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覆面狂詩曲 ~白猫を添えて~  作者: 餅鍋牛
来訪編
6/26

覆面と冒険者協会

色々やることありすぎて死にそうです。あと評価とブクマありがとうございます。そして今日から七時投稿の予定です。


 前回のあらすじッ!

 

 ゴリラには名前があった!

…何て名前だっけ?


「ゴリレオクス・ライディバイトだッ!いい加減にしないと追い出すぞ!」


「勘弁してくださいゴリラさん」


「誰がゴリラだ誰がッ!というかゴリラってなんだよッ!」


「わーいゴリラゴリラー」


「あ、こ、この……おいソーイチ!お前、教育がなってないぞ!それでも親か!」


「生憎今日なったばかりでーす」


「「いぇーい」」


「くぅぅぅう……妙に連携出来てて腹立つなぁぁぁ」


 わー、ゴリレオクス・ライディバイトことゴリラさんが怒ったー。はい、すいません。アイノは子供だから仕方ないけど俺には容赦ない目つきだからもうそろ殺される。

えーとですね、街に着て一時間たちましたがなんとこの情報ついさっき知りました、はい。

いやさ、俺もいつ「あなたの名前は何ですか?」って聞こうと思ったんだけどさ。ゴリラさん、めっちゃこの街の案内を詳細にやってくれたのね?いやーすごかったですとも、えぇ。住宅街を紹介してもらった時はすっげー裕福そうな家がいっぱい並んでる中ところどころから鳴り響く「ゴリレオクス様ーーッ!」っていう黄色い声がね!最初は有名人でも着てるのかなって思ってたのにまさか隣を歩いている人物だったとは……なんであんなにモテてるんだゴリラさん。


商店街とか宿とか有名なレストランとかこの国の名物とか、マジでいっぱい教えてもらいました。ただね、歓声がやばくて何回か聞こえなかったよ。ゴリラさん有名すぎ。


 因みに今は、ゴリラさんからの勧めでやってきたレストラン……冒険者食堂だから食堂か?そこで飯を食っている。金はゴリラさん持ちだ、やったぜ。

ここの料理はマジでおいしい。めっちゃ腹が減ってくるしどんどん食べても足りないような感覚だ。太ったらどうしよう。


「ねぇゴリラさん、どうしてゴリラさんは有名なの?」


「ん?あぁ、まぁ、うん、あれだ」


 アイノがキラキラとした目でゴリラさんに質問している。それに対してゴリラさんは随分と微妙な顔をして濁そうとしていたので、親切な俺がアイノに教えてあげることにする。


「魔王国復興に関わった人物の一人で、その自慢の腕力で人間から魔族を守り、住居を作り、しかもこの間なんて神話級を倒したそうじゃないか……そりゃー英雄扱いだわな」


「ぐ、聞いていたのか……」


 俺は心底怠そうに店の机に顎を乗せて話す。嫉妬とかじゃなくて、案内の最中に話しかけてきた酔っ払い魔族に延々とゴリラさんの話を聞かされてうんざりしたのを思い出してまたうんざりしているからだ。

 神話級魔獣「リヴァイデヒド」っていう突如発生したアンデット龍をほぼ無傷で倒したんだとよ。どうなってんだこのゴリラ、龍ってアユみたいに強いんだろ?いやアユが強いかはわかんないけども。


「いや、俺としてはソーイチ、お前がジャバヒレティト・クァッタの大群から逃げ切ったという話のほうがすごいんだが」


「あれ俺は一切戦ってないんだよ。運が良かっただけだ。それにあの雀より龍のほうが強いだろ絶対…あ、おかわりください」


「す、すずめ?いや、あいつは龍より上位だぞ…俺だって普通に追いつかれる」


「え、まじか、そんなやばいのかあいつら……アイノ、ほかに何か食うか?」


「ぱふぇー!」


「おいおい腹壊しても知らんぞ?ま、今日くらいいいか。すいませーん」


 あの雀がそこまでやばいとは……ハイディリッヒ名物のハイディリッヒ山菜盛を()()()()()いろいろ考える。あの鳥がそこまでやばいってことは、アユはどうなるんだろう。俺は確実にあいつが強くなるようイメージできることを書いておいたつもりだが、もしかしたら不足していたかもしれない。


アイノが二杯目の『ひしめき合う果実の大泡パフェ』をおいしそうに食べている。パフェというからにはやはりアイスクリームも入っているし生クリームやコーンフレーク、何かよくわかんない最中みたいなやつまで乗っている。変なスプーンの持ち方をするのでアイノの頬に度々付くクリームをふき取る用の紙を使ってとる。


俺も山菜盛をいただいて…


「……というか、俺が滑らかに喋れることに疑問を持たないのか?」


「え?あぁそういえばそうだった。いま飯食ってて忘れてたわ。あはははは」


「…なんか、俺こいつに倒されそうになったのが恥だと思えてきたんだけど」


 なにやらぶつぶつと文句を垂れていたので、心優しい俺がその理由とやらを聞くことにする。

どうやら今彼が滑らかに喋ることができるのは、王国全体に展開されている超大規模魔術「聖女の微笑み」とやらが影響しているのだそうだ。魔王国なのに聖女とは如何に……

と思ったが、そういう差別的なことはあまり国としてもやりたくないのだとか。人間は嫌いだけど、いつか分かり合えたらそうしたいな的な?まぁそうなるよな。だって魔王国で宗教作ってもし人間嫌いだからって聖女の立場を変えようとしたら確実に魔女ができる。この世界には普通に魔女がいるので変なところまで影響が行ってしまうんだろう。

 この聖女の微笑みというのは”魔術”を使う大規模な術式…なんかよくわからないことをずっと丁寧に教えてくれたけど、要は他国から来ている別種族でも会話ができない種族でも意志さえあればこの国にいればいつでも会話ができるという自動翻訳のバリアみたいなのが国全体にかかっているってことだろう。一応、文字にもその影響は出てるらしく、あの看板がある時点で既に効果は出ていたということだ。


 じゃあなんでゴリラはあんな片言だったのか。それは聞いても教えてくれなかった。


「というか、俺の話の前にお前に質問したいことがあるんだが」


「ふぁ?はんはお、いはくっへるはろ」


「食べながらしゃべるな行儀悪い……いや、お前の場合どうなってんのかわかんないな。なんで()()()()()()()()()()()()()()()()


「…あ」


 思わず食事の手を止めてしまう。

自分がしっかりと口の中で咀嚼していることを徐々に理解しつつ、俺はもう一口山菜盛を食べる。覆面に遮られることなく、食べ物が口に入ってくる。なんだこれは。


「ほらそれだよそれ。なんだよその吸収されていく感じの食べ方、いちいち魔術使ってまで食事するか?」


「いや、これは魔術というか体質というか」


「はぁ?…まぁいいか。それにしたって良く食うな、アイノだってそうだ。あぁーでもアイノは仕方ないんだっけか?」


「うん!ご飯は一か月くらいぶり!」


「……ソーイチ、ちゃんとこの子の面倒見ろよ?じゃないと俺が連れてくからな」


「あぁ、わかってる……少し前に覚悟はした。ま!その前にお前のところにアイノが行くかどうかだけどな!どうだアイノ、ゴリラさんのところ行きたいか?」


「うーん、ソーイチがいい!ソーイチは面白いし、守ってくれるし、助けてくれるから!だからずっとアイノの、ちょっとドジなお父さん!」


「ちょ、ドジかやっぱ」


「うん!」


 どうあがいても、ドジの称号は払拭できそうにないことを確認してしまった。泣きそう。

しかしアイノが一か月間食事をしていなかったことは初耳だ。それなのにあんなにはしゃいでいられるって中々にすごいことだと思う。そして空腹度が極限になったとしてもアイノの様に食事をし続けることは出来ないと思うが彼女はどんどんやってくる料理を平らげている。あ、それうまそうだな…あ、一口くれる?やったーありがとう。


「お父さんねぇ……お前ら今日あったばかりなんだろう?なんでそこまで仲良さげにできるんだよ」


「んぁ?あーそういえば。一応俺もアイノに言ったんだけどさぁ……」


「え?だってソーイチはアイノの奴隷紋を取ってくれたから!だからお父さん!」


「…………奴隷紋を、取った?」


 ゴリラの言葉と同時に、とんでもない量の視線を感じた。何かと思ったら、冒険者食堂で食事をしていたあらゆる種族がこちらを見ている。

なんだ急に……ここは誰でも利用できる食堂なんじゃないのか?急に皆して刺すような視線でこちらを見ないでくれよ。山菜がのどを通らないじゃないか。


 アイノ、なんとか言って……あ、だめだ。おいしそうにパフェ食ってて周囲に気づいていない。


「おい、ソーイチ。その話はどういう……」


「すいませーん!パフェ一つ~!あと店員さーん!」


「おい!ソーイチ……」


 ゴリラが何かを喚いているが気にしなーい。


「はい、何でしょうか」


 店員さんがやってきた。角が生えてて巨乳な美人に視線を向けられるとやはり勘違いしてしまうねぇ……いや、そんなことはどうでもいいんだ。この食堂中が、この店員さんですら俺に注目してしまっている。正直飯食ってるのでやめてほしい。

なので俺はバレない具合にスーツケースに手を突っ込んで、それなりの大きさの例のアレを取る。


「これ上げるからこの場にいる人たち全員に食事でも酒でもプレゼントしといて」


「え?……えぇ?!?!き、金塊?!」


「それ、持ち逃げしたらどうなるかわかってる?この魔王国の門番が……」


「は、はいぃ!この場全員にお酒をお願いしますぅぅぅ!」


「えぇ?そんなことしたら酒の在庫切れちゃうよ」


「ほら!店長!」


「ん?ってなんだそれ!」


 あっという間に食堂は賑やかになっていく。普通の家族もいればゴリゴリの冒険者もいる。きっとこれで店側は金、客は酒と食事に注目するはずだ。俺の作戦は成功と言ってもいいだろう!

あとこういうのやってみたかったんだよね。お題は俺が払うから、この場の全員に奢ってやる的な?海外の映画とかでもよくあるじゃん?ああいうの一回やってみたいよね。

 

 ゴリラは俺のほうを見てなんとも言えない顔をしている。それは金塊のことなのか、俺が奴隷紋を取ったことに関することなのか。まぁどちらにしろ教える気はない。


え?教えたほうが良くない?っていうのはマジで馬鹿だ。俺がそんな事すればあらゆる方面から睨まれかねないし、しかもこの世界では奴隷は一生すくわれない存在だ。一度その奴隷紋とやらを付けられたらおしまいなんだと……あぁ、一応戦闘には使えないらしい。なんかよくわからんが誓約?的なのがあって、それを破ると奴隷紋を付ける商人は今後一切奴隷紋も奴隷を扱った事業もできないらしい。

 思考がそれたが、その奴隷紋をとれるような存在は奴隷商人の立場から見ても邪魔でしかないし、真っ先に消そうとすると思う。


 あとついでに言うが、俺はあれを取ったわけではなくなんか取れちゃっただ。もう一回やってと言われても多分できないのであまり変な期待とかされて奴隷解放しようなんて思われたらたまったもんじゃない。確かに奴隷というものがあるのはアレだけど、できないものはどうしようもない。


「…………」


「ねぇお父さん、もう一個食べたい!」


「おーいいぞー。すいませーん」


「……まぁいい、今は聞かないでおいてやる。そんだけのものを出すんだ、あまり関わらせたくない代物なんだろう」


 ゴリラはやはり微妙な顔だったが、一応許してくれたらしい。ものすっごい顔だったから相当奴隷を助けたいか、俺を消したいかの二択だが多分正義感強そうなゴリラさんのことだ、きっと奴隷を助けたいとか思ってるんだろう。

もしできるようになったら、そしてもしゴリラさんが奴隷を助けたいのならば、その時は協力して恩でも売ろう。できるようになれるかわからないので実験したいけど、幸か不幸かこの国には奴隷が存在しないからな。めっちゃクリーンだからこそ、できないことなんだ。

 仮に俺が人間国に言ったとしても、コネがないから門前払いか牢屋行きだと思う。話だけだと人間の王国って超排他的に聞こえてくるし、奴隷を一般家庭でも使てるんだぞ?仲良くできそうな気がしない。


 少し嫌な想像をしてしまったので話題を振ることにした。


「助かるよ。あ、あとで金塊を売りたいんだけどさ、どっかいい質屋とかない?」


「ん?シチヤはわからないが売却程度なら二回の冒険者協会でできるぞ。冒険者になれば一般と違って売却手数料は掛からないぞ?」


 おぉ、それは魅力的だ。今持ってる金を全部売ったら一瞬で大量の金貨が手に入る。

というか、ただ持ってた金が硬貨になって帰ってくるような感じなのであまりお金が手に入る感じがしなさそう。というか、この世界で金の価値が高かったのはマジでありがたい。もし「は?金塊?んなもんゴミだろ」とかだったら絶望しているところだ。


「冒険者かぁ、俺別段強くないし知識も足りないから無理では?しかもそっちのほうは手数料とか掛かりそうだし」


「なんだそんなに謙遜して……いやまぁ試験自体は無料だぞ。大体の冒険者は知識関係が苦手だと言って筆記だけ金で解決しているから一部金がかかっているだけで」


「なんだそれ、違法じゃないのか?」


「あぁ、別段問題にはならん。その者のモラルや冒険の必須事項を試すのが筆記試験だが、強いやつはなにかと勉強が苦手だから一時期冒険者の数が減ったんだ。それの救済措置として大金貨二枚で筆記は免除される」


「うへぇ、高いな。そんなんじゃ意味ないだろ」


「それでいいんだよ、金で解決できるなら山賊でも海賊でも力があれば冒険者になれちまうからな」


あまり根本的な解決ができていないような気がするが……まぁどちらにせよ冒険者をやることになったら筆記試験は免れないだろう、金払えないし。


 あぁ、そういえばこの世界の通貨って金貨とか銀貨なんだって。白金貨みたいなのもあるかもしれんが今はそんなのいらないからほしいとも思わん。

小、中、大の大きさの貨幣がそれぞれ金銀銅にあるらしく、いまのところ俺の中では大金貨の価値がでかいように感じる。なんとこれ五枚あればこじんまりとしたいい家が買えてしまうというのだ!俺の総資産(川の石だった大量の金)がどれだけの金額なのかはわからないが、維持費込みなら小さい家でも買えてしまうんじゃないか?それなら毎日宿に泊まらなくてもいいし、家でぐっすり眠れるプライベート感がとてもいい。そしてアイノに家の良さを伝えたい!


 そうと決まれば早速売ろう。今すぐ売ろう。

……そうしたいところだが、俺は一応ゴリラさんに冒険者になったら俺はどれくらいか聞いてみることにする。


「…一応聞くけど、俺が冒険者になったらどれくらいの階級から始められるんだ?」


「ん?あぁーそうだな。俺は金級で、俺以上の飛行速度をだせる魔力操作の細かさ、そして未だに俺も見たことのない妙な魔術を使ってたから……まぁ下手しても銀の中級から始められんじゃないか?」


「ひぃー。俺そこまで強くないって、あれは先手撃てただけだから」


「まぁ確かにお前自身にそこまで強い覇気は感じないからなぁ、実力者はすごいぞ?俺なんか虫けらみたいに放り捨てる」


 覇気ってなんだよ覇気って……ゴリラが金級ってのは初耳だし、このゴリラでさえ特級に届いていないのは特級マジで何者なのか不安になる。俺が必死に逃げる必要があるゴリラを虫けら扱いって相当強いじゃないか。オー怖い怖い。

 そういえば試験っていくつあるんだろう。アイノに聞いたときは三つくらいだった気がするけど……そこまで聞こうとするとゴリラがなんだか嬉しそうな顔でこちらを見ながら店員を呼び、そのまま代金を支払い始めた。店員さんはさっきの美人で、なんかすごく熱い視線を向けてくる。金持ちってこんな視線を毎日浴びてるのか、辛いな。幼馴染のあいつは俺が金持ちになってもそのままでいてくれるだろうか……


 あ、そうだ!もし元の世界に帰ることができたらあいつに金塊のお土産でも持っていこう。そうしたら大はしゃぎして俺の武勇伝を聞くはずだ。楽しみだなぁ、でもまず帰れるかどうかだ。この世界に来た理由もわからないし、戻る方法があるかもわからん。それを探すって目的で冒険者になってもいいかもしれないな。


 いろいろと妄想を捗らせていると、ゴリラが満面の笑みで席を立つ。なんだか気持ち悪いな。


「お前が今想像していることはなんとなくわかるぞ」


「えっ」


「冒険者になったらどれだけ金が手に入るとか、世界中を旅したいとか考えてるんだろ?」


 わーお、大体あってるぞ?なんだこいつマジで、読心術でもあるのか?

ゴリラは機嫌が良さそうに俺たちに立てと促してくる。ちょうど飯も食い終わったし、アイノも満足気味だ。まだ食べれそうなのは気のせいってことにしよう。

 俺は椅子から降りる。降りたように見せかけているだけだが面倒だし降りるでいいだろ。座っててもやっぱり浮いてるし地味に体が上下していたから怪しまれてたかもしれないけど。

というか、ゴリラが俺を肩に乗せたときも浮いてたのに、なんであいつに乗ってるように移動できたのかがわからん。


きっと永遠に解けないであろう問題を頭の中で答えを探していると、アイノがいつの間にか俺の肩に足を乗せてこちらを見ている。多分ゴリラさんに頼んで乗っけてもらったんだろう。うっ、部屋の照明がアイノの首にかかっているダイヤの葉に反射して目に直撃した!


「オォォォ……」


「何してるんだ。早くいくぞ!新たな冒険者は大歓迎だ!」


「え、ちょ、どこ行くんだよ」


「どこって、二階の冒険者協会。窓口あるし申請するぞ!はっはっは!」


 ゴリラはとても嬉しそうに笑い、俺の腕を引っ張って二階に上がっていく。

冒険者に無理やりさせられそうな感じがするが、まぁどのみちなりそうな予感はしていたんだ。他にもいろんな職業があるらしいけど嫌気がさしたらやめればいい。そこまで拘束力もない仕事らしいし多分大丈夫だろう。

 階級が上がると権限も増えるというが正直そういうのいらないから気楽に金が稼げる生活をさせてくれ。権限が増えるたびに俺の責任がどんどん重くなってしまう…石を金に変えまくって売り続けたら協会の偉い人に融通利かせてもらえるようになんないかな?


 二階に来た。なんか強そうな大剣とか弓とかいろんな武器を持ってる様々な服装の人がいる。女の人も男の人も均等って感じがするが、パワー系は男で頭脳系は女のほうが多そう。脳金パワー系女子も中に入るし、めっちゃ怪しいけど強そうな魔術師っぽい男もいる。中には全身を銀色の鎧に包むデカい人なんかも。

…ん?なんかあの鎧の人こっち見てない?いや気のせいか。兜の目の部分の隙間から淡い赤色の光が見えるけど多分気のせいだ。後ろにきっと人がいるか、もしかしたらゴリラさんに話がある人かもしれない。


 目をそらしていたせいかいつの間にかゴリラさんが一人勝手に行ってしまっていたので急いで追いかける。ゴリラが持っているのは俺の経歴を書くらしい紙と鉛筆だった。


「これに名前と、年齢、あとは使える技能とか資格…はないか。まぁ書いてる通りだ」


「ふーん、あ、種族ってどうしたらいい?」


「ん?まぁ適当に書いとけ。全員が魔族であるわけでもないからな、俺だって違うし」


 ゴリラが何族なのかめっちゃ気になるが今は聞かない。あまり種族に関する話とかしたら無礼なこと言っちゃうかもしれないし、よくわからないことは話さないようにしようと思っている。


 紙の内容としては、まぁ名前と年齢と生年月日、生年月日?俺この世界の年すらわかんないんだけど。まぁ空白でいいか。必須事項でもないようなので多分大丈夫だろう。

そういえば名前って下だけでもいいらしいな。一応この国じゃ俺の文字も読めると思うし「創一」って書いとこう。年齢は十七でいいだろ、偽る必要もないし。

他は…あー、使う武器とか魔術か。知らん!俺は武器すら使ったことないし魔術も覚えていない…ん?そういえば魔術と魔法って違いあるのか?ないなら多分筆の物質を変える奴が魔術でもいいと思うし……うーん、一応「筆魔法」とかにしとくか。


 書き終わったのは、生年月日不明、名称不明、使用魔術不明、武器の心得なし、十七歳、そして種族はジャパニーズという内容の紙。

なんと、創一を読んでもらえなかった。落書きかなんかと思われたのか知らないけどものすごく悲しい顔で受け付けのお姉さんがこっちを見てくる。


「だって文字読めたし……俺の国の言葉でもいけるかなって」


「あ、そ、そうだったんですか!失礼いたしました…でもおかしいですね」


「そうだな、本当ならどこの言語でも解析してくれるのが聖女の微笑みだが…読めないとしたら古代文字くらいだぞ。でもお前は言葉自体は聖女の微笑みがなくてもできてるしなぁ…まぁいいか。こいつの名前はソーイチだ。代わりに書いといてくれ」


「畏まりました」


「ほら、お前らはこっちに行くぞ。早速試験だ」


 どこかへの入り口を指さしながらゴリラが俺を引っ張っていく。


話はどんどん進んでいった。冒険者用の試験会場までずんずん歩いていくゴリラさんと、筆記やったことなくてビビっているからいやいやと引きずられていく俺。アイノは楽しそうに俺の肩に座って足をプラプラとさせている。


 対して説明もないままやってきたのは十セットの椅子と机。なんと試験時間がぴったりだったらしく、さっさとやって来いとゴリラが俺を押し出す。アイノを肩車したままで果たしていいのだろうか?なんかよくわからないけどとりあえず座る。

周囲は俺以外にも十人椅子に座っており、みんな「おせぇよ」的な感じで俺を睨んでいた。ほんとすいません。


 机には紙と鉛筆が置いてあり、紙には様々な冒険者の心得らしきものの羅列と選択式の解答用紙。よかった、三択だ。きっと簡単なやつだ。


 はい、全然難しいです。なんだよ野宿の基本って、知らんよ。あと魔獣の種類とか冒険者と魔獣の取り合いになったときの対処法とか食堂のメニューとか…最後のいらなくない!?


「ここはこれだよ」


 焦っていたらアイノが小声で教えてくれた。なんていい子、でも俺は今カンニングしたことになったんじゃないだろうか?と思ってゴリラのほうを見ると、なんとグッドサイン。えぇ…

 しかしアイノに教えてもらえるのがOKならばやるしかねぇ、ここは余裕で一発合格目指すか!頼むぞアイノ、すべては君にかかっている!

 アイノが問題の答えを言い、それを俺がどんどん解いていく。いったいどこでこの知識を手に入れてきたか問いただしたいが、今はおとなしくこの子に従うほかないだろう。だって俺よりイロイロ知ってるんだもの…


 試験時間ぎりぎりでなんとか終えることができた。なんとその場で採点結果が出されるらしいので、俺はじっと結果を待つために椅子の上に座っている。浮いてるけど。


「判定結果は「良」…合格ですね」


「やったなお前ら!次は模擬試験だ!」


「まだあるのかよぉ…」


「やったー!」


 もういろんな情報が多すぎる。判定「良」と教えてくれるさっきの受付の人に模擬試験だとなぜかはしゃいでいるゴリラにそれに便乗して喜ぶアイノ。俺はまた引きずられていく。他の人は普通に別の場所行ってるし!おい!なんでだよ!

 もう完全に冒険者コースだ。これはもう後戻りできないぞぉ…それにしたって強引だけどさ。


 あれ?今気づいたがこの建物、見た目より施設が多いし広いのはなぜだろう。食堂の天井を普通に超えているような気がするのは気のせいか?そんなはずはない、部屋が多すぎる。

なんか、これも魔術だとしたら俺の筆みたいな感じに何でもありなんじゃないかと思えてきた。そもそも小石を余裕で金に帰れるあの紫習字がおかしいけど、魔術だってそれなりにすごいんだろう。ぜひ覚えたい!




 引きずられて行きついた先は広い闘技場だった。まさにコロッセオ…おい!天井ないじゃん!完全にこれ魔術じゃないか!畑くらいの広さあるぞ!しかも青空だし。

観客席の様になっているところは満席で、俺が入ってくると同時にドッと歓声が沸く。いつの間にかゴリラは観客席でお菓子食べてるし、目の前には軍人みたいな戦闘服を着ているスキンヘッドの眼帯男が腕を組んで立っている。そしてアイノはなぜまだ肩車状態なんだ。下りないと危ないだろう…


 いろいろと疑問しか浮かばないが、このままではついていけなくなっていつの間にか落ちてたなんてこともあるかもしれない…一応気を引き締めて、何が起こるのか身構えておこう。


『これより、今月三十回目の冒険者試験対人戦部門を開催いたしますッ!』


『ウオオォォォォォォオオオオッッ!!』


『本日の試験官に選出されたのは、逞しい筋肉に桁外れの魔力量でしかもなんと元第九軍団隊長…そうッ!冒険者協会のトップである彼がッ!レオナルド協会長が今、新たな新人のために足を運んできましたッ!!!』


『ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!レオナルドッ!レオナルドッ!』


 急に流れ出す司会の音声……上のほうを見ると、こちらを見てマイクっぽいものに向かいながらしゃべっている人がいる。なるほど、完全に娯楽だ。司会であろう女の人はものすごく楽しそう。

 それにしてもすごい熱気だ。観客は皆楽しそうに腕を振って目の前の協会長レオナルドに声をかけている。魔族の国ではこういうのが当たり前なのかわからないがさぞ見ると楽しいのだろう。しかし俺は今回リングに立つ側だ。既に足はがったがたに震え…あぁ、地面に付いてないから全然ふるえてない。体を極限まで左右に振ればそれっぽくなるか?いや、アイノがびっくりするからやめとこう。


『そして今日、冒険者になりたいと名乗り出てきたのは…生年月日不明ッ!住所なしッ!種族はジャパニーズという未知の存在!使うのは魔術ではなくなんと聞いたこともない「筆「魔法」」ッ!まだ十七歳なのに今日一児の親になったというヘビーな経歴の持ち主で、なんとあの英雄ゴリレオクスを打ち負かしたとのことぉ!魔王国にやってきた謎の覆面、ソーイチッ!』


『オォオオオオオオオオッ!!』


「おい!ゴリレオクス微妙な顔になってるからやめてやれ!」


「お父さん!頑張って!」


「というかアイノはいつまで乗っかってるんだ!危ないって!」


 アイノがものすごく嬉しそうで楽しそうな顔をしている。いい加減にしてくれぇ…

 アイノに降りるよう言おうとしたとき、急に目の前の軍人レオナルドが口を開いた。人を見下すような態度で相変わらず立っている。


「ほぅ…自ら「魔法使い」を名乗るとは、神話に憧れた哀れな小僧か頭の悪い馬鹿なガキか……」


「初対面の相手にそれってどうなのよ……」


「ふん、貴様など取るに足らん相手だ。あのゴリレオクスを倒したと聞いて飛んできたが……間違いだったか?」


「あそう……」


 ……なんか煽られてる気がするな。冷静になれ俺、こいつら俺をなんかで試してるな?ふっふっふ、そんなの俺にはお見通しだ。こういう時は冷静に対処していかないと足をすくわれて普通にやられるのがオチなんだよ。だからあくまでも冷静に、そしてこれは試験であることを忘れるな?

 あとアイノがいるから攻撃が当たらないようにしなければいけないな。多分こいつもあのゴリラみたいにジャンプできそうだし……いや、魔力量がどうたらこうたら言ってたからこいつ普通に空飛んでくるんじゃね?それだとものすごくやりづらい。どうするか……卵でもデカくするか?


『そうそう、本日はこの会場は特別仕様となっておりまして、なんとどんなに派手な魔術や危険な魔術を使ってもあとで元通りになってしまいます!そう、どんなことをしても今日は問題ありません!頑張れレオナルド!』


「司会が試験官のほうを応援してやがる……ほら、手でも振ってやれよ」


「……」


 なんか微妙な顔つきで無視された。なんだ?娘か妻か?わかんねーな、あの若さじゃ娘かな?まぁいいか。俺はやれることをやるだけだし。

持ち物OKということで持ってきたスーツケースの中から筆を一本取りだす。たくさん使っているのにいつまで経ってもこの液体は渇くどころか潤っている。もう筆の蓋は紫に染まってしまったよ……


 そんなことを考えつつ、準備はできたという合図をする。相手のほうは既にしてたので、俺のことをしっかり待ってくれていたようだ。ツンデレかな?誰もうれしくねぇよ。


「先手はそちらからでいいぞ、まぁ一撃当てれるかどうかは知らないがな」


「ありがとよ」


『両者準備が整ったようです……試験時間は十分間!その間にどちらかが気絶もしくは死亡したときに試合は終了です!あ、試合じゃない試験は終了です!本当は三十分くらいやりたいけど今日は試験!皆さんわかってくれますね?……それでは、開始ッ!』


 随分と恐ろしいことを言ってくれたな。死んだら終わりとか、すべてが元通りになるってそういうことなのか……死にそうになったら気絶すればいいや。うん、そうしよう! 

 俺はとりあえずしゃがんで、地面に顔を向ける。今は実験もかねてやりたいことが結構あったのだ。できるとしたらこのタイミングなので、おそらく先手を譲って待ってくれているレオナルドには悪いがのんびりと書かせていただく。

地面は色の薄い土だ。うん、土。ちょっと固められてるし多分そういうやつだ。たまにコロコロと小石が落ちている程度だが、これならなんとかなるだろう。


 ちょっと相手のほうを見てみると、なにをするのか楽しみそうな顔をしているレオナルドがいた。愉悦の表情ってこういう感じなのかな……こえぇ。


「……よし。これでいいだろ」


 俺の足元が光り輝いていき、それと同時に頭痛がした。一日中いろいろやってて疲れたのかもしれないが、今はそんなことで困っている場合じゃないのだ。

 多分、このまま俺が何をしてもあいつには一瞬で対応されると思う。覇気がどうのこうのとゴリラが言っていたけど確かに感じる。あれは強者だ。雀の様な野生の強さではなく、洗練された強者のオーラを感じる。

だいたい魔力量がすごいっていうんだし、きっと魔力を出してゴゴゴゴゴみたいな感じでさっきも一緒に飛ばしてるかもしれない。絶対そういうことしてそうだもん見た目が。


 じゃあどうしようってことになったのだが……


「まぁ、こういうのばっかり思いつくよなぁ……」


 光っていた地面がひび割れていき、そのまま盛り上がってくる。これはただひび割れているわけではなく、ひびが割れているような感じで土の姿が変わっていっているような感じだ。

徐々に盛り上がって行ったところがチューブから出てくる歯磨き粉のようにとある形へと変貌していく。もっと他に表現があったと思うがまさにそんな感じなのでそれ以外説明が思いつかない。


 ひび割れていたところは角ばった鱗の様になって長い胴体を覆っていく。そして完全に地面から離れることに成功したそれは、俺と同じように宙を漂い体を一度うねらせてからレオナルドを睨み咆哮を上げる。


『グルァァァアアアアアアッ!!!』


 地面からせり出してきたのは土でできた巨大な龍だ。さすがに間に合わなくてアユほどの強さを持っていそうには見えないが、まあ神話級くらいには届くだろう。人工物でどこまで本物を倒してそうなやつに対抗できるか見ものだ。

俺の足元には十メートルくらいの大きな縦に長い穴が開いてしまったが、浮いているので問題ない!それに、こういうことをするときはしっかりその分の材料の量が必要になることが分かったし上々だろ。卵の巨大化はマジでわからないからどういうものなのか考え中。


 俺が作り出した土の龍を見て、冷静に分析しているスキンヘッド。ただその口元にはわずかながらも弧あ描かれているということは、少しは楽しめてもらえそうだ。ただこれだけだと思わないでほしい、俺だっていろいろ試したいからまだ攻撃とかしないでくれると助かる。


「おーい龍、一回こっち向け~」


『グル?』


「よーしいい子だ。そのまま口開いてくれよ……はいよーし、これで思う存分暴れることができるから頑張れよ?」


『グルルルルァアアアアアアアッ!』


 龍に少し細工をした直後、二度目の光が発生する。さっきのより光が強いということは、それなりに何かを使っているってことだろう。俺の寿命とかだったらやばいがそんな感じはしていないのでおそらく違う。多分魔力とかなんだろうが生憎俺には魔力量がわからぬ。

 まぁいい。そういうのは俺が家を買った時ゆっくり考えよう。今は目の前の試験に集中だ。


 光が収まったときに現れたのは、全身が土から金属へと変貌した龍だった。瞳の色までメタリックで、金属なのにゆらゆらと揺れ動く髭がすごく面白い。

さっきまで柔らかそうだった爪や牙は、今ではなんと鋭くとがった凶器へと。背鰭はのこぎりのような形だし、尾は当たるだけで死にそうなトンカチのような形をしている。すごいかっこいい龍だけど、俺も当たったら普通に死ぬので少し距離を取ることにした。


「ほう?なかなかの魔術……まぁいいだろう、お前は動かないのか?」


「さぁどうだろうね、まぁ精々そいつと楽しく踊っていてくれ」


「言われなくとも……ッ!!!」


 向こうで龍VSレオナルドが始まった。龍は自慢の爪を、レオナルドはサバイバルナイフのような武器を互いに切りつけようとして俺には見えない速さで戦っている。ギリギリ龍の動きはわかるがレオナルドが異常すぎて本当に少ししかわからん。龍が前足で斬撃を飛ばすというとんでもない技を連続で繰り出しているというのに、そのすべての飛ぶ斬撃をサバイバルナイフすら使わずおそらく肘で流している。外れた斬撃はすべてレオナルドの後ろ方向のコロシアムの壁をひたすら切り付けていくので振動がすごい。

 会場運営のほうが慌てて何かをしたらしく、壁に斬撃が当たらないように半透明で薄青色の壁を浮き出させた。地味に耐えきれてない感じがするけどみんな必死だし大丈夫だろう。観客に当たらないような配慮もしっかりしてるんだろうし。


 龍が自分の尾を振りまわしてレオナルドに叩きつける。レオナルドに直撃し、まっすぐ後ろに跳ばされていったがやつはなんと空中で回転しながら体制を持ち直し倒れるどころか勢いよく前に跳んで龍に向かっていった。どれだけ力を入れたのかは知らないが小さいクレーターができている。こいつさてはゴリレオクスより強いな?わかってたけど。


 龍は諦めず斬撃を繰り出すが、龍を切りつけようとするレオナルドのサバイバルナイフにすべての斬撃を両断される。ここまでレオナルドは魔術を一切使っている気配がないのでこの時点で化け物だ。俺の龍が弱いかもしれないがそれなりに強くしようといろいろと詰め込んである。もうちょと耐えてほしい。

 しかし、あっという間にレオナルドは龍との距離を縮め両手のサバイバルナイフを逆手に持ち、通りすがりざまで流れるような動きをして横に金属の身体を持つ龍をまるでバターでも切るようにして三枚下ろしにしてしまった。龍は切られたことにより硬直、そしてレオナルドは地面に着地してサバイバルナイフを胸のポケットに付けられたケースに仕舞った。悔しいけどカッコいい…


 内心「マジか」と焦っている。もう少し持つと思っていたのだが、悲しいことに数十秒くらいで龍はやられてしまった。だがこのままやられるのはカッコ悪いだろうと思ったので、一応龍にはとある機能を入れてあった。


「こんなものか……所詮子供の技、とても魔法使いを名乗るには……おぉッ!?まだ動くかこのッ!」


「残念、油断したな?いけドラゴン、破壊光線!」


 死にかけの龍は切られたにもかかわらずしっかりと命令を聞いてくれる。そりゃそうだろう、生きてないし。


 死んでいるのに無理やり生かしているのは嫌な感じなのであまりいい気分ではないが、アイノにもかっこいいところを見せてやりたいので容赦はしない。

 龍はレオナルドが油断しているすきをついて体を巻き付け固定し、三つに分かれてしまった口を大きく開く。真っ赤に輝く口は徐々に大きな球体を作り、黒い電気のようなものを周囲に走らせて口から光の柱を発射する。自分もろともレオナルドに破壊光線を放ったので、どろどろに体が溶けていく龍。


「ありがとな。あとは俺がやるから、お前はゆっくり休め」


 返事はなかったが安らかな顔をして死に絶えた龍。短い付き合いだったがいいやつだった……またいつか、絶対にやられないように作ってやるからな。


 一応、これで終わってくれればよかったのだが……残念なことにレオナルドはまだ生きている模様。

少し薄汚れたかな?程度の外傷で本人は全く気に留めていない様子だ。これは非常にまずいぞぉ?試験っていう割にとんでもない死闘をさせられている気がしてきたな。


「はっはっはっは!なるほど、面白い魔術だ。まだ()に達していないとはいえど、成長したらお前はいい魔術師……いや、魔法使いにでさえなれるだろう!」


「なにをわけのわからぬことを…さっさと倒れてくれれば試験は終わるのに。というか十分できることを証明したじゃないか!いつまでやるんだこれ!」


「つまらぬことを言うな。いいだろう?ではいくぞッ!」


「あぁくそッ!!もうしらねえ!」


 さっきはずっと見ていたわけじゃない。やること多すぎて準備に手間取っていたが何とか間に合った。とても実践に使えるようなものじゃないし範囲がどこまでかも理解していない以上失敗するかもしれない……だけどやらないよりましだ!


 レオナルドが走ってこちらに向かってくるが構わず俺は半紙を地面に叩きつける。それと同時に大きな地響きが鳴り出した。大地は震え、空は徐々に黒くなっていく。


 大きな影が、コロシアムを覆っていく。突然の雨雲か?なんて思った人も少なからずいると思うが残念でした、これは雲じゃありません。作戦としては似ているが、これはあのゴリラと戦った時と同じようなものだ。そう、ジャバヒレティト・クァッタの卵である。

 コロシアムよりも大きくなってしまった卵は隕石の如くこちらへと向かってくる。あの卵を作り出すのは中々に骨が折れた。小さい字でたくさんのことを書かなければいけないのだから。


「ねぇお父さん!いま地面に置いたのは何?」


「あぁこれか?これがあると安全なんだ。なんか魔術の障壁みたいなのあったじゃん?今もこの会場に貼られてるやつを書いてみたんだ」


 アイノが質問してきたので俺はやさしく答える。さすがにあのスキンヘッドも聞こえていないと思うし、大丈夫だろ。


 と思っていた矢先に俺の足元に風が通ってなんと紙がそのまま禿のもとに!

地震が発生中なのにその場で倒れることもよろめくこともないスキンヘッドはこちらを笑いながら見ている。ただ様子を見る限りこちらに向ってこないので今動くと攻撃が外れる可能性があるんだろう。あいつもさすがに走れないのかも……というか、こいつ空飛んだりとかジャンプとかもしないんだな。


 俺の半紙を持ってスキンヘッドがにやつく。人の手札を使って勝利して嬉しいか~。


「ふう、これがあれば安全なのか?お?地面の揺れがないな……なるほど、あれから身を守ることと揺れを抑えるのか」


「うわわわわわわわわわゆゆゆゆゆれっるるるる」


「ふん……今ならやれそうだな。あの巨大ななにかもまだ遅い。容赦のなさが足りないあたりまだまだ子供」


 好き勝手言ってくれますなぁ、まぁそれくらいがちょうどいいんだけどさ。意表を突けるかはわかんないけど、人のものをとっちゃいけないことをよく理解してもらえると嬉しいな。

まさかこんなことに引っかかるとは思ってなかったが、引っかかってくれたのなら全力でもてなしてあげよう。


 レオナルドが俺を倒すためこちらに歩みを進めてこようとしたが、レオナルドは前に進むことができなかった。口は動くようだが、自分が今なぜ動けないかを理解できていないようだ。とりあえず怪しい俺の持っていた半紙を捨てようとしたのか目で自分が握っている半紙を睨むも微動だにしない。残念だが、その半紙のおかげで今の君は動くができないのだよワトソン君。ワトソン君だったら余裕で俺のこと撃ち殺してきそうだけど……


「なんだこれは」


「おーおー冷静ですな。まぁじっくりとあの卵でも眺めているといいよ、さっきより速くなってるから」


「なにッ」


 急いで上を見たくても顔が動かず目だけがきょろきょろとしているのは非常に滑稽だが、それでも抵抗し続けようとする意志はすごい。しかし魔術を使わないのはなぜか疑問に思う。もしかしてこいつ、身体能力を魔術でカバーしてるとかなんだろうか。いやでもあの風ってやっぱり魔法だよな?俺が「強風」って書いておいた半紙が作動する前に風が起きてたし。うーん、謎は深まるばかりだ。


 コロシアムから空はもう見えない。卵がすぐそこまで侵入してきているからだ。壁は卵に削り取られて行き徐々にコロシアムの背は縮んでいく。観客はなんか放心状態だ。そのままじゃ死ぬと思うけど、まぁ全部元通りになるっていうんだし多分大丈夫だろ!ダメだったら俺はこの国から全力で逃げなければならなくなる。会場中の人間だけでも三万人くらいいるはずだ。だってここ東京ドームくらいの大きさだし。今世紀最大の殺人事件として語り継がれるのは嫌なので何かあったときのためいろいろと用意しておいたが……多分何とかなるだろう。俺は直立のまま卵が当たらないようにレオナルドから距離を取る。


 それを見てレオナルドが驚いていた。俺が空中で今まで浮遊したことをようやく理解したような表情だが……そんなことないだろう。俺を侮りすぎて目が節穴にでもなったか?


「貴様……このまま俺が逃がすとでも?」


「いや~、俺もあれに当たったらひとたまりもないからさ。本当はどこかの誰かさんが俺の持ってた紙を奪わなければ急に速度が上がることもなかったんだけど」


「ッ!…少々お前を舐めすぎたか。いいだろう……俺の究極の魔術を見せてやる」


 どうやらレオナルドが本気を出すらしい。大丈夫か?もう真上に卵の隕石が迫ってきているぞ?一応レオナルドが持っている半紙のおかげで落ちる地点は少し俺より離れているレオナルドの真上だ。まさか「卵が落ちる座標」とか書いてうまくいくとは思わなかった。もしかしたら全世界の落とされた卵がこちらに向かってっ来ているかもしれないけど……あとは「地震無効」とか「汪美創一以外が持つと持っている人物をその場に目や口以外固定」とか、あとはなんて書いたっけな、どれもこれもふざけた文章だが、しっかり動作している。因みに、この半紙は準備に時間がかかりそうだったので文章になっていなかったら困ると確認しながら書いて、その間に龍に時間を稼いでもらったのだ。


 あぁ、それとあの卵、巨大化はゴリラ戦よりも多い十個だ。そりゃあんな隕石みたいな卵が出来上がる。それプラス「汪美創一から二キロ離れた上空に転移」って書いといたんだ。これでしっかり空へ移動してくれる筆魔法は素晴らしいな。ただこれだけの数を卵に書くのはほんと大変だから二度とやりたくない。。そして空中の距離を見誤ったらやばかった。次から二キロでものを落とすようにしよう。もしダメだったら俺は死んでた。

だって避ける方法もないしあれを小さくする方法もないからね。うん、自滅覚悟の最大の切り札です。でも死んだら戻るんだろ?死ぬの怖いけど。


 気づけばレオナルドが赤黒いオーラを纏ってこちらを睨みつけていた。今にも何かの攻撃が来そうだし避けたいけど、なんとなくプロレスを意識して避けたくなくなる。一応、対抗策はあるからなんとかなるけど正直ものすごく怖いので逃げたいです。どす黒く赤いオーラのようなものは徐々に強まっていき、動けない相手に恐怖を感じてしまうくらいレオナルドの力を感じた。


「今のうちに逃げておけばよかったなソーイチ、俺の魔術を食らって一度死ねぇッ!!!『起動術式召喚、術式展開!顕現せよ、グルマンディーズ(暴食)エンペラー(皇帝)ッッ!!』」


 レオナルドの足元に赤黒く発行する幾何学模様が発現する。まさに魔方陣だが、邪悪な雰囲気と不気味な瞳を形どった模様が俺に警鐘を鳴らしてくる。このままここにいれば、何かとんでもないものが出てくるかもしれない。

 「大地震」と書かれた地面は未だに光っていることからまだまだ効果は発揮されることがよくわかる。このまま地割れでも起こしてレオナルドを地面に落とせたらいいんだがそんな時間は毛頭ない、まさに今あの魔方陣から巨大な七本指の手が生えてきている。


 枯れ枝のような見た目で細いくせに俺が作り出した龍お同じくらい大きい腕は、肘を曲げて手を広げてのひらを卵に向けていた。何をするつもりなのかはわからない、しかし確実に何かをするということは理解できた。

なぜかというと、腕に夥しく血管が浮き出てどれも激しく脈打ち、腕が震えだしたからだ。

それは苦しんでいるとも取れない震えを徐々に激しくしていき、今度は手首あたりに変化が起きた。


目が出現したのだ。


「ッ、な、なんだよ…一目ぼれでもしたか?」


 目はこちらをじっと見つめている。それは品定めではない、俺を友達でも見るかのような瞳だ。普通、こういう化け物は愉悦に満ちた笑いとかをする気がするけど、そいつはなぜか俺を見てどこか懐かしそうに瞳を輝かせ、そのまま目を閉じていった。


 レオナルドは既に意識を失っている。位置を固定しているから倒れることは出来ないので申し訳なく思う。しかし、未だに腕は消えない。それどころか試合終了の合図すらない。これはどうなっているんだろう。コロシアムの観客席は既に卵で潰されているため見えることはないが、血などが見当たらないのでおそらく死んでいることはないはずだ。


 とうとう卵が腕に衝突する。そのとき、腕が出てきた魔方陣が黒い空間へと変化した。遠目からなので正確ではないが、あれに底があるとは思えない。太陽光でもあれを照らすのは無理だと感じた。

卵を七本の指で掴んだ腕は、その空間へと少しずつ戻っていく。卵はそれに必死になって抵抗するように俺の文字に書いていない動きをしだすので、一瞬驚いた。

訳が分からないまま、一応アイノを肩から降ろして地面で守るように覆いかぶさりながら卵の行く末を見る。

 少しして、腕は一気に穴へと入っていった。それと同時に卵は抵抗しなくなったように動かなくなりア空間へ吸い込まれていった。あれだけ大きかった卵がそのまま姿を消し空は青く明るくなる。

 

 黒い空間は消え、その場にはアイノと俺と気絶したレオナルドだけが残った。コロシアムはただのガラクタの山の様になっており、一部は壁が崩れて外が見えてしまっている。しかしそこに見えるのは魔王国の街並みではなく平坦な土の大地だった。空は青いが雲も太陽もない…ここは、魔術で作られた空間だったのだ。

 そりゃあ、いつでも元通りになるわなと思っていると、突然空間が歪んでコロシアムの壁が再生されていく。


「終わったか……ってアイノ?」


「……」


「あーあ、気絶してる」


 俺の視界は徐々に白くなっていき、気づいたときには俺は冒険者協会の二階の受付に立っていた。

 


 

















『ほぉ、お主は誘われ人か。懐かしいのぉ、妾が全盛期だった時代にはわんさかおったのに、今ではその数も希少なものになってしまった』


 あれからどれだけ経ったかわからない。いつの間にかいたこの部屋には、喋る変な赤い球が中心で浮いているだけだし、ここがどこかなんて見当もつかない。


最初会った時はそれこそ「さっさと帰ってくれ」という感じで対応されてたけど、しばらく話しているうちに私が来たくて来たわけじゃないということを理解したらしく、先ほどからずっと彼女?の話に付きあっている。

 会話していて分かったことは、ここは地球じゃないことや自分が誘われ人という存在であるということくらいだろうか。


『そうじゃお主、魔法は使えないのかの?誘われ人はどいつもこいつも強力な武器や能力を有しておったのでな、お主に武器がないのであればやはり魔法か身体能力面でなんらかの良い影響が出ていると思うぞ?』


「……さっき言ってた魔法?魔法なんて、使ったことない」


『そりゃあ、誘われ人はそんなものじゃろう。今まで魔法とは縁のない世界の住人があいつらじゃからの。そうじゃな…ほれこれを触ってみろ』


 赤い球から出てきたガラスの立方体。落とさないように手で受け取るが、案外軽く落としても割れるような感じはしなかった。

 誘われ人は強力な力をもっているというが、どういう塩梅で強力だと判断できるのだろうか。素手のパンチで核爆発の威力がでたらそりゃあ最強だろうしまさに協力だ。でも今の私にそんなことできる気配もないし、魔法だってそうだ。


『それを持って……うーん、とりあえず大事な人でも思い浮かべたらどうじゃ?思いによって魔力が放出される量は変わるが、その勢いで魔力量がわかるはずじゃ』


「……やってみる」


 大切な人……うーん、誰だろう。やっぱり創一なのかな?あの日創一が死んでしまってから毎日頭の中が創一でいっぱいだった。

それだけ頭の中から離れていかないってことは、その分自分の中で彼の価値が高いということ。ということは創一を大事な人という理解でもいいはず…やっぱりよくわかんなくなってきたから、今までの思い出を振り返ろう。


 創一が昔、私と一緒に洞窟に入ったときのこと、創一が学校で私が泣いているときにいつも一緒にいてくれたこと、創一がくれたゲームを二人で一日中プレイしたこと、創一が…創一が…


『お主……なんか怖いぞ。魔力量が妾以上ではないか。今はこうしてコアの動力源として閉じ込められているが、お主が一度魔法を使えばそんなの必要なくなってしまうかもな……おぉ、そうじゃ!のぅお主、その魔力を妾にくれんかの?そうすればこのつまらん毎日とはおさらばできるかもしれんのじゃ!頼む!』


「……いいけど、私をここから出してくれる?」


『ぬ?もちろんいいぞ!いやぁありがたいのぉ、昔は妾が話しかけようものならその場の誘われ人是認が切りかかってくるような時代じゃったのに……よし、そうと決まれば早速こっちへ寄るのじゃ!そのままお主はさっきのように考えておればいい』


「……わかった」


 この球体、どうやら中に人が入っているそうだ。こんなところで今まで何をしていたのかとても気になる。だけど、それも彼女が出てきたらわかることだ。

だけどいいのかな、このまま彼女を出してしまうとなんかあれな気がする……そう、封印されし存在の封を解いてしまうような、そんな感じ。

 

 でも、ここで彼女を解き放たないと私はここから出ることができない。そもそも歩けないけど……あれ、足が動く。さっきまで足が動かないままずっと彼女と話していたはずなのに。

それに、今気づいたけど色が見える。赤色がしっかりと見えている。もう視界が灰色ではなくなっていた。


「……足が、それに目も」


『あぁ、その足か?すごいじゃろ、お主の足に掛けられていた呪いは妾が解いておいたぞ?かんしゃせいかんしゃせい……まぁ、ちと強力で手古摺ったがの。あ、目のほうは簡単じゃったよ?』


 呪い?何の話だろう。私が動けなかったのは呪いのせいなんだろうか。でも私がいたのは地球だし、そんなのがあるとは思えない。

とりあえず、私の足を動くようにしてくれて目も戻してくれたのは確かだし、貸し借りなしでってことで助けることにしよう。


 私は赤い球に近づいていく。一番近くまで寄ったとき、球体は突然割れ始めた。


『おぉ……おぉおお!お主、さすがじゃの!よし、いいぞいいぞ!ぬぉぉぉぉお!』


 球体から嬉しそうな声が上がっている。とても奇妙な光景だが、相当長い時間ここに閉じ込められていたのだろう。嬉しいのは当たり前なのかもしれない。

全体に亀裂が入って、そして粉々に砕け散っていった。破片が目に入ると思って手で目を守ろうとしたが、なにも飛んでこなければ地面にも赤い球の破片はない。


 声を出していた本人はどこへ行ったか探そうとすると、突如背後からなにかが爆発したような轟音が鳴り響いた。

振り向くと眩しい光が私の目に入ってきたので、ゆっくりと目を開けていく。心地よい涼しい風が私の髪を撫でた。


「ほぉー。やつらも辺鄙なところに妾を閉じ込めたのぅ……お主もそう思わんか?」


「……?…貴女は」


「ホラ妾じゃよ妾!この超絶美少女をみて思い浮かべるものはないか?」


「……あぁ!あの玉の」


「玉て…乙女がそのような表現をするでない!…そうじゃ、妾がコアの中身で、大昔に世界を震撼させた究極邪神エルマじゃ!」


 どーんと、どや顔をきめるエルマ。究極邪神だけあって(?)その容姿はとても美しい。流れるような長い水色の髪にはところどころ無理をして付けたような悪趣味などくろの髪飾り、少し幼さを感じるが整った顔立ちで、なんと赤と黄色のオッドアイだ。服装は割としっかりしているとは思う。女神みたいな服といえばいいだろうか、金の装飾がキレイ。もし人間でも、十分モデルとしてやっていけそうなくらい美しさが内側から滲み溢れている。でも見た目的には私と同じくらいの年齢のような気がする…


「おや?そんなに見つめて…ふふん、妾の美貌に見とれたか?まぁお主も負けてはおらんよ。今時銀色の髪に碧眼美女とか妾でも見ないぞ?……というか主、胸デカすぎんかの?」


「……恥ずかしいから、やめて」


「す、すまん、悪かったからその顔をやめい……妾なんてこの有様……悲しくなってきたから話を変えよう。さて、脱出もできたことじゃ。ほれ何ぼさっとしておる、行かんのか?」


「……ついていっていいの?」


「ん?いや、ここに置いていったら絶対お主の垂れ死ぬじゃろ…ほれ、いくぞ」


 邪神という割には優しい大人な女性は、私の腕を引っ張って外へ連れ出してくれた。


外に出るとそこは山の斜面で、ところどころエルマが壊した部屋の瓦礫が飛び散っている。なにをどうしたらこんなに大きな穴をあけることができるのか疑問を口にすると「そのうちお主にもできる」と笑いながらエルマが言った。

 山から見える景色は絶景だった。ここがどこかはわからなくても、まだ球体だったエルマの話からここが別の世界もしくは国だということが分かっていたので驚くことは少ない。驚かされたことといえば今いる山の高度が思った以上に高いのに息ができるし寒くもないこと、山からたくさんの国が見えること、近くを西洋の神話生物が飛んで行ってそれをエルマが撃ち落としたことくらいだ。


「外の空気はやはりいいのう…おや?あんなところに国が。おやあんなところにも…あれ?妾が住んでた国ないんじゃが」


「……エルマ、きっと何百年も閉じ込められていたんでしょ?それじゃあ国の一つや二つなくなっていても仕方ないよ」


「ぬぅ…何百年どころではないかもしれんな。おそらく何万か…ま、いいじゃろ!さぁ、行きたいところにいくぞ!世界は広いし楽しいぞぉ~?」


「……そう。でも私は」


「ぬ?なにをそんな思いつめた顔を…ははぁ~ん、お主さては想い人を失ったな?うんうん、昔も知り合いにそんなことがあったのぉ~」


「……創一は想い人じゃないけど、大切。世界で一番大切」


「世界で一番とか、それ思い人じゃて……まぁ言っても聞かんだろうしな。しかしお主は失ったほうかぁ、まだあっちの世界にいれば妾が無理やり呼び出せるんじゃがの。死んだ者はやはりここに偶然来ていることを祈るしか…ぬ?」


 なんか無理やり連れてくるとか物騒だしはた迷惑なことをいてた気がするが気のせいだろう。

 創一がもし、この世界に来ていたら…そう考えてみるが、あまり現実的ではない。


「……そんな偶然、ありえない」


 誘われ人というのはその人が地球で死んだときに極稀にこの世界へ生きた状態でやってきてしまう人とある日突然死んでもいないのに突然こちらへやってきてしまう人に分けられるそうだ。私は後者で比較的数は多いほう。前者は千年に一度くらいの確率らしいので、毎年何万人も死んでいる地球ではそれこそ天文学的な数値になってしまう。


 でももし、この世界にソーイチがいるんだとしたら…そう考えてしまう。

そんなこと考えたって辛くなるだけだと思考を放棄して、エルマに話しかけようとする。


「……私は、」


「まぁまぁ!いいじゃろ別に。この世界にその男がいようといなかろうとお主がいつか見つけ出せばいいことじゃ!それについこの間は黒の奴が何かを大量に呼びよせていたのでな。おそらくじゃがお主がこちらに来たとすればお主の誓で暮らしている人物が何人かこっちに来ている可能性がある。ここだけの話じゃが妾の勘はよく当たるのじゃぞ?」


「……ここだけの話の使い方って、あってる?」


「……よし!ともかく行くぞ!折角この世界に選ばれたんじゃから、お主も目いっぱい楽しめ?だいたい、死んだ想い人はお主のそんな辛そうな顔を見て嬉しいと思うか?」


「……ちがうと、思う」


「そうじゃろそうじゃろ!じゃから行くぞ!それに今回の勘はすごく当たりそうな予感なのじゃ、お主の想い人はきっといるぞ?」


「……そうだったら、嬉しい。元気づけてくれてありがとう」


「な、何じゃ急に……そんな純粋な笑みをわしに向けるでない!蒸発してしまう……あぁ、そうじゃ。お主では堅苦しいから名を教えてくれぬか?妾もう名乗ったし教えてくれてもいいじゃろ」


「……音夢。灰霧音夢」


「ほぉ、じゃあこの世界ではネム・カイギリってことじゃな!うむうむ、良い名前じゃ。妾が現役邪神だったら祝福を授けていたぞ?」


 エルマ、その言い方だと今は邪神じゃないことがバレちゃうよ。そう言おうとしても何やら満足そうな感じでうんうんと頷いていたので話しかけるに話しかけられない。黙っておこう。


 エルマは面白い。邪神だというのに全くそんな気配がない。なんでここにいたのかが疑問だけど、いつか聞けばいい。少ない確率に縋り付いてみるのもいいかもしれないし、創一がもしこの世界にいるんだったら創一にわかるよう目印を立てよう。


 私はエルマに連れられて、世界を渡っていくことにした。









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