中短編集:衝動的に(書いて)やった。反省はしていないがちょびっと後悔はしているかもしんない。
もしかしたらこんな真相
自室でぐったりとのびている女性がいた。ぶつぶつと呟いているのは愚痴だ。
「あーもー、動きたくなーい。まじだるーい。疲れてるんだってば、もー」
じたばたしているつもりなのだろうが、景気の悪い愚痴といっしょに動くのはほんの指先だ。
「『健康維持のために毎日運動する習慣をつけましょう』って冗談じゃないわよ。仕事仕事でそんな暇ないしー。そりゃあたしだって痩せたいけどさー。……あ。そだ」
女性は虚空に声を上げた。
「へいソフィア」
「はいドミナ。ご用件をどうぞ」
「短時間で簡単にできるダイエットって、なんかない?」
数秒の後、ピロンと電子音がする。
「検索結果を表示します」
「おっけーありがと。……ふんふん。……ん?……へー。テニスボールダイエット?ほうほう」
投影された情報ををチェックしていた女性は、そのまま芋虫のように移動すると部屋のあちこちを探し始めた。
「あ。手頃なのがあんじゃん。……なんか色剥げてて汚いけど、まいっか」
さっそく球体を転がし始めたところへ、ノックの音がした。
「ガーちゃん、ちょっといる~?……ってあんたなにやってるの!」
「え。ダイエット」
「だ~い~え~っと~ぉ?あれだけ運動器具買って放り出ししてたのに?」
「だから、ね、ちょっとこう心を入れ替えたっていうかー」
「入れ替えたんなら在庫からなんとかしなさいよ!あれあんただけの物置じゃないんですけど!」
「え、ヤダ何それめんどくさい」
「めんどくさいじゃなあああい!」
女性はすぱーんと部屋の主の頭を叩いた。
「あの埃まみれのエアロバイクとか!」
「いやちょっと膝痛いし」
「なわとび!」
「……胸って揺れると垂れるんだよ?」
「垂れるようなチチじゃないじゃん!むしろ頬肉の方がヤバいし」
「何か言った?!」
じろっと睨みつけられて女性はちょっと目をそらした。
「だ、ダンベルはどうしたのかなって!」
「重いものって持てなーい」
「300しかないじゃん、重さ!エキスパンダーは」
「長すぎて伸ばせない」
「ぷるぷる振る棒」
「変な波動が全身に広がっちゃってさー。気持ち悪くなって」
「波動ってなによ波動って。……ヨガマット!」
「厚みにけつまずいてさー、怪我したわ」
「ディラックの海なのに?……それ高齢者並みに足が上がってないってことじゃん。まずくない?!てゆーか、今やってたのは?」
「テニスボールダイエット」
「テニスボール?あんた、そんなのこんなとこに置いといたっけ?……はああああああ?!」
「なに叫んでんの」
「よく見なさいよ!」
踏んでた球体を顔面に突きつけられれて、部屋の主は大声を上げた。
「クサ!うわクサ!」
「アンタの足の臭いでしょうが!てゆーか、テニスボールダイエットだって、大胸筋とか臀筋とか顔とかいろいろやるとこあるでしょ、なんで足の裏からなんてすんのよ!」
「え。だってけっこう汚くなってたし」
「だったら綺麗にしなさいよ!てゆーか素足で踏むな!ほらあ、最有力種が絶滅しそうになってんじゃない」
「え。……いや絶滅って大げさな」
「笑いこっちゃないでしょ!あんたもすこしは一個の世界を担ってるんなら、女神の自覚を持ちなさいよガイア!」
「えー、こんなウィルスで今どきパンデミック起こす方がおかしいでしょー。……てほんと、ちょっとやばいわねこれ」
少し真面目な顔になった部屋の主は虚空に声をかけた。
「へいソフィア」
「はいドミナ。ご用件をどうぞ」
「エマージングの強制終了方法ってなんだったっけ?」
数秒の後、ピロンと電子音がする。
「最も簡単なのは、感染対象の消滅です」
絶滅した地球人類「解せぬ」「てゆーかこんな女神はイヤだ」