表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真夏の夜の悪夢

作者: 黒宮

 皆さま、自粛中いかがお過ごしでしょうか。

 自粛なんかできないと言う方、在宅ワークをしていると言う方、色々な方がいると思います。

 私が最近感じているのは総じて日本が暗くなっているという事。

 人間1番精神的に良くないのは暇だと思います。暇は人間に何をさせるかわかりません。

 ですので皆様の暇をつぶす為、私自身の暇をつぶす為小説を書くことにしました。

 数年ぶりに筆を取ります。稚拙な文章も目立つかと思いますが徐々にレベルを上げて行こうかと思っておりますので暖かく見守っていただけると幸いです。

 私自身建築業界に身を置くものでしたが自粛の影響で仕事が落ち着いたので中皆さまを楽しませることができればと思いいくつか投稿させていただく事にしました。

 よければブックマーク等していただき他の作品もご覧ください。



 では本編をどうぞ。

 ソイツ(・・・)と遭遇したのは湿った熱気が不快感を煽る夏の日の夜だった。


 その日俺は久しぶりに自宅に帰ったんだ。久しぶり、というのは2週間ほど帰宅できていなかった為だ。 あぁいや、別にブラック企業(そうゆう所)に務めているってわけじゃあない。 極めて私的な用事でしばらく家に帰れていなかったという訳だ。

 まぁ、そこそこ長い期間家を空けていたのでそれ特有の臭いがした。下水道の臭気、と言えば想像しやすいだろうか。 帰宅して1番に取った行動は換気扇を回す事だったか水道水を流す事だったか……、記憶が定かでは無いがそれはどっちだっていいだろう。


 玄関を開け、重い荷物を抱えながら廊下を通り(廊下にキッチンが併設されているのでそこで換気扇を回して水道水を流した)、やっとのことでリビングに辿り着いた俺は荷物を床に放り投げ、ソファに寝転んだ。帰宅した途端に体の力が抜けるのは何故なんだろう?疲労と熱気の影響からかそんなどうでも良い事をぼんやりと考えたような覚えがある。

 そのまま眠ってしまえれば楽だったんだが、如何せん腹が減って眠れない。腹の減り具合が気になって仕方がないので何か物を食べる事にした。

 駅から自宅に到着する間の15分程の道程に散見するコンビニで適当に買ってきた食料を貪りつつテレビを付けた。テレビの内容は何でも良かった。 ただ物を食べている間の暇つぶにになればと思ったのだ。

 しかし余りのつまらなさにものの数分でテレビの電源を切った。 昨今のテレビ業界の劣化は年齢による俺の趣向の変化故なのか、テレビ業界の不変さ故なのか。と、またそんなどうでもいい事を考え ふ、と何か違和感と言うのか異物感と言うのか、そんな物の類いを廊下の方向から感じた。視界の端に映る廊下に言い得ぬ違和感 異物感を覚えたのだ。 しかし改めて廊下を注視すると何の変哲もない見慣れた自宅の廊下があるだけだった。何かの違和感 異物感は確かに感じるのだが……。

 俺は昔から神経質で何か違和感 遺物感、人や動物、虫の気配を感じると気に触って仕方がなかった。 そしてそんな時の直感はかなりの確率で当たってきたのだ。


 数秒、数十秒だろうか、廊下を見つめた。


 ()()、と。


 本当に()()という表現が1番良く合っている。ヤツが現れた。


 御器囓(ごきかぶ)り。 御器被(ごきかぶ)り、御器振(ごきかぶ)り……。まだまだある。ゴッカブイ、ボッカブリ、クロッツ、アマメ、阿久多牟之(あくたむし)都乃牟之つのむし油虫あぶらむし蜚蠊ひれんヒーラー中国では蟑螂ちゃん らんだったか。 香港では甴曱そうおうと言うらしい。


 日本で一般に呼称される名称はゴキブリ。

 そう黒くてカテテカと光沢を帯びたツノのないカブトムシ……、だ。


 そして奴の出現を察知し予め廊下を注視していた俺はヤツと目が合った……遭ってしまった。

 俺にはヤツの目がどこにあるのか分からない、遭ったかも定かではなかった。 しかしヤツの反応が目が遭った事を物語っていた。

 止まった、制止したのだ。 それまで堂々と我が家の廊下を闊歩していたと言うのにも関わらず、ヤツは俺がヤツの存在を認識した瞬間に動きが止まったのだ。つまり、ヤツも俺を認識した(・・・・・・・・・)、と言う事なんだろう。俺にはそれがたまらなく気色が悪かった。


 この黒い虫は元々我が家に居て俺と不干渉の共同生活を送っていたのだろうか?

 もしそうであるのならば家庭内別居を継続し、そのまま家を出て行って欲しかった。

 それとも何か?

 俺が自宅を留守にしていた間に郵便受けの隙間から侵入してきたのか?

 であるのならば俺は中途半端に広告を入れ不法侵入斡旋をした害虫駆除業者を一生許さない。対策としてこの先一生郵便受けにはガムテープで封をしてやる。


 そんな決心をしたのは奴との邂逅を果たしてものの数秒だった。




 ーーーー




 奴はまだ動いていない。

 俺もだ、動けずにいた。


 しかし数秒見つめ合った結果、先に動いたのは俺だった。

 数ヶ月ほど前に買ったゴキブリ退治用のスプレーが収納ケースの中にあるのを思い出したからだ。

 そこからの行動は素早く半ば本能的だったように思う。

 奴から視線を外さずに少しづつ後方に向かって距離を取り、収納ケースににじり寄る。


 収納ケースが十分手の届く位置まで後退した(後退、と言っても俺の部屋は六畳ほどなのでそこまでの距離ではない)そして取手に手を掛ける。

 手が取手に触れた瞬間一気に引き出しを引き放ち、スプレーを取り出し、組み立て、その引き金を引きながら奴に突っ込んで行った。

 すると奴は俺が突っ込んで行った瞬間にさぁーっと後方に引いてった(体の向きを変えずに後退していったのがまた気持ちが悪かった)まだスプレーの煙が当たるまで1mはあったと思う。しかし奴は扉の向こうに姿を隠した。

 流石の危機回避能力であった。


 しかし姿が見えなくなった程度でスプレーを下すような俺では無い。

 逃げていったヤツにスプレーの煙が届く事を祈り扉の下の僅かな隙間目掛けてノズルを差し込みそのまま数秒間煙を噴射し続けた。



 数秒後、俺はスプレーを下ろし勝利を確信していた。

 決着が付いた、仕留めたと思った。確かな手応えがあったのだ(煙を掛けただけなので手応えなど存在しないのだが) 。


 勝利を確信していた俺はヤツの死体を確認すべく恐る恐る扉を開けた。

 しかしそこにヤツの死体はなかった、そこにあったのはスプレーに濡れ、てらてらとした光沢を帯びたフローリングの床のみ。



 逃げられてしまったのだ。




 ーーーー




 ゲーム開発エンジニアの友人がこんな事を言っていたのを思い出した。



「ゲームのバグってな、俺たちプログラマーが原因を解明してプログラムし直して、それでバグが改善されているって思ってるだろ?」


 と。

 当然プログラムの知識などない俺はその通りだと思っていた。

 友人の問いに対して俺は「そうなんじゃないのか?」と返した。

 すると友人は少し楽しそうなニヤケ笑いを浮かべながらこう言った。


「アレな。 たまぁーに何でか分からないが勝手に治ってるんだよ」

 

「バグ原因は不明何で直ったかも分からない、何もかもわからない」


「調査する余裕はないから後回し」


「後回しにしていくうちに忘れられていく」


「つぅ事はだ、同じバグが何時いつ顔を出すかわからねぇーー……」









「……ーー殺し損ねたゴキブリみたいだろ?」



 と。

 瞬間鳥肌が全身に立ち込めた。


 そうだ、今だ。

 今この瞬間、奴を仕留め、死体を確認し、奴がこの世から完全に去った事を確認しなければこの先この家で暮らす限り俺の心中は穏やかではないだろう。俺は神経質なのだ。

 濡れた廊下を見て数秒放心していたが友人の言葉を思い出し、即座に奴が逃げこめそうな冷蔵庫の下の隙間にスプレーを噴射した。


 しかし奴は出てこなかった。

 もしかしたら俺が放心している間にリビングの方に逃げたのでは無いか。そう思った。

 リビングの方に視線を向けると、居た、ヤツだ。

 今、正にこの瞬間、リビングのカーペットの隙間に逃げ込もうとしている。 そんな事はさせない。俺は動きの遅くなったヤツにめがけとどめのつもりでスプレーを噴射した。


 スプレーを受けたヤツの反応は著しかった。ひっくり返ったのだ。

 複数ある足をピクピクと痙攣させのたうち回っている。


 とどめをさしたつもりだったがさすがの生命力だ、まだまだ元気に動いている。

 これはもうスプレーの中身を全て使い切ってでもとどめを確実に刺さなければならない。 そう思った俺はスプレー中身がなくなるまで噴射し続けた。

 5秒ほどでなく無くなってしまった記憶がある、少々不安になった。 これまでの戦いで中身を思ったより多く使っていた様だ。しかし奴を見てみるとどうだ、先ほどまで元気に痙攣していた足の動きが止まっている。


 勝った。


 そう勝ったのだ。


 俺は勝ったのだ。


 もう恐れるものは何も無い。

 安心して眠る事ができる、安心して暮らす事ができる、俺の愛するべき平穏な日常が戻って来たのだ。

 夏の夜の熱気と疲労で少々ハイというやつになっていたのだろう、あれほど嬉しい事はここ数年アレっきりだった。


 ひとしきり勝利の喜びをかみしめた俺は奴の死体をビニール袋に詰め、二度と息を吹き返す事が無いよう厳重に封をしてゴミに出した。



 俺は、勝ったのだ。






































 後日2匹目が風呂場に現われた。

 真夏の夜の悪夢は終わっていなかったのだ…………。



ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ