阻止作戦②
南極。年間平均気温が約マイナス50度の極寒環境である。
通常の人間ならば1時間ももたないであろう。
周りに寒さを防ぐほぼ透明の防壁を巡らし、南極に降り立つ。
「最終記録ではこの地となっております。経度、緯度共に繰り返し計算しましたが、間違いありません。」
「ふむ。この中にいるというのか…。掘り起こしてみるか。」
キンメリーが手をかざすとともに異能が発現する。
この異能はあらゆる物資に原子レベルで干渉し、構築し直すことができる。
この地球上にあるものであれば、自由自在に加工することができ、有効範囲も数十キロと広い。
後にエレメンターと呼ばれることになる異能である。
雪原にヒビが入り、徐々に谷割れとなっていく。
地下1000m以上が見えてくる。
何やら、雪と氷の中に異様なオーラを放つ銅像のようなものが見える。
キンメリーは下に降り立ち、銅像をじっくり目視する。
「銅像の表面温度は零点下だな。」
「わずかながらエネルギーを感知しました。銅像の奥深くで鼓動を感じます。」
キンメリーが銅像にそっと手を触れ、エネルギーを少しずつ流し込んでみる。
少しずつ銅像は熱を持ち、周りを包んでいた鉛のコーディングは剥がれ、中身も解凍されていく。
やがて、それは目覚め、キンメリーに語りかける。
「……、何者だ?」
「私はキンメリーだ。君が異能者であることは分かっている。協力してほしいことがあり、この地までやってきた。」
「笑止。既に俗世とは関係を絶っている。我を見られたからには生かしてはおけん。」
「待て。ーーっ!?」
突如、日本刀のような獲物でキンメリーに斬りかかる。
復活したばかりだからか、動きは鈍いが、あきらかに人間の膂力とは思えない力だ。
刀が振り下ろされたその先は数十メートル先まで亀裂が走る。
「ぐっ、物凄い力だな。」
突然の出来事で、回避するのに精一杯だった。
自身が戦闘行為を行うシミュレーションはしていたが、やはり実際とは異なるものだ。
キンメリーは南極の地をこれ以上破壊させないよう、空に飛ぶ。
次の攻撃が来るー。
横に薙ぎ払うような一撃だ。
これもキンメリーは空気を圧縮し、真空の刃で相殺する。
周りの透明に近い防護壁も密度を高くし、衝撃を防ぐ。
攻撃を防がれ、異能者は驚愕する。
「貴様ー!人間ではないな!?」
「そう、君と同じ異能者だ。君は長崎で発現したのだろう?」
長崎という言葉を聞き、更に驚愕する。
「なー!?どこまで知っている!?」
「あくまでも記録上のことだけだ。子細は知らん。そして、私は広島で発現したのだ。」
広島の言葉を聞き、異能者は一旦動きを止める。
「広島ー…、そうかお前も…」
ようやく聞く耳を持った異能者に対してキンメリーは続ける。
「世界中の異能者が人間社会に対して宣戦布告をしようとしている。それを止めたいのだ。」
「むやみな力の行使は破滅につながる。だからこの地を我の終の地としたのだ。」
「地球規模に影響が出るのは目に見えている。この南極も消滅する恐れすらあるのだ。」
「それほどまでか…」
「無事止められたら、また南極に戻っていいし、その後は任せる。初めに発現した異能者同士、協力したい。」
「ふん…、どこまで信用できるかは分からぬが、その力は我を下すには充分なものであり、命を奪おうと思えば奪えたが、そうしなかった。それだけでも説得力はあるものだ。」
「すまない。そしてありがとう。君の名前は?」
「我はディン。日本の名はとうの昔に捨てた。」
こうして、キンメリーは一人の同志を得たのだった。
阻止作戦が急ピッチで進められていくー。