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覆面狂詩曲 ~白猫を添えて~  作者: 餅鍋牛
来訪編
7/26

覆面と金塊売却

毎日じゃなくて二日おきに投稿になるかもしれない


 戻った先はなんと冒険者協会の二階だった。

俺は今、たくさんの冒険者に囲まれてあの戦いについての質問をマシンガンの様に受けていた。


「なぁ!あの龍ってなんなんだ!」


「口から魔法を出してくるゴーレムなんて見たことねぇよ、しかも龍!」


「あのでっけぇ奴は何なんだ?死ぬかと思った」


「地面が揺れていたのもお前のせいか?すげぇな!」


「嬢ちゃん!一番近くで見てたろ?種を教えてくれよ!」


 などなど、アイノも俺ももみくちゃにされている。

こういうときはついつい教えたくなってしまうが、俺のはほとんど相手の意表を突くことでできるような不意打ち専用先手必須のがばがば戦法なのだ。もし俺の動作が理解されでもしたら普通に対抗されて終わる。

 そういう点もいろいろ考えられているのか知らないが、受付が冒険者たちに邪魔だからどっかいけという旨を伝え冒険者は「酒奢るから教えてくれ」とみんなして食堂へ移動していった。


 アイノは冒険者の勢いにビビッて目を回している。そうだよなぁ、だって下半身が蜘蛛なやつとか腕が背中から生えているやつとかまさに人外がたくさんいたからなぁ。ゴリラもそうだったわ。

というか、魔族と人間ってあんまり大差ないよな。すこし体のつくりが違う程度じゃないか。それこそもっと骨だけの奴とか期待してたのに。


「それにしてもお前、よくあのレオナルドを倒せたな」


「結果はこいつの自滅だと思うぞ。俺は時間稼ぎしてただけだ」


「それでもだ、俺より強いんだからなあいつ」


「そりゃそうだろうな。なんだよあの腕、こえーよ」


 そうだあの腕だよ。グルマンディーズ・エンペラーだっけ?こっち見てへんな表情の目をしやがって気色悪い…


「あの手!すごかった!でも悪そうには見えなかったよ?」


「そうかぁ?うーんわかんねーな」


「でもお父さんの魔法はもっとすごい!卵はなくなっちゃったけど…」


「あぁ、まぁあれはなくなってもいいんだよ。俺には手に余るし…」


 ジャバヒレティト・クァッタの卵とか、正直持ってても困るだけだ。あんなのが孵化でもしたら正直怖すぎる。普通の卵と違って硬さは異常だったし、あれを破って出てくる小鳥とか普通に化け物でしかないだろ。これでよかったんだきっと…


そういえば卵で思い出したが、アイノはあの卵どこへやったんだ?あの看板の奴。


「持ってるよ、どう?すごいでしょ~」


「え、マジかよ。あのとき少し気絶してたのに…」


 どこからともなく取り出したアイノに渡した看板の卵。看板の卵っていうと中から看板が出てきそうな妙な卵になってしまうな。

ひびは…割れてないな。結構振動とかあったのにずっと持ち続けてたのか。なんて子だ…

 アイノは卵を今度はどこかに仕舞った。どこに仕舞ってるんだろう、今胸に入れてった気がするんだけど…

え、大丈夫だよね、アイノ子供だよね。うん、絶対そう。もし違ったら着痩せするのレベルじゃすまされないことになるぞ?なんで胸に入れるんだ。


 それに関してアイノに色々聞こうとしたが、それは突然現れた人影によって中断される。前にもこんなことがあったというか普通に今日同じことが起きすぎだ。


現れたのは全身を銀色の鎧に包んでいる人だ。男か女かわからんけど絶対強いのはわかる。背中にある俺より大きいサイズの剣は迫力があるし、鎧がピッカピカなのも驚きだ。


「お前、名はなんという」


「……?ワタシ、二ホンゴシカ、ワカリマセ~ン」


「にほんご?……ふざけているのか?」


「いやだってコロシアムで俺の名前紹介されてたし…というかあんた、どうせ名前聞いたら勝手に帰って自分の名前すら名乗らない失礼なタイプのやつだろ。そっちから名乗ったらどうだ?」


「あぁ、なるほどな、たしかに無礼だった。私の名前は…」


 そしてその直後にあらかじめ作っておいた「透明カーテン」を自分に被ってアイノと荷物を抱きかかえ高速移動する。完全に例のマントをパクっているがこれはオマージュだし下位互換だからセーフ。

 このカーテン、実はレオナルドと戦うときにでも使おうかなと思っていたのだがそんな暇もなかったのでスーツケースに入れっぱなしだったのだ。カーテンはもらった。ちゃんと「ゴミ」って張り紙されて置いてあったからもらっていいかなーって。


 何はともあれ今は逃げる!

それはなぜか、なぜだろうね、人間こういう時逃げたくなるんだよ…という冗談はさておき、実はこの女の人っぽい声の鎧の人が目の前に出てきたとき、ゴリレオクスが彫刻みたいに固まったのだ。近くにいた受付も、普通にのんびりしていた冒険者も、みんなの空気が凍っていたのだ。一瞬で少し騒がしかった部屋が水を打ったように静まり返るなんて異常でしかない。


ということは考えられる可能性としては三つだ。一つは特級冒険者、次に国のお偉いさん、最後に暗殺者だ。多分最後はないはずだから考えられる可能性としては実質三つだが、もしかしたらということもある。

逃げる理由としては、特級だと目を付けられる。お偉いさんだと目を付けられる。暗殺者だと殺されて身ぐるみはがされる。そう考えたからだ。


 てことで、俺は颯爽と逃げ


「おい、どこへ行こうとしている」


「あれ…」


 がっしりと、鎧が俺の肩を掴んできている。


「姿を消しても『光』の速さにはさすがに逃げ切れまい。大人しく私と話をする気になったか?そうでなければ…」


「申し訳ありませんでしたっ!だからその怖い剣の刃をチラ見させないで!」


「最初からそうすればいいものを」


 今光の速さって言ったか?んなばかな、そんなのソニックブームが出るだろ。なんでこの部屋は安全なんだ…よ、世の中には不思議なことがあるもんだなぁ~。なんてことを言うと多分俺には大量のブーメランが顔面に襲い掛かってくることだろう。ちなみにアイノは何が起きたかわかっていないようだ。


「さて、まずは自己紹介だ。私の名はライラ・オーレンシアという」


「や、やっぱり王国軍騎士隊の…!!」


「ゴリレオクス、今は黙っていろ。彼が言ったように私はこの国の軍に所属している」


 マジか、お偉いさんのほうだった。

これから俺は何を言われるんだろう、追放でもされるんだろうか。それとも処刑?だいたいこういうときってなんらかの理由で俺は殺されたりするよね。

 でも俺は屈しない!早くも地球に帰る前にこの国で家を買おうとしているレベルで居心地良く感じているが俺はこれから戻る方法を探さなければいけないんだ!今死んだら…飯が食えなくなる!


はい、すいません。ふざけました。

なんか知らないけどどうでもいいことを考えていると急に視線が鋭くなった感じがしたんだよ。これはもしや俺の心でも読まれているんじゃないか?ないか、こういうベテランっぽい人たちは総じて人のウソを見抜くのがうまい。大人しくしておこう。


「そんな騎士団の偉い人が俺に何の様でしょう?」


「そこまで身構えなくてもいい。偶然お前を…あぁ思い出した、確かソーセージだったか」


「ソーイチだふざけんな。なんでそんなうまそうな名前になるんだよ…」


「そう、ソーイチだったな。お前、どこから来た?」


「げっ」


 なんて質問してくるんだいきなり。急にどこから来た?とか言われたらげってつい言っちゃうじゃないか。そもそもその質問は粗が多すぎる。もともと住んでいた場所なのかわからないだろ。

頭の中で必死に屁理屈をこねても目の前の状況は変わらない。

 とりあえず、俺は遠い国から来てるしそう説明するしかないのだが…どうしよう、普通に人間だってバレて終わりそう。


「焦っているようだが、お前のことは既に掌握済みだ。人間だろう?」


「あ、何だ知ってるんだぁ…ちょっとゴリラ、バレてるんだけど」


「お、俺に聞かないでくれ…」


 しっかり消臭して、トーテムポールパワーで完全に魔族に擬態していたのに一発で…というか、もとから知っていたような口ぶりだった。どういうことだ?

既に掌握済み…ということはだ、俺が今までどこにいたかも、何をしていたかも、全部見てたってことになる。もしかしたら俺が雀と追いかけっこしていたところも見ていたんじゃないだろうか?それは非常に困る。遠いとはいえこの国の真後ろの山に大群を放置してしまったんだ、怒られるじゃすまないし最悪は本当に死刑だぞ。神話級魔獣放置罪みたいな感じで。


 しかしじゃあ、どこから来たかという質問はあまり意味がないようにも思える。知ってるならいいじゃないか、なぜ今聞いた?もしかして本人確認か何かなんだろうか。


「俺は川のほうから来たぞ。人間の国のほう」


「やはりあれはお前か…わかった、急にすまないな。この国でゆっくりしていってくれ。あぁ、あとゴリレオクスとソーイチ、あとそこの…娘さんだけにしかこの会話は聞こえていないから安心しろ。それでは、()()


「あ、あぁ…え、今またって…いねぇ」


 何だっていうんだ一体。本当に本人確認だったんじゃないのか?あなたはロボットではありませんみたいな感じで急に出てくるもんだからいきなりでびっくりしたし、しかも信号機のパズルもないときた。

やはりあれは…とか、それではまた…とか思わせぶりなことばかり言って重要なことは教えてくれないひどいやつってレッテルが貼られかけているけど、あんまりかかわったことのない相手に偏見だけで全体像を決めつけてはいけない。もしかしたらとてもいい人かもしれないじゃないか…………あんまり考えないようにしよう、虚しくなってくるだけだ。


ゴリラの野郎、自分の命がそんなに大事か。心底ホッとした表情しやがってくそが…そこの受付もだ、助けろよ!


 しかし逃げようとしたら透明のまま捕まるとは思ってなかったな。まぁさすがにカーテンを使うときを間違えた感はあるからな……もっと早くに逃げていればあいつから離れることは出来たかもしれないけど、このカーテンって下から丸見えになるから飛ぶと不利なんだよ。しかも結構違和感があるからじっと見ればわかる。まぁ道案内の最中に作ったから仕方ないだろう。


「とりあえず嵐は過ぎ去った……なぁ、もう試験ないよな?あ、なんか魔獣討伐がどうとか言ってたけど」


「それは大丈夫です。模擬試験で一定のラインさえ超えれば免除されますので」


「おーやった。これで俺も冒険者だー」


「あんまり感情が籠ってないなお前……」


「そりゃそうだろうがよ!いきなり王国騎士団とかいう人に変な質問されたら気も滅入るわ!」


「わーい、お父さん今日から冒険者だー」


「アイノは真似しなく得ていいんだぞー?俺が悪かったからそのハイライトのない瞳はやめようねー?」


 受付の人から免許証みたいなのをもらった。名前の色が金色に輝いているのはひとまず置いておくとして、俺の細かい情報がここに書かれている。住所はこれから書くつもりだから問題ないけど、名前のほうってフルネームじゃなくてもいいんだろうか。匿名性あるっぽいしなんとかなるんだろうけど、同姓同名の冒険者とかだったら絶対困るだろ。


 それでこの名前「ソーイチ」の部分が金色に輝いているのはどういうことかゴリラに問う。すると返ってくる答えは俺が金級になったこと。


なんてこった。俺いきなり金級からスタートです。普通にのんびりレベル上げていこうと思ったら急にレベルが七十くらい上がっちゃったパターンだ。しかもこの階級だと国から優遇されるんだっけ?それは非常に嬉しい、嬉しいんだけどさ。絶対国から出るときに小言言われるじゃん。そういうとき協会に泣きついてもどうせ「俺たちには関係ないから自分で何とかしろ」っていうもんだ。こういうときの組織は非常に役立たずだという話を昔聞いたことがある気がする。


もしここに永住するなら、小言どころか豪邸でも用意してくれるんじゃないかと思う。騎士団とかあるなら大丈夫そうに思えるけど実はそうでもないらしく、非常時にすぐ動いてくれる冒険者は貴重な存在だし国に住んでくれていれば何かあっても戦闘を任せたり仕事を押し付けたりできる便利な存在なのだと考察している。

…あれ、意外とこの仕事、ブラック?


と、自分の考えを口にしたらゴリラが慌てて否定しだした。怪しい。こんなに慌てるってことは少し当たっているところがあるんじゃないだろうか。普通のゴリラなら怒ってきそうなのに。

やつの言い分だと、冒険者は権力者から直接指図されても協会を通した依頼でなければ動くことはないらしい、私情で話を聞いたりする冒険者もいるようだ。だから協会に以来って形で脅せばいいじゃないか、そういうことなんだろう?


 ひねくれたことばかり考えても埒が明かないので、気分転換に金を売ることにした。冒険者の魔獣素材や討伐証明部位、あと山賊などから奪った…もとい手に入れた宝を売却する専用窓口に行く。そこでは気の弱そうな眼鏡をかけている女性の受付がいたので、遊び半分で全部の金を放り出す。


「これ全部、即金で!」


「そ、そんな困ります!そんなことしたら協会長が」


「知るか!こっちはもう厄介そうな連中に目を付けられたんだぞ!金よこせ!」


「ひぃぃぃぃぃ!」


「おい、そんな強盗まがいなことをするんじゃない。俺が悪かったから、まさかこんなことになるとは思ってなかったんだ」


「現状理解しているのかゴリラ、俺はなぜか今までの行動が監視されていたんだぞ?たいして派手なこともしてないし、悪さもしていないのにだ!」


「じゃああのカーテンと今の金銭の要求の仕方は何なんだよ……」


「それを言っちゃあおしまいだYO」


 ゴリラが呆れるように言う。でもプライベートを完全に見られていたことになるんだぞ?ゴリラだっていやなはずだ。そもそも人間であること看破していることがおかしい、なんであんな煽るような真似を…はっ!も、もしや俺を焦らせて強盗させそれを成敗し人間との戦争に持ち込むとか…?!?!


いや、それはないわ。いきなり冷静になると気持ち悪くなるけど、ああいう性格の奴は基本何かのために尽くすパターンだ。きっと今回も動向を探って来いとか言われたんだろう、魔王あたりに。

そうそう、この国の王様って魔王らしいぞ。すごいよな、魔王だぜ魔王。めっちゃ気になる。


 気を取り直して、今売れるだけ金を売ることにする。スーツケースにはまだ結構入っているが、最初よりだいぶ軽くすることができた。いい加減重かったんだよね。

 そして気になる金額は~……なんと、大金貨三十枚!


「うへへへへへ、これだけあれば……」


「何に使うつもりなんだ、一応言っておくが変なことには」


「これで家が買えるぞアイノッ!やったな!」


「え、お家買えるの?すごーい!やったー!」


「ようやく家で寝れるなぁ!あっはっはっは!あ、そうだ。なぁゴリラ、あとで病院を教えてくれないか?アイノ傷だらけでさ、ほら、元奴隷だって言っただろ?」


「あ、え、あ、あぁ……お前あんな邪悪に笑ってたのに意外といいやつだな。しっかりアイノを育ててあげろよ!あと病院だったか…国立の病院に行く必要もないだろうから聖エルマ教会にでも行くか。案内は俺がしよう」


 さっすがゴリラ、気が利くぜ!

それにしても教会か、そんなところでできると言ったら蘇生呪文くらいじゃないのか?ここにあるかは別として、傷を治すための塗り薬でもあればなーっと思ってたんだけど。

聞いてみたらなんと回復魔術なるものがこの世界には……アンデッドに当てたら最強じゃないか!と思ったが効果のない魔力の無駄打ちになるだけらしい。そこまで甘くなかった。


 冒険者協会から少し離れたところにある聖エルマ教会にたどり着いた。きょうかいという単語だらけでいつかどっちかを間違えそうだが、きっと本来の言語では区別ができるんだろう。この世界の言葉覚えないとだめかもしれんな…


「おや、ゴリレオクス様ではありませんか。いかがなさいましたか?」


「おぉ、シスターメイアか。今日は回復魔術をこの子に掛けてほしいんだが」


「おや?……あらなんてかわいい猫獣人なんでしょう!…あ、あの、そこの方は」


「あ、俺?俺はこの子の親」


「あ、そうですか!よかった、危うく悪魔と間違えるところでした」


 俺を悪魔だと思っていたらしいこの女性は、聖エルマ教会でシスターをやっているメイアさんと言う。髪が紫と金色っていうハイカラな色だけど優しそうな女性だ。そして美人。

 さっそくやってもらうためにお金を出そうと思ったがゴリレオクスに止められた。回復魔術は大人だとお金がかかるらしいが、なんと子供はただだ。すげぇ、子供に対して優しすぎかよ。

あと普通に大金貨なんて渡したら帰ってこなくなるらしい。こわ……なんでも、大金を渡した暁には「お布施ありがとうございます」とすごい黒い笑みでいうシスターを見ることになるんだとか。あんまりお金を持って教会に行かないようにしよう。


 なんかよくわからない言葉を呟いたと思ったら、いつの間にか魔術は終わっていた。派手な演出もなく、アイノの痣や切り傷はきれいさっぱりなくなっている。回復魔術恐るべし。


「それではお布施を」


「え?」


「お布施を」


「いや、お布施って強要するものじゃ」


「お布施を」


「…………もってけ!」


「うわっ、え、金塊!?ちょ、アイノさんのお父さん!待って、待ってぇぇ!」


 「冒険者じゃないから手数料掛かってしまいますぅ」と嘆くシスターを無視していそいそと教会を出る。ゴリレオクスは「あんな顔見たことなかった」と笑っているし、アイノはゴリレオクスに合わせて笑うので良かっただろう。成金思考だが金なんていくらでも作れるので、これしき問題はないのだ。


「さぁ、次は家を買うんだったな」


「え、不動産あるのか」


「あるに決まっているだろう。知り合いにちょうどいいやつがいるから紹介してやる」


 とんとん拍子で進んでいくのは現実だと中々に面白い。ゲームでやっていることが現実でも起こっているような感覚は新鮮でいいぞぉ。

しかしここで現実は牙を剝いてくる。この不動産ではそれなりに時間を食ったのだ。


 不動産の建物に着き、部屋に入るなり頭がない人物が顔をひょっこり出してきたので驚いてしまう。ゴリレオクスが俺たち二人を紹介して椅子に座らせてきた。


「どうもー、僕はシンライ不動産を経営しているヒレリオだよ。ソーイチ君とはこれからも仲良くしていきたいからどうぞよろしく!」


「あ、うんよろしく……」


 気になる。頭がないのに声が出ているのがマジで気になる。どうなっているんだこいつ…


「珍しいなヒレリオ、お前が同族以外と仲良くしようだなんて」


「え?この子同族じゃないの?」


「いや、違うはずだが…」


「でも同族っぽいしいいや!それでソーイチ君、今日は家を選びに来たのかい?」


 話を聞いていなかった。頭が空っぽになるってこういうことなんだろうか。いや、本当に空っぽの相手は目の前にいるからな。本家に聞きたいけど今は家だ家…あれ、家ってどうやって買えばいいんだろう。


「……俺、家の選び方も買い方もわかんないんだけど」


「えぇ、お前そう言うの知ってて家買いたいとか言ってたんじゃ…まぁいいか。まぁヒレリオ、最近はいい一軒家売ってるのか?ここ最近は世帯を持つ魔族も少ないから余ってたりしそうだが」


「そうなんだよゴリレオクス君!ほんと、ここ最近の魔族は…」


 そして始まる二人の長い長い世間話。なんか、最近の情勢についてばっか話しててついていけねぇ…たまに国に対する不満とか最近会った面白いこととか話しているから近所のおばさんの話をリアルタイムで聞いている気分だ。

 三十分、一時間、時間はどんどん進んでいき、本題に入れたのは陽が落ち始めた頃だった。アイノは首をこくりこくりとさせて寝そうになっているが、なんとかして我慢している様子。寝てもいいんだぞと言っても大丈夫だとだけ答えるからなんて逞しいんだと感心してしまう。俺だったら寝ちゃうね。


「あ、そうそう。この間一軒だけ妙な家が売却されてさぁ。なんかその家事故物件らしいんだよね」


「事故物件?この魔王国にか」


「そうそう。魔王国の一等地にある三階建てで庭付きの大きな屋敷なんだけどさ、なぜか知らないけどさっさと手放したいからってこっちが値段下げる交渉する前に大金貨五枚で取引成立しちゃってさぁアハハハ!」


「三階建ての一等地ってお前、普通は大金貨五十枚くらいじゃないか?それが五枚って」


「安く仕入れて高く売るがモットーな僕としちゃあありがたいんだけど、あんまり高く売って店の評判ンの低下につながるのは嫌だからさぁ…あ、そうだ。ソーイチ君!今言った家大金貨十枚で買わない?」


 やべ、また話聞いてなかった。えーっと?一等地で三階建て庭付きの屋敷…それが大金貨十枚?買うに決まってるだろ。あ、設備は?ふむふむ、風呂便所台所完備で部屋は…結構あるな。掃除大変なんだけど…あ、掃除婦とか雇えるのか。あーなるほど!めっちゃええやん。これは買うしかないでぇ…おっとつい似非関西弁が。

 玄関もなかなかに広いし、お!この家全部の階にちゃんとトイレあるじゃん。すげぇ…でけぇよこの家。これは買うしか…あ、税金とかは?あ、なにそれって…なんでもないなんでもない!うん!


「買います!」


「おぅ、即金?なかなかヘビーだね、その年でこの金額すぐ出せるのはすごいことだ。ますます気に入ったね!リフォームも請け負ってるからそのときはまた御贔屓にね」


「お前、大丈夫なのか?事故物件だぞ?」


 何の話か分からないがこれでも屋敷は俺のものだ。ふっふっふ、これで世界中のサラリーマンが夢見る豪邸を手に入れてしまったぞ!しかもローンなしだ!設備費用はそこまででもなかったので問題ない!家が広すぎるのが少々問題だがまぁ何とかなるだろ!

 そしてなんと驚いたことに、もう鍵をもらった。今すぐ住める状態なんだそうだ。すげぇ!シンライ不動産マジパネェ!


地図をもらい、ゴリレオクスは途中で仕事があるからと別れてアイノと一緒に街を歩いて行った。そこら中にセレブそうな人が歩いているので俺の場違い感がすごいけど、ここで堂々としないでどうする。俺はこの世界に来て初日で家を手に入れた男だぞ?やっぱ幸運なんだな~。




なんて思っていた時期が、俺にもありました。



『まぁぁぁてぇぇぇぇ』


「ひぃぃぃぃぃ!!アイノォォ!!出口どこだっけぇェェェ!!」


「広くてわかんなくなっちゃった…お父さん!前、前ぇーッ!!」


「どわあぁぁぁぁぁ!!」


 俺は今、買った家で迷子になりながら謎の青い人型に追いかけられていた。





















 俺はソーイチたちと別れたあと、呼び出されていた場所にやってきた。


「よく来たゴリレオクス、待っていた」


「今日あったばかりでしょうに……それで、俺に何の用ですかライラさん」


 目の前にいる銀色の鎧を全身に身に纏っている人物。王国騎士団隊長で、この国最古の特級冒険者である彼女の噂は絶えない。神話の大戦の生き残りだとか、背負う剣は勇者の聖剣だとか、もともとは精霊だったとか……まぁあまり本人は気にしていないだろう。


 正直、俺はこの人が苦手だ。何考えてるとかもわからなければまず反感を買ったとしても築けないかもしれないくらいこの人を理解することができん。


「今日会ったあいつらなんだが」


「あぁ、ソーイチとアイノですか。それに関してはもう全部調べたと言っていたでしょう?


 おかしなことを言う人だ。今日会った時に二人に直接……まぁアイノは話を聞いていなかったかもしれないがしっかり伝えていただろう。あの時のソーイチの驚き様と言ったら……もしかしたら頭の中でどうでもいいことばかり考えていたかもしれないな。どうして俺があんな奴に負けたんだか、久々に()()()()を使ったっていうのに追いつけなかったし攻撃も何気に一発すら当てれなかったな。いつかもう一回戦ってぼろくそに泣かせてやる。


「あれか?あれは嘘だ」


「……え、ちょっと待ってくださいよ。ライラさんって以前私に仕事を持ち出してきたとき「安心しろ、私は嘘はつかん」とかカッコつけて言ってましたよね?」


「お前に対しては、だ。そこらへんお前は特別なんだぞ?……まぁ嘘だったことはいいだろう。私もいろいろ焦っていたのでな、ついうっかりだ。許してくれ」


「えぇ……」


 常に冷静沈着、そして文武両道で一部層では魔王様の次に絶大な人気を誇る「銀閃」様がこんなにあほらしいことを言っているなんて。俺しか聞いてないんじゃないか?聞きたかったわけじゃないが。

というか焦ってたって、なんで?って聞いたが、なんとあいつがいきなり逃げ出したことに対してらしい。驚いたことにソーイチのあの逃げの速さは異常だったそうだ。いや、まさかな…魔王国最速の剣士よりいろいろと素人なあいつが速いとか……


「まぁいいです。で、そのソーイチたちが何だっていうんです。逃げ出すんじゃないかって危惧してるなら安心していいですよ、あいつ即金で家買いましたから……本当に、せっかちなやつです」


「おぉ、そうなのか!いやー助かった、よくやったぞゴリレオクス。実はな、あいつのことを魔王城で見ていたのだ」


「え?」


 とんでもない話が出てきた。ライラさんによれば、いつもの定例魔王会議、通称「お友達会」……会議をやっていた時にシビィ大魔導士様が転がり込んできて龍を見たと大騒ぎ。研究所長のリュイ様とニュイ様が興味を示してとある魔術具で見たところ、なんとソーイチたちが来た方向でもあるアストラ川中流付近の河原で巨大な白い龍が見えたという。俺もそれらしきものを仕事中に見たが幻覚だと思って忘れてたんだ…

それで、さらに近くで観察してみようと思ったらしく道具を使って詳細を確認。するとそこで見たのが、一定間隔で妙な動きをしながら空中でぐるぐると回る赤い服の黒い覆面だったそうだ。何やってたんだあいつら……

 というか、龍?俺はそんな話聞かされていないな。まぁ全部話すのもおかしいが、今聞くと次会った時に顔に出てしまいそうだ。


「まぁそういうわけで、我々の会議中に見事険悪だった雰囲気を戻してくれた重要人物なんだ。まぁだからって城に呼びはしないし褒賞もやれんがな」


「じゃあなんで接触したんです?完全に厄介だと思われてましたよ」


「それがだな、これを見てほしい」


「……これ、なんです?あれ、なんかどこかで見たことあるような」


 銀鎧の手の上にあるのは、透明の宝石でできた葉だ。とてもよくできていて、おそらく国宝にもなるんじゃないかというレベルの精巧さ。どこの職人が作ったのだろうか。


「実はだな、ソーイチらがいたと思われる場所に私はすぐに移動したのだ。そうしたらあの付近にはわけのわからないものがあった。丸い緑の石がまず地面に無造作に放り捨ててあり、近くには鏡の様に周囲の景色を反射する木、そしてこの葉がなっていた水晶のような木だ」


「……えっと、じゃあソーイチはすごい工芸家とでも?それとも本物の葉とか…さすがにないですよね」


「それがあるんだよ。今日あいつが試験中に魔術を使っていただろう?その時は気持ちの悪い魔力だなぁとしか思っていなかったのだが気づいたんだ。この葉や緑の石に微かに付着していた魔力の残骸と一致していたことに」


 気持ち悪い魔力は確かにあいつと特徴は一致しているかもしれないが、生憎木や石を別の物質に変える魔術なんぞ俺は知らない……ん、まてよ?


「あいつが、土でできた龍を鋼鉄に変えていたのってまさか……じゃああの妙に丸みを帯びた金塊は?!」


「金塊?……可能性としてはあり得るな。しかし金塊か……ふむ、おそらくあいつはそのことに対して警戒しているんだろう。仮に、やつが物質を別の物質へと変換できる”錬金術”と同じようなことができるのであれば、それはおそらくどこの国へ行っても目を付けられる代物。私が王国騎士団隊長と聞かされた時の彼は心底怠そうな雰囲気だったからな」


「あぁ、なるほど……いやだったら戦うときにああいうバレやすいようなことする必要は……いや、あいつにはそれしか手段がなかったのか」


「だろうな。武器なしで使用魔術は筆魔法だったか?聞いたことのないものだが、それが精いっぱいってところなんだろう」


「なんか申し訳ねぇことしたな……ライラさんはあいつをどうするつもりなんですか」


 今までの話の流れだと「至急あいつをここへ連れてこい」「捕獲して国庫を潤す道具にしよう」「殺せ」くらいしか出てこなさそうだ。ソーイチがもし金を作れるのだとしたら、それだけで市場は混乱する。もしかすると魔鉄鋼とか千銅だって作れちまうかもしれない……そう考えるとやばいぞ。あいつは今すぐにでも守るか殺すかしないと人間の国家で使いつぶされることになる。あいつら、同族でも有用で立場が低ければ奴隷化してそのまま永久に働かせるし貴族でも飼い殺しだからなぁ…


「別に殺せとは言わないが、なるべくここから出したくない。あれは世に出てはならないものかもしれんのだ」


「ううん、俺に言われても……というか、家買ったしいいんじゃないですか?」


「冒険者で金級になったんだろう?それなら魔獣を倒せば金が入ってくるしどこに行っても待遇はいいんだ。急に外へ出てなにかやってましたじゃ遅いんだ。まぁ、彼が従順な魔王様の奴隷になるんだったら話は別だが……」


「なんて物騒なことを。ハイディリッヒで奴隷なんて最早タブーなのに最高権力と近しい人がそんなこといたらだめじゃないですか……」


「冗談だ冗談・しかしどうしたもの……どうしたそんな顔して、鎧に変なものでもついてるか?」


 奴隷……奴隷……なにか重要なことが……あ!


「あいつ、いやアイノが言ってたんですが……アイノはソーイチに奴隷紋を”取ってもらった”と」


「…………今、なんて?」


 そうだ、思い出した。あの時食堂で二人ともあほみたいな量の食事を食っていた時ふとアイノが漏らした言葉だ。ソーイチとあったばかりなのになんでこいつが親なんだって話をしてたんだっけな。

 ライラさんは心底驚いているのか、硬直しているようだ。まぁそりゃあそうだろ、焼き入れられるはずのあの奴隷紋が取れるなんてありえないのだ。それに誓約を破れば魔術師は二度と普通の魔術もろとも奴隷化の魔術を奪われるといえどその力は絶大、一度付けられたら魂に刻み込まれる奴隷紋が取れるなんて革命だ。

あいつはなぜか知らないが隠そうとしていた。その力があればどれだけの種族……人間も含めあらゆる人々を救い出せるというのに……


「……これは、可及的速やかに魔王様に伝えるべきだな。こいゴリレオクス」


「了解しました……一応言っておきますが、あいつを強引に連れて行くなんてことはしないでいただけると嬉しいです。あいつは出会ったばかりといえど父親になろうという気持ちを少しは感じれるくらい頑張っているみたいですし。それにアイノなんて一か月飲食をしてなかったらしいのでゆっくりさせてやりたい」


「まぁ、善処するさ……え、一か月?化け物かあの子供は」


 ライラさんに掴まり、魔王城へまっすぐ飛んでいく。


うーん、ソーイチに関しては確かにやばいだろう。ただ、こういう時に報告するべきことがもう一つあったような……なんだったか、忘れてしまった。

まぁいいだろう、そこまで大事なことじゃないんだろうし。













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