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第18話 出向、終末部


 翌日のこと。

 出社したら、そのまま終末部へ出勤するように指示されていたので、何時もの仕事場へは向かわず、終末部へと足を向ける。

 扉を開き、洞窟を進んでいくとそこは大きな広間で、中央に神殿があった。

 しかし今日は、最初に来た時や、普段の書類引き継ぎで来る時とは大きな違いがある。


 ――炎の群れ。青や紫、赤、生きた魂が燃え、煌めく炎。いわゆる人魂というようなもの。それが広間に、神殿へと向かってひしめいていた。

 普段はあっても1つ2つだが、今日はざっと100以上。昨日言っていた通り、一気に転生予定者の魂が到着してしまったらしい。


「あ、雨宮さん。お疲れ様でーす」


 魂の交通整理をしていた男が声を掛けてきた。彼はタナさんに仕える不死者の一人で、名前を〝エリントン〟と言う。

 最初に此処に訪れた時、驚かしてきた為に暴力を振るってしまった骸骨の一人だ。後に名前を聞き、書類の引き継ぎ等で会ううちに親しくなった。

 彼ら不死者は普段は骸骨の姿をしているが、受肉するとちゃんと人間の姿になる。外見が若干チャラ目なのはタナさんの趣味だろう。


「どうも、お手伝いにきました」


「いやー、ほんと助かります。見て下さいよこの魂の列、いやー壮観壮観、これぞ魂の大洪水! こんなの滅多に見れないっすね」


 エリントンに頭を下げ、手を差し出す。それを握り返してきた後、彼は周囲の魂を見渡して言い放った。


「確かにイルミネーションみたいで綺麗ですけど、これ全部面接待ちの列なんですよね……」


 空には夜空、向こうには神殿。

 しかも煌々と燃える魂が、列を成して辺りにきらきらと明かりを放っている。


 ――まるで神話の風景だ。冬になると現れるイルミネーションより美しいと感じる。

 ……現実は面接待ちの列なのだが。


「そうなんですよねー、現実ってつらーい! まあでも、俺達不死者は面接出来ないんで、頑張って下さいね!」


 昨日聞いたところによると、不死者はこの〝転生者面談〟には向かないらしい。

 死ななくなった結果、生きてきた者と向き合っても理解出来ない話が多い為、とかなんとか。

 普段はタナさん一人でやってる仕事らしいが、それがここまで増えてしまうと流石にどうしようもなくて、人手を頼みに来たというわけだ。


「はい、じゃあ行ってきますね」


「はーい、よろしくお願いしまーす!」


 彼の見送りを受けながら、中央の神殿へと向かう。

 魂達は、何を言うでも無くゆらゆらと順番を待つように漂っていた。






 ―――――― ◆ ◇ ◆ ――――――






「あっらー、よく来てくれたわねユキちゃん。待ってたわ!」


 神殿に辿り着くと、タナさんが出迎えてくれた。

 魂は二つの列に分かれており、それぞれが別の小部屋の前に並んでいる。

 と、言っても……どちらも進んでいないようだ。

 まあ、それはそうか。面接担当のタナさんが此処に居るんだから。


「それじゃ説明するわね。アナタにやってもらうのは転生者の面談、この子達の話を聞いてもらうわ。その上で、転生しても良さそうか判断して欲しいの」


 タナさんが居並ぶ魂を指さして言う。


 しかし、此処での仕事でいろいろな事を知ったとは言え、人の適性を見る程のスキルはまだ無い。

 そもそも、人様の人生の善し悪しを判断できる程の人生経験もない。

 考えあぐねているというのに、タナさんは楽観的な表情だ。


「大切なのは調子(ノリ)情熱(パッション)よ! ……っていっても難しいわよね。だから〝よそでもしっかり生きていけそう〟って思う子なら〝適性あり〟って考えるといいわ」


「……わかりました、でも本当にいいんですか? こっちの判断で」


「もっちろんよォ! 詳しいことは机の上にメモが置いてあるから、始める前に目を通しておいて頂戴な」


 頑張ってね~☆ とタナさんに背を押され、片側の小部屋へと向かう。

 これから始まる面談に、少し気が重くなった。






 ―――――― ◆ ◆ ◆ ――――――






 小部屋に入り、椅子に座る。机の上には書類の束と、小さな呼び鈴、そして書類の上にはメモが1枚。

 これも仕事だと割り切って、いつものように呼吸と心を落ち着かせた後、書類の上に置かれたメモに目を通した。

 

 ……ピンク色の紙に書かれた丸文字の〝ユキちゃんへ(はぁと)〟という書き出し。

 これを書いたのはタナさんだろう。


 メモによると、机の上の鈴を鳴らすと魂が部屋に入ってくる。

 その後、魂のこれまでの生い立ちを聞いて、適性アリなら書類にチェックをつけておくように、と書いてあった。

 その後、適性の有無に応じて書類の束をわけて置けばいい、とのことだ。

 終わったら、また鈴を鳴らせば魂が出て行って、もう一度鳴らすと次の魂が入ってくると書いてある。

 ……簡単なマニュアルだが、大丈夫だろうか?


「それじゃ……始めるか……」


 多分、大量の新卒生を捌く面接官っていうのはこういう気分なんだろうな。なんて考えつつ、呼び鈴へと手を伸ばして。


「最初の方、どうぞ」


 呼び鈴を鳴らすと、扉を突き抜けて、ぼうっと燃える魂が部屋に入ってきた。

 それはゆらゆらと揺らめきながら、机を挟んで向かい側にたたずんでいる。


「では、適性面談を始めさせて頂きます。……貴方の人生について、お聞かせ下さい」


 魂に、こちらがどう見えているかは分からないが、もし何か感じているならあの世の裁判官みたいに見えるだろう。

 極力、恐怖を与えないように……、精一杯の笑みを向けて、目の前の〝人〟に向き合うことにした。

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