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覆面狂詩曲 ~白猫を添えて~  作者: 餅鍋牛
来訪編
10/26

覆面の出立


『ご主人、様……』


 その言葉を聞いてまず俺が思ったことといえば、「そっくりさんっているんだろうか」ということだ。

物凄くシリアスな雰囲気なのに、俺にめちゃくちゃ関係あるのに、そんな暢気なことばかり考えていられるのは長年適当に生きてきたことによる弊害だろうか。


一応言っておくが、俺は突然宇宙空間に投げ込まれビッグバンを生で見たくらいには驚いている。

もし、音夢がサレイノの屋敷の主であったとしたら、それは俺よりだいぶ前に音夢がこの世界に来ていることになるのだ。大昔がどれくらいかがわからないのが本当に痛い。これはやはり幼馴染兼友達兼親友として見過ごせない、もしここにきているのだとしたら何かしらの目印を立てているはずだ。絶対に探し出してやる。


 というか、これって音夢が死んだことになるのか?いやいやいやいや、んなわけないよな!うん!音夢がそんな簡単に死ぬはずが……いや待てよ、普通に老衰で死ぬじゃん。待て待て待ってくれ?俺を置いて先に死ぬつもりか音夢。別にそういう関係じゃないけどさ!


 落ち着け俺、こういう時に冷静さを欠いてどうする。とりあえず真偽を確かめるんだ。

その間にも俺の鼓動はどんどんと速くなっていく。


「そ、それはどういうことですかねサレイノさん」


『髪色はもっと銀色だったけど……間違い、ない…これはご主人様よ……どうして、彼女の絵をあなたが』


「…………い、一応聞いておくけどさ、そのご主人様の名前って」


『ネム・カイギリ様と言うわ……女神エルマの加護を持ち、一代でヒシュア王国の貴族に成り上がり、世界で最も魔法に長けていた人だった。口数は少なくて表情もほとんど動かない謎の人物だったけど、民には優しくて使用人にも感謝を述べるような変な人で、とても…とても……』


 サレイノが泣き始めた。泣きたいのはこっちのほうだってのに、先に泣かれたら堪ったもんじゃないな……

 ネム・カイギリ。まんまだ、俺の幼馴染で、友達で、親友で、一生隣に居たかった人物。


それが、死んでいる可能性がある。サレイノの時代はおそらく今と文明が全く違うはずなんだ。だとすれば数百年たっていてもおかしくない。


 そっくりさんなんて、言ってられない。これは一大事だ。こういう時にふざけていると後々後悔することになるのはずっと前に身に染みて理解したはず。だから、だから今度はうまくやって見せるんだ。


「……お父さん、大丈夫?」


「……あぁ、俺は大丈夫だアイノ。俺は、大丈夫だ」


 必死で自分に言い聞かせる。そうだ、安心しろ。ここは魔法があるなんでもありなスーパーワールド、時空を超えて音夢に会いに行くことだってできるかもしれない……でもどうやって?俺は生憎タイムマシーンなんて持っていない。

スーツケースを取り出して、筆を持つ。いつも持ち歩くようにしているが、今は使えるような気がしない。筆を持つことには慣れているのに、今は手が震えて動かない。書ける気が、しない。


 なんで、こういう時に限って俺は動けなくなるんだろうな。単純にヘタレだからだろうか?だとしても、俺はヘタレでも、今は動かなければいけない。世界で最も大事にしなきゃいけない人物と言えるのが音夢だ。俺は彼女をこんなにも大事に思っていたことに内心驚くがそんなことはどうでもいい。サレイノに少しでも音夢がどこ行ったかの手がかりを聞き出さなきゃいけない。


「サレイノ。その音夢は俺の知り合いだ。教えてくれ、音夢についてすべてを」


『ネム様と、貴方が、知り合い?そんなはずは……』


「はやく、してくれ……頼むから」


『……わかったわ』


 ネム・カイギリという女性はヒシュア王国に突然現れた魔法の天才と言われていた。魔力量は桁違いで、使える魔法は世界中に存在するものすべてと言われるほどの腕前を持っていながらも、その力を国のために使い、民のために使い、世界のために使ったという。あらゆる種族と友好関係にあり、どこへ行っても彼女の話は持ち上がりっぱなし。どこどこで龍を従えた、精霊の女王と親友になった、世界最速の魔王と足の速さで勝ったなどなど、様々な人が彼女の武勇伝を伝えてきたらしい。

 よし、音夢がいったい何をしているのかが全くわからないが派手なことをしているおかげでどこかで伝承とか伝説とかで残っている可能性がある。それだけでも結構な収穫だぞ。ただまだ焦るな、俺はまだここで走り出してはいけない。


 ネムは、王国で呪いの研究をしていたそうだ。不死身の呪いのことを毎日のように調べて研究し、見事実用段階まで修復したそうだ。これはサレイノに聞いたが、危険性についての話は実際に話を聞いたという。どうやら音夢によれば「世界を滅ぼしかねない」とのこと。どういうことかさっぱりだが、音夢に合えばわかることだ。まだ、生きていることを絶対に俺は信じる。じゃないとやっていけねぇ。


 そして問題はここからだ。

危険性について、あまり関わり悪なかったという国王に自ら足を運んで不死身の呪いについて語ったそうだ。どれだけ危険なのかとか、使うとどうなるかとか、サレイノは少ししか聞いていないらしいからわからないことが多いらしい。王の城にはさすがに侍女では入れなかったそうだ。

 

 そして、その日から音夢は消えた。


『あの日、国王は何をしたのか全く分からなかった。国のみんながご主人様の存在を忘れてしまい、彼女のことを知っているのは私だけだった。どうして、あんなことが起きていたのか、今でもわからない……』


「…………」


 体が震えている。これは悲しみのせいか?それとも怒りのせいか?わからない。俺はもう判断力が欠如しかけている。俺はどうしたらいい、音夢はどこへ行った、俺はどこへ行けば……


『……せめて、ネム様の日記が読めれば』


「……日記」


『えぇ、あの人は毎日日記を書き続けていたわ。一度、その日記の内容を読もうとしたら全部知らない言葉で読めなかった。あれさえ、あれさえ読めればきっと……』


 俺は、スマートフォンを取り出してメモ帳に日本語で言葉を打ち込んでサレイノに見せた。


「その日記の文字は、こんなやつか?」


『……ッ!!それは、どうしてあなたが…まさかッ!』


「今すぐその日記を持ってこい、早く」


『えぇ、わかったわ』


 サレイノは察しが良くて助かる。俺は焦る気持ちを抑えながらサレイノを待った。もし、これで何の手がかりもつかめなかったらおしまいだ。俺はこんなところで家買ってのうのうとしている場合なんかじゃない。アイノには申し訳ないが、しばらく買ったばかりの家から離れることになってしまうかもしれない。

その旨をアイノに伝えると、快く了承してくれた。なんていい子なんだろう、絶対に呪いを解いて見せるから待っててくれよ。


 サレイノがすぐにやってきた。さすがメイド、それも侍女頭だから有能だ。さぞかし音夢も気に入っていたことだろう。


『これよ。読めるのね?』


「あぁ、これは俺の住んでいた場所の文字だ」


『……頼みます』


 日記は経年劣化でところどころが色あせているが、どんな魔法を使ったのか表紙にあるタイトルらしき文字はまったく変色していなかった。ところどころに変な落書きがあるあたり音夢らしさを感じる。

タイトルに書かれていたのは「日記」の二文字だけだ。その周囲にはぐるぐると適当に書いた線や、よくわからない多足生物のイラストがある。やはり音夢のものだ。


 俺は、日記を開いて内容を読み進めていった。


『今日から日記を書いていこうと思う。この世界に来てだいぶ経ったけど、エルマのおかげで順応出来てきた。順応がこの感じであっているのかわからないので、少し心配になってくる。漢字が違っても、同じ日本人に会えるとは思わないので多分大丈夫だろう。安心して日々の思いをつづることが出来る。いつか、創一に会うことが出来た日に漢字の間違いを指摘してもらおう…

今日はもう眠いから、さっさと寝る。エルマが宿屋のベッドを勝手に変形させちゃったけど、ふかふかだしいいよね。おやすみなさい』


 あぁ、これは音夢の日記だ。綴るが書けないあたり、あいつだ。前にも教えたはずなのに、すっかり忘れてしまっていたようだ。


『エルマが怒られてた。ベッドを元に戻してくれと言われたので、昨日エルマに教えてもらったれん金術を試してみる。そうしたら、新品のベッドが出来上がった。さっきと変わらないじゃないかって、私も怒られた。ごめんなさい。

そうそう、この近くに人間の王国があるんだって。王国、見たことないし面白そう。エルマに行こうって言ったら喜んでくれた。なんでかはわからないけど旅行が好きってことにしよう。そうだ、創一がもしここに来ていた時のために何かの目印でも立てておこうかな。永遠に溶けない氷の柱とかいいんじゃないかってエルマに言われたけど却下した。それじゃあ分かりづらい。どこかの山にでっかい氷で「HOLLI WOOD」って文字作って置いておいたほうが分かりやすい。うん、そうしよう』


 音夢の日記にはいろいろな情報が書かれていそうだ。これさえあれば目標が立てやすい。そして音夢、ハリウッドはIじゃなくてYだよ。


 そこからは同じような調子で日記が続いていった。ヒシュア王国に到達したこと、魔法が上手になっていったこと、街の人たちと仲良くなれたこと、なんか貴族になってたこと、いろいろ書いてあった。その中にはサレイノのことも書かれていた。


『今朝はびっくりした。朝起きたら突然サレイノが私の机に突っ伏していたんだ。なんか、日記を開いたまま寝てたらしい。別にやましいこともないし見る分には構わないけど、これ全部日本語なのによく読もうと思ったねって思った。

サレイノはすごい、魔法を覚えるスピードも速いし頭もいいし運動神経も抜群だ。算術倫理演算術式がなんなのかは全くわからなかったから少し悔しい。ここには教科書もインターネットもないから勉強が難しくて挫折しそう。あるのは魔法書だけ。いつかほん訳できる魔法作ってやる』


「だってさ」


『……うぅ、ご主人様…』


 中々にヘビーな人生を数か月間で送っていたようである。そもそも、魔法が使えて魔力が膨大にあってしかも究極邪神と名乗る女神エルマとお友達とかいう記述があった。もうよくわからなくなってきたがとりあえず信じることにする。なんかエルマって聞いたことある気がするけど……


 そして、とうとう不死身の呪いに関することが書かれているページにたどり着いた。毎日毎日飽きずに書き続けていたらしく結構な量が書かれていたので少し骨が折れたが、じっくり見たおかげで色々有用な情報が書かれていたことを確認できたのでよしとする。


『この間から気になっていた不死身の呪い。これは、今の私の状態にすごく似ている。私は今、死ねない。死ぬことが出来ない体なんだそうだ。エルマから聞いたけど、なぜか私にはいろんな呪いがかけられていたらしい。全部良くないものだからとエルマは全部呪いを取ってくれたらしいけど、不死身の呪いだけ取れないらしい。エルマもびっくりしてた。落ち込んじゃったけど慰めてあげたら元気が出たからよかった。

この呪いは、死んじゃうくらい傷ついても死ねないまま治るのを待つしかないんだって。それで、私は関係ないけど魔法を使うための魔力は精神力?精神の強さに関係していて、この呪いにかかると一生精神が成長することはないらしい。もとからエルマより魔力があってよかったと思う。ゲームで言えば、私はレベルもステータスも上がらない状態なんだ。十七歳のまま歳をとらないっていうのはすこし嬉しいかもしれないけど……あれ、もしかしてずっと生き続けていれば創一に会えるまで待てる?……私、頭いいかも』


 なんというか、強かだった。なんと音夢まで不死身の呪いにかかっているらしいので、一先ず生きていることは確認できた。まさか呪いが役立つとは思っていなかったよ…

 安心したせいか、肩の力が抜けていく。それをみてサレイノが何かと思ってこちらを覗きこんでくる。


「サレイノ、喜べ。おそらく音夢は生きている」


『ッ!!……ほんとう、ね?』


「なんとも言えないというか、皮肉というか、アイノと同じように音夢も不死身の呪いがかかっているそうだ」


 まさか、危険だって言われてて俺たちも良くないものだと認識していたものに音夢gが助けられている可能性があるとは……これで急に「不死身の呪いが解けた」とか書かれてたら俺は窓から飛び降りて死ぬ。あ、浮いてるから死ねないや……


 そして、おそらく王城にまで行った日の前日の日記までたどり着いた。その前まではいつもと同じ楽しい雰囲気を感じさせる日記が、そのページだけは雰囲気が違った。


『知りたくなかった。

不死身の呪いは知ってはいけないものだ。今すぐにでも提出してしまった論文を取り返したいけど聞いてくれない。このままだと世界が危ない。私は創一に会えなくなってしまう。それだけは嫌だ。エルマに相談したけど、エルマは私が呪いの真相にたどり着いたことに驚きすぎて動かなくなった。

もし、これを普通のこの国の言語で書いていたらおそらく没収されていただろうけど、ざんねんながらこれは日本語、国王にいつもいつも嫌味をいわれていたし折角だからここで暴露しちゃえ。


不死身の呪いは、その名の通り死ななくなる体になってしまう呪い。それは例え体が燃え尽きても、塵になっても、ぐちゃぐちゃに切り刻まれても、永遠に死ぬことが出来ない。そして、その間も意識を保ったままとなる。これは、構築術式を見てわかった。実験なんてできない。体が治るとかでもないから肉体が消えたら誰かに助けてもらうまでどうしようもない。助けてもらうにもそ生用の薬の極上級が必要になる。そんなの世界に二つあるかわからないのに……これはあっちゃいけないものだ。

しかもこれだけじゃなかった。

この魔法、なんか変なところがあったから何かと思って徹夜して調べてたんだけど、これが一番知りたくなかったと思う。

この不死身の呪いにかかって肉体が死んだあらゆる種族は、生まれ変わることもできなくなる。ということは、この呪いにかかったら解くまで永遠にそのまんまだ。安らかに死ぬことも、すべてを忘れることもできずに痛みを感じ続ける肉体はやがて憎悪の塊となって、世界に牙を剥く巨獣となる。魔獣とは違う、完全な化け物。個の意識なんてない、憎しみと悲しみと怒りの塊。こんなのを作り出した昔の人間は正直滅んで正解だったと思う。

あぁ、でも私はそれを解析してしまった。そして真実を知ったのは貴族に報告書を出した後……もうおしまいだ。どうしよう。


あ、そうだ。国王に直訴しよう!そうすればさすがにあのくそやろうも了承してくれる。あ、くそやろうとか言っちゃダメなのか。まぁ、多分日本語見れる人いないしいいよね。あ、創一に見られたらどうしよう……その時はその時にしよう。明日は王都に行かなきゃいけないから、早めに寝なきゃ』


 日記はそこで終わっていた。


確かに有用な情報が得られたと思うけど……思うけども、やはり通常の音夢じゃないか。最後は普通「明日は殺されるかもしれない」とか、覚悟を決めるところなのにさ。なんだよ直訴しよう!って。軽いよ。

 相変わらずな音夢が見れてよかったと思うけど、なんかな。おそらく生きていることはわかったけど、さっきまでのシリアスな雰囲気どこへ行ったんだろうね。


「よし、当面の方針を決めた」


『もう、読めたの?』


「あぁ、相変わらず音夢らしいことが書かれていたよ。それで、王都ってここから見てどっち側かわかるか」


 音夢が向かった王都やらがどこかはわからないが、そこへ向かえば跡地でも何らかの痕跡が見つかるかもしれない。それともしかしたらどっかにハリウッドの氷があるかもしれないからそこも探しに行かないと……


『王都は、この屋敷の裏口からまっすぐ行ったあたりだったわ。私もあの時ついていけばよかったけどだめだって言われて……』


「いや、行かないでくれて正解だった。まず、めちゃくちゃ強かったらしい音夢が行方不明になる時点でなにかがおかしい。それに下手したらお前もいなくなっていた可能性がある。俺にこの情報を教えてくれる存在がいて助かった」


 一応、サレイノに昔の地図をもらうことが出来たので良かった。これでいつでも出発ができる。もし、この世界に来るのが少し遅ければ、俺は音夢と合流できたんだろうか。しかしそうなると、俺はアイノと合流できていなかった。ゴリレオクスもいなかったかもしれない。運命がここまで憎らしく感じたのはいつぶりだろうか。


 アイノは多分ついてくるだろう。顔がその気満々だし…

とりあえず魔王国の人たちには悪いけど、俺は早朝から旅に行くことにする。もしかすると音夢はどこかで封印とかされてたり肉体だけ死んで苦痛を味わっている可能性だってなくはない。そんなこと考えたくもないが、今は見つけ出すことだけ考える。俺にできるのはそれくらいだ。

 サレイノには屋敷で家の管理を任せることにした。この広い屋敷を管理できるのは彼女しかいないのだ。

サレイノは少しだけ目を伏せた後、元気そうに「任せて!」と言ってくれた。頼もしい人だ。俺はメイドにも恵まれている…いや、厳密には音夢が恵まれているのか。

 

「よし、旅支度は出来たなアイノ!」


「うん!食糧はサレイノおねーちゃんにもらった!」


『お、お姉ちゃん!?……いい響きね、ええ、ええ、いいわ!今日から私は貴女のお姉ちゃんよ!』


「ははは、俺と同じような感じだなサレイノ。俺も出会った初日でお父さんと呼ばれたからな」


『あらあらお似合いねぇ。気をつけてね、あの方面の魔獣は強力だから。私の時代の話だから今はわからないけど』


「忠告ありがとう。それじゃあ、行ってくる」


「いってきまーす!!!」


 俺は思いっきり、昨日の最高速度より速いスピードで飛んだ。俺に限界はないと思い込むと、なぜかだせる速さが変わるんだよ。もっと速く逃げなきゃってサレイノから逃げてたら急に速くなったせいで止まる前に壁に衝突したし…

 

 サレイノは俺たちがずっと遠くに行ってもしばらく手を振り続けてくれたらしい。アイノがそういっていた。


 こうして、俺はこの世界に来て直後に一児の父となり、最強の鮎を生み出して、雀に追われて、化け物みたいに強いゴリラと禿と戦い、家を買った次の日に旅に出ることになった。あまりにも展開が速すぎてどうかしているきがするけど、俺的にはちょうどいい。音夢を見つけるまであまりゆっくりしていられることはないだろうから、さっさと見つけて連れ帰って冒険者食堂で山菜盛を食うんだ!


 そうやって決意という名のフラグを立ててしまった俺。そんなことにも気づかないまま、ヒシュア王国王都があった場所へまっすぐ飛んで行った。




























『ソーイチ様……』


 彼は、何者なんだろうか。ご主人様と同郷で、それに二人並んだ絵があったのを覚えている。

今思えばあの二人、同じ装飾を付けているような気がする。たしか、ご主人様は帽子に……なぜかソーイチ様は背中の服の端っこについていた。なんでかわからないけど、わざわざ浮遊魔法まで使て気づ付けないようにしているあたり相当大切なものなんだろう。


 二人は仲が良かったんだろうか。


『そういえば以前、ネム様が寝言を言っていたわね……』


 うなされるようにして何かを呟いていたのを思い出す。心配になって近寄っていったときに、彼女はなんて言ったんだろうか……


「創一、行かないで……」


 ソーイチと、その後も繰り返して呟いていた。


『そうだ……ソーイチ、ソーイチって……あの人のことだったのね』


 いったい二人の間に何があったのかはわからない。喧嘩別れでもなさそうだ。音夢が私のご主人様であることを知った彼からは魔力が溢れ出ていた。それこそ、あのご主人様の様に。


 魔力は思いに比例するって、たまたま話しかけてきた女神さまに聞いたことがある。エルマ様は自由な方だったが、彼女は今何をしているんだろう。ネム様と一緒に行ったっきり彼女も帰ってこなかったから、今も一緒に居るんだろうか。だとしたら、安心できるのかもしれない。


 家に戻り机を見やると、置きっぱなしになったご主人様の日記が目に留まった。ご主人様は途中から読まなくなっていたので内容が気になるが、帰ってきてから聞くことにしよう。そう思って日記を片付けようとしたが、ご主人様が読んでいないところにまだ続きがあったのに気づく。読めるはずはないが、一応目を通しておこうと思って中を眺めた。



『目の前に創一がいる でも 創一じゃない この人は 私を見て「対象を発見」と言った 声も 見た目も 何もかもが創一なのに なにかがおかしい まるで中身がないような   創一は こんな服を着ないはずだ 創一は こんな眼をしないはずだ 創一は 私に向かって魔法を放つことはしないはずだ。おかしい おかしい おかしい おかしい おかしい やっと会えたと思ったのに これは創一じゃない






エルマがそばで震えている これは まずいかもしれない』



 相変わらず読めない文章だが今までの文とは違い殴り書きとなっており、そこからわかる焦りに私は嫌な予感を感じていた。








魔王一行「」




来訪編 終了

次章が始まります。

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