ん………大丈夫………大丈夫だから……」


 と言いながらも、学友の顔は曇るばかり。明らかに弱々しい声、覇気のない目、そして真っ青な顔(寝不足)誰がどう見ても病人のそれである。周囲のクラスメートもざわざわと陽菜を心配しだす。


「大丈夫?」「ヒナちゃんがしんどそうなの珍しい」「保健室行った方がいいんじゃない?」


 そこからはもう、トントン拍子である。入って来た教師も、ただ事でない陽菜の様子から慌てて保健室に連れていく。


「………熱はないようだけど……すごく顔色が悪いわね?キチンと睡眠はとった?」


「………うん……」


「…………授業できそう?」


「…………分かんない」


「………無理そうですね……大丈夫ですよ。真面目な生徒なんで、多少遅れをとっても……大事を取って……親御さんに迎えに来てもらいましょう」


「あ………お母さんは……今、撮影の都合で東京だから……来れないと思う……」


「ええ?じゃあ、岩下さんはどうしてるの?お母さん日帰りってこと?」


「ううん。今は近くの知り合いのお家に泊めてもらってるの……」


「その人の電話番号分かる?」


「うん………ヒナが連絡したい……」


「いいけど………その後、私からも連絡するからね」


「うん」


 抜け目ないことに、陽菜が担任と保険医に伝えた番号は星畑のものである。しかも電話を掛ける主導権まで握ることができた。


「はい、もしもし…………星畑です」


「星ちゃん?わたし……ヒナ……」


「ん?どうしたんだよ?今学校だろ?そもそもどこからかけてんの?」


「………それが………ちょっと早退することになっちゃって……」


「ありゃ……夜更かしするからだぜ」


「ごめんなさい……お母さんは今家に居ないから……迎えに来て欲しいんだけど……天知さんいる?」


「天知さん?…………いねえよ?なんか朝から出かけてった……」


 やったと内心ガッツポーズをする陽菜。


「じゃあ、星ちゃんが迎えに来て……先生に変わるから……」


「え!?おいおい……何?」


 その後、教師からの電話を何とかアドリブで合わせて、保護者と言う体を貫いた星畑。こうして、陽菜はまんまと学校をさぼったのである。おまけに、校門で待っているふりをして、そそくさと帰り、途中の公衆電話で星畑に再度電話し、迎え不要の連絡と事情の説明まで済ませる。途中で神社に寄ろうと考えているのだ。


 幸運と、日頃の行いと、無責任なまでにルームメイトに寛容な星畑の協力もあって、転がるようにことが進む陽菜だが、ここで予期せぬアクシデントに見舞われる。何と、神社で不良集団がたむろしていたのだ。眼こそあったものの、別に小学生相手に絡むこともないと思っていたが、バツの悪いことにその不良のうち二人がつい昨日出会ったばかりの顔見知りだった。集団の中央にデンと居座る金髪に、コルトが耳打ちする。


「神庭くん………あのガキ………昨日言ってた正人のクラスのイキリですよ」


「ハーン………ただの女じゃん。こいつらに泣かされたってわけ?」


「……な、泣いてねえっすよ!」


「おい!ヒナちゃん!ヒナちゃんってんだろ!?パンツくれよ~!売っぱらうから!!」


 ぎゃはははと下劣な笑い声。当然、無視する陽菜だが、不良集団のダル絡みは止まらない。三段飛ばしで階段を降りてコルトが陽菜に詰め寄る。先日受けた雪辱を晴らそうというわけだ。


「おい!何無視してんだよ!なめてんのか!?」


「ヒッ……な、なめるって何?……変な言いがかりつけないで……」


「おい!やめとけ!年下の女子相手にあんまいきがんな!小物くせえぞ!」


「…………チッ」


 中央にいる金髪、神庭に止められ、舌打ちしながら引っ込むコルト。しかし神庭も別に陽菜を守ろうとしているわけではない。イヤらしい顔で陽菜を見据える。


「ねえ~………嬢ちゃん……ここにいるまぼ君とコルト君がさぁ……お嬢ちゃんのお姉ちゃんに暴力振るわれたって言ってんだけどさぁ……何か言いたいことある?」


「あれは……悪いのはそっちでしょ?それに、私、その時居なかったから詳しくは分かんないよ……」


「分からないじゃ困るよ~……じゃあ、お母さんとかお父さんとお話しなくちゃなあ……見てよホラ、コルト君は歯が折れちゃってんだよ?永久歯だよこれ?可哀そうに小6で歯抜け坊主だよ」


「…………それって今すぐ?」


「ん?ああ~……そうだねえそうなるねえ」


「そ、それは………困る………」


 無論、ここで恐れているのは不良ではなく、母親である。インチキで学校をさぼったことがバレては大変だ。


「じゃあさぁ………ちょっと俺らに協力しようか……ちょっと写真撮るだけでいいんだけど?」


「写真?そんなのでいいの?歯と関係あるの?」


「そりゃあ、お金がいるからねえ何をするにも……ロリコンどもから搾取したきたねえ金が……」


「まあ、写真くらいなら……昔、一杯撮ってたし……いいけど……」


「おお!話ができるいい子だねえ……じゃ、ちょっとこっち来て……」


 不良集団が、中でもまぼが、グフフと下品な含み笑いをする。陽菜は何となく不穏な雰囲気を察し、尻込みしたが、コルトと知らない不良に押され、境内の裏、人目のない場所に来てしまう。


「じゃ、ちょっと……そうだな……まぼちゃん?どういう写真がうけんの?」


「そうっすね……ンヒヒ……ランドセルはつけたままで……パンツズリ下すとか……」


「お前……すげえな……ちょっと引くわ……」


「え?そ、そんな写真はダメだよ?」


「何今更言ってんの?ホラ、脱いだ脱いだ」


「や、やだ……やめて!」


 嫌がる陽菜の腕を掴み、知らない不良が無理やり服を脱がそうとしてくる。たまらずカプリと腕に噛みつき、何とか逃れるが不良たちの怒りを買ってしまう。まぼがぬめりけのある手で陽菜の髪を掴む。


「いって!!このガキ!!」


「大人しくしろや!この馬鹿!」


「い、痛いよ!髪引っ張らないで!」


 危うし陽菜。その時、境内の屋根から巨大な石が降ってきて不良集団のすれすれに落下する。慌ててその場から離れ、上を見る。


「誰だコラぁ!」

「石なんて投げやがってボケ!」

「おおいうkがjkdkはjkdmひおsk!」


 口々に獣のような声を上げ、コルトに至ってはもはや人語ですらないが、声をかけた方角には誰もいない。そして気が付けば陽菜もいない。キョロキョロ見渡していると、どこかで鈍い音がする。鉄製のちりとりが、神庭の頭を打ったのである。


「ああ!神庭くん!」


 服が汚れることも構わずゴロゴロと転がる神庭を、パニックになりながら見つめている集団の中にひょっこり紛れている比較的背の高い人影が、今度はまぼをぶん殴る。


「ああ!ま、正人!!」


「お前ら…………寄ってたかってうちのクラスの女子相手に何やってんだ?」


「まあちゃん!違うって!お前んとこの女子ウザいって言ってたじゃん……だからちょっとわからせようと……」


「俺には変態写真撮って儲けようとしてるクズにしか見えなかったけど」


 荷物持ちまでやらせていた割に、コルト他は正人にえらく弱いようで、ちょっと待てのポージングのまま、後ずさりする。


「………コルトぉ!てめえ何四年坊主なんぞにビビってんだ!殺せ!さっさと!」


 つい先ほどまでテンプレートな痛がり方で地を這っていた神庭君が声を張り上げる。


「で、でも……こいつ……喧嘩に関してはマジで強いんですよ……加減と言うもんを知りません」


「アホか!喧嘩に加減も糞もあるか!プロレスじゃねえんだぞ!」


 気圧され、仕方なく知らない不良とコンビネーションを組むようにじりじり近づくコルトだが、対する正人は普通にずかずか距離を詰めてくる。慌てて取り合えずあたふたと手を振り回すが、避けるまでもなくいなされ、腹部にキツいパンチをお見舞いされる。


「ひひいいいいいいん!!!!」


 知らない不良が奇声と共に、正人にまとわりつく。かくして大乱闘が始まった。蹴る殴るというよりは引っ付く剥がすの大混戦。戦いは、陽菜が混ざりしっちゃかめっちゃかになったことと、先程殴られた頭部が出血していることに神庭君が気づいたことでお開きになった。不良集団が去って、泥まみれの正人を陽菜が心配そうに見つめる。


「…………大丈夫?」


「ん?ああ……別に何ともねえよ………神庭の奴……中坊の癖に一番骨がなかったな……」


「………何で助けに来てくれたの……」


「だって……二人で悪霊倒すって言ってただろ?あんなのに絡まれて時間食ってる場合じゃないだろ」


「学校は?」


「今更、無断欠席の一つや二つ何でもねえよ」


「…………そっか」


 そう言ってニコリとほほ笑む陽菜。照れて目を逸らす正人だが、今度の陽菜はしつこかった。泥まみれの手で泥まみれの腕をつかんでくる。


「…………助けてくれてありがとう」


「………も、元はと言えば俺のせいだし………」


「あ…膝小僧すりむいてるよ」


「ん?……あ、マジだ……やだなあんな奴らにダメージ負うの」


「ヒナ、ばんそーこー持ってる。貼るからジッとしてて………」


「お、おお………………」


 陽菜がランドセルからキズパワーパッドを取り出し、大きな擦り傷の上に貼り付ける。怪我の面積が広すぎて、滋賀県に対する琵琶湖ほどくらいしかリカバリーできていないが、ともかく治療完了である。陽菜が絆創膏のあとをジッと見つめる。


「な、何見てんだよ?グロイだろ?」


「このばんそーこー……傷に貼ったらぷくって膨らむの……それが見たい……」


「………お前って大概、変な奴だな」


「……………膨らんだ」


 そう言ってまたふんわりとほほ笑む。さっきからドキドキして仕方がなさそうな正人が、立ち上がり振り向くこともなく境内に走る。陽菜もその後を追う。


「なあ、ここに何の用だったんだよ……」


「そうだった……このノートにね………あれ?ノ、ノートどこだろ?……忘れちゃった……まあ、いっか本あるし……この本にね。神社にある湧水を使えばいいって書いてあったの」


「…………それでここに来たのか……ここは確かにそれっぽい小川があるもんな」


「うん。これでお祓いをする」


「………今更無責任だけどさ……ホントにできんの?」


「できると信じることが何より大切だって書いてあった」


「………なるほどな。良いこと言うじゃんその本」


「お祓いを済ませた後は、もう霊がいないと信じて疑わないことで自分に言い聞かせろって」


「……………ホントに大丈夫か?その本」


「じゃあ、行こ?天知さんが帰ってくる前に終わらせないと………」


「………悪霊より親の方にビビってるってってのも何か変だけどな……」



                

                      

                      

                    6



 そうしてシェアハウスに来た陽菜と正人。空気を読んで人払いをしたのか、家には事情を知っている星畑しか居なかった。しかし好都合である。どこか冷やかした目で見ている星畑を二階に追いやり、お祓いの儀式を始める。何だか大層に壁の前に紙を張り、先程汲んだ水を据え、熱心に拝んだ後、ぺこりと一礼する。


「………出て行ってください」


「そ、そんなもんでいいの?」


 思わずずっこける正人。


「見た目は大したことないけど……本ではこうしてたし。あとは私に霊能力があれば」


「それの有無って最重要事項じゃねえの!?」


「前々から私にはあると思ってるんだけど………」


「霊能力って……そんなフィーリングで得るもんじゃねえと思うけど」


 その時、部屋全体からけたたましい音で例の不気味なノイズが響く。動画とはまた比べ物にならない恐ろしい響きに思わず悲鳴を上げそうになる2人。


「うおわ!あ、あの音だ!しかもでけぇ!」


「わあああ!!……出て行ってください!出て行ってください!出て行って~……」


 陽菜の祈り虚しく、音は尚も勢いを増す。


「わあ………こ、これってもしかして怒ってる?」


「それ以外にねえだろ!! このインチキ霊能力者!」


「ううううう………で、出てけ!出てけ!出てってったら!」


 その時、二階からドタドタと星畑が降りてくる。明らかに尋常な様子じゃない。


「ほ、星ちゃん………忘れてた……だ、大丈夫?」


「……死ね……死ね………殺してやる……」


 血走った目で普段の星畑なら、まず言わないであろう不吉な言葉の羅列を並べる。


「うわ………こ、これ……この人に乗り移ってるんじゃねえの!?」


「う、嘘……………そんな……星ちゃん!星ちゃん!!」


「わ!馬鹿!行くなってアホ下!!殺されるぞ!」


「ヒ、ヒナのせいだ………ヒナがちゃんとしなかったから……星ちゃあん!!」


「死ねえ!殺してやる!許すまじ!野郎!ぶっ殺してやる!!」


「もう絶対正気じゃねえって!諦めろ!」


「やだぁ!星ちゃぁん!!」


「ちょ!暴れんなって!マジで!!……っあ!!」


 するりと正人の腕から出た陽菜が星畑のもとに駆け寄る。


「出てって!お願いだから!星ちゃんを!返して!」


 星畑の腹部を掴み、揺らすも、微動だにせず、大きな手が陽菜の頭を覆う。その間も、頭がどうかしそうな音は絶えず部屋中に響き渡っている。


「………お前の家族……友達……全員………呪ってやる」


「……………!!」


 星畑の声のまま聞かされたその言葉は、空間を支配している不気味な音などとは比べ物にならない程、恐ろしいものだった。陽菜は全身の力が抜けたようにぺたんとその場に座り込み。ついには弱々しく泣き出してしまう。


「ううううう~~~……ごめんなさい~~……ちゃ、ちゃんとホントの霊能力の人……連れてくるからもうヒナがやったりしないから~……ゆるしてぇ……みんなにひどいことしないでぇ」


「いや……泣いてもダメだろ!?そいつ話が通じないタイプだって逃げ……」


 正人が、ひんひん泣きじゃくる陽菜の手を取ったタイミングで突然、今までの不気味な音が、軽快なラッパの音に変わる。耳を塞いで、呆然とする陽菜と正人。すると徐々に馬鹿に陽気な音が消え、二階から黒川らお馴染みのメンバーがぞろぞろ降りてくる。


「え…………え………お兄ちゃん……凛ちゃん……エミちゃんも……なんで?」


「うっわ……そういうことかよクソっ」


 尚も呆然とする陽菜とは別に、色々と勘付いた正人がうなだれる。


「…………ちょっとやりすぎたかな?」


「そうっすね……主に星畑が………」


「うう………心が痛むなぁ……ごめんなさい……ヒナちゃん……」


 気まずそうにする天知、黒川、凛とは正反対に、姫月はゲラゲラ笑っている。他人の慌てふためくさまが大好物なのだ。


「アハハハ!!………何?アンタ?本気で悪霊なんかがいたと思ってたの!?」


「……………え?だって星ちゃんが………あれ?」


「アホ!いい加減気づけよアホ下。ドッキリだよドッキリ!俺らお前の家族に担がれたんだ」


 正人の言う通り、星畑はすっかりいつもの能天気な顔で、黒川に何やら言い訳している。


「え………え?だって………星ちゃんにはさっき……電話……」


「そうだな………霊を祓うために学校サボったって聞いた時はビビったぜ」


「おい!何、身内にゲロってんだよ!アホ下!」


「………星ちゃんはそういうの信じてくれるし協力してくれると思ったから……」


「悪いな……俺もつまらない大人の一人なんだよ……良心が痛むぜ」


「………天知さんたちは?」


「いや、星畑くんが電話をしてた時、実は陽菜ちゃん以外、みんな家に居たんだよ。それで、事情を知ってた黒川くんが訳を教えてくれて……」


「………お兄ちゃんに凛ちゃん……外に居てって言ったのに」


「あははは………ごめんね」


「ご、ごめんなさい……わ、私は一応庭でモヒロ―さんのお世話をしていたんですけど」


「んで………流石にずる休みを了承するわけにもいかないし……でも学校の先生とかに陽菜が嘘ついてるって言うのも何か気が引けるしで……それならちょっとイタズラして反省してもらおうかな~って」


「い、いや!確かに岩下は学校サボりましたけど……この家にマジの悪霊がいるのはマジなんですって!」


「……霊を玩具にしたら祟られちゃうよ!?」


 ちびっこたちが声を張り上げて大人たちに抗議する。姫月が腹を抱えて笑う。


「アハハハハ!!も、もうやめて!もう……アハハハハ!」


「わ、笑い事じゃないんだよ!………さっきのラップ音……あの音もホントに……私たちが来る前から……あ、あ、あれ?」


 反論しているうちにこんがらがった陽菜が首をかしげる。自分たちが越してくる前に聞こえてきていたという、あの恐ろしい音を何故、黒川たちが知っていて、あまつさえ使いこなしているのだろう。


「ラップ音ってこれ?」


 黒川がスマホをタップすると再び、一回と二階にある黒川のオーディオが例の恐ろしい音を出す。


「えええ………な、何で!!」


「こ、これ!?岩下のお兄さんが来る前にこの家で聞いたんですよ?何で普通にスマホに入れてるんですか……」


「どっから説明すればいいと思う?」


「うえ!?……ええっと……さ、さぁ?」


 苦笑しながら、黒川が凛を見る。凛はバツが悪そうに顔を背ける。


「凛ちゃん?」


「え?凛さんの何ですか?この気色悪い音」


「ちょ!し、失礼なこと言わないでください!!」


 正人の発言を慌てて嗜める凛。


「こ、これは……そ、その………黒川さんの歌声………何です………」


「あ………」


「へ?こ、これが歌?」


「……うう~……なんて無礼なことを……ラ、ラップ音って……いくらヒナちゃんでも失礼ですよ!」


「ご、ごめんなさい……で、でも………何でそれが壁から?」


「…………凛ちゃんが話すと色々めんどくさいから俺が説明するけど……凛ちゃんの前の家って……ここの近くなんだよ………それで……この公園の廃墟……つまりこの屋敷だけど……この陰でギターの練習してたんだと……そん時に俺の動画を流してたらしくて………」


「…………殺してやるって言うのは…………」


「うううう……わ、私が作ったオリジナルソングの歌詞です………」


「ええ……許さないとか死ねとか言ってましたけど……」


「そ、そういう芸術もあるんです!!」


「どの口が言ってんのよ」


「え、でも……正人君の友達は……大怪我したんだよ?」


「長い人生……そんなこともあるだろ」


「………二人とも体がおかしいって」


「それはホントにゴメン!俺のは嘘だし、凛ちゃんのはちゃんと医学的な理由があったの……」


「………嘘ついたの?」


「ご、ごめんなさい……」


「す、すっごく心配したんだから!お兄ちゃんのば、ばかぁ!」


「あああ~ああ~あ~………ごめんごめん……ホントごめん」


 目に涙をためて陽菜が飛びつき、ポカポカと拳で訴える。パンチは全く痛くないが、心は大いに痛む。


「ほ、星ちゃんも……あんな怖いこと言わないでよぉ!す、すっごく怖かったんだから!」


 黒川の横にいる星畑にも物申す陽菜だが、星畑の代わりに淡々とした女性の声が帰ってくる。


「私がお願いしたんですよ。思いっきり怖がらせて反省させてくださいと」


 いつの間にか大地が陽菜の後ろに立っていた。いつもと同じ無表情だが、ただならぬ圧を感じる。


「お、お母さん………」


「そもそも、嘘つきさんが人の嘘を咎める権利はありませんよ」


「あ……あ………お、お祓い……えっと……」


「ヒナさん。私との約束を破りましたね?皆さんに迷惑を掛けましたね?学校の方々に要らぬ心配をかけましたね?」


「ああう………」


「先生から連絡がありましたよ。ヒナさんが辛そうだからできるだけ早く帰ってあげて欲しいと」


「…………」


「不思議ですねえ。私はずっと家に居たんですけど。一体先生方はどこに私がいると思ってたのでしょう?」


「ご、ごめんなさい……」


「どうして嘘をついたんですか?」


「だって……幽霊って言っても休ませてもらえないし」


「そうですね。では仮に幽霊さんが猛威を振るって黒川さんらが命の危機になったとして、ヒナさんには何ができるのでしょうか?」


「…………う……」


「ヒナさんが無力だとは言いませんが、もっとやりようがあったと思いますけど」


「す、すいません………お、俺が……岩下の奴をその気にさせちゃったんです……勘違いの音を幽霊って言ったのは俺だし……」


「それを聞いて舞い上がったヒナさんが誰にも言わないで私が解決するからとでも言ったのでしょう?」


「あ、はい……それは、まあ、その通りです」


「だったらヒナさんに非がありますね。私だってあの音を聞いたら怖がるのは間違いないですし」


「あ、はい」


「夜更かししてはいけないと言いましたが、ヒナさんは何時に眠りましたか?」


「…………朝の5時」


「ヒナさんが早退されるとき、先生方が私に連絡しなかったのは何故ですか?」


「…………私が東京に行ったって言ったからです」


「…………どうして泥だらけなのですか?」


「………男子と喧嘩したからです」


「あ、ケンカって言っても……昨日の奴らが向こうから吹っ掛けてきたんですよ!?」


「………そのお話はあとで詳しく聞きますね。まずはヒナさん?星畑さんが幽霊につかれているのを見てどう思いましたか?」


「こ、怖かった……です」


「少しやりすぎましたね?星畑さんは本当に私に言われてやっただけなので、責めたりしないでくださいね?」


「………そんなこと……しないよ」


「…………幽霊さんがいなくって残念ですか?」


 ふるふると首を振る陽菜。目からポロリと涙が零れる。大地の声色は気が付けば責めるような調子から、寄り添うような優しい雰囲気に変わっている。


「皆さんのことが心配だったんですか?」


「うん………さいしょは……ちょ、ちょっとだけ……わくわくしてたけど……でも、おにいちゃんに…凛ちゃんが…た、倒れて……って聞いて……すごく……こ、怖くなって……私、うそ、嘘ついちゃった。友達に……せんせぇに……」


 ポロポロ涙をこぼしながら告白する陽菜を、迎えるように抱きしめる大地。背中をさすりながら尚も優しい声色で続ける。


「そうですね。黒川さんはお化けを信じていないんです。だから少し、信じてるヒナさんがおかしく映ってしまったんですね。だから、からかってしまったんですね」


「ほ、ホントにごめんなさい…………」


 黒川が懺悔する。縁起でもないホラを吹いて陽菜を弄んだのは、悪気がないとはいえ大罪である。


「お母さん。ヒナさんが嘘をついて学校を休んだって聞いた時、すごく怒って。もう、連休以外、ここでお泊りすることをやめさせるつもりだったんです」


「……………………」


「でも、それを黒川さんが止めてくれたんです。昨日の夜、黒川さんたちのために、ヒナさんが頑張ってる姿を見て、遊びでやってるんじゃないって。本気で心配してるからって。だからこれは悪い嘘なんかじゃなくって、大事な人を守るために一生懸命演技したんだって。私が頭に血がのぼって忘れてしまっていたヒナさんの心優しさを思い出させてくれたんです」


「うん」


「……幽霊に関しては、少し対応に困ってしまいますが、これから何かやりたいことがあったり、不安になったら、私たちに相談してくださいね。真剣なヒナさんを笑って馬鹿にする人なんてここにはいませんから」


「うん………うん……ごめんなさい……ごめんなさい……」




                     7



 しばらくして泣き止んだ陽菜に、改めて、昨日ついたくだらない嘘について謝罪する黒川。当然、陽菜は許してくれたが、何となく陽菜を都合のいい子どもとして見過ぎていた節があったと反省する。丁度、星畑が、からかったり遊び相手になったりする一方で、「アイツ学校で仮病使ったって」とすぐさま保護者に報告するメリハリを見せたのもあって、軽く落ち込む。その脳内でUの声がする。


「そう落ち込むな。お前のからかいのおかげで何倍も絵になるモノが撮れたんだ。ただのしょうもない勘違いが大した大作になってくれたものだ」


「……そうかな……」


「そうだとも。それにしても、よくここで昔、殺人事件があったことを知っていたな」


「え?……あれ……口から出まかせのつもりだったんだけど……」


「何だそうなのか?……ここは昔、強盗殺人があったんだぞ?だから想定より安く買えたんだ」


 その瞬間、何だか背筋に冷たいものが走る黒川。今までの体験が何となく意味深なものに思えてくる。


「黒川くん。顔色悪いよ?風邪でも引いたの?昨日は一睡もしていないんだし、無理はしない方が…」


「あ、天知さん……いや、大丈夫です。そういえばすいませんでした。昨日はせっかく来てくれたのに追い返すような真似をしてしまって………」


「うん?………昨日何かあったっけ?」


「ほら、倉庫の中にいたときですよ」


「須田さんと二人でいたんだろう?僕はそんな時間には起きてすらいないけど………」


「……………………………………か、からかってるんですか?」


「いや本当に……星畑くんが僕のマネしてたとか?」


「ええ………いやでもあの声は」


「須田さんもいたんだろ?確認してみたら?」


 サァーっと血の気が引く音がする。昨日の天知の声を思い出すついでに、昨日感じた違和感にまで気づいてしまったのである。天知が力を込めて開くことができない扉を、寝起きでフニャフニャだった陽菜はすんなり開けていた。というより、自分も扉を見たが、例のお札は扉の中央に貼られているだけで開閉を妨げるようには貼られていなかった。「知ってる人の声がしても開けてはダメ」という陽菜のセリフが突然、フラッシュバックし、リアルに総毛だつ。漫画なら白髪になっていてもおかしくない。


「……………いやいいです。ここに居てくれなくなっちゃうので……」


 とりあえず陽の光を浴びたくなり、外に出ることにする黒川。仮に幽霊がいるとしてもいないと信じることが何より大切だと、結局、姫月の手に渡ってしまった陽菜のノートに書いてあったではないか。外では、凛がモヒロ―に餌をやっている。


「………悪霊はいたんですね………」


「え!?な、なんで……そう思うの?」


 先程の会話を聞かれていたのかと、慌てる黒川。黒川の質問を無視して、凛が続ける。


「子どもの……純粋な気持ちを理解できない……私は立派な悪霊につかれています……『つまらない大人』という悪霊に……」


「あ………そういう……」


 陽菜の涙を見て、何かしらの感性に響いたのか。何かとんでもなくこっぱずかしいことを、よりにもよってカメと好きなアーティストに聞かせる凛。


「塩水頭からぶっかけてもらった方がいいんじゃないの?アンタ」


「うぇえあ!!エ、エミ様!いらっしゃったんですか!?」


「………アンタの妄言は笑えないわね」


「エミちゃんさん。凛さんをイジメるのはおやめなさい。この子はまだまだ子どもなんですから」


 相変わらず、気が付けば背後に立っている大地が、真っ赤になった凛を庇う。


「そいつさっき大人の悪霊がうんぬん言ってたじゃない」


「知らないのですか?これは中二病というものです。むしろ子どもの証なんですよ?」


「うううう……中二病は流石に卒業済みですよ……私リアルにそれの元患ですから、あんまりその手の話題は勘弁してほしいんですけど……」


「本人は卒業してるって言ってるけど?」


「知らないのですか?これは反抗期というものです。むしろ子どもの証なんですよ?」


「………岩下家の奴らと話してると調子狂うから嫌だわ」


「そ、そう言えば……ヒナちゃんはどこに行ったんですか?正人君も……」


「お二人は学校に戻られましたよ。先生とご友人方にキチンと本当のことを言って謝りたいみたいです。正人さんはあまり気が気じゃないようですが、今回はヒナさんに付き合ってくださいました」


「そっか……えらいな陽菜ちゃん………しまった、まだマイク入れっぱなしだわ」


「……そういや。やっぱあの正人とかいうガキはヒナに惚れてるっぽいけど。親として不良の彼氏はどうなの?」


「……今回ヒナさんに性犯罪を吹っ掛け、結果的に私の本気の怒りを買ったコルトさんたちなら認めないでしょうが、あの子はきっと、大丈夫ですよ」


「………ほ、本気の怒り?」


「はい。もう許しません。しかるべき応対は先程済ませたので、あとは向こうの学校や保護者に任せます」


「ふ~ん……まあ、ゲボ牛よりはマシでしょうけど……」


「……ヒナさんの恋愛事情にまで関心を示すとは、本当に私から天知さんを奪い、ヒナさんの母親にでもなるつもりですか?」


「どうなってそうなるのよ!?……そもそも、仮に天知を奪ってもヒナの母親にはなれないでしょうが!!」


「えへへっへへっへ……で、でも……本当にヒナちゃんに興味津々ですねえエミ様……てえてえ」


「てえてえとは何ですか?スマホでピッとするアレですか?」


「えっと……尊いってことです……な、何で俺に聞くんです?」


「さっきもエミちゃんさんとヒナさんの間柄をそう言ってしましたね……して尊いとは?」


「ええっと~……絡みって言うか……その二人が仲睦まじくって見てて嬉しいっていうか、微笑ましいというか……」


「凛さん。天知さんと私の方がてえてえですよ。てえてえ」


「え?えええっと………そ、そうですね……フへ、フへへへ」


「………だから何で天知を混ぜんのよ」



                      8



 その日の午後、正人と陽菜は小学校につくなり、教師たちから詰め寄られ、散々質問攻めにあった。勿論、ずる休みしようとしたことは叱られたが、それ以上に心配の声や、励ましの言葉が多かった。コルトやまぼとの騒動が知れ渡り、大事になっていたのである。結局、戻っても授業を受けることはできなかったが、正人はいよいよを持って例の不良連中との縁切りを済ませることができた。面倒な問答や、コルトやまぼたちからの気のない謝罪を終え、ようやく解放された2人はボケっと花壇の隅にある階段に腰掛けた。女子と座っておしゃべりなんて、いつもならできっこない正人だが、授業中で自分たち以外は誰も周囲にいないからか、流石に恥ずかしがるようなシチュエーションじゃないからか、何気にすることなく話しかける。


「………アイツらは停学ですむらしいけど……率いてた神庭はちょっと大事になりそうだな。今回だけじゃなかったんだろうな」


「………そうなんだ」


「まあ、でも、もう俺らには関係ないことだけどな」


「仲良かったんじゃないの?」


「いや……つるんでたのは同じ団地だから……神庭は俺の棟でリーダー格だったんだよ。それでそこに住む俺とかはいいようにこき使われてたの。中学生なら中学生同士で遊べってんだよな……」


「フーン……男子も大変なんだね」


「大変って言うか……ウチの団地が何かおかしいんだよ。下らねえ組分けみたいなのもあるし。ヤクザの真似事してんだな。今思うと」


「…………そっちの家の方が危ないじゃん」


「だはははははは!!それはそうだな!」

「でもまあ、今回でいい加減目ぇ覚めただろ?コルトとかも……あんなのと一緒にいる必要はねえし、マジでヤクザじゃねえんだから、一緒に居なけりゃヤバいわけでもない!」


「良かった……私のせいで友達失くしたんじゃないかって思ってたんだ」


「アイツらはもともとつるまなきゃダメな間柄だっただけでダチじゃねえよ!もっと仲いい奴はわんさかいるわ!」


「そっか……よかった」


「俺の家よりもさ!お前の家の方が気になるんだけど……あの人らとどういう関係なんだよ?ノリ的にあの、お前に説教してた女の人は母ちゃんだよな?」


「うん。お母さん。詳しくは言えないけど、私、ちょっと変わったお仕事してて、それのチームでシェアハウス借りてるんだ。他の人たちはそれのメンバーなの」


「へええ~……なんか知らんけど凄そうな話だな……」


「そうだよ。みんな凄いんだ」


「あの……おっかねえ人いるじゃん……コルトぶん殴った……あの人は?」


「エミちゃん……確かに怒りっぽいしひどいことも言うけど、でもカッコよくって優しいの。私の話、一番興味なさそうに聞いてるのに……一番よく覚えててくれるんだ」


「へええ~意外だな……あの、何か悪霊に憑かれる演技してた人は?」


「………星ちゃん。いっつも変なことばっかり言って一緒に居て楽しい。あと…すごいカッコイイ」


「……お前もイケメンに見惚れたりするんだな……え?あの一人おじさんいたじゃん?あれは?」


「天知さん。昔だからあんまり覚えてないけど私の命の恩人なんだって。あと、凄い優しい」


「でも、お前ビビってたじゃん。確かにキレたらおっかなそうな雰囲気あるけど」


「怒ってるとこ見た事無いから分かんないけど、天知さんを困らせたりしたら、お母さんに死ぬほど怒られるから……」


「なんで?……まあ、いいけど……じゃあ、凛さんは?あの人一番優しそうだけど」


「凛ちゃんはすっごい優しいけど……それ以上にすっごくカワイイ。私のこと世界一可愛いってよく褒めてくれるけど……私は凛ちゃんが世界一可愛いと思う」


「…………あの人、散々ひどい目に合わされてたのに俺らのことエミさんから、かばってくれたからな。マジ死ぬほど良い人だぜ」


「フフフ……そうでしょ?」


「あれ?そういや、お前ひとりお兄ちゃんって呼んでる人いなかったっけ?あの人も他人なの?」


「あ……うん。お兄ちゃんは私が勝手に呼んでるだけ……私はお姉ちゃんしかいないよ。何でも知ってて。すごく頑張って色んなこと何とかしてくれちゃうすごいお兄ちゃん。私もよく分からないんだけど本当は歌も凄く上手なんだよ?」


「そう!それ!流してたけど……あれが歌声ってどういうことだよ!?ああはならねえだろ!?」


「何か……カメラで撮ったらああなるんだって……上手なのはホントだよ?ヒナ聞いたことあるもん」


「ふ~ん……何か凄いって言うより、変な集まりだな。お前の家の連中………死ねとか殺すって歌詞にするのもよく分からないし……お前も変人だからお似合いだよ」


「凛ちゃんたちを悪く言わないでったら……」


 分かったような分からないような調子で言う正人に、陽菜がじろりと睨んで言う。ただし、今回はすぐに、顔を緩ませ笑顔を咲かせる。その笑顔は、転校時に見せたものに比べ、些か固いものだったが、あの時、唯一打ち抜かれていなかった正人のハートは、あまりにも容易く撃ち落とされてしまうのだった。
























 













 









































































 






 


 

今のうちに言っておきますが、次回は陽菜ちゃんをメンバーに加えた回以来となる、3話構成の長丁場ストーリーとなるはずです。ひょっとすると3部構成なだけで文字数なんかは今回の方が長かったりするかもしれませんが、取り合えず3分割します。大した理由ではないですが、こうなるに至った目論見のようなものは一応ありまして。ずばり、5回目の放送ごとに大尺で話を作ろうと思ってるんです。はい。

 わざわざ数えてらんないんでしょうが、初放送の「ノンシュガーズの(略)」回から今回の「お前らは(略)」で4回目になるわけです。5回の節目にでかい話をする。果たしてこんなまとまりのない作風でそんな定期的な構成ができるのでしょうか?生暖かい目でこうご期待しておいてください。

それでは次回またお会いできることを心からお待ちしております。

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