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中入ー①「カレーが冷めないうちに編」

 こんにちは。このお話は本編とは関係ないちょっとしたおまけのようなものなので、読まなくても一切問題はありません。本編中は基本的に黒川視点で話を進めるほか、キャラクターの心中も原則、黒川しか明確にさせていないのですが、これはまあ、番外編ということで他のキャラクターに焦点を当ててみています。一応、シェアハウスになって黒川なしでも会話が聞けるという事で可能になったという体にしていますが、あくまでおまけの為、難しいことや設定と照らし合わせて読んでもらう必要はありません。あと、登場人物紹介やあとがきも勝手ですが省略させていただきます。今後、一章が終わるごとに一本上げる予定です。こちらもノープランの為、長さはまちまちですが、基本短めで行こうと思います。今回もとても短いです。

1



 牛スジはくどくない程、玉ねぎはスープをでろでろにさせる程、鍋に突っ込んで、隠し味に小さなチョコレートとコーヒーパウダーをまぶして玉ねぎが箸で掴めないくらいまで煮込んでしまえば、星畑特性カレーの完成だ。冷蔵庫の中には6個の湯向きされたトマトがバッチリ冷やされている。適当に揃えた新品の食器も準備万端。後はインテリアだか家具だかを買いに行っている女性陣とプラスアルファが帰って来さえすれば、いつでも晩餐会が開けるのだが……。


「帰ってこねえっスね………もう帰るって返信はあったんですけど…………」


 カレー鍋とスマホと壁にかかった時計を交互に見ながら、先程まで玉ねぎを微塵切りにするのに付き合ってくれて、今はリビングでテレビを見ている天知に声をかける。


「そうだねえ………何かトラブルでもあったのかな?……せっかく出来立てなのにね」


「いやぁ……カレーくらい温めなおせばいいんすけど………何か揉め事起こしてそうじゃないですか?」


「まあ……ねえ……」


「…………どう思います? 陽菜と姫月。上手くやれると思いますか?」


「大丈夫だよ。姫ちゃんは子どもっぽくて我侭なところもあるけど、意外に大人だし……陽菜ちゃんは大人っぽくてしっかりしてるけど……年相応に子どもだしで、意外に気が合うんじゃないかな」


「…………ほ~ん………まあ、黒川もいるし大丈夫か」


「黒川くんは人当たりがいいからね。須田さんもだけど……」


「人当たりって言うか………アイツはね、出逢ったやつから一秒でなめられるんすよ。俺自身なめられるに値する奴だと思う時もあるし、逆にすげえ可能性を秘めてるって思う時もあるんですけど、取り合えずまず第一印象は軽く見られますね。あそこまで行けば才能ですわ!」


「軽くみられるってことか……」


「まあね。あいつといると緊張とか、気配りとか全くしないんですよ。不思議なほど!後輩とか、店員とかでもそうですし……だから、多少ピリついてる空気でもアイツがいればどうにかなるってことが多いんですわ」


「一緒にいて楽ってことか……確かにそういう不思議な空気感はあるよね」


「中途半端に真面目で、中途半端に気配りができて、中途半端に性悪で、んで、俗世間に疎いふりしてるけど、あれで結構目立ちたがりっつうか、承認欲求マシマシですからね。そこがアイツの面白いところっていうか、一緒にいても退屈しない所ですよね」


「………そう言えば、2人はどういうきっかけでつるむようになったんだい?同じ高校だって言うのは聞いてるけど」


「確か…………二年ん時に同じクラスなって……何か春先に言った親睦会みたいなんで同じ班なったんですよ。BBQやったんですけど……あ!班はそん時強制的に適当に決まったんですけど」


「うん」


「で、食材を買うことになったんすけど……俺がね、まあ、ギャグで……炙り寿司作ろうってパックの寿司買ったんですよ」


「クク……意外に盛り上がるかもね」


「それがねぇ!ギャグだってんのに、どいつもこいつも初顔合わせで遠慮してんのか、ツッコミどころか拒否もしてくれねえんすよ」


「ああ~………まあ、そうなるよね」


「で!俺も引っ込みがつかねえからマジで買っちゃって………流石にコンロ汚しちゃ悪いと思って隅でひっそりやろうと思いまして!!」


「………ホントに炙ったんだ」


「いや~………炙れませんて……結局、シャリは燃料みてえにポロポロ炭の中に落ちていくし、サーモンは焦げるしで………おまけに女子なんかは『失敗しちゃって残念だったね』『炙り寿司食べたかった』なんて慰めてくるわけですよ!」


「ホントに失敗したのは炙り寿司なんかじゃないんだけどね」


「そうっすよ!そしたらね……今まで適当に肉焼いたり相槌打ったりしてた黒川が急に『スーツのまま日焼けサロンに入る若社長も同じことしそうだな』とか抜かしてくるんすよ!!」


「ハハハハハ……随分、今更なツッコミだね」


「俺も言いましたよ。もっと早くツッコんでくれねえから俺は社長になったんだって!」


「そしたらなんて?」


「気を悪くしたら不味いと思ったからって……まあ、理由は普通ですよ。でもね、俺には何言ってもいいから遠慮なくツッコんでくれって言ったら……アイツ急にね………」


「ツッコミまくるようになったのかな?」


「そうですよ!しかも……俺以外の奴の一挙手一投足にまでやらっしい目線でコソコソ俺に言ってくるんですよ!ツッコミを!!」


「フフフ……なんかわかる気がするなあ……」


「それがねぇ……何か…ライブ感なのかな?一々面白くって……そんでつるむようになりましたね」


「ちなみにどんなツッコミを?」


「似合ってねえのにめっちゃ髪セットしてる奴のヘアースタイルを……」


『髪の毛入り組み過ぎて、上級者向けのスキーのコースみたいになってんな……』


「肉をスポンジとでも思ってんのかってくらいタレに漬けて食う奴に……」


『俺が牛なら……アイツが血の池地獄に落ちるよう閻魔に頼むな……』


「肉全部焦がした奴に対して『かわいい~』って言った女子に……」


『自分の背中刺してきた奴にも同じこと言いそう……』


「…………って感じですかね」


「フフフ……本当にやらしいね」


「そうっすよ!だからね……アイツの歌に対する辛辣なコメント!あれは普段のしっぺ返しですわ!」


「だったら………今はきっと忙しいんじゃないかな?みんなツッコミどころ満載だろうし…」


「あいつもやらしいこと自覚してかあんま言わなくなりましたけど、きっと心の中ではね」


「…………陽菜ちゃんと姫ちゃんよりも…僕はむしろ須田さんと黒川くんの方が気になるな」


「ンフフフフフ………俺の生涯で唯一黒川に緊張した人間ですからね!」


 その数秒後、タイムリーな男女が帰ってくる。ギリギリカレーをあっためなおす必要はないタイミングで帰って来た。星畑と天知は、立ち上がって夕飯の準備を始める。


「遅くなってすいません!ただいま戻りました!!………わ!いいにおい!」


「ただいま~。この匂いは……カレー作ってくれたの?」


「うん。星畑くんがね。たくさん作ってくれたから、おかわりもあるよ」


(天知さん……それは………いや、偶然か。こんなネットネタ知ってるわけねえもんな)


「何これ?カレーのお供にアイス食べるっての?」


「アイスじゃねえよ。トマトだトマト!」


「うぇ………と、トマトですか?」


「おう……湯向きした奴……ひょっとして食えねえとか?」


「い、いえ!そんなことは…うぇ、うぇへへへ……き、生娘の生肝みたいで食欲をそそりますねえ…」


(心配りしたはずが、かえって失礼なこと言ってるぜ………)


「…………それだとアンタ、共食いってことになるわよ」


(………こんな下らねえツッコミで凛ちゃんの処女が割れてしまうとは夢にも思わなかったな)


「………おかわりはいいよ。私そんなに食いしん坊じゃないもん。あ!ごはんもうちょっと入れて!」


(なけなしの乙女心が欲望に容易く屈したな)


「星畑くん。星畑くん」


「はい? なんスか天知さん?」


「何回だと思う?」


「! あ~………そうっすねえ……4回くらいじゃねえかなぁ………」


「フフフ……多いね。僕は2回ほどだと思ってたけど」


「いや!アイツは絶対。これでも多少減らした方ですよ」


「2人して何の話してるんだよ?」


「べっつにぃ……何でもねえよ。ホレ、お前の分」


「何だよ。気になるな……おい!何で白飯の配置が縁ぎりぎりのOの字なんだよ!!嫌がおうにも連想しちまうだろうが!」


「ンフフフフフ………これだけでそこまで考えるのはお前かスカ〇ロマニアくらいだぜ……」


「俺にそんな過激な性癖ねえよ!」


 およそ食事前には相応しくないやり取りをして、黒川が席に着く。最後に自分の分をよそっている星畑に天知が近づく。


「………2回プラスか……それにしても本当に星畑くんにはしっかりツッコむんだね」


「ンフフ……互いに程よく舐め合ってるのが程よい友好の証ですぜ」


 そう言って笑う星畑をカレーの湯気越しに怪訝な顔で窺う黒川。会話の内容は掴めずとも、旧友が何か自分のきわどい話をしていることは察しているようである。そして、察する中で相も変わらず黒川の心中では慌ただしく、あれやこれやと言葉が浮かんでは消えを繰り返しているのであった。











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