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終末の魔女  作者: 悠
3/45

03

 ヴァイオレット・アングラマインは求道者だ。魔法、魔術、錬金術、召喚術などなど――マナを扱う技術の習得に並々ならぬ熱意を持っており、特に魔法に関しては一切の妥協を見せない。

 今回フェルメルンに向かうことになったのも、ヴァイオレットたっての希望によるものだった。今までも目的地を決めるのは彼女だったため何も特別なことではないのだが、それでも少し珍しいなと思うくらい、彼女はフェルメルンに行きたがった。


「どうしてフェルメルンは錬金術が盛んなんですか?」


 道中で俺はヴァイオレットに尋ねた。


「……錬金術は水が大事なのよ。フェルメルンの『水の都』っていうのは、勿論、街を象徴する大噴水なんかを指しているのだけれど、水質そのものも素晴らしいのよ。錬金術には純度の高い水が必要だから、水質のいいフェルメルンに錬金術師が集まるの」

「なるほど、そうなんですね」


 この世界に来て早四年。ある程度の常識は身につけたと自負しているが、まだまだ知らないことの方が多いなと改めて思う。


「錬金術、ってなんだか覚えてる?」

「不完全なものを完全なものにする技術。転じて低価値ものを高価値ものにする技術――ですよね?」

「うん、正解!」


 俺はアージェ先生からの突然の出題にも動じることなく解答した。先生は度々こうして唐突に問題を出してくるので、こちらも自然と常に心の準備をするようになったのだ。


「……錬金術でも魔力を使えたら、もっと効率的になると思うのだけれど」

「個人用に調整された魔力で錬金術を行うと変なことになっちゃうっていう話でしたよね」


 大気中に含まれる、魔術の燃料がマナ。そのマナを取り込んで自分に最も適した形に調整したものが魔力だ。

 マナを用いて魔術を扱うことは誰にでもできる一方、魔力に変換し、それをプールすることは一部の素養のある人間にしかできない。魔法はいわば魔力を用いた魔術で、自分用に調整された魔力を扱うからこそ、魔法は魔術よりもずっと強力で高度な力となっている。


「そう。普通、魔力はマナから不純物を取り除いたものという解釈なのだけれど、錬金術では不純物なんてない――いいえ、不純物と判断された成分を含めてマナということなのでしょうね。だから一部成分を取り除かれた魔力ではマナと認められず、おかしな挙動になるのでしょう」


 ……うーん、普段はとても詰まらなそうにしているのに、好きな分野の話はよく語るなあ。なんというか、とてもはっきりしたお方である。

 とそんな風に和やかに歩いていると、不意にアージェが立ち止まった。


「およ? なんか向こうの方が騒がしいぞよ?」

「向こうの方?」


 ヴァイオレットと俺は彼女の視線の先を目で追った。

 ここはフェルメルンに続く街道――の、傍を通る獣道だ。街道を通っていないのは単純にこちらの方が近道だったからで、疚しいことがあるわけではない。


 アージェが指した方は街道がある方角。騒がしくても不思議はないが――はて、何が起きているのだろう。


「……何が起きていてもわたしたちには関係ないわ」

「まあ、それもそうだねー」


 ううん、二人とも大変ドライだ。

 かく言う俺も他人のことを気にしている余裕はないのだが。

 しかし俺たち三人が関係ないと目をそらしたところで、トラブルが向こうからやって来てしまってはどうしようもない。


「……うるさいわね」


 どんどん近づいてくる怒号と悲鳴。ヴァイオレットが煩わしそうに顔を顰めたのとほぼ同時に、騒ぎの原因が飛び込んできた。


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