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終末の魔女  作者: 悠
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04

 五十メートルほど先の藪から出てきたのは、灰色のローブを着た怪しげな人物たち。六人――いいや、七人だ。またそれとは別に白銀の鎧を纏った女性が一人。

 ぱっと見たところ、どうやら鎧の女性が灰色のローブ集団から逃げているようだった。


「え!? しまった、人が!」


 顔を上げて俺たちを視界に捉えた鎧の女性が叫んだ。

 どうも俺たちはここにいない方が良かったらしい。こちらとしても下手に関わるつもりもないので無視してくれて構わなかったのだが、怪しいローブ集団はこちらを認めた途端に黄色に輝く閃光を放ってきた。

 一切の問答もなく攻撃を仕掛けてくる様子から、汚れ仕事に慣れた印象を受ける。もしかしたら殺し屋か何かなのかもしれない。


 ただまあ――この程度の攻撃でアングラマイン姉妹がどうにかなるわけがないのだが。

 さあやっちゃってください、ヴァイオレット様!


「……ジン。防いでみせなさい」

「え!?」


 まさかの振りである。

 しかし慣れというのは恐ろしいもので、日頃からアージェ先生に鍛えられているおかげか、俺は無意識に魔術の準備に入っていた。調教されている気がしないでもないが、まあ今は置いておくとして。


「……≪其は終より引きし護り手の魂≫」


 呪文はマナを導くための呼び水だ。アングラマイン姉妹は手ぶり一つで魔法を操っていたが、それは彼女たちが優秀だからこそなせる業。未熟な俺にそんな芸当はとてもできない。 

 俺の呪文によってマナが動く。そして虚空から黄金色に輝く楯が生まれ、走る閃光をしっかりと受け止めた。


「んー。七六点! あとコンマ二秒くらい早く魔術が使えるといいかも!」

「二四点。あの程度の攻撃にこれほど強力な魔術を使う必要はないわ。非効率よ」


 アングラマイン姉妹の評価は正反対だった。足したらちょうど百点になるのは何の偶然だろうか。


 攻撃を防がれたのを見て、七人いる灰色のローブのうち三人がこちらへ向かってきた。懐から刃物を取り出したのが二人、大気中のマナに干渉し始めたのが一人。残りの四人は変わらず鎧の女性の方を追っている。


「アージェ、攻撃してくる者は叩き潰して」

「あいあい。了解でっす!」


 今度はアージェが命令を受け、三歩ほど前に出て勇ましく仁王立ちの構えを取った。

 最初にアージェの懐に入ったのは三人の中の最後尾が放った黒い蛇だ。魔術で生まれたそれはするすると地面を這い、瞬く間にアージェの綺麗なおみ足の前までやってくる。蛇はその生足に穴をあけんと牙を剥くが――少し屈んだアージェがフッと息を吹きかけると霞となって消えてしまった。


 アージェが他人の魔術に直接干渉したのだ。それはとても高度な技術だが、彼女は吐息一つでそれをやってのけてみせた。


 アージェは続けざまに襲い掛かってきた灰色のローブを着た怪人物――フードを目深に被って顔を隠しているので性別も不明瞭だ――も簡単にあしらった。


 彼らは決して弱くはなかっただろう。それは滑るように走る姿やアージェと交錯する際に見せた鋭い殺気からも分かること。

 だがアージェはそれを――たった二歩。たった二歩の間に打ち倒した。


 括れた腰にナイフを突き立てようと低い姿勢で潜り込んできた人物の顔に肘を入れるために一歩、首を切り裂こうとしてきた人物の胸を何らかの魔法が籠った手で打つために一歩。たったそれだけの歩数で、アージェは手練れを無力化してみせたのだ。


 衝撃は俺よりもローブの人物たちの方が大きかったのだろう。最初に魔術を放ったローブの人物は呆然と立ち尽くしている。

 隙を大いに晒すその人物に、アージェは微笑みながら遠慮なく電撃を放って吹き飛ばした。


「……あちらも終わりそうね」


 奥に意識を向ければ、鎧を着た女性がローブの怪人物を斬り伏せたところだった。今ので二人目だったようで、七人いたローブ集団は残り二人になっていた。


 ここまで人数を減らすともはや撤退しか道はないと思うのだが、彼らの考えは違っていた。玉砕覚悟なのか、一人は鎧を着た女性に、もう一人はこちらに突撃してきたのである。


「アージェ、自爆する気よ。あの女性から事情を聴きたいから念のため両方処理して」

「あいよー!」


 ヴァイオレットにはマナの流れから、奴らが我々諸共自爆するつもりだと分かったようだ。こちらも先ほどのアージェの御業と同様、何を鍛えればこんな妖怪サトリみたいなことができるようになるのだろうか。理解不能である。


 俺が首を捻っている間にも敵が近づいてくる。アージェは素早く魔法を放った。

 ダンっ! と切断されたのは二つの頭。あまりに一瞬の出来事だった。


「ジン。アージェがどんな魔法を使ったのか分かるかしら?」

「……たぶん、カマイタチのようなものを放ったんだと思います」


 地面に落ちてごろりと転がる頭部を見ながら、俺は固い声で答えた。

 この世界に来てからこういったことにも耐性が付いたとはいえ、やはり見て気持ちのいいものでもない。ただこの世界では死に触れる機会が多く、嫌でも慣れなければならないことだった。


「正解よ。まあ、正確にはカマイタチというのは現象のことを指すのだけれど……」


 カマイタチは放つものではなく現象の名前、あるいは魔法名らしい。


「およ。想像より老けてるなあ」


 首が落ちたことでフードも外れ、深いしわの刻まれた顔が露わになっていた。それを見て「老け顔ですね」としか言わないのはややどうかと思うが、今はそれどころではなく。


 俺はこちらに歩いてくる女性を見た。


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