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終末の魔女  作者: 悠
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 アージェが希望していた本屋にも寄った。この世界の識字率はそれほど高くない。フェルメルンほどの都会ならいざ知らず、少し田舎に行くとむしろ字を読めない人間の方が多いだろう。

 当然、字が読める人が少なければ本の需要も少なくなる。需要が少なければ値段も高い。この世界では、本は魔道具と並ぶ貴重品だった。


「どうです? ここの蔵書は」


 真剣な目で本を品定めしているアージェに尋ねる。


「んー、都会だけあってなかなかいいのが揃ってるねー。特に錬金術関連の本はやっぱり充実してますな」

「買うんですか?」

「んー、ちょっと迷い中。どうしても欲しい! っていうものはないけど、買っておいても損はないかなーっていうのがいくつか」


 じゃあとりあえず買っておけばよいのではないか、とも思ったのだが、リュックサックを置いてきている以上、買った本は俺がそのまま持つことになる。一、二冊ならまだよいが、四冊、五冊と買われると持つのがしんどいので俺は何も言わなかった。


 だがここにいるのは俺だけではない。


「取り敢えず欲しい物は買ったらどう? いらなければ後で売ればよいでしょう」

「あー、そっか。そうだね」


 ということでヴァイオレットのおかげで俺は重たい本を四冊も持つことになった。本当にありがたすぎて涙が出てくる。


「重い……」

「男ならそれくらいで弱音を吐いてはだめよ」

「いや、でもこれ結構な重さですよ。本だけじゃなくヴァイオレットさんが買ったものもありますし」


 というかむしろ数で言えばヴァイオレットが買った品の方が多いのだが。一個一個の重さはともかく、量が多いせいで嵩張って仕方ないのだが。

 とはいえ俺の立場ではそこまでの文句は口にできない。精一杯の抵抗として歩くスピードを落としてみたりしていたところ、彼女が静かな口調でこう言った。


「見られているわね」

「え?」


 気負いもせずあまりに自然な調子で言うため、はじめは何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。


「詰め所で話があったでしょう?」

「え……あ、ああ、ラヴェル教徒の話ですか?」

「そうよ」

「え? ってことはもうラヴェル教徒に目をつけられたんですか? いくら何でも早すぎじゃありません?」


 ラヴェル教との間にトラブルが起こったのはほんの昨日のことだ。それにあの場にいたラヴェル教徒はみな死亡したかこの国の騎士に捕らえられたはず。俺たちのことなど知りようがないはずなのに。


「さて……案外、騎士の中にラヴェル教徒がいるのかもしれないわね」

「それは……問題ですよね?」

「ええ、そうね。ラヴェル教はどこの国でも邪教扱いだから。悪魔を信仰している人間はだいたい死刑よ」


 信仰一つで死刑とは。しかしよくよく聞けば、悪魔崇拝の人間は罪のない市民を虐殺したりすることもあるという。それを考えると死刑でも仕方ないかもしれない。


「えっと、どうするんですか。とりあえず見られているだけなんですよね。このまま買い物続行ですか?」


 なお俺が動揺していないのはアングラマイン姉妹が平常心でいるからだ。彼女たちが通常通りでいる以上、きっと問題はないのだと思っている。


「そうねえ……どうしようかしら。狙いは暗殺だと思うのだけれど」

「暗殺、ですか。じゃあ人気のないところに入らなきゃ大丈夫ですかね」

「どうして? こういう往来で遠くから小さい針を飛ばしたりする方が確実だと思うけれど」

「ああ……そうか、狙撃」


 地球にいた期間が短かったからだろうか、すっかり狙撃というものが抜け落ちていた。ただ魔法にせよ何にせよ、人混みの中にいる特定の人物を狙うというのは結構難しいと思うのだがどうだろう。


「わたしたちなら狙撃にも対処できるけれど、ジンは無理でしょう?」

「あー、難しいですね。荷物で手が塞がっていなくても」


 まず飛来する物体を感知することができない。そして高速で飛んでくる物体を防ぐ手立てもない。

 するとアージェが俺の肩に手を置いて笑った。


「ま、相手が何かしてくるまで放置でいいんじゃない? ジン君が攻撃されたらあたしが守るからさ」


 おお。流石アージェ先生、頼もしい。彼女が守ってくれるのなら俺の身は安全だ。


「……そうね。じゃあ買い物を続けましょうか」

「……あの、そろそろ物が持てなくなりそうなんですが」

「魔術を使用しても構わないわよ」

「制御に失敗したら地面に落ちますけど」

「落としたらあなたの頭も地面に落とすわよ」

「なんてブラックな職場なんだ……」


 荷物持ちで殺されかねないとは。横暴な武家に仕えた下男のようである。


「冗談よ。持てなくなるほど多くなったら一度宿に戻りましょう」

「……はい」


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