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第17話 突然の依頼


 その日は特に難しい仕事もなく、半日が過ぎていた。静かで穏やかな昼下がり。

 きり良く仕事を片付けたので、持ち込んだコンビニ弁当を食べていた時のこと、それは突然訪れた。


「――ごめんなさい、アスカちゃん居る?」


 訪れたのはタナさんだった。終末部の部長……というか管理者だ。偉い人、というか神のはずだが、偉ぶる様子を見せず〝常に美しく(エレガントで)あれ〟という振る舞いをする。

 走ってきたのか、少し息が上がっているように見えるが、それでもメイクは崩れていない。流石だ。


「ターちゃん、どしたの急に。こっちまで来るなんて珍しいじゃない」


 キャビネットとにらめっこをしていたアスカが、それに気づいて声を掛けている。


「あのね、すっごぉーい言いづらいんだけどぉ……お願いがあるの☆」


 タナさんの言葉を聞いたアスカが、げっ、という顔をした。

 こういう時の〝お願い〟は、大概が厄介事と相場が決まっているものだ。

 ……とりあえず、聞き耳だけは立てておこう。


「もしかして誰か貸してくれなんて――」


「さーすがアスカちゃん♪ その通りよ! 人手、貸して頂戴! 2日……いや3日間でいいわ! 本音を言えば4日!」


 アスカの言葉を遮るようにして、タナさんはその〝お願い〟をした。

 威風堂々たる立ち振る舞いで、悪びれる様子もなく、何故かいつの間にか日数を増やしている。

 ……2日が4日って。倍じゃないか。


「そこ増やすところじゃないでしょ! それはそれとして、今回はどうしたの?」


 当然のようにアスカが突っ込んだ。

 とはいえ、そこは仕事の出来る人、理由はしっかり聞くつもりらしい。


「実は転生予定者が200人くらい一気に送られてきちゃって……調整したつもりだったんだけど手違いが起きちゃったのよ」


「あー、転生前の適性面談か……」


「そ、だから明日から誰か貸して頂戴! 予定者の話を聞いてくれるだけでいいから。部長さんには後でアタシから別で話通しておくわ」


 タナさんの仕事のひとつに、異世界転生者の管理というのがある。

 本来、各世界で死んだ者の魂は、そのままその世界の中で循環するもの、と定められているが、必要によって別の世界……例えば、第7世界から、別の第○世界へと転生してもらうことがあるという。

 転生前後の説明や記憶関連の引き継ぎ処理、加えて転生に適しているかの面談はタナさん達〝終末部〟が請け負っており、その後、各世界の神々に転生者の魂を引き渡すことになっている。

 その仕事が、いきなり大量に降りかかってきたらしい。


「うーん……っていってもこっちも忙しいんだけど――」


 少し困ったような表情をするアスカ。彼女は表情に出やすいタイプだから、態度がわかりやすい。

 そんな彼女との付き合いが長いタナさんは、彼女の御し方を知っていた。

 手元から1枚の紙を取り出して、微笑みを向けている。


「此処にちょうどスイーツ食べ放題チケットがあるんだけど……忙しいなら別の所に――」


「乗った!」


 ……ほんとにそれで乗って良い仕事なのか……?

 聞き耳を立てながら少し様子を伺っていると、不意にアスカと目線が合ってしまった。


「じゃあ誰にお願いしようかな……あ、そうだ。雨宮君、お昼中悪いけど、ちょっと来てくれる?」


 案の定、ターゲットにされてしまった。

 目があってしまったのが運の尽きという奴だ。

 仕方ない、と思いながら席を立ち、アスカとタナさんの元へと向かう。


「はい、なんとなく聞こえてましたが……」


「ならお願い! 明日から4日間、ちょっとお手伝い行ってきてくれないかな。他の所のお手伝いも良い経験になると思うんだけど、どう?」


 アスカが両手を合わせ、拝むように頼み込んでくる。

 彼女は〝出来ない仕事〟は振ってこない。出来ないと思ったら、声は掛けないだろう。

 そう考え、了承の言葉を返した。まあ食べ放題チケットで売られた事実は変わらないが。


「ええまあ……俺でよければ」


「良かった! じゃあ、明日からお願いね。こっちの仕事は上手くやっとくから」


 彼女の顔がぱっと明るい笑顔になった。

 隣に立つタナさんも、両手をあわせてキャー! と喜ぶように片足を上げている。

 ……なんか古くない? その格好(ポーズ)……なんて口にしたら何されるか分からないので黙っていよう。


「あら、ユキちゃんが来てくれるの? なら安心ね♪」


「いい加減その呼び方やめてくださいよ、女の子じゃないんだから……」


 タナさんは何故か〝ユキちゃん〟と呼びかけてくる。書類を渡しに行ったりすると、そう呼ばれるので、気恥ずかしい。

 流石に恥ずかしいのでやめてくれ、と何度も言っているのだが聞き分けてはくれなかった。

 この年で可愛い、と言われても困るのだ。外見はさておき、中身は、うん。


「まあまあ、いいじゃないの可愛いんだから。明日から4日間、よろしくね☆」


 そうして、4日間の特別な仕事――終末部への出向業務に就くことになった。


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