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その②「好きな食べ物と特技は『君』と書きたいコト」

・登場人物紹介

黒川響くろかわ ひびき 性別:男 年齢:20歳 誕生日:6/25 職業:大学生

本作の主人公。抜群の歌唱力を持つが、機械を通した瞬間に不協和音に早変わりする不幸な歌い手。歌手としての道はすっかり諦めているものの、集ったメンバーたちとの心躍る日々を守る為、宇宙人のカメラ役をこなす。本人にいまいち自覚はないが、一応リーダー。

☆現代文の授業中、全く関係ない教科書末部の小説を読んでいるタイプ。


星畑恒輝ほしはた こうき 性別:男 年齢:21歳 誕生日:4/4 職業:お笑い芸人

黒川の高校からの友達。高卒でお笑い芸人の道を選びめでたく地下芸人へ。見る人が見れば割と悲惨な生活を送っているが、本人は至って楽しげ。ルックスがよく、よく気が利く上に、根明のためよくモテそうなものだが、とにかく絡みにくい本人の性格が仇になり全くモテない。

☆英語の授業中、発音が良くてALTの先生に気に入られるタイプ


須田凛すだ りん 性別:女 年齢:19歳 誕生日:5/25 職業:大学生

男受けしそうな見た目と性格を併せ持った少女。黒川の歌(動画越し)に感動し、星畑のライブを出待ちし、姫月に憧れながら、天知に焦がれるちょっと変わった趣向を持つ。派手なファッションとは裏腹に人見知りで気が弱いが、推しの事となると見境が無くなり暴走気味になる。

☆生物の授業中、ホルマリン漬けされた動物たちにやたらテンション上げるタイプ。


姫月恵美子ひめづき えみこ 性別:女 年齢:20歳 誕生日:10/3 職業:無職

スラリとしてスレンダーな見た目に長い足、艶の良い黒髪とまさに絶世の美女。性格は非常に難があるが、悪いというより思ったことをすぐ口に出すタイプ。一言で言うなら唯我独尊。自信たっぷりで自分大好き人間だが、イケメンも好き。ただしどんなイケメンよりも自分の方が好き。

☆体育の授業中、特に何もしてないのに雰囲気だけでできる奴感出せてるタイプ


天知九あまち きゅう 性別:男 年齢:42歳 誕生日:3/3 職業:無職

元、スーツアクター兼スタントマン。家を追い出され新たな仲間たちに重宝されながらスローライフを送るおっさん。高身長で、物腰柔らかく、頼りになり、清潔感も教養も併せ持つまさに理想の紳士。黒川への恩義だけで入ったが、正直42歳がやっていけるのか不安でしょうがない。

☆世界史の授業中、特に必要のない人物までフルネームで答えるタイプ


岩下陽菜いわした ひな 性別:女 年齢:9歳 誕生日:3/20 職業:小学生

女優一家の次女で子役。年齢を感じさせない演技とその可愛らしさから天才子役と称されていたが、家族や友人と遊ぶことを優先する為、子役業から一時手を引いている。年齢の割に落ち着きがあって肝も据わっているが、子どもらしい無邪気さも併せ持つ。怪談やオカルトが好き。

☆算数の授業中、「8」や「6」などの数字の穴を塗りつぶして暇つぶしするタイプ


 こんにちは。前回からの更新空きも長けりゃ、話も長いです。本当に申し訳ない。

                     1



 与えられた2週間の期間は、初めて聞いた時の印象とは打って変わって、黒川にとってやけに長いものだった。姫月らと家具を買いに行った日の翌日、黒川は大学に行き、こってりしかられながら講義を埋めた。早速、明日から大学に通わなくてはいけなくなる。番組のスタートには今日を含めても、まだ3日もある。


(まさか、番組が始まるより先に大学が始まるなんてな。本分のはずなのに全くやる気になんねえ…)


 せっかくのシェアハウスだというのに、昨日は夕食の後、大した会話や交流もなく、陽菜が母親に連れられ帰ったのを皮切りに各自、部屋に籠ってしまった。おまけに今日も、星畑はライブ出演、凛はその観覧で早々に家を出てしまう。天知と姫月は家にいたものの、部屋から出てこず、起きてから家を出るまで、誰とも出会うことはなかった。これではただ家がでかくなっただけの一人暮らしである。


(テイストは、あくまで日常風景のドキュメントなのにいいのかね、こんな非交流的で………)


 そう思いながらも、何も行動に移せないのが黒川の悪いところである。大学から戻って、わざとらしく一階をうろついたり、リビングのソファに腰掛けたりしてみるが、上からの物音すら聞こえてこない。一時間くらいで急に気恥ずかしくなった黒川は、バツの悪い思いで自室にこもる。「おかえり」ぐらいあってもいいじゃないか、と思うものの、かくいう自分も陽菜ちゃんでもない限り、わざわざ帰ってきても迎えには行かないだろう。というか行ったとしてもやはり照れてしまい、「おかえり」なんて言えないはずである。


(星畑たち……………はよ帰ってこないかな………)


 一定期間の同棲経験があるからか、何となく他メンバーと比べても星畑と凛に対する距離感は格段に近いものがある。リサーチなんて必要ないなんて陽菜に先輩面していたものの、姫月と天知に対しても、やはりもう少しプライベートな方向で打ち解けておいた方がいいのではないかと今更になって考える。しかしやはり行動には移せずじまいで、適当に音楽を流しながら、適当な漫画を読む。いつも家でやっていることと何一つ変わらない。そんなくさくさした気分の脳内で本当に久しぶりに、Uの声がする。


「……黒川よ。残すところあと3日ほどだが、心の準備はできているか?」


「ん~? まあ………できてるっちゃあできてるけど……」


「何だ?渋い言い回しだな?」


「何というか………まだ全然、一緒に住んでるっていう実感がないというか………プライベートな方面でももう少し相手の事を知ってもいいんじゃないか、というか……」


「なるほどね。……丁度いい。そんなキミに朗報だ」


「ん? 何?親睦会でも開いてくれるの?」


「そんなものはキミらで勝手に開いてくれ。朗報は朗報でも……仕事の話だ。思ったより、スムーズに準備が整ったんでな………キミらにプラスアルファで頼みたいことがある」


「ええ…………もうスカウトは嫌だぜ?」


「メンバーはこれくらいでいいさ。それよりもね………キミらはドキュメンタリーの登場人物として私たちのお茶の間に映るわけだが、何分無名なばっかりに何の情報もない。そこで、キミらのプロフィールをこちらで事前に用意しておこうと思う」


「まさか…………それを俺に作れと?」


「その通り。プライベートなことを合法的に聞けるいいチャンスだと思うが?」


「…………でもさぁ……俺、宇宙人の知りたいことなんて分からねえよ」


「身長・体重・年齢・血液型は既にこちらで把握済みだから必要ない。知りたいのは……どんなものが好きかとか、どういう性格かだとかだな」


「…………分かった。まあ、それとなくやってみるわ」


「当たり前だが、私からの依頼だと言えばいい。取り合えず情報をかき集めてくれたらこちらで必要なものを採用する。宇宙人とかあまり気にせず、とりあえず根掘り葉掘り丸裸にしてくれ」


「分かった………でも、どうやって聞き出せばいいかな。フリートークでは限度あるだろうし、インタビューみたいになるのもなあ……星畑ならいい案出してくれるかもな」



                        2



 しばらくして帰って来た星畑を黒川の部屋に招き、プロフィール作成の件を伝える。


「そんなの。アンケートでも作ればいいだろうがよ」


「アンケート?」


「そう! 例えば、そうだな。好きな映画は?とか子どもの頃のトラウマは?とか聞きたいことをリストにしてまとめて書いてもらえばいいんだよ。Uの指示だって言えばみんな書くだろ」


「それが一番仕事っぽくていいかもな。で、肝心の質問は……どんなのがいいかね?」


「…………知らん。俺らの何を知りてえんだろうな」


「漫画家とか、映画監督とかなら……好きなもんとか影響を受けた作品とか……聞きたいこともてんこ盛り出てくるんだけどなぁ……何分過半数が素人なわけだし」


「ンフフフフ……黒川。お前は何に影響受けてんだよ」


「………好きな歌手は桑田佳祐だけど……影響を受けてるなんぞ口が裂けても言えねえ。お前は?」


「好きな芸人ダウンタウン。以下同文」


「普通……プロフィールなんてのは聞きたいやつがいて初めて成り立つんだからなあ…」


「……宇宙で大人気のお前ならともかく、俺らマジ無名組はどうしようもねえよ………」


「「あ!!」」


 質問内容に困っていた矢先、2人は、自分たちの身近にメンバーを余すことなく推している存在がいたことを思い出した。そうと決まれば、やることは一つである。二人で凛の部屋に突撃する。


「うえ!? み、皆さんに聞きたいこと!?ですか!?」


「そうそう……プロフ作んなきゃなんだけど……なんか聞きたいことある?」


「そ、そりゃあもう!!」


「じゃあ、なんか質問考えてよ……何でもいいし………」


「分かりました! 任せてください!!」


~10分後~


「できました!!」


「お!仕事が速い」


「ざっと、100個ほど考えてきました!!」


「「多!!」」


「ひゃ……百個って………ま、まあ、全然いいけど……ありがとね」


「『好きな映画は?』、『好きな曲は?』、『初めて好きになった人は?(二次元あり)』か……まあまあスタンダートで、いいんでない?」


「何か変なものもあるけど……『天知さんに着せてみたい服のメーカーは?』とか聞いてどうすんの?ゲゲ!『黒川さんに歌って欲しい曲は?』って…こんなもん誰も答えたがらないって!」


「そ、そうですか? 私……100曲は軽く言えますけど……」


「ンフフフフ『ヒナちゃんのどこの部位舐めたいですか?』って俺ら答えたら事案じゃねえか!」


「そうでしょうか? 私……100個は軽く言えますけど…………」


「それって……もう食べたいって言ってるようなもんじゃん……」


「ま!とにかく、こっから適当にピックすればいいだろ!サンキュー須田!」


「えへへへ……ようやくお力になれました!!」


「じゃあ、早速アンケート作るか」


「あ……あの、えっと……その、質問考えてて思ったんですけど……この際、他の皆さんからも聞きたいこと募集してみてはどうでしょうか?………その、これから一緒に暮らすわけなんだし……」


「あ~……確かにそうかもね……陽菜ちゃんもメンバーについて色々知りたがってたし」


「はい! お、お二人は何か聞きたいこと………ないんですか?」


「俺は……そうだな…飯作る時もあるし、好きな食い物についてかな」


「………俺は……答えにくい質問かもしれんけど、今のメンバーについて何か思ってることがあれば聞きたいな。パッと見た感じは仲良くできそうだけど、急ごしらえのメンバーだし」


「じゃあ、『仲良くできそうなメンバーは?』とかか?それとも、ガキのクイズ企画みたく『一番不潔だと思うのは誰?』とか?」


「それだと、きっと満場一致で私が不潔キングですね」


「おっと………不潔王の座は奪わせねえぜ?星ちゃんはこの前、漫画の間にゴキブリが親子で挟まってたからな」


「うっへえ………お前は昭和の劇画漫画の世界に住んでんのか?」


「あははははは!それじゃあ……プロフィールの完成!楽しみにしてますね!」


 笑顔で凛が部屋を後にする。どうせなら一緒に作りたかった黒川だが、それはそれとしてメンバーの質問したいことをまず聞かなくてはいけない。一先ず、一人一人に聞いて回る。


「聞きたいこと?ん~………ありきたりな質問だが、尊敬している人物とかどうかな?……僕はタモリさんと所ジョージさんなんだけど………」


「別にない………ないってば! どうしても~?何でそんな聞きたがるのよ?はあ?アンケートを取れって指示が出たの?まあ、私の事知りたいってのは分かるけど……アンタらの事なんて興味抱く奴いるの?…………じゃあ……1億円拾ったらどうするかでいいんじゃない?それで大抵の人間量れるわよ」


「もしもし? あ………黒川さんですか。どうも陽菜さんをいつもありがとうございます。陽菜さんに何か御用ですか?今、瑠奈さんとお風呂に入ってるんですけど……あなた方に聞きたいことを募集している?成程。言伝しておきますね。あ、私は天知さんの好きな異性のタイプが知りたいです」


「もしもし黒川お兄ちゃん? 電話出れなくてごめんね? えっと………お兄ちゃんたちに聞きたいことだよね? 驚かせたいとか怖がらせたいとかじゃないけど……私、みんなが怖いと思ってるものが知りたいな。あ、でも……エミちゃんは答えたがらないだろうから……嫌いな物とかの方がいいかな?」


 各々の意見が出終えた。これと凛が作ってくれたリストを合わせて10問ほどのアンケートを作る。若干、質問が少ない気もするが、まずはこのくらいから始めて、結果をもとに掘り下げていくという事で話はまとまった。


「よし!こんなもんだろ!」


☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):

苦手な食べ物(アレルギー要記入):

好きな本(漫画含む):

好きな映画:

好きな歌手:

尊敬している人物:

座右の銘:

怖いもの(嫌いな物):

メンバーの中で誰と気が合いそう?:

1億円拾ったら何に使う?:

好きな異性のタイプは?:


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「………………結局、須田の質問はありきたりなもんしか拾えなかったな」


「まあ、聞きたいことは本人に聞いてもらいましょうや。早速、コピーして配りに行くか」



                       3



 翌日の土曜日、アンケートが帰ってきた。正直、割と楽しみにしていた黒川は大学もサボり、ウキウキで星畑と共に確認する。



☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:黒川 響

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):鶏南蛮そば・グラタン・麻婆麺

苦手な食べ物(アレルギー要記入):パクチー・ラーメン〇郎・日本酒

好きな本(漫画含む):『ボッコちゃん』・『富江』・『団地ともお』

好きな映画:『地獄(1960)』・『震える舌』・『女優霊』

好きな歌手:桑田佳祐(歌手は基本的に全員好き)

尊敬している人物:忌野清志郎・水木しげる・さかなクン

座右の銘:「遠慮して生きてこーぜ!」

怖いもの(嫌いな物):非常識な人間・顔面ボールペンでぐしゃぐしゃ

メンバーの中で誰と気が合いそう?:星畑

1億円拾ったら何に使う?:小さな家を買う

好きな異性のタイプは?:趣味が合う人


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「何ていうか。『その作品何?』って聞かれるのを待ってる感じが鼻につくな。特に映画」


「………………………お前、時々とんでもないナイフを投げてくるよな」


「まあ、『団地ともお』は俺も好きだぜ?………怖いもののボールペンぐしゃぐしゃってなんだよ」


「分かんない?家族写真とかで夫とかの顔だけが塗りつぶしてあんだよ。あれ超嫌いぞわぞわする」


「…………分からん。せっかく気が合う人間にチョイスしてくれてんのにすまんね」




☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:星畑恒輝  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):アナゴの天ぷら・カルボナーラ・チョコ系の全部

苦手な食べ物(アレルギー要記入):激辛系の奴・ねばねばした奴

好きな本(漫画含む):『孤独のグルメ』 『ドラえもん』 『グラップラー刃牙』

好きな映画:『ゲロッパ!』 『HANA-BI』 『Ted』

好きな歌手:岡村靖幸

尊敬している人物:ダウンタウンの浜ちゃん

座右の銘:現在(いま)の私なら列海王にだって勝てる

怖いもの(嫌いな物):グロイの

メンバーの中で誰と気が合いそう?:黒川

1億円拾ったら何に使う?:ワニ飼う(お釣りでワニと日本を回る)

好きな異性のタイプは?:陥没乳首


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「………座右の銘以降気でも触れたんか?」


「………それだと黒川と気が合うってのもおかしいことになるぜ。よお親友、両想いじゃん」


「すっげえ恥ずかしいわ……気が合う奴でかぶったの」


「照れんなよ~……お前にもワニ触らせてやるからさ」


「うるせえ! 大失敗クラウドファンディングみたいな夢掲げやがって!!」



☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:須田凛  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):海鮮丼・フライドポテト・辛いラーメン

苦手な食べ物(アレルギー要記入):トマトが苦手です。アレルギーではないです。

好きな本(漫画含む):『少女椿』・『ドグラ・マグラ』・『ドロヘドロ』

好きな映画:『ミッド・サマー』・『悪魔のいけにえ』・『八仙飯店之人肉饅頭』

好きな歌手:黒川響さんです!

尊敬している人物:姫月恵美子様です!

座右の銘:今はみんなが手をつないでる状態だと思うんだよ(ry)

怖いもの(嫌いな物):声の大きい人(ですが、星君の奇声はむしろ大好物です!)

メンバーの中で誰と気が合いそう?:ヒナちゃんは私の話をすごく聞いてくれます(好き)

1億円拾ったら何に使う?:推し活に使います!

好きな異性のタイプは?:天知さんみたいな素敵な方とお付き合いしたいです。


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「ぎゃあああああああ!!」


「な、何大声出してんだよ!? 須田に嫌われるぞ。……ていうか俺そんな奇声あげてるか?」


(し、死ぬ!この座右の銘言ったのが俺ってバレたら5回は死ねる!!)


「しっかし…………何というか予想通りの答えすぎて予想外だわ。まさかメンバーを意地でもフルコンプしてくるとは………」


「…………流しそうになるけど………推してる作品の癖……濃すぎて腹壊しそう」


「しっかし………なっげえ上にくっせえ座右の銘だな。なんかここだけアイツらしくないというか」


「他人の座右の銘をどうこう言うのは良くないと思う! そんなことより次!次!」


「次は姫月か! 正直、一番興味あったんだよな!」



☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:姫月

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):寿司・ステーキ・カツカレー

苦手な食べ物(アレルギー要記入):生野菜・冷ごはん・甘い卵焼き・アホみたいに辛いの

好きな本(漫画含む):ない

好きな映画:ない

好きな歌手:いない

尊敬している人物:いない

座右の銘:ない

怖いもの(嫌いな物):あるわけない

メンバーの中で誰と気が合いそう?:いない

1億円拾ったら何に使う?:マンション経営

好きな異性のタイプは?:金持ちで大人なイケメン


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「な、なめとんのか!書き直しじゃ書き直し!!凛ちゃんと二人で補修じゃ!!」


「ンフフフフフフフフ!! いいじゃんこれで!アイツらしくて!嫌いな食べ物4つ書いてるとことか」


「アホ!宇宙人に提出せんといかんのにこれでどうする!一発で本人が書いたってバレるだろうが!」



☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:岩下陽菜  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):ツナマヨおにぎり・オムライス・ビーフシチュー

苦手な食べ物(アレルギー要記入):ユッケ(お母さんに食べちゃダメって言われてます)

好きな本(漫画含む):学校のかいだん おとぎばなし・昔話100 

好きな映画:ようかい大戦争 平成たぬき合戦ぽんぽこ

好きな歌手:ミスチル ドリカム 米づけんし

尊敬している人物:お姉ちゃん

座右の銘:好きこそものの上手なれ!

怖いもの(嫌いな物):むかし見たへびのマンガがすごいこわかったです。

メンバーの中で誰と気が合いそう?:りんちゃんとエミちゃん でもみんな仲良くしたいです。

1億円拾ったら何に使う?:岩下ランドをたてる

好きな異性のタイプは?:星ちゃんはすごくカッコイイと思う


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「んま~………かっわいい!特に好きな異性がカワイイ!!」


「確かに可愛いけど……あれ?これで終わり?天知さんがまだ出してないって……珍しいな」


「ん~…………もしかしたらまだ書いてんのかもよ。本人に聞けばいいじゃん」


「まあ、そうだな。ついでに凛ちゃんと姫月には書き直させよう」


 黒川の部屋から出ると、扉の前では楽しみで仕方がないという顔の凛と陽菜が待機していた。


「うわっ!び、びっくりした!!」


「えへへへ…………完成したんですか? 私たちも見ていいんですよね?」


「………キョウミアルデス」


「うん。モチ見てもいいけど……その前に凛ちゃん………悪いけど書き直してくんない?その……俺らのファンって言うのはもうみんな知ってるしさ……もうちっと新しい凛ちゃん像を……」


「あ!! そ、そうですよね………えへへ…すいません。うっかりしてました」


(あと! 座右の銘!! 頼むから書き直してくれ!!)


(ええ! せ、せっかくあの日の名シーンを皆さんに共有しようとしたのに……)


(やめてくれ……)


「まだ見れないの? キョウミアルデース!」


「…………さては陽菜ちゃん…………Fの『ヒョンヒョロ』読んだな?」


「フフ………当たり。 ミンナノコトキョウミアルデス」


「そんな関心持たれると照れるぜ……あ!陽菜!禁止されてるとか以外で食えねえもんないか?」


「ううん……ないよ。私、なんでも好き」


「偉いなあ……嫌いなもん4つも書いた女に見習ってほしいぜ」


「……………あのう………実は私………椎茸も苦手で………」


「シイタケおいしいのに………松茸よりもおいしいよ?」


「その4つ書いた奴にも書き直させなきゃな………ほとんど空欄みたいなもんじゃねえか」


「まあ、アイツに関しては、マジで好きな映画とか憧れてる人間とかいなさそうだけどな」


「………………………じゃ、じゃあ! みんなのおすすめ映画をエミ様にも見てもらうって言うのはどうでしょう? そこから気に入ったやつを書いてもらえば…………」


「………面白そう」


「…………今日は皆さんご予定ないですよね! 映画鑑賞会!ずっと夢だったんです!!」


「その前に……天知さんにちょっと会わねえとな……映画の方はやるんだったら準備頼むわ!」


 と、言いながら天知の部屋に行こうとする黒川、しかし天知の部屋にはすでに半分扉が開いており、中から天知の物と思しき手だけが伸びて黒川を手招きしている。


「あ……天知さん。どうしたんですか?アンケート……まだ出してないですよね?」


「………うん。そのことなんだけど……ちょっと相談があってね……」


「相談?」


「これ!いただいたアンケート………一応書いたんだが………」


☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:天知九  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):ブリの照り焼き・キッシュ・餃子

苦手な食べ物(アレルギー要記入):特になし

好きな本(漫画含む):『古寺巡礼』 『逆説の日本史』 『三国志』

好きな映画:『トップ・ガン』 『タイラー・レイク』 『黒部の太陽』

好きな歌手:ビートルズ サイモン&ガーファンクル ボブ・ディラン

尊敬している人物:千葉真一 ブルース・リー

座右の銘:臥薪嘗胆 

怖いもの(嫌いな物):蜘蛛 

メンバーの中で誰と気が合いそう?:黒川くん

1億円拾ったら何に使う?:クルーズに乗る

好きな異性のタイプは?:よく笑ってくれる人


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。


「あ……なんだバッチリ書いてくれてるじゃないですか。急かすような真似してすんません」


「イヤ………実は内容に問題があってね」


「どこがです? 滅茶苦茶イメージ通りというか……強いて言うなら蜘蛛嫌いなのが意外なくらいで。俺と気が合いそうなんて思ってくれてんのが奇跡みたいですよ!」


「まあ、全部真実なのは間違いないんだが……………これを見てくれ。コピーを作ったんだが」


「へ? わざわざ二枚も書いてくれたんですか!?」


☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:天知九  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):ブリの照り焼き・キッシュ・餃子

苦手な食べ物(アレルギー要記入):特になし

好きな本(漫画含む):『キルミーベイベー』 『涼宮ハルヒの憂鬱』 『SPY×FAMILY』

好きな映画:『トップ・ガン』 『ヴァイオレットエヴァーガーデン』 『リズと青い鳥』

好きな歌手:ClariS ビートルズ ボブ・ディラン

尊敬している人物:トウカイテイオー 佐倉杏子 

座右の銘:奇蹟は起きます。それを望み奮起する者の元に、必ず、きっと 

怖いもの(嫌いな物):ボンドルド卿

メンバーの中で誰と気が合いそう?:黒川くん

1億円拾ったら何に使う?:馬を買う

好きな異性のタイプは?:トウカイテイオー


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。



「……………………………………………………………(中略)……………………………」


「…………………言いたいことは分かるよ………でも、これが、何というか…僕の真実なんだ」


「えっと………いや!全然変な趣味じゃないですよ!! うん!俺でも知ってる名作ぞろいですし!」


「そ、そうかな? おっさんが見てても引かれない?」


「………まあ、好きな歌手の並びにクラリスが入んのは………やっぱり、ちょっと、変かも……」


「………いや~………娘と会う時の話題作りと思って見始めたんだが……これがどうして、面白くってね……気が付けば取り返しがつかない程、沼の中さ………」


「ハア………ウマ娘めっちゃ好きなんですね」


「ああ、名シーンだらけでね………思い出しただけで………涙が………ほら、ほら」


「感涙を見せびらかさんでくださいよ!り、凛ちゃんと同じことしてますよ?………」


「やっぱり、黒川くんに相談してよかった……他の子たちはあまり興味がなさそうだからね」


(もしかして……気が合いそうって……それでか? なんでだろうあんま嬉しくない……)


「で? どうだろう………これを宇宙人たちに公開してよいものだろうか?」


「う~ん……というか……他のメンバーに見せていいもんだろうか」


「そうか………じゃあ、やっぱり1枚目の方がいいかな?」


「それはそうです。間違いないです。別に嘘ではないんですもんね!?」


「う、うん。……………やっぱり引いてる?」


「イエ、ギャップですよギャップ。まあ、強いて言うなら千葉真一には生き残っててほしかったですけど……」


「ともかく……誰かに話せてホッとしたよ。でも、様子を見るに黒川くんもあまりアニメ趣味がないのかな?」


「……いや、見てます見てます。涼宮ハルヒもキルミーベイベーも!」


「そうか! じゃあ、また今度鑑賞会をしようじゃないか!!」


「…………はい。あ、そうだ……そう言えば一階で姫月の好きな映画を発掘すべく映画鑑賞会やるらしいですよ? おすすめの映画持って良かったら参加します?」


「ああ!勿論! でも、2枚目の映画しかブルーレイを持ってないんだよ」


「サブスクがありますから…………アニメでも全然いいですけど……」


 変な趣味ではないという言葉は紛れもなく真意だが、正直衝撃が勝ってしまい、映画どころではない黒川。一先ず天知を連れて下に降りる。リビングでは姫月がソファに仏頂面で腰かけている。姫月を抱きかかえるように凛が背後に座り、挟み込むように陽菜が彼女の前を陣取っている。どうやらすでに鑑賞会は始まっていたらしい。


「あ! 天知さん!黒川さん! すいません。もう星君の映画を再生しちゃってて……」


「いいよいいよ。『ゲロッパ!』でしょ?俺見た事あるし」


「僕はないけど……まあ、気にしないでいいよ」


「ていうか終わりでいいわよ。何が悲しくてアンタらと映画なんか見ないといけないわけ?」


「駄目です!逃がしませんよ!!」


「アンタ最近、ウザさに拍車がかかって来たわね………」


「静かにしろ!今、岸部一徳が踊り狂ってるところでしょうが!!」


 その後も、凛の過激すぎる映画で星畑がリタイアしたり、見たがる陽菜を引っ込めたりと他のメンバーのおすすめを見ていくが、どれ一つとして姫月には刺さらないようである。


「ねえ? 何で揃って映画なんか見てんのよ? ひょっとしてもう撮影始まってるの?」


「………エミちゃん好きな映画ないって言うから……お気に入り探そうって」


「それはまあ随分と余計なお世話なことで………アンタの奴が一番マシだったわよ」


「フフフ……すねこすりが可愛くて好きなんだ」


「はあ……もういいかしら? 書き直しはやってあげるから…………」


「あ!そ、そう言えば……その……天知さんがいるってことは………その………えへへへ……」


「ああ、出してもらったよ。はいこれ………」


「うへへへ……ありがとうございます!………あ、これ。書き直しておきました……」


「お!ありがと! 早くて助かるぜ」


「須田さんのプロフィールか……僕にも分かるものがあればいいんだけど……」



☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:須田凛  

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):海鮮丼・フライドポテト・辛いラーメン

苦手な食べ物(アレルギー要記入):トマトとシイタケと魚の皮が苦手です

好きな本(漫画含む):『少女椿』・『ドグラ・マグラ』・『ドロヘドロ』

好きな映画:『ミッド・サマー』・『悪魔のいけにえ』・『八仙飯店之人肉饅頭』

好きな歌手:黒川響さん・KISS・TMGE

尊敬している人物:姫月恵美子様・町田康・岸部露伴

座右の銘:「疑って安全を保つより信じて裏切られた方が良い」

怖いもの(嫌いな物):声の大きい人(ですが、星君の奇声はむしろ大好物です!)

メンバーの中で誰と気が合いそう?:ヒナちゃんは私の話をすごく聞いてくれます(好き)

1億円拾ったら何に使う?:推し活に使います!

好きな異性のタイプは?:自分の欠点を受け止めてくれる人


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。



「より悪いわ!!」


「…………ぶえ!? な、何でですか!?」


「……………いや、まあ、うん………良いんだけどさ……ちゃんと新しく書いてくれてるし…」


「須田さんの好きなミュージシャンは……………TMGE? KISSは分かるけど……」


「あ! ザ・ミッシェル・ガン・エレファントです! もう、すこぶるかっこよくて!!」


「ああ~ミッシェルか!……わかるわかる。いや~……相変わらず渋い趣味だねえ」


(その並びに俺が混じってるのが問題なんだよ………んでもって俺の言葉は前田慶次の名言より刺さったってのか……すごいな)


「………書き直したってよりは書き足したって感じだな……俺ってそんな奇声だすタイプかよ」


(星畑……相当そこがつっかかってるんだな)


「あ!こ、これは……その……暗にネタ中のシャウトが好きだって言う……ことを書きたくって…怖いのは厳密にはすぐ怒鳴るひとなんです。エミ様はウェルカムですけど……」


「ああ~……そういう事か。パンク好きなのに大声苦手ってどういうことだって思ってたけど。要するに、キレ性が嫌いなんだな。まあ、好きな奴いないだろうけど」


「そう言えば、好きな異性のタイプはまるっと書き直してるんだな。あまt」


「わ!!わ~~!!そ、それは!後で冷静になって!!やめたんです!!」


「まあ、確かにあのまんまじゃ告白だもんな」


「うう…………あんなのヒナちゃんママに見せたらどうなってたか………」


「お母さんがどうしたの? フフフ……凛ちゃんも、私と気が合うって書いてある……嬉しい」


「うへへへ………りょ、両想いですね!」


「ホントだね。てっきり黒川くんと書くと思ってたよ」


「く、黒川さんなんて、そんな…………恐れ多くて書けっこないですよ!」


「……………はい、書けた。じゃあ、私部屋戻ってるから」


「あ、うん」


「……………エミちゃん。もう上に行っちゃうの?」


「もういいでしょ? 映画3本も見て疲れたのよ………アンタもいい加減帰る時間でしょ?」


「うん…………明日もまた……今度はお泊りで来るから………」


「はいはい」


「…………明日日曜日だけど……泊まりでいいのか?」


「うん。学校はお休みする。ホントは今日も泊まるつもりだったけど…お姉ちゃんがお仕事でまた東京行っちゃうから………今日は一緒に晩御飯食べる」


「そっか……………で、姫月の奴はちょっとくらい己を曝け出してくれたかしらん?」


「わ、わ、私も見たいです!」


☆宇宙人に向けたプロフィール用アンケート ・白紙回答原則禁止・複数回答3つまで


名前:姫月

好きな食べ物(和・洋・その他で一つずつ):寿司・ステーキ・カツカレー

苦手な食べ物(アレルギー要記入):生野菜・冷ごはん・甘い卵焼き・アホみたいに辛いの

好きな本(漫画含む):私の雑誌

好きな映画:妖怪大戦争

好きな歌手:クラシック

尊敬している人物:坂本龍馬

座右の銘:戦争はお腹が減るだけ

怖いもの(嫌いな物):こういうアンケート

メンバーの中で誰と気が合いそう?:本当にいない

1億円拾ったら何に使う?:マンション経営

好きな異性のタイプは?:金持ちで大人で個人情報を探りたがらないイケメン


※アンケートの回答は共有されることを予めご理解ください。



「…………とりあえずアンケートが相当嫌だったのは分かったぜ…………」


「あはは………まあ、確かに、自分の事を言いたくない人だっているよね」


「違うぜ天知さん。アイツは単に面倒なだけだよ。本来、自慢したがりの承認欲求塊女なんだから」


「………誰かアイツに一億じゃマンション経営は難しいって教えてやれよ」


「座右の銘に関しては……これ……さっきの映画で水木しげるが言ってたやつじゃねえか!?」


「私の雑誌ってなあに?」


「うふふふふ……エミ様はですね!雑誌のモデルになったことがあるんですよ!!しかも見開きで!」


「そうなんだ。エミちゃんキレイだもんね」


「あ、あれ? 何だか反応が薄いような……」


「陽菜ちゃんは何度も幼児服のモデルだとかになってるからね。珍しいことじゃないのかも知れないよ?」


「あ! そ、そっか!ヒナちゃん凄いですね……」


「年の差は10以上も離れてるのに………なんかそれ以上の溝を感じちまうぜ………」


「? 私はみんなの方が大人で凄いと思うけど?」



                       4



 翌日、相変わらず遅起きの黒川が下に降りると、リビングがぐっと華やかになっている。どうも発注していた家具たちが届いたようだ。その中でも、自身がチョイスした棚以上に目を引くのは、方々に配置された大小さまざまな観葉植物群である。


「な………なんだこれ? うちが……オーガニックカフェみたいになってる!?」


「あ! 黒川さん!! おはようございます!!」


 巨大なポトスライムタワーの隙間から、凛が顔を出す。


「おはよう………これ、どうしたの?」


「フフ……綺麗ですよね! 全部エミ様がご用意されたものなんですよ!!」


「姫月が!?」


 意外な購入者に驚いていると、玄関口から巨大なサボテンの植木鉢を抱えた天知と、フリージアの鉢を大事そうに抱えた陽菜が入ってくる。そしてその後に、片手サイズの小さな入れ物にちょこんと生えている可愛らしいハオルチアを持った姫月が入ってくる。


「姫ちゃん。このサボテンはどこに置けばいいかな?」


「日当たりがいいとこだから……そうね。そこの一人掛け用のソファに持って行って。陽菜のフリージアは二階の私の部屋に………あ!何よアンタ。起きたんだったらさっさと手伝いなさい」


「う………うん。それはいいんだけどさ………何というか……意外だな。お前植物好きなの?」


「別に………あった方が空気が綺麗になるのよ」


「お前が用意してるって言うインテリアは植物だったんだな………」


「何ていうか…………あんま花が派手じゃないのばっかりチョイスしてるあたりがガチっぽいよな」


 どうやら手伝っていないのは自分だけだったようで、星畑が姫月が自分用に購入したであろう一人掛けのソファを運びながら黒川に合わせる。


「何ズレたこと言ってんのよ。フリージアもハオルチアも可愛い花咲かせるんだから……」


 キッチンの隅にハオルチアを置きながら、姫月が膨れる。どうも植物に対する思いがガチであるという星畑の推察に関してはズレていないようである。


「…………お前、動物は嫌いなのに………生き物を愛する心なんて持ってたんだな」


「植物と動物じゃ全然違うわよ。福沢諭吉と一万円札くらい違う」


「………その例えもズレてると思うぞ………」


「いいから!! ぼさっと突っ立ってないでさっさと働きなさい!!」


「はいはい。 でも、確かにいいな………こういうの。俺もなんか育てようかな」


「アンタ駄目よ。センスないの選んできそう」


「センス悪い草ってなんだよ」


「植物の問題じゃなくて………鉢とか形とか、売ってる店とかで、変わってくんのよ」


「………ガーデニング道……奥深いな……」


「なあ…俺、でっけえウツボカズラ育てたいんだけど………人間がすっぽり埋まるくらいの」


「お前捕食されたい願望でもあんのかよ。昨日のワニといい………」


 いくらかかったのか気にするのは野暮とはいえ、なかなか凄い量の植物が屋敷内のありとあらゆるスペースに鎮座する。最初はまるで寂れた植物園内のビニールハウスや荒れ果てたオフシーズンの畑のように家の中を侵略する勢いで生い茂っていた緑が、姫月の細かな配置により、見事にインテリアへと化していく。彼女が言っていた通り、心なしか空気も澄んで感じる。


「なかなかいいものだね。植物を飾るというのも………」


 ポトスライムの赤子の肌のように柔らかな葉に触れながら、天知が呟く。その近くで凛が何やらせっせと作業をしている。


「えへへへ……ヒナちゃんに教えてもらうまで忘れてました! 私の………秘密兵器を!!」


「あ~………ハンモックね……そういえば買ってたな」


「ハンモックって……室内でやるもんなのか?」


「最近は結構主流らしいよ?といってもこれは子ども向けの小さいものみたいだけど」


「陽菜ちゃんもアゲアゲだったもんなあ……そんないいかねハンモック」


「え?いいじゃん。俺も絶対乗りたいけど?」


「子供用って言ってんだろうが…乗れて凛ちゃんまでだよ」


 そんな年少組はわいわいと和やかにハンモックを組み立てている。と言っても陽菜は凛の周りをウロチョロしたり、完成図をのぞき込んだりしているだけ。小さい分、わざわざ二人係でやる必要もないので、随分持て余しているようである。


「楽しみに待ってたのに……凛ちゃん忘れちゃってるんだもん………」


「えへへへへへ、すいません……さあ!! できましたよ!!私の七つ道具!名付けて『ゆらゆら提督』です!」


「あと六つの有無は突っ込んだらダメな奴かな?」


「さあ? 俺に聞かれても………」


「えへへへ……『よつばと』のキャンプ回読んでからこれに乗るのが夢だったんです!……よっこいしょ………おお! おお~………思ったより揺れる……」


「ああ~……いいなぁ……凛ちゃん早く変わって……ヒナも乗りたい」


(陽菜ちゃん夢中になったら一人称が陽菜になるんだ………カワイイ……)


「黒川くん黒川くん……」


「はい?」


「今、須田さん『ゆるきゃん△』っぽいこと言わなかったかな?」


「いえ…………残念ながら、ゆらゆらとは言ってましたけど……多分、そっちの方は意識してないかと……」


「そうか………あっちでも散々ハンモックに乗ってるからまさかと思ったんだが………」


(思ってる以上に頭ン中がアニオタだな……天知さん)


「思ったより………頑丈そうですし………ヒナちゃんも一緒に乗りましょう!」


「え………大丈夫なのかな? これ総重量90キログラムまでって書いてあるけど………私、34キロだよ?」


「………………………大丈夫です」


「そっか…………凛ちゃんスリムだもんね」


「……………………はい、私はチビなので……体重も……けっして超えたりなんかしてませんとも」


「え…………と……56キロより痩せてたらセーフなんだよね? じゃあ、大丈夫かな?」


「…………………………………だ、大丈夫………です。はい」


「わーい! じゃあ、お邪魔しま~す!!」




                      5


 夕刻、二階から大あくびをしながら姫月が降りてくる。一階では星畑がキッチンで夕食の準備をしている。


「あ~…………昼寝しすぎたわ……やっぱりベッドがいいからかしら?………今日のご飯は?」


「お前、昼飯食わずに寝たのかよ? もう晩飯の支度しようかってときに」


「何よ? アンタまだ作ってなかったの? 食べたいときに食べれるようにするのが料理人ってもんでしょ?」


「誰が料理人だってんだよ! 言っとくけどちゃん陽菜が家にいないときとか、別に何の催しもねえときは俺、飯作らねえからな? 冷蔵庫の中のもんは基本的に勝手に使っていいから…勝手に食えよ?」


「冷蔵庫の中の物~?…………肉がないじゃない肉が……冷凍してある奴しか……」


「流石に解凍くらいできるよな?」


「バカにしてんの?……………………何あれ? 燃えるゴミ?」


「ゆらゆら提督だよ」


「ゆ…………?何? 何だか分かんないけど……壊れてるじゃない。足が折れてるの、それ?」


「…………須田の七つ道具の成れの果てだ」


「ふ~ん。まあ、どうでもいいけど………で? その馬鹿はどこにいるの?」


「ここに来て、陽菜ちゃんがまだ、Uと喋ってないっていう衝撃の事実に気づいて……今、みんなで話してるんじゃねえかな?…………そういやなげえな。もう2時間は音沙汰ないんじゃねえ?」


 構造上の問題で一回り程度狭い陽菜の部屋では、黒川と陽菜と凛、そして醤油さしから出るUこと宇宙人の声が行きかっている。


「…………それじゃあ、お兄ちゃんの聞こえるところでないとこっちの声は聞こえないの?」


「いや?黒川の聴力よりも、こちらのマイクの方が当然ながら優れているわけだし、黒川が聞こえてなかろうが私には届いている場合だってある」


「ヴェ!? そ、それじゃ………その、黒川さんが寝てる時でも……私の声とか……聞こえてるってことですか?」


「………俺が寝てる時に何か聞かれたらまずいこと言ってんの?」


「まあ、聞こえているが………キミらのそんなディープなところまで干渉するつもりはないし、聞こえていても密告したりはしないから安心するといい」


「ううう………それでもぉ……恥ずかしい……」


「ほんっとに何言ってんの!?」


「お兄ちゃん。あんまり探っちゃダメだよ。……じゃあ、お兄ちゃんがいないと何にも聞こえないってこと?」


「野外ならね。この中にはほぼすべての部屋にマイクを仕掛けているから、黒川いらずだ」


「ヴェエ!? じゃあ、その………独り言とかも………」


「キミ、加入するときに何の説明も聞いてなかったのか?」


「あ、あ~…………えへへへへ…………いざ、聞かれるとなると……その、えへへへへ」


「………でも、まあ……そうだよなぁ~………いよいよ明日から本番かぁ……マジで何すんの?」


「夕食後にでも、伝えるさ。今は天知が家にいないからな」


 ちなみに天知は、もっと丈夫なハンモックをわざわざ買いに行ってくれている。もちろん凛や陽菜は遠慮したが、車ですぐだからと出かけてしまった。天知が親切なのは言うまでもないことだが、それ以上にお通夜のようなムードで「ゆらゆら提督」を片している2人は確かに見ていられないものがあった。


「明日からの事もそうだが、黒川の方はどうなんだ?メンバーの事を知っておく必要があるとか言ってたが」


「お、お前!! さっそく聞かれたくないこと言いふらしてるじゃねえか!!」


 よりにもよって、「一緒に暮らしているうちに嫌でも目に入るさ」なんてカッコつけたことを言った陽菜に自分の情けない部分を暴露されてしまった。


「お兄ちゃんも………私とおんなじこと考えてたんだ」


「………………………うん。強がってたけど……冷静になったら、やっぱ、知らなすぎるかな~って」


「黒川さん!! 私はインゲン豆も食べられません!!」


「…………ハハハ……ありがとね凛ちゃん。でも、好きなものの方が知りたいかな」


「インゲン美味しいよ?………胡麻和えにすると」


「え~っと……………魚の骨髄吸うのが好きです!!」


「俺も小学校の時、給食でやってたけどさ………あれみっともないからやめな」


「………魚のコツズイ? 毒があるやつ?」


「それはゴンズイ………まあ、でも………この2,3日足らずで天知さんや姫月の意外な面を知れたのは確かだし…………俺の言ってたこともあながち間違いでもなかったかもな」


「エミ様の意外な面は……ガーデニングがお好きってことですよね?天知さんのは?」


(やべっ!)「あ~……えっと……く、蜘蛛が嫌いって意外だな~って……無敵だと思ってたから」


「あ!そ、それは確かに!! えへへっへへっへ……意外な情報……というか収穫でした。私は蜘蛛全然平気なので……いざという時……助けてあげれば……うぇっへへ」


「私も蜘蛛好き。特にジョロウグモが好き」


(多分、この二人だったら……というか姫月以外だったら、アニメ趣味を否定したりなんてズレたことしないだろうけど……それでも俺の口からは言えんよな)


「…………お兄ちゃん、私のことは……何かないの?新発見……」


「え!? あ、うん。まだ……あ、でもさ、昔見て怖かったって言う蛇のマンガ!あれが何なのかはすげえ気になる」


「………小学校の時に友達の家で読んだんだけど……血まみれで絵が怖かった……」


「黒川さんの暗黒文庫の中にあるんじゃないですか!?」


「………人の本棚に物騒な名前つけないでくれよ」


「暗黒文庫って…前、星ちゃんが言ってたやつ? 見たい見たい!」


「駄目駄目! あれ、小学生に見せていい内容じゃないのもいっぱいあるから……ていうか、Fの異色短編だってあんま子どもが読んでいいものでは……」


「いっつも大人大人って言うくせに……こんな時だけ子ども扱いする……さっきの映画だって」


「駄目!昭和じみた考えと言われようが俺は年齢には年齢にあったものを楽しむべきだと思うね!相手の首切ること前提のアニメが幼児に大人気ってのも考えもんだと思う!!」


「………………私は、一家心中で青酸カリを飲んだこともあるのに……」


「………それはお芝居でしょうが……」


「でも、黒川さん。昔の子ども向けホラーは首が斬れるなんて屁でもないくらい血と殺戮に溢れてましたよ? きっとヒナちゃんのトラウマになった漫画もそういう類のものでしょうし……」


「いや………実はさ……あそこにある漫画、基本的にどっかでアレしてるんだよ……そんなの見せられるわけないでしょ……?そうじゃなかったら俺もこんなPTAみたいなマネ……」


「あ!! あ~……確かに昔のサブカルホラーってすぐアレしますもんね!!」


「んん~……二人だけで何の話してるの~? アレって何~?」


「ヒナちゃんにはまだ早すぎます!」


「そうそう!グロいのでいいなら御茶漬海苔とか日野日出志とかのえっぐいの見せてあげるから!!」


「何か引っ掛かる……もしかして……アレって……イチャイチャのこと?」


「「!?」」


 隠す気があるのか無いのか分からない程、でかい声でセッ〇スをひた隠す黒川らだが、陽菜の口からさも自然にイチャイチャという死語めいた隠語が飛び出してきた。先程、すねこすりが可愛くて好きだと言いながらあどけなく笑っていた少女が急に大人めいて見えてくる。


「あ………図星っぽい……何だイチャイチャのことか」


「え? え?陽菜ちゃんはその、イチャイチャがどういうのか知ってるの?」


「どういうのって………お布団の中に入って……男の人と女の人が……」


「はいもういいです。私共が悪うございました」


「ひ、ヒナちゃん……というより最近の小学生って怖い……私なんてまだ、お味噌が脳みそだと思ってた頃なのに」


「俺なんかサンタどころかブラックサンタ信じてたぜ!?」


「…………………ふふふふふ……子どもじゃないことが分かりましたかな?」


 ムフッと得意げにこちらへ笑んでみせる姿は可愛らしい子どもそのものなのだが、それでも小4の耳年層だとは思えない。やはり社会で何かしらの労働をするとなると一般的な子どもよりも多くの知識を先どってしまうのかもしれない。その時、丁度一階から星畑の呼び声が聞こえてくる。どうやら夕飯の準備ができたようである。



                      6



 下へ降りると、いつの間にか帰ってきていた天知がオムライスの乗ったおぼんを運んでいる。ボヘミアン姫月は食事用のテーブルではなく、リビングのちゃぶ台で悠々とテレビを見ながらすでに食べ始めているようである。


「よう!飯、出来てるぜ(荒岩一味風)」


「あ!オムライスだ………もしかして…私が好きって書いたから?……嬉しいけど、みんなはそれで大丈夫なの?」


「……そんなので文句言うのは姫月くらいだって。当のアイツが文句言わずパクついてんだから大丈夫」


 と、言いながら黒川が姫月を覗き込んでみるが、何と彼女が忙しなくスプーンを突っ込んでいるのはオムライスではなくカツカレーではないか。確か姫月が好物の中に書いていた料理である。


「あれ?お前はカツカレー食ってんの?」


「あふぁふぃふぁ………(ごくん)…当たり前でしょ?なんだって私がオムライスなんてガキ臭い物食べなくちゃいけないのよ」


「いや、カツカレーも十分、子ども御用達のメニューだけど……」


「え?え?……あれも星君が作ってくれたんですか?」


「明日への景気づけにって……一人一人の好きな食べ物を作ってくれたみたいだよ。ほら、僕は餃子定食」


「はえ~……すげえな星畑………金髪も相まってどっかの海のコックみたいだぜ」


「誰が黒ひげに殺されるって?」


「白ひげ四番隊隊長サッチの方じゃねえよ…いやまあ、確かあっちも金髪シェフだったけど」


「お、恐れ多すぎます……も、もしかしてこの海鮮丼は……私のじゃ………」


「お前に関しては既製品の刺身をどんぶりに乗せただけだから感謝される筋合いねえけどな」


「じゃあ、俺はグラタンかな?……このカルボナーラは星畑のだろうし……」


「申し訳ないが時間の関係上、お前はオムカツカレーのカルボナーラとサラダ添えだ」


「ええ!? 何で!?」


「……今まで作ったことない料理を一人前だけ用意するのはむずかったんだよ。全料理漏れなく中途半端に余っちまって……」


「…………………サラダってこれ……刺身のつまじゃねえかよ」


「どうしてもいやなら、冷食だけどグラタン用意してるぜ?それか俺のカルボナーラと交換か」


「いや、いいよ。アホな子どものバイキングというか……長崎名物のトルコ風ライス風というか……こういうの結構好きだし……ていうか普通に刺身のつま以外美味そうだし……」


 というわけで各々が和やかに食事を楽しむ。既に半分以上平らげている姫月だったが、陽菜がテーブル側に引っ張り込んで何とか、全員揃っての会食を迎えることができた。


「お前、やっぱ料理上手いな………何かそういう路線で売りこんだらテレビとか出れるんじゃねえ?」


「いや、ちょっとばかし料理ができて顔が良くて楽器も弾けても、そう簡単にテレビに出れるほどプロの道は甘くねえよ」


「………………………………あっそ」


「だ、ダメですよ!そういう一芸に秀でてる系の芸人じゃなくてちゃんとネタで成り上がれるんですから!!私の見立てでは再来年ぐらいにR-1ファイナリスト………」


「星畑くんのネタってそう言えば見た事ないな」


「……………何というか癖だけで乗り切ろうとしてる感じが見てて辛いですよ」


「あ!!黒川てめえ…プロフィールん時に毒づいたのまだ根にもってんだろ!?」


「……………ヒナ、オムライス一口頂戴」


「駄目。こんな子どもっぽいもの食べれないんでしょ」


「……………不愛想ケチ助」


「………………モデル姫」


「…………………ヒナ…アンタ、私にたてつく気?泣き虫のシスコンの癖に」


「……………………………………………あしなが……肌白………モデル姫」


「何ですって!?」


「落ち着いて姫ちゃん。よくよく聞いたら全く悪口じゃないから……ホラ、僕の餃子で良ければ」


「あ………え、エミ様………私の…お刺身も……食べてください!」


「…………アンタねえ……餃子の後に刺身って……食べ合わせって奴を考えなさいよ」


「あう……すいません」


「マグロ3枚で許してあげる」


「星畑お前………カルボナーラだけ異様にクオリティ高くないか?」


「そりゃあ、自分の好物なわけだから…よく作ってるしな」


「ぶふっ!………何か下から……カルボナーラの底になんか塊が……」


「ンフフフフフ……ようやく餃子を掘り当てたな」


「チャレンジグルメか!!」


「ちょっと!凛!刺身を何もなしで食べさせる気?」


「ああ!そ、そうですよね!!すいません。あ……あったお醤油……」


「お食事中申し訳ないが、大切なお話の時間だ」


「ひゃあ!!」


 凛が醤油さしに手を伸ばした瞬間、いつもより二回りほど大きいボリュームでUの声が響く。察するに先程言っていた記念すべき最初の撮影についての事だろう。今までの準備だけで既に達成感を感じていた黒川だが、まだ本番のスタートラインすらも踏んでいなかったことを再度意識し、単なる日常風景の描写と思っていても緊張が増してくる。


「あ! えっと…………もしかして明日の撮影の事でしょうか?全員揃ったわけだし」


「その通りだが、毎度毎度こんな風に全員が揃った状態で指令を伝えるわけじゃない。基本的には黒川へテレパシーするだけだと思っておいてくれ」


「で? 別にただ普通に日常風景を切り取るってだけじゃないんでしょ?」


「ああ。だが、まあ、そこまで突飛なことをさせようというわけじゃない。ただ今回は特別だぞ。第一回目の放送というわけだから………ほぼ生放送に近い形で撮影を行う」


「ええ!宇宙に生中継ってことですか!?」


「ほぼ……だ。本当に生中継するわけじゃないが、ノーカットで日付が変わった瞬間から撮影を始める。既に番組の前情報は向こうで告知しているからな。もし順当に言っているなら今頃、何人かが配信を待っている状況じゃないかな」


「日付が変わるって………あと5時間半もすりゃ始まるってことかよ!」


「………私、そんな時間まで起きてたことなんて……大晦日の時だけだよ?」


「宇宙なのに時差とかないの?」


「そこはずらしてるんじゃない?」


「まあ、おおむねそんな感じだ。それで……内容についてだが、黒川!キミに歌を歌って欲しい」


「ええ!お、俺ぇ!?」


「おお~……オープニングセレモニーだね」


「やった。お兄ちゃん歌手だって言ってたのに全然歌ってくれないんだもん」


「…………これは…初回の視聴率は0.001%で決まりね」


 思ってた方向とは別角度の指令に思いっきり動揺する黒川。姫月の辛辣な意見よりも、期待感を煽る陽菜や天知の態度が胃に響く。


「そういや……お前、向こうじゃ大物アーチスト何だっけ?」


「言われてみれば………私も……黒川さんの生声は初めてです!!」


「勘弁してくれよ…………もう、人前で歌うのトラウマなんだから……」


「そんな弱気でどうする。で、キミらはそれを鑑賞するだけでとりあえずは大丈夫だ」


「私たちがこいつらの歌を聴くってこと?めんどくさ……」


「…………我慢してくれ。俺だってヤダよ。お前の前で歌うの」


「えへへへへ……ライブですねライブ!!」



                     7


 初回の内容は黒川にとってはイヤにもほどがある内容だったが、思っていたほど無茶苦茶な指示ではなく、内心ほっとする。そもそも、理解に苦しむが、宇宙人の中でのメインは自分自身だったのだ。それなら初回ぐらい歌ってやるのが、プロ根性というものだろう。という風に自分を納得させていると、目の前でいつの間にかパジャマに着替えている陽菜が目の前に立っていた。


「ん? どうしたの?陽菜ちゃん」


「うん………本番までちょっと寝ておいた方がいいって天知さんが……だからちょっと寝てくる」


「ああ、そうかもね。おやすみ」


「おやすみお兄ちゃん…………ライブ、頑張ってね」


(ライブではないだろ)「ああ、ありがと」


 二階に上がる陽菜を見届けると、星畑がしみじみとつぶやく。


「お前………妙に陽菜に懐かれてるよな」


「そうか? 俺から言わせればいつの間にか『星ちゃん』『陽菜』呼びになってるお前の方がよっぽど密な関係になってると思うけど」


「バカ!! お前、『お兄ちゃん』に勝てる呼称があると思うなよ!!」


「それに……陽菜ちゃんは女性陣の方がずっと距離近いだろ。姫月に至ってはもはやベストフレンドだぜ?」


「だ~れが……ベストフレンドよ!子ども相手に友情なんて感じるわけないでしょ?」


「………わ、私はヒナちゃんとはお友達だと思ってますよ!!」


「アンタはいいじゃない。精神年齢一緒なんだから」


 突然、会話に姫月と凛が混じる。着ている服はさっきと変わっていないが、髪が濡れているあたり、陽菜同様風呂に入ってきたのだろう。風呂上がりの姫月の破壊力に赤くなっていそうな顔を無理やり冷ますため、立ち上がって冷蔵庫に飲み物を汲みに行く黒川。


「そ、そもそも……ヒナちゃんはちっとも子どもじゃないんですよ!!」


「12時まで起きれないからお眠に入ってる奴のどこが大人だってのよ……」


「…………………ひ、ヒナちゃんは……その、9歳にして…夜の営みがなんであるか知ってますし…」


「どういう経緯でその情報を知ったんだよ……?」


「俺の漫画が過激だから見せられないって話してたら、イチャイチャくらい知ってるとさ」


「何よそれくらい。私だって、子どものころから親が四六時中盛ってたし……たまに帰って来たと思ったら隣でず~っと……」


(こいつの生活環境って……何か不穏だな。是枝作品みたい……)


「ちゃん陽菜が知ってるとは思えねえけどな~……どうせキスをイチャイチャだと思ってるってオチじゃねえの?」


「布団の中でって言ってたぜ?」


「車の中だってあるだろうがよ」


「…………………まあ、冷静に思い返してみると……『ヒョンヒョロ』もS〇Xの描写があったような」


「車の中だってあるぜ!?」


「うるせえな!!何でそんなカーセッ〇スを推すんだよ!Nの字の議員か!お前は!!」


「ヒナちゃんは!………カーシェックス(小声)なんて知りませんよ!!そもそもカーに乗れないんですから!」


「そもそも………アンタらはヒナよりずっとガキね」


「天知さんが買ってきたハンモック独占してるくせに良く言うぜ……」


「で、でも………黒川さん。こんなところで雑談してていいんですか?喉を仕上げなくて……」


「いや? 俺そんな……プロっぽいことやったことないけど……プロじゃないし」


「!! き、聞きましたか皆さん!これが……“本物”ですよ!!」


「凛ちゃん………俺を殺す気?」


「アンタ……ウザさだけじゃなくて、馬鹿さまで増してきてない?」


「え、えへへっへ……毎日、ホンット楽しくって………」


 毎日が異様なほど楽しいのは黒川も同じだが、こういう風にはっきりと言葉にしてくれる存在はやっぱりありがたい。星畑も…きっと姫月も今を悪くないと思ってくれてるだろうと信じている黒川だが、それでも時折、自分が人を楽しませるということができるわけないと重圧に、一人でに潰死しそうになる時がある。


「………………やっぱしとこっかな……ボイトレ………」


「変なプレッシャー感じんなよ……一人ではよく歌ってんだろ?だったら平気だろ」


「私、居るだけで聞かないから安心していいわよ」


「………お前ら……俺の緊張をほぐしてくれんだな……姫月はちょっとムカつくけど」


「あのう……リンスダグラムには上げないので……動画を撮っても………」


「……………………勝手にすれば」


「須田さんは黒川くんのファンなんだから……宇宙人と同じ権利くらい与えてあげなくちゃね」


「天知さん! 随分、カラスの行水でしたね」


「それが………お風呂のお湯が抜かれてて………今お湯を張りなおしてるところだよ」


「あ、あれ?お湯……流しちゃってましたか?」


「私が流したのよ。私の残り湯なんて悪用されたらどうなってたことか」


「どうもならんだろ……………………」


「そんな破廉恥なことはしないけど……まあ、おっさんに入られたら心証悪いよね」


「天知じゃなくて……黒川に言ってんのよ。如何にも性犯罪に走りそうな雰囲気じゃない……」


「………………マジで一回本気のセクハラしてやろうかな………」


「ンフフフフ……セクハラに本気も冗談もあんのかよ」


「あのう………黒川さん………歌のリクエストとかって……できるんでしょうか?」


「………まあ、特に選曲の指示はでてないし………いいけどさ…………」


「じゃ、じゃあ………そうだなぁ~………トーキングヘッズの……バーニングダウンザハウスとか?」


「難易度高いなあ……俺未だになんて発音してるのか分かんないのに……」


「洋楽はだめよ。どうせなら知ってる歌にして」


「好きな歌手にクラシックとか舐めたこと抜かす奴の知ってる歌なんてなあ……」


「うっさいわね………アイドル系の何かでいいじゃない。アンタ向こうじゃアイドルなんでしょ?」


「駄目ですよ!!せっかくの生歌唱なんですから!!商業チックな奴じゃなくって、もっと我流の…」


「相変わらず変な方向に尖った趣向だなぁ………俺、商業ロックとかそういう偏見あんま好きじゃないけど………この見た目でアイドルは確かにイヤかな」


「『歌い河チャンネル』で歌ってたやつでいいんじゃないかな?向こうではそれが黒川くんにとって馴染みの歌なんだろ?」


「ンフフフ………じゃあラストは『氷の世界』だな」


 その後、天知、星畑、黒川の順に風呂に入る。黒川が入浴を終えるころにはもう既に、誰の姿も一階にはなく、黒川も数日前に襲われた虚しい寂しさも特に感じずに自室に籠った。時間はまだ21時前、24時早々始めるなんて早すぎると思っていた黒川だが、こういう空白があるとやけに長く感じてしまう。


 特に何をするわけでもなく、音楽を聴きながらのんべんだらりんと時間を潰す。一応、『氷の世界』をはじめとする歌う予定ラインナップを流してはいるものの、自分がもうじき、地球を代表してこれら名曲たちをカバーするという実感が恐ろしいほど湧かない。先程感じたメンバーからの期待を裏切ってはいけないという緊張感も退屈と共に消えていった。


(まあ、どうせ本番直前になったら胃液君がお土産持って帰ってくるんだろうけど……)


 と、自虐的に考えながらレコードを替えていると、下からゴソゴソと物音がする。間取りの関係上階段から近い黒川の部屋は一階の音が聞こえやすいのだ。しかし逆に言えば、階段が近いはずなのに誰かが下へ降りてくる気配も感じなかった。


「歌聞いてたとはいえ……気づかないもんかな?」


 そう言えば、自分が最後に一階を後にしたくせに戸締りをしていなかった。まさかとは思うが念のため、警戒しながら一階に降りると、キッチンの方で電気もつけずに何かをいじくっている黒い影があった。思わず出そうになる声を抑えて相手の様子を窺ううちに、その小柄で小さな影に見覚えがあるような気がしてきた。警戒を解き、キッチンの電気をつける。


「……………陽菜ちゃん? 何やってんの?」


「もほへは!! ふんんふん!!ふばっ!!」


「ん? 何?何食べてんの?どんぶり?」


 あからさまに動揺している陽菜だが、すぐに観念したのか丼をキッチンカウンターに置き、こくんと頷く。いつも髪をくるくる回しながら照れている時と違い、耳まで真っ赤にしてうつむいている姿に今までにない印象を覚える黒川。しかしすぐにこれは照れてるのではなく、叱られると感じて身を竦めているのだと気づき、一先ず笑顔を作る。


「お腹すいちゃった?結構な量のオムライス食べてたと思うけど……」


 「よく食べるね」と続けようとしたタイミングで自分がデリカシーのないことを言っていると気づき押し黙る成長しない男。陽菜はと言えばチラチラと丼と自分の手元を交互に見ている。


「………とりあえず食べれば? 邪魔なら上いくし………」


「……………じゃまでは……ないけど……えっと……ごめんなさい」


「謝んなくていいよ。別に誰かの物盗って食べてるわけじゃないでしょ?明確に誰のか決まってない食料は自由に食べていいって家のシェフが言ってたぜ?」


「だ、誰の物も食べてない…………けど……」


「まあ、夜食って怒る人は怒るからねえ……体によくはないだろうし」


「うん。お母さんは……すごくおこる……怒りレベル3」


「お…………怒りレベル?」


「そう。1が注意、2がお説教、3が大人チョップ……お姉ちゃんが言ってた」


「ははは……じゃあ、俺が陽菜ママだったら大人チョップだったんだ」


「うん………お兄ちゃんは怒らないの?」


「そりゃあなあ………俺、腹減って深夜にコンビニとかしょっちゅうだし……陽菜ちゃんは……それ何食べてんの?」


「…………お茶漬け……海苔と塩昆布と、ちょっとだけごま油……」


「激渋………これは結構な常習犯と見たぜ」


「う…………だ、誰にも言わないで!!……お願い!」


「言わない言わない………どうせもうじき、放送開始だし……それまでゆっくり食べなよ。なんならさっき言ってたグロイ漫画読んでもいいから」


「うん………ありがとうお兄ちゃん」


 ゆっくりでいいと言う黒川の言葉をガン無視して凄まじい勢いでさらえると、黒川が持ってきた漫画を読む陽菜。どうも誰かに見られた時点で夜食を食べるという気分ではなくなってしまったらしい。


「あ………これだ……すっごいこわい……蛇の人のマンガ……」


「やっぱり日野日出志の『赤い蛇』だったかー」


「うん………この人の絵……すごい怖い」


「でも、どえらい面白いんだぜ。この漫画。特にこの『ハツカネズミ』とか」


「そっか………………………」


(あからさまに元気がない………夜食ってそんな恥ずかしいことだったんだろうか……オ〇ニー見られるみたいなもんなのかな……っていうのは流石に陽菜ちゃんに失礼か)


「……………この人の奴……面白い……もっと読みたい」


「古賀新一に目をつけるとは……中々見る目があるぜ」


(でも、漫画はすごい勢いで読むな………ひょっとしてやたら自分のことについて聞いて来たのも、食いしん坊だって思われてないか気にしてたのかな)


 あまり見ないようにしてきたが、丼の中に盛られたお米は中々の量だった。これはかなりの食いしん坊だなと悪気がなくとも思ってしまう。そしてそのまま、何とも微妙な空気のまま、遂に放送が始まってしまうのであった。



                     8


 黒川の予想は的中し、今までにないほど口の中は乾き、担いでいるギターは重い。こんなコンディションで本当に歌が歌えるのか不安になるが、もう5分もしないうちに放送は始まってしまう。今にして思えば、宇宙人とは何なのだろうか。自身がスターという事実を打ち明けられてからも、感じるのは不甲斐なさばかりで、自信なんてものは刻一刻と失ってばかりである。宇宙と地球という距離感よりも、ずっと遠い映像と現実の距離感。ヤラセや自分がカメラであることなど、黒川はすっかり忘れ、ただ緊張の渦に吞まれつつあった。しかし、宇宙人云々を抜きにしても、既に少なくとも5人の人間が今から自分の歌を聞こうとしているのである。最初はどうでもいいと思っていた宇宙人の存在をイヤに意識してしまう今では、この緊張がこの5人によるものなのか、それとも宇宙人たちによるものなのかすら判別がつかない。


「黒川さん…………ギターを持つ手が震えてます。武者震いですね………」


「イヤ…どう見てもあがってんだろ……大丈夫かアイツ」


「………ドキュメンタリーってんだから、聞いてられないってかんじたら上に行ってもいいのよね?」


「お兄ちゃんは大丈夫だよ」


「正直、僕も心配が勝ってるけど……まあ、どんな結果になっても彼なら大丈夫だろう」


 インテリアを隅に追いやったリビングに黒川一人を残し、後のメンバーはいつもと逆向きに置いたソファやらカーペットやらの上に座り、黒川を見守っている。いよいよちゃぶ台の上に置かれた醤油さしから大きな声がする。


「いよいよ始まるぞ………黒川はいつも通り軽く挨拶して、すぐに演奏スタートだ。初めて顔が映るんだから……あまり情けない表情で写るなよ?オーディエンスもな。初回が命なんだからな!それじゃ武しっかり頼むぞ!……五秒前。5……4………3……2……………」


「…………………………………………えっと、え~………シェアハウス……で…歌を歌うことになりました………短い……間ですが……お、お付き合い……じゃ、ない……えっと…なんだ。よ、よろしくお願いします……」


(おいおい……アイツ何言ってんだよ)


(だ、大丈夫だよ……須田さんがカメラを回してるから……そこに向かって喋ってるって思えば…まあ、緊張しているのはどうしようもないけど……)


(あんにゃろ……須田に救われたな。死ぬほど撮られてること意識してんじゃねえか)


 唖然とした顔で取り合えずまばらな拍手をする星畑と天知。凛は一心不乱にスマホを向け、陽菜は心配そうな顔で祈るように黒川を見ている。姫月は、はやくも暇そうに欠伸をしている。


 しかし、黒川にそれらの顔は見えていなかった。けっしてU側が何か細工をしているわけではないが、何故か黒川の目にはいつか見た夢のような何千ものサイリウムがキラキラと輝いているように見えた。もはや何をしているかもわからず、取り合えず何百回と弾いた「いとしのえりー」のコードをつま弾く。声が出ない。半分パニックになりながら、手だけシャカシャカと動かす。汗でぬるぬるとすべる手をしっかり弦に引っ掛けながら。

 ああ、もう、Aメロを引き終えているというのに、いつになったら声が出るのだろうか。しかしサイリウムは相も変わらず輝いている。何だと言うのだ。お前らは何で、何にそんなに熱中しているんだ。もう、勘弁してくれ。勘弁。俺は、スターになれる器じゃないことくらい分かるだろう。せめて動画でだけ、誰にも知られず、細々としていればそれで良かったのに。どうして、矢面に立たせるんだ。まともなコピーも作れないくせに。俺を、俺を辱めるな。浮かれた罰か。そりゃあ浮かれるだろう。あんなにカワイイ女子に褒められたら。でも、でも、その女子が褒めてるのだって画面の中の間抜けなコピーだろう。お前じゃない。お前じゃ。お前は何でもない。動画の中のコピーにすら劣る。何の価値もない。今だって何故、自分が声を出せていないのかすら。いつまでも分からない。出せていないんじゃない。聞こえていないんだ。分からないのか。そんな簡単なことすら、いい加減自分の声に向き合ったらどうだ?スターになれるかなれないかじゃない…お前がなりたいか、なりたくないか。煩い!お前は、誰だ。さっきから、お前が喋るから、自分の歌声も満足に聞こえない。


 カタン………………………………………………


 ギターの音と、それに負けることも逆に負かすこともなく張り上げられた絶妙な黒川の美声。それはメンバー5人が思わず、息を止めて聞き惚れる程、圧倒的なものだった。中でも凛は放心と言っても過言ではない程、固まって、掲げていスマホが手からするりと抜け落ち、地面に落ちて軽い音を立ててもそれを拾わない程である。そしてそんな、スマホとカーペットの軽い衝突音。誰の耳にも響かなかったであろう、どのスピーカーにも拾われていないだろう音が、凛の言葉にならない感動の音が、黒川の耳に静かに響いた。

 まるで完封を決めたピッチャーが天を仰ぐように、黒川は凛の方を見る。絢爛なサイリウムとは比較にもならない程、小さく縮こまった凛の姿をまるで、初めて出会ったかのようにマジマジと見つめる。その間も、黒川の手と口は慌ただしく動き続けている。そして、そんな自分の歌声がどんな高性能なイヤホンよりも鮮明な音で聞こえてくる。


(俺…………こんな声だったんだ。そっか……みんな、あの時、みんなはこの声を聴いてたのか。俺はこの声に、こんな声を出してる俺に酔いしれてたんだ)



                    9



「お疲れ様。まあ、かなり及第点というところじゃないかな。この映像が向こうに届くのはまだもう少し先だが、これならほとんど編集なしでいけるだろう」


 Uの脳波が、自分自身の声のように聞こえてくる。黒川の興奮というより、緊張は未だ、冷めやらぬものだったが、一先ず一回目のカットは終了したらしい。


「…………お兄ちゃん!すっごいびっくりした!!あの……もともと上手なんだろうなぁって思ってたけど………ずっと、ずっと!……凄いよ。本当にプロの人の声みたいだった。曲は一曲も分からなかったけど……今まで聞いたどんな歌よりもうまかったよ!」


 陽菜が満面の笑みで駆け寄って、黒川を絶賛する。


「ま、アンタが向こうでやたら人気って理由は分かったわ」


「いや、宇宙で人気なのは………動画越しの方なんだけど?」


 陽菜と姫月の声でようやく我に返った黒川は、恥ずかしそうに頭を掻きながらゴニョゴニョと謙遜だか、言い訳だかをする。


「いや…………正直、お前がマジで歌うまいなんて思ってなかったわ……あの動画も、上手いと勘違いして上げたのを後で言い訳の為に、加工したもんだとばかり」


「お前そんなこと思ってたのかよ!」


「いや、正直、僕も似たようなことを思ってたよ。動画越しだと声が変わるなんて、宇宙人以上に眉唾だったし……てっきり、自分でやったものだとばかり……」


「……………そんな痛い奴だと思ってたんですか?」


「悪かったよ……いや、タマキンもびっくりの歌声だったぜ……」


「玉置浩二を最低の略し方すんじゃねえ!!」


「ごめんね………いや、それにしても………あの声が……ああなるのか……とんだミステリーだな」


「須田!お前撮ってたんだよな!ホントに変わってんのか見せてくれよ!」


「……………………………」


「須田?」


「うぇあ!! あ………はい……と、撮ってますけど……あ、あれ?スマホは……」


「アンタの足元に転がってるわよ」


「あ、ホントだ………えっと……これ、再生していいんですか?黒川さん」


「いいよ。あらぬ疑いを晴らすためにも盛大にかけてくれ」


「わ、分かりました! み、皆さん!黒川さんの歌声は生でも素晴らしかったですが、こっちもまた、全く異なる素晴らしい味わいが……」


「いや……あらぬ疑いってそういう意味じゃないんだけど」


『え~っと……シェアハウスで、歌を歌うことになりました………』


「だあああああ!! そこはカットして!!」


「この時はマジで終わったと思ったぜ」


『弾丸死談CONT妙あれぇ?爪TAXIぃぴぎぃ喪SOUND』(空耳)


「うっわ……マジだ!」


「こ……怖い………ヒナの嫌いなキャラの声に似てる………あんなに素敵な声だったのに」


「アハハハハハハ!!何この素っ頓狂な声!!」


「…………いつ聞いてもサイケです………さいこお……」


「いつ聞いても不快だぜ……全く」


「これは………凄いね……こんな理不尽な仕打ちを受けてよくグレなかったもんだよ」


「これさえなけりゃあ……お前マジで……今頃、ファーストテイクとか出演してかもな」


 しかし、何はともあれ、これから撮影が始まるのである。撮影が終了し、一先ず各々が部屋に戻るが、興奮で眠るどころではない黒川は一階に降りて、コーヒーでも飲むことにした。すると、今度は凛が下から降りてくる。


「…………黒川さん………お休みにならないんですか?」


「うん………この後寝るなんて絶対無理」


「えへへへへ………私も………何だか寝付けなくて」


「そっか……凛ちゃんも飲む?」


「あ………はい。ありがとうございます!」


 二人分のコーヒーを淹れ、凛と、何故か立ったまま、啜る。


「あの…………さっきのパフォーマンス………素晴らしかったです………ホントに」


「アハハハ……ありがと。実は俺も……久しぶりに満足いくというか…何かスッキリ歌うことができたんだよね」


「そうなんですね………」


「でも、凛ちゃんは画面の中の変な歌の方がいいんでしょ? 俺の歌い方ってまんま大衆的だもんね」


「い、いえ……そんな。確かに、好きなのは画面の中のほうで……おっしゃる通り、歌うま番組何かに出てくる歌い方って……私は好きくないんです……何というか万人のマネッコって感じで……」


「うんうん」


「でも………何でかな? 自分でもよく分かんないんですけど…その……さっきの黒川さんの歌声で、私、泣いちゃったんです。感動した……というより、なんか……眩しくって……」


「そうなんだ……ありがとう…でいいのかな?」


「………カッコ良かったです…………」


「よ、よしてよ。照れちゃうぜ………」


「いつか…………あの………えっと…………私のバンドが出来たら……その、違う大学ですけど…く、黒川さんにボ、ボ、ボ………」


「コーヒー私のも頂戴」


「ひゃああ!あ、え、エミ様!?」


「お前も眠れねえの?」


「昼間寝すぎただけよ」


「…………俺も……さっきの待ち時間中に寝ちまってよ。寝れねえわ。陽菜もみたいだけど」


「…………丑三つ時に起きてることなんて初めてで、ちょっとドキドキする。牛乳あっためていい?」


「星君!ヒナちゃんも!………えへへへ、皆さん……寝付けないなんて……何だか運命感じますね」


「シンクロニシティだな」


「アンタらみたいに浮かれてるわけじゃないわよ。ただ寝すぎて……」


「僕は浮かれてるよ………というより緊張かな」


「ああ、天知さん。やばいな………コーヒーもうないっすよ……」


「いいよ……もう歯磨きはしてるからね」


「ンフフフフフ………歯磨きも晩飯も済ませてんのに……ホットミルクに角砂糖2個も入れてる奴がいるけどな……」


「星ちゃん……余計なこと言わないで………」


(夜食も食ってんだけどな……子どもだから許される蛮行だぜ)


「しかし……明日からかな? これからこのチームで撮影するなんて、年甲斐もなく緊張するよ。さっきの黒川くんみたくバッチリ決められるかな」


「どうせなら……チーム名が欲しいとこだぜ」


「いらんだろ」


「あ……私も欲しいな」


「姫月レミナとその下僕たちでいいじゃない」


「クニ河内とかれのともだちかよ!」


「ウフフフフ………実は私はもう考えてるんですよ……」


(考えてたんだ………)


「名付けて!『ノンシュガーズ』!!です!!」


「……………はい滑った」


「ぎゃ、ギャグで言ったわけじゃないですよ!!」


「何で無糖? 全員の頭文字合わせたとか?」


「どこも合わせてねえだろ。まず六文字じゃねえし………あ!ひょっとして無糖と六頭かけてる?」


「誰が大型動物よ!」


「まあ、チーム名なんてどうせ大っぴらにできるものじゃないんだし……勝手に考えとけば…」


「私はいいと思うけどな……ノンシュガーズ」


「ううう………ここまでバッシングを食らうと、何かすっごい恥ずかしい……あ、角砂糖、私ももらっていいですか?」


「そこは無糖じゃないんだ」


(そう言えば……だいぶ前に俺、自分の事を「宇宙規模のシュガーマン」って言ってたな……まあ、完璧な偶然だろうけど………)


 歌を歌いきった興奮は目の前の無糖のコーヒーと共にすっかり冷めてしまった。しかし、黒川が歌よりも大切にしたいものは今、丁度目の前に広がっている。各々の知らないこと、前代未聞な撮影、まだまだきっと壁の方が多いのだろうが、今の黒川はただただ活力と溌剌とした期待感のみが湧き上がっているのだった。





























 



















 

読んでいただきありがとうございます。今回の最後に出てきた「シュガーマン」というのはミュージシャンでして、リリースした本国では一切売れなかったものの、何キロも離れたとある国ではマイケル・ジャクソンやビートルズにも迫る勢いでヒットし、伝説のミュージシャンと呼ばれていたという変わった経歴を持っています。本作の主人公、ブラック黒川くんも似た境遇を歩むわけですが、彼が今後、歌手で活躍するわけではないのが、本作の変わったところです。まあ、小説でどれだけ素晴らし音楽だと説明しても伝わらないわけですから、今後は主人公のスキルの一つだとでも思っていただけたら幸いです。

それではまた次回お会いできることを楽しみにしております。

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