石になった今日この頃
趣味と文章力&タイピング技術向上のために書き始めました。
おかしな点があれば、文章や設定の矛盾などの指摘を是非お願いします。
とある宮殿の大広間にて。
「ラチア──貴方を十代目の賢者に任命します」
その声と同時に歓声が響き渡る。
俺はそんな中、九代目賢者で俺の師匠、ラリマールから帽子を貰う。
「前々から思っていたんだが、やはりこの帽子はダサいと思うんだ。ランヲルトの所はあんなに可愛いのに、何でこの国は帽子をいちいち作り変えるのかなぁ。帽子を設計した奴に文句を言いたいよ。私がどんな気持ちでこれを被っていたか」
師匠が懐かしむかのように愚痴る横で、そのダサい帽子を設計した王様が苦笑いをしている。
代々賢者にはその国特製の帽子が贈られる。その帽子は賢者から賢者に受け継がれ、使えなくなればその時の国王が新たに帽子を作るのがこの国の伝統なのだ。
俺は歓声にかき消されないように声を出す。
「ありがとうございます師匠。期待には必ず応えて見せます」
俺は帽子をかぶり、自分が賢者になれたことを改めて実感した。
賢者──それは王国に一人しかいない魔法使いの頂点。そしてこの世界には七つの王国がありそれぞれの王国に一人の賢者がいる。
昔、人と魔族の争いがあったときに各王国から選ばれた、七人の魔法使いによって人間は勝利したとされ、それ以降七つの王国で一番の魔法使いに、賢者の称号が与えられるようになった。
一番といっても、国によって賢者のなり方は異なる。魔法大会の優勝者だったり、王様が決めたりと色々あるが、この国では賢者が弟子を取りその中から賢者が決められるというものだ。
そのため師匠には俺を含めて多くの弟子がいる。
そして、俺はその七人しかいない賢者のうちの、ウルジャンタ王国の十代目賢者になった。
俺が振り返ると、大広間にいる貴族が今までよりも大きな歓声を上げる。王国にとって賢者の誕生は、それ程に重要なことなのだ。隣の国では賢者が誕生した際には国で三日三晩のお祭りが開かれるらしい。
しかし──
「何であいつが」
「おい、聞こえるぞ」
魔法使い、つまり俺の仲間からは喜ばれてはいない。それもそのはずだ。何故なら俺には彼らのような才能がないからだ。彼らからしてみれば、自分よりも劣っていると思っていた奴が自分の上にいるのだから当然だろう。実際俺と彼らが決闘をしたなら、間違いなく俺が負けるだろう。
しかし賢者とはそう簡単な称号じゃない。国に何百人といる魔法使いの中から唯一の者に与えられる。彼らは確かに俺より強いが、それは唯一ではない。俺より強い奴なんていくらでもいる。まあ、強いから賢者になれたやつももちろんいる……師匠とか。
しかし、だからこそ俺は唯一を目指した、その苦労を彼らは理解しようとはしないだろう。それが出来たなら、今ここにいたのはもしかしたら俺じゃなかったかもしれない。
俺は今までのお返しとばかりに精一杯の嫌な笑顔を浮かべ、彼らに告げる。
「俺はお前らと違って努力したからね。それが認められただけだよ」
見下すような言い方に苛ついているが、彼らは何も言えない。俺はそれだけの地位に就いたということに心が躍った。
長いパーティーが終わり、俺は自室に戻る。賢者の部屋は王宮にあり、パーティーの間に荷物が運ばれていたので、その整理をする。
ここまで来るのは本当に長かった。師匠に弟子入りしてもう30年。俺よりも才能があるやつらを脱し抜くために、あらゆる魔導書を読み、そのどれでもない研究をした。当時は全員が馬鹿にしたものだが、無事研究は成功し、俺独自の魔法を完成させた。一時は諦めそうにもなったが、あいつと師匠の御かげで、俺はここまでこれたといってもいい。
「そう言えば今日あいつは来てなかったな。明日にでも礼の一つでもしてやるか」
あいつは確か今、錬金術の研究をしてるんだっけ? 賢者の権力であいつの研究費をふやしてやろうかな。
俺はこれからの生活を想像していた。そして──
──俺は石になった