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こちら異世界管理局! ~World Wide Watcher's~  作者: 坂神 凜
Prologue ようこそ異世界管理局!
1/70

第1話 その面接は突然に-1


「……ん、んぁ……?」


 日差しが顔を照らす。開け放ったままの窓から吹き込む風は冷たく、冬が差し迫っていることを告げていた。

 身体を()でる冷たさか、それとも内側から巻き起こる空腹の(うごめ)きか、ふいに目が覚めた。

 ああ、もう昼を過ぎているのだろう。下手すれば夕方か。


 ――なんという昼夜逆転生活。昨日の夜中、4時頃までセールで買ったデジタル積みゲーを消化していた、というのが明確な理由だ。

 流石に戦記物をぶっ通しでクリアしようなんてのは、無茶が過ぎた気がする。


 ……というか、今何時だ?

 枕元のスマホに手を伸ばす。時計が示した時刻は、14時32分。昼というには遅く、夕方というには早い。おやつの時間ですらなく、黄昏の差し込む頃合いとも言えず。

 なんとも中途半端(ちゅうとはんぱ)な時間だ。


「あちゃー……。今日は早いうちに買い出し行っておこうと思ったのに」


 寝ぼけた眼でスマホに届いた諸々の通知にも目を通す。ソシャゲの通知、SNSやチャットアプリが繰り出すどうでも良いニュース。

 そして、友人に宛てた連絡の返信。


「――――……、そっか。仕方ないよな」


 内容は、誘いの断りの連絡だった。

 加えて、もう連絡してこないでほしい。という絶縁の願い。

 きっと、彼にとって〝この自分〟は、悪く映ってしまったのかもしれない。


 ――少し〝優しすぎた〟かな?

 まあ、何時ものことだ。上手くいってる、と思ってたけど仕方ない。


 今までありがとう、と簡単に返事を返そうとして、止めた。

 そのまま、また別のスマホの通知を眺める。

 最後の方に、埋もれるようにこの間行った面接の結果を知らせるメールが届いているのに気づいた。


 〝選考結果のご連絡〟という題名で予測は出来ている、が……少しだけ緊張する。こういうものは開けてみなければ分からない、どっかの学者(シュレーディンガー)も猫を犠牲にしてそう言ってのけた。

 そんな自分に、ははは、と苦笑しそうになりながらメールの文面を開き。




 ――――――――


 雨宮(アメミヤ) 幸彦(ユキヒコ) 様


 時下(じか)ますますご清栄(せいえい)のことと存じます。


 この度は、弊社(へいしゃ)求人にご応募いただきありがとう誠にございました。

 慎重なる書類、作品選考の結果、この度は残念ではございますが、

 貴方様のご希望に添いかねる結果となりました。

 誠に申し訳なく存じますが、ご了承(りょうしょう)くださいますようお願い申し上げます。


 末筆(まっぴつ)ではございますが、貴殿(きでん)の今後のご活躍をお祈り申し上げます。


 ――――――――



「――やっぱりなぁ」


 届いたのはいつもの〝お祈りメール〟という奴だった。


 雨宮幸彦、34歳。元ゲーム開発者……といってもエンジニアではなく、プランナー寄りの作業をしていたのだが、半年ほど前に仕事を辞めた。

 デバッガー出身だが、勤めた会社がいわゆるブラックだった事もあって、ろくな実績もなく、転職活動の花になるようなスキルもない。

 独学でゲームエンジンを勉強してはみたものの、それでも特に作りたいものも、情熱も持てなかった。

 つまり、いろいろやったがどれも中途半端に終わってしまった。

 とはいえ、これ以上この企業に勤めていても先はない、と離職を決め、転職活動をして……完敗している。


 まあ、仕方ないよネ! 応募してるのは有名どころばっかりだったし。

 現実は非情である。という結論が突きつけられるのには割と慣れたものだ。






 ―――――― ◆ ◇ ◇ ――――――






「……とはいえ、そろそろ本格的にどーにかしないとなぁ。いろいろ切り崩しても……持ってあと数ヶ月ってとこか」


 ごろり、と寝返りを打って、おもむろに積み上げている漫画の山の間から、求人誌を手に取る。

 昨今の世界的な危機、加えて日本の経済状況、その他諸々……。そういった条件が折り合い重なり、良い求人というのはなかなかないものだ。

 世の人々なら〝職なんてえり好みしなければ()()()()()ある〟というだろう。ただ、それでも今までやってきたことを活かしたい、というただ一点の我が儘(プライド)にしがみついて、足掻(あが)いているだけ。

 〝そうあるべき〟という意志が働いているだけの話だ。


 しかしまあ、それでも食べるに困れば致し方ないというところはある。

 求人誌をめくりながら、ぼんやりと考える。

 今の時代ではネットでも探すことは出来るが、たまにこうして求人誌を見てみると、業種は全く違えど面白い求人があったりもするものだ。


「…………んん?」


 求人の中に目を引くものがあった。

 求人誌の片隅、最も小さい枠に掲載された味もそっけもないような求人内容。

 歩いていて、ふと黒曜石を見つけたような……そんな気分で目についた求人に目を通す。



 ――――――――


 雇用待遇:正社員(試用期間3ヶ月の間は契約社員待遇とする)

 職務内容:クライアントとの折衝(せっしょう)

      及びチーム運用、及び他チームサポート

 勤務時間:応相談(原則フルタイム8時間制)

  勤務地:要相談

   休日:完全週休2日制(ただし出張等による臨時出勤等あり)


 ご興味をお持ち頂けた方は下記までご連絡ください。

 World.Wide.Watcher's Tel:xxx-xxx-xxxx


 ――――――――


 普段なら目にもとまらないような求人だ。ああだこうだと着飾(きかざ)った文章すらない。というか最低限の内容すら満たしていない気がする。

 ただ、それでも何か目を離せない。


 ――そういえば、クライアントとの折衝(せっしょう)ならデバッグ業務で結構やったし、プランナーになってからは、チーム運用もそれなりに関わった。

 業種も相対するクライアントも全然違うだろうが、もしかしたら今までの仕事が活かせるかもしれない。

 そんな僅かな希望が、小さく、ほんの小さく湧き上がった。


「……とりあえず、連絡だけでも入れてみるか」


 そろそろ15時にもなろうという所、普通の会社なら昼休みも終わって業務に戻っている。

 ちょうど時間的にも落ち着いている頃だ。そう考え、スマホを操作する。

 ……思いついたらとりあえずやってみる、という性格にも難儀(なんぎ)してきたが、こういう時は役に立つものだ。






 ―――――― ◆ ◆ ◇ ――――――






<Prrrr...Prrrr...>


「はい、こちら受付担当です」


 3コールも待たずに電話は繋がった。相手の声は明朗(めいろう)な女性のもの。

 女性と話す時は、これまた少し緊張する。賢者(どうてい)だし。


「お忙しいところ恐れ入ります、求人誌を拝見してご連絡させて頂いた――」


『あぁっ! 面接希望の方ですかぁ!?』


 急に相手の声色が変わった。驚いてスマホを落としそうになる。

 ……あんな求人内容で、あんな小さな枠なら連絡してくる希望者も少ないだろうし、わからなくはない。というか、アレで本気で雇う気があったのか、とすら思う。


『あ、オホン……失礼しました。この度は面接のご希望ありがとうございます。つきましては早速面接の日程などお話させて頂きたいのですが……』


「ありがとうございます。あの、書類選考などは?」


『それは面接の折に拝見させて頂きますのでご安心ください』


 徐々に女性の声色が戻ってきた。

 彼女もよほど恥ずかしかったのか、声色に照れが見え隠れしている。


『そういえばお名前を伺っておりませんでしたね、私はアスカ、と申します』


「すみません、失礼しました。私は雨宮と言います、よろしくお願いします」


『はい! こちらこそよろしくお願いしま――』


『では面接なんですけれども、弊社は面接の形態が少し特殊でして……何処か雨宮さんのご近所にカフェとかありませんか?』


 お互いに名乗りあったところで、相手の方から話を切り出してきた。

 なんというか、初対面の相手に頭を下げたら相手も下げてきて、ゴチン! なんて頭をぶつけあってしまったような気分だ。


 カフェ? まさか、この近くまで来て面接するつもりか?

 普通ならまず無いことだ、転職エージェントと会うとかならまだしも、普通はこっちから伺う、というのが筋だろう。

 ……まさか、マルチ勧誘(かんゆう)とかじゃ……? なんて一抹の不安がよぎる。


「カフェ、ですか……ああ、駅前にありますが、こちらの方まで来て頂ける、ということでしょうか? オンラインなどではなく?」


『はい、弊社が採用を行う際の一次面接は、志望者の方のご近所で直接行うことになっておりまして。ご面倒おかけしてすみません』


「いえ、こちらこそ。でしたら…………」


 近隣駅、そしてその近くにあるカフェの住所を伝える。

 縁あって店長と馴染みになり、時折利用している場所だ。


『わかりました、大丈夫です、ではそちらで面接させて頂きますね、お時間はいつ頃がよろしいですか?』


「そうですね、こちらとしては今週一週間の間であれば何時でも可能です」


『それでしたら急なんですけど、明日の……そうですね、明日の13時などいかがでしょうか?』


「明日ですか!?」


 ――流石に急が過ぎる! すっとんきょうな声で答えてしまった。

 ひとまずは、小さく咳払いをして取り繕う。


「ああ、いえ……すみません。明日大丈夫です」


『はい、でしたら明日13時にて設定致しますね。面接には私がお伺いします!』


 この人が来るのか……?

 ここまでの状況の流れは、イレギュラーの中のイレギュラーと言ってもいい。面接の時点で好待遇が過ぎるというものだ。

 ……でも、彼女の声から誰かを騙そう、というような悪意は()()()()()()()()

 不安は募る、が最悪……騙されそうになったらなんとか逃げ出せばいいだろう。


『それと、当日はこれからお伝えするものをご持参ください』


 彼女から伝えられたのは履歴書、職務経歴書、といった一般的な必要書類だけだった。

 その辺りの準備なら既に出来ている。用意するのは問題ない。

 服装も自由で良い、と言われた。とはいえ流石にジャージで行くような無作法は出来ない。適当な服を見繕っておこう。


『それでは、明日お会いできるのを楽しみにしています。よろしくお願いします』


「こちらこそ、さっそくお会いできる機会を頂きありがたく存じます。どうぞよろしくお願いします。……では、失礼致します」






 ―――――― ◆ ◆ ◆ ――――――






「……とりあえず、明日か」


 電話は難なく切れ、後には明日面接する、という約束が残った。

 ……いや、本当に大丈夫なのだろうか、という不安も残る。

 ただ、もう動き出してしまったのだからどうしようもない。自分で動き出したのだから、仕方がない。

 とりあえず、やるだけやって駄目ならそれまで、騙されたならそれはそれ、裏切られたならそれもまたそこまで。

 流れ始めた水は止められないのだから、やるだけやってみよう。


 ――その選択が正しかったかどうかは、どうせ()()()()()()()()()()()()

 〝O world, (嗚呼、人の世の )thy(なんと ) slippery(うつろい)turns!(易きことか!)〟なんて謳ったのは、何処の誰だったっけ。

今日中にあと2話、プロローグの終わりまで掲載予定です。


それと次回から後書き欄にキーワードのメモなどを書いたりします。

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