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覆面狂詩曲 ~白猫を添えて~  作者: 餅鍋牛
大迷宮編
11/26

覆面と旅

時間がなかったので短いのと誤字が多いかもしれないです。あと文章おかしいかもしれないので指摘いただけるとありがたいです。


 アイノと共に旅の荷物を持って滞在時間がほぼ一日だった魔王国ハイディリッヒを抜け出し、俺は今空中を移動していた。第三者が俺たちを見たら「覆面の男が猫獣人を肩車し大荷物の状態で空を直立で移動している」という説明もイメージもしづらい状況に理解が追い付かないことだろう。

 そもそも俺だって、今の状況を少しも理解できないのだ。

今ここにいるまでの出来事を振り返ってみよう。俺はまず、幼馴染である灰霧音夢(かいぎりねむ)が罰ゲームによって隠されたという習字道具を見つけ出すため一日中歩き回り、夕方に天敵である治屋将(ちやまさる)に見つかって夜まで追いかけっこ。そのまま流れるように侵入した港に習字道具があったので持ち帰ろうとしたらなんとマフィアみたいな人たちに勘違いされて銃撃戦になる。疲れ果てたところで俺は意識を失い、気づいたら上空で雀がドラゴンを食べていた!


この時点で俺はテンションがおかしくなっても仕方ないと思う。そもそも、一日中ほぼ喋りもできなくなるようなほど走った挙句、気が付けば全く知らない川とか頭おかしいだろ。よく一日生きてこれたな……


そこで色々見てたら見つけたのが、俺が今肩車している白猫獣人アイノ。元奴隷で不死身の呪いという割と厄介なものにかかっているらしい。元奴隷というのは、なんでかわからないけど奴隷紋という魔方陣のような人間を魂ごと縛り付ける物が剥がれてしまったからだ。俺が触った途端にペロッという感じで剥がれた。いやほんとに。それに関して魔王国の門番であるゴリレオクス・ライディバイト(ゴリラ)に聞き出されそうになったが、切れ者である俺は離さなかった。だって、言ってたとしても信じてもらえないでしょ。


あとは、何があったっけ……あー、不動産に行ったら格安で家を買えたのか。あと冒険者食堂で金塊売りさばいたから今の俺は超金持ちだ。金はいくらあっても困らないからあとでまた金を作っておこう……

 あぁ、あと一つ、俺にとっての大問題があった。俺のスーツケースに入っている筆二本だ。正確に言えば俺のではなく音夢の所持品なんだが、アイノに付いていた奴隷紋が溶けて動き出したと思ったらなぜか墨汁代わりになってしまったんだ。


これに関してはマジで意味が分からん。なんで動くの?なんで筆?そしてなんで日本語で石に「金」って書いたら文字通りの物質になった?なんで鮎に厨二臭い強そうな言葉を書いたら龍になった?これのおかげでゴリラ戦と禿戦では怪我をすることもなかったし金銭面でだいぶ助けられているのは事実だが、どうしても疑問が浮かんでくる。俺が思ったことまんまになるし、なんならそこらの土から生きた龍が出てくるくらいだ。どうかしている。


「お父さん、なにか悩んでる?」


「あ~……まぁ、昨日今日で色々ありすぎだなぁと」


「確かに!お姉ちゃんに追いかけられたりして面白かった!」


「はははそうかそうかー」


「お姉ちゃん」というのは、俺が買った屋敷に住んでいたメイドの幽霊サレイノのことだ。今思えばあいつに出会ったのも結構すごいことだろう。この世界の歴史の謎とか意外と知ってそうだし、それにあいつ魔法が使えるそうだ。確か俺が気を失った時に転移させて部屋に運んだとか言ってたが、俺のイメージだと半端なくすごいものにしか思えん。

そして、あいつなんとあらゆることが出来る。掃除洗濯皿洗い風呂洗いから料理や菓子作り、さらに屋敷の修繕リフォームなにからなにまで自分でできるというハイスペックの域を超えている女性だ。なんか気の強そうなツインテ美女だが多分モテそうだし……


 サレイノ関連で最も驚いたことと言えば、やはり音夢がここに来ている……かもしれないということだ。なんとあの屋敷、音夢が住んでいたらしい。なんて因果だ!……無理にテンション上げようとするのはやめておこう。一回死んだんじゃないかってめっちゃ心配していたから正直これ以上心に負担をかけたくない。

かもしれない、というのは、信じられないことに音夢が来た時代が今の俺がいる時代とはだいぶ昔だからだ。具体的に何年かはわからない、サレイノに聞いたがずっと屋敷にいたから日付もわからないしカレンダーもとっくの昔に使い果たしたようだ。魔法の道具に時間を教えてくれる便利な道具ないのかよ、てか作れよ。そう思ったのはここだけの話。


「過去を振り返るのが思った以上に大変なのは、一日に色々ありすぎて覚えきれていないことだらけだからか?ふーむ、駆け足すぎるか……いや、音夢が行方不明状態でしかも生きているかもしれないとしたらゆっくりはしていられないな。あいつ、タフそうに見えて意外ともろいし……」


「たふ?」


 アイノが変なイントネーションでタフという単語を繰り返し続ける。精神が一生成長しない呪いというのは、案外いいこともあるのかもしれない。子供の頭脳だから覚えることの速さが尋常ではないのだ。いつか五十音の表でも見せてアイノに日本語を覚えさせてみよう。


「とりあえず、今見えているあの街に侵入するか。そろそろ疲れたからな」


「えー、もう空飛ばないの?」


「いや、かれこれ四時間くらい飛んでるぞ。良く飽きないな……というか、これだけの速さ出してるのにぜんっぜんヒシュア王国の跡地っぽいところに辿り着けないんだけど。地図を片手に持ちながら空を飛べるのは非常に便利ではあるのだが……ん?」


 俺は、左手に持つ地図の縮尺っぽいところを見てしまった。サレイノからもらった結構精巧な地図に書いてあったのは……


「…………ご、ごせんまんぶんのいち?みまちがいじゃないよな」


「どうしたの?ここ?えーっとね、五千万分の一って書いてる!」


「あっふ……なるほど?そうきたか異世界。ここ、広すぎだろッ!なんで五千万分の一の縮尺のくせにまだ大陸ある感じで端切れてるんだよ!てかまって、日本全体が映る地図って五百万分の一だったよな。それの十倍?ほぼ世界地図じゃねーのそれ……それで、この世界はほんの一部だけでも世界地図並みの大きさってことですかねぇ」


 地図の右下に書いてあった数値は、異世界の言語でありながらしっかりと「五千万分の一」という数値が書かれていた。意味が分からないことにこの地図はほんの一部のようで、右上のほうにある小いさな世界全体の地図っぽいところの赤でマークされている部分がこの地図に記されているところだと表されていた。しかし、どうやらこの世界広大なようで、マークされているところが異様に小さい。ここで世界一周なんてしたら何年かかるんでしょうね、光の速さでも結構時間かかるんじゃないでしょうか。


 いや、待て?まだ希望はある。もしかしたらこの世界の地図は五千万分の一が五百万分の一と同じくらいなのかもしれないし、世界地図っぽいところのほんの一部にしか赤のマークがされていないのも作ったところがミスったのかもしれない!うん!そうかもしれない!


一応心配なのでアイノに長旅になるかもしれないことを伝えておく。


「アイノ、結構な長旅になって帰れるの遅くなると思うけど、大丈夫?」


「うん!大丈夫!」


「さっすが」


 アイノに元気をもらい、現実逃避した俺は前を見る。もう地図を見るのはやめよう、のんびり急いでいこう。そう思った。

目の前に見えるのは、おそらく人間国家の小さな村。俺はこういう時に使えると思って空の旅をしている最中に作ったものをアイノに渡す。そして、そのまま真っすぐ村へと向かっていった。


























 一方その頃魔王国ハイディリッヒの魔王城幹部たちは……


「ソーイチが逃げ出したぁ!?!?」


魔王の前で跪く二人の大男ゴリレオクスとレオナルドから魔王たちに伝えられたのは、金級冒険者ソーイチの魔王国出立の知らせ。


「はッ、ランクカードの反応が突如変化し現在あの男は冒険者協会魔王国支部の管轄外となっています。即ち、彼は現在魔王国におりません」


「何をしているんだレオナルドッ!あの人物が人間の手にでも渡れば大惨事が起こるんだぞッ!それとゴリレオクスはいったい何をしていたッ!!」


「申し訳ありません。しかし魔王様、貴方はライラさんの様な桁外れの速度を持つ人物を帰宅直前に捕まえることは出来るのでしょうか」


「えッ?!そいつそんな速いの!?ライラ?」


「えぇ、さすがに私は追いつけないことはありませんがまず彼では無理でしょう。この国で速さを競ったら魔王様は三位になりますね」


「はぁッ!?なんだよそれあっていいことか!?」


 魔王はいつになく焦っていた。普段はクールなくせにイレギュラーが発生したときにあたふたし始めるのはいつものことなので、幹部たちはのほほんとしている。しかし冒険者協会の二人は「魔王がこんなに慌てている…俺たちは打ち首だろうな」と覚悟を決めてしまっていた。こういうときの魔王は正直残念過ぎるのである。


「まぁ落ち着け魔王様よ、そいつどうせ帰ってくるんだろ?気長に待とうや」


「しかしなハーラルデン、これは魔王国建国以来の……」


「だとしても、部下を怒鳴りつけるのはどうかと思うぜ?俺の警備塔が全く役に立たないレベルの速さでしかも結界をすり抜けたんだ。その二人じゃ捕獲は身に余るだろ、許してやれよ」


「……取り乱して悪かったな、悪かった。だが、これからは冒険者の管理に手を抜くなよ?特に金となれば協会長の私情で相手を不快な思いにさせるようなことがないようにしないとな?なぁ?お前今まで何人の金級を他国に亡命するまで叩きのめした?バカじゃないのか?えぇ?これに関しては怒ってもいいよな?」


「…………まぁ、いいんじゃないですかねぇ」


 魔王は今までの怒りを纏めてぶつけるためにレオナルドを標的にした。話の通り、レオナルドは魔王国で成長した金級冒険者や銀級冒険者を「腕試しだ」と言ってボコボコにした後放置するというえげつない行為をし続けていたので、魔獣討伐要員として重要な冒険者の数を減らしていた。魔王の言い分はもっともなのだが、対してレオナルドはさほど気にしていない様子。


「魔王様、生きているうちに一度は挫折というものを理解させておかねば冒険者としてやっていけないのです」


「お前のせいで別の国で活躍しちゃってるじゃねぇか!!お前、魔獣討伐に出向かないくせになんか偉そうなことばかり言ってて俺は最近は色々腹立ってきてるんだよ……そろそろ仕事しないと、研究所で解剖してもらうことに」


「「いいの?生態的にいろいろおかしいゴリレオクスの次に謎が多いレオナルドの解剖、楽しみにしてた!」」


「ごめんなさい、楽しんでただけです。もうしないです、魔獣討伐ちゃんとするんで許してください」


「「えぇ……」」


 隣のゴリレオクスは、レオナルドのあまりの惨めさに戦慄していた。試験ではいろいろソーイチに向かって言いまくっていたくせにあれが全部楽しむだけだったと思うと、自分の所属する組織がこのままでいいのかと頭の中で考えていたようだが、なんかめんどくさくなったようでやめた様子。


「レオナルド……お前、ソーイチに魔法がどうとか言ってたな。確かに古には魔法使いが存在していたとされるし憧れの的であるから様々な魔族がその職業を自称している。しかしそれにいちいち噛みつく必要はないのではないか?下級魔術しか使えない悔しさはわかるが、お前には召喚術があるだろう」


「ッ……」


 魔王から発せられたのは、怒声でも罵声でもない慰めだった。

 レオナルドは顔を伏せたまま、先ほどのような情けない音も出さなくなって、声を詰まらせた。レオナルドは下級魔術の風属性しか使えない。しかし、ユニーク魔術である”召喚術”が彼にはあった。それでもなお彼は、魔術を求め魔法に憧れている。

鍛え上げられた体も、魔術が使えず魔法を目指すことが出来ない苛立ちを自分を追い込むことで理性を保っているうちに出来上がった副産物である。本人はそれを別段すごいとも思っていないが、凡人であった彼が魔王国一の冒険者になれたレオナルドの実力を、この場の誰もが理解していた。魔王にも散々言われ研究所長の二人にも恐ろしいことを言われていたが、彼は外見に似合わず愛されていたのだ。


 そこにゴリレオクスが水を差す。


「……魔術と魔法って、なんか違うのか?」


「ゴリレオクスゥゥゥゥゥゥゥッ!!!折角良い纏まり方しそうだったのにお前なんてことしてくれんだッ!あぁほらレオナルドのスイッチ入っちまった!」


 ハーラルデンが悲鳴を上げる。レオナルドは周囲に赤いオーラを纏いだした。オーラが出始めたあたりで会議室中の人物が部屋の外に出ていた。それにゴリレオクスは困惑し、どうしたらいいのかわからずおどおどとしている。


「いいかぁゴリレオクス、今から魔術と魔法について徹底的に教えてやる、耳かっぽじってよぉーーくきけぇ?」


「あ、終わった」


 ハーラルデンは巻き込まれる前に外に出ていた。魔王国の軍幹部の中で一番の良心と言われる彼も流石にこの状況で優しさを見せることはなかった。


 こういうときのためにある予備の会議室へ幹部と魔王が移動し、今度は真面目に話し合うことになった。


「「言うの忘れてたけど、ソーイチという男の移動速度はジャバヒレティト・クァッタを上回っている」」


「…………じゃあ尚更追いかけるのは無理、か」


「まぁここは待ち続けるしかないんじゃなぁい?」


魔王に反応したシャーラの言葉に賛成したのはヒュオウ、クァレテッド、キュリアモーラ、デッドエフ、ハーラルデンだった。ライラは今回の件とは違う仕事、ある場所の探索を任されているので明日にはこの国を出ることになっているので待つという選択肢はなかった。カヨは微妙な顔をして唸っているが、おそらく待ちたいのだろう。リュイとニュイは待つより探す派なので独自に開発した魔術具を使用して捜索に協力する模様。そしてジャビエールは、腕を組んで難しい顔をしていた。


「……ライラ殿、ソーイチという男がいた場所には奇妙な木と魔力があったのですね?」


「ん?あぁ、あった。特に魔力は奇妙な感じだったが私はそういうのは専門外でな」


「ふむぅ……」


ジャビエールは目を閉じて髭を撫でる。それをみてシビィレーターが髭を触りたくなってうずうずしている様子だったが、シャーラに笑顔で止められて大人しくなった。


「よし、私はその現場を魔術師団全員で調査してきます。それでは」


 魔王の返事も聞かずにジャビエールはその場から消えていった。


魔王は悩む。この国から彼を出してしまったことは良くなかったことなのか、関わったらもしかするとこの国にも被害が出かねないので関わる必要はなかったのか。未だに終わらぬ愚者の石の解析を待ちつつ、これから彼がどこへ行くのかを予想するために、魔王は席に座りその場の人間と昼時まで話し続けた。



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