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終末の魔女  作者: 悠
9/45

09

 朝、俺はアングラマイン姉妹よりも早く起きて朝食を用意する。アージェが買ってきたゲテモノ――とはいかないまでも美味しそうには見えない大量の食べ物は、ほとんどがアージェのお腹の中におさまったので残っていない。だから今朝も備蓄しているパンと紅茶だ。


 リュックサックから取り出した食パンは適当に切ってジャムを添えるだけ。時間がかかるのは紅茶の方。ヴァイオレットが紅茶好きで、下手なものを淹れると怒るのである。


 色々と準備しているうちにヴァイオレットが起きてきた。まだ少し眠いのか、普段よりもさらに目つきが悪い。


「おはようございます」

「おはよう……髪、頼むわね」


 ヴァイオレットは俺に櫛を渡してさっと席に着いた。

 こうして彼女の長い髪を梳かすのも俺の日課。

 そう、何を隠そう彼女の綺麗な髪は俺が作っているのである。ふっ、我ながら見事な櫛捌きだ。美容師にだって負けてはいまい。


「……さっきから独り言が漏れているけれど」

「おっと。失礼しました」


 ヴァイオレットの髪が一層輝きを増したころ、ようやくアージェが起床してきた。彼女のショートヘアはヴァイオレットとは比較にならないほど乱れていたが、本人はまったく気にしていないようだった。いつも通り、外出する直前に手櫛でパパっと整えるのだろう。せっかく顔がいいのだからもう少し身だしなみに気を遣った方がいいのに、とは思うが言葉にはしない。


「おっはよー……ふわああ……ジン君、目覚めの一杯ー」

「はい、ちょっと待ってください」


 櫛をヴァイオレットに返してポットから紅茶を注ぐ。少し蒸らしすぎたかもしれないとも思ったが、ヴァイオレットは特に何も言わなかった。評価はまずまずといったところだろうか。


「あー……目が覚める」


 アージェは紅茶を飲んで大きく息を吐いた。ちゃんと眠気が吹き飛んだようで、先ほどよりもシャンとした顔になっている。


「……今日はまず騎士の詰め所に向かいましょうか。そのあとでお店に行きましょう。二人とも、他に寄りたいところはあるかしら?」

「あたしは別にないよー。あ、やっぱ本屋には寄りたいかも」

「本屋ね。了解よ。ジンは?」

「特にないですけど……あー、そういえば昨日の騎士の名前を聞いてませんでしたよね。詰め所で何て言うんですか?」


 あの女性騎士が詰め所の入り口にいてくれるのであれば何の問題もないが、彼女とて一日中かかしのように突っ立っているほど暇ではないだろう。


「あら。そういえば聞いていなかったわね。そうね……あの騎士の外見的特徴を述べて、呼んでもらいましょうか。それでも門前払いされるようだったら諦めるわ。どうしてもお礼をして欲しいというわけでもないから」


 ヴァイオレットはさっぱりとした口調で言った。欲がないというか、まあ単純に興味が薄いのだろう。


 食事を終えた俺たちはさっそく騎士の詰め所へと向かった。詰め所は宿から見て西方向。大樹の名を冠する大噴水の傍にある。


 フェルメルンが大きな都市なだけあって、詰め所も非常に立派であった。白い外壁は清廉な印象を抱かせ、門の前に鎮座する力強い騎士の像は人々に安心感をもたらすだろう。


「――ここは騎士の詰め所です。一体何の用でしょうか?」


 俺たちが詰め所に近寄ると門の前に立つ二人の騎士の片方が声をかけてきた。声と態度から、緊張しているのが見て取れる。


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