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終末の魔女  作者: 悠
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05

 髪色は茶。長さはアージェより少し長い程度でお下げにしている。身長は俺と同じくらいだろうか。白銀の胸当てと腰当て、ブーツで急所を護り、脚は厚手のとタイツで覆っている。

 この鎧は――確か今いるラウル王国の騎士が着るものだったはず。男性の鎧と女性の鎧はややデザインが異なって、女性のものは無骨さに欠ける代わりに華やかさがあったため印象に残っていた。


「……巻き込んでしまって申し訳ありません。それと、助けていただき誠にありがとうございます」


 俺は女性騎士が開口一番、素直に謝辞を述べたことに多少驚いた。灰色のローブを着た連中はあからさまに怪しかったが、俺たちも客観的に見れば結構おかしな集団だという自覚があったからだ。


 俺はシャツにベスト、それにカーゴパンツという極一般的な恰好だが、アングラマイン姉妹はなかなか特徴的な服装である。

 アージェは丈の短いシャツに、これまた丈の短いショートパンツといった出で立ちで、まるで水着を着ているかのようだ。そしてヴァイオレットに至っては旅装とは思えぬドレス姿。厳密に言えばドレスそのものではないそうだが、俺からすればダンスホールで優雅に踊っていても何ら違和感のない恰好だった。


「……別にお礼はいりませんわ。わたしたちは降りかかる火の粉を払いのけただけですので」

「……火の粉? 埃の間違いじゃない?」


 矢面に立つヴァイオレットの陰でアージェが俺に囁いた。

 先方に聞こえなかったから良かったものの、聞こえていたら面倒なことになっていたかもしれない。迂闊な発言はしないでほしいと思った。


「……あら。怪我をしているようですわね」


 ヴァイオレットが女性騎士の脇腹が赤く染まっているのを見て言った。


「ジン。治してあげなさい」

「え? あ、は、はい」


 実のところ、回復魔法・回復魔術に適性がある人は少ない。俺はたまたまその適性があったのだが、アングラマイン姉妹は滅多に怪我をしない、怪我人が回復魔術を使うのはリスクが伴うなどといった理由から、修練を積む機会には恵まれなかった。


 ヴァイオレットは女性騎士を使って俺に回復魔術の修練を積ませるつもりだ。治すことに失敗すると結構悲惨なことになってしまうのだが――俺が未熟であるという事実を教えずに治療させようとするとは、流石はヴァイオレット様である。


 ヴァイオレットの申し出を純粋な好意だと思って「いや、そんな」と恐縮する女性騎士にちょっと申し訳なく思いつつ、俺は彼女の患部に手を翳した。


「≪大地に根付く生命の息吹をここに≫」


 俺の回復魔術は星の力を利用したものだ。大地に宿る生命エネルギーを生物に適用できるレベルまで落とし込み、そのエネルギーでもって肉体を活性化させる。失敗すれば肉体がエネルギーに負けて逆にぐずぐずに溶けてしまうのだが――うん、良かった。無事に成功したようだ。

 淡く輝いた傷口が徐々に塞がっていくのを確認して、俺は心から安堵した。


「……ありがとうございます。傷まで癒していただいて」

「いえ、お構いなく。……ところでもしかして彼らはラヴェル教徒なのかしら」

「は、はい……よくご存じで」


 ラヴェル教徒、というのは俺の耳に馴染みのない言葉だったが、女性騎士は頷いた。彼女は少し困ったような顔を作った後、俺たちの方へ顔を寄せた。


「あの……皆さんはこれからフェルメルンへ行くご予定ですか?」

「ええ、そうですわ」

「そうですか……実はですね、ここだけの話、最近フェルメルン近郊でラヴェル教の活動が活発になっているようでして……私――私たちが来たのもその調査のためだったのですが」

「あら、そうなのですか。ラヴェル教が活発に」


 ヴァイオレットは一瞬だけ目を細めた。


「……本当はもっとちゃんとお礼をして差し上げたいんですが、まだやるべきことがあって……」

「お気になさらず」

「いえ、そういうわけにもいかないでしょう。そうですね、明日あたりにフェルメルンの詰め所に来ていただければ、ささやかながらもお礼をさせていただきますので、時間の都合がよろしければ是非」

「……そうですわね。覚えていれば、伺わせていただきますわ」


 女性騎士が我々に助けを請うていれば別だが、今回のケースは襲われたから反撃しただけだ。姉妹も無理に礼を求めることはない。


「それでは私はこれで失礼します」


 ペッコリと頭を下げた女性騎士は七人のローブたちを回収し、街道の方へ戻っていった。


 俺は彼女の背中が見えなくなったところでヴァイオレットに尋ねてみた。


「で、行くんですか? お礼を貰えるらしいですけど」

「さて……特別急ぎの用があるわけでもないから、行ってもいいかなとは思っているのだけれど」

「あれ、そうなんですか」

「ええ。貰えるものは貰っておいた方がいいでしょう」

「そうだねー。タダより安い物はないって言うし!」

「……そりゃ無料より安い物はないでしょうけど」


 たぶんアージェが言いたかったのは「タダより高い物はない」だろうが、それにしても使いどころが違うと思う。というかどちらかというと女性騎士側のセリフである。


「……行きましょう。いつまでもここで呆けているわけにもいかないわ。フェルメルンはすぐそこよ」


 俺は一度だけ女性騎士が消えた方向に目をやった後、慌ててヴァイオレットとアージェの背を追った。


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