同胞の存在
「アフリカはどうであった?」
「やはり先進国とは比べ、かなり文化の水準が遅れていますね。食物をはじめとした様々な物資の生産流通体制が万全ではなく、インフラも脆弱なので、飢餓や貧困の元になっています。加えて他部族国家なので対立の火種がそこら中にあり、戦争を引き起こしてきたように見受けられます。他にも政治の腐敗など数えればキリがございません。」
かなり明確に受け答えをするキンメリー。
代行者自身も世界各地を観察しているので、当然ながら認識している内容だが、言葉で表現できるかを確認する意味もあった。
「そうか。わかった。今日はもう休んでよい。」
「はい。では、失礼します。」
キンメリーは少年の言葉遣い・所作とは思えない、かなり大人付いた仕草でその場を後にする。
代行者はキンメリーに世界各地を回らせ、様々な内容をインプットさせていた。
事柄に対する影響が、どこまで地球に及ぼすのか、人間全体に及ぼすのか、全体を俯瞰してもらう必要があったからだ。
そして、いずれは自身の代行者たる仕事そのものをキンメリーに移管させたいと考えていた。
キンメリー、一人では荷が重いだろうが、他に散らばる異能者も仲間にしていき、協力し合えばこなせるものであると信じていたからだ。
私自らが隠れた異能者を見つけ出してもよいのだが、散らばる異能者達は自らの異能を誇示することなく、うまく隠して人間社会に溶け込もうとしているようであった。
そんな異能者達を無理やり同胞に引き込むことは全く想定してなかったし、今の人生を謳歌してもらえばよいと考えていたからだ。
しかし、その目論見は崩れ、徐々に人間に対して絶望を感じ始めていた一部の異能者達は力を誇示し始めるようになる。
それは人間社会でいう、神隠しや人間発火などの超常現象としてカタチに現れることになる。
それでも代行者自身は地球に対する影響はほぼないと考え、そのまま静観する構えをとった。
そして、更に数年の時が流れるー。
突如、地球全体にエネルギーの波が走る。
通常の人間には感知できないが、代行者とキンメリーには大きな衝撃波であることは伝わっていた。
大気圏の上部の方では地球を2周するほどの衝撃波が走っている。
キンメリー自身も世界各地で行われていた核実験は見てきたが、それでも驚くエネルギー量だった。
「!?これは…!」
即座に代行者の人工知能が反応する。
「ソビエト領土にて核実験を確認しました。核実験ではあるものの最近進化してきている水爆と呼ばれるものと同種のものです。」
キンメリー自身がかなり危惧する。
このまま兵器開発をさせてよいのだろうか、と
「星の煌めきである核融合を応用するとは…。研究・実験を重ねれば、エネルギー総量はいくらでも解放できてしまいますね。」
代行者はある部分に注目していた。
例の宇宙空間にあるエネルギー源と接続されるのに対象として選ばれる人間は誰なのか。
徐々にエネルギーの本流が一人の人間に流れる。
ソビエトの若い軍人のようだ。
これまでにも同様のケースはあり、そのまま適合して異能を持つ人もいたが、耐えられず消滅することもあった。
今までのエネルギー量の比では無い。
今回どうなるのか、刮目している。
徐々にその人に集約される。
本人はかなり苦しんでいるようだが、適合しそうだ。
そして数十分ほど時間が経ち、落ち着きを取り戻す。
「……、適合したようだな。」
「どのような異能になるのでしょうね。いずれにしても悪用しないことを祈るのですが…。」
キンメリーは危惧しつつも代行者とその場を離れる。