表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/70

Extra-それぞれの視点:民


 ――――時は、僅かに遡る。



 ――――――――――――――――――……

 ――――――――――――――…………

 ――――――――――………………

 ――――――……………………

 ――…………………………



 そこは、地下の大工場区画。

 分厚い防御壁を天井に備えた、有事の際の避難施設ともなるその場所には、逃げ仰せることが出来た地上の人々が、静かに時を待っていた。

 地上では、今、大きな災害が起きている。何者かによる襲撃、何者かが呼び出した獣が、人々を食い荒らし、街を灼いていた。


「あのボウヤは大丈夫かねえ……」


 避難民の一人、年の割にはしゃんとした老婆は、一人の少年の事を思っていた。

 獣蔓延(はびこ)る都市に、その身ひとつで人の安否を気遣いに来た、少年のことを。


「わざわざあんな中、俺達の様子を見にくるなんてなぁ……」


 老婆の周囲にも、同じように思う者は僅かに居た。

 その数僅かに十数人。

 されど、その全てが少年に説得され、その言葉に未来を見た人々。


「あの坊主は、ミラ様のお知り合いなんだろ? なら無事なんじゃないか」


「だが、今になってもあの坊主は降りて来てないぜ。どっか別の区画に避難できてりゃいいんだが……」


「でも、他の区画でも見た人は居ないって言うよ」


「……死んじまった、なんてこたぁねえよな……」


「バカ! 縁起でも無い、そんなこと言うもんじゃないよ!」


 各々が各々に、その思いを口にする。

 今彼らが知りうる情報から、あの少年の安否は確認出来ていない。

 そこから生まれる諦観、諦めと悲しみが、その場を包み始めた。


「アタシらはあのボウヤと約束したじゃないか、信じてやろう」


 それを一喝するように、一番年長である老婆が言う。

 彼女は、確かに約束を交わした。

 明日も飯を食いに来ると、あの少年は言ったのだ。

 だから、あの少年を信じて待とうと。


「――――そう、大丈夫さ。彼ならね」


 テーブルの向こう。のんきにもお茶を啜っていた優男が呟く。

 一人で何かを納得して、微笑みを絶やさずに。


「アンタ……何でそう落ち着いてられるんだい?」


「そりゃあ彼は()()だからさ。怪我もしてるだろうし、辛い思いだってしてるだろうけど」


 急須から茶を淹れながら、男は言う。

 その振る舞いは、全く以て日常のそれ。非日常に包まれた空気の中で、最も異質な姿ともなった。


「それでも大丈夫だよ。彼がそうで在り続ける限り。だから、慌てず騒がず、彼がまた訪れた時には迎えてやってよ」


「さあ、お茶でも飲んで待ってよう。今はそれでいいんだからさ」


 男の微笑みは、周囲の皆を安堵させるに十分なものだった。


 今は、待とう。信じて、待とう。

 それは祈りとも言えるような、人々の願い。


 ――――彼らの神の代行者が、その顛末を知らせに来るまで、あと数刻。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ